なぜSNSでバズっても有名になれないのか
番組冒頭、かっぴーさんはこの回の核心を先に投げかけます。SNSでバズることと、有名になることや本が売れることは、もはや別の現象になっているという指摘です。
かっぴーさんは、自身がデビューした頃はバズって漫画家になれたと振り返ります。それは今も可能だとしつつ、ただ「バズれば有名になれる」という認識自体が変わったと語ります。
勘違いしてるのが、(今は)SNSでバズっても有名にならないと思うんです。
その根拠として、フォロワーや登録者の数と「有名人かどうか」は別だと説明します。
登録者100万人のYouTuberでも、僕、有名人ではないと思うんです。とんでもないすごいことだと思うけど、知らないもん。
かっぴーさんは、SNSを情報をプッシュで届ける場ではなく、検索して見つけてもらう出口だと捉え直したと言います。SNSでなんか伝えたいことをめっちゃ届けるのって結構むずいという感覚です。
SNSは「拡散」ではなく作品の「出口」
かっぴーさんは自身のYouTubeを例に挙げます。もともとは『左ききのエレン』の副読本、いわば解説コンテンツとして始めたものでした。
(YouTubeは)左ききのエレンっていう作品の副読本みたいな感じでやってたんですよね。
作品を読み、インタビュー記事まで探して読んだ人が、さらに深く知りたくなったときにたどり着く場所。かっぴーさんはそれをゲームの「やり込み要素」にたとえます。
一方でX(旧Twitter)は拡散メディアとして使おうとしていたものの、最近はその発想自体を手放したと語ります。
もう最近もう拡散しないし、拡散したとてと思っちゃってて。
フォローの有無に関係なく、アルゴリズムのおすすめで表示される仕組みでは、いくらバズらせても本の売上にはつながらない。かっぴーさんは、SNSへの期待が過剰なのだと指摘します。
アルゴリズムをハックしてうまいことやったって、結局絶対本売れないから。
漫画家と広告クリエイター、どちらが難しいのか
話は、表現者として生きる難しさへと移ります。聞き手が、自分の作品を作りたい人ほど広告の世界では上に行けない、という広告業界の話を振ります。
かっぴーさんは、漫画は広告のようなクライアントワークではなく、表現に近いものだと整理します。そのうえで、自身の実感を語ります。
僕、漫画家になれないと思って広告クリエイターになったんですよ。だから漫画家の方が難しいと思ってたんですけど。
ところが実際にやってみると、かっぴーさんにとっては漫画家のほうがずっと楽だと言います。どちらが難しいかは絶対的な話ではなく、適性の問題だという見立てです。
適性がある人が少ないだけであって、どっちが難しいとかじゃなくて、僕にとってどっちが難しいかしかなかった。
会社員出身で要領が良さそうに見られがちだけれど、実際はそうではない、とかっぴーさんは打ち明けます。こうなってる時が一番いいものを作るという、集中の質こそが漫画家としての適性だと語ります。
有料noteは「早すぎる」──100日待てるかどうか
表現者が安定した収入を得るにはどうすればいいのか。この問いに答えるため、かっぴーさんはインタビューで初めてメモを用意してきたと言います。
(今日は)間違ったこと言っちゃダメだなと思ったんで、初めてメモ取ってきたんです。
最初に強調したのは、有料noteを始めるタイミングです。
誰であるかもコンテンツの質もわからない相手に、いきなりお金を払う人はいない。だから有料から始めると本当に増えないと、かっぴーさんは断言します。
頼むからお金払わせてくれって言うまで待つ。
ではどれくらい待つのか。かっぴーさんの答えは、面白いものを更新し続けて最低100日間、というものでした。毎日でなくてもいいが、それくらいの時間はかかると言います。
この「時間」の重要性を、かっぴーさんはテレビドラマにたとえます。同じ12時間でも、一気見と毎週1話ずつでは相手への残り方が違うという話です。
一気見した作品って意外と忘れるなとか。相手の生活に入ってる滞在時間が結構大事だと思って。
同じ12時間のドラマでも、1時間ずつ12週間見れば、その間ずっと相手の頭にとどまり続けます。かっぴーさんはこれを「絆」、つまりエンゲージメントだと表現します。
かっぴーさん自身は、『左ききのエレン』を1年間ほど無料で公開し続けたと言います。普通は我慢できない。だからこそ、それができるなら向いていると語ります。
(1年無料を)できるんだったら向いてると思うんですよね。
SNSは読者にとっての「聖地」
聞き手があらためて、SNSはかっぴーさんにとって何かと問います。かっぴーさんは、読者からすると聖地に近いと答えます。
SNSは読者からすると聖地とかに近いかなと思って。
『左ききのエレン』が好きすぎて舞台の横浜へ行くように、作者のアカウントを見に来るのも聖地巡礼のようなもの。あくまでコンテンツが主で、SNSは従だという整理です。
そして、せっかく聖地まで来てくれた読者は、きちんとお出迎えしなければならないと言います。かっぴーさんはこれを初詣のお守りにたとえます。
初詣行ってさ、お守り売ってなかったらもったいないじゃん。
500円のお守りもあれば、3900円のお守りもある。かっぴーさんは自身のメンバーシップで、500円・1000円・3900円の3段階を設定していると明かします。
(3つのプランは)それぞれ内容、全く同じなんですけど。
内容は全く同じなのに、3900円を払う人がいる。グッズを買うのは面倒で物も増やしたくないが、応援はしたいという読者のための選択肢だとかっぴーさんは説明します。
グッズ買うのはめんどくさいし物を増やしたくないけど、応援はしたいっていう人が、神みたいな人がたまにいらっしゃる。
観光客がたくさん来てもお金を落としてくれない地域の問題になぞらえ、かっぴーさんは、来てくれた人がお金を落とせる仕組みを用意しておくことの大切さを語ります。
SNSは今や「持ち込み」のツール
話は、これから漫画家を目指す若者が最初にやるべきことへ移ります。かっぴーさんの答えは意外にも、まず持ち込みだ、というものでした。
一方で、SNSに漫画をアップすること自体は今もいいと言います。バズらなくても、ネット上に置いておけば編集者が見つけてくれる可能性があるからです。
編集者はあなた目掛けてじゃないかもしれないけど、漫画を探してるからぶつかる時がある。
聞き手はこの発想を、SNSの役割の変化として言い換えます。かっぴーさんがデビューした頃はバズるためのツールだったが、今は編集者に届けるための「持ち込み」のツールになっている、という整理です。
昔の名残で勘違いして、もっとバズらなきゃつってバズるを洗練させて、すごいバズる漫画家になったとするじゃないですか。だからといって漫画家としての地力がついてるかは結構怪しい。
バズる漫画と売れる漫画は違う競技だ、とかっぴーさんは言い切ります。どちらが上でも下でもなく、種目が違うだけ。だからこそ、バズる人気漫画家という道は今は厳しいのではないかと見ています。
バズる漫画と売れる漫画は違う競技だ
では、バズる漫画と売れる漫画は具体的に何が違うのか。かっぴーさんは映像メディアにたとえて説明します。
ショート動画に近い。何段階進化しても映画館にはつながらない
無料アプリ連載=サブスク映画。目指すべきはお金を払って観たい映画館の映画
アプリで毎週無料で読める商業誌はサブスクの映画、たとえばNetflixのようなもの。そして目指すべきは、映画館でお金を払ってでも観たい映画だとかっぴーさんは言います。
目指さなきゃいけないのは、映画館でお金払ってちゃんと見たい映画。
重要なのは、サブスクと映画館はつながっているが、ショート動画と映画館はつながっていないという感覚です。サブスクで追っていた作品の続編が映画館でかかれば観に行くが、ショート動画はどれだけ進化しても映画館には行かない、と語ります。
ショート動画は、何段階も進化しても映画館には行かないじゃないですか。
かっぴーさん自身は、作品のポートフォリオを組み分けているわけではなく、すべて映画館を目指していると明言します。
僕はもう全部映画館目指してます。
「面白すぎる」まで行かないとお金は払われない
映画館を目指すために何を磨けばいいのか。かっぴーさんがメモに書いてきた答えは、シンプルでした。
「面白い」ではダメで、「面白すぎる」を作らなければならない。怖すぎる、可愛すぎる、といった「過ぎる」まで行って初めて人はお金を払う、というのがかっぴーさんの持論です。
面白すぎるを作らないとダメで、怖すぎるとか可愛すぎるとか、過ぎるまで行くとお金払うんですよ。
その実践として、かっぴーさんは編集者からOKが出た後にネームを何度も直すと明かします。連載中の『大人大戦』でも、前日に手を入れていたそうです。
ここでかっぴーさんは、編集者の仕事と自分の仕事を切り分けます。編集のOKは「売り物になる」という判断、いわば検品だと言います。
編集がOKって言ってんのは、売り物になる判断ですよね。
「面白いです、大丈夫」までは編集がチェックしてくれる。だがかっぴーさんは、面白いけれど面白すぎない、と感じたところをそこからさらに直すのだと語ります。
面白いけど面白すぎないなと思って直す。過ぎないとダメ。
ネームを作る
自分の基準で作品を組み立てる
編集がOKを出す
「売り物になる」検品・ネガチェックの段階
自分でさらに直す
「面白いけど面白すぎない」を加点して超えさせる
自分が世に出した最新話の後の完成原稿を、続きが気になって自分で読んでしまうというルーティンも紹介します。読者が翌週の続きを求めて課金する構造を、自分自身に対して起こしている状態だと言えます。
普通に面白いから続きが気になるって、完成原稿読んで面白えつって、次の原稿まだかなつってやってるんですよね。
「過ぎる」に行くために必要なこと
聞き手が、良い・面白いを作れる人は多いが、「過ぎる」まで行けるのがプロではないか、どうやって生み出すのかと問います。かっぴーさんの答えは、直すしかない、でした。
その象徴的な例が、『大人大戦』の表紙にもなっている「いいね」のハンドサインです。第1話から登場するこのサインは、連載会議を通った後に追加したものだと明かします。
このハンドサインは、みんな編集長含めてOKって言われてるのに、最後に「これ追加していいですか」つって追加した。
今ではこのサインなしには作品が成り立たないほどの仕掛けになっています。『左ききのエレン』の「天才になれなかったすべての人へ」というメッセージも、第1話公開の直前に追加したものだといいます。
(このメッセージは)第1話公開する直前に追加したんです。
共通するのは、一度目の前に作品が現れたときに、自分が読者として読めるかどうかだ、とかっぴーさんは言います。自分の作品を読者として見れない人も多いという指摘です。
もっとここになんかソルトを一振りみたいな、それをやれるかどうかだと思う。
ライトなファン100万人か、コアファン5万人か
かっぴーさんは、noteのインディーズと商業誌のメジャー、その両方をやっていることに話を戻します。今回いちばん言いたかったのは、プロこそnoteを使えばいいのに、ということでした。
もっとそのプロもノート使えばいいのになとは思ってて。
ここでかっぴーさんは一つの問いを立てます。ライトなファンが100万人いるのと、コアファンが5万人いるのは、どちらが幸せか。
ライトなファンが100万人いるのと、コアファンが5万人いるのって、どっちが幸せかっていう話なんですよ。
かっぴーさんの結論は、どちらだけでも嫌だ、というものでした。100万人いてもライトすぎれば満足できないし、5万人のコアファンだけでは「お山の大将」になってしまうと言います。
かっぴーさんにとって、noteやXに描く漫画は「実験の場」であり、商業誌は「実戦の場」です。両方あるからバランスが取れているのだと語ります。
商業誌は実戦の場で、両方あるからバランス取れてるし、どっちか片方でもダメだよね。
聞き手はこれを、この回の核心として受け止めます。かっぴーさんはSNSで売れた人だと語られがちだが、実際はメジャーな作品作りと、自分の箱庭での実験的なチャレンジの両方をバランスよく回している。その両方でポートフォリオを作ることがクリエイターには大事なのだ、と整理します。
才能がないと諦める前に、100日書け
最後に、やりたいけれど無理だと思っている人、才能がないと諦めてしまう人へのエールを求められ、かっぴーさんはこう答えます。
かっぴーさんの心の支えは、最初に1年耐えたことだといいます。ケークスという媒体で連載を始めた最初の月の売上は、なんと5万円でした。
会社を辞めて背水の陣、しかも貯金もない状態。それでも5万円のスタートを、かっぴーさんは不安に思わなかったと振り返ります。
5万で心配とか一切思わなくて、俺が書いたものがお金になったみたいなぐらいのつもりで。
今は月400ページを描くこともあるといいますが、かっぴーさんはそれを「狂ってない」と言います。安定して承認され、アニメ化も決まった状態で締め切りに追われて描くのは、ハードワーカーなら書けるからです。
M1取ってなんか忙しすぎますとか言わないじゃないですか。(売れてるから)今忙しいのはしょうがない。
かっぴーさんがいちばん誇らしく思う「狂ってた時期」は、売上5万円でも漫画を描いていた最初の1年間だと語ります。だからこそ、才能がないと言う前に、まず100日書けというメッセージに重みがあります。
目指してきた「映画館」に、作品が本当にかかる
番組の最後に、かっぴーさんは連載中の『大人大戦』を紹介します。内容の説明は苦手だとしつつ、自信は隠しません。
面白すぎるんで見てください。マジで後悔させないんで。
さらに『左ききのエレン』のアニメ化も告知します。先行上映会が映画館で行われるという話に、聞き手はこの回のテーマとの重なりを見つけます。
お金を払ってでも観たい「映画館の映画」を目指して漫画を作ってきたかっぴーさんの作品が、実際に映画館にかかる。この回の話そのものが伏線回収になっていると、両者は笑い合いました。
本当だね、いい話だだから。
まとめ
かっぴーさんが語ったのは、SNSでバズることと作品でお金をもらうことは別の競技だ、という一貫した見立てでした。拡散に期待するのではなく、面白すぎるものを作り、無料で長く届けてファンとの絆を育てたうえで、払いたい人が払える仕組みを用意する。その積み重ねが、表現を仕事にする道につながっていきます。
- SNSでバズることと、有名になることや本が売れることは今や別物。SNSは拡散ではなく、検索されて見つかる「出口」であり、編集者への持ち込みのツールでもある
- 有料noteは早すぎるのが失敗の元。まず無料で最低100日更新し、「お金を払わせてくれ」と言われるまで待つことで滞在時間=絆が育つ
- バズる漫画はショート動画、売れる漫画は映画館の映画。目指すべきは「面白い」ではなく「面白すぎる」で、編集のOKの後にさらに自分で直して超えさせる
- インディーズ(実験の場)と商業誌(実戦の場)の両方をバランスよく回し、自分のポートフォリオを作ることがクリエイターには重要
- 才能がないと諦める前に、まず100日書く。売上5万円でも描き続けられた最初の1年が、その後を支える誇りになる





