科学史シリーズはどこまで進んできた?
サイエントークでは、2022年夏ごろのシーズン2から「科学の歴史」シリーズを続けています。今回の第186回は、前回から時間が空いたこともあり、レンさんが総集編、つまり復習回をやろうと提案した回です。
これまでの科学史シリーズは、寄り道をしながらいくつかのまとまりで進んできました。最初はビッグバンからアリストテレスまで、次は古代のミイラから元素発見までで、後者は2024年2月の第110回で一度復習回をしています。
フェーズ2の復習を受けて、エマさんはミイラの話題からフロギストン ── 燃焼の際に物質から放出されると考えられた仮想の物質。17〜18世紀に唱えられ、のちに酸素の発見によって否定されましたを思い出します。ただ、二酸化炭素だったかと尋ねるエマさんに、レンさんは「本当は存在しないもの」だと訂正しています。
今回の復習範囲は、化学の一区切りとなった元素発見のあとに始まった、物理と数学の話です。ボリュームが大きく、1年ほどかかったこの範囲を、要所に触れながら一気に振り返り、ところどころにクイズも挟んでいく構成です。
いやもうマジでね、(クイズは)0点の自信ある。
最初の時計は何だった?夜通し水を見張る仕事
物理学史の最初は、2024年2月21日に配信した第111回「時計はどう生まれた?時計の科学と歴史」です。レンさんは、動物には時計がない世界が普通なのに、人間は時計を作り、時間を意識して測りながら生活するようになったと振り返ります。
第1問は「最初の時計は何時計だったか」。エマさんは即座に「日時計」と答え、正解しました。太陽の動きと影を使った日時計が最初だと言われ、その後に水の流れで測る水時計や砂時計が登場します。
日時計
太陽の動きと影で時間を測る。最初の時計と言われる
水時計
水をちょろちょろ出し、減った量で時間を測る。日の出ていない夜にも使える
砂時計
今も使われている形式
エマさんが覚えていたのは、水時計の隣にずっといる人は暇だよね、という話です。レンさんによれば、夜の時間を測るために水を出し、その減った量で時間を見ていたそうです。
水が絶えないように見とかなきゃいけないんだよね、多分。
そう。結構あの、眠気との闘いみたいな仕事(だったかも)わかんないけど。
言葉で書かれた数式を、グラフはどう変えたのか
時計の次に扱ったのは、第113回「グラフはどう生まれた?大学の起源と物理に目覚める数学者たち」です。人が数を扱っていく段階の話で、時系列としてはガリレオより少し後の時代だとレンさんは補足しています。
第2問は「グラフを作ったことは、なぜすごかったのか」。今ではX軸Y軸のグラフを書くのは当たり前ですが、当時は事情が違いました。
エマさんは「数式と図形をつなげたところ」と答え、さらに「数式じゃなくて言葉で書いてたんだっけ?」と思い出して正解します。当時は「1+1」のような式がまだなく、数式はすべて言葉で書かれていて非常にわかりにくいものでした。
数式はすべて言葉で書かれ、非常にわかりにくい
図示することで、関係がめちゃくちゃわかりやすくなった
なんだけど、それ(言葉の数式)を図示するっていうのでめちゃくちゃ分かりやすくしたっていう。
エマさんは、現代の仕事でも「表だけだとわかりにくいからグラフにしましょう」とよく言われると重ねます。レンさんは、グラフや、式を言葉ではなく記号にしていくことが、数学の大事なプロセスだったとまとめています。
ガリレオはどんな人?水時計で挑んだ落下の常識
グラフと時代が近いのが、第117回と第118回の2回にわたって人生を紹介したガリレオ・ガリレイです。前編は若手時代で、エマさんの印象は「結構パリピ」でした。
え、なんか結構パリピな印象がある。えっと、クレイジーで。ギャンブルとかが好き。
レンさんも、ガリレオには借金が結構あったことや、服装のことで大学と揉めてクビになったことなど、めちゃめちゃ尖った人物だったと振り返ります。
ガリレオがいた1500〜1600年代には、重いものの方が早く落ちるという常識がありました。ガリレオはそれを覆すため、大きさが同じで重さの違う玉を坂道で転がし、時間を測る実験などをしていました。
ここでクイズ。「その時間を何で測っていたか」。エマさんは振り子、時計と答えたあと、ヒントを受けて「水時計」にたどり着きます。当時はまだ時計がきちんとできておらず、時間を測る手段がそれくらいしかなかったとされています。
だからね、そういう中で頭使って研究してたのはやっぱすごいなっていう話をしてました。
ほかにも、ピサの斜塔から物を落とした実験は本当にやったのか、実際はやっていなかったのではないか、という話も第117回・第118回で詳しく扱っています。
地動説と『チ。』、望遠鏡で見た凸凹の月
第118回の後編は、天動説と地動説の対立をまとめた「正解に魅せられたガリレオの生き様」という回でした。2024年3月の配信で、2024年10月ごろに始まった『チ。』のアニメより前の話です。
レンさんはアニメ化が決まっていた時期だったと振り返り、当時ワクワクしていたことを覚えているそうです。同じ時期には、原爆を作った研究者を描いた映画『オッペンハイマー』を2人で映画館で観ていました。
あれ面白かったよね。心の葛藤みたいなのがわかってね。
ガリレオの話でレンさんがアツいと語るのは望遠鏡です。ガリレオは望遠鏡を使って初めて月を見て、表面が凸凹していることに気づきました。
(月や星は)地球とは違う世界だと思ってたけど、実は地球と同じようなものでできてるんじゃないかと。
ガリレオはイタリア人ですが、望遠鏡自体が誕生したのはオランダです。それをもっと遠くまで見えるよう改良し、月を見たのがガリレオだとレンさんは説明しています。
オランダで見た、世界最古のプラネタリウム
エマさんが望遠鏡の発祥地に反応したのは、収録の2日ほど前に、2人でオランダのプラネタリウムを見に行ったばかりだったからです。2024年10月のエピソード「現存する最古のプラネタリウムは小卒の羊毛業者が独学で作ったらしい」で紹介したエイセ・エイシンガさんのプラネタリウムです。
羊毛業者の家庭の人が、自宅のリビングの天井に作ったプラネタリウムを、実際に見てきたといいます。館内には望遠鏡や本物のアストロラーベ ── 天体の高度を測ったり、時刻や位置を求めたりするための古い天文観測器具。中世のイスラム世界やヨーロッパで広く使われましたなど、宇宙研究の歴史に関わるものが展示されていました。
あの辺がなんかこうポッドキャストで話したやつが結構てんこ盛りな感じがすごいした。
写真もたくさん撮ったため、詳しくは別のエピソードやYouTube動画で紹介したいとのことです。レンさんは「実際に足運んでみて」動画を作る気になったと話しています。
ガリレオの話の締めくくりとして、天動説と地動説を巡る争いで裁判にかけられ、処刑はされなかったものの軟禁された、という有名な結末にも触れています。
デカルトは天井のハエから何をひらめいた?
時計、グラフ、ガリレオという物理の話が数学と絡んでくるのが、第144回「座標はどう生まれた?デカルトの人生と動物機械論を語ろう」です。エマさんもデカルト回は比較的覚えていたようです。
デカルトは座標を発明し、「我思う、故に我あり」で知られる哲学者でもあります。一方で人間を特別扱いし、動物は痛がっていても機械的な動きをしているだけだとして、普通に実験していたといいます。
まあちょっとサイコパスみある感じですけど。
この話から、動物や虫に感情はあるのかというディスカッションに発展したのもデカルト回でした。最後はデカルトも本の内容が神を信じていないと見なされて裁判にかけられ、スウェーデン女王の家庭教師になったものの、朝早すぎる授業で風邪を引いて亡くなったと言われています。
体の弱かったデカルトは、ベッドで寝ながら考えていたとも言われます。天井のハエの位置を示すには、天井に軸を置けばいいとひらめいたことが座標の着想とされています。
座標によって、図形を扱う幾何学と、数式を扱う代数学を一緒に扱う流れが生まれました。1600年代のデカルトは、ガリレオより少し後のグラフからさらに発展した段階にあたります。
方程式の歴史と、解の公式を巡る算術バトル
数式が生まれたのもデカルトとほぼ同じ時期です。これは第142回「方程式の歴史。代数学をゼロから知ると算術バトルにたどり着く」で扱いました。
xやyを使い、言葉ではなく式で表していこうというのが代数学の始まりです。当時は3次方程式を解けるかどうかを出し合うバトルがあり、解の公式を見つけた人が強かったといいます。
解の公式が存在するのは4次方程式まで、5次は存在しないことが証明されています。レンさんは、今でいえば数学オリンピックのような感覚かもしれないと話します。
さらに、解の公式を誰が見つけたかで揉めたり、勝手に発表されたりした話もありました。誰が法則を見つけたかが名誉に直結した時代であり、その代表例がニュートンです。
ニュートンの「創造的休暇」とケンブリッジのリンゴの木
ニュートンは第127回から第129回の3回にわたって紹介しました。2024年5月の配信で、その前の4月には雑誌『Newton』とのコラボもあり、2人の会話にはニュートンという言葉が何度も出てきたそうです。
ニュートン回のあと、2人はイギリスのケンブリッジを訪れ、ニュートンのリンゴの木を見てきました。ちょうどそこから、エマさんのイギリス生活が始まっています。
レンさんが気に入っているのは創造的休暇 ── ニュートンが1665〜1666年、ペスト流行によるケンブリッジ大学閉鎖中に故郷で研究に没頭した期間を指す呼び名。「驚異の年」とも呼ばれますです。感染症のパンデミックで大学が閉鎖された間に、微積分のアイデアや万有引力の法則の基礎を作ったと言われています。
今君、創造的休暇取ってるから、ちょっとニュートンに学んでね、いろんな発明をしてください。
ケンブリッジ行ってこようかな。リンゴ見てこようかな。
ニュートンの人柄も紹介していました。一人が好きで、錬金術にハマった時期もあり、法則の発表も自分からではなく、天文学者のハレーに働きかけられて運動の法則の論文を書き、いやいや発表したそうです。その後は学会の長となり、政治的な力も持つようになりました。
微積分はどちらが先?ライプニッツとの論争
ニュートンが微積分の権利を争った相手として、レンさんはクイズを出します。ヒントは2進法の話をした人物で、答えはライプニッツでした。第164回「日常に潜む微分積分の起源。ライプニッツの哲学と論争に振り回された人生」で扱っています。
微積分をどちらが考え出したかを巡る論争は、イギリスとドイツの学会を巻き込む権利争いにまで発展しました。現代では、一応ニュートンとライプニッツの引き分けという結論になっています。
なんかニュートンが作ったって言った記録も、もう昔のメモとかの中から掘り出してとか。それがどっちが早いって結論付けるの結構難しいんじゃないかな。
日常に潜む微分の例は体温計です。最初の温度の上がり方から初速を出し、最終的に何度に達するかを微分で予測しているといいます。積分は面積を求める場面などに広く使われ、今使われている微積分の記号はライプニッツが作ったものです。
ライプニッツは、0か1かで表す2進法のアイデアを生んだ人物でもあります。それがコンピューターにつながる話や、なぜコンピューターは10進法ではダメなのか、毒ワインを見つける方法のクイズなども、2進法のエピソードで扱いました。
専門家でなくても発見できる?フェルマーと小学生の新種
数学者の話として、1600年代のフランスのフェルマーも紹介しました。法律家でありながら、非常に難しい数学の問題を解いたアマチュアの数学者です。
エマさんは、オランダの博物館で「この時代は大学に所属する専門家でなくても、一般の人が考えて発表できた」と書かれていたのを思い出します。だからこそ1700年代のエイシンガさんも天文学ができたのだ、とレンさんは応じます。
一般の人でも考えて発表できた。大学所属の専門家である必要はなかった
専門家でないとそこまでできない印象。情報やAIへのアクセスはあるが、話はあまり聞かない
レンさんはこれに対し、AIの最初のニューラルネットワークのアイデアに神経科学者が関わっていた話を挙げます。ある意味、ジャンル外の人の仕事だったのではないかという見方です。
でも誰でもチャンスあると思うんだよな。だって小学生とか中学生でもさ、新しい発見する人とか結構いるし。
レンさんは、一人で行った上野の国立科学博物館で、見学に来た小学生が保管標本を見て「違う種類では」と気づき、調べると新種だった、というエピソードを見たそうです。虫だったか骨だったかは忘れてしまったと話しています。
この話から、2人は時代に関わらず違うジャンルの人がいい発見をすることがあり、自分の興味以外のことを取り入れるのも大事だと語ります。エマさんは、化学が専門のレンさんがさまざまな分野をポッドキャストで話していることも同じだと指摘しました。
科学史からもらえる「勇気」とは
専門外の分野を話すことで「ヒントをもらっている」と言うレンさんが、考え方以上に挙げたのはメンタル面でした。
なんだかんだでみんななんか逆境を乗り越えて偉大な発明をしてる感じはあるよね。
レンさんによれば、昔は割と普通の人がすごい偉業を成し遂げるパターンが多かったそうです。ただし学問が高度になると、天才が一気に進めてしまう例も増えていき、その最たる例が数学史の最後に登場する人物たちです。
目が見えなくなっても論文を書き続けたオイラー
クイズ「最も多くの論文を書いたという説がある研究者は誰か」。エマさんは「途中で目が見えなくなった人」という点だけ覚えていましたが、名前は出てきませんでした。正解はオイラーで、2025年2月の第167回で紹介しています。
エマさんは、今年に入ってからの記憶がほとんどないと告白します。イギリスでは日が短く、2月は精神的にも身体的にもつらかったそうです。レンさんも、昨年度はメンタル的にきつい時期があり、よく毎週配信していたと振り返っています。
1700年代のスイスの数学者・物理学者であるオイラーは、無限に足し算していくと収束するのかを問うバーゼル問題 ── 自然数の2乗の逆数をすべて足した和を求める問題。オイラーがその値がπ²/6になることを示しましたなどに取り組みました。それまで未解決だった問題を解いて懸賞金をもらったり、目が見えない状態で月の軌道を計算したりしたといいます。
エマさんは、ヨーロッパに住んでいる間に、科学史に登場した人物を扱う博物館を各国で訪ねたいと話します。科学史の人物はほとんどがヨーロッパ人で、ギリシャなどは時間が足りないほどだろうとレンさんも応じています。
数学史の締めくくり、ガウスと正十七角形
数学史の一旦の締めくくりは、第169回で紹介したガウスです。エマさんは「お餅記号の人?」と答え、それはオームの記号だとレンさんにまた訂正されました。前回と同じ間違いだそうです。
1700年代後半から1800年代のガウスは、素数に法則性があるかを研究し、ひたすら紙に数を書いて確かめていました。素数の判定法はフェルマーらが見つけたもので、ガウスは数が大きくなると素数が出る確率が下がることを、ざっくりした割合で表す式などを研究したといいます。
作図の問題では、正十七角形を定規とコンパスだけで描けることを証明しました。これは古代ギリシャから未解決だった問題の一つです。素数はフェルマーの回でも話したように、現在のインターネットの暗号技術にもつながっています。
ここまでくるとかなりもう数学も発展してきてて、その土台の上にまた物理とか化学とかそういうのにつながっていくっていう、その土壌が結構できたよっていう話ですね。
科学史の次は原子・量子の発見編へ
第111回から第169回まで、寄り道しながら物理学者・数学者の活躍を見てきたのが今回の範囲です。その後もお尻を拭く歴史、夢の話、電気の話などを挟み、今回の第186回は5月末の収録でだいぶ久々になりました。
今後は物理と数学を一旦完成したものとして、数学・物理・化学が融合する「原子・量子の発見編」に入ります。電子がどう見つかったかなどを扱い、オッペンハイマーやアインシュタインも登場する予定です。
音声でどうやって伝えるか問題がね、多発してくる。まあだからうまいことね、ちょっとエッセンスだけを話していきたいなっていう。
エマさんが楽しみにしている医学史は、この原子・量子編が終わってからになる予定です。生物なども飛ばしているため、まとまった回として出すことも考えているそうです。
科学史を今年中に終わらせるという話もしていましたが、気づけばもう6月。エマさんは、旅行が多く人生史で話すことも多い今年は仕方ないとしたうえで、2022年から続くシリーズを「気が済むまでやりましょう」と後押ししています。
まとめ
今回は、時計の誕生からガウスまで、約1年分の物理学史・数学史をクイズ形式で振り返る総集編でした。オランダのプラネタリウムやケンブリッジのリンゴの木といった体験も交えながら、2人は科学史の人物たちから逆境を乗り越える勇気をもらえると語っています。
- 最初の時計は日時計で、ガリレオは落下の実験に水時計を使って時間を測っていた
- 言葉で書かれていた数式を、グラフ、座標、記号化がわかりやすく変えていった
- ニュートンとライプニッツの微積分論争は、国の学会を巻き込み、現代では引き分けとされている
- フェルマーやエイシンガのように、専門家でない人の大きな発見も科学史には多い
- 次は数学・物理・化学が融合する原子・量子の発見編に進む予定


