いいことを意識するほど、人に厳しくなる?
本編のお便りに入る前に、桜林さんはこの番組を始めてから、自分のべき思考や思い込みをセルフチェックするようになったと話します。
桜林さんは雑談の仕事で人の話を聞いているため、「人の話はちゃんと聞こう」と自分に課しています。ところが、その意識を仕事と関係のない場面の他人にも向けてしまうことがあるといいます。
自分の課題だったはずなのに、できてない人のこと見つけちゃうなと思って。意地悪になるかもと。
いいことなんだよ。話を聞くはいいことだけど、人に厳しくなるなって思って。言わないけどね、もちろん。
中里さんも、好きなものほど心が狭くなると共感します。漫画が好きすぎるあまり、漫画賞の結果が自分の予想と違うと「審査員わかってないな」と感じてしまうことがあるそうです。
心すごい狭っ、心が狭くなっちゃってる自分がいるなみたいな。
桜林さんは、美容院の前に髪型のことばかり考えていると街で人の髪型を見てしまうように、自分の眼鏡で世界を見るのは自然なことだとも言います。それでも、いいことなのに人に厳しくなってしまうのは切ないと話しています。
こだわりがぶつかる人間関係は、なぜ難しいのか
中里さんは、不登校や発達障害のことを考え続けている自分も、正反対の意見を聞くと心がざわつくと振り返ります。
桜林さんは、雑談の仕事を通じて、人それぞれのこだわりや好きなものがあまりにも違うことを実感しているといいます。
もうこれは分け合うしかないな。
中里さんが運営するコミュニティでも、互いの好きなことを許容しようとしていますが、「好きすぎて理論」で急に力が入る場面はあるそうです。
桜林さんは、どうでもいいことならぶつからないけれど、大事なことほどぶつかり、しかもぶつかるべき場面もあると指摘します。中里さんが日本の「和」の文化に触れると、桜林さんは、和の裏では誰かが合わせているのではないか、と良し悪しの両面を挙げました。
こだわりがないので、意見が違ってもぶつからない
熱くなりやすくぶつかるが、ぶつかるべき場面もある
大学受験を後悔する夫と、中学受験に懐疑的な妻
この回のお便りのテーマは「子供に親と同じ失敗をしてほしくない」という呪いです。桜林さんが、小学4年生の娘を持つトコトコさんからのお便りを読み上げました。
私の夫は大学院博士課程を卒業し、専門職として現在の仕事をしています。私から見ると立派な学歴であり、生活にも困っているわけではないので、十分ではないかと感じているのですが、夫自身は高校であまり勉強しなかったことで、思い描いていた大学へ進学することができなかったことを大きく後悔している様子です。
そして、自分の子供には同じ失敗、大学受験で失敗することをしてほしくない。だから中学受験をして偏差値の高い中高一貫校へ行き、希望する大学へ入ってほしいと言います。
私はどちらかといえば中学受験を懐疑的に捉えていて、夫と意見が分かれています。ただ、夫が自分の失敗を子供に繰り返してほしくないという気持ちも完全に否定はできません。この呪いはどうしたら解くことができるのでしょうか。
中里さんは、このお便りには前回と違う難しさがあると受け止めます。お便りを書いたのは妻で、「同じ失敗をしてほしくない」と思っているのは夫、そして娘本人の気持ちはまだ書かれていないという構造だからです。
夫
大学受験の後悔から、娘に中学受験を望む
妻(お便りの差出人)
中学受験に懐疑的だが、夫の気持ちも否定しきれない
娘(小学4年生)
本人がどう思っているかはお便りに書かれていない
「知らんがな」――娘から見た父親の後悔
桜林さんがまず気になったのは、当事者である娘さんが議論の場にいないことでした。受験するかどうかは、小学4年生の今でなくてももう少し先に決められるはずだと話します。
(夫の)同じ失敗してほしくない、自分と同じ思いをしてほしくないっていうのは気持ちはわかる。気持ちはわかるし、みんなある。
けど、やっぱりちょっと言い方選ばず言うと知らんがな。
それお父さんのことでしょってなるっていうか。
中里さんは、Branchで出会う子供たちを見ていても、中学校をどうするかについては子供から意見が出てこないことが多いと話します。親が選択肢を示して決めることが多い一方、高校受験になると子供は意見を出すようになり、親の思い通りにはならなくなるそうです。
子供から意見が出にくく、親が選択肢を示して決めることが多い
子供が意見を出すようになり、親の思い通りにはなりにくい
中里さんは、娘さんに中学受験が向いていれば問題なく進める可能性もあるとしつつ、中高一貫校に入ったあと、大学受験で親の望み通りに子供が動くかはわからないと指摘します。
「お父さんみたいになってほしくない」には同意しにくい
桜林さんは、子供の立場からすれば、今から「いい大学に入ってほしい」と言われるのが一番嫌なのではないかと話します。
中里さんは、お父さんが大好きで仕事にも憧れている子なら受け入れるかもしれないと問いかけます。桜林さんの答えは、願いの向きによって違うというものでした。
お父さんみたいになってほしいだったらそれはあるけど、お父さんみたいになってほしくないからの場合、同意しかねる。
一方で、二人とも中学受験そのものを否定してはいません。娘さんが勉強を好きだったり、苦にせずできたりするなら、中高一貫校に進むことも受験というチャレンジも悪いことではないと話します。結論は、娘さんを見て決めることだといいます。
中里さんは、早稲田大学で中学・高校から上がってきた同級生に、受験は嫌いではなく、その後が楽でよかったと話す人が多かったと振り返ります。ただしそれは合格した人の話で、生存者バイアス ── 成功して残った例だけを見て判断し、脱落した例を見落とすことで起こる偏り。成功者の体験談だけで全体を語るときによく指摘されますだとも付け加えました。
受験に落ちて自信をなくし、不登校になった子の話も聞くため、どちらに転ぶかはわからないというのが中里さんの見方です。向いていない子に無理をさせるなら逆効果になりうる、と桜林さんも続けます。
子供にさせる「敗者復活戦」とは?
桜林さんは、この問題はあくまで夫の問題であり、子供には関係ないのではないかと話します。
自分の人生に納得してるかどうかっていう話でしょ。それを子供に、さ、敗者復活戦みたいなのをさせるの良くないと思うんだよな。
桜林さんは、子供が勉強好きで、そのほうが楽そうだからという理由なら、やっていること自体は悪くないとも言います。問題は動機であり、中里さんも「子供がノリノリなら別にいい」と応じました。
親が自分の叶わなかったことを子供にさせる「敗者復活戦問題」は、よく聞く話だといいます。中里さんによれば、父親だけでなく母親にも見られるそうです。
私はバレエがやりたかったのに習わせてもらえなかったから、子供にはやらせてあげたい。その子供は本当にやりたいのかなみたいな。
桜林さんは、子供をうまく巻き込むきっかけになることもあるので全部が悪いわけではないとしつつ、「それはあなたの問題ですよね」という面がある、と話しています。
親の願いを叶え続けた子供は、大人になってどうなる?
中里さんは、仮に中学受験が成功しても、夫は自分の小さなトラウマに向き合わなければならないタイミングが必ず来ると考えます。娘さんが反抗する可能性もあれば、大人になってから「お父さんの希望のままに生きてきた」と気づく可能性もあるからです。
いい子ほどそうなっちゃう。
桜林さんは、雑談で話を聞いていると、子供の頃の親との関係にさかのぼる悩みがとても多いといいます。親は悪くなく、親を好きだからこそ親の喜ぶ道を選び、気づけば本当にしたいことがわからなくなっているケースです。
だからこの(夫の)通りにしてたらなっちゃうから、子供がどうしたいかっていうのを無視しないでほしいなっていうのはあります。
親が好き
親の願いを叶えてあげたいと思う
親が喜ぶ選択
頑張り方や進路を、親が喜ぶ方向で選ぶ
大人になって
本当にしたいことがわからなくなる
自己決定と幸福、そして「レールを走らない自由」
中里さんは、日本の大学の研究で、自己決定が幸福に関わることが示されていると紹介します。自分で決めてこなかった場合、幸福感が欠けてくる可能性があるといいます。
そのため中里さんは、中学受験が悪いとは思わないものの、少なくとも娘さん自身に選んでもらったほうがいいと考えます。受験を頑張った先の姿と、公立に行けば今の友達と同じ学校で遊べることを並べて見せたうえで選ぶ、という方法です。
中里さんは、今の学校が楽しい子なら、今の友達と同じ学校に行きたいと考えることが多く、受験を選ばない可能性もあると話します。
なんか親がレールを敷くこと自体は別に悪くないと思うんですよ。だけど、そのレールを走らないっていう意思も尊重してほしい。
桜林さんの娘が自分で選んだ中学受験
桜林さん自身の娘さんも中学受験を経験し、中学から中高一貫校に進みました。受験を決めたのはかなり直前で、学校の文化祭や体験授業に行った娘さんが「ここに行きたい」と言ったのがきっかけだったそうです。
桜林さんが学校見学に連れて行ったのは、公立小学校で娘さんがいまいち合っていない、楽しくなさそうだと感じていたからでした。このまま中学3年間を過ごすのはかわいそうだと思い、他のお母さんに選択肢を聞いて回ったといいます。
そういう意味では私もレールを敷いたし、こっちの方が合ってるかもよ、こういうのあるよって誘導したとも言えるけど、やっぱり選んだのは彼女だし、頑張ったのも彼女だから。
桜林さんは、その違いはとても難しく、小学4年生で決めるのはなおさら難しいかもしれないと話しています。
夫にどう伝えるか、「別の傷」を植え付ける可能性
中里さんは、夫への伝え方として一つの案を出します。このまま進めば夫の心の傷は癒えるかもしれないが、娘さんは「自分で選んでこなかった」という別の傷を抱えて大人になる可能性がある、と伝えるものです。
でも私もっと言っていいかも。それあなたのせいって言われるけど大丈夫。
背負えるの?っていう。
父親の大学受験の後悔という傷がある
父親の傷は癒えるかもしれないが、娘に「自分で選んでこなかった」という新しい傷が残る可能性がある
桜林さんは、本当によかれと思っているとき、親は自分の傷を癒すために子供に敗者復活をさせているとは思っていないはずだと話します。だからこそ気づいてほしい、と語りました。
そもそも夫は「失敗」しているのか?
桜林さんは、妻から見れば夫は十分な学歴を持っており、それは失敗ではなく結果オーライだと指摘します。中里さんも、大学院まで進んで専門職に就いていることは何も失敗ではないと応じます。
後悔だよね、ただの。あの時もっとこうしていればっていう。もしも話でしかないから。
中里さんは、夫は「もっとできたはず」と自分を責める鬼コーチタイプなのかもしれないと推測し、親や周囲から「もっと頑張れただろ」と言われてきた可能性にも触れます。
それでも二人は、まず確かめるべきは娘さん本人の気持ちだと話を戻します。桜林さんは、いい大学に行けばいい人生が送れるという考えは時代遅れで、娘さんの人生をもっと長い目で見てほしいと語りました。
悪くない選択肢をめぐる話し合いの難しさ
桜林さんは、夫は本気でよかれと思い、妻は冷静に「自分の傷を癒したいのだろう」と見ている状況での話し合いは、とても難しいと話します。
だって悪いことじゃないじゃん。いい大学に行くとか、いい環境で勉強するのが悪いことじゃないから。
中里さんが「思想の違いみたいな感じ」と受けると、桜林さんは、それでも一つ言い切れるのはもっと子供を中心に考えることだと述べます。
中里さんは、親がレールや願いを持つのは自然なことであり、それがあってもいいとしたうえで、外れることや選ぶことを許容する余地を子供に持たせることが大切だとまとめました。
親の「英語できた方がいい」は届かなかった
桜林さんにも、娘さんを誘導しようとした経験があります。娘さんが高校生の頃、自分が英語を話せない分、高校2年生ぐらいで1年留学すれば話せるようになると考え、留学制度を次々に勧めたそうです。
ところが娘さんはあまり興味を示しませんでした。桜林さんは、興味がないのに行ってもお金の無駄で勉強もしないだろうと考え、「気が向いたらで」と引っ込めたといいます。
中里さんも、中学時代に留学のチャンスを逃し、英語にコンプレックスがあるため、自分の子供には海外留学してほしいという気持ちが強くあったと打ち明けます。
二人はトコトコさんに、まずは娘さん本人の気持ちから考えてみてほしいと伝え、お茶でも用意してゆっくり夫婦で話し合ってほしいと締めくくりました。
まとめ
「子供に親と同じ失敗をしてほしくない」という思いは、よかれと思うからこそ気づきにくい親自身の後悔や傷から生まれることがあります。中里さんと桜林さんは、中学受験そのものは否定せず、子供本人の気持ちと選択を中心に置くことを繰り返し強調しました。
- 親の「同じ失敗をしてほしくない」は、子供ではなく親自身の人生への納得の問題であることが多い
- 中学受験は悪くないが、娘さんが向いているか、本人がどうしたいかを見て決めることが大切
- 親がレールを敷くのは自然だが、子供がそのレールを走らない意思も尊重する
- 自分で選んでこなかった子供は、大人になって「別の傷」を抱える可能性がある
- どんなによかれと思っても、本人の興味がなければ意味がない



