都心のレトロマンションが「北朝鮮化」?ルポ『秀和幡ヶ谷レジデンス』
本題の前に、中里さんは桜林さんから紹介された本『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』を2週間ほど前に読み終えたと話します。ノンフィクションにハマっていると中里さんが話した際、桜林さんが薦めた一冊だそうです。
秀和レジデンスは、白いタイルの壁に青い屋根が特徴の高級レトロマンションです。東京には多く建っていて、写真を見れば「これね」とわかる人も多いと中里さんは説明します。
舞台の幡ヶ谷の物件は、渋谷区にあり新宿からも近い都心の立地です。それなのに管理組合のルールが厳しすぎ、本の中では「渋谷の北朝鮮」と表現されていたといいます。
本によれば、30何年間も理事が変わらない独裁状態が続き、住民がそれに立ち向かいます。最初は理事側に叩き潰され、嫌がらせも受けながら、3つか4つの団体が入れ替わって最後に勝利する流れだと中里さんは紹介します。
熱いでしょう。ちょっと少年ジャンプ並に熱い。
最後の一二章がもう熱すぎて、すごいこれおすすめです。
解決したのはコロナ以降のつい最近のことで、近くに住んでいた2人は「最近までそんなことがあったのか」と驚きます。桜林さんは青山ブックセンターの夏の選書でも、空気を読まずにこの本を薦めたと笑います。
桜林さんが面白さとして挙げたのは、独裁側の人がなぜそうなったかまで描かれている点です。中里さんは、票を集めていく展開に政治の縮図を感じ、思わぬ人がキーマンになるリアルさも2人で楽しんだようです。
いや、人間って一言じゃ言えないなみたいな。
ただし、親子の話はほとんど出てこないため、好みは分かれるかもしれないと2人は付け加えています。
レモン豆腐さんの「呪いが解けた」お便り
今回のテーマは「食事は2人並んで一緒にいただきますを言うべき」という呪いです。読まれたのは相談ではなく、べき思考を手放したときのエピソードを伝えるお便りでした。
息子は中度知的障害のあるASDの中学2年生です。今回は相談ではないのですが、私にもこんなべき思考があったなと思い出し、それを手放した時のエピソードをお話ししたくてメールしました。
夫は毎晩帰宅が遅く、23時近くなることも多かったので、私は毎日ワンオペで密室育児でした。特に指しゃぶりをしている姿を見ると、乳幼児健診で年配の医師から「もっと構ってあげてね」と言われたことを思い出してとても悔しかったです。
ある日、いつも通り夕飯の支度に切羽詰まっていた時、ふと、もういいや、居酒屋スタイルってことにしちゃおうと急に開き直る瞬間が来ました。居酒屋スタイルとはできたものから順にカウンターから出すことです。
それまでの私は、食事は2人並んで一緒にいただきますを言うべき、2人きりなんだから、なおさら一人にさせてはいけないと必死でした。
ある日、急に完璧じゃなくてもできたものからカウンターから出すのでもいいじゃないかと思いました。そうしたらすごく楽になりました。できる時はできるし、できなくてもそれでいい。
中学生になった今、相変わらず夫の帰宅は遅く、平日は2人で食事をしていますが、特に問題はなさそうです。息子が成長しても、その都度新しい呪いは出てきますが、少しずつ開き直り方もうまくなっていくのかもしれませんね。
レモン豆腐さんの息子の特性がわかったのは2歳半の頃です。調理から配膳までを1人でこなしながら、時間にこだわりのある息子に気を遣い、テレビの見せっぱなしや指しゃぶりで自分を責める日々だったと綴られていました。
2人並んで一緒にいただきますを言うべきと必死で、毎日の支度が本当にしんどかった
居酒屋スタイルでできたものから出すことにし、すごく楽になった。今も特に問題はなさそう
ちなみに息子の指しゃぶりは、小学校に上がってしばらくしてやめたそうです。指にタコができ、皮膚科で液体窒素で焼かれて懲りたようだと書かれていました。
育児書ではなく自分で導いた答え
お便りを聞いた中里さんは「解けましたって話ですね」と拍手を送ります。桜林さんは、開き直る瞬間は計画してできるものではなく、急に「もういいや」と訪れるものだと受け止めます。
中里さんが評価したのは、レモン豆腐さんが育児書の内容をインストールするのではなく、家庭の事情や子どもの観察から、自分で試して答えを出している点です。
自分が考えて、自分が観察して、自分でやってみて、これじゃできないからこうやってみようっていう風に、自分で答えを導き出してるじゃないですか。
桜林さんは、試したやり方で罪悪感が勝つなら、また別の方法を試せばいいと続けます。
中里さんは、そもそもご飯を作っている時点で素晴らしく、悪いことは何もないと強調しました。
「全部揃えてせーので食べる」はなぜ必要?
桜林さんは、親子は一緒に食事をするべき、全部揃えてから食べ始めるべきといった考えは、刷り込みでしかないと話します。なんとなくそのほうがいいと思っていても、理由を問われると答えられないというのです。
(揃えて食べることに)無理しても、別に誰か望んでるわけじゃなかったりするから。
中里さんは、呪いが解けた理由を、切羽詰まったときにクリエイティブになる現象に重ねます。皆に当てはまるかはわからないと前置きしつつ、ギリギリの状況だから生まれる工夫があるのかもしれないと話しました。
切羽詰まる
夕飯の支度に追われ、もうこれしかないという状況になる
工夫が生まれる
できたものから出す居酒屋スタイルを思いつく
呪いが解ける
一緒にいただきますを言うべきという思い込みが同時にほどける
桜林さんは、居酒屋スタイルなら出来たての熱々が食べられると利点を挙げます。中里さんも、母親が少しずつ料理する姿を見て、息子が配膳を手伝うようになるかもしれないと想像しました。
諦めは「明らかにする」こと
桜林さんは、こういう育児をしたいという期待や「べき」が強いとき、それを解くのは意外にも開き直りや諦めだと語ります。一見よくないものでも、突破口になるならいいというのです。
優先順位が得意っていうとすごいいいことだけど、要は諦めが早いんですよ。私は。
桜林さんは、できないことを許し、それなら何だけはやろうかと考えることを、自分の諦めの早さと重ねています。べきを解くものは、意外とそんなにいいものでもないという見方です。
中里さんは、為末 ── 元陸上選手の為末大さん。400mハードルで世界選手権の銅メダルを獲得し、引退後は著書や講演で活動していますさんの本『諦める力』だったかと記憶をたどりながら、諦めるの語源を紹介します。
諦めるって古文でいうと明らかにするっていう意味なんだよね。
中里さんによれば、諦めることは自分にできる範囲とできない範囲を明確にすることでもあるといいます。
豪雨の帰り道で「修行僧」になった日
桜林さんは、娘が保育園の頃の思い出を語ります。お迎えの帰りに豪雨に遭い、買い物にも行けず最初はイライラしていたものの、どこかで「もういいや」となったそうです。
傘もない中、桜林さんは「もういいよ、行かない?」と歩き出します。驚いていた娘も途中から雨の中で遊び始め、桜林さんは木の枝から滝のように落ちる水にわざと当たり、修行僧のようになったといいます。
全てを諦めて、もう完全にバカになってんだけど、全て諦めてやった時に、その思い出とか、もう寝る前とかもそれ何回も思い出してて。
娘は笑い転げて立てなくなり、その後も寝る前に何度もその日の話をしたそうです。桜林さんは、何もかもうまくいかない状況を手放したら、意外とめっちゃいい思い出になったと振り返りました。
中里さんは「映画のワンシーンかと思った」と感心します。当時はゲリラ豪雨という言葉もなく、夕立のような雨だったと桜林さんは補足しました。
諦めから生まれる家の文化
中里さんは、レモン豆腐さんの家にも居酒屋スタイルという新しい文化が生まれ、子どもが後で「楽しかった」と言ってくれるかもしれないと話します。
桜林さんの家にも、諦めから生まれた文化があります。パン屋でいろいろなパンを買い、スープやサラダを添えて「今日の夜ご飯は朝ご飯です」と言うと、子どもが喜んだそうです。
私は手抜き。買ってきたパンにしたいけど、今日の夜ご飯は朝ご飯だよって言うと喜ぶ。
子どもが大きくなってからも「今日の夜、朝ご飯にしない?」という謎の文化が続いているといいます。中里さんは、こうした話がポンポン出てくることから、諦めて好転した話のお便りも欲しいと提案しました。
2人は、諦めた途端に好転した各家庭のエピソードを集め、集合知にしたいと話しています。中里さんはBranchの中でも聞いてみたいと意欲を見せました。
親がふざけて見せることの意味
桜林さんは、親が諦める場面では子どもも親のことを諦め、「そんなにちゃんとしてないんだ」とわかってくれると話します。
お母さんお父さんもふざけるんだって結構大事だよね。あと失敗するんだとかさ、そういうの見せるのも結構大事だよね。
桜林さんは、そうなればご飯とお風呂の順番などにもこだわらなくなり、「なんだっていいよね」と思えると続けます。
中里さんは、これまで「呪いを解いてほしい」というお便りが多かった中、「解けました」という話も楽しく、個別すぎるエピソードこそ本当の集合知になると話しました。
呪いと諦めは表裏一体
中里さんは、呪いと諦めることが密接につながっていると改めて感じたと話します。桜林さんも、諦めが早いという自分のネガティブな面が、思い詰めず変な頑張り方をしない点でいい方向に働いていたと振り返ります。
中里さんは、諦める、捨てる、開き直るに加え、一人で頑張るべきという考えをやめて周りに手伝ってもらうことも、呪いを解くことにつながると整理しました。
番組の締めでは、いつもの「今日も心にかかった呪い、一つ解けましたでしょうか」に対し、今回は呪いが解けた話だったと中里さんが笑います。次回のテーマは「子供は学校に行くのは当たり前」という呪いです。
まとめ
レモン豆腐さんの居酒屋スタイルのお便りから、2人は「諦め」が子育ての呪いを解く突破口になると語りました。諦めは自分にできる範囲を明らかにすることであり、その先に家族だけの文化や忘れられない思い出が生まれることもあります。
- 「食事は一緒にいただきますを言うべき」は、できたものから出す居酒屋スタイルで手放せた
- 育児書をなぞるより、観察と試行錯誤で自分の答えを出せばいい。一発で当てなくていい
- 諦めるは「明らかにする」こと。できる範囲を見極めることで、べき思考がほどける
- 豪雨の帰り道や「夜ご飯は朝ご飯」のように、諦めから家族の文化や思い出が生まれる
- 親がふざけたり失敗したりする姿を見せることも、親子を楽にする





