なぜネット企業がサッカークラブを買ったのか
メルカリによる鹿島アントラーズ買収の出発点について、小泉さんはメルカリのミッションを本気で考えたことにあると語ります。たとえば循環型社会の実現を目指すなら、スマホアプリだけではいずれ限界が来るという感覚があったそうです。
やっぱもうちょっとスマホアプリだけだと何かいずれ限界来るなというか、そもそもスマホがあと何年持つかもわからないじゃないですか。
小泉さんは、テクノロジーが街づくりに入っていく時代には、リアルな場所が循環型社会の実現にとって重要になると考え始めたといいます。Googleがトロントで取り組んで失敗もしていることから、ネット企業はどこかで切られているとも感じていたそうです。
一方で、トヨタなど多くの企業がリアルの領域へ入っていく流れも見ていました。そうした中で鹿島アントラーズの話があり、サッカーチームは町のシビックプライド ── 市民が自分の住む都市に対して持つ誇りや愛着のこと。街への当事者意識を含む概念として、まちづくりの分野で使われますのベースにある組織だと気づいたと話しています。
ここ(アントラーズ)を中心にアントラーズとメルカリとで組んだら、すごく面白い街づくりできるんじゃないですかと。
小泉さんは、鹿島の街が小さいことも利点として挙げます。テクノロジーを街に入れるには実験の要素が強く、大きな街では実験しづらいと考えていたため、いろいろな要素が自分の中でハマって参入を決めたそうです。
買収の目的は3つ、その先の「非連続」とは
高木さんは、他の企業がクラブを持つ場合はマーケティング視点が強いのに対し、メルカリの場合はもっと非連続な仕込みに見えると指摘します。これに対し小泉さんは、当時対外的に説明した買収の目的が3つあったと振り返ります。
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| マーケティング | クラブを通じたマーケティング的な効果 |
| 信用 | メルペイが始まった時期で、創業まもない会社が金融を手がけるための信用 |
| 非連続な収益 | 街づくりと、エンターテインメントの楽しみ方の変化 |
3つ目の非連続には、さらに2つの意味があったといいます。1つは街づくり、もう1つはコンテンツやエンターテインメントの見せ方の変化です。当時はNFTという概念はなかったものの、ブロックチェーン ── 取引記録を分散して管理し、改ざんを難しくする技術。暗号資産やNFTの基盤として使われていますやVR、ARで見せ方が変わり、エンターテインメントのマネタイズが一気に進むと見ていたそうです。
循環型社会がもっと街っていうところから仕組みが変わっていくみたいな方にやっていくと、なんかすごくメルカリ大勝負になるなと思って、今やってます。
小泉さんは自身のキャリアを、デバイスの進化に合わせて立ち位置を変えてきた歩みだと説明します。そしてスマホの次に来るプラットフォームは、街や社会そのものかもしれないと考えています。
それ(次のイノベーション)を実験をしやすいサッカーチームを持ってるっていう。言葉を選ばずに言うと、そういうのがあるかなと。
ハードではなくソフトウェアから街をつくり直す
小泉さんはJリーグの理事や、街づくり会社のKCSにも関わり、立場を使い分けながら街づくりを考えています。ただ小泉さん自身は、「街づくり」はわかりやすくするための言葉だといいます。
小泉さんによれば、これまでの街づくりは行政やディベロッパー、ゼネコンが担い、住む人はできあがった街に合わせて生活してきました。小泉さんがやりたいのは、テクノロジーを使い、ハードではないソフトウェアのレイヤーから生活をデザインし直すことです。
行政やゼネコンがハードをつくり、個人はそれに合わせて生活し依存する。効率性や経済性を重視する
個人の望む生活が先にあり、サービスがそれを補完する。小さな良質なコミュニティをたくさんつくる
小泉さんは、個人がエンパワーされていくことこそテクノロジーの良さだと考えています。Uberのように、個があってサービスがそれを補完する形に変えたいという考えです。
小泉さんは、人間には大きなハードが必要なのかと問いかけます。特に小さい地方の街では、効率的な大きいものより、小さな良質なコミュニティや居場所がたくさんある形が理想だと話しています。
高木さんも、インターネットのおかげで、看板が大きくなくても人のつながりで知られざる店やコミュニティにアクセスできるようになったと応じます。
やっぱ自分が能動的に入れるコミュニティがあることがすごい幸せなんじゃないか。
「本当はみんな同じ生活したくない」とは
小泉さんがアントラーズの社長を務めて3年、その期間はほぼコロナ禍だったといいます。高木さんは、いま小泉さんが感じている興奮ポイントを尋ねます。
小泉さんが挙げたのは、自分が本当に好きなものを発信したり、そうしたコミュニティに属したりすることが簡単になった点です。大衆に合わせなければいけないという空気が強かった日本でも、自分の思いを発信・収集しやすくなってきたと感じているそうです。
なんかね、もっと個がエンパワーした社会って描けるんじゃないかなみたいな。
小泉さんは、その人が好きなものに囲まれた人生が実現できる世の中になりつつあると感じています。だからこそ、そこへ背中を押すサービスや街をつくりたいと語ります。
個の可能性を広げる役割を、なぜ自分が担うのか
高木さんは、メルカリ時代に出資していたBASEや、会計ソフトのfreeeも個をエンパワーするサービスだと指摘します。個人ではできなかったことを可能にし、自己表現する経済圏が生まれているという見方です。
もっと個人の可能性って拡張していけるんじゃないかなと思っているんですよね。多分気づいてない、その人の良さとか能力とかたくさんあると思っていて。
高木さんが、そうした実装がデバイスやアプリを超えていくのかと問うと、小泉さんはアプリの中で実装されるものもあれば、そうでないものもあると答えます。ネットのサービスは、アイデアを持つ若い人たちに任せればよいと考えているそうです。
一方で、リアルな街を絡める取り組みは、経験を積み、社会とのコミュニケーションをうまく立ち回れる人でないと難しいと小泉さんは見ています。42歳になり、若いネットサービスは若い人に任せようという気持ちもあると話しています。
WEB3とか、なんかそういうのを使った、なんかリアルな街のコミュニティ作りとかは、まあそれなんかどっかやってくれる会社さんあると思うんですけど、それじゃあどうやって市民と一緒に本当に作っていくのかみたいなのは、なんか僕みたいな立場の人がいた方がいいんじゃないかなと思って。
まとめ
小泉文明さんにとって鹿島アントラーズ買収は、スマホの次のイノベーションを街というリアルな場で実験するための挑戦です。ハードに人が合わせる街ではなく、ソフトウェアで個人の望む生活を支え、小さなコミュニティがたくさんある街を目指しています。
- スマホアプリの限界を見据え、循環型社会の実現にはリアルな場所が重要だと考えた
- 買収の目的はマーケティング、信用、そして街づくりやエンタメ進化という非連続な収益の3つ
- PC、ガラケー、スマホの次のプラットフォームとして、街や社会に注目している
- ディベロッパー型ではなく、ソフトウェアベースのヒューマンセントリックな街づくりを志向する
- 市民と一緒にリアルな街をつくる役割は、経験を積んだ自分のような立場の人が担うべきだと考えている




