習い事の先にある「将来への不安」とは?
この回の冒頭で、中里さんは機材トラブルにより後半10分弱の音質が悪くなっていることを、リスナーとお便りの差出人に謝っています。そのうえで、前回の習い事と才能の話を振り返るところから本題に入ります。
桜林さんは、習い事の英才教育は始める年齢がどんどん若くなっていると話します。中里さんも、子どもに習い事をさせる量は年々増えていて、それで苦しむ親子も増えているのではないかと応じます。
(習い事は)そんなにドンピシャにやったらハマったとかさ、これだ、ピカーみたいなことってなかなかないよね。
しかも子供の頃やってたのが意味ないと思ってても、後々そういえばあれやってたからこれができるみたいなこともあるしね。
中里さんは前回、才能を伸ばすことがいい大学やいい就職先につながるのではないか、だから将来の芽を摘むのが怖いのではないか、と問いかけたまま答えきれなかったといいます。今回は、その問いに近いお便りが届いたことから話が始まります。
「呪われた母親です」と書いた相談に、二人はどう応えたか
今回取り上げる「のろい」は「子どもの将来を自分のエゴと重ねてしまう」というものです。桜林さんが、ぎょんすさんからのお便りを読み上げます。
新しいポッドキャストが始まったことを知り、タイトルを見てすぐに拝聴した呪われた母親です。苦笑。私が解いてほしい呪いは、中学生の息子の将来を私のエゴと重ねてしまう呪いです。
来年、高校受験生になる息子の進学について、ついつい自分の願望を重ねてしまいます。高校進学のその向こうの大学受験、さらにはその向こうの就職を考えると、勝手に息子の成績の最低ラインを押し付けて勉強しろ、勉強しろとガミガミ言ってしまいます。
これは周りの人に少しでも親として高く評価されたい、自慢の息子になってほしいという私のエゴなんじゃないかと思うと情けなくもなります。息子の人生は息子のものなのに、親の勝手なエゴを押し付けていることは分かっているのに、なかなかやめることもできません。親として受験生を支えていく上で、どうやったらこの呪いを解くことができるのでしょうか?このままでいいのでしょうか。
お便りを受けて、中里さんはまず、この悩みは普遍的なものでぎょんすさんだけの特別な悩みではないと伝えます。
しかもこうやって文章にして、私は今こうやっちゃってるんです。これやばくないですか?って言えてる時点で、だいぶもうそう思ってるなら大丈夫だよっていうところはあるよね。
中里さんも、ぎょんすさんは自分を少し引いた視点から見て「これは良くない」とまで分かっていると受け止めます。桜林さんは、分かっているのにどうしたらいいかわからない状態こそが一番の呪いなのだろうと言います。
桜林さんは、これまでのお便りすべての根底には、将来への不安が流れていると指摘します。「息子のため」と言いながら、実際には受験でうまくいかなかったらその先の高校や大学、就職が心配だという親自身の不安だ、という見方です。
このご自分で書かれた中に息子の人生は息子のものなのにという一文があって、もうそれが全てだと思う。うん、それが分かってれば大丈夫とも思う。
そのうえで桜林さんは、いい親に見られたいといった外からの評価と、息子の人生をどう切り離すかがポイントではないか、と論点を整理しています。
子育て前に好きだったこと、思い出せますか?
中里さんは、Branchの内外の保護者から相談を受けるなかで、思春期以降の子どもは意外とあっさり親離れしていく、とよく話すそうです。一方で、親のほうの子離れには時間がかかるといいます。
中里さんによれば、Branchに来る家庭の子どもは発達の特性を抱えていることが多く、親は世間から過保護気味に見えるほど見通しを立てて対応してきました。そのため、思春期に子どもが急に学校へ行き出すなど一気に親離れすると、親がその変化についていけないことがあるそうです。
そこで中里さんは、高校生の子をもつ先輩保護者のアドバイスなどをもとに、シンプルに自分のほうに目線を向けてくださいと伝えています。子育てを始める前に好きだったことがあれば、それをやるといい、という提案です。
中里さんは先月の面談で、ある保護者と一緒に「10年ほど前、子育てを始める前に好きだったこと」をその場でリストアップしたといいます。最初は思い出せなかった保護者も、カフェに行くこと、遠くまで自転車で出かけること、日記やブログを書くことと、少しずつ思い出していったそうです。
(好きだったことを)結構忘れてるんですよ。
他の保護者と同じことをしても、時間はかかるもののぽろぽろと出てくると中里さんは話します。桜林さんも「ないことない」と応じます。
勉強しようとガミガミ言ってしまいますって、自分で言いたくないのに言ってしまうってところまで行ってるのであれば、もうむしろ子供を見ない自分の方にガッて向けるぐらい極端に言ってもいいのかもしれないなと思いました。
桜林さんは、子どものことがイコール自分のことになってしまっているから、距離を取るための手段として自分に目を向けるのは確かにいい、と受け止めています。
「心配」は子どもにどう届いているのか
桜林さんは、子育てに限らない話として、職場の上司と部下の関係にたとえます。上司に「大丈夫なの?心配だからずっと見てるよ」「心配だから手伝ってあげるよ」と過剰に心配されると、された側は信用されていないと感じる、というのです。
心配はいいことと思ってやってるかもしれないけど、意外と心配される方ってそんなに嬉しくはないっていうか。
上司だったらうるさい、できるよって思えるかもしれないけど、親に言われたら、あ、そっか、自分はできないんだって思っちゃう可能性も高いから。心配ってあんまりいいことじゃないよね。
桜林さんの説明では、親の心配が子どもに届くまでには、次のような流れが起きる可能性があります。
親が心配する
よかれと思って「勉強しろ」と繰り返す
子どもが受け取る
親の言葉は絶大なので「自分はできないんだ」と思ってしまう
反発が生まれる
本当はやる気でも、言われるとやりたくなくなる
逆効果になる
心配して言ったことが、かえってやる気をそぐ
中里さんも、勉強しろと言われなくても子どもは自分で勉強するつもりかもしれない、と応じます。さらに桜林さんが「言われたからやりたくなくなった」というよくある話を出すと、中里さんは自分が完全にそのタイプだったと明かします。
俺完全にそのタイプだったから、言われたくないんだよね。
桜林さんも、大人になった今でも本当にやろうとしていることは人に言わずに始めるといいます。それは言われたくないことへの反動かもしれず、心配から言ったことが逆効果になることもありえる、と話をまとめています。
先輩保護者の答えは「物理的に距離を置く」
中里さんは、届いた「のろい」のお便りをBranchの保護者にも質問し、同じ経験をしてきた人の声を紹介することがあります。今回もその回答を読み上げます。
Branchの保護者さん(高2の息子と中3の娘の母)の回答は「私の心の中に、子供たちにはあまり苦労させず、幸せな人生を歩んでほしいという願いと、不登校経験があったって自立して幸せに生きられるんだぜ、うちの子たち見てみなよという見返してやりたい(誰に対してなの?って我ながらウケます)気持ちがあります。なので、普段から誘導してしまう言葉や態度を出さないように気をつけています。かなり意識していないとポロッと出ます」。
同じ保護者さんの回答の続きは「なぜ今自分が踏みとどまっているか考えてみました。まず、子供の将来を考える時間を自分の将来を考える時間に変えました。自分の好きなことに使う」。
中里さんは読み上げの途中で、これは自分が先ほど言ったのと同じことだと驚いています。
同じ保護者さんの回答の続きは「あと、子供を自分の視界に入れない、声を耳に入れないように物理的に距離を置きました。ノイズキャンセリングイヤホンがおすすめです。プラスで最新の受験事情を調べてみるのはいかがですか。私たち親世代とはかなり変わっています。一般入試で大学受験する子の割合は毎年減っているそうです。就職事情も今後数年でどんどん変わっていく気がしています。エゴは持っててもいいんじゃないかな。外に出さなければ。仏門に入りたいなら捨てるべきかもですが、自分しょうがねえなって私は付き合ってます」。
中里さんはこの回答を「素晴らしいアドバイス」と評し、物理的に距離を置く方法は、思春期前は難しくても中学生ならまったく問題ないと考えています。桜林さんも、親が何でもやってあげなければならない年齢ではないとしつつ、やり方を変えるタイミングは難しいと話します。
多分なんか(距離を置くのは)やっちゃダメだと思ってますよね、きっと。
中里さん自身は思春期のころ、母親に「塩ラーメンみたいなのを買っておいてくれれば自分でご飯を作る。夜は勝手に勉強して、勝手に漫画を読んで、勝手に食べて寝る」と伝え、ずっと放置されていたそうです。ノイズキャンセリングイヤホンでも、部屋を離すのでもいいので、距離を取ることはやっていい、というのが中里さんの考えです。
「あなたと先生の約束」で突き放せる関係とは
桜林さんは、ご飯を作るなど完全な放置ではいけないとしたうえで、娘への干渉は睡眠時間について言うくらいだったと振り返ります。
小学校に入った時から、子供の勉強とか宿題とか提出物とか、そういうようなものは私のじゃないからねってずっと言ってて。
私関係なくて、あなたと先生の約束だから、私が言った言わないとかでやるやらない決めないでみたいなこと言って。
桜林さんは、宿題をやらなかったらお母さんに怒られるのではなく、先生からの信頼がなくなるだけだと娘に伝えていました。宿題を一緒に見たこともなく、わからなければ聞いてきて、困ったら言ってきて、というスタンスだったそうです。周りからは「放置してよくできるね、心配じゃないの?」とよく言われたといいます。
中里さんは、桜林さん親子には「何かあったら相談してね」という前提があり、子どものやりたいことを支援するコミュニケーションをとってきたので、相談しやすかったのではないかと見ています。
思春期入る前までとかに、少なくとも相談は親にできるっていう関係を作っておいて。
あなたと先生の約束で、私の約束じゃないよっていう風に、ある意味突き返しても、でも最後は相談する余地はあるよねっていうスタンスがなんかすごく自然だと思うんですよね。
桜林さんの娘が通った中学校は、テストの点数よりも提出物を重視する学校でした。娘は提出物がどうしても苦手で、「やらなきゃいけないのはわかっているのに、どうしてもできない」と相談してきたそうです。
そのとき桜林さんは自分の意見を言わず、「どうやってやりたい?」「やりたいの?やらなきゃいけないと思ってるの?」「やらないとどうなると思う?」と、とにかく聞くことに徹したといいます。そうできたのは、娘が相談してくれたからだと今は思うそうです。
最後は親に相談できる安心感があるので、「先生と話してね」と突き放されても大丈夫
親に相談できないうえに突き放されると、子どもは孤独になる
中里さんは、思春期に親へ相談できる関係があるかどうかはとても大事なポイントで、その関係が本当に途絶えてしまっている家庭も多いと話します。桜林さん自身は、何をしたいかを親に知られたら絶対に止められると思い込み、親に相談できなかったそうで、それは悪循環だったと振り返っています。
エゴは出てしまってもいい、を娘の一言から考える
桜林さんは、こんな子どもになってほしい、健康でいてほしいという願いもエゴはエゴであり、エゴがあるのはしょうがないし、いいことだと考えています。
桜林さんがつい「私だったらこうする方がいいよ」とエゴを出してしまうと、娘からはよく次のように返されていたそうです。
私だったらこうする方がいいよって言った時に、あなたならそう言うでしょうねって言われてたの。
(娘は)参考にはするが、採用はしてくれないみたいなことが多くて。
桜林さんは、常に「あなたはどうしたいの?」と聞き、「親が言ったからってしないでね、私のせいにしないでね」と言い続けてきたことが、この反応につながったと考えています。そのため、エゴが出てしまうことが全部ダメなわけではないというのが桜林さんの見方です。
あと(エゴが全く出ないのは)下手すりゃ無関心だよね。
中里さんも、エゴがまったく出ないのは仏の世界のように難易度が高く、ゼロにはなかなかできないと応じています。
私立大学の約6割が推薦、という入試の今
中里さんは、先輩保護者の回答にあった「最新の受験事情」について調べてきた内容を紹介します。親世代のころは学力試験による一般入試が中心でしたが、2020年代の今は文部科学省が入試の多様化を進め、大学側の定員確保のためにAOや推薦を拡大しているといいます。
中里さんによれば、私立大学ではすでに入学者の半数以上がAOや推薦を経由しています。国公立大学でも、以前よりAOや推薦を導入するケースが増えているそうです。今のAOは総合型選抜 ── かつてAO入試と呼ばれた大学入試の方式。学力試験だけでなく、志望理由書や面接などで受験生の意欲や適性を総合的に評価しますと呼ばれます。
中里さんが紹介したデータは、次のとおりです。
| 区分 | 総合型選抜 | 学校推薦型選抜 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 国立大学 | 6.1% | 12.4% | 18.5% |
| 私立大学 | 19% | 40.3% | 59.3% |
だから単純に私立で、もし言うとすると、教科学習めちゃめちゃ頑張りましたよって言った時の門とか、50%以下しかない。逆に言うとね。
中里さんは、学校によって推薦で求めるポイントは違うものの、シンプルに教科学習がよくできる子だけを求めているわけではない時代になっていることは覚えておいてもいい、と話しています。
桜林さんの娘も、大学には学校の指定推薦で進学したそうです。センター試験を受けることもなく、教科の成績は全然ダメだったといいます。
大学が全てじゃないけど、勉強したいって時に全然勉強できる門は開かれているっていうか、選択肢はあったね。
自分の人生と子どもの人生を分けるために
中里さんは最後に、今回の提案を整理します。子ども視点から自分視点に切り替えること、そのために子育て前に好きだったことや、この期間ずっとやりたかったのにできなかったことをやってみること、そして先輩保護者の回答にあった物理的に距離を取ることです。
その2つはさ、目的としては子供のことを自分ごとにしないみたいなことだよね。子供の人生は子供の人生、自分の人生は自分の人生です。両方やった方がいいよね。
中里さんは、将来が心配だという気持ちが全ての根っこにあるのかもしれないと投げかけます。桜林さんは、受験の実情のような長い定規で一度見てみると思うことがあるかもしれないとしつつ、最初の話に戻ります。
そうやって自分をある程度客観視できて、やばそうだなって思ってる時点で大丈夫だよと。
中里さんも、ここまで自分を客観視できていればあと一歩で、皆が普遍的に持っている悩みだと応じます。お便りの冒頭で「呪われた母親です」と笑える自己紹介ができている時点ですごい、と二人は声をそろえています。
次回は「親が我慢すればうまくいく」という呪いを取り上げる予定だと告げて、番組は締めくくられます。
まとめ
子どもの将来に自分のエゴを重ねてしまう悩みは、多くの親が抱える普遍的なものです。中里さんと桜林さんは、自分の状態を客観視できていることを出発点に、子どもの人生と自分の人生を切り離すための具体的な方法を示しました。
- 「息子の人生は息子のもの」と自覚できていれば、すでに大丈夫に近いと二人は話しています
- 子育て前に好きだったことを思い出し、子どもではなく自分に目線を向ける方法が提案されました
- 中学生なら、イヤホンや部屋を分けるなど物理的に距離を置いてもよいと考えられています
- 親の心配は「信用されていない」と受け取られ、逆効果になることもあります
- 中里さんの紹介では、私立大学入学者の約6割が総合型選抜・学校推薦型選抜を経由しています



