素数を数えると落ち着く? プッチ神父が最大の素数を読み上げたら
番組は、レンさんがエマさんに「焦った時のおまじないってある?」と尋ねるところから始まります。エマさんは、おまじないは特になく、頭の中でパニックになって失敗するタイプだと答えます。
頭の中で思い描いた悪いことが現実になる。
そこでレンさんがすすめたのが「素数を数えると落ち着く」という方法です。エマさんはすぐに、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第6部ストーンオーシャンに登場するプッチ神父のセリフだと気づきます。
素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字。私に勇気を与えてくれる。(素数は)2、3、5、7みたいな。
レンさんはプッチ神父のおまじないを自己暗示のようなものだと捉えたうえで、素数の話へ進みます。素数は無限にあると理論上は証明されていますが、実際に見つかっている「最大の素数」があり、2024年10月にもその記録が更新されたといいます。
2024年10月に見つかった最大の素数は、およそ4102万桁あります。エマさんは「4100かと思ったら万もついてたんだ」と驚き、前回の発見から6年ぶりの更新だったことにも触れます。
レンさんはここで、プッチ神父がこの最大の素数を読み上げたらどれだけかかるかを計算しています。1桁0.5秒で読むと、休憩なしでも237日かかるという結果でした。
もう落ち着くどころじゃないよね。なんかもう半年以上経っちゃってますけどみたいな。
食事や睡眠を抜いたら死ぬかどうかで二人は言い合いになりつつ、レンさんは「よくこんなでっかい数字を素数だと見つけられるな」と感心します。エマさんも、どんな仕組みで素数かどうかを判別しているのかが気になると話し、ここから今回のテーマが素数であることが明かされます。
素数は「数の原子」。2000年以上前から法則性は見つからない
レンさんは、素数は自分に関係ないと思う人もいるかもしれないが、このポッドキャストを聴いている時点で誰もが素数の恩恵を受けていると話します。エマさんの「配信やネットで聴くことに関わっているのか」という問いに、レンさんはインターネットだと答えます。
前回までの二進法の話ともつながり、この素数の話は数学史のクライマックスにつながっていくといいます。シリーズで扱ってきた数学の話が、今回の素数にも何度か顔を出します。
あらためて素数の定義です。素数とは、1と自分自身でしか割れない自然数のことで、2、3、5、7、11、13、17のような数を指します。それ以上分けられないという意味で、素数は「数の原子」と呼ばれることもあるそうです。
素数の研究は古く、紀元前3世紀ごろのユークリッド ── 古代ギリシャの数学者。著書『原論』は幾何学や数論をまとめた数学書で、素数が無限にあることの証明も収められていますの『原論』の時点で、素数はすでに認識されていたといいます。二進法を理論としてまとめたのは1600〜1700年ごろのライプニッツなので、それと比べても素数の歴史はずっと長いことになります。
レンさんが「素数に法則性はあると思う?」と尋ねると、エマさんは「ないんじゃない?」と答えます。偶数を省くように、素数でない数を除くのは簡単でも、素数そのものには法則がないからこそ新しい素数の発見に時間がかかるのでは、という推理です。
だから単純な法則性は全然ないわけですよね、これ。ただ、その中でもなんとか法則性を見出そうとするっていう数学者って今までにいて。
2のn乗引く1は必ず素数? メルセンヌ数という便利な道具
法則性を見出そうとした数学者の一人として、レンさんはメルセンヌを紹介します。メルセンヌの予想は「nが素数なら、2のn乗引く1も必ず素数になる」というものでした。
小さな数で確かめると、n=2のときは2の2乗引く1で3、n=3のときは8引く1で7となり、どちらも素数です。n=5、7と入れても素数が出てくるため、素数を生み出す法則として知られていたといいます。
ところがn=11のとき、2の11乗引く1は2047になり、これは23×89の合成数です。メルセンヌの予想には例外があり、絶対に成り立つ法則ではないことがわかりました。
それでも、n=11以降でも成り立つ場合は多くあります。エマさんはメルセンヌの式を「ちゃんとした法則ではないけど、当てはめてみたら素数が得られるかもしれない道具」と表現し、レンさんもそれに同意します。
だからこれすっごいでっかい素数を見つけたいっていう時にこれ結構便利になるの。
2のn乗引く1で表される自然数をメルセンヌ数と呼び、そのうち実際に素数になるものをメルセンヌ素数 ── 2のn乗引く1の形で表せる素数。式の形が単純で計算しやすいため、巨大な素数の探索でよく狙われますと呼びます。2024年に見つかった最大の素数もメルセンヌ素数で、2の1億3627万9841乗引く1という数です。
素数を確かめるのはなぜ大変? 粗いフィルターと確実な判定の二段構え
エマさんは、1億を超える素数はたくさん知られているのだから、それを次々とメルセンヌの式のnに入れれば新しい素数が簡単に見つかるのでは、と考えます。レンさんは、式に例外がある以上、出てきた数が本当に素数かを毎回確かめる必要があると説明します。
素数って確かめるのにも時間かかる。っていうのもあるし、そもそもこの数を出力するのにも時間かかる。だって2を1億回掛け算するってものすごい計算だよ。
数が大きくなるほど、どこかに「何掛ける何」の組み合わせが隠れているかもしれず、素数かどうかの判別は難しくなります。そのため、素数かどうかを判定する方法もさまざまに研究されてきました。
昔からある方法がリュカ・レーマー判定法 ── メルセンヌ数が素数かどうかを確実に判定できる方法。19世紀のリュカの研究を、20世紀にレーマーが発展させましたです。レンさんは数式が多いため名前だけの紹介にとどめましたが、この判定法は確かなもので、ただし数が巨大すぎて判定自体にも時間がかかるといいます。
もう一つ登場するのが、番組の2024年10月のフェルマー回で紹介した、フェルマーの小定理を使ったフェルマー判定法です。素数pと、pと互いに素な整数aがあるとき、aのp−1乗をpで割った余りは1になる、という性質を使います。
フェルマー判定法は確率的に素数かどうかを判定する方法で、当てはまればほぼ素数と言えるものの、絶対ではありません。レンさんはこれを「ちょっと粗めのフィルター」とたとえます。
2024年の最大の素数は、まさにこの組み合わせで見つかりました。エマさんが整理した流れを、図にまとめます。
候補を出す
メルセンヌの式(2のn乗引く1)で巨大な候補の数を作る
粗くふるう
フェルマー判定法で、素数ではなさそうな数を除く
確実に判定
別の確実な判定法で、本当に素数かを確認する
レンさんはこれを「ダブルチェックみたいなもん」と表現し、フェルマーの定理がいまだに最前線で活躍している点がポイントだと話します。
エマさんは、前の最大の素数と今回の素数の間に別の素数がないか確かめているのかを尋ねます。レンさんによれば、前の記録は今回より1600万桁ほど小さく、その間にも素数はおそらくあり、間に素数がないとは言われていないといいます。
多分しらみつぶしにやるみたいなのは無理なんじゃないかな。それこそ法則性みたいのがないってなると。
世界中のパソコンで素数を探す。GIMPSとGPUの力
メルセンヌ数が使われるもう一つの理由は、二進法との相性です。2のn乗は二進法で1桁増えるごとに2倍になる数なので、コンピューターで扱いやすく、引く1の計算も簡単なため、探索に使われているといいます。
それでもコンピューター1台では時間がかかります。そこで生まれたのがGIMPS ── Great Internet Mersenne Prime Searchの略。メルセンヌ素数を探す国際的な分散コンピューティングのプロジェクトですです。
GIMPSには誰でも参加でき、専用ソフトウェアを入れると、自分のパソコンの余った計算リソースがメルセンヌ数の素数判定に使われます。タスクを世界中に分担するこの仕組みを分散コンピューティング ── 多数のコンピューターをネットワークでつなぎ、大きな計算を分担して処理する方法と呼びます。
それが1996年にこれ開始されてて、どんどんどんどん参加者が増えて、もうスパコンよりすごいぐらいの計算能力になってきてるのよ今。
エマさんは、世界中の人たちと一緒に新しい素数を見つけていくところに魅力を感じます。目的について、レンさんは「9割好奇心」と笑いつつ、ちゃんとした理由もあると予告します。
2024年の発見に関わったのは、半導体で有名なNVIDIAの元従業員のような人物だそうです。発見者には有志のグループから3000ドルが贈られたといい、レンさんは「安くない?」と反応します。みんなのリソースで探すのに発見者がいるのかというエマさんの疑問には、複数いる中でその人が主導していたのでは、と答えています。
探索にはGPU ── Graphics Processing Unitの略。もともとは画像処理用の演算装置で、大量の計算を並列に処理するのが得意ですも投入されています。レンさんは、パソコンで指令を出すCPUの代わりにGPUを使うと、内部にたくさんある計算の仕組みで並列に処理でき、AI開発と同じように計算が速くなると説明します。
最大の素数は何の役に立つ? 暗号・乱数・素数の分布
「なぜこんなことをしているのか」という問いに対して、レンさんはまず、今回見つかった数そのものを何かに使えることはそれほどない、と正直に話します。そのうえで、素数全体としては私たちが日々恩恵を受けている分野があるといいます。
1つ目は暗号化です。インターネットでログイン情報などを送るとき、他人から丸見えでは困るため、通信には鍵がかけられています。レンさんは単純化したうえで、その鍵がとても大きな数の素因数分解 ── 整数を素数だけの掛け算の形に分解すること。大きな数ほど分解に膨大な計算が必要になりますに関わっていると説明します。
暗号と素数判定の関係について、レンさんは次のように語ります。素因数分解は素数になるまで分解しなければならないため、超巨大な数同士の掛け算では、分解した先が本当に素数かどうかがわからないと、どこで終わりかが判断できないのです。
素因数分解って素数になるまで分解しないといけないでしょ。だから分解した先がちゃんと素数かどうかわからないといけないわけじゃん。
2つ目は乱数づくりです。とても大きなランダムな数を作りたいときに、2のn乗引く1がよく使われるといいます。さらに、2の1万乗引く1のような計算ができるかどうかで、パソコンの性能をテストすることもあるそうです。
3つ目は、素数の分布の研究です。桁数が増えるほど素数が出てくる確率が下がるという法則はわかっていますが、実際の頻度や、飛んでいる部分があるのかなどは、まだ人間が感知できていないところが多いといいます。
| 分野 | 使われ方 | 補足 |
|---|---|---|
| 暗号化 | 巨大な数の素因数分解と素数判定 | ネット通信の鍵に関わる |
| 乱数 | 巨大なランダムな数を作る | 2のn乗引く1が使われる |
| 性能テスト | 2の1万乗引く1などの計算 | パソコンの性能を測る |
| 分布の研究 | 巨大な素数のデータを集める | 法則のヒントになるかもしれない |
エマさんは、素数のデータが溜まれば傾向や法則が見つかりやすくなるかもしれないと考えます。レンさんは、何かのヒントになるかもしれないという意味で全然無駄ではないとし、桁を追い続ける点で以前に話した円周率とも近いと話します。
今はさ、その最大の素数がどういう風に使われるのかよくわかってないけど、でも今後もしかしたら最大の素数をわかっといてよかったっていう日が来るかもしれないね。
レンさんも「それは来ると思う」と応じます。好奇心から生まれた発見が後の時代で生きることは科学史に多く、素数もその一例だという点で二人の見方は重なります。
紙1万940枚、ハリー・ポッター10シリーズ分。4102万桁の大きさ
エマさんは、これほど大きな数を論文で発表するとき、数字そのものは書かずに、2のn乗引く1のnだけを書くのではないかと疑問を投げかけます。
レンさんによると、最大の素数を紙1枚に50行×75桁で印刷すると、1万940枚になるそうです。ところがエマさんは「でもそんなもんなんだ」と意外な反応を見せ、漫画が何万冊も売れることを考えれば扱えない量ではない、と話します。
いやだってあるけどそれ。積み上がったら何メートルになるそれ。
発表の形式については、レンさんもおそらくnの数だけを書いているのだろうと答え、パソコンの画面に4102万桁を表示するだけでも大変だと話します。
さらにレンさんは、ハリー・ポッターを物差しにします。1冊約36万文字で、全シリーズ11冊で約396万字だそうで、4102万桁はその10倍ほど、およそ4000万文字にあたる計算です。
コンピューターのない時代に毎日1000個。素数に魅せられた少年ガウス
最後の話は、役に立つかわからない研究の始まりのようなエピソードで、次回につながる内容です。コンピューターもない1792年ごろ、15歳の少年が毎日15分ずつ、1000個の自然数が素数かどうかを調べていたといいます。
一日だって1000個の数が素数かなっていうのをやるんだよ、ずっと。
少年は毎日続けるうちに、数が大きくなるほど現れる素数が減ることに気づきました。この少年こそ、のちに素数定理 ── 数が大きくなるほど素数の出現頻度が下がっていく様子を、数式で近似的に表した定理を見つけることになる数学者ガウスです。
ガウス記号やガウスの法則、磁力の単位のガウスも、すべて同じガウスに由来するそうです。素数に取り組み続けたガウスの研究が今の暗号に役立っていることに、レンさんは「わからんな」と研究の不思議さを感じつつ、次回はガウスの話をすると予告して締めくくりました。
まとめ
最大の素数は約4102万桁にまで更新されていますが、素数には単純な法則がなく、メルセンヌ数で候補を作り、判定法を重ね、世界中のパソコンの力を借りて一つずつ確かめるしかありません。すぐに役立つわけではない探索ですが、暗号や素数の分布の研究につながる可能性があり、ガウスの少年時代の地道な計算がそうだったように、いつか生きる日が来るかもしれない取り組みとして語られました。
- 2024年10月に見つかった最大の素数は約4102万桁で、2の1億3627万9841乗引く1というメルセンヌ素数
- メルセンヌの式は例外がある「道具」で、フェルマー判定法と確実な判定法の二段構えで素数を確かめている
- GIMPSは1996年に始まった分散コンピューティングで、誰でも自分のパソコンの余力を素数探索に提供できる
- 素数と素数判定は、ネット通信の暗号化や乱数づくり、性能テストなどに関わっている
- 毎日1000個の数を調べていた15歳のガウスが、のちに素数定理を見つける話が次回につながる






