ポッドキャスト=本音で語る場所?FUBIスタジオで聞いた炎上時代の制作論
サイエントークのレンさんとエマさんが、コテンラジオ深井龍之介氏らが歴史を語る人気ポッドキャスト。FUBIが編集・制作を担当していることで知られる。や小泉進次郎のポッドキャストなどを手がけるPodcast Studio FUBIポッドキャストの企画・制作・編集を行うスタジオ。代表は西山直也氏。企業番組から政治家の番組まで幅広く制作している。のスタジオを訪問。代表の西山直也さんと、海外のポッドキャスト事情からSNS疲れ、ビデオポッドキャストの波、そして「本音=トゥルース」がなぜ今求められるのかまで、制作のプロならではの視点で語り合った回です。その内容をまとめます。
小泉進次郎のポッドキャスト裏話
西山さんはもともとFUBIでコテンラジオの編集など企業ポッドキャストの制作を多数手がけていました。そこに「小泉進次郎のポッドキャストを作りたい」という話が先方から舞い込み、制作がスタート。西山さん自身が出演側(MCの聞き手)として番組に加わったのは、このときが初めてだったそうです。
もう完全に進次郎さん心開いてるじゃないですか
防衛大臣なのに一番ガードしてほしいんだけど、ノーガードすぎて
西山さんいわく、小泉進次郎氏は「相手を緊張させない力」が抜群で、裏でも番組と同じ雰囲気のまま。悪口を引き出そうとしても「ちみりも出てこない」とのこと。お便りへの丁寧な返答も含め、ポッドキャスト向きの人柄がうかがえます。
アムステルダムのインターンと海外ポッドキャストとの出会い
西山さんのポッドキャスト原体験は、大学時代のアムステルダム留学にさかのぼります。九州大学 芸術工学部デザインや映像、音響などを扱う学部。アムステルダム応用科学大学との産学連携インターンの枠があった。から半年間のインターンに参加し、イスラエル人・オランダ人・エジプト人との5人チームでソフトウェア開発に取り組みました。
英語もデザインもまだ未熟だった西山さんは、「ただの踊れる陽気な日本人」としてコミュ力で生き延びたと笑いますが、この時期に英語圏のポッドキャストに触れたことが転機になります。
英語圏のポッドキャスト聞いてみたらむちゃくちゃクオリティ高くて。ドキュメンタリーもあるし、ドラマもあるし。片や日本はTOEICかグロービスみたいなしかなくて
帰国後、この体験をもとにFUBIで最初にヒットさせたのが「忌み怖」「意味がわかると怖い話」をベースにした音声ホラードラマ。脚本家が書き下ろし、音声俳優が演じるフルプロダクション作品。更新停止後も月3万回再生されている。という音声ホラードラマでした。脚本・音声俳優・サウンドデザインをゼロから作り込んだ本格的な作品で、更新停止後もいまだに月3万回聴かれているそうです。
ビデオポッドキャストの波と「定義のズレ」
「ポッドキャストは来る」と毎年言われ続けてきた中で、西山さんは「確かに来ているが、日本とグローバルでは"ポッドキャスト"が意味するものが違う」と指摘します。
音声のネットラジオ。ながら聴きが前提。切り抜き動画は「ポッドキャストの一部」とは見なされにくい
トーク番組全般。映像ありなし問わず、切り抜きもポッドキャストの一部。「ポッドキャスト見てるよ」が成立する
海外ではビデオポッドキャスト映像付きで配信されるポッドキャスト。YouTubeやSpotifyのビデオ機能で視聴される。英語圏では主流になりつつある。が主流化しており、Spotify・Apple・YouTubeどのプラットフォームで視聴しても「ポッドキャスト」と呼ばれます。一方、日本ではまだ「音声=ポッドキャスト」というイメージが根強いため、「ポッドキャスト来る!」という言説を鵜呑みにすると、実態とズレが生じるかもしれないと西山さんは警鐘を鳴らします。
実際、小泉進次郎のポッドキャストを長崎の親族がYouTubeのテレビリモコンボタンから視聴しているという話も紹介されました。SpotifyやApple Podcastを知らなくても、YouTubeを経由してポッドキャストに触れる層が確実に広がっているようです。
SNS疲れのカウンターとしてのポッドキャスト
コロナ禍を境に、ポッドキャストの立ち位置が変わったと西山さんは語ります。かつては「ながら聴き最適化された会話型コンテンツ」だったものが、今ではマスメディアのカウンターとしての役割を担い始めているとのこと。
アメリカではフェイクニュース問題やメディア不信が深刻化する中で、「ポッドキャストでは本当の話が聞ける」という信頼感が支持されています。日本でも「オールドメディア」という言葉が広がっているように、同じ構造が見え始めています。
ブレイキングダウン的なコンテンツが増えれば増えるほど、ポッドキャストのカウンターとしての価値がどんどん高まる
SNS上の喧嘩コンテンツや炎上商法に疲れた人々が、ポッドキャストに流れてくるという流れは実際に起きているそうです。レンさんも「怒りが一番人の興味を引く」という研究結果に触れつつ、「その対極が求められている」と共感していました。
「トゥルース」と「ナチュラルボディ」──本音が価値になる時代
西山さんが各所で提唱しているキーワードが「トゥルース」。建前がSNSに溢れすぎた結果、「本当はみんなこう思ってるんじゃない?」という本音を語れる場としてポッドキャストの価値が高まっている、という考え方です。
制作の現場でもこの思想は徹底されています。台本はできるだけライトに、スタジオもリビングのようにリラックスできる空間にすることで、ゲストの「素」を引き出す工夫をしているとのこと。
アナウンサーの方にやってもらうとむちゃくちゃむずくて。情報を伝える技術が高すぎて、トゥルースがどんどん削がれていく
この話を受けて、レンさんが提唱したのが「ナチュラルボディ(NB)」という概念です。AIが「Artificial Intelligence(人工知能)」なら、その対極は「Natural Body(自然体)」だというもの。AIによる効率化やアルゴリズム最適化が進むほど、逆に人間の自然体なコンテンツへの需要が高まるのではないか──西山さんの「トゥルース」と根っこは同じ発想です。
SNSの喧嘩・炎上コンテンツ、アルゴリズム最適化で画一化された動画、AI生成コンテンツの氾濫
本音のトーク(トゥルース)、自然体の発信(ナチュラルボディ)、アルゴリズムに左右されないポッドキャスト
レンさん自身も、サイエンスの解説回より「プロポーズ前に一人で喋った回」の方が繰り返し反響をもらうと語っており、「準備しすぎない"パッと撮った"コンテンツ」にトゥルースが宿る実感があるようです。
長尺収録と「反対意見」のすすめ
個人ポッドキャスターへの具体的なアドバイスとして、西山さんが挙げたのは「長尺」と「反対意見」の2つでした。
ゲスト回は3時間が効く
FUBIで制作している「連説ラジオFUBIが制作するビジネス系ポッドキャスト。経営者をゲストに招き、3時間トークするスタイル。」では、経営者を呼んで3時間トークするスタイルを採用しています。1〜2時間だと「鉄板トーク」で終わってしまうところ、3時間目に入ると取り繕えなくなり、本音が出てくるとのこと。
三時間、二時間目ぐらいからもうなんか今思ってる本当の話が出てくる。一時間だと綺麗な話して終わっちゃう
固定メンバーなら「反対意見」を意識する
レギュラー回については、「確かに」「なるほど」で同調しすぎず、「ほんまか?」「それって本当?」と疑問を投げかけることが大事だと語ります。
西山さんが好きだというイギリスのポッドキャスト会社ゴールハンガー(Goalhanger)イギリスのポッドキャスト制作会社。歴史や政治をテーマにした番組で知られ、意見の異なるMC2人を組ませるスタイルが特徴。「The Rest Is History」「The Rest Is Politics」などが人気。では、あえて反対意見を持つMC2人を組ませるスタイルが成功しています。「The Rest Is Scienceゴールハンガーが制作するサイエンス系ポッドキャスト。「WE DISAGREE AGREEABILITY(ただの同調には賛同しない)」をコンセプトに掲げている。」という科学番組も、「ただの同調には賛同しない」をコンセプトにして人気を伸ばしているそうです。
レンさんは「研究者こそポッドキャスト向き」と語ります。科学の世界ではピアレビュー論文が出版される前に、同分野の研究者が内容を審査する制度。誤りや不備を指摘し合うことで科学の信頼性を担保する仕組み。のプロセスで反対意見を出し合うことに慣れているため、建設的な議論がしやすいのではないか、というわけです。
顔出しなしでもできる実写ビデオポッドキャスト
エマさんの「顔出ししていないんですが、ビデオポッドキャストやるべきですか?」という質問に対し、西山さんの答えは「絶対やった方がいい」。ただし、VTuberのようなキャラクター化はポッドキャストの「トゥルース感」と相性が悪いとも。
そこで出てきたのが「パペット作戦」です。自分の顔は映さず、隣にぬいぐるみやパペットを置いて、それを映す。人間が同じ空間にいることは伝わるが、顔は出さない──嘘ではなく、ギャグとして成立するラインを狙う発想です。
嘘を本当として出すと萎えるんで。ぬいぐるみがいることは本当というか、嘘ではないというか
パペットでむちゃくちゃ科学の話してたら「なんだこいつら」ってなる。俺らが顔出して喋るより面白いかもしれない
重要なのは「実写であること」。アニメやCGのアバターではなく、物理的にそこに存在するパペットを映すことで、トゥルース感を保ちつつ顔出しを回避できるという考え方です。さらに、この映像フォーマットはInstagramの切り抜き動画との相性も良く、「変だけど面白い」というフックになりうると西山さんは太鼓判を押していました。
まとめ
FUBIスタジオでの対話は、ポッドキャストという「本音を語れる場」の可能性を改めて実感する内容でした。SNSのアルゴリズムに疲れ、AIによる効率化が進む時代だからこそ、人間の自然体──トゥルースやナチュラルボディ──が際立つ。そしてそれを最も引き出しやすいのが、会話型の長尺コンテンツであるポッドキャストだという見立ては、制作のプロらしい説得力がありました。
レンさんとエマさんも、パペットを使った実写ビデオポッドキャストやInstagramでの発信など、具体的なヒントを持ち帰ったようです。「ポッドキャスト業界みんなで頑張ろう」という空気感も含めて、この回はポッドキャスターにとって背中を押される内容になっているのではないでしょうか。
- 小泉進次郎のポッドキャストは先方からの依頼で実現。「ノーガード」な人柄がポッドキャスト向き
- 海外では「ポッドキャスト=トーク番組」であり映像の有無は問わない。日本の「音声=ポッドキャスト」という定義とはズレがある
- SNSの炎上・喧嘩コンテンツ疲れがポッドキャストの追い風に。「マスメディアのカウンター」としての役割が大きくなっている
- 西山さんのキーワード「トゥルース(本音)」とレンさんの「ナチュラルボディ(自然体)」は同じ方向を指している
- ゲスト回は3時間の長尺が効果的。固定メンバーなら「反対意見」を意識して建設的な議論を
- 顔出しなしでもパペット+実写でビデオポッドキャストは可能。Instagramの切り抜き動画で新規リーチを狙う

