なぜ今、投票の話なのか
この回は、レンさんがエマさんに「投票ちゃんと行ってます?」と尋ねるところから始まります。エマさんはイギリスに住んでいるため、今は投票できないと答えます。
レンさんが投票を取り上げた理由は、最近日本で選挙や知事選が大きなニュースになり、人間はいつから投票しているのか、なぜ今も紙なのかが気になったからだといいます。
こう、投票っていう行為を人間いつからやってたのかなとか。
なんで未だに紙なのかなとか、なんかいろいろ気になって。
もう1つの理由が、ポッドキャストアワードです。今年から投票制になったため、リスナーの力がないとどうしようもない、とレンさんは話します。ただお願いするだけでは芸がないので、投票そのものを深掘りしようという企画です。
エマさんからは「投票したくなるストーリー展開にしてください」とハードルを上げられ、レンさんは、今回デジタルで投票できること自体が歴史から見るとすごいことだ、と前置きします。
この回は、12月のテーマ「システム」でホストを工業高校農業部さんが務める科学系ポッドキャストの日 ── 科学系のポッドキャスト番組が毎月共通のテーマで同じ日にエピソードを配信する企画。月ごとにホスト番組が変わりますへの参加回でもあります。レンさんは、1人が何票も入れるのをどう防ぐか、どう効率よく集計するかなど、投票も立派なシステムだと位置づけます。
最初の投票は「嫌な人」を選ぶものだった?
人はいつから投票しているのかという問いに、エマさんは「民主主義が生まれた辺りから」と答え、時期は200〜300年前ぐらいと推測します。
レンさんによれば、諸説あるものの、最も初期の民主主義が出てきたのは紀元前500年頃の古代ギリシャだといいます。
面白いのは、当時の投票が今とは逆だったことです。レンさんは、この人がいいという人ではなく、土地にいたら嫌だという人に投票し、票が多かった人を追放する「反対選挙」のようなものが行われていたと説明します。
エマさんは「なんか怖いね」と反応しつつ、選ばれないように日々の行いに気をつけるようになりそうだと話します。一方で、悪いことはしないけれど、いいことをして何かを変えようとする人は出てきにくいかもしれない、とも指摘しました。
追放には基準もあったといいます。レンさんによると、当時は6000票ぐらいが基準とされ、6000票以上を得た人だけが追放され、全員がそれ以下なら誰も追放しない仕組みだったそうです。
とりあえず一番多かった人追放ってやっちゃうと、毎回絶対誰かを追放しなきゃいけなくなっちゃうじゃん。
エマさんはこの基準を「理にかなってるね」と評価しています。
古代ギリシャの投票は、壺の破片に名前を書いて集めて集計していたとレンさんは説明します。ただ、誰が書いたのか、同じ人が何回も書いていないか、集計を間違えていないかがわからず、不正も行われていたと考えられるそうです。
アメリカの大統領は口頭で選ばれていた
古代ギリシャの後、紙の発明や印刷技術でちょっとずつ置き換わってはいったものの、投票に大きな発明が起きたのは1800年代後半だとレンさんは話します。ここからはアメリカの話が中心になります。
1870年代ぐらいまでのアメリカの投票方法を問われたエマさんは、ヒントを重ねた末に「口」と答えます。正解は口頭での投票で、裁判所の階段のような場所で、賛成か反対かをその場の人に伝える方式だったといいます。
昔の大統領とかもそうやって決まってて、リンカーンとかジョージ・ワシントンとかって口頭でやられた投票で大統領になったらしいよ。
エマさんは、紀元前500年の陶片のほうが今に近く、1870年のほうがむしろ今から遠いと驚きます。口頭の投票は不正もできそうなうえ、誰が誰に入れたかがわかってしまい、プライバシーへの配慮も一切ありませんでした。
効率も悪いため、1870年頃からいろいろなツールが作られていきます。その1つが、専用のビー玉のような玉を、賛成・反対に分けて箱に入れる方式です。一部の地域で使われたといいます。
レンさんによると、投票を表す英語のバロット ── 英語の ballot。投票用紙や投票そのものを指す言葉ですは、小さいボールを意味するイタリア語の「バロッタ」から来ているそうです。
ただ、玉では作るのが大変なうえ、人の名前を記入できません。そこで投票箱が生まれ、その中に何を入れるかが変わっていき、やがて一番使いやすい紙に落ち着いていきます。
紙と投票箱だけでは不正を防げない
紙の投票にも問題がありました。レンさんは、くしゃくしゃにして捨てれば簡単に1票減らせるなど、紙は不正がしやすいと指摘します。
エマさんは、字が汚いと何を書いたかわからないという問題も挙げます。これに対しレンさんは、候補者を選ぶだけの選挙なら、この時期にはすでにバツ印で投票する方式もあったと説明します。当時のアメリカでは、マルバツ式か、穴あけパンチで紙に穴を開ける方式が使われていたそうです。
同じ紙を用意して箱に入れれば1票増やせてしまうため、投票箱そのものが重要になります。そこで開発されたのが、レンさんいわく「読み方わかんない」というACMボートングマシーン ── 原典の参考文献にある「Acme Voting Machine」を指すとみられます。19世紀末のアメリカで使われた、枚数を数える仕組みを持つ投票箱ですです。
このマシーンは、木箱にレバーと数値を表示する目盛りが付いただけのものでした。投票者は紙を入れるところまでで、集計のときにレバーを回すと、中の紙の枚数を数えながら確認できる仕組みだったといいます。
レバーは、みんなで1枚ずつ数える間に誰かが票を抜くのを防ぎ、総数が合っているかを確認しやすくするためのものでした。しかし、同じ紙を箱に入れてしまえば回したときに1票増えるため、集計自体を狂わせる不正は防げず、発覚するのも事後になります。
これを防ぐのはもう紙と箱じゃ無理だろうって一回なったらしいの。
試着室のようなレバー式投票機の長所と弱点
紙と箱の限界を受けて、1892年にレバー式投票機が作られます。レンさんはこれを、服の試着室のような区切られた空間にたとえます。
レバー式投票機の中には候補者の名前とその隣にレバーが並んだボードがあり、1回だけレバーをガチャっとできます。1回やったら外に出なければならず、連続して押せない仕組みです。
エマさんは「今の投票スタイルより良さそう」と評価します。レンさんも、他の人がガチャガチャできるわけではないので不正はほぼできないと認めます。
レバー式投票機の弱点は、後から確認ができないことでした。機械的なミスがなかったかなど、選挙を監査したり再集計したりしたいとき、紙と違って1回きりの記録しか残りません。
確かに紙だったら二回、三回とか確認できるけどね。
レンさんは、今も紙の投票用紙は後から監査できるよう一定期間の保管が決まっているらしいと話し、投票では記録を残すことも重要だとまとめます。
このため、レバー式投票機は大統領選のような重要な選挙では使いにくいとされ、今でも州や地方の選挙でたまに使われる程度だといいます。
紙への回帰とセンター試験方式の光学スキャナー
1900年代に入ると、アメリカでは「結局やっぱり紙なんじゃない」と再び紙に戻ります。エマさんは「流行り廃りがあるんだ」と受け止めます。
このときの紙の投票は、穴あけパンチで穴を開ける方式でした。コンピューターの技術革新に合わせて、穴が開いている枚数などを機械で一気に数える集計機も生まれ、この方式は今もアメリカの地方選挙で使われているそうです。
そして現在アメリカで一番使われているのが、光学スキャナー方式です。レンさんは、名前の隣の丸を塗りつぶしてスキャンする、自分たちの世代でいうセンター試験 ── 大学入試センター試験。2020年まで実施された共通試験で、マークシートの解答欄を塗りつぶして答える形式でしたのような方式だと説明します。
光学スキャナー方式では、投票所のスキャナーで読み取ってデジタルデータとして記録します。元の紙は監査に備えて保管しているのではないか、とレンさんは推測しています。
ここまでの投票方法の移り変わりを、時代順に整理します。
日本はなぜ名前を書く方式なのか
レンさんは、日本の投票もこの「紙プラスデジタル技術」に近いと見ています。紙に書いたものを機械で読み取ったり枚数を数えたりして、票数を出すという形です。
エマさんは、名前を手書きする日本の方式では、字が汚かったり情報を間違えたりすると無効票になってしまうため、アメリカのような選択式のほうがいいのではと疑問を投げかけます。
レンさんは理由として、候補者の多さを挙げます。エマさんも、都知事選などは候補が多すぎると応じます。四角い枠に書くだけの今の投票用紙なら、どんな選挙でも同じ紙を使えるという利点もあります。
後半でレンさんは、日本でマークシート方式が採られない理由を説明した記事も紹介しています。その内容は次のとおりです。
- 候補者や政党が多いと、投票用紙を大きく変える必要がある
- 用紙を大きくすると、読み取る機械を作り直す必要が出る
- 候補者が確定してから用紙を作ると、スケジュールが厳しい
折っても開く投票用紙「ユポ」
日本の投票用紙には独自の技術があります。日本では開票時に機械に加えて人の手でも1枚ずつ確認しますが、昔は2つ折りで投票する人が多く、開票作業の3分の1ほどが用紙を開く時間に使われていたといいます。
そこで開発されたのが、折っても自然に開く紙です。レンさんによると、ユポ・コーポレーションとムサシという会社が、ポリプロピレンでできたフィルムのような合成紙 ── 木材パルプではなく、プラスチック樹脂を主原料に作られた紙のような素材。水や破れに強いのが特徴です「ユポ」を開発し、それが今の投票用紙になっています。
あれって普通に折れるんだけど、あれ投票した後に箱の中で自然に開いてるらしくて。
エマさんは「今度投票した時にちょっと折ってみよう」と興味を示します。ユポの投票用紙は丈夫で、鉛筆で書いた文字もきちんと残るよう研究されているそうです。
ユポの投票用紙は1986年に初めて知事選で使われ、全国で使われるようになったのは2012年の衆議院選以降だといいます。当初は鉛筆で書きづらいといった問題があり、少しずつ改良されて今の紙に落ち着いたそうです。
特殊なコーティングのため、ペンで書くとインクがにじんで無効票になることもあるといいます。投票所に鉛筆が置いてあるのには、そうした理由があります。
電子投票機DREはなぜ紙に押し戻されたのか
アメリカでは1970年代に、直接記録電子式投票機DREが登場します。レンさんは、レバー式をタッチスクリーンのような電子のボタンにし、記録も電子で残せるようにした「レバー式の進化版」だと説明します。
レバー式投票機。不正はしにくいが、1回きりで後から確認できない
DRE。投票所の機械のボタンで投票し、電子記録として残る
DREはアメリカで少しずつ普及し、一時期は全体の10〜20%ほどになったといいます。しかし最近の大統領選では、むしろ紙に逆戻りしているそうです。
エマさんは理由として、なりすましを挙げます。レンさんはそれも1つの理由と認めたうえで、DREは基本的に現地の機械で押す方式だと説明し、ポイントはインターネットを使う点、つまりハッキングなどのセキュリティ問題だと話します。
エマさんは、ネットにつながないスタンドアロンの機械にすればいいのではと疑問を投げます。レンさんは、集計が難しいのかもしれない、OSに攻撃されたり不正なものを仕込まれたりする可能性があるのかもしれないと推測しつつ、はっきりした答えは出していません。
レンさんは、もう1つの理由として、アメリカでは電子システムに危機感を示す人が多いことを挙げます。トランプ氏が選挙が不正に行われたと主張した際などに、そうした不安が利用されたといいます。
そういうのがあったから、逆に今紙のアナログにちょっと戻ったりしてるらしいの。
障害のある人に本当に使いやすいのかという課題もあり、そこまでするなら紙でいいという派閥もあるそうです。レンさんは、この方法なら大丈夫というセキュリティがまだできていないことが、紙が安心感で選ばれる背景にあると話します。
ネット投票ができる国はわずか
現地でボタンを押すDREよりも、ネット投票はさらに難しいといいます。レンさんによると、現在ネット投票ができる国はエストニア、フランス、スイス、オマーンの4か国ぐらいです。
フランスでは2022年以降に、セキュリティ問題で一時中断されたり、選挙結果が無効になる騒動が起きたりしたといいます。それでも投票率や投票のしやすさを考えるとネット投票を進めたいという思いはあり、試験的に行う国がちょこちょこあるそうです。
身元確認について、レンさんは日本のマイナンバーカードのスマホ登録や顔認証のような方法ではないかと推測します。エマさんが、そっくりな顔マスクを使えば突破できそうだと指摘すると、レンさんも「ルパンが使うようなね」と認めます。
特に投票みたいな、なんか大事なさ、なんかもう民主主義に関わるやつはちゃんとした方がいいよね。
他の国については、紙が一番多いとレンさんは話します。例えばインドは最近、電子のボタンで投票するシステムを活用しています。識字率が70%ぐらいで文字が読めない人もいるため、政党のロゴマークで投票できるそうです。
開票バイトと、電子化のこれから
レンさんは、候補者が確定してからすぐ用紙を用意できる点で、理想的には電子のほうがノータイムでできると話します。エマさんも、ハッキングさえクリアすれば、正確に数えられて人件費も減らせると応じます。
話は選挙の開票バイトに移ります。投票は夜8時頃まで行われ、そこから開票するため、作業は夜遅くまで続きます。エマさんは「絶対私ミスするわ」と言い、レンさんは「一回ぐらいやってみたかった」と話します。2人は、開票バイトの経験があるリスナーに、どんな感じだったか教えてほしいと呼びかけました。
今後についてエマさんは、投票方法は最近でもどんどん変わっていて、電子に抵抗感のない世代が増えれば電子になるかもしれないと見ています。レンさんも、変化はここ100年ぐらいの話で、自分たちが生きている間にも変わると考えています。
エマさんは、ネット投票なら自分のように海外に住む人も投票できると話します。ただ、非居住者の投票権がどうなっているかは2人ともわからず、レンさんは技術だけでなく法的・制度的な改革も必要になるだろうと付け加えます。
台湾やアメリカの政治熱と、日本の投票率
エマさんは大学時代、国際学生寮に住んでいた台湾人の友人たちが、国の選挙のために帰国して投票していたのが印象的だったと話します。今イギリスで一緒に住んでいる台湾人の友人も、政治的な意見が強いそうです。
レンさんも、アメリカに行ったとき、Podcastで政治の話をずっと聞いている人がいるなど、アメリカ人はみんな政治が好きだと感じたといいます。一方のエマさんは、政党マッチングアプリで初めて投票先を考えたと打ち明け、レンさんは投票しないよりは全然いいと応じます。
日本の投票率について、レンさんは今回の衆議院選のデータを紹介します。全体の投票率は55.9%で、若い世代ほど低い傾向でした。
レンさんによると、50代は62%で、40代以降はおおむね50%台以上です。時間がないことも理由かもしれませんが、関心の度合いも関係しているはずだとレンさんは見ています。
エマさんは、若い世代はもともと人数が少ないうえに投票率も低いと、意見が全然反映されないと指摘します。レンさんは、それで諦めるのは違うとして、投票には行ったほうがいいと呼びかけました。
ポッドキャストアワードへの投票のお願い
最後に話は、ポッドキャストアワードに戻ります。レンさんは、投票の練習としてアワードに投票しませんかと呼びかけ、アワードは「最先端のネット投票方式」だと紹介します。
収録時点では投票が始まっておらず詳細は不明ですが、レンさんは1メールアドレスで1票ではないかと予想します。複数のアドレスで投票する不正は防ぎにくいものの、レンさんはそうした行為をはっきり否定しました。
ポッドキャストアワードは、日本でPodcastが表彰される年1回のイベントです。今年は投票数の上位20番組がノミネートされる見込みで、芸能人やYouTuberの番組と競うことになるため、素人のPodcastには相当ハードルが高いといいます。
レンさんが上位に入りたい理由は、ただ有名になりたいからではありません。ノーベル賞を取った研究者でも出たいと思える番組を理想に掲げ、評価されているという信頼の証があればそうした人も呼べるかもしれないと話します。
最終的にはなんかこう、もっと科学が面白いよって思ってくれる人が増えるとか、研究者を応援したいっていう人が増えるとか。
番組は始まって3年半ほど経ちました。投票は12月2日から始まり、期間は1月10日までです。今回は部門の区別がなく、大賞、企画賞、パーソナリティ賞があるのみで、レンさんは「ほんと投票数だけ。マジで選挙」と話していました。
まとめ
投票の方法は、陶片、口頭、玉、紙、レバー、スキャナー、電子と、不正防止・記録・効率のバランスを求めて変わり続けてきました。安全な個人認証が実現すればネット投票がベストではないか、というのがレンさんの見立てです。
- 最初期の投票は紀元前500年頃の古代ギリシャで、嫌な人を追放する反対選挙だった
- レバー式投票機は不正に強いが、後から監査できないことが弱点だった
- アメリカでは電子投票機DREがセキュリティへの不安から紙に押し戻され、現在は光学スキャナー方式が主流
- 日本の投票用紙「ユポ」は、折っても開く合成紙として開票作業の手間を減らした
- 日本の投票率は衆議院選で55.9%で、20代は36.5%と若い世代ほど低い


