AIで効率化する前に、自分の「尖り」をどう見つけるか
冒頭で田中さんが振り返るのは、ゴールドマン・サックスに入った当初の自分についてです。天才トレーダーになる路線は最初からないと感じていたと話します。
何者でもない人がどうやっていくかっていうのを、とりあえず全部やれた。めちゃくちゃ優秀で天才トレーダーでみたいな路線は最初からないなと思ってたんで。茨の道すぎて。
三浦さんは、田中さんのキャラクターが偶然ではなく、戦略と努力で出来上がっているのではないかと受け止めます。
田中渓って、この人格、このキャラクターは一定戦略と努力で出来上がっているとしたら、ポロッと今おっしゃったことにやっぱり本質があるなって、すごい今感動しました。
話題は、AIをどう使うかの手前にある「その人らしさ」に移ります。田中さんは10年ほどWikipediaを見続けているといい、三浦さんはその癖こそが愛嬌になると指摘します。
AIを使って効率化するのは大事なんだが、やっぱりその手前にあるWikipedia見ちゃう、ちょっと変わった人なんですよね。
三浦さんによれば、AIで誰もが同じことをできるようになるほど、人間の愛嬌は平板になっていきます。だからこそ、自分のちょっと変わった興味関心が重要になると話します。
自分がどんな人間にありたいのかとか、自分がどんなやつだと思って周りに面白がられたいのかっていうのを突き詰めるのは、やっぱりポイント重要ですよね。
この流れで田中さんは、ラジオ番組のスポンサーである若いスタートアップの人に向けて、月1で小話をしに行っている話を持ち出します。ある20代前半の若者が、自分が何の役に立てるのかわからないと言い出したそうです。
その若者にいろいろ聞いても表面的な話ばかりで、田中さんは引き出すのが難しいと感じていました。ところが急に、トイレ掃除がとても好きだと言い出したといいます。
やっと来たと思って。恵比寿様が出てきて、こうトイレに宿るからちゃんとトイレを綺麗にしておきましょうみたいな話をして。なんでその話を、本当にもう出会って1分以内にしなかったの、みたいな。
田中さんは、その尖りをそのまま磨けばいいと勧めます。狂気のようにトイレ掃除をやっている人は少なく、洗剤や洗浄方法のTipsも溜まっているはずだからです。
さらに田中さんは、好きな冒険家の逸話を重ねます。43歳で亡くなったその冒険家上村さん ── 田中さんが名前を挙げた冒険家。書き起こしでは「上村さん」とされているが、正式な人物特定はできないは、泊めてもらった家のトイレを必ずピカピカにして帰り、その評判がネットもない時代に村々へ広まっていったといいます。
もうブルーオーシャンすぎるから、それだよみたいな話だったんで。
三浦さんは、自分の尖りは自分では一番普通だと思っていて、周りにも気づかれていないところにあると受けます。だからこそ、良い先輩やパートナーとの対話で見つける価値があると話します。
ゴールドマンの激務は何を残したのか
後半戦は、新年度に考えたいキャリアの積み重ね方がテーマです。ナレーターが、ゴールドマン・サックスというハードな環境で過ごした激務の時間に、今振り返ってどんな意味があったかを尋ねます。
田中さんの答えは、何も持っていない人間として全部やれたことが良かった、というものです。周りはエリートばかりの中で、何者でもない自分がどう進めばいいかをずっと観察し続けたといいます。
田中さんは、憧れのロールモデルという「ゴール」があり、現状の自分との間に高い壁があると説明します。それをそのまま見ていても、羨ましい、怖いで終わってしまうと話します。
(高い壁を)一個ずつ分解していって、何から身につけていけばいいのかとか、同時にやらなきゃいけないんじゃないかっていうのを仮説を立てて、一個ずつやって、失敗して怒られて、クビになりそうになってっていうのを全部やれた。
田中さんは、中途半端にスターとして入れる場所から始めていたら、こうはならなかっただろうと振り返ります。積み上げの意味がわかり、人に再現性を持って伝えられるようになったといいます。
何者でもない人が組織で伸びる3つの動き
三浦さんは、今この瞬間に何者でもない人が組織で何者かになろうとするときにやるべきことは3つあると整理します。
観察については、三浦さん自身の体験が語られます。古典古典 ── 三浦さんが言及した会社名。歴史コンテンツで知られる深井龍之介氏が関わる事業を指すとみられるが、正式名称は書き起こしから特定できないの深井龍之介さんと会社同士で交換留学をし、互いの社員を2週間、付き人にしたといいます。
深井さん側から来た日夏さんという若者は文化人類学の研究者で、三浦さんを異民族のように研究してくれたそうです。
三浦さんは無理そうな要求をするときに、先に4回ちっちゃい要求をして、5回目でいきなりでかい要求をするみたいな。
三浦さんは、自分が暗黙知としてうまくやっていたことをそこまで分析されたと話し、観察の大切さを実感したといいます。そのうえで、田中さんがどうロールモデルを見つけたかを尋ねます。
田中さんはまず、天才トレーダーの路線を外したと語ります。なぜそのトレードをしたのか、いくら考えてもわからない相手だったからです。
世界に俺しか見えてない眼鏡を持ってるみたいな感じで、説明するのもめんどくさいと思ってるし、説明してもわかんないよねみたいな感じで。もうこれ天才って言われるやつだと思ったんで、これはダメだなと。
もう一方の、成績はそれほどでもないのに愛嬌だけで許されるタイプも、自分には無理だと判断します。ここで田中さんは、自分の素の姿を言い当てるような一言を漏らします。
愛嬌っていうか、その嫌な奴ではないようにはしてますけど。
三浦さんはこの言い回しに反応します。「嫌な奴ではない」ではなく「嫌な奴ではないようにしている」と言ったところに本質があると感じたといいます。
天才でも愛嬌型でもない、「上3割」を狙う戦略
田中さんは、天才にも、愛嬌だけで生きる人にもなれないと見極め、バランス型で行くしかないと決めます。天才は難しくても、上3割には努力でたどり着けると知っていたからです。
全体的に上3割ぐらいに行っておけば、まず生かしてもらえるだろうっていうのがあったんで。
その戦略の中身は、誠実であること、努力すること、嫌な奴にならないことです。ゴールドマンには新卒に教える文化がなく、4月1日にいきなり崖から突き落とされるような環境だったといいます。
オンボーディングや新人研修はないんですか。
三浦崇宏 さんからの質問
田中さんによれば、あるのはマナー研修だけで、それ以外は何もなかったそうです。先輩がコピー機に忘れた資料を慌ててコピーして勉強し、うまくやっている人のやり方をパクるしかなかったといいます。
さらに田中さんが出世まで一貫して続けたのが、シャドーワークに光を当てる動きです。管理部門やアシスタントの人たちと、自分の部署に限らず徹底的に仲良くしていたと話します。
僕、多分会社の中で一番アシスタントと仲良かった人。
田中さんは、サポート部門の人たちに嫌われないことが、会社の中で生きていくうえでとても大事だと気づいたといいます。一方で天才系の人は、ウォーターサーバーの紙コップをゴミ箱の近くまで来ていても捨てず上に置くような、人としてのマナーを欠く振る舞いをすると対比します。
見えない仲間をつくると、評価はどう変わるか
三浦さんは、田中さんの話を、上位3割の共通項を発見することと、見えない仲間を作ることの2つに整理します。自分が憧れてもなれないロールモデルは一度外すという点も含まれます。
三浦さんは、目の前の上司や自分を評価してくれる人にパフォームしがちだが、本当に大事なのは間接評価部門にサポートしてもらい、働きやすい環境を作ることだと言います。
田中さんによれば、外資系の360度評価では、間接部門からの評価はシステム上は見えにくいものの、実はフロント業務の上司の耳にはしっかり届いているといいます。
三浦さんは、博報堂時代の上司・松井さんとの面談を思い出します。松井さんは三浦さん自身の頑張りを聞かず、ひたすら他人のことばかり尋ねてきたそうです。
「最近徳野君は元気?」とか、「三浦君、苦手な先輩誰々さんとはうまくいってないよね」とか、いろいろ他人のことばっかり聞いてくるんですよ。
三浦さんは、松井さんは本人が自分の頑張りを主張するのは当たり前だと考え、評価は本人以外から集めていたのだと理解します。対角線の情報を集約することで人の評価は決まると話します。
田中さんもワンオンワンで人の話を聞いていたと応じますが、当事者から入る一次情報はバイアスが強いと指摘します。だからこそ利害関係のなさそうな人から評判を集めていたといいます。
そうした情報は多くの場合アシスタントに集約されます。トップパフォーマーの夜の遊び方も、レシート処理をするアシスタントは把握していて、田中さんの立場にはそれがふと入ってきたそうです。
J-WAVEの夢を叶えるためにやった「全部」
ここからは最近の田中さんの話です。ナレーターが、J-WAVEのラジオパーソナリティ就任が決まったことを祝い、長年の夢を現実にするための積み重ねを尋ねます。
これは再現性もあるし、ちゃんとやるべきことは全部やったなっていう感じ。
田中さんは、20年ほど本当にやりたいと思っていたことだと明かします。メディアに出ることも本を出したことも売名だと揶揄されてきたが、すべては最終的にここに行きたいからだったと話します。
J-WAVEは日本のラジオ局の中でも最もブランド価値が高いところだと田中さんは言います。いきなりそこを狙うのではなく、他のラジオ局で経験を積むところから始めたそうです。
最初にやったのは、就活以上に作り込んだ自己紹介資料です。トークで扱えるトピックを並べ、これまでのメディア出演の再生数やSNSのフォロワー数といった実績を、1つずつ数えて履歴書のようにまとめたといいます。
次に取り組んだのが根回しです。パーソナリティになりたいと売り込む人は滅多にいないため、田中さんはまずJ-WAVEの財務から見ていきました。
J-WAVに出たいからJ-WAVの財務から見るって面白いですね。でも一番得意な部分でもありますし、その企業としての根幹でもありますからね。
田中さんは役員構成を調べ、会長・社長・取締役4人・社外取締役13人がいるとわかると、つてを持つ人を片っ端から当たっていきます。前回の公開収録ゲストであるNewsPicksの木崎さんが、ネットワークの広さで特に力になってくれたそうです。
並行して、田中さんは現場感も必要だと考え、どの番組でもいいからゲストで出たいとアピールし続けます。ある番組に出られたとき、最後の告知の時間で自分の番組宣伝をせず、意外な一言を残しました。
僕はJ-WAVが好きな人間なんです。これからもどこでも呼ばれたら駆けつけるから出してください。
この一風変わった出方が効いて、田中さんは6番組ほどに呼ばれ、地固めを進めます。すると今度は役員ではなく現場の人たちが見えてきました。
現場のADから役員まで、全方位を攻略する
田中さんは、現場の人にもきちんとアピールしなければと考えます。J-WAVEでは、33階のオフィスに入るとき、若いADが1階まで迎えに来てくれるそうです。
そのADは演者と話さなくていいと言われているのか、少し前を歩いて下を向きがちだといいます。田中さんは、うざがられると思いつつも話しかけ続けました。
「何の番組担当なんですか?」とか、大体夜の番組が多かったんで、「今日は何時までですか?」とか、いろいろ話をして、めちゃくちゃ雑談をしてたんです。
その結果、田中さんは作業場にいる人たちとも一番仲良くなります。三浦さんは、周りの社員はさぞ驚いただろうと笑います。
最後に足りなかったのが、自分がどんな番組をやりたいかの企画書でした。広報業界の出身ではない田中さんは、勉強し、AIも使って作ろうとします。すると、田中さんの奇行を知ったJ-WAVEの社員から、一緒に作りましょうとDMが届きました。
その社員と作った企画書がそのまま役員会議に上がり、通ります。収録日は4月2日で、翌4月3日がその企画書どおりの番組の初放送だといいます。
三浦さんは、役員会議で企画書が見られたとき、その役員にもすでにアポを取っていたことが効いたのだと確認します。
だから全部、全部です。もう思いつくこと全部やりました。
泥臭くやり切れば、夢は再現できるか
三浦さんは、田中さんの動きを一連のプロセスとして整理し直します。ゴールを決め、たどり着くための条件を洗い出し、やるべきことを全部行動に移す、というものです。
言ってみると簡単だが、めちゃめちゃ難しいし、めちゃめちゃ大変なんだが、できなくはないですもんね。
田中さんは、やっていること自体は誰でもできると言います。天才的なひらめきは1つもいらず、泥臭くコミュニケーションして足しげく通う基本動作だからです。
この目標を見つけ、必要なステップを見つけ、やるべきことを全部やり切る力は、ゴールドマン・サックスで身につけたものですか。それとも田中さんが元々持っていた武器ですか。
三浦崇宏 さんからの質問
田中さんは、ゴールドマンに入るまではやり切れた自信がなかったと振り返ります。なんとか生きていかなければならない中で身につけた、サバイバル術だと話します。
三浦さんは、この生き残り方は再現可能だとしつつ、実行には胆力や勇気といった感情的な武器が要ると付け加えます。ステップを分解すれば、勇気と行動力があれば手が届くことだと励まします。
最後にナレーターが、来場者と視聴者へのエールを求めます。田中さんは、自分の人生を昭和の少年ジャンプのようだと表現します。
やりたいと思ったことは頑張って叶えられるんだなっていう、泥臭いステップは踏んでやれるんだっていうのは伝わってほしいなと思ってます。
締めくくりに三浦さんは、田中さんの「自分は普通の人だ」というアピールを半分だけ受け取ってほしいと語ります。すごい人を自分とは違うと思いすぎず、真似できる部分を分析してやってみることを勧めます。
まとめ
この回は、天才でも愛嬌型でもない「何者でもない人」が、観察と分解と行動でキャリアを積み上げ、20年越しのラジオの夢を叶えるまでを、田中さん自身の実例で語った回でした。AIで効率化する前に自分の尖りを見極めること、そしてゴールから逆算して泥臭くやり切ることが一貫した軸として流れています。
- AIで効率化する手前に、自分がどんな人間として面白がられたいかという「尖り」を突き詰めることが土台になる
- 何者でもない人は、ロールモデルを見つけ、観察し、圧倒的な時間を投資する3つの動きで伸びていく
- 天才でも愛嬌型でもなければ、努力で届く「上3割」を狙い、間接部門やアシスタントとの関係で見えない仲間を作る
- 夢の実現は、ゴールを決め、必要な条件を洗い出し、財務調査から根回し、現場の攻略まで全部やり切ることで再現できる
- すごい人を自分とは違うと思いすぎず、真似できる部分を分析して行動に移す姿勢が、次の一歩につながる



