雑談回3回目は、Branchの自己紹介から
番組「親の『のろい』をとくラジオ」の雑談回は、今回で3回目です。2回目に鬼滅の刃やゲームの話をした中里さんは、リスナーには興味がなかったかもしれないと振り返ります。そこで今回は、中里さんと桜林さんが普段どんな仕事をしているかを、あらためて話すことにしました。
あと(から)、あれ(2回目の雑談)はさすがにリスナーさん興味なかったんじゃないかな。
自己紹介にはなるけど。
桜林さんが「Branchってどうやって入るのか、知らない人も多いかも」と話を振り、中里さんがBranchの仕組みを説明します。Branchには、オフラインの場所とオンラインの場所があります。
東京都渋谷区代官山にある収録場所。基本はお子さんと1対1で遊ぶ、フリースクールのような形
オンラインでお子さんと1対1で遊ぶ時間に加え、Discord上のコミュニティで子ども同士が遊べる場
オンラインのブランチホームプラスでは、Discord ── ボイスチャットやテキストチャットでコミュニティをつくれるアプリ。ゲーム仲間の集まりなどでよく使われていますというアプリを使っています。Branchに通うのは不登校や発達障害のお子さんが多く、そうしたお子さんを育てる保護者もたくさんいるといいます。
中里さんが今回特に伝えたかったのは、Branchが親や家族の支援にも力を入れていることです。保護者向けのDiscordコミュニティでは、発達の特性や不登校の悩みが書き込まれると、ほかの親御さんがしっかり答えてくれる空気ができているそうです。
Branchの保護者のつながりは、テキストだけではありません。オンラインの保護者会を公式に開いているほか、親御さん自身がオンラインのお茶会を企画することもあるといいます。
オンラインで生まれた親友と「斜めの関係」
Branchのオンラインには北海道から沖縄まで全国の家庭が参加しており、仲良くなった子ども同士が県をまたいで会いに行くこともあります。東京から岡山へ、関東から九州や四国へ会いに行った例もあるそうです。
中里さんによると、ブランチホームプラスが始まったのはコロナ禍でした。外に出られず学校も閉じていた時期に、オンラインで知り合った子ども同士が親友のような関係になっていったといいます。
リアルの友達と遊べてないんだけど、オンラインのブランチの中でめちゃめちゃ仲良くなって、親友みたいになってて。
1年ぐらい経った時、(子どもが)「お母さん、何々ちゃんと会いたい」みたいに言ってくれて。
Branchの中では、中里さんたちが「斜めの関係」と呼ぶつながりも生まれています。たとえば、A家族の子どもが、B家族のお母さんとゲーム友達になるような関係です。
Branchに来る子どもの中には、長いあいだ親としか話していない子や、「死にたい」と口にするほど自己肯定感が下がっている子もいます。そうした子が自分と似た友達に出会い、めちゃくちゃ元気になっていくことがあるそうです。
人との出会いによって元気になっていってもらうみたいな場作りをできたらいいなと思ってやってるような感じですね。
Branchへの入り口についても、中里さんが説明しています。「ブランチ 発達障害」や「ブランチ 不登校」で検索するとホームページが出てくるので、そこから無料体験か親御さんの面談を申し込めるそうです。そこまでではない場合は、公式LINEに登録すると発達や不登校についての情報を受け取れます。
中里さんは、Branchに限らず入り口をいくつも持っておくことを勧めています。LINE登録などはお金がかからないので、悩みがあるなら選択肢を増やしておくのがよいという考えです。
桜林さんは、Branchを必要としている人はもっといるはずだと話します。公共の福祉にはたどり着けても、個人がやっている場をどこで知ればいいのかわからない、という難しさがあるからです。
家から出られない子と、同じ境遇の親が話せる場
中里さんがオンラインの場を大事にする理由は、不登校の子どもには家から出られない子が本当に多いからです。そうした子は学校に行けていないことに罪悪感を抱いていたり、登下校中の子に会うことを怖がっていたりします。
学校に行けなくなる
ほかの子が学校にいる時間に、外へ出ることにためらいが生まれる
罪悪感と恐怖
「自分のやりたいことをやるなんてダメだ」と思ったり、登下校中の子に会うのが怖くなったりする
外出を避ける
外に出るときも帽子を深くかぶるなど、家から出られない状態になる
民間の不登校支援といえば、リアルのフリースクールを思い浮かべる人が多いかもしれません。けれど中里さんは、そもそもフリースクールに通うこと自体が大変な子もいると話します。だからこそ、家から出なくても人とつながれる場が求められていると考えています。
桜林さんは、コロナ禍で多くの人がZoomなどのオンラインツールに慣れたことを、よかった点として挙げます。桜林さん自身も、ほかに手段がなかったコロナ禍にZoomの使い方を覚えたそうです。
中里さんは、親御さん、特にお母さんたちの話も紹介しています。人とのつながりを築けなくなったことでストレスを抱えた女性はコロナ禍で増えたものの、オンラインで少し悩みを話したり雑談したりできるだけで楽になった面もあったのではないか、という見方です。
いかに日々おしゃべりでストレスを解消してるかみたいなことはあるよね。言えるだけでいいみたい。
中里さんは、おしゃべりの相手が誰かも重要だといいます。学校のママ友やパパ友は、学校に通う子をもつ親です。不登校の子の親とは話が合わないこともあり、「何々くんはなんで学校に来ないの?」と聞かれてつらくなる場面もあるそうです。
結局自分と同じような環境にいる方と話せるかどうかっていうのも、親御さんの心を楽にするって見ると大事かな。
コロナ禍に始まった「サクちゃん聞いて」と雑談の人
話し手は交代し、桜林さんが自分の仕事を紹介します。桜林さんのメインの仕事は、雑談サービス「サクちゃん聞いて」です。1人と月に1回90分、オンラインで雑談し、それを5回連続、およそ半年かけて続けます。
桜林さんは「サクちゃん聞いて」を一人で運営しているため、申し込んだ人を全員受けることはできません。募集期間に応募した人の中から一部の人と話しており、それでも回数は月に50〜60回ほどになるそうです。
「サクちゃん聞いて」も、コロナ禍で形が変わったサービスです。本当は対面で始めるつもりでしたが、カフェで対面の雑談ができたのは最初の1回だけでした。
みんなが家に閉じ込められておしゃべりができないみたいな感じだったのもあったから、今やらないでどうすんだと思って。
オンラインで同じことができるのか、桜林さんは半信半疑だったそうです。けれど始めてみると、海外や地方に住む人ともつながれるようになりました。桜林さんは、家から出られなくても話せることもオンラインのよさだと話しています。
「雑談の人」という肩書きを名乗り始めたのも、「サクちゃん聞いて」を始めた時期です。もともと存在しない仕事を自分でつくったため、インタビュー記事などで肩書きを求められたときに「雑談の人」と答えるようにしたといいます。
勝手に作るの得意。だってないんだもん。
桜林さんは、オンラインの雑談の中だけでは活動が外に広がらないと考えています。そこでポッドキャストで話したり、文章を書いたり、本を出したりしています。リスナーには、自分がどんな人かを知ってもらい、「この人なら話してもいいかな」と判断する手がかりにしてほしいそうです。
(多才というより)まあ一個だよ。同じものの出し方を変えているみたいな感じだけどね。
雑談本ブームと、小手先ではない雑談
中里さんは、桜林さんが「雑談の人」を名乗り始めた2020年のあとから、時代が追いついてきたように感じているといいます。ここ2年ほどで、雑談の苦手さをテーマにした話題が急に増えたからです。
桜林さんも、本屋で雑談力やハウツーの本が増えたことを実感しています。ただし、そうした本の多くは、上司とのアイスブレイクのようなビジネススキルとしての雑談を扱っていると、二人は話しています。
いいんだけどね、別にそれはそれで。
桜林さんは新書『あなたはなぜ雑談が苦手なのか』を出しています。この本は、表面的に雑談をうまくこなす方法ではなく、1人と90分じっくり向き合う雑談の中で何が起きているのかを、しつこく掘り下げた内容だといいます。
雑談に応募する7割が「苦手」と言う理由
桜林さんが不思議に思っていることがあります。「サクちゃん聞いて」に自分から応募してきた人のうち、7割ほどが「私、雑談が苦手なんです」と言うのです。
7割ぐらいの人が「私、雑談が苦手なんです」っていうわけ。だけど、雑談に応募してくれて。
雑談が苦手だという人に話を聞くと、人を警戒して怖がってしまう、相手を信用できない、どう思われるか気になる、話すより聞くほうが楽だ、といった声が出てくるそうです。桜林さんは、雑談そのものより、その裏にある人と関わることへの恐れに興味を持ちました。
中里さんは、ハウツーで終わりがちなビジネス雑談とは違い、桜林さんの雑談は悩みを聞くうちに、その人の根本にある悩みに行き当たるものだと受け止めています。
一方で桜林さんは、自分はカウンセラーや精神科医ではないので、悩みの深いところに踏み込むことはしないと断っています。それでも、自分の話をすることは、表面的に相手とうまく話すことではないと考えています。
めっちゃ考えてるけど、「じゃああんたどうしたいの?」って言われたらわかんないみたいなことがやっぱり多いから。
桜林さんは、多くの人が自分の話をできないのは、話す場がないだけだと考えています。場さえあればみんなめちゃくちゃ喋るというのが、5年間雑談を続けてきた桜林さんの実感です。桜林さんは、場所をつくるという点でBranchと同じかもしれないと話します。
二人の仕事をつなぐ「安心と余裕」
中里さんも、人の話を聞くことや、そこから見えてくるものへの関心が、桜林さんとの共通点だと感じてきたそうです。Branchを始めてから、その関心はさらに強くなったといいます。中里さんは、話す場がない状態にもいくつかのパターンがあると整理しています。
- 周りの人がずっと喋っていて、話す隙がない
- 話すための勇気が出ない
- 言葉にする語彙が足りない(子どもの場合)
中里さんは、本人が思いを吐き出せる環境をどうつくるかに関心があると話しています。桜林さんは、二人が提供しているのは「安全な場」という点でまったく同じだと応じます。
安全で、ここでは何言っても大丈夫だって思える場にさえ来ればめっちゃ喋るし、自分でもびっくりするみたいなことが話せたり。
桜林さんによると、そうした場で出てくるのは秘密の話とは限りません。聞く側には何でもないことでも、「話したことがなかった」「自分がこんなふうに思っているとは思わなかった」という言葉が出てくることがあるそうです。
桜林さんは、社会全体で安全な場が足りていないと話します。二人は「安心と余裕がドンキに売っていたらいいのに」と冗談を交わし、似た仕事をしていることをあらためて確かめ合いました。回の最後には、次回のテーマが「過干渉になってしまう呪い」であることと、ジャパンポッドキャストアワード2025のリスナー投票の案内がありました。
まとめ
不登校の子と親のためのBranchと、大人の雑談サービス「サクちゃん聞いて」は、どちらもコロナ禍のオンライン化を経て、安心して話せる場として育ってきました。
- Branchは代官山の対面の場とオンラインの場を用意し、家から出られない子どもや、同じ境遇の親同士がつながれるようにしている
- オンラインでの出会いをきっかけに、県をまたいで会いに行く親友や、家族をまたぐ「斜めの関係」も生まれている
- 「サクちゃん聞いて」は2020年にオンラインへ移り、月50〜60回の雑談を丸5年近く続けている
- 雑談が苦手という人の背景には人への恐れがあり、桜林さんは足りないのは話す力ではなく話す場だと考えている
- 二人の仕事は、社会に足りない「安心と余裕」を感じられる場をつくるという点で共通している



