「手抜きしてはいけない」思い込みは、一人では解けない?
第12回の冒頭で、中里さんと桜林さんは前回のテーマ「手抜きしてはいけない育児」を振り返りました。自分の中のハードルを高く設定し、「これじゃダメだ」と自分を責めてしまうのは、二人とも「あるある」だといいます。
中里さんは、こうした呪いは周りと比べることで生まれているかもしれないとしたうえで、一つの家庭の中だけで解くのは難しいのではないかと話します。周りの人に見てもらったり、会話をしたりすることで初めて解けるものもある、という見方です。
そうだね、思い込みだからね。なかなか一人じゃ難しい。
桜林さんはさらに、自分を責める癖は育児で突然出てくるものではなく、もともと持っている癖かもしれないと付け加えます。育児中の家は密室になりやすく、どんな癖が出てくるかわからないといいます。
中里さんは、他の家庭の子育てを10家庭ほど見られたら「ちょっとやりすぎてたな」と気づけるかもしれないと話し、桜林さんも「こんなもんでいいんだ」と見せてあげたいと応じました。
桜林さんが思い出したのは、保育園での親同士の会話です。働きながら子育てをする親が多い保育園では、「うちなんてこんなダメだよ」と自虐し合うのがしょっちゅうだったといいます。
昨日も(夕食は)サイゼリヤだったよみたいなこととか。保育園って結構そういう感じだったな。
桜林さんはこれを「みんなでハードルを下げる」営みだと表現しました。中里さんも「サイゼリヤブームを作りたい」と笑い、子どもも喜び財布にも優しいと二人で盛り上がっています。
小学校の先生の対応が忘れられない、というお便り
ここから今回の相談の紹介に入ります。今回の呪いは「過去のトラウマから学校の先生を恨んだり、自分を責めてしまう」というもので、桜林さんがお便りを読み上げました。
息子は中学1年です。新しい環境が苦手です。持病があり、発作が起きる要因のほとんどがストレスです。学校には現在行けていますが、つらそうな時もあります。私は息子が何度も発作から入院してつらいところを見ているので、体調を崩すぐらいなら学校なんて行かなくていいと思っています。
不登校になった時、親の対応とともに学校の対応が重要だと思います。そんな時、守ってくれる先生もいますが、本当にひどい対応の先生もいらっしゃいます。そのせいでさらに子供が傷ついてしまうのが本当にかわいそうです。
私は子供の小学校時代の先生の対応に納得いかなくて、いまだに急にどうしようもなく怒りが湧いてしまいます。中学の先生方はいろいろ配慮してくださるのに、少しでも違和感を感じると小学校の頃を思い出し、何も信じられない気持ちがよみがえってしまいます。
自分が悪いのではないか。私の先生への言い方が悪くてうまく通じていないのではないか。また、私が先生の機嫌を損ねてしまい、嫌われているから、息子がこんな不当な扱いを受けるのではないかと思ってしまいます。早くこの呪いから逃れなければと必死にもがいています。
相談者の苦しみは、小学校の先生への怒りと、自分の言い方が悪かったのではという自分責めの両方にあります。しかも、今の中学校の先生は配慮してくれているのに、少しの違和感で過去がよみがえるという点が、この相談の難しいところです。
一度嫌な思いをすると、なぜ「これもか」と疑ってしまうのか
お便りを聞いた桜林さんは、一度嫌な思いをすると「これもか」となってしまうものだと受け止めました。中里さんも、昔の経験が思い返されてしまう点で「トラウマチック」だと話します。
その当時ね、小学校の先生に嫌な対応をされた時に、怒りをうまく出せなかったのかもしれないですね。
中里さんも、相談者は先生に直接言えていないのかもしれないと応じます。桜林さんは、その怒りがくすぶって今でも出てきてしまうのではないか、そして目の前の中学校の先生は違うのに出てきてしまうと困る、と続けました。
中里さんは、Branchの保護者に近い話があったと紹介します。その家庭は小学校で先生と合ったり合わなかったりし、合わない時期は子どもが学校に行けなくなり、親も自分のことのようにストレスを抱えていたといいます。
その保護者は、子どもが中学2年、3年と進むなかで良い対応をしてもらう経験を重ね、昔のことをあまり思い出さなくなったそうです。中里さんは、相談者の息子さんはまだ中学に入って半年ほどなので、時間とともに軽くなる面は正直あるだろうと話しました。
桜林さんは、せっかく中学校で良い経験を積める環境なのに、親が疑ってかかったり斜めに見たりすると、すれ違いや誤解が生まれかねないと指摘します。中里さんも、先生も人なので、疑ってばかりで言い過ぎると良くは思われないだろうと続けました。
桜林さんが例に挙げたのは、娘さんが不登校で学校に不信感を持っていた母親との雑談です。その母親は、スクールカウンセラーも先生とつながっていると感じて心を開けず、不信が消えない状態だったといいます。
痛い目見てもいいからっていうとおかしいんだけど、一回嘘でもいいから信用する態度をとってみたら?みたいな。
その母親が実際に思っていることを話してみたところ、スクールカウンセラーや先生もやっと本音で話してくれるようになったそうです。桜林さんは、信頼関係は相手がやってくれたらこちらもやるものではなく、こちらにできるのは自分から開くことぐらいだと話します。
学校は「どこも同じ」組織ではなく、人の集まり
中里さんは、本音で話した結果本音が返ってきたという桜林さんの話を受け、人は公教育や病院のような場を「どこも同じレベルであるべき組織」と捉えがちではないかと指摘しました。
でも学校の中にももちろん方針はあるとしても、一人一人先生方も考えも結構違ったりとかして。
中里さんによれば、人として見れば一人ひとり違うのは当たり前なのに、組織として見ると「小学校も中学校も公教育だから同じ考えのはず」と期待してしまい、ズレが生じやすいといいます。中里さんと桜林さんが話した、学校の見方の違いは次のように整理できます。
公教育だからどこも同じ対応をするべきだと期待し、違うとズレや不信が生まれやすい
先生一人ひとり考えも相性も違うのが当たり前で、疑わずに接すれば相手も疑わずに接してくれる
一方で桜林さんは、実際には「外れ」の先生もいて嫌な思いをすることもあると率直に認めます。中里さんも「それはある」と同意しました。
せっかく卒業したのにね、卒業したのに引きずってると、まあ単純にいいことが起こらないっていうだけでやめた方がいいなって思っちゃう。
経験者の保護者が寄せた「自分は悪くない」という言葉
中里さんは今回のお便りをBranchの保護者にも共有し、回答をもらったと紹介しました。中里さんが読み上げたのは、似た経験をした保護者からの言葉です。
Branchの保護者さんからの回答は「うちの子も登園しぶりの際に園長先生から厳しくされ、気持ちがふさぎ込み、引きこもりのような状態になりました。小3の頃にはぶん殴りたいと怒りを言葉にし、恨みを抱えた表情に私も怖さを抱えました。でも、気持ちを吐き出せたことは一歩だったのかもしれません。さらに火災被害にも遭い、なぜ小さいうちにと胸が痛みましたが、半年ほど実家で過ごし、少しずつ癒えてきました」。
Branchの保護者さんの回答の続きでは、当時読んだ青木翔三さんの本『僕らの中のトラウマ』からの学びとして「自分は悪くないと繰り返し心に言い聞かせること。周囲からのあなたは悪くないという言葉も支えになる」「愚痴は攻撃ではなく、心の重荷を下ろす力。吐き出すことで軽くなる」「孤立は回復を遅らせる。趣味やコミュニティなど、ここにいていいと思える場が癒しになる」が挙げられています。
Branchの保護者さんの回答は最後に、加藤太造さんも「怒りを抑えると不安となり、自分に向かう」と述べているとし、「相談者さんのもがきも、時間とともに少しずつ軽くなりますように」と結ばれていました。
中里さんは読み上げの途中で、火災被害とは家が燃えてしまった被害のことだと補足しています。また、加藤さんについては社会学者の方のようだと紹介しました。
先生の一言で、子どもが5年間外で話せなくなった
保護者の回答を聞いた桜林さんは、相談者のお母さんのトラウマばかりを考えていたことに気づいたといいます。
(合わない先生によって)お子さんももしかしたら怒りや恨みが先生に対してあるかもしれないから、いやまずそっちだわって思った。
中里さんは、お便りの書き手はすでに子どもも怒りを持っていた前提で書いているのかもしれないと応じます。桜林さんも、先生の対応を直接受けている子どものほうが、親より影響を大きく受けるはずだと話しました。
中里さんによると、学校を休んでいる子どもは学校についてネガティブなことを口にすることが多く、最近も「学校のルールなんてクソだ」といきなり言われたことがあったそうです。桜林さんはそれを「いいね」と受け止めています。
中里さんがBranchを始めたばかりの頃に出会った子どもは、小学校に入った直後、教室でみんながいる前で担任の先生に強く怒られたことがきっかけで、家族以外の前では話せなくなっていました。中里さんが出会ったのは小5の頃で、それまで5年間その状態が続いていたといいます。
(先生の一言で)5年間外で喋れなくしちゃってるんですよ。
怒りをしまい込まず、気持ちを聞いてもらえる場はあるか
桜林さんは、怒るのは当然だとしたうえで、怒りを相手にぶつけるより、自分の怒りをちゃんと認めることが大事だと話します。「あいつが悪い」「合わない」「離れよう」と思えていれば、ここまで引きずらない気がするといいます。
桜林さんは、保護者の回答にあった「怒りを抑えると不安になり、自分に向かう」という言葉や、「自分は悪くない」「あなたは悪くない」という学びに触れ、許せないことがあったときの対応が大事だと強調しました。敵ばかりに見えてしまえば、中学校でも「また攻撃されるかもしれない」と思うのは自然なことだとも話しています。
中里さんは、Branchでの子ども同士のトラブルへの対応を紹介しました。スタッフが子どもを怒ることは基本的になく、トラブルのときもどちらが悪いと断罪はしないようにしているそうです。片方の子にとっては「怒られた」という経験につながってしまうからです。
でもその断罪はしない代わりに、気持ちとかどう思ったのかとか、気持ちを聞かせてもらうっていうのは基本しようとしていて。
「嫌だった」「怒った」「悲しかった」と言えるかどうかについて、桜林さんは、言えるのとしまってしまうのとでは全然違うと応じました。
中里さんは、気持ちを聞いてくれる存在が周りにいることが大事だと話します。相談者が当時、子どもの気持ちを丁寧に聞いていたのだとすれば、それは子どもにとって救いだったはずだと伝えました。
過去の怒りは、なぜ似た場面で暴発するのか
桜林さんは、怒りの扱い方は本当に難しく、似た案件が出てきたときに過去の怒りが同じ熱量で出てきてしまうことがあると話します。中里さんはそれを「マグマのように」「フラッシュバックみたいな」と表現しました。
自分が例えば裏切られて怒ったことを、どっかで他の人が裏切られた時に一緒に怒っちゃうとか。
桜林さんによれば、過去の怒りなのに「今自分は怒るべきだ」と正当化してしまうこともあり、それは怒りの取り扱いがうまくいっていないから暴発するのだといいます。SNSでずっと怒っている人や、関係のない芸能人の不倫に怒ってしまう人も、かつての怒りが解消できていないのかもしれないと話しました。
中里さんは、これがまさに今回の相談に当てはまるのではないかと話します。二人の話をつなげると、怒りが暴発する流れは次のようになります。
当時
小学校の先生の対応に怒りを感じたが、うまく扱えずにくすぶる
似た場面
中学校で少しでも疑いを感じることが起きる
暴発
人も学校も違うのに、小学校時代の強い疑いや怒りが一気に出てくる
ドーンって出てきちゃう。本当は関係ないんだけどね。
癒すべきは今ではなく「当時の傷」
桜林さんは、自分はプロではないと前置きしたうえで、小学校時代の息子さんの怒りと親自身の怒りを見直すことを提案しました。「あれは本当に嫌だった」「なぜならこうで、これが許せない」「あいつが悪かった」と捉え直すことだといいます。
さらに桜林さんは、「何かあったらすぐ言う」「合わない人なら逃げる」「相性はある」など、次はこうしたいという考えに変わっていけば、過去の怒りは出にくくなるのではないかと話しました。そんなに簡単ではないかもしれない、とも添えています。
当時の先生に直接言うことについて、桜林さんは「言わなくていいんじゃない」と話します。相手は変わらず、さらにムカムカするだけだからです。代わりに、過去の怒りの扱いが下手だと伝えてカウンセラーに聞いてもらうのでもよいといいます。
中里さんは、傷を癒さないままだと高校や大学でも少しの疑いから小学校時代を思い出してイライラするかもしれないと話します。桜林さんも、自分のしたことではない怒りをぶつけられた相手は戸惑い、本来の怒りを全うに怒れなくなってしまうと指摘しました。
中里さんは、相談者が「親の対応とともに学校の対応が重要」と他の家庭の子どものことにも触れている点に注目します。SNSで他の家庭が学校にないがしろにされたという話を見たときにもイライラしているのではないか、つまり「沸騰ポイント」がかなり多い状態ではないかと話しました。
社会を変えたりとかさ、社会や学校に大きな怒りをぶつけることの前に、やっぱり自分の傷が先だと思うから。
中里さんと桜林さんが挙げた、当時の傷を癒すための道筋は次のように整理できます。
話を聞いてもらう相手として、中里さんはカウンセラーに加え、不登校の子どもを持つ保護者を挙げます。カウンセラーは話を聞くプロであり、似た経験をした人はどう考えても共感してくれるからです。
わかりますっていう風になる。わかりますって言われる効果ってすごいある。
中里さんは、不登校のママ友やパパ友がいるなら、そうした人に聞いてもらうのもとても良いと締めくくりました。次回は、母が望む子どもの姿を長年演じてきたという呪いを取り上げる予定です。
まとめ
今回の相談は、子どもの小学校時代の先生への怒りが今も湧き、自分を責めてしまうというものでした。中里さんと桜林さんは、過去の怒りが似た場面で暴発する仕組みを確かめ、今の中学校の先生を疑う前に、当時の傷を癒すことが先だと語っています。
- 親が自分を責める思い込みは一人では解きにくく、周りと話してハードルを下げることが助けになる
- 学校を「どこも同じ組織」ではなく人の集まりと見て、こちらから信用する態度をとると関係が変わることがある
- 先生の一言は、子どもの人生を変えるほどの影響力を持ち、子ども自身の怒りにも目を向ける必要がある
- 扱えなかった過去の怒りは、関係のない似た場面で暴発しやすい
- 当時の傷はカウンセラーや似た経験の保護者に聞いてもらい、「わかります」と言われることで癒していける



