宇宙人にマジで遭遇したらどうする?感覚・言語・食事まで科学的に考えてみた
サイエントークのレンさんとエマさんが、映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の公開をきっかけに、「本当に宇宙人に出会ったらどう対処すべきか」を科学的に掘り下げました。国際ルールから感覚器官の探り方、共通言語の構築、右と左を伝える難問、そして宇宙人との食事の危険性まで──SFの世界を現実の科学で考えるとどうなるのか、その内容をまとめます。
人類はすでに宇宙人に「自己紹介」を送っている
そもそも人類は宇宙人に出会おうとしているのでしょうか。実は、その答えは「イエス」です。SETISearch for Extra-Terrestrial Intelligenceの略。地球外知的生命体からの信号を探索する国際的なプロジェクト群。主に電波望遠鏡を用いて、宇宙から届く不自然なパターンの信号を探している。と呼ばれるプロジェクトが世界中で進められており、宇宙から届く電波や光の中に知的生命体が作ったと思われる不自然なパターンがないか、日夜探索が続けられています。
さらに、受け取るだけでなく「発信」もしています。1974年に送られたアレシボ・メッセージプエルトリコのアレシボ天文台から宇宙に向けて送信された電波メッセージ。1679個の0と1のパルス信号で構成され、2万5千光年先のM13球状星団に向けて発射された。は、1679個の0と1のパルス信号を宇宙に発射したものです。この「1679」という数は23×73という素数同士の積になっていて、23列×73行に並べると、1から10までの数字やDNAの構成元素、太陽系の図などが浮かび上がる仕組みになっています。
ただし、この信号は光速で進むため、2万5千光年先に届くには2万5千年かかります。往復で5万年。返事が来るのは遥か未来の話です。
もう一つ有名なのが、1977年に打ち上げられたボイジャー1号・2号NASAが1977年に打ち上げた無人宇宙探査機。太陽系外への旅を続けており、ボイジャー1号は2012年に星間空間に到達した人類初の人工物となった。に搭載された「ゴールデンレコード」です。バッハのクラシックや日本の尺八の曲など27曲、55言語での挨拶が収録されています。日本語は「こんにちは、お元気ですか?」という声。このレコードは今も宇宙を旅しており、一番近い恒星に届くまでに約1万7千年かかるとされています。
宇宙人からの信号を受け取ったら?国際ルールの中身
こうした取り組みを続けている以上、本当に宇宙人からの信号を受け取る可能性はゼロではありません。実はその場合の対応ルールが、1958年から国際的に定められています。
まず最も重要なルールは「勝手に返信をしてはいけない」ということ。信号を受け取ったらまず国際天文学連合(IAU)天文学の国際的な学術組織。惑星の定義や天体の命名などを行う権限を持ち、地球外知的生命体のシグナル検出時の初期報告先としても指定されている。に報告し、そこから宇宙空間研究委員会、さらには国連の安全保障理事会へとエスカレーションされます。返信するかどうか、返信するなら何を送るかは、科学者たちが集まった会議で決定されるのです。
絶対にやっちゃいけないことは、勝手に返信をするなっていうのがまず大前提らしいよ
敵か味方かもわからない相手に、個人の判断で返事をしてしまうのは危険すぎる──というのがその理由です。
地球外生命体の「持ち込み」にもルールがある
もう一つ決められているのが、宇宙から持ち帰ったサンプルに生命体らしきものが含まれていた場合の対処法です。地球上の生態系を守るため、最も危険なウイルスを扱えるBSL-4施設バイオセーフティーレベル4の略。エボラウイルスなど最も危険な病原体を扱うことが許可された実験施設。宇宙服のような防護服を着用し、完全に外気と隔離された環境で作業が行われる。日本にも数施設ある。に、外気に触れないよう運び込むことが定められています。未知のウイルスのような存在であれば、誰も免疫を持っていない可能性があるからです。
初対面の宇宙人とどうコミュニケーションを取るか
仮に宇宙人と実際に対面したとしましょう。まず最初にやるべきことは、「相手がどの感覚を持っているかを探る」ことだとレンさんは語ります。
私たちは光(視覚)で相手を認識しますが、宇宙人が同じ波長の光を見ているとは限りません。宇宙で最も多いタイプの恒星は太陽より温度が低く、そこから出る光の波長も異なります。つまり、多くの宇宙人は私たちとは違う波長を「見ている」可能性が高いのです。
| 感覚 | 地球の例 | コミュニケーション方法の可能性 |
|---|---|---|
| 光(視覚) | 人間(可視光) | 波長を変えながら反応を確認 |
| 音(振動) | 多くの動物 | 音波でモールス信号的なやりとり |
| 化学物質(匂い) | 昆虫のフェロモン | 化学物質のパターンで情報伝達 |
| 磁気 | 渡り鳥、サメ | 磁場パターンでモールス信号的なやりとり |
| 電気 | 淡水魚(ロレンチーニ器官) | 電流の変化で情報伝達 |
| 熱 | 蛇(ピット器官) | 体表面の温度変化でやりとり |
エマさんが指摘したように、結局のところ「2パターンの信号」──オンとオフ──さえお互い認識できれば、二進法的なコミュニケーションの基盤はできます。熱の高低でも、磁場の強弱でも、原理は同じです。
共通言語は「数学」から始まる
感覚のすり合わせができたとして、次にやるべきは共通言語の構築です。いきなり「私は地球人です」とは伝えられません。段階を追う必要があります。
多くのシミュレーションで最初のステップとされているのが、「YesとNoを共有する」こと。○か×かという二択の概念をお互い認識するところからコミュニケーションは始まります。そしてその次に来るのが「数」です。
宇宙語「リンコス」の存在
実は1960年に、宇宙共通言語を目指して作られたリンコス(Lincos)1960年にオランダの数学者ハンス・フロイデンタールが設計した宇宙向け人工言語。文字や音声を使わず、パルスの数とパターンだけで概念を伝達する。数学的概念から段階的に複雑な意味を構築していく設計になっている。という人工言語が存在します。文字や音声を一切使わず、パルスの数とパターン──つまりモールス信号のようなもの──だけで意味を伝えようとする仕組みです。
「ピッ」で1、「ピッピッ」で2と区別し、そこから「1+2=3」のような確認作業を繰り返してYes/Noで合意を取りながら、数の概念を組み上げていきます。ある程度の文明を持つ知的生命体であれば、原子の構造を理解している=陽子や電子の数を区別できているはずなので、数の概念は共有できるだろうという前提です。
違う感覚とか違うコミュニケーション方法を持ってたとしても、数だけはみんな共通してわかるっていうのが面白いね
ある意味、宇宙の共通言語みたいな感じだね、数字が。ちょっとロマンを感じる
長さや時間の単位はどう伝える?
数が共有できたら、次は単位です。「1メートル」という地球のローカルな基準を伝えるには、宇宙のどこでも同じ値を持つものを基準にする必要があります。レンさんが挙げたのは、水素原子のスペクトル線水素原子内の電子がエネルギー準位を遷移する際に放出・吸収する特定の波長の光。その波長は宇宙のどこでも同じ値を持つため、普遍的な「ものさし」として使える。の波長。原子の中の電子のスピン(回転方向)が変わる時に出る光の波長は、宇宙のどこに行っても同じです。「この水素のこの波長の長さを地球では20センチと呼んでいます」──そうした対応付けによって、初めて共通の「ものさし」が生まれるわけです。
たった1メートルを伝えるだけで、原子のスピンまで話が及ぶ。それほどまでに、異なるルールで生きてきた存在と言語を統一するのは困難なのです。
「右と左」を伝える究極の難問──オズマ問題
上下は重力があるため比較的伝えやすい。しかし「右と左」はどうでしょうか。これがオズマ問題物理学者マーティン・ガードナーが提唱した思考実験。電話(言葉だけ)で遠くの宇宙人に「右」と「左」の区別を伝えることは可能か?という問題。物理法則の対称性に関わる深い問いである。と呼ばれる有名な難題です。
地球にいれば「北を向いた時に太陽が昇る方が右」と説明できます。しかし地球の常識が通じない相手には、そうした手がかりが一切ありません。結論として、言葉や数式だけで右と左を伝えるのは「普通には無理」とされています。
唯一の手がかりは、原子核レベルの現象にまで遡ります。コバルト60コバルトの放射性同位体。ベータ崩壊してニッケル60に変わる際に電子を放出するが、その電子の飛ぶ方向に偏りがある。この非対称性が「右と左」を定義する物理的根拠となる。がニッケル60に変わる際のベータ崩壊で、電子がどちらに飛びやすいか──この非対称性だけが、宇宙レベルで「右」と「左」を定義できる手がかりなのだそうです。
逆に私たち、右左を感覚的に理解できてるのすごいな。みんな理解できてるじゃん
人間が右左を直感的に理解できるのは、体が左右対称にできていて、日常的に「右手」「左手」を区別しているからです。もし球体の宇宙人──レンさんとエマさんが「たまちゃん」と名付けた存在──が現れたら、上下はかろうじて伝わっても、左右も前後ろも伝わらないという究極の難題に直面するかもしれません。
宇宙人との食事は命がけ?アミノ酸と生命の定義
ウェルカムパーティーの罠
コミュニケーションがうまくいき、同じ空気も吸えるとわかった段階で「歓迎パーティーをしよう」と食事を出す──しかし、これも大変危険だとレンさんは指摘します。
地球の生物のタンパク質を構成するアミノ酸タンパク質の構成単位となる有機化合物。地球上の生物はL型(左手型)のアミノ酸のみを使用している。鏡像関係にあるD型(右手型)は、生体内で正常に利用できないことが多い。には「右手型」と「左手型」があり、地球の生物はほぼ左手型(L型)だけを使っています。もし宇宙人の体が逆の右手型でできていたら、地球の食べ物を分解すること自体ができません。それどころか毒として作用する可能性すらあります。
地球の生物
アミノ酸はL型(左手型)のみ使用
もし宇宙人がD型(右手型)だったら
地球の食べ物を分解できない。毒になる可能性も
そもそもアミノ酸ベースでない可能性
体の構成物質が根本的に異なれば、水すら危険かもしれない
そもそも宇宙人がアミノ酸からできているかどうかもわかりません。水をあげたら体が溶けるかもしれないし、水が猛毒かもしれない。科学的な情報交換を十分に行ってからでないと、「良かれと思って」が取り返しのつかない事態を招く可能性があるのです。
「生きている」とは何か?
宇宙人との遭遇は、「生命の定義」という根本的な問いにも突き当たります。地球での生命の定義は大きく3つ。①増殖する、②膜で区切られている、③遺伝情報を持っている。しかしエマさんが面白い問いを投げかけました。「宇宙人だと思ってコミュニケーションを取っていたら、実は宇宙人が送り込んだAI(機械)だったとしたら?」
めっちゃ頭もいいし、コミュニケーションも取れるし、話通じてきたわって思ったら、実は生命じゃなかったみたいな
コミュニケーションが成立し、知的に見える存在が、実は増殖もしなければ遺伝情報も持たない「道具」だった場合──それを生命と呼べるのか。レンさんは、知能とは結局「物質が超複雑に動いている」状態であり、そこに至るには進化と増殖のプロセスが不可欠ではないかと推測します。
ただし、地球型の生命システム(DNA/RNAベース、炭素ベース)はあくまで一つのパターンに過ぎません。もっと高温の惑星ではケイ素炭素と同じ14族の元素で、炭素と同様に4つの結合を作れるため、理論上は炭素に代わって生命の骨格を構成し得ると考えられている。ケイ素ベースの生命体の可能性は、宇宙生物学の重要なテーマの一つ。ベースの生命体がいるかもしれないし、私たちのDNA/RNAによる遺伝は「たまたまうまくいったパターンの一つ」に過ぎないのかもしれません。
まとめ
宇宙人との遭遇は、映画やSFでは比較的スムーズに描かれがちです。しかし現実には、感覚器官の違い、共通言語の構築、右と左の概念、食べ物の安全性まで、気の遠くなるほどの障壁が待ち構えています。私たちが「当たり前」と思っていること──視覚、右左の区別、水を飲むこと──は、すべて地球ローカルの常識でしかありません。
それでも人類は、アレシボ・メッセージやゴールデンレコードを宇宙に送り、信号を受け取った場合の国際ルールまで整備しています。「もし来たらどうする?」を真剣に考えている人たちが、確かに存在するのです。
こうした現実の科学的な視点を持った上で映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を観ると、作品に描かれるファーストコンタクトの意味がぐっと深くなるかもしれません。
- 人類はSETIやアレシボ・メッセージ、ゴールデンレコードなどで宇宙人との接触を試みている
- 宇宙人からの信号を受け取った場合の国際ルールが存在し、最重要ルールは「勝手に返信するな」
- 宇宙人が持つ感覚は五感とは限らず、磁気・電気・熱など地球上の生物にも五感以外の感覚がある
- 共通言語の構築は「Yes/No」と「数」から始まり、宇宙語「リンコス」が1960年に設計済み
- 「右と左」を言語だけで伝えるのは物理学の難問(オズマ問題)で、原子核のベータ崩壊まで遡る必要がある
- アミノ酸の立体構造の違いにより、宇宙人に地球の食べ物を提供するのは極めて危険
- 「生命とは何か」という定義自体が、宇宙人がAIや機械である可能性を考えると揺らいでくる

