親と子はなぜ「混ざって」しまうのか
番組の冒頭で、中里さんと桜林さんは前回のテーマ「子供の将来を自分のエゴと重ねてしまう」という呪いを振り返ります。桜林さんは、親のエゴはどうしてもあるもので、子供と切り分けるのはとても難しいと話します。
中里さんは、困っているのは親とお子さんのどちらなのか、という課題の切り分けもよく話題になると補足します。桜林さんも、心配が本当に子供のためなのか、それとも親自身が安心したいだけなのか、という問いを「あるある」として挙げます。
だって実際(親子の)切り分け難しいし、あまりにずっと一緒に過ごしてさ、混ざるよね。
中里さんは、Branchの保護者と話すときによく出る話として、子育てのスタート地点を挙げます。生まれたばかりの赤ちゃんは、落としたら死んでしまうかもしれない存在で、すべてが親の責任から始まります。
っていうところから、いつそんなに(子供と自分を)切り分けていいの?みたいな。
桜林さんは、親子が連動してしまう悩みはエゴに限らずあるし、実際に親子は連動している、と受け止めます。この「連動」というキーワードが、今回のお便りにもつながっていきます。
「笑顔の仮面ママ」さんから届いたお便り
今回のお便りは、桜林さんが読み上げます。テーマは「親が我慢すればうまくいく」という呪いで、桜林さんは読む前から「連動の匂いはします」と話しています。
私はずっと親が我慢すれば家庭は平和にうまくいくと信じて生きてきました。夫が単身赴任で家を空けることが多く、発達障害のある小学5年生の息子と年中の娘の育児をほぼ一人で担っています。息子は予定通りにいかないとパニックになりやすく、娘は自己主張が強く、日々小さな衝突が絶えません。息子が学校を休みたがった時も、娘が言うことを聞かない時も、私が何とかしなきゃと自分の感情を押し殺して笑顔で対応してきました。でも本当に毎日が限界です。先日、仕事から帰ってきた夫に「育児大変だね。でも君がしっかり我慢しているから、子供たちも落ち着いていて助かるよ」と言われたんです。その言葉を聞いた瞬間、心が張り裂けそうになりました。夫は励ましてくれたつもりだと思います。でも私は、やっぱり私の我慢がこの家の平和を保っているんだ、もっと頑張って我慢しなきゃとますます自分を追い詰めてしまいました。本当は私も疲れたと言いたい。誰かに助けてほしい。怒りたくないのに、ふとした瞬間に子供に冷たく当たってしまい、後で激しく自己嫌悪に陥ります。私一人が我慢し続ければ、この先も大丈夫なのでしょうか?それとももう限界なのでしょうか。この親が我慢すればうまくいくという呪いから、どうすれば解放されるのか、どうか教えていただきたいです。本当の笑顔で子供たちと向き合いたいです。
読み終えた2人は、まず「しんどいね」と声をそろえます。中里さんは、同じような環境で同じように悩んでいる保護者、特に母親はたくさんいるはずだと話します。
我慢に「限度」がなくなるのはなぜか
桜林さんは、子育てである程度の自己犠牲は避けられないと前置きします。子供を優先するのはやらなければいけないことで、相談者の我慢はその延長にあると捉えています。
犠牲なくなんてできないじゃん。どうしたって自分を犠牲にして子供を優先するが、やんなきゃいけないこと。
(犠牲は)ゼロは無理だけど、多分やりすぎちゃうとつらくなっちゃう。犠牲とか我慢になっちゃう。
中里さんが「限度を決められないのが難しいのか」と問うと、桜林さんは、やればやるほどうまくいくと思い込んでいるからやめられないのだと答えます。
中里さんはここで、事前に調べてきたデータを紹介します。子育て中に孤立や孤独を感じた女性は74.2%に上り、昔より今の方が多いという調査結果が出ているそうです。
桜林さんは、夫が仕事で不在がちな家庭では、頑張っている状態を誰も見ていないことがつらさを深めると指摘します。そのうえで、夫の「君が我慢しているから助かる」という言葉にも触れます。
しかも夫まで君が我慢してるからうまくいってるって思ってるから。悪気はないんでしょうけど。我慢してるからうまくいってるわけじゃないと思うんだけどな。
中里さんは、夫はおそらく「我慢してくれてありがとう」という意味で言ったのだろうと推し量ります。桜林さんは、もともと「私が我慢しなきゃ」と思っていた相談者にとっては、その言葉が「やっぱりそうなんだ」という追い打ちになってしまったと見ています。
桜林さんは、子育てを一生懸命やること自体は全ての親に共通するとしたうえで、問題は努力の向け先だと話します。努力の方向を「我慢すること」に設定すると、我慢すればするほど成功するという思い込みが強まっていきます。
我慢を続けた先について、中里さんは母親が精神的にも体力的にも疲弊して倒れてしまうケースや、夫に気持ちをわかってもらえず実家に身を寄せるケースを実際に聞いたことがあると語ります。中里さんは、実家に逃げ込むこと自体は「いい逃げ方」だとも添えています。
桜林さんは、日々の小さな場面で我慢が役立つことはあっても、大きく見て我慢が成功につながることはほとんどないと考えています。相談者自身が「すでに限界」と書いている時点で、この頑張り方は続けられないというのが桜林さんの見立てです。
「冷凍食品バンザイ」と言える家庭は強い
中里さんは、自分で勝手に呼んでいる「冷凍食品理論」の話をします。子供に健康にいいご飯を食べさせたいという思いから、母親の中で料理のハードルがどんどん上がっていくことがある、という話です。
他の家庭のご飯を見る機会が少ないため、完璧主義になって自分を追い詰めやすいと中里さんは言います。桜林さんの言葉でいう「鬼コーチタイプ」の人ほど、さらに頑張ってしまうそうです。
冷凍食品とかでご飯作れます?とか聞くと、例えば1週間全部冷凍食品でもいいって言われて、冷凍食品で出せますか?と。多分意外と「いやそれは」みたいな。
一方でBranchの中では、ときどき「冷凍食品バンザイ」のような空気になる時があるといいます。「今日は手を抜きました」という報告に「偉い」「手を休められたね」と返すような価値観です。
中里さんは、ご飯に限らず、朝子供を起こすことなど全ての事柄で「頑張りすぎなくていい」方向に切り替えられれば、呪いは少しずつ解けていくのではないかと話します。
桜林さんは、手抜きを「偉い」と褒める理由を、子育ての長さから説明します。子育てはいつ終わるかカウントダウンもできない長期戦で、相談者の子供たちの年齢ならまだしばらく続きます。
(手抜きを偉いと言うのは)別にその気にさせておだててるわけじゃなくて、そうしてる方が長く続けられるからじゃないですか。
短期的にはできるかもしれないが、長くは続けられない
つらくなく続けられる。子供はまだ数年家にいるので、継続が何より大事
桜林さんは、相談者が子供たちの大変な時期や個性と向き合っていることを認めつつ、「我慢しなければどうやるんだ」と感じるとしても、我慢したからうまくいっているわけではない、とはっきり伝えた方がいいと話します。
夫婦でペアトレに行くという選択肢
中里さんは、母親だけでなく夫のことも一緒に考えたいと話題を広げます。相談の内容からは、夫が「自分はわかってあげている」と感じているように見える、というのが中里さんの印象です。
中里さんがシンプルな答えとして挙げるのは、夫婦そろってペアトレ ── ペアレントトレーニングの略。子供の行動の観察や関わり方を、保護者がグループワークや宿題を通じて学ぶプログラム。発達障害のある子の家庭支援として広く使われていますに行くことです。
中里さんの説明では、ペアトレはお子さんの観察の仕方などを学び、宿題も出るもので、子供のためというより両親が取り組むものです。カリキュラムを一方的に教わるのではなく、参加者同士で議論し、自分がどう感じたか、他の人が何を考えているかを共有する場だといいます。
Branchでは思春期以降に参加する家庭が多く、母親だけが行くケースもあるそうです。中里さんは、発達障害のある子の子育ての大変さを夫はあまりわかっていないのではないかと考え、夫を連れ出せればかなり前進するのではと話します。
東京以外でもあるのかという桜林さんの質問に、中里さんはオンラインでも受けられるものがあり、ペアトレは今かなり増えていると答えます。細かくは知らないとしつつ、大きく4流派くらいあるらしいとも話しています。
「頼ってもいい」と自分に許可を出す
桜林さんは、夫が仕事で忙しく時間を使えないのは仕方ないかもしれないとしたうえで、相談者には「夫は頼れないから自分でやらなきゃ」という癖がついているのではないかと見ています。
ただでさえ大変。(子供が)二人いて、で、発達障害のもあってってなると、もう当たり前に大変なんだから、もう当たり前に頼った方がいいと思うんだよね。
夫が無理なら外。
桜林さんにとって、外に頼ることは手抜きでも何でもありません。むしろ「我慢して一人でやらなきゃ」こそダメなことで、頼る癖をつけられるといいと話します。
ただし、頼り先を考える前に一段階必要なものがあると桜林さんは言います。それが「頼ってもいいんだ」と自分に許可を出すことです。頭ではわかっているのに自分で許可できない、だからこそ呪いなのだと桜林さんは説明します。
自分で自分に許可を出すのが難しい場合について、中里さんは仮説を出します。祖父母や友人、番組の2人など、5人くらいから「我慢しなくていい」と言われたら、自分に許可してみようと思えるのではないか、というものです。
そんなにみんなも言うし、実際頭ではわかると思う。そうだよねって思うから、もうしょうがない、もうやってみるかみたいな。思えてないけどやってみるかみたいな。
「本当の笑顔」にたどり着くための順番
桜林さんは、お便りの最後の一文「本当の笑顔で子供たちと向き合いたいです」に注目します。今は無理やり笑顔でいるという自覚がある以上、相談者はそれがいいことではないと頭ではわかっているはずだ、と桜林さんは考えています。
無理やり笑顔で対応されてることって(子供は)絶対に気づくし、疲れててもいいじゃん。お母さんが別に疲れてて、ソファで寝てたっていいじゃん、別に。
本当の笑顔のために何が必要かと問われ、2人は「余裕」だと一致します。桜林さんは、自分の24時間は絶対に増えないのだから、人の時間をもらう、つまり誰かに頼るしかないと話します。
自分の余裕を作るに向けて、そこを頑張った方がいいと思うんだよね。我慢じゃなくて。
中里さんはここで、2人の話を一つの順番として整理します。笑顔だけをいきなり目指しても無理なので、1つずつ進めるのが大切だと桜林さんも同意しています。
許可する
まず「頼ってもいい」と自分に許可を出す。難しければ周りの人の言葉を借りる
頼る
実際に夫や外部の人・場所に頼る
余裕ができる
人の時間を借りることで、自分の余裕が生まれる
笑顔になれる
余裕があって初めて、子供たちに本当の笑顔で向き合える
桜林さんは、長く続けるためにはサボった方がいいし頼った方がいい、それこそ拍手に値すると話します。我慢を美徳とする見方から、長く続けられるかどうかで評価する見方へ、カメラの位置を変えることが大切だという表現です。
シングルマザー時代と会社経営に共通すること
桜林さん自身もシングルマザーとして子供を育ててきた経験を語ります。毎日頼れる人がいない状況で、自分が倒れたら代わりがいないからこそ、桜林さんは「めっちゃ手を抜いた」といいます。
私はこう長く続けることもそうだし、ぬるく元気でい続けることの方が優先順位が高かった。毎日すっごい頑張ることよりも。
中里さんは、この考え方は会社の経営にも似ていると話します。経営者が息切れして倒れてしまうと、社員に迷惑がかかるため、継続させることを優先するという点で同じだというのです。
桜林さんは、相談者の娘さんは3〜4歳ほど、息子さんは10〜11歳ほどだろうという話から、子育てはまだここからも長いと強調します。ゆるく、あるいはみんなでやっていく必要があり、一人で抱えるものではないと締めくくります。
頼り先は「片っ端から」探していい
最後に中里さんは、具体的な頼り先について触れます。今は公的な機関も含めて頼り先がたくさんあり、Branchでも発達障害のある子の家庭向けの頼り先をまとめた記事や資料を作っているそうです。
中里さんが例として挙げた頼り先は、次のようなものです。相談者が学校に通っているかはお便りに書かれていないため、学校に行っていない場合の選択肢も含めて紹介しています。
- 放課後デイサービス
- フリースクール(費用がかかる)
- 適応指導教室(「チャレンジ教室」など名前は地域で異なる)
適応指導教室 ── 不登校の子供を対象に、主に自治体の教育委員会が設置する公的な学習・居場所の施設。費用がかからないことが多く、「教育支援センター」と呼ばれることもありますなどの公的な場所は、フリースクールと違って費用面の負担も比較的抑えられます。中里さんは、親が頼る場所と子供の居場所になりうる場所のリストを検索して探し、片っ端から当たっていいと勧めます。
桜林さんも「頼る前提で、いくらあってもいい」と応じ、相談者への言葉を一言にまとめます。
中里さんは「自分に許可をして、頼るのを頑張る」と言い直して相談への回答を締めくくり、次回は「子供に完璧を求めてしまう」という呪いを扱うと予告しています。
まとめ
「親が我慢すればうまくいく」という思い込みに対し、中里さんと桜林さんは、我慢では長く続けられないと率直に伝えました。子育てを一生懸命やる力を、我慢ではなく「頼ること」と「余裕を作ること」に向け直すのが、この回の答えです。
- 子育てで自己犠牲をゼロにはできないが、我慢に努力の方向を設定すると限度がなくなり、続けられなくなる
- 手抜きやサボりを「偉い」と言えるのは、その方が長期戦の子育てを長く続けられるから
- まず「頼ってもいい」と自分に許可を出し、難しければ周りの人の言葉を借りる
- 許可する、頼る、余裕ができる、笑顔になれる、という順番で1つずつ進める
- 夫婦でのペアトレや、放課後デイサービス、フリースクール、適応指導教室など、頼り先は片っ端から探していい






