「べき」が強いと、家の中でも対立が起きる?
第3回の冒頭で、中里さんは前回のテーマ「学校に行かせるべきか」を振り返ります。学校に行くべきかどうかは育児本にも出てくる定番の問いで、今もインターネット上などで大人同士の言い争いが起きているのではないか、と話します。
桜林さんは、学校の問題は一言でいえば「人による」としたうえで、べきが強いと対立が生まれやすいと指摘します。
正義が強いと敵ができるじゃないですか。
自然とね、自分の考えと違うものは敵になっちゃったりして、ついやっつけようと意見を戦わせてしまうみたいなことはまあ見かけますね。
桜林さんによれば、親が「こうすべき」と考えることと子どもの「こうしたい」がぶつかる構図は、家庭の中でも起こります。その具体例として中里さんが挙げたのが、今の子どもにとって身近なゲームでした。
子どもはゲームをもっとやりたい一方で、親は勉強や習い事などスキルアップにつながる時間を優先してほしいと考えがちです。中里さんは、この対立は日本中どころか世界中の家庭で起きているのではないかと話します。
桜林さんは、どこまで許容していいのか、どこまで厳しくしていいのかもわからないと、親の迷いに共感します。そのうえで、親自身が「なぜゲームはダメなのか」を考えたことは少ないのではないかと問いかけます。
なんとなくそういうものだ。やった方がいい。勉強はやった方がいい。ゲームはあんまりやると良くないっていう思い込みはきっとあるよね。
ゲームが好きすぎる娘は、子どもの頃どうしていた?
この回のテーマにつながるお便りとして、桜林さんがリスナーからの相談を読み上げます。
うちの子供は毎日ゲームばかりしていて、注意するとケンカになってしまいます。ゲームが悪いことではないと頭では分かっているのですが、このままゲームばかりさせていると将来が不安で仕方ありません。親としてちゃんとゲーム時間を管理しなきゃというプレッシャーがすごく強くて、どうすればいいのかわかりません。どうすればこの呪いから解放されるんでしょうか。
中里さんは、このお便りには「あるある」が詰まっていて映画が1本撮れるほどだと受け止めます。桜林さんも、全国どころか全世界で起きている悩みだと応じます。
桜林さんの子どもは現在22歳で、ゲームでお小遣いを稼ぐほどのゲーマーだそうです。課金をするタイプではなく、好きすぎてかなりの時間を費やしているといいます。
ただし桜林さんの娘さんは、子どもの頃に親から「やめなさい」と言われないと延々と続けるタイプではありませんでした。桜林さんはその理由を、娘さんが「ビビリ」だったからだと話します。
だから自分で勝手になんか今日は何時までやるねとかって勝手にやって、私やめろって言ってないよみたいな。
なんか自分がゲームをやりすぎちゃうんじゃないかって自分で気にしてたから。
娘さんは一人暮らしを始めてから思い切りゲームをするようになりました。それでも、必要なことをやったうえで他のこととのバランスを取れるようになり、ゲームだけの生活にはなっていないといいます。
桜林さんは、勉強やゲームについて口うるさく言わなかった代わりに、「自分の言動は自分で責任を取れ」という意味ではとても厳しかったと振り返ります。娘さんがビビっていたのはそのためかもしれない、と話します。
一方で桜林さんは、娘さんが甘えられなかったのかもしれないとも語ります。親に「まだいいじゃん」と甘えたり、こっそりゲームをしたりするほうが、ある意味では健全な気もすると話しています。
ゲームは悪なのか、それとも中身次第なのか
中里さんは、Branchで子どもたちと一緒にゲームをしていることもあり、もともと「ゲーム=悪」という感覚がほとんどないといいます。その背景として、自分の息子のコロナ禍でのエピソードを紹介します。
中里さんの息子は、ゲームを通じてDiscord ── ゲーム仲間などがテキスト・音声で交流できるコミュニケーションアプリ。「サーバー」と呼ばれる部屋単位でコミュニティを作れますのサーバーに50個ほど参加し、自分で作ったサーバーの運営もしていました。外出しにくいコロナ禍に、そこで友達作りをしていたそうです。
こいつすごいな。
中里さんは、Branchの子どもたちを観察していても、ゲームやゲームに付随するオンラインコミュニケーションに「面白い」「ユニークだ」と感じる経験が多いと話します。
桜林さんは、悪い印象を持たれやすいのはスマホゲームのガチャや課金、考えることをやめて時間だけが溶けていくタイプのゲームではないかと応じます。心配なのはゲームそのものより、「本当にそれでいいの?」という中身の部分かもしれないといいます。
桜林さんは、同じゲームでも中身はピンキリだと指摘します。その違いを整理すると、次のようになります。
[[マインクラフト::ブロックを組み合わせて建物や世界を自由に作れるゲーム。創造性を育てる遊びとして教育現場でも使われています]]のように、考えたり発想したり手を動かしたりする
考えることをやめて、ただ時間だけが過ぎていく
中里さんは、Branchでは子どもと遊んだあとに「好きなこと発見シート」を親に渡していると紹介します。シートには、どんなことで遊んだか、子どもにどんな特性があるかを毎回書いているそうです。
親が子どもと同じゲームをしていることは、少なくとも最初はあまりないといいます。そのためシートを渡すと、「うちの子ってそんなこと考えてたんですね」という反応が返ってくることがあるそうです。
中里さんによれば、単純なゲームでも、子どもがキャラクターの可愛さやかっこよさに惹かれている場合があります。一緒に遊んでみると、ゲームの単純さや複雑さとは別の視点が見えてくることもあると話します。
一人用ゲームとオンラインゲームは何が違う?
桜林さんは、娘さんが子どもの頃にあまりゲームをしなかった理由として、ビビリだったことに加え、当時のゲームが一人で遊ぶものだったことを挙げます。大人になってからは、友達と喋りながら遊んだり助け合ったりするゲームが好きになったそうです。
桜林さんの娘さんは、ゲームのキャラクターの絵を描いて仲間に喜んでもらうこともあるといいます。桜林さんは、娘さんにとってのゲームの楽しさには人との関わりが含まれていると話します。
ゲーム好きの中にそれを分解すると、ゲームの何が好きなのかは結構違うよね。
中里さんはこの話をとても大事だと受け止めます。親世代が子どもの頃のゲームは一人用が中心で、オンラインゲームという存在自体がなかったと指摘します。
親世代や約20年前の子どもが遊んでいた中心的な形
仲間との会話や助け合いなど、オンラインコミュニケーションが付随する
中里さんは、オンラインコミュニケーションは今後増えることはあっても減ることはないだろうと話します。Branchでオンラインコミュニティを作ってから、子どもたちがオフラインとオンラインでコミュニケーションを使い分けていることに気づいたそうです。
オンラインでは丁寧なテキストを書いたり、繊細な絵文字のやり取りをしたりする子がいるといいます。繊細な子は顔を出さない、他の子の声を切ってその場にいるだけにするなど、自分にとって楽な状態を調整できるそうです。
このオンラインのコミュニケーション力っていうのは、今後全くなくなるってことはまずないので、知っといて損はないんじゃないかなっていうのも一意見としてちょっと思います。
桜林さんは、オンラインだと明るくなる「オンライン弁慶」もいると応じます。子どもがゲームをする目的は、ゲームそのものではなく、人とコミュニケーションを取ったり喜んでもらったりすることかもしれないと話します。
ゲーム中毒になる子は本当に多いのか?
中里さんは、番組として「これが答えだ」とは言いたくないとしたうえで、自分が覚えている範囲の事例を2つ紹介します。
1つ目は、オーストラリアなどで16歳以下くらいの子どもがSNSを使えなくなるといった、年少者のオンラインコミュニケーションを制限する流れです。
2つ目は、中里さんが聴いた伊藤丈一さんのポッドキャストで紹介されていた話です。そこではゲームやオンラインコミュニティ、YouTubeなど、画面を見ている時間全般をスクリーンタイム ── スマートフォンやパソコン、ゲーム機などの画面を見て過ごす時間のこと。子どもの健康や発達との関係がよく議論されますとして扱っていました。
中里さんによると、その話では、ゲーム中毒になってやめられなくなる人はごく一部だとされていました。親から見て危険なほど遊んでいても、多くの子どもは自分で制限したり、親とルールを決めたり、他の興味に移ったりして、中毒にはならないそうです。
その数パーセントの子のためだけに思考がそっちに行っちゃっていいのかっていうと、ちょっと違うよねっていう。
桜林さんは、心配はするけれど実際に起こることは少ない、ということだと整理します。中里さんは、制限に動く国がある一方で、中毒はほとんど起きないのになぜそこばかり考えるのかという研究結果もある、と両方を示しています。
ルールは「子どもが守れるもの」にする
桜林さんは、小学生が睡眠時間や宿題、食事を削ってまでゲームをするようになれば、確かに心配だと話します。「やるべきことをやってから」「寝る時間は守る」といった点は、親が譲らなくていいと考えています。
さらに桜林さんは、ゲームを優先順位の付け方を練習するチャンスと捉えます。寝る時間から逆算して、ゲームの開始時間やお風呂を終える時間を子ども自身が組み立てるという考え方です。
そこで自分との約束を守るというか、自分で決めた親との約束っていうより、自分との約束を守る練習になるといいですね。
中里さんは、ルールはあっていいとしたうえで、「子どもが守れるルールにする」ことがある意味で鉄則だと話します。親が対立の中で厳しいルールを押し付けると、子どもは守れずに自己肯定感を下げてしまうからです。
厳しいルールを押し付ける
親子の対立の中で、親が守れないほど厳しいルールを決める
守れない
結果として、子どもはルールを守れなくなる
自己肯定感が下がる
「自分は約束を守れない人間なんだ」と思うようになる
中里さんは、ルールは話し合って決めることが大事で、話し合い自体も大切なコミュニケーションになると話します。そのうえで、「守れたね、すごいね」と声をかけられる方向に持っていくほうがよいと考えています。
親が決めすぎると「自分で決める力」はくじかれる?
桜林さんは、「お母さんがダメって言ったから」と子どもに言われるのがとても苦手だったため、娘さんに「自分で決めろ」と言っていたと振り返ります。親の責任を放棄していたかもしれない、やりすぎたかもしれないとも話します。
それでも桜林さんは、自分で決めたことを自分でできるようになると、子どもの自信になると考えています。「7割方できる、できない時もあるけど」と思える経験が、長い目で見ると良かったと話します。
親がそれこそこうあるべきだからこうしなさいってするのはあんまりいいことが起こらなそうだよね。
中里さんは、学びの中で最も大事なのは自己決定力、つまり自分で判断して決める力だと話します。学校で指示されることや、親に一方的にルールを決められることは、自己決定力をくじいてしまうといいます。
中里さんは、自分の人生を自己決定できていると思える人は幸福度が高い、という日本の大学の研究結果があると紹介します。ゲームのルール決めは些細な話でも、自分で決めて自分で守る練習になると考えています。
桜林さん自身は「挫けた側」だったといいます。大人に言ってもどうせダメだと諦めるのが早く、決定を人に委ねていたため、自由に決めていいと言われても決められずに困ったそうです。
中里さんは、ゲームの時間を管理しようと子どものルールを散々決めておきながら、大学生になってから「自分で決めなさい」と言うのは矛盾していると指摘します。
ゲーム時間などのルールを親が全部決めてきた
大学生になってから「自分で決めなさい」と言っても、子どもは「自分で決めさせてくれなかったじゃん」となる
睡眠は守りつつ、ゲーム時間は一緒に考える
桜林さんは、ゲームばかりで心配になる気持ちは当然あるとしたうえで、削ってはいけないものは親も見ておくべきだと話します。特に睡眠時間は、健康や昼間の眠気のために避けたいと伝えてよいと考えています。
一方で、ゲームを何時間やるか、どこまでやってよいかについては、親が「こうしなさい」と言わないほうが良さそうだと桜林さんは話します。子どもと一緒に考えれば、子どもはわかるはずだといいます。
なんかあなたがやりたいのは全部ダメっていうことがしたいわけじゃなくて、一緒に考えようって。
中里さんは、子どもが「12時までやっていい?」と言ってきたときも、食事と睡眠を確保したうえでなら、あまり否定しすぎないほうがよいと話します。親は「お母さんは先に寝ちゃうよ」と伝えてもかまわないといいます。
中里さんによれば、そこまで集中してゲームをする期間は、子どもにもよりますが、それほど長くは続かないことが多いそうです。桜林さんも、一度やると気が済むことがあるかもしれないと応じます。
中里さんは、中高生と話していると、夜中に起きている子が必ずしもゲームやYouTubeばかり見ているわけではないと話します。悩んだり、考えたり、振り返ったりする時間になっていることもあるそうです。
桜林さんは、「朝ごはんは食べてほしいな」といった希望は伝えてよいと付け加えます。そのうえで、小学3年生がずっと3年生のままではないように、子どもの成長を信じるしかないと話します。
「将来が不安」はどこから来るのか
中里さんは最後に、お便りの「将来が不安で仕方ありません」という一文に注目します。勉強していないから、ゲームばかりしているから将来が不安だという相談はよく聞くといいます。
桜林さんは、ゲームから将来への不安は飛躍していると指摘しつつ、心配になる気持ちには共感します。中里さんは、保護者が最終的にたどり着く悩みは「自分がいなくても子どもは自立できるのか」であり、この不安の解消は本当に難しいと話します。
桜林さんは、自分たちの子どもの頃の「ろくでもない友達」も今は元気に暮らしているように、どうにもならない人はあまりいないと話します。周りの人に頼り、一人で籠もらなければ、ざっくり大丈夫だと思うしかないと語ります。
中里さんは、生き方のパターンを知らないほど不安になるのではないかと考えます。たとえば父親が公務員、母親が専業主婦、親戚が大企業勤めばかりだと、その軸から外れた生き方がすべて不安に見えるという例を挙げます。
知っている生き方が少ない
公務員や大企業での出世など、限られた軸しか知らない
軸から外れると不安になる
知らない生き方は、すべて不安なものに見える
事例を知ると不安が和らぐ
さまざまな生き方をしている人の話を知ることで、不安が少し解消される
中里さん自身は、サイバーエージェント ── インターネット広告やメディア、ゲーム事業などを手がける日本のIT企業時代に、小学生の頃はゲーム漬けで学校や高校に行っていなかった人がスーパーエンジニアになった例を聞いていました。そのため、ゲームへの不安はあまりなかったのだろうと話します。
そうだね、知らないって怖いからね。わからないって怖いもんね。
心配を見せるより「大丈夫」と言えるか
桜林さんは、親の心配が子どもに伝わるとあまりいいことがないと話し、自分の父親とのエピソードを語ります。父親は劣等感が強く、自分に似ている桜林さんに「お前は俺に似て将来困るぞ」と言い続けていたそうです。
で、親も解けてないままだから本当に思ってるわけ。だからなんなら心配してるわけ。
桜林さんは「それはお前の問題だ」と思えたため影響を受けずに済みました。しかし素直な子どもなら、心配されることで「自分はダメなんだ」という謎の設定ができてしまうかもしれないと話します。
嘘でもこう、あんた大丈夫よって思ってる方が子供は安心するかなとは。
桜林さんは反面教師として、人の話を聞く仕事を作ったり、会社を辞めてお店を開いたりする姿を娘さんに見せてきたといいます。親がやらなければ子どもに「好きなことをしなさい」とは言えないと考えていたそうです。
中里さんは、自己決定力の話につなげ、「自分なら大丈夫」と思える根拠なき自信があるから判断や決定ができると話します。「自分はダメだ」と思っていると決められず、幸せから遠ざかってしまうと考えています。
番組の締めくくりで、桜林さんはゲームとの付き合い方についての呪いを解くことが、親子関係や子どもの決定力、「あなたは大丈夫」という感覚を育むことにつながるとまとめます。次回のテーマは「親はちゃんとしなきゃいけない」という呪いです。
まとめ
今回の回では、「ゲーム時間を制限しなきゃ」という親の思い込みを、ゲームの中身、ルールの決め方、自己決定力、将来への不安という観点から見直しました。睡眠など削ってはいけないものは親が守りつつ、ゲームとの付き合い方は子どもと一緒に考えることが大切だと語られています。
- ゲームは中身によって大きく違い、オンラインゲームには人とのコミュニケーションという側面もある
- ゲーム中毒になる子はごく一部だという見方があり、心配だけで判断を偏らせないことが大切
- ルールは子どもが守れるものにし、話し合って自分で決めて守る練習にする
- 親が決めすぎると、子どもの「自分で決める力」がくじかれてしまう可能性がある
- 将来への不安は多様な生き方を知ることで和らぎ、子どもには「大丈夫」と伝えるほうが安心につながる






