喫煙所は「メディア化」ではなく「作る」ところから始まった
喫煙所サイネージ「BREAK」は、東京23区を中心に約550箇所へ展開するメディアです。月間約640万人、3万3000社へのリーチを実現し、売上も毎年2倍以上の成長を続けています。
三浦さんは、タバコを吸う人が減る中で喫煙所をメディアにしようとよく思いついたと切り出します。ただ湯川さんによれば、出発点は「メディア化」ではありませんでした。
喫煙所をメディア化しようじゃなくて、喫煙所をなんなら作るところから会社としては始まっていて。
もともとは代表の「社会課題を解決することをやってみたい」という思いが起点でした。貧困やゴミといった大きなテーマが多い中で、タバコは身近にあるのに誰も取り組みにくい領域だったといいます。
成長市場ではないため大手が参入しにくく、参入障壁も高い。だからこそベンチャーが取り組む意義があると考えたと語られました。
三浦さんは、喫煙者の吸う権利と、街の副流煙やポイ捨てを減らすことの両立に注目します。マナーを守りやすい空間を作ることが、吸う人にも吸わない人にもよい社会につながるという発想です。
喫煙者は減ってはきてるんですけど、それでも未だに1700万人ぐらい国内にいると言われていて。人はそんなに減ってないのに、吸える場所ばかり減っちゃってるんですよね。
「都市の空白」を価値に変えるという発想
当初はマネタイズを目的にしていませんでした。湯川さんは、代表から喫煙所を作ると聞いたときのやり取りをこう振り返ります。
儲かるんですか?って聞いたら、多分ね、儲かんないんだよね、って。すごい爽やかに。
コーヒー販売や自動販売機なども試したものの、大きくは売れません。そこで、オフィスビルの既存の喫煙所にモニターを置く形で、翌年にはサイネージメディアを始めます。それが2021年でした。
発想の核心は、喫煙所という空間の特殊さにありました。喫煙者は1日に何度も足を運び、1回あたり平均6分ほど滞在します。しかもそこには灰皿以外に何もない、ある意味で非生産的な空間だといいます。
誰もマネタイズしていないこの都市の空白というか、それを価値化するっていうのは、ビジネスとしていいんじゃないかって。
三浦さんは、喫煙所がビジネスパーソンにとって特別な場を持つことにも触れます。仕事の合間の会話が重要な意思決定につながるなど、吸わない人にとっても特殊な磁場があると語られました。
喫煙所で「今ちょっといいですか」って言うと、上司の防御力が下がるんですよ。無防備になるので、例の件、いいんじゃない、やってみれば、みたいなことが行われたり。
なぜ喫煙所広告は「嫌われない」のか
喫煙所という空間ならではの強みは、接触の頻度と視聴態度のよさにあります。1日に何度も訪れ、1回6分ほど滞在するため、この頻度と時間でアプローチできる空間は珍しいといいます。
一般的なOOHが「通り過ぎるもの」であるのに対し、喫煙所は目的地です。休憩する場所に音付きのモニターがあると、ついつい見てしまう、と湯川さんは説明します。
さらに、喫煙所は基本的に閉じた空間です。ガラス張りではなく、吸わない人が中を見ることはありません。そのため広告に対するネガティブな反応が発生しにくいと語られました。
タバコにネガティブなイメージを持つ方が「あの企業、喫煙所であんな広告流してたよ」ってならないんですよ。見に行かないので。
消せないことも特徴のひとつです。タクシー広告のように消すこともできませんが、湯川さんは「そもそも消す必要がない」と気づいたといいます。
見なくてもいいんですよ、喫煙所って。目的地で休憩していて、見たければ見るし、見なくてもいい。良くないですか?
三浦さんは、これをユーザー側に主導権がある広告だと整理します。見てもいいし見なくてもいい。10秒見ないと先に進めない広告とは違う、優しさのある設計だと評価されました。
スキップや強制視聴があり、消したり嫌われたりしやすい
閉じた空間で吸わない人の目に触れず、見る見ないをユーザーが選べる
喫煙所に集まるのは「時間とお金に余裕のある人」
BREAKは全国ではなく、都市のオフィスエリアにある喫煙所に特化しています。利用者は約9割が男性で、年代は40〜50代が半分以上を占めます。
都市部で働くビジネスパーソンが多く、世帯年収や可処分所得も高い傾向があります。決裁者の比率は約42パーセント以上で、マネジメント層が多いのも特徴だといいます。
三浦さんは「どうしてタバコを吸う人が偉くなるのか」と素朴に問いかけます。湯川さんは調査データをもとに、喫煙者は消費に積極的な傾向があると答えます。
ゴルフだと喫煙者のほうが4倍ぐらい利用頻度が高かったり、1年以内に車を購入した人は喫煙者が2倍以上だったり。喫煙者は頑張ってる傾向が高くて。
湯川さんの仮説は、喫煙者は「自分でお金と時間を使う意思と強いこだわりがある人」ではないか、というものです。世間の風潮に惑わされず、自分の感覚や快楽を大事にする層だと三浦さんは受け止めます。
なぜ「深い理解」を短期間で届けられるのか
相性のよい商材について、湯川さんは高関与商材を挙げます。金融やヘルスケアなど、検討に時間がかかるものや、内容がわかりにくい無形サービスです。
理由は、6分の滞在の中で深い理解を与えられるからです。しかも月に数回ではなく、毎日見てもらえる点が大きいといいます。
三浦さんは、6分の中に「認知の時間」と「思考の時間」がセットになっていると指摘します。動画を見て、別の日にまた見て考える、という流れが生まれやすいと語られました。
湯川さんはこの感覚を「お風呂に近い」とたとえます。手持ち無沙汰で何もできないからこそ、ふとアイデアが浮かぶ状態に似ているといいます。
お風呂に入ってる時って、めっちゃいいアイデア浮かんだりしません?特に考えることがないからこそ、なんか浮かぶとか、あれ調べよう、とか。
実際の効果も数字で語られました。日清の完全メシは認知の差はほぼないものの、「どんな商品か具体的に知っているか」という特徴認知では約2.7倍の差が出たといいます。
BtoBでも成果が出ています。ビジネスマッチングのレディクルは検索が15パーセント上がり、取り扱い案件も約1億円の流通が発生したと紹介されました。
サイネージだけではない、体験型と社会的な広がり
取り組みはサイネージにとどまりません。6分の滞在を生かし、その場で商品を渡したり、スマホアプリをインストールしてもらったりする体験型の企画も展開しています。
三浦さんは、立場のあるビジネスパーソンは街でサンプリングしにくいと指摘します。喫煙所は、そうした意思決定者へのアクセスを楽にする場でもあると整理されました。
事例として、サンスターのマウスウォッシュを「口臭エチケット」の文脈で約10日間、1万人に配り切った取り組みが挙げられました。
投票型喫煙所という取り組みもあります。灰皿を捨てる場所に「人生は愛か、金か」といった問いを設け、行動心理学を用いて正しい場所へ捨ててもらう仕掛けです。
社会的な意味でも広がりがあります。人通りが多いのに喫煙所がない場所を徹底的にリサーチして作ることで、ポイ捨てが減ったり、商店街に人流が生まれたりする事例があるといいます。
喫煙所があるからそこに人が行くっていう。なので商店街も少し活性化するっていう事例もあったりして、間接的にそういった貢献はできてるかなと。
見つかっていないビジネスチャンスを見つける「B面」の発想
最後に、逆風に見える場所からチャンスを掴む方法が語られました。湯川さんが挙げたのは「B面を見に行く」という考え方です。
喫煙者ならタバコ関連の広告だろう、というのがA面です。しかし見方を変えると、喫煙者は健康意識や美容意識が実は高い、といった別の面が見えてきます。
喫煙者だからタバコメーカーの広告なんじゃないの、これがA面なんですよ。でも見方を変えると、健康意識が実は高いとか、美容意識が高いみたいなことが深掘ると見えてくる。
湯川さんは前職のペットビジネスも例に挙げます。犬とひとくくりにせず、フレンチブルドッグや柴犬といった犬種に特化したところ、飼い主の年代や家族構成の違いが見えてきたといいます。
三浦さんは、これを「ターゲットの解像度を上げる」発想だと整理します。あえて市場を狭く細分化することで、複数のマネタイズポイントが見えてくるという読み解きです。
まとめ
喫煙者も喫煙所も減る中で、湯川さんは誰も価値化していなかった「都市の空白」に着目しました。6分間の滞在という空間的価値を軸に、嫌われにくく、深い理解を届けられるメディアへと育てた発想が語られた回でした。
- BREAKは喫煙所の「メディア化」ではなく、喫煙所を「作る」社会課題への取り組みから始まった
- 喫煙所は目的地であり、1日に何度も訪れ1回6分滞在する。この頻度と滞在時間が空間的価値になる
- 閉じた空間ゆえに吸わない人の目に触れず、消す必要もないため、広告が嫌われにくい
- 利用者は決裁者比率が高く、6分の中で認知と思考が両立し、深い理解を短期間で届けられる
- 逆風に見える対象も「B面」を見て解像度を上げると、新たなビジネスチャンスが見えてくる
