なぜ「普通のワクワク」では嫌なのか
NOT A HOTELの経営者として今いちばん意識していることを高木さんに問われ、濱渦さんは「普通にワクワクするものだと嫌だ」と社内で言っていると明かします。求めているのは、その一段上の「超ワクワク」です。
なんかね、人の琴線に触れないものって作る意味ないなと思っちゃうんですよ。
普通のワクワクってみんなあるから。でもやべえみたいな。
濱渦さんが挙げる例は、ちょっと気の利いた別荘ではなく「これ10億で売ろう」という発想です。高木さんはこれを「一個桁感を上げちゃう」と受け止めます。
NFTについても同じ考え方です。不動産を流動化してNFTにし、利回り何パーセントという世界は悪くないけれど、超ワクワクするわけではないと濱渦さんは言います。だからこそ、1日単位で「こういうストーリーだったら面白い」という形を考えたと話しています。
濱渦さんは「まだいけてない部分はいっぱいある」としながらも、人の琴線に触れられるかどうかを強く意識しているといいます。高木さんは、NOT A HOTELのニュースについワクワクしてしまう理由の答え合わせができたと応じます。
BtoB出身でも「最後はC」
高木さんは、濱渦さんがもともとBtoBの事業を手がけてきた点に注目します。BtoBでは「いかに便利なものを作るか」に発想が寄りがちなのに、どこで琴線に触れる感覚をつかんだのかという問いです。
濱渦さんは、ユナイテッドアローズのECやハニカムなどを手がけた経験を挙げます。システムの受託でありながら、ローンチ時のコラボアイテムの提案までしていたといい、洋服の世界では人の琴線に触れないものはまったく合わないと振り返ります。
結局B向けって全部Cじゃないですか、最後は。
誰かが使うので、そこのCの感覚がないBってみんな死んでると思うんですよ。
高木さんがSlackを例に、一般の人に支持されるものがBtoBの領域でも伸びていくと話すと、濱渦さんも同意します。コミュニケーションを円滑にし、顧客により良いサービスを届けるという点で、すべてがつながっているという見方です。
琴線の感覚を確かめる相手は「奥さん」
琴線に触れる感覚をどう育てているのかと高木さんに聞かれ、濱渦さんは「自分がこう思うんで」と答えます。そのうえで、自分はむしろ特別な環境にいないほうがいいと思うことがあると続けます。
普通の感覚で普通に感動できるものって普通の感覚じゃないと感じれないじゃないですか。
高木さんは「お金を持つと、1億すごいという感覚がなくなってしまうかもしれない」と補足します。濱渦さんは、自分が欲しいか、感動するかを確かめるとき、よく奥さんに聞いているといいます。
濱渦さんの奥さんは高木さんの著書『パンチライン』を買っていたそうで、高木さんがお礼を言う一幕もありました。今回のNFTのページも、まず奥さんに見せたそうです。
濱渦さんの奥さんはNFTのことを知らず、メタマスクと聞いても「何それ」という感覚の人です。NOT A HOTELの権利を365分の1、つまり1日分だけ買えるという普通のリリースを見せると「ああ、投資商品か」という反応で、ワクワクはしなかったといいます。
そこで「どこに行くかわからない」「いつになるかわからない」という要素を加え、ランペ ── ランディングページの略。商品やサービスを紹介するために作られる、広告や検索から最初に訪れるWebページを指しますを作って見せたところ、「これめっちゃいいね」という反応が返ってきたそうです。
昔自販機で売ってた何当たるかわからない缶みたいな、そういうドキドキ感というのは(あるなと思いました)。
高木さんは、NFTや権利という事業的な要素はあっても、気持ちが上がるのは「何でもない1日が旅する日になる」というミステリー性だと語ります。
「一番保守的」な起業家の顔
濱渦さんは、面白いだけではダメで、それをどう実装するかも同時にやらなければいけないと話します。今回のNFTでは弁護士費用を大きくかけて、法的に問題がないかを確かめたといいます。
やっぱ2回目っていうのがもしかしたら生きてる部分かもしれないですけど、僕は実は一番保守的なんですよ。
濱渦さんが保守的なのは、法務などの領域についてです。高木さんは、NOT A HOTELのNFTが47年という長期の商品であることに触れ、ミスをしたら大変なことになると驚きます。濱渦さんは弁護士事務所を何社か集め、慎重に作ったと明かします。
那須に持つ16万坪の土地も、ある会社が潰れかけて出てきたものだったそうです。あと1週間ほどで担保として取られてしまうタイミングで手を挙げ、弁護士を5、6人連れてデューデリ ── デューデリジェンスの略。買収や投資の前に、対象の資産や企業の法務・財務上のリスクを詳しく調べる手続きのことですを行い、3日で買ったといいます。
結構ね、ワクワクの裏にね、地道な積み上げをしてってですね。
グレーでは暴れられない
夢とビジネスの仕組みのバランスをどう判断しているのかという高木さんの問いに、濱渦さんは、法的にグレーだと思い切ったことができないと答えます。
濱渦さんは社内でいちばんの保守派で、自ら弁護士に反証を投げて確認するそうです。自分が安心だと思えるものでなければ自由に設計できないので嫌だ、というのがその理由です。
なんかサッカー、ハンドして勝っても面白くないじゃないですか。
高木さんはこの姿勢を「妄想を広げてから現実のルールに突き合わせ、OKを取ったらもう一度自由になる」と言い換えます。濱渦さんも「意外とグレーは好きじゃないです」と認めています。
ストーリーを作る
「めっちゃ面白いね、ワクワクするね」と思える案を描く
弁護士チームと確認
懸念点を洗い出し、濱渦さん自ら反証して確かめる
ルールを確定
「ここは保守」と線を引き、みんながOKと言える状態にする
自由に設計する
安心できる土台の上で思い切って打ち出す
高木さんは、自分ならチェックを誰かに任せてサボってしまうと話し、妄想と保守を1人で往復するからこそ振り切れるのだろうと受け止めます。
「みんなが良いと思うならできる」という起業家の癖
高木さんは、NOT A HOTELを「すべての人」に届けるための妄想があるかを尋ねます。濱渦さんは、みんなに届けるのはまだかなり遠いと答えます。
今回のNFTも120万円ほどで、誰でも買える価格ではありません。濱渦さんは、どうしたら買えるようになるか、ローンを組めないものを組めるようにできないかと考えていて、そうなればサブスクと同じだと話します。
高木さんはここで小林一三 ── 阪急電鉄の創業者として知られる実業家。鉄道を軸に住宅開発や百貨店、宝塚歌劇などを展開し、沿線の生活文化を生み出しましたを思い出したと言います。濱渦さんは「勉強不足で」と前置きし、高木さんが説明します。
売れない線路
客の少ない鉄道をどうにかしろと任される
住宅をつくる
何もない土地に家を建てれば、みんな線路を使うと考える
住宅ローン
家を買えない人も住めるようにする仕組みを生む
阪神急行
強い競合に対し、停車駅を減らして早く着く路線にする
文化をつくる
駅に映画館や百貨店を作り、人が集まる場所にする
高木さんは、小林一三を「逆転の発想で文化を作りまくった人」と表現し、濱渦さんの話に近いものを感じたと話します。
なんでそれできないの?って思うんですよ。みんなこっちの方がいいと思ってるよね。
みんながいいと思ってたらできるよねってやっぱ思うんですよね。
濱渦さんは、グレーならやらないという話とは逆かもしれないとしつつ、今ないものでもみんなが欲しがっていれば作れると思ってしまうと話します。長く起業家をやってきたことでついた癖かもしれない、というのが本人の見立てです。
次はオフィス? 事業だけで人はつながれるか
高木さんが、NOT A HOTELはまだ始まりの一つで、ホテルを起点にいろいろなライフスタイルへ展開していくのかと尋ねます。濱渦さんは、株主から20億円ほど出資を受けていると前置きしたうえで、琴線に触れられるものはほかにもたくさんあると答えます。
NOT A HOTELは、自宅でもあり、別荘でもあり、時にホテルにもなるものです。濱渦さんが次に目を向けているのは、働く場所としてのオフィスです。
毎日30分、1時間、片道かけて出勤するなんて嫌じゃないですか。
来たいと思えるオフィスじゃないと行きたくない。
高木さんは、会社は意識的に求心力を持たせないと簡単に分裂してしまう、というのがこの1年の学びだったと打ち明けます。いろいろなことをやりすぎ、個人に紐づきすぎていたそうです。
濱渦さんは、1つの会社で1事業、ワンテーマでどれだけ伸ばせるかだと応じます。作るものがバラけると「自分でやればいい」「フリーで関わればいい」となってしまうからです。
なんか事業だけでつながっていくって、これめちゃくちゃ難しいですよ。
濱渦さんは、オフィスに縛られていたことが、隣の人に頼まれたら頑張ろう、この人たちがいるから会社にいようという仲間意識を生んでいたと改めて感じているといいます。
NOT A HOTELの社員は福岡などバラバラの場所で暮らし、旅行費が年間最大200万円ほど出る「トラベルオフィス」の形をとっています。そのうえで、週1回ぐらい使えるオフィスがあったらいいという声から、NOT A HOTELの仕組みを持ち込んだ強制ではない「週1のオフィス」を作りたいと考え、場所を探しているそうです。
事業はポエムと小説から始まる
濱渦さんは、新しい事業ではいつも先に小説を書くといい、収録中にその場で見せます。NOT A HOTELも、最初はポエムだけを書いて投資家を回っていたそうです。
ノットアホテルがある人生みたいな小説書いて、それ自分で書きながら読んで泣きましたから。いい人生だなと思って。
オフィス構想の小説では、週1回働ける環境があり、子どもを幼稚園に送ってから出社して午前中に仕事をします。夕方には奥さんと子どもがオフィスに迎えに来て、社食で3人一緒にご飯を食べて帰る、という場面が描かれています。
濱渦さんは、社食は今の時代に合わないとされがちだけれど、こういう場面なら会社に行きたくなるし、社食は必要なのではないかと話します。仕事は正直これだけだと言う濱渦さんに、高木さんは「企画屋だな」と返しますが、濱渦さんは「企画じゃないです」と否定します。
NFTの場合は、先にnoteでリリース分を書き、ストーリーを書き、最後にランペに落とし込んだそうです。
濱渦さんは、最大限想像してもストーリー自体が人の琴線に触れなければ、そのプロダクトはダメだと考えています。ストーリーに合わせてプロダクトを作るという順番が、高木さんの言う「こういうのを待ってました」という広がりを生んでいると考えられます。
効率化の先のライバルは「メタバース」
高木さんは、スタートアップに優秀な人が大勢参入し、賢いゲームになっていると感じているといいます。一方で、あったら便利なのはわかるけれど、面白いかと言われるとわからないものも多いと話します。
濱渦さんは、SaaS ── インターネット経由で利用するソフトウェアのサービス形態。業務の時間短縮や効率化を目的としたものが多くありますのように、世の中のプロダクトはすべて効率化に向かっている気がすると応じます。だからこそ逆に、無駄なものを作るのが面白いといいます。
これ別に人生に必須ではないけど、あったら超ハッピーだよねみたいなものがすごいいい気がしていて。
このまま効率化に向かうとメタバースの方が幸せになっちゃうんですよね。
食べることと出すことさえ済ませれば、あとはメタバースの世界にいたほうが幸せになる。濱渦さんはそう指摘し、「メタバースに負けたくない」と語ります。
仕事はゲーム、「楽しい」と「楽」は違う
僕ね、ゲームだと思ってるんですよ。マジで。
濱渦さんは、人生をかけてまでやる仕事はないと考えていて、いっぱいいっぱいではいいものはできないと話します。社員にも「ゲームだからめちゃくちゃ面白くしたほうがいい」と伝えているそうです。
世界を良くしたい会社があるから自分たちは自由にできる、と濱渦さんは前置きします。そのうえで、NOT A HOTELは「世界をもっと楽しく」「無駄なものを作る」会社であり、ただ生きるのではなく楽しく生きることにつながると話しています。
効率化すれば手に入るが、それで満たされるわけではない
アウトドアのように不便な場所へ自ら出向き、積極的に取り込むもの
濱渦さんは、お金を持って生活が楽だったころよりも、追い詰められているときのほうが生きている感じがすると振り返ります。「苦しいぐらいがちょうどいい」というのが濱渦さんの実感です。
リリース前は「絶対ウケない」と思っている
高木さんが、そうした姿勢がリリースからにじみ出ていると話すと、濱渦さんは意外な一面を明かします。リリース前はいつも「全然ウケないかも」と思っているというのです。
いつも言われますもん。なんでそんな悲観的なんですか。これ絶対売れますよみたいな言われるんですけど、社員にも。
ぶっ飛んだことをやりに行く姿勢との振れ幅の大きさを高木さんが指摘すると、濱渦さんは「メンヘラですかね」と笑い、稲盛和夫 ── 京セラやKDDIを創業し、日本航空の再建も手がけた経営者。経営哲学に関する多くの言葉や著書で知られますさんの言葉を挙げます。
楽観的に構想して、悲観的にこう計画して、楽観的に行動せよみたいな言葉があって、めちゃくちゃ好きで。
濱渦さんによれば、計画が楽観的だとだいたいコケるそうです。そのためリリースや販売の前は徹底的に悲観的になり、その時期は奥さんも近づかないほどだといいます。
構想(楽観)
ポエムを書いているときが一番楽しい
計画(悲観)
つまらない、もう終わりだと思いながら詰める
行動(楽観)
「大丈夫だよ」と言って、また行くぞと走り出す
高木さんは、弁護士によるチェックで悲観的に計画し、やると決めたらとことん行くという往復に改めて驚きます。番組の締めでは、極端な行き来が振り幅を生み、世の中の人が見たことのないスケールを実現しているという感想が語られました。
まとめ
濱渦伸次さんの話から見えてくるのは、人の琴線に触れる「超ワクワク」を妄想するポエムと、法務をガチガチに固める保守性を1人で往復する経営スタイルです。効率化の時代にあえて無駄なものを作り、「楽」ではなく「楽しい」を追う姿勢が、NOT A HOTELの事業全体を貫いています。
- 普通のワクワクでは足りず、人の琴線に触れる「超ワクワク」だけを作る。BtoBでも最後に使うのはCである
- 琴線に触れるかは、NFTを知らない奥さんのような普通の感覚で確かめる
- グレーでは暴れられない。弁護士と徹底的に確認するからこそ自由に設計できる
- 事業はポエムや小説から始め、ストーリーに合わせてプロダクトを作る
- 楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に行動する。その往復が大きな振り幅を生む





