寝る前に布団が光る?エマさんが出会った静電気の発光
この回の発端は、エマさんが夜寝るときに毛布やシーツがパチパチと光るのに気づいたことです。電気もつけていないのに光るため、最初はスマホかと思ったものの、調べると静電気が光ることがあるとわかったといいます。
調べたら静電気が光ることがあるらしいんですよ。私、これまで30年近く生きてきた中でさ、初めて見たのよ。
エマさんによると、光は強くはなく、伏せたスマホが光ったときに周りがぼんやり明るくなる程度で、青や緑っぽい色だったそうです。一方のレンさんは、ドアノブでパチッとなることはあっても、布団が光った経験は一度もないと話します。
エマさんにとっては、落下や雷のように見慣れた物理現象とは違う「この年になって初めて見た現象」で、最近は寝る前に布団をこすって光らせるのがマイブームになっています。乾燥しているときや、パジャマの素材によって光り方が変わりそうだと感じているようです。
最近なんか布団、夜寝る時にさ、布団を光らせるのがマイブームで。光れ光れって言ってすごくこするの。
レンさんは、エマさんの話を聞いて別のことが気になったといいます。昔の人も静電気を目にしていたはずなのに、Googleもない時代に、その正体をどうやって調べたのかという点です。
昔の人もさ、静電気とか見てたわけじゃん。別に現代だから起きてることじゃないじゃん。それをさ、調べるっていうのすごくね?と思って。
電気の語源は「琥珀」だった
レンさんは、これまでの番組で電気を扱っていなかったことにも気づき、今回は静電気のような現象を見つけてから、人類が電気を使いこなすまでの科学史を取り上げることにしました。
最初の手がかりは言葉です。電気を意味する英語の「エレクトリシティ」は、ギリシャ語で琥珀を指す「エレクトロン」が語源だとレンさんは説明します。琥珀は化石などで知られる、飴色の石のようなものです。
琥珀と電気を結びつけたのが、紀元前600年ぐらいの人物であるタレス ── 古代ギリシャの哲学者。万物の根源を水と考えたことで知られ、「哲学の祖」とも呼ばれます。幾何学の定理にも名を残していますです。サイエントークでも以前「最初の数学者」として登場したタレスは、琥珀を毛皮でこすると羽毛を引き寄せられることを記録に残していました。
琥珀でものを引き寄せる現象が電気の始まりだったため、琥珀を表す「エレクトロン」という言葉が、後の時代に「エレクトリシティ」へとつながっていきます。ただ、その後も静電気らしい記述は散発的に出てくるものの、本格的な研究はほとんど行われなかったといいます。
「見えない流れ」をどう調べる?ギルバートの挑戦
電気の研究は、17世紀まで全然進まなかったとレンさんは話します。物質なら混ぜたり砕いたり舐めたりして調べられますが、電気や磁力や熱は捕まえることができず、気体や液体のような「ただ流れるもの」と考えられていました。
17世紀ぐらいまでって、正直よくわからないから、もう不思議な力だっていう見方をしてたわけね。
雷についても、神様が怒っている印だというような迷信として受け止められ、理解しようとはされていなかったそうです。そこに探求の目を向けたのが、イギリスの科学者ウィリアム・ギルバートで、1544年から1603年ぐらいの人物です。
エマさんは、当時すでに電気と磁力が別物だとわかっていたのかと尋ねますが、レンさんの答えは「それもわかってない」でした。どちらも目に見えない何かで、そもそも「電気」という名前もまだなかったといいます。
当時、コンパスの針が北を向く現象は知られていて活用もされていましたが、理由はわかっておらず、北の方角に引き寄せる島や山がたくさんあるのではないかと考えられていました。ギルバートは、地球そのものに原因があり、その方向にコンパスの針が向くと説明し、今でいう磁力に近い考え方を示しました。
ギルバートは静電気についても、琥珀だけでなくダイヤモンド、ガラス、塩などいろいろなものをひたすらこすり、静電気が起きるものと起きないものを調べていったそうです。
そもそも静電気とは?電子の移動と乾燥の関係
ここでエマさんが「そもそも静電気って何だっけ?」と立ち止まり、レンさんが仕組みを説明します。物は原子からできていて、原子はプラスの電気を持つ陽子と、マイナスを持つ電子からなっています。
普段はプラスとマイナスが中和された状態ですが、物をこすると電子が片方へ移り、バランスが崩れて片方がプラス、もう片方がマイナスになります。その偏りを中和しようとしてパチッと電気が流れるのが静電気です。
こする
違う素材同士がこすれ合う
電子が移る
電子を引きつけやすい素材の側へ電子が移動する
偏りが生まれる
片方がマイナス、もう片方がプラスに傾く
パチッと流れる
偏りを中和しようとして電気が一気に流れる
レンさんによると、静電気は違う素材同士がこすれるときに起きやすく、繊維はとくに溜まりやすいそうです。反対に、水分を含みやすい素材は電気が水分を介して逃げるため溜まりにくく、だからこそ乾燥していると静電気が溜まりやすいのだといいます。
でも乾燥しちゃうと行き場所がなくなっちゃうんで、その場にどんどん溜まっていくと。
エマさんは、イギリスでは日本より静電気をしょっちゅう感じると話し、電圧が関係しているのかと考えていました。レンさんは、家庭で使う電気は関係なく、湿度の違いが原因かもしれないと答え、乾燥肌の人のほうが静電気を溜めやすいという面もあると補足します。
台湾から来たエマさんの友人も、イギリスでは静電気が怖くてドアを開けるのもためらうほどだったそうです。レンさんは、手を濡らすよりも、ハンドクリームのような保湿が効果的だろうと話しています。
熱で消えるか消えないか。電気と磁力が分かれた瞬間
レンさんは、人にはあまり使えない方法として、熱を加えると静電気をなくせることを紹介します。プラスとマイナスに偏った物に熱を加えると、物の中で中和が進み、偏りがましになるという仕組みです。
昔の人から見ると、静電気は物を熱すると消えるのに、磁石は熱しても磁気が消えませんでした。この違いが、電気と磁力は別のものだと初めて明らかにした手がかりになったといいます。
物を熱すると消える
磁石を熱しても磁気が消えない
この発見とともに、こすると物が引き寄せられる現象に初めて名前がつきました。もともと琥珀で起きていた現象なので、「エレクトロン」から「エレクトリカ」と名付けられ、これが現象としての電気の始まりだとレンさんは説明します。
ギルバートは、コンパスのように細い針を置き、静電気を帯びた物を近づけると針が回る装置も作り、物に静電気が溜まっているかを調べられるようにしました。神秘的な力とされていたものを一般的な現象だと示した点に、レンさんは「めちゃめちゃサイエンス」を感じたそうです。
エマさんは、静電気は日常的に感じるのに神秘的だと思われていたのかと疑問を口にします。レンさんによると、当時は服で感じるパチッという静電気と、琥珀をこすって物を引き寄せる現象が、同じものだとすら思われていなかったといいます。
少年を吊るす実験から「電気を貯める瓶」ライデン瓶へ
電気というものがあるとわかると、どんな条件で発生するのか、物の中を通るのかを確かめようとする研究が始まります。レンさんは、体に電気を通したときの電気抵抗に最初に触れたキャベンディッシュという人物にも触れますが、こちらは「ただやってみました」に近いものだったといいます。
本格的に電気を調べた人物として紹介されたのが、18世紀頭ぐらいのスティーブン・グレイです。グレイは少年を天井から吊るし、足元に静電気を帯びたガラス管を近づけると、手に羽毛が引き寄せられることを示し、電気が体の中を通ることを見つけました。
ただ、こすって起こした電気は、パチッとなったら終わりです。そこで、電気を自由にコントロールするためにどこかへ溜めておきたい、という発想が出てきます。
レンさんの説明では、1700年代後半にドイツのクライストらが、ガラス瓶の内側と外側に金属の膜を貼り、内側の膜を金属棒などで摩擦を起こす装置につなぎました。外側は地面に置いておくだけで、絶縁体のガラスをはさんで内側にだけマイナスが溜まっていきます。
ある意味これは初めて電池っぽい感じですよね。静電気をまず溜めれるっていう瓶ができた。
この装置は、オランダのライデン大学で発明されたことからライデン瓶 ── 18世紀半ばに発明された、静電気を蓄える初期の装置。現在のコンデンサーの原型とされ、電気実験の普及に大きく貢献しましたと呼ばれます。エマさんは「雷電」という漢字だと思ったそうですが、レンさんは響きが似ているのはたまたまだろうと話します。
ライデン瓶は、火花が出る公開実験として見世物にもなりました。180人ぐらいが手をつないで一斉にバチンとなるイベントもあったそうで、電気を体感できる装置として人気だったといいます。
雷は静電気と同じ?フランクリンの危険な凧揚げ
ライデン瓶の火花は、近くに燃えるものを置くと火がつくほどで、空でパチパチ鳴る雷と同じものではないかと考える人は多かったそうです。ただ、空の上の現象を実験で確かめるのは難しく、レンさんはエマさんにクイズを出します。
エマさんはアニメ『Dr.STONE』を思い出し、雷の下に電気を溜められるものを置いてキャッチし、ライデン瓶と同じことが起きるか確かめる、と答えます。レンさんは方向性は正しいとしつつ、避雷針を使ったのではなく「もう一工夫している」と返しました。
途中、エマさんが避雷針を知らなかったことが判明し、レンさんが驚く場面もありました。レンさんは、高い建物などに金属の棒を立て、ほかの場所に落ちないよう雷をそこへ集める仕組みだと説明します。
答えは、ハンカチと糸で作った凧です。ベンジャミン・フランクリン ── アメリカの政治家・科学者・著述家。避雷針の発明者としても知られ、アメリカ独立宣言の起草にも関わった人物ですは、地面側にライデン瓶をつないだ凧を雷雨の中で揚げ、息子と一緒に雷の電気を集めたと言われています。
むちゃくちゃ危険で真似してもう死んじゃった人とかもいる。だから現代では絶対に真似してはいけない実験とされてるんだけど。
集めた電気で銅線をつなぐと、地上の静電気と同じ現象が起きました。こうして、雷は地上の静電気と同じ現象だと証明されたのです。
エマさんは、凧に雷が当たるかは確率次第で時間がかかりそうだと疑問を持ちます。レンさんは、強烈な雷が直撃したというより、雷雲に凧を近づけて電気を集めたと言われていると補足しています。
水分があるのに雲が帯電するのはなぜ?
エマさんは、ここで最初の話との矛盾に気づきます。水分があると静電気は溜まりにくいはずなのに、水分でできた雲がなぜ雷を起こすほど帯電するのか、という疑問です。
レンさんの説明では、体の表面に溜まった電気は空気中の水分に逃げますが、上空では水の粒や氷の粒の摩擦でプラスとマイナスの差が生まれ、雲全体に電気が溜まっていきます。雲の上側と下側でプラスとマイナスが分かれ、その流れ先が雷になるという整理です。
空気中の水分に電気が逃げるので溜まりにくい
水や氷の粒の摩擦で雲全体が帯電し、流れ先が雷になる
それがめっちゃ大規模で起きてるんで、それは雷として見えるってことね。
フランクリンは、電気が粒子のようなものとして流れているだろうと考え、物の中の電気の量を指す「電荷」や「充電」のような、電気に関わる用語の基礎を作ったとも言われています。ただ、この時代はまだ原子すら見つかっておらず、電気の正体まではわかっていませんでした。
静電気と動電気の違い、そして電池のきっかけはカエル
レンさんは、ここまでの話がずっと静電気だったことに触れ、「動電気ってないの?」と問いかけます。動電気とは、私たちが日常で使っている、電流として流れ続ける電気のことです。
エマさんは最初、静電気は自然に発生する電気で、動電気は意図的に流す電気なのかと考えます。レンさんは、違いは発生のしかたではなく、電気が溜まって一度で終わるか、流れ続けるかにあると説明しました。
一箇所に電気が溜まり、パチンとなったらそれで終わり
電気が流れ続ける。現代で「電気」と言えば基本的にこちら
そして、電池が生まれるきっかけになったのはカエルだったとレンさんは語ります。カエルの足に電気を流すとピクッと動く有名な実験があり、溜めた電気を流したときだけでなく、2種類の金属を筋肉にくっつけても同じように動いたのです。
2種類の金属の間では、電子が多いほうの金属から少ないほうへ、カエルの筋肉を伝って電気が流れます。しかし当初は、カエルの体の中に電気を生む器官があり、それが金属に誘導されて筋肉が動くと考えられていました。
2つの金属で流れ続ける電気を。ボルタ電池の革命
カエルの体ではなく金属の側に原因があり、金属同士を組み合わせることで電気が生まれるのではないかと考えたのがボルタ ── イタリアの物理学者アレッサンドロ・ボルタ。1800年ごろに電池を発明し、電圧の単位「ボルト」に名を残していますです。ボルタは静電気を瓶に溜めるのではなく、2種類の金属から持続的に電流を生み出すボルタ電池を作りました。
エマさんは、静電気の話では金属に電気が溜まらないと言っていたのに、と混乱します。レンさんは、手に持った金属をこすっても電気が手を伝って地面に逃げるだけで、独立した金属の板なら偏りが生まれて電気を溜められると説明しました。
ボルタ電池の仕組みは、亜鉛と銅の板を用意し、その間を銅線でつなぐというものです。亜鉛は電子を出しやすく、銅は電子を受け取りやすい性質があります。
塩酸に浸す
亜鉛と銅の板を、金属を溶かす塩酸のような液体に浸す
亜鉛が溶ける
亜鉛が少しずつ溶け、電子が取り残される
銅線を伝う
電子が銅線を通って銅の板へ移動する
流れ続ける
亜鉛が溶け続ける限り、板の間を電気が流れ続ける
ずっと流れるっていうのが結構革命的で。ずっと流れるってことは、その間に何か繋いでおくと電子器が流れ続けたりするわけじゃないですか。
レンさんによると、ボルタ電池は人間が動電気を初めてちゃんと供給できるようになった発明で、自然界では起こらないことでした。ここから電気を使った発展が一気に進んでいくことになり、電圧の単位「ボルト(V)」にもボルタの名前が残っています。
体当たりの探求が今の電気をつくった
エマさんは、静電気から電気の存在がわかり、カエルの足を経て、電気を人工的に流し続ける装置が生まれたという流れを振り返ります。二人とも「電気の流れの話の流れがややこしい」と笑いつつ、細かい部分は図で学ぶのがよさそうだと話していました。
レンさんは、電子の正体のような細かいことがわかるのはもう少し先で、電池があったからこそ研究も進んだと話します。日本に伝わった当初も、電気を起こす装置は面白い見世物のような扱いだったそうで、それが世の中を動かすとは誰も思っていなかったといいます。
エマさんも、正体がわからない時代には、とにかく何でも実験するしかないと共感します。そして、毎晩布団をこすって光らせているのも、自分なりの実験だと主張しました。
今私は非常にあの原始的なやり方で、この毛布が光るっていう現象を解明しようとしてるわけですよ。
ただ、エマさんの布団の実験は、光るかを見ているだけで、光る条件はまだわかっていません。レンさんは、湿度を測ったりパジャマの素材を変えたりして記録を取れば条件が見えてくるはずだと、まず記録を取ることが探求の第一歩だと勧めます。
レンさんは、エマさんから2週間ほど前から何度も布団の話を聞かされ、その熱量に押されて今回の電気の回を準備したと明かします。そのうえで、科学史の中でも電気は重要なテーマなので、学べてよかったと締めくくりました。
まとめ
身近な静電気から始まった電気の研究は、琥珀の観察、ギルバートの分類、ライデン瓶による蓄電、フランクリンの凧揚げ、カエルの足の実験を経て、ボルタ電池の発明に至りました。正体がわからない中でも、体当たりで実験を重ねた人々の姿勢が、今の電気のある生活の土台になっています。
- 電気の語源は琥珀を意味するギリシャ語「エレクトロン」で、タレスが琥珀で羽毛を引き寄せた記録が始まりとされる
- ギルバートは、熱で静電気は消えるのに磁気は消えないことなどから、電気と磁力を分けて捉えた
- ライデン瓶で電気を溜められるようになり、フランクリンは凧揚げで雷が静電気と同じ現象だと示した
- カエルの足の実験をきっかけに、ボルタが2種類の金属で電流を流し続けるボルタ電池を発明した
- 正体がわからない現象に対しては、条件を変えて試し、記録を取る地道な実験が理解への道になる


