世界初のカラー写真に関わった物理学者とは?
レンさんは冒頭、エマさんに「世界で初めて撮影されたカラー写真はいつか」とクイズを出します。エマさんは1900年ぐらいと予想しましたが、答えは1861年でした。
え、早っ。
レンさんによると、写真そのものが生まれたのは1826年か1827年です。最初の白黒写真はアスファルトを塗った金属板に光を当てて固める方式で、撮影に8時間から数日かかったといいます。
現存する世界最古の写真として「窓からの眺め」があり、カラー写真では1861年の「タータンチェックのリボン」が知られています。撮影はイギリス、スコットランドの写真家トーマス・サットンによるものです。
このカラー写真の撮影をアドバイスしたのが、物理学者のジェームズ・クラーク・マクスウェルでした。赤・青・緑の3色フィルターを通して白黒写真を3枚撮り、重ね合わせるとカラーになるという方法です。
レンさんはこの手法をアディティブカラープロセス ── 光の三原色を足し合わせて色を再現する方式。絵の具のように混ぜるほど暗くなるのではなく、光を重ねるほど明るくなるのが特徴ですと紹介します。エマさんは「絵の具なら足すほど黒くなるのに」と首をかしげつつ、色の成分を分けて撮る仕組みに納得していました。
実験の天才ファラデーと、数式の天才マクスウェル
エマさんはマクスウェルの名前を「マクスウェル方程式」として覚えていました。レンさんは、この回のテーマがまさにそのマクスウェル方程式だと明かします。ただし、方程式の中身をポッドキャストで伝えるのは不可能なので、「ほんとざっくりわかるマクスウェル」として進めると前置きしています。
前回までの番組では、電気が粒っぽいことや、ファラデーの実験が話題になっていました。レンさんによれば、その段階では実験事実があるだけで、まだ理論がなかったといいます。
マクスウェルは1831年生まれ、1879年まで生きたスコットランドの理論物理学者です。レンさんは、ファラデーとマクスウェルの違いを対照的に説明します。
数学はそれほど強くないが、直感的に実験をうまくいかせるのが得意な実験家
数学の才能に恵まれ、数式でいろんなものを記述する完全な理論家タイプ
それ(実験事実)はどういう式で組み合わさってるのかっていうパズルを解く人はまだいなかったみたいな感じだね。
マクスウェルが取り組んだのは、ファラデーが唱えた「場」の概念、つまり電場と磁場をどうにか数式で表現することでした。
電気と磁力を4つの式に詰め込むとは?
レンさんによると、マクスウェルは当時わかっていた大量の実験データをうまく説明する式を考え、それを4つにまとめました。電気も磁力も同じような式で記述できる点が画期的だったといいます。
正確には4つの連立偏微分方程式 ── 複数の方程式を組にして同時に満たす解を求め、しかも複数の変数のうち1つに注目した変化(偏微分)を含む方程式。電場や磁場が場所と時間でどう変わるかを表すのに使われますです。エマさんは大学でやった気がするけれど忘れたと笑い、レンさんも今回は細部に入らないと話しています。
電力とか磁力とかって予測できないもんだと思ってたんだけど、この4つの式がルールブックみたいなもんで。
マクスウェル方程式に沿えば、どれだけ電気を流すとどれだけ磁場が出るかといった計算ができるようになりました。エマさんが「それが正しいとどう証明されるのか」と尋ねると、レンさんは、すでにあった電気だけの式なども組み合わせていると答えます。
レンさんは、ニュートンがボールを投げる動きと惑星の運動を同じ式で記述したことになぞらえ、マクスウェルの仕事をその電気・磁力バージョンだと説明しました。実験事実と一致することが確かめられたのは後の時代の検証によるもので、できた当時は「これはすごいぞ」という受け止めだったといいます。
電場と磁場はどんなルールで動くのか
レンさんは4つの式を、言葉で表した4つの法則としてざっくり紹介します。登場人物は電場と磁場です。
電場はプラスの電荷から泉のように湧き出し、マイナスの電荷に吸い込まれる力の矢印のイメージです。磁場はN極から出てS極に戻る力の矢印です。
第1の法則は、電場には発生源があるというものです。プラスから四方八方に電場が出て、マイナスがその吸い込み口になり、何もない場所から電場がいきなり出てくることはありません。
第2の法則は、磁場には発生源がないというものです。レンさんは棒磁石を例に、半分に割ってもNだけの磁石にはならず、どれだけ分割してもSとNは必ずペアになると説明します。
どんなに分割しても絶対SとNはペアなのよ。っていう意味ではループ状になってると。
エマさんは、電子の周りの空間にも電場があるのかと質問します。レンさんは、電子という粒の周りにオーラのような影響を及ぼすフィールドがあり、そこに入った別の電荷が引き付けられるというイメージで正しいと答えました。電場は英語でエレクトリックフィールドだからです。
第3の法則は、磁石を動かすと電気が生まれるというものです。時間とともに変化する磁場は電場の渦を発生させ、その流れが電流になります。前回扱った電磁誘導 ── 磁場が変化すると、近くの導線などに電流が流れる現象。ファラデーが発見し、発電機の原理になっていますを説明する式です。
第4の法則はその逆で、電流を変化させて電場を変えると、磁場の渦が発生します。
| 法則 | 内容 | イメージ |
|---|---|---|
| 第1 | 電場には発生源がある | プラスから湧き出しマイナスに吸い込まれる |
| 第2 | 磁場には発生源がない | NとSは必ずペアでループになる |
| 第3 | 変化する磁場が電場の渦を生む | 電磁誘導で電流が流れる |
| 第4 | 変化する電場が磁場の渦を生む | 第3の法則の逆向き |
磁場と電場の連鎖が「波」になる理由
レンさんは、第3と第4の法則を並べて「磁場が変化すると電場が動き、電場が動くと磁場が動く」とエマさんに考えさせます。エマさんの答えは「永遠につながってるみたい」でした。
ただ、実際には永久機関のように無限に連鎖するわけではありません。レンさんによると、電場の変化が磁場の渦を生み、それに反応して隣に電場の渦が生まれ、グルングルンと空間を伝わっていきます。
グルングルンなって空間を伝わってくのって波なんすよ。これちょっと伝わるかな。これ電磁波の正体なんですけど。
電場が変化する
変化する電場が磁場の渦を生む
磁場の渦が生まれる
その変化が隣に電場の渦を生む
連鎖が空間を伝わる
電気と磁力が互いに火をつけ合って進む
エネルギーが放出される
少しずつ放出されるので無限には続かない
エマさんは、電場と磁場の連鎖として伝わるのが電磁波で、少しずつエネルギーが減っていくから永遠には続かない、と自分の言葉でまとめました。レンさんは、エネルギーを供給し続ければ発生し続けるかもしれないと補足しています。
電磁波は目に見えないため、この時点ではマクスウェルの「予言」でした。電気と磁場だけでは連鎖が続いてしまうのに、波が放出されていると考えればつじつまが合う、というのがレンさんの説明です。
エマさんが「波だとまで言えるのがすごい」と言うと、レンさんは水たまりに一滴落ちて波紋が広がる様子を例に挙げます。電場と磁場は縦と横のように垂直な関係にあり、その影響が繰り返されることで波になるといいます。
秒速30万キロの計算が示した光の正体
マクスウェルは、予言した電磁波の理論上の速度を計算しました。結果は毎秒およそ30万キロメートルで、後にこれが正しいとわかります。
天才じゃん、マクスウェル。
レンさんに「その速さはどれぐらいか」と問われたエマさんは、逆に光の速さを尋ねます。当時知られていた光の速さも毎秒約30万キロメートルで、両者はぴったり一致していました。
それまで、電気や磁気が光とそれほど関係があるとは思われていなかったそうです。計算結果が光の速さと一致したことで、電磁波は光なのではないか、という発想が生まれました。
これさ、なんか世界の秘密を知ってしまった感ない?
なんか教科書とかでそういうもんでしょって習ってたら、あ、そうなんだってなるけどさ。なんか全貌がわからないところから来てるわけじゃん。
エマさんは、ファラデーから引き継がれてきた流れを聞いたうえで、知を感じたと話しています。
レンさんによると、太陽の光も、電気がパチッと光るときの光も、すべて電気と磁力の振動が伝わる波だということになります。
Wi-FiもX線も光の仲間?
レンさんは、電磁波は光だけではないと続けます。スマホの電波、電子レンジ、レントゲンのX線、そしてエマさんが挙げたWi-Fiも、すべて電磁波の一種です。
エマさんが「電磁波という大きなカテゴリーの中に光や電子レンジやX線があるのか」と確認すると、レンさんは、違いは波長だと答えます。見えるか見えないかで、紫外線やX線などに分かれるといいます。
さらにレンさんは、真空中ではWi-Fiも電子レンジも可視光もX線も、速さはすべて同じだと説明します。違うのは波長と振動数です。
波の速さは通るものによって決まり、「波の速さ=振動数×波長」の関係があります。光の速さで言えば、30万キロメートル毎秒は真空中の値で、水中では0.75倍、ガラスでは0.67倍ほどになり、通るものの性質にだけ依存しているとレンさんは話しています。
レンさんは、光速が一番速いという理論に基づいて今の物理学が進められていて、この先アインシュタインが登場すると予告しました。
「速さ=振動数×波長」を自転車で考える
エマさんは、今回の話はこれまでに比べて難しく、電磁誘導や「波の速さ=波長×振動数」もだいぶ忘れていて腑に落ちていないと率直に話します。
レンさんは、言葉だけでの説明だからかもしれないとしつつ、概念が伝わればいいと考えています。指を横に動かしながら縦にも動かすと軌跡が波になるように、縦と横の動きが同時に起きて波になり、エネルギーとして放出されるイメージだけでよいといいます。
今回は大事なのは電気と磁力と、あと光ですね。この3つが同じような数式で説明できますよっていう、そこだけまず分かってればOKというか。
それでもエマさんがもう一度知りたいと挙げた「速さ=振動数×波長」について、レンさんは波の定義から説明します。波とは、周期的に何かが変化しながら空間を伝わるものです。同じ動きを繰り返す頻度が振動数、1回の振動で進む距離が波長です。
例えば1秒に10回振動し、1回で2メートル進む波なら、10×2で1秒に20メートル進みます。エマさんはこの説明で「理解した」と答えました。
レンさんはさらに自転車にたとえます。エマさんは、1秒あたりのペダルの回転数が振動数、1回漕いで進む距離が波長にあたると整理しました。
波長が大きいのは車輪が大きいようなもので、1回で進む距離が増える分、速さが一定なら漕ぐ回数、つまり振動数は減ります。エマさんは、Wi-FiもX線も光も同じ速さで進み、ペダルの回数と車輪の大きさが違うだけで、全部電磁波なのだと納得していました。
レンさんは、その波長の違いによって物を温めたり情報を伝えたりと、いろいろな使い方ができると話します。ただし当時はそこまで使えるとは思っていなかっただろう、とも添えています。
光の速さが一定なのはなぜ?相対性理論への入り口
エマさんは、光以外のX線なども速さが同じなのが謎だと疑問を口にします。レンさんは、光の速度が一定であることはマクスウェル方程式で定義されていて、全部光の仲間だからだと答えました。
レンさんによると、これはまさに相対性理論の話です。マクスウェル自身はそこまで言っていませんが、後にアインシュタインが「どんな観測者から見ても光の速度は秒速30万キロメートルで一定」と示しました。
電車に乗っている人から見ても、外から電車を見ている人から見ても光の速度は同じ、という話は、アインシュタインが登場する回に改めて扱うことになりました。
ちょっと波伝わったかな?波だけに。
いや、一瞬わかんなかった。
原子は最小単位ではなかった?
レンさんは、マクスウェルが光の正体を示したことがなぜ重要なのかを説明します。光や電磁波は空間を伝わり、その空間も空気のように原子で満たされています。
波が伝わるなら、原子の中に波を伝える何か、振動する何かがなければいけません。しかし、ドルトンが言ったような「それ以上分割できない粒」という原子観では、粒そのものが振動するのかという疑問が出てきます。
原子はそれ以上分割できない粒(ドルトンの考え方)
原子の中に、光を吸収・放出したり波を伝えたりする何かがあるのではないか
だから原子は最小単位じゃなかったんだよ、多分。ってなる。
エマさんは、電場と磁場の話から光へ進み、そこから原子の性質へと広がる過程が面白いと話します。レンさんは、電気の粒の話も原子の中に電気を伝えるものがあるのかという問いにつながり、全部がつながってくると応じました。ただし、この時点では理論はできたものの、まだ実態はわからない段階だといいます。
アインシュタインが肖像を飾った3人
メインの話を終えたレンさんは、マクスウェルの人物像に触れます。カラー写真の撮影に関わるなどしながら研究を続けましたが、48歳の若さで亡くなっています。亡くなる6年前に出した電気と磁気に関する論文は、電磁気学のバイブルと呼ばれているそうです。
エマさんが、それがなかったら相対性理論もなかったのかもと話すと、レンさんは、アインシュタイン自身もマクスウェルの式があったからこそできたと語っていると紹介します。
アインシュタインって壁にファラデーとニュートンとマクスウェルの肖像を貼ってたらしい。
エマさんは、今の研究者はその3人にアインシュタインを加えた肖像を掲げていそうだと想像し、そうした人がまた先人の研究をもとに発表をして、いつか貼られる側になる、それが科学の進歩なのだと話しました。
レンさんによると、ニュートンはアインシュタインから見ても100年以上前の人ですが、ここからは有名な研究者が同世代で議論しながら進むフェーズに入ります。ニュートン、ファラデー、マクスウェルは全員イギリス人だと聞いて、エマさんは「イギリス偉大だわ」と喜んでいました。
一方、アインシュタインはユダヤ系のドイツ人で、ナチスの台頭で逃れてアメリカに亡命し、アメリカ国籍を取得しました。エマさんが映画『オッペンハイマー』に出てきたと思い出すと、レンさんは、この先はボーアやハイゼンベルクなど、あの映画に出てくる人物が次々登場すると予告します。
エマさんは原爆を通じて今の自分たちの生活にもつながっていると感じた様子でした。それに対しレンさんは、この話題は原爆に行きがちだが、サイエントークとしては社会へのインパクトも紹介しつつ、根底にある科学の話にフォーカスしたいと話しています。
キャベンディッシュ研究所と次回への橋渡し
もう一つのつながりとして、レンさんは1874年に設立されたキャベンディッシュ研究所 ── イギリスのケンブリッジ大学にある物理学の研究所。電子の発見をはじめ、原子物理学の多くの重要な成果を生んだことで知られますを挙げます。名前の由来は、自分に電気を流すなどの実験をしたヘンリー・キャベンディッシュで、番組でもたびたび登場している人物です。
この研究所の初代所長がマクスウェルでした。マクスウェルはケンブリッジ大学の実験物理学の初代教授でもあり、研究所はこれからの原子の話の舞台にもなっていくといいます。
レンさんは今回を、マクスウェル方程式から光の正体へ、そして原子は最小単位ではないかもしれないというところへつながる回だったと振り返ります。次回は、そこに実験で切り込む人物が登場する予定です。
声だけでさ、数式読み上げても。まずこの式のこの記号を何て読むん?みたいなやつがめっちゃ多分調べたら出てくると思うんですけど。
音声だけでは伝えきれない部分があるからこそ、レンさんはこの回がリスナーが自分で調べるきっかけになればいいと締めくくりました。
まとめ
今回のサイエントークは、ファラデーらの実験事実を4つの式にまとめたマクスウェルが、電磁波を予言し、その速さが光速と一致したことから光の正体にたどり着くまでを追いました。その発見は原子の中身への疑問や、アインシュタインの相対性理論にもつながっていきます。
- マクスウェルは電場と磁場のふるまいを4つの式にまとめ、電気と磁力を同じような式で記述できることを示した
- 変化する磁場と電場が互いに渦を生む連鎖が空間を伝わる波、それが電磁波だと予言された
- 計算した電磁波の速さが光速の毎秒約30万キロメートルと一致し、光は電磁波の一種だと結論づけられた
- Wi-Fi、電子レンジ、X線、可視光は波長と振動数が違うだけで、真空中の速さは同じ
- 波を伝える何かが原子の中にあるのではという発想が、原子は最小単位ではないかもしれないという次の謎につながる



