喋る仕事が続いた一週間と「よどみない」声
この回は、中里祐次さんと桜林直子さんが特定のテーマを決めずに話す雑談回です。冒頭で桜林さんは、トークイベントや収録など喋る仕事ばかりが重なった一週間だったと話しています。
私、今週めっちゃずっと喋る仕事ばっかりで何か重なっちゃって。トークイベントとか収録とか、そうばっかりで。すっごい喋ったよ今週。
中里さんは、番組を編集する側から見ても桜林さんの声は編集しやすいと評価しています。桜林さんは、ジェーン・スーさんとのPodcast『となりの雑談』を初めて録ったとき、人前で話した経験がほとんどないのに「よどみないですね」と言われたことを振り返ります。
話すことに慣れていない人は「えっと」が多くなったり、言葉がもにょもにょしたりしがちです。中里さんはこの桜林さんの話し方を「特殊技能」と呼び、喉の強さではなく頭の中の能力だと受け止めています。
でも弊害としてさ、どこで何話したかわかんなくなるっていうのもあって。
得意すぎることほど、できない人の気持ちがわからない?
桜林さんの最近の「気になりごと」は、自分が得意すぎてできてしまうことについて、できない人の気持ちがわからないという問題です。二人はこれを勉強でもスポーツでもある「あるある」だと話しています。
桜林さんが新しく自覚したのは、優先順位をつけることが自分は「鬼のように得意」だということでした。きっかけは、仕事と、映画や舞台を見るといった趣味の時間のやりくりが崩壊する、という誰かの話を聞いたことです。
あ、え、決めればいいじゃんみたいになっちゃうっていうか。どこにあるか決めればいいじゃんみたいになって。あ、これ私ダメだなって思った。気持ちがわかってあげられない。
中里さんは、仕事の中では優先順位を決められる一方で、プライベートではいつもふわふわしていると打ち明けます。特に読みたい本がありすぎて、どこから読むか決められずに「うーん」となっているそうです。桜林さんは、それを「ありすぎて迷うのは幸せ」だと返しています。
経営者なのに仕事とプライベートを分ける理由
話題は、24時間の中で仕事とプライベートをどう組み合わせるかに移ります。中里さんは、代表取締役として「あるまじき」かもしれないとしながら、仕事とプライベートをかなりはっきり分けていると話します。
中里さんの背景には、経営者はたくさん働いたほうがいいという社会の雰囲気があります。桜林さんはこの考え方をすぐに「呪いだよそれ」と指摘しています。
中里さんが仕事とプライベートを分ける理由は、自分のメンタルを守るためです。不登校や発達障害のお子さんと保護者に向き合う仕事では、傷ついている人と生身のまま対峙し続けると、自分も「食らっちゃう」といいます。
僕が分けないとスタッフが分けれなくなっちゃうから、分けなきゃなっていう感じで分けてるところは正直ある。
桜林さんは、仕事とプライベートを分けて仕事のパフォーマンスが上がるなら、むしろ分けるべきだと肯定しています。中里さんの場合、プライベートの時間にそもそも仕事が入ってこない状態をつくっているそうです。
仕事と私生活が入れ替わる「ぐちゃぐちゃパズル」
中里さんとは対照的に、桜林さんの1日のスケジュールは、仕事とプライベートが何度も入れ替わる「ぐちゃぐちゃ」なパズルだといいます。
何時から何時までは仕事、と決めたほうが楽なのは桜林さんもわかっています。それでもプライベートを優先したいから、仕事の合間にもプライベートの予定を入れているそうです。
空いてるとこに全部入れちゃえじゃなくて、何が大事かっていうのをわかってるから、多分そのぐちゃぐちゃパズルができるんだなって。
優先順位が苦手な人に桜林さんがこのスケジュールを話すと、「怖い」と言われたそうです。そこで桜林さんは、自分は優先順位をつけるのが得意なのだと気づきました。
二人の時間の組み立て方を並べると、違いがはっきりします。
仕事とプライベートをパキッと分け、プライベートに仕事を入れない
1日の中で仕事とプライベートを何度も入れ替え、大事な予定を合間に入れる
桜林さんが独立した大きな理由も、この時間の使い方にありました。会社員時代は保育園に合わせて9時から6時の勤務で、子どものことや、地方から友達が遊びに来るといった大事な予定があっても、仕事が固定なので動けないことに強いストレスを感じていたそうです。
仕事なんてどっかでやればいいじゃんとか、絶対私にとって大事なこと、なんで後回しにしなきゃいけないんだみたいなストレスがすごい強かったから。
一方で桜林さんは、フリーランスで「自由にしていいよ」と言われたばかりに、詰め込みすぎて体を壊す人も多いと話します。桜林さん自身は、「休み」という予定が入っていると言って仕事を入れないことができるそうです。
健康を後回しにしない。人生は時間でできている
働きすぎてしまう人について、桜林さんは「自分の睡眠時間とか健康のことなんだと思ってんの?」と感じてしまうといいます。わかっていても一向に優先しない人の感覚が、桜林さんには理解しにくいようです。
桜林さんは昔から、健康も遊びも趣味も仕事も全部をパズルの項目として扱い、「今週はこれが大事」と自然に決めてきました。ただ、それができない人に教えるのはとても難しいと感じています。
中里さんが手帳に予定を書いていたかを尋ねると、桜林さんはあまり記憶がないと答えます。会社員時代は会社と子育てで時間が埋まっていたため、自分の得意に気づく機会がありませんでした。この得意は、タイムスケジュール管理とは別物だといいます。
大げさなことを言うとさ、人生って時間じゃないですか。で、1日とか1週間とかも時間だから、時間をどこの何に使うかってほぼ人生じゃないって思ってるから。
中里さんは、この話は自己決定 ── 自分の生き方や行動を、他人や社会に委ねず自分で選び決めること。子育てや福祉の分野でも重視される考え方ですにつながると受け止めます。自分で決めることを続けていないと、社会からの要請に流されがちになるという見方です。
桜林さんは、会社員として仕事がどんどん降ってきたり、子育て中に子どもの時間が優先になったりする期間は、しかたがないと認めています。そのうえで、子どもがとても小さい時期を過ぎたら、自分の時間を取り戻してほしいと話しています。
時間は「足す」より先に「空ける」
中里さんは、強引に時間を作らないと、自分のやりたいことは考えにくいと話します。転職時の1ヶ月の有給で海外に行ったときなどに、本当にやりたかったことを思い出すことがあるのではないかという見方です。
桜林さんは、時間の使い方のコツを「一回先に空ける」ことだと表現します。
空けば何に使うかを考えるじゃん。なんか空けんのが先なんだけど、空けるをやっぱみんなしないでどんどん足すからさ、ギュウギュウになってさ。
先に空ける
有給のように、まず予定のない時間を確保する
考える
空いた時間を何に使うかを考える
入れる
大事なことをそこに入れる
話はヨーロッパのバカンスに広がります。中里さんは、以前の回で取り上げたコテンラジオの女性の社会進出の話を引き、ドイツはジェンダーギャップが小さく、育児と仕事の男女のバランスが良いうえに、1ヶ月の休みが普通だと紹介します。そして、結局は社会の構造の影響が大きいと話しています。
桜林さんは、お菓子の業界にいた経験から、ヨーロッパに修業に行った日本人の話を紹介します。フランスでは家族優先が当たり前で、日本人が仕事第一で働いていると「何のために働いてんの?」と言われるそうです。
家族の時間のために働き、長いバカンスが当たり前
仕事第一になりやすく、長期休暇はなかなかない
中里さんは、会社のために働く姿勢は会社からは美徳に見えるものの、入社前にそう考えていた人はいないはずだと話します。桜林さんも、家族や自分のやりたいことを大切にするほうが健全だと応じています。
3週間のバカンスがあったら何をする?
桜林さんが「3週間バカンスだったら何する?」と尋ねると、中里さんにははっきりした優先順位がありました。いちばんの希望は、ネパール側からヒマラヤに登ることです。
今はもうとにかく割と一番優先順位高いのはヒマラヤ登ってみたいわけね。ネパール側から登ってみたい。
ほかにも、音楽的に好きな国であるアイスランドとアルゼンチンに行きたいそうです。ヒマラヤは村に泊まりながら長く登る旅をしたいので、体力のあるうちに行きたいと、中里さんは今もトレーニングを続けています。
桜林さんは逆に、3週間の休みがあっても何も思い浮かばないかもしれないと話します。1泊2泊の旅行に何度も行くような、日々の中にちょこちょこ休みを入れるほうが好きだからです。
でも日々休んでばっかりとも言える。だから(長い休みは)いらないの。
桜林さんは、お菓子業界でクリスマスやお正月など、人が休んでいる時に働いてきました。全員が休む年末年始のような期間は、何をしていいかわからなくなるそうで、そうした環境で身についた癖かもしれないと話しています。
バカンスは有給で、家族で今年のバカンスに何をするか話し合い、そのために働く家庭も多いのではないか、と二人は話します。ただ日本では、長いバカンスより毎週3連休のほうが望まれていそうだと桜林さんは見ています。
長い休みで深まる思考と、内省するか外に求めるか
中里さんは、西表に1週間ほど滞在したとき、普段は考えられなかったことを深く考えられたと振り返ります。土日の2日では足りず、それなりに長い期間、日常から切り離さないと人生のような長期のことは考えにくいといいます。
1ヶ月を休むを一回やってみたら、そこで長期にやりたいこととか、もしかしたらムクムク湧いてくるかもしれないから。
これに対して桜林さんは、人生について普段の仕事と切り離して考えることを、ロイホ ── ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」の略称で3時間あればできてしまうと話します。切り替えの速さも人によるのかもしれないという見方です。インドで自分探しをしたいという発想は昔からなく、旅行もほとんどが友達に会いに行くためだそうです。
中里さんは、桜林さんの本を読んで、内省の中で物事を決めるタイプだと感じたといいます。中里さん自身は、コミュニティを運営していることもあり、何かあると外部に助けを求めがちで、西表でも人との出会いから影響を受けたそうです。
日常の中で、短い時間でも自分の内側で深く考えて決める
長い休みや人との出会いなど、外からの刺激で考えが深まる
桜林さんは「自己完結はつまらない」と言いつつ、違うやり方も試してみようかと、まず1ヶ月休むことを考え始めます。自営業には有給がないという現実もありますが、二人はこの話を「いい妄想テーマ」として締めくくりました。次回は「叱らない育児」の呪いがテーマだと予告されています。
まとめ
この雑談回では、優先順位をつける力の違いから、仕事とプライベートの組み立て方、ヨーロッパのバカンス文化まで話が広がりました。共通していたのは、時間の使い方を自分で決めることが、そのまま人生の使い方につながるという視点です。
- 桜林さんは、何が大事かがわかっているから、仕事と私生活を細かく入れ替えるスケジュールを組めると話しています
- 中里さんは、自分とスタッフのメンタルを守るために、仕事とプライベートをはっきり分けています
- 時間は足すより先に空ける。空いて初めて、何に使うかを考えられます
- 子育て中は自分の時間が後回しになりがちですが、子どもが小さい時期を過ぎたら取り戻してほしいと語られました
- 長い休みで考えが深まる人もいれば、日常の中で内省できる人もいて、時間の使い方はタイプによって違います



