なぜレンさんは「シャンクスの気持ち」になったのか
この回は、サイエントークの初期からのリスナーで高校生のシミ君と、レンさんが札幌駅で対面して話した対談の後編です。前編では受験の話や「そもそも学ぶとは何か」という話が中心でした。
冒頭でレンさんは、シミ君との対面を漫画『ONE PIECE』のシャンクスにたとえます。シャンクスがルフィに麦わら帽子を託す場面のように、シミ君が持ってきた本「科学の新研究」書名にサインを書いたからです。
いや、本当にね、俺シャンクスの気持ちだったよ。
前編と後編の収録日は3、4日空いていますが、レンさんはこの対談でポッドキャストへのモチベーションが非常に上がったと話します。エマさんは対談の場にいなかったため、後編の音声を初めて聞く立場で進行します。
SSHで論文を書く高校生は何を研究しているのか
後編の対談は、シミ君が勉強の動機について語る場面から始まります。シミ君は、研究なら他人と比べられることもあるけれど、自分がただ面白い、好きだと思ったから勉強するのが一番純粋な動機だと、最近になって気づいたといいます。
レンさんはこれに強く同意し、好きで学ぶことへの閾値は低ければ低いほどいい、そうでないと続かないと答えます。優秀な人は上に際限なくいて自分の価値を考えてしまう、というシミ君の言葉に、レンさんは「本当に高三か?」と驚いています。
シミ君の学校はSSH ── スーパーサイエンスハイスクールの略。文部科学省が理数系教育に力を入れる高校を指定し、予算をつけて先進的な授業や研究活動を支援する制度ですの指定校で、生徒は論文を書いて学校に提出します。物理や化学、生物がメインの中で、数学をテーマにしているのはシミ君だけだそうです。
シミ君の研究は、フレネル積分 ── サインやコサインの中に変数の2乗が入った関数を、ゼロから無限大まで積分するもの。光の回折の計算などで使われますの「Xの2乗」の部分を自然数から実数に一般化しようとするものです。複素積分 ── 複素数の範囲で行う積分のこと。実数の範囲だけでは解きにくい積分を計算する道具として使われますも使っていますが、本人は「ただ微分して積分しただけ」「中途半端な研究になってる」と控えめです。
レンさんは、論文としてまとめた経験があるかどうかがとても大事だと話します。新しいものを出す以上、そこにはある程度の責任が生じるからです。
シミ君は、最近は実験が本当に大事だと感じているといいます。実験の回数が少なすぎる、見えないと理解もできない、という問題意識です。
シミ君の考えでは、センセーショナルな発見をした昔の人たちは、実験を重ねて経験値を増やし、それを使ってまた新しい実験をして発見に至っていました。そのため、実験しないと勉強した気になれないといいます。
実験する
まず自分の手で実験を繰り返す
経験値が増える
実験の積み重ねで理解が深まる
新しい実験
その経験を使って次の実験をする
発見
繰り返しの先に新しい発見が生まれる
レンさんも、昔は勉強というより全てが実験で、それが教科書に詰まっていると応じます。ただ、実験ばかりしていると授業が進まない難しさもあると付け加えています。
シミ君が「その最たる例」として挙げるのが天文学です。青少年向けの科学館のような施設施設名で、学芸員の藤原さんと望遠鏡でプロミネンス ── 太陽の表面から外へ吹き出す、炎のような形をしたガスの構造。太陽の活動が活発な時期ほど多く見られますを観察し、メールアドレスを交換して話を教えてもらっているそうです。太陽の活動は11年周期で、今はちょうど活発な時期に入っているとシミ君は説明します。
ポッドキャストはなぜ人生を変えたのか
シミ君は、プロミネンス観察のようなイベントを知れたのはポッドキャストのおかげだと話します。自分が知りたい学問のラジオを聞いていると、こういうイベントがあるんだと知ることができるからです。
レンさんも、自分が把握している外側のトピックが勝手に入ってくるのが音声の良さだと応じます。シミ君は「Apple Podcastは義務教育にすべきです」「人生本当に変えられたんで、僕、ポッドキャストに」とまで言い切ります。
シミ君はYouTubeよりポッドキャストを聞いている時間のほうが断然長いといい、レンさんも「YouTube疲れちゃうんだよな」と共感します。シミ君にとってのラジオの魅力は、お互いの顔がわからず、リスナーは声だけを聞いてお便りを送るしかないところです。疑問に思ったことを交換する、昔の学問に似た形だと感じているそうです。
YouTubeだとわかった気になっちゃうみたいなのも結構ある気がしてて。ずっとパッて見て、その時はわかるんだけど、あんまり自分で考えないから抜けてっちゃう感がある。
シミ君は「倍速は悪しき概念です」と言い、文字起こしも絶対に使わないそうです。レンさんは、音声には一度頭に入れて考えるフェーズがあると整理します。
パッと見てその時はわかるが、自分で考えないため抜けやすい。倍速で見るとなおさら
一度頭に入れて考えるフェーズがある。顔が見えず、お便りで疑問を交換する
レンさんはさらに、聞いた内容を誰かと話すのが一番いいと勧めます。ラジオの話としてではなく、「ラジオで聞いたんだけど」と雑談のネタにすればよく、レンさん自身もポッドキャストで話のネタを結構集めているそうです。
下調べと科学史の「伏線」はどこへつながるのか
話題は、以前サイエントークに出演した中山さんのことに移ります。シミ君のお父さんが応募したKEK ── 高エネルギー加速器研究機構の略称。茨城県つくば市にある、素粒子や加速器の研究を行う国の研究機関です機関名の体験学習が当たり、シミ君はそこで中山さんに会っていました。
中山さんはシミ君に、レンさんは下調べにかける労力がすごい人だと話していたそうです。レンさんはこれを聞いて「嬉しい」と喜びます。
(素粒子は)想像しづらいし、しかも音声だけだし。だからどこが音声でも楽しめるかなっていうラインを知るために、ちょっと下調べするかみたいな。
レンさんが科学史のシリーズを始めた理由も、このベース作りにあります。いきなり専門分野の話を聞いてもわけがわからず面白くないので、科学史を聞いておけば「科学史のあそこで似た話があった」と思い出せるようにしたいというのです。
最初今やってる結構長期プランだから、最初から何年やるつもりなんだみたいな。伏線今ね張りまくってる。ずっと伏線を張り続けてる。
レンさんは、中山さんにまた出演してもらい、もっとガチの研究の話をしてほしいと考えています。関連番組のサイエンマニアも、収録済みのものを2本ほど編集して出す予定だと話しています。
初期からのリスナーはどう成長してきたのか
シミ君は、周りで更新をやめてしまうポッドキャストが多いことを寂しがります。レンさんは、たまにリスナーと交流すると「やんなきゃ」と思えるし、自分だけでやっていたらいつやめてもいいとなってしまうと話します。
レンさんによると、シミ君は第1話が出た時期に番組を見つけ、最初期からお便りコーナーで紹介されてきた「有名人」です。最近は、初期の回から聞き直している新しいリスナーも多いそうです。
そう、熱いんでね、そういう人がちょっとずつ増えれば俺はいい。一気にボンって増えちゃうと多分めちゃくちゃになっちゃう。健全に育っていったらいいかな。
シミ君は、中学3年のときのお便りが残っているのは恥ずかしすぎると笑います。レンさんは、高校1年のシミ君から届いた「スマホを封印して勉強を頑張ります」というお便りを振り返ります。当時エマさんとは、すごいけれど大丈夫か、と話していたそうです。
実際にスマホを封印すると、シミ君はラジオを聞けなくなってすごくストレスが溜まったといいます。ラジオを聞くためにスマホがあるような生活をしていたからです。レンさんは、完全に封印するのはやりすぎで、いい付き合い方をしないといけないと話しています。
手紙のやりとりと紙の本は、なぜ学びに効くのか
シミ君は、確率論の始まりも手紙のやりとりだったと持ち出します。レンさんがパスカル ── 17世紀フランスの数学者・哲学者。数学者フェルマーとの手紙のやりとりの中で、確率論の基礎となる議論を交わしたことで知られますの名前を挙げると、シミ君はその感覚がラジオとすごく似ていると話します。
手紙だからこそ議論がうまくできた面があるのでは、というのがシミ君の見方です。レンさんも、まとまった意見を送り合うからだと応じ、ショートメッセージではない「お便り文化」が好きなのかもしれないと話します。
シミ君は、学校でタブレットの教科書を使うのがすごく苦手で、勉強は絶対に紙の本だといいます。効率のためには使うものの、アナログだからできる勉強の感覚があるそうです。レンさんも、大事だと思う本は紙で買うと共感しています。
シミ君が特に驚いているのは、レンさんが毎回の参考文献を読み込み、同じ本から何本ものエピソードを作っていることです。レンさんはその作り方を次のように説明します。
レンさんは、この作業はプレゼンを作るのと大体同じだと話します。プレゼンが苦手だというシミ君に対し、研究者にとってプレゼンは思っていたより重要で、論文の構成を考える力とも共通していると伝えます。
シミ君が「お便りだから」と言うと、レンさんは、お便りや文章をちゃんと作れる人は話が分かりやすいと答えます。読み手のことを考え、書き直す過程が大事だという点で、二人の考えは一致しています。
「わかんない」は辛いことではない?
レンさんが聞いておきたいことはあるかと尋ねると、シミ君はまずサイエントークを続けてほしいと答えます。「僕の暗黒時代を救ってくれた」とまで言うシミ君に、レンさんは「救いになってたらよかった」と返しています。
レンさん自身も、昔お便りをくれた人が今どうしているのか思うことがあるといいます。週1回の配信ペースに合わない人は他の番組へ行ってしまうことも理解していると話します。
シミ君は、木曜日の朝の更新に張り付き、学校へ行く前にダウンロードして聞いていたそうです。レンさんは、年1回のライブ配信を5月か6月に行う予定で、4周年になると話しています。
今後の目標として、レンさんは、いつもの二人に詳しい人が加わり、「この人の話を聞きたい」と思って来てもらえる場にしたいと語ります。サイエンマニアは、難しい話を聞きたい研究者などが聞いてくれているはずだと見ています。
シミ君は、分かりやすく話すことも大事だけれど、思いっきりわからない研究の話もしてほしいといいます。「わかんないって別に辛いことじゃないんで」「全くわかんない方が興味持てるとかってあるんで」というシミ君の言葉に、エマさんは「また名言出た」と反応しています。
二人は、コロナ禍がポッドキャストを聞き始めたり始めたりしたきっかけだったことにも触れます。一方で、科学系ポッドキャストの古参が更新をやめてしまうのは悲しいとシミ君は話し、レンさんは「俺は絶対やめないけど」と答えます。
シミ君は幼馴染と一度収録を試し、1時間半話しても使いたいのは30分ほどで、構成も下調べもとても大変だったといいます。テーマはIQ ── 知能指数。知的能力を年齢などの基準と比べて数値化したもので、測定方法には複数の種類がありますで、歴史上最もIQが高かったとされるウィリアムさんという人物の人生や、IQが導入された理由を調べたそうです。
レンさんは、IQはもともと子どもの認知力を測るためのものだと聞いたことがあると話します。「これを解けたらIQ200」のようなネット広告はやめてほしいというシミ君に、レンさんは性格診断と同じで、そんなに簡単に人は測れないと応じています。
サイン第1号は何を描いたのか
1時間ほど話して辺りが暗くなったころ、シミ君は本にサインを頼みます。レンさんはそれまでカタカナで「レン」と書くだけだったので、この機会にサインを作ることにしました。
レンさんは、カタカナの「レン」の下に、サイエントークのマークにちなんでベンゼン環 ── 6個の炭素原子が六角形の輪につながった構造。化学の構造式で、亀の甲のような六角形として描かれますを描き添えます。シミ君は「なんか人生に色がつきました」と喜びます。
マジで今エネルギーをもらったわ。
サインの横には、将来エマさんにも書いてもらう欄を残すことになりました。レンさんは数日後にロンドンへ発つことを伝え、勉強だけでなく楽しんでほしいと声をかけます。
最後にシミ君は、次に会うのは志望する大学に受かってからだと宣言します。筑波大学か京都大学かまだ決めきれていないものの、受かったらまず二人に会いに来てサインをもらい、リアルなお便りを持ってくると約束しています。
レンさんとエマさんは対談をどう受け止めたのか
対談の音声を聞き終えたエマさんは、シミ君のことはもちろん覚えていたと話します。大人にとっての4年間と、高校3年のシミ君にとっての4年間では長さが全然違う、と振り返ります。
ちょこちょくさ、しみ君がお便りくれてたわけじゃん。それでこう、しみ君の成長もわかるっていうか。
レンさんも、中学2年から高校3年までは体感で10倍くらいの長さで、世界が違うと応じます。二人とも、シミ君は将来大物になりそうだと話しています。
エマさんは、サイエンスに興味を持った人から研究者が生まれればいい、という番組の意義に触れます。レンさんは、そうした成果には指標がなく見えないと思っていたと話します。
エマさんは、今回の対談でむしろ二人のほうが元気づけられたのではないかと話します。駅での収録だったため音は良くありませんでしたが、次回は3人でいいマイクで録ろうと話しています。
レンさんは、特定のリスナーだけを取り上げることに迷いもあったと明かします。それでも、こうした機会はなかなかないため、今回は「弟子1号」の特別枠として紹介したそうです。
レンさんは、5月9日に東京で開いたポッドキャストアカデミーというイベントにも触れます。参加者の中には10代が1人いて、サイエントークを聞いている親御さんが「息子が最近サイエンスに興味を持っている」と連れてきた高校生でした。
この出来事から、レンさんは親世代に影響を与えることが大事だと考えています。子どもが直接ポッドキャストを聞く機会は少なくても、聞いている親が子どもに何を伝えるかの影響は大きい、という見方です。
親世代が聞く
ポッドキャストのリスナーには親世代も多い
子に伝える
親が聞いた内容や興味を子どもに伝える
子が興味を持つ
イベントに親子で参加した高校生のような例が生まれる
若い世代の聞き始めについては、iPhoneに最初から入っているApple PodcastやSpotifyで知ったケースもあるようだとレンさんは話します。エマさん自身も、端末に入っていたGoogle Podcastがきっかけだったそうです。
レンさんは、ニッポン放送で「オールナイトニッポン」を作るプロデューサーの本書名で、若い世代が音声コンテンツに触れる機会が過去にないほど増えていると読んだと紹介します。オードリーの東京ドーム公演や『OVER THE SUN』の武道館イベントを例に、音声の熱量はすごいと話しています。
受験より大学の学びが合う?シミ君へのエール
エマさんは、シミ君は受験勉強より大学に入ってからの勉強のほうが合っていそうだと話します。テストのために表面的に全てを学ぶより、実験をたくさんして考える本質的な学びのほうが向いている、という見立てです。
レンさんは、一点突破のタイプには受験が障壁になるのではないかと話します。エマさんは、大学によっては物理や数学に優れた人のための枠もあったはずだとしつつ、「しみくん頭いいからさ、多分全然いけるっしょ」と笑います。
前編の配信後には感想がたくさん届き、エマさんの母親からも「神回だね」と連絡があったそうです。レンさんは、届いた応援コメントがすごく温かく、自分も頑張ろうと思えたと話します。
うん、応援してます。あとほんと全ての頑張る人を応援してます。
最後は、レンさんが最近ロンドンで数独に3時間ほど熱中して後悔した話で笑いが起きます。エマさんは、レンさんは下調べも勉強も料理もちゃんとしているとフォローしています。
今後の予定として、レンさんは以前の回で話した最古のプラネタリウムを見るため、オランダへ車で行く予定だと話しています。その様子もまた番組で話したいとして、この回は締めくくられます。
まとめ
高校生リスナーのシミ君との対談では、好きだから学ぶという動機、実験や紙の本を重視する姿勢、そして一度考えるフェーズがある音声の良さが語られました。レンさんとエマさんにとっては、番組を続ける意味を実感する回になりました。
- シミ君は「好きだから学ぶ」ことを最も純粋な動機と考え、SSHで数学の論文に取り組んでいる
- レンさんは、一度頭に入れて考えるフェーズがあることを音声コンテンツの良さだと話した
- 手紙のようなお便り文化や紙の本、書いて構成を組み直す作業が、深い理解につながるという点で二人の考えは一致した
- 成果の指標が見えない中でも、シミ君のような存在が番組を続ける意義を実感させた
- レンさんは、親世代のリスナーを通じて子ども世代へ科学への関心が広がる影響にも期待している


