ユタ州のテックカンファレンス、Silicon Slopes Summitとは?
今回のOff Topicのテーマは、サンフランシスコ以外のスタートアップ都市です。きっかけは、宮武さんが1月下旬にユタ州で開かれたテックカンファレンス「Silicon Slopes Summit ── ユタ州ソルトレイクシティで開かれるテック系カンファレンス。ユタの起業家コミュニティ「Silicon Slopes」が主催しています」に参加したことでした。
宮武さんによると、Silicon Slopes Summitは3年前にできたカンファレンスで、ユタのスタートアップシーンを盛り上げる目的で始まったそうです。参加者は初年度が約5000人、2年目が1万人、3年目の今年は2万4000人が登録したといいます。
Silicon Slopes Summitの登壇者は、ユタに拠点を持つ企業や、ユタに多くの従業員を抱える企業の人が中心です。来場者はスタートアップ、VC、大企業、学生までと幅広いと宮武さんは話しています。
ユタ州の場所について、宮武さんはサンフランシスコから飛行機で1時間半ほど、時差は1時間だと説明します。中心都市のソルトレイクシティは冬季オリンピックの開催地として知られています。
ユタ州がよく知られるもう一つの理由として、宮武さんはモルモンの人が多いことを挙げ、人口の半分以上がモルモンだという話を紹介しました。
まあモルモンってまあいわゆる宗教なんですけど、正式な名前はモルモンじゃないので、モルモンって本当に言わない方がいいんですけど。
彼らが思ってるのは一応キリスト教の配下の、一応宗教です。
DomoとQualtrics、ユタ発の大型企業は何を語ったのか?
宮武さんによると、Silicon Slopes Summitではユタでビジネスを始めた企業やユタのユニコーン企業が登壇していました。例として挙がったのが、前年に上場したDomo ── ユタ州に本社を置くBIツールの企業。企業データを集約・可視化するクラウドサービスを提供していますの社長、ジョシュ・ジェームスさんです。
ジョシュ・ジェームスさんはOMNICIAの元社長で、日本語も少し話せるため、Silicon Slopes Summitの会場でも日本語を話していたそうです。
もう一社は、マーケットリサーチやユーザーサーベイを手がけるQualtrics ── ユタ州発のオンライン調査・顧客体験管理の企業。アンケートやフィードバック分析のサービスを提供していますです。Qualtricsは前年、SAPによる約8000億円(エピソード説明では80億ドル)での買収が発表されていました。
宮武さんによると、この買収はSilicon Slopes Summitの1週間前に払い込みまで含めてクローズしたばかりでした。SAPの社長とQualtricsの社長がそろって公の場に出たのは、クローズ後ではこのサミットが初めてだったといいます。
二人の対談では買収の話のほか、初めて会ったときの印象など軽い話も出ており、宮武さんはお互いにかなりリスペクトしている様子だったと振り返ります。
上場直前のQualtricsは、なぜIPOではなく買収を選んだのか?
宮武さんによると、Qualtricsはもともと前年に上場する予定でした。上場前のロードショー ── IPOの前に、企業が機関投資家を回って事業を説明し、需要を探る活動のことでは投資家がこぞって株を欲しがり、4000億円ほどでIPOするのではと言われていたそうです。
ところが上場の1か月前、QualtricsのライアンさんはSAPの社長と会い、「一緒にやらない?」と声をかけられます。最終的に、上場の1〜2週間前に買収を受け入れることを決めたといいます。
それすごいですね。着々と(上場の)準備してたのに。
宮武さんの説明では、ライアンさんが判断の基準にしていたのは、従業員がどれだけハッピーになるかでした。SAPとの交渉では、クローズ時に一部を現金で受け取り、すぐ従業員に分けられるようにしたいと求めたそうです。
それが通常なのかちょっと僕もわからないんですけど、おそらく通常じゃないと思うんですけど、そこの話をしたらSAPの社長がすぐOKしてくれた。
SAPの社長も、自分のキャリアをかけてQualtricsに賭けると語っていたといいます。宮武さんは、両者の間に大きなシナジーがあったうえで、ライアンさんは何より従業員の幸せを見て判断したのではないかと話しています。
IPOと買収の違いについて、宮武さんはQualtricsにとってのポイントを次のように整理しています。
ロックアップがかかり、資金調達で従業員の持株比率も下がる
すぐ現金が入り従業員に分けられる。SAPの後ろ盾で多くのドアが開く
800億円も調達しなかった会社と、25回アポを取ったAccel
Qualtricsは資金調達自体をあまりしていない会社でした。宮武さんによると、兄弟で創業し、父親も加わって3人で株を持つ形で始まった会社で、合計の調達額は約400億円にとどまります。
全然調達してない会社で、合計400億しか調達してないんですよね。この会社って8000億で買収されてるのに。
ライアンさんが調達を控えた理由は明確で、調達するたびに従業員の持株比率がダイリューション ── 新株発行によって既存株主の持株比率が下がること。希薄化とも呼ばれますされるからだといいます。よほど価値をもたらす投資家でない限り、自己資金でやると決めていたそうです。
一方で、Qualtricsは急成長していたため多くのVCが投資したがっていました。直近ラウンドに入ったAccelも、25回ほどアポを申し込んで無視され続け、ようやく会ってもらえたという話を宮武さんは紹介します。
やっぱトップティアのVCでも、やっぱいい会社に対してはみんな追いかけるっていう。
ユタのテック企業はなぜ伸びているのか?
宮武さんによると、ユタではテック企業が大きく伸びており、2018年だけで3社がIPOし、そこにQualtricsの大型M&Aも加わりました。
ユタが伸びている理由の一つとして、宮武さんはまず住みやすさを挙げます。物価がとても安く大きな家に住めるうえ、自然が多く、冬はスキー、夏はハイキングや泳ぎも楽しめるため、家族を育てるには良い街だという話です。
こうした環境に応じて、ゴールドマン・サックスがユタに3000人規模のオフィスを構えたり、Adobeのデジタル部門がユタに置かれたりと、大手企業の拠点も移ってきていると宮武さんは話しています。
草野さんは、Qualtricsのように従業員を大切にする姿勢を「ユタっぽい」と感じたと話します。宮武さんは、全員がそうだというわけではないと断ったうえで、モルモンの影響があるのではないかと考えています。
なんとなくモルモンって結構ハッピーな人たちなんで。ハッピーで、優しくて、人思いの人たちが多いので。
それがなんかスタートアップ文化にも伝わっているっていうのはあって。
SaaSと宣教活動、なぜユタはBtoB SaaSに強いのか?
宮武さんによると、ユタではいまBtoB系のSaaSが特に伸びています。その理由として挙げたのが、SaaSに合った人材がいることで、ここでもモルモンの宣教活動が関係していると宮武さんは見ています。
宮武さんの説明では、モルモンの人の多くが宣教活動に出ており、期間は男性が2年、女性が1年半で、その間はフルタイムで宣教だけを行うそうです。
それっていわゆるフルタイム営業してるんですよね、宗教の。
営業っていう風に考えるとですよ、コンバージョン率って、多分宗教ってどのサービス売っても一番低いじゃないですか。
宮武さんは、ドアをノックして断られ続ける経験を積んだ「強い営業」の人材がユタに多くいることが一つの特徴だと話します。
もう一つは語学力です。宣教活動は世界中で行われ、派遣前にはユタのMTC ── Missionary Training Centerの略。宣教師が派遣前に語学や宣教の訓練を受ける施設ですで語学を学びます。宮武さんによると、MTCは世界トップクラスの語学学校として認識され、CIAが視察に来るほどだそうです。
MTCでの学習期間はおよそ4週間で、日本語だけは難しいため5週間だといいます。そのうえで現地に行き、実地で言葉を身につけていきます。
宣教活動
男性2年・女性1年半、フルタイムで世界各地へ
経験と語学
断られ続ける営業経験と、MTC仕込みの語学力・異文化理解
SaaSの強み
営業人材と多言語カスタマーサポートが地元でそろう
宮武さんは、SaaSを世界展開するときに各国語のサポートが必要になっても、その人材がすでにユタにいるため、インドなど外部に頼る必要がないと説明します。アメリカでは特にスペイン語のサポートが重要になるそうです。
いや、絶対ないです。これまあ大体アメリカ人って英語だけわかってればいいっていう人たちっていっぱいいるので。
草野さんはこれを、すぐに世界的なサービスを作れる土壌であり、強いハートを持った営業もいる環境だとまとめます。
Domoの名前は日本語の「どうも」だった
宮武さんは、宣教で多くの国に行った人は様々な文化を知っているため、「ザ・アメリカン」な企業ではないグローバルな企業を作りやすいのではないかと話します。その例がDomoです。
やっぱあの社長のジョシュさんが日本好きで。で、ドゥーモ(Domo)っていう名前にしたんですよ。
ここで草野さんがNHKのキャラクター「どーもくん」を持ち出し、宮武さんが「茶色の四角いやつですよね」と応じる脱線も。結論として、Domoの名前は「どうもありがとう」の「どうも」だと確認されました。
あれ(どーもくん)ではないです。
宮武さんによると、ジョシュさんが日本の文化をよく知っていたため、Domoは早くから日本展開を進め、日本でかなりの売上を上げていると聞いているそうです。
ニューヨークとサンフランシスコ、起業家の考え方はどう違う?
草野さんは、スタートアップ都市の1番手がサンフランシスコやシリコンバレーなら、2番手はニューヨークではないかと話を振ります。宮武さんは、ニューヨークは特徴がかなり違うと答えます。
宮武さんによると、ニューヨークにはメディア系、消費者向け、最近ではD2C系、そして広告系のスタートアップが多いそうです。
起業家のマインドセットにも違いがあると宮武さんは話します。今ほど極端ではないものの、かつてのサンフランシスコは「マネタイズは後でいいからユーザーを集めろ」という環境でした。
ひたすらユーザーを集め、マネタイズは後回し(Facebookのような進め方)
着実にマネタイズし、黒字化を目指してビジネスモデルを作る
宮武さんは、ニューヨークに金融系の人が多いことが理由ではないかと推測しています。ただし、何社かと話して得た印象だと断っています。
ベルリンのスタートアップはなぜクリエイティブなのか?
草野さんは大学時代、ベルリンのスタートアップで3か月インターンをした経験があります。草野さんは、ベルリンはヒッピー文化やヘルシーな文化があり、ニューヨークよりサンフランシスコに近いと感じていたそうです。
宮武さんはベルリンについて、クリエイティブな人やアーティスト系の人が多い印象だと話します。草野さんによると、ベルリンの人口は400万人に満たないほどで、ドイツ人以外も多いそうです。
草野さんがベルリンで面白いと感じたのは、クラブのDJやアーティストのような表現者が、会社を作ることを表現の手法にしているという話でした。
宮武さんと草野さんが挙げたベルリンのスタートアップは、消費者向けやクリエイター向け、デザインの美しいサービスでした。SoundCloud、Dubsmash、生理管理アプリのClueなどが名前に上がっています。
草野さんは、こうしたカウンターカルチャー的な空気がシリコンバレーに近いと考えています。
宮武さんは、一時期盛り上がったベルリンのブームは落ち着いたものの、みんな静かに着実に頑張っていると話します。
盛り上がるとみんな入ってきて、投資家とか大手企業とか入ってきて、一緒にやろうみたいなことをいっぱい言って、結局何も生まれなくて終わっちゃうみたいなことが多いんですけど。
そのブーム一回去ったんで、逆にベルリンってもう一回行くべきところかなっていうのは思いますけどね。
Wunderlist創業者の新プレゼンツール「Pitch」は成功するか?
草野さんが注目しているのは、ToDoアプリ「Wunderlist」の創業者がベルリンで始めた新しいスタートアップ「Pitch ── ベルリン発のコラボレーション型プレゼンテーションツール。収録時点では一般公開前でした」です。草野さんによると、PitchはSlack世代のプレゼンテーションツールを掲げ、Slackなどから資金を調達しています。
デザインに定評のあるWunderlistの創業者だけに、草野さんはPitchをとても楽しみにしています。一方の宮武さんは、プレゼンツールの領域は難しいと慎重です。
うまくいくのかな。その(プレゼンツールの)領域かなり大変ですよ。
スライドビンにお金払おうと思ったことないですからね。
草野さんはまだどんなサービスかはわからないと返し、二人は「まあ見てみたい」と話を締めくくりました。
SpotifyはなぜAnchorとGimletを買ったのか?
後半は最近のニュースです。Off Topic自体がAnchorというツールで作られていることもあり、二人が注目したのがSpotifyによるAnchorとGimletの買収でした。
草野さんの説明では、Anchorは収録するとApple Podcasts、Spotify、Overcastなどに自動で配信してくれるポッドキャストプラットフォームです。宮武さんは、編集も簡単で、電話経由で参加できるコールイン機能も便利だと付け加えます。
宮武さんによると、AnchorとGimletはどちらも、二人の勤めるVCのニューヨークの投資先であるスタートアップスタジオ、Betaworksが出資していた会社です。ポッドキャスト業界で有名な2社が同時に買収されるのは珍しいニュースだったと話しています。
アメリカの「2回目のポッドキャストブーム」はなぜ起きた?
草野さんが「音声メディアが今年来る」と言っていた人を思い出そうとすると、宮武さんはアンドリーセンだと答えます。そのうえで、アメリカでは今2回目のポッドキャストブームが来ていると話します。
宮武さんによると、2014年時点で約4000万人が1週間にポッドキャストを6本聞いているというデータがあり、今はもっと多いはずだといいます。
アメリカで聞かれる理由として、宮武さんは車文化を挙げます。運転中にハンズフリーで聞けるのはラジオやポッドキャストだという考えです。Audibleのような本の聴取も、読むより速く、運転しながら聞ける点で同じ流れにあると話しています。
車文化
移動の多くが車での運転
ハンズフリー
運転中に使えるのはラジオやポッドキャスト、Audible
会話の話題
誰もが何かしらのポッドキャストを聞き、おすすめを語り合う
いろんなアメリカ人に話しますけど、やっぱり全員何かしらポッドキャストを聞いてるっていう。
ジャンルもニュース、政治分析、スポーツ、スタートアップ、ホラーなどのストーリー物と幅広いそうです。宮武さんは、過去の殺人事件で警察がどう調べ、裏で何があったのかをシリーズ化した番組が有名になった例を挙げています。
草野さんは映画の解説動画も面白いと話し、宮武さんはDVDの監督コメンタリーや、予告編を茶化すYouTube番組「Honest Trailers」を例に出します。こうした裏側を解説するコンテンツが人気だという点で、二人の見方は一致していました。
音声メディアはこの先どう進化するのか?
「音声メディアは来ると思うか」という草野さんの問いに、宮武さんは「もう来ている」と答えます。AlexaやGoogle Homeがすでに多くの家庭に置かれており、さらに広がるだろうという見立てです。
いや、もう来てますからね。
一方で宮武さんは、音声には良いところと悪いところがあると話します。Alexaの使われ方を見ても天気を聞く程度が中心で、複雑なことはまだできず、草野さんも自分から話しかけないといけない点を挙げます。
そのため宮武さんは、ジェスチャーなど音声以外のインターフェースと組み合わせることで、音声をもっとうまく活用できる可能性があると考えています。どう進化するかを見てみたいというのが宮武さんの立場です。
最後に草野さんは、Anchorで英語のポッドキャストに広告を入れられるようになった仕組みを紹介します。スポンサーが用意した文章をホスト本人が読み上げて番組に入れ、マネタイズする形です。
宮武さんは、Anchorがマネタイズに取り組んでいることは聞いていたと応じます。数字は覚えていないとしつつ、収益化されたポッドキャストの半分ほどがAnchor上で作られているという話をAnchorが出していた気がする、と話しています。
まとめ
今回のOff Topicでは、ユタ州のSilicon Slopes Summitをきっかけに、住みやすさとモルモンの文化がユタのスタートアップ、特にBtoB SaaSを支えている様子が語られました。ニューヨークやベルリンとの比較、そしてSpotifyによるAnchorとGimletの買収から、都市ごとの個性と音声メディアの広がりが見えてきます。
- Qualtricsは従業員の幸せを基準に、上場直前でIPOではなくSAPによる約8000億円の買収を選んだ
- ユタは物価の安さと自然環境に加え、宣教活動で鍛えられた営業力と語学力がSaaSの世界展開を支えている
- ニューヨークはマネタイズ重視、ベルリンはクリエイター気質と、都市ごとに起業家の考え方が異なる
- アメリカでは車文化を背景に2回目のポッドキャストブームが来ており、Spotifyの買収もその流れにある





