2019年はデカコーンが一斉に上場する年?
草野さんと宮武さんが最初に挙げたのは、2019年に上場が予想される企業の顔ぶれです。上場はまだ決まったわけではありません。ただ宮武さんによると、一部の会社はすでに上場のための書類提出(ファイリング)を済ませており、ほぼ上場する状況だといいます。
名前が挙がったのは、UberとLyft、Slack、Pinterestです。Slackはファイリングをしていない点も補足されました。
今年のちょっと(過去と)変わったところでいうと、かなり大型なスタートアップがようやく上場するっていう年になっているのかなとは思います。
2018年の上場例としては、Dropbox、Zola、DocuSignが挙がりました。宮武さんは、これらにはデカコーン ── 評価額100億ドル(約1兆円)以上の未上場企業を指す言葉。10億ドル以上のユニコーンの10倍規模という意味で使われますと呼ばれる10ビリオン(約1兆円)以上の時価総額は付いておらず、そうした規模の上場はあまり出ていなかったと説明しています。
2019年の候補として宮武さんは、UberとLyft、Airbnb、Pinterest、Palantirに加え、中国からDiDiやByteDanceが上場する可能性も挙げました。これらだけで数兆円、場合によっては10兆円以上の規模になるかもしれないといいます。
宮武さんによると、テック企業のIPOで初日に時価総額100ビリオンを超えたのはFacebookだけです。2019年はUberや、上場すればByteDanceがそれを超えるかもしれない、という見立ても示されました。
UberとLyftの違いは「規模」と「成長スピード」
草野さんは、書類提出が済み、大型上場が見込まれるUberとLyftに絞って話を進めます。まず聞いたのは、2社がどう違うのかという基本的な点です。
宮武さんによると、アプリで車を呼ぶという点は両社とも変わりません。違いは展開地域とサービスの幅で、Lyftは米国内だけ、Uberは米国以外の国でも展開し、最近はUberEatsのような車以外のサービスも始めています。
規模ではUberが圧倒的に大きい一方、成長スピードは今のところLyftのほうが速いと宮武さんは話します。決算の数字を見ると、両社とも赤字です。
米国外でも展開し、UberEatsなど車以外の事業も。7〜9月の3ヶ月で売上約3ビリオン(約3000億円)、赤字約1ビリオン(約1000億円)
米国内のみで展開し、成長スピードはUberより速い。2018年1〜6月で売上約900ミリオン(約1000億円)、赤字約370ミリオン
宮武さんが気にしているのは、赤字の2社が市場でどう評価されるかです。米国では黒字化への道筋が大事なポイントになるといいます。
ずっと赤字でも評価される例として、宮武さんはAmazonやSalesforceを挙げました。その一方で、2018年に上場したDomoは売上がそれなりにあるのに赤字が大きく、市場から厳しく評価されたといいます。
VCからの最後の調達の時価総額が2000億ぐらいだったのが、今だとおそらく400億ぐらいになっているっていう状況にはなってますね。
上場が2019年前半に集中するのはなぜか
草野さんは、UberとLyftの上場時期が重なったのは意図的なのかと尋ねます。宮武さんは、かなり意図的だと考えています。
(上場は)先に出た方がプライシングが決めやすいっていうか。
Lyftが書類を出した1〜2日後にUberも出したという流れだったそうです。どちらが先に出たほうが得かはわからないとしたうえで、宮武さんは、2019年のIPOはほとんどが前半に集中すると見ています。
前半に集中する理由として、宮武さんは米国経済への懸念を挙げます。後半に景気が悪化すれば、一般の投資家から思うような金額を調達できなくなるため、その前に上場しようとする、という見方です。
上場準備にかかる期間は会社によりますが、日本とあまり変わらず2〜3年程度だといいます。UberやLyftほどの規模なら、5年ほど前から準備していたのではないかと宮武さんは推測しています。
米国で上場するために求められる規模は、日本とはまったく違います。宮武さんによると、日本では時価総額40億〜200億円程度での上場が普通です。一方で米国では、そもそも100億円程度の売上がないと上場できるスケールにならず、感覚として10〜20倍の差があるといいます。
米国のExitの9割がM&Aになる理由
米国でも日本のようにIPOを目指すスタートアップが多いのか、と草野さんが尋ねると、宮武さんは日本ほど多くはないと答えます。米国ではExitの9割がM&Aで、IPOが難しいことは誰もがわかっているからです。
宮武さんは、起業家はもちろんIPOを狙うと言うものの、投資家もM&Aになるだろうと見込んでいるため、そこはあまり気にしていないといいます。日本の数字はわからないとしつつ、日本はIPOのほうが多い気がするとも話しています。
シード期からIPOを前提に見ている投資家はあまりいない、というのが宮武さんの見方です。初めて投資してからIPOまでは平均で10年かかるため、そこまで先は見えないといいます。見ているのは、プロダクトが100億円の売上に届くかどうかです。
成長の途中でM&Aのオファーが何度も来るのは珍しくなく、Facebook、Uber、Lyftにも何度も来ていたはずだと宮武さんは話します。ただ、ある程度の規模になると、M&Aという選択肢そのものがなくなっていくといいます。
宮武さんは例として、Airbnbをスタートアップではなくホテル企業として見た場合を挙げます。直近の時価総額は約3兆円で、世界のホテル市場では2番手にあたるといいます。
ホテル業界の外を見ても、3兆円を出せる会社はディズニーやベライゾンなどの規模に限られる、と宮武さんは話します。日本で見ても、ソフトバンクの時価総額は約8.5兆円で、Uberが上場したときの規模とあまり変わらないのではないかといいます。
こうして買い手がいなくなり、IPOしか選べない段階に来たのが今の大型スタートアップだ、というのが宮武さんの整理です。経済の先行きを考えると、2019年に上場しなければ、IPOをしないか延期する可能性もあるといいます。
Uberの主幹事をモルガン・スタンレーが勝ち取った方法
上場を担う投資銀行を企業がどう選ぶのか、と草野さんは尋ねます。宮武さんによると、基本は日本で証券会社を選ぶのとあまり変わらず、かなり前から話を進めているといいます。
Uberの場合は、担当したいという投資銀行が多く、銀行側から積極的にアプローチした話がたくさんあるそうです。その背景には大きな手数料があります。
宮武さんによると、米国では投資銀行がIPOで調達した額の3〜5%を手数料として受け取ります。Uberは10ビリオン(約1兆円)を集める予定なので、手数料は3000億〜5000億円規模になる計算です。
主幹事は、Uberがモルガン・スタンレー、LyftがJPモルガンとクレディ・スイスです。Slackはゴールドマン・サックスを選んだといいます。Uberは当初、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスのどちらかを選ぶ段階にあり、宮武さんはモルガン・スタンレーが選ばれた理由を「かなり面白い」と紹介しました。
2つ目の専用ファンドについて、宮武さんは「Uberに優しい」ものだったと話します。VIP顧客に送られたデューデリジェンス資料は約290ページありましたが、売上の情報は一切載っていなかったといいます。
(資料の)最後の方に、この今回のバリエーションは高いか低いかはうちらはわかりませんっていうのが入ってて。
このファンドの名前はニューライダーズLPだったといいます。3つ目のドライバーの話は、報道でも取り上げられたものです。担当したのはマイケル・グライムスさんで、宮武さんは「何十億、ひょっとしたら何百億って稼いでる人」がパートでUberを運転していたことに驚いています。
草野さんが「ロイヤリティを示されたら」と受け止めると、宮武さんは、ロイヤリティではなく、お金になると判断したからだと返します。ファンドの手間やドライバーの時間をあえて大きく見積もっても、数百億円のコストに対して手数料は3000億〜5000億円で、大したことはないという計算です。
パートタイムで。それは僕もやります。
米国政府機関の一部閉鎖がIPOを止める?
話題は、上場準備が進む中で起きている米国政府機関の一部閉鎖に移ります。草野さんが「閉鎖するってそんなことあるんだ」と驚くと、宮武さんは過去にも何度かあったと説明しました。
宮武さんによると、トランプ氏が大統領になってから政府機関の一部閉鎖は3回起きています。収録時点で今回の閉鎖は20日目前後に入っており、過去最長の21日を超える見込みでした。
テック業界に影響するのは、IPOを管理するSEC ── 米国証券取引委員会。株式市場を監督する連邦政府の機関で、企業が上場する際に提出する登録書類の審査も担当していますの職員も政府機関の職員だからです。UberとLyftは2018年末に書類を提出していますが、それが問題ないかどうかの返答がないため、IPOが遅れる可能性が出ています。
閉鎖の原因は、メキシコとの国境に壁を作る予算をめぐる対立です。宮武さんの説明を、流れとして整理します。
壁の予算を要求
トランプ氏が国境の壁に約5000億円を充てることを、予算の絶対条件にする
民主党が拒否
共和党だけでは票が足りないが、民主党は壁に反対し、先に政府を再開するよう求める
双方が引けない
日がたつほど、どちらも譲れなくなっていく
SECの業務停止
上場書類の審査が止まり、UberやLyftのIPOが遅れるおそれが出る
閉鎖の影響はIPOだけではありません。宮武さんによると、空港の従業員の一部も政府が雇っているため、空港のスタッフが減り始めています。給料が高いわけではなく家族のいる職員も多い中で、給料が払われない状態が続いているといいます。
このタイミングで、しかも経済が悪化する前に上場したいのに、その期間がどんどん迫ってるのにできないっていう。
UberやLyftにとっては「迷惑でしかない」状況で、景気が悪くなる前に上場したいのに時間だけが過ぎていく、というもどかしさが語られました。
Uberの次の成長はトラックの自動運転とUberEatsか
草野さんは、上場後の戦略として、UberやLyftが大きなものを運ぶ乗り物や自動運転に取り組もうとしている話を取り上げます。Uberはエジプトでバスのテストもしていたといいます。宮武さんは、両社とも自動運転にかなり投資していると補足しました。
バスについてはわからないとしつつ、宮武さんが注目するのはトラックです。米国で一番多い仕事はトラックドライバーで、国土が広く長距離の移動が多いためだといいます。
宮武さんによると、ここ1年半ほどでトラックの自動運転に取り組むスタートアップが大きく増え、Uberもやりたいと言い始め、テスラも手がけています。宮武さんはこのビジネスはかなり大きくなると見ていますが、まだリサーチの段階なので、Uberの評価額に反映されていないし、されるべきでもないといいます。
近い将来の論点として宮武さんが挙げたのは、UberEatsの成長がどこまで続くかです。アジアで特に伸びていますが、米国でも成長しており、既存のフードデリバリー大手のGrubhubが焦っているという話もあるそうです。
UberEatsが伸びる理由について、宮武さんは配達するドライバーの数が多いことに加え、ユーザーにとって使いやすいことを挙げます。宮武さん自身、Grubhubはデスクトップでしか使ったことがないといいます。
この間の子どもたちを調査した時にUberEatsはめちゃくちゃ使うって言ってまして。
デリバリーサービスは結構使うっていう話だったんですけど、GrubHubは一切出てこなかったです。
宮武さんは、モバイルファーストで使いたい今の世代にとっては、UberEatsが選ばれるのかもしれないと話しています。デリバリーの分野ではほかにDoorDashやPostmatesの名前も挙がりました。
Postmatesも2019年に上場予定で、収録当日にIPO直前の100億円の調達が発表されたといいます。宮武さんは、上場が遅れる中で、早くから投資した投資家や従業員にキャッシュアウトの機会を与えたのではないかと見ています。
超大型IPOが中規模の上場を締め出す懸念
最後に宮武さんは、2019年の大型IPOが市場全体に与える影響に触れます。Uberだけで10ビリオン、つまり約1兆円を調達する予定で、それは一般の投資家や企業が1兆円を出すということだといいます。
大型調達に全員寄っていくので、その1000億、2000億、3000億ぐらいの時価総額のIPOって逆に集まらないんじゃないかっていう懸念が今出てきているところですね。
宮武さんは、2019年は超大型の会社しかIPOしない年になるかもしれないと話します。草野さんが「今から上場しますとは言いづらい」と応じると、宮武さんも、PR効果もなさそうだと同意しました。
二人は、スター級のスタートアップが勢ぞろいする年だとして、特にUberやAirbnbの上場がどうなるか見てみたいと締めくくっています。
まとめ
2019年は、UberやLyftをはじめとする大型スタートアップの上場が前半に集中すると見込まれていました。宮武さんの話からは、規模が大きくなるほど買い手がいなくなりIPOしか選べなくなる米国の事情と、景気や政治といった外部要因にIPOの時期が左右される現実が見えてきます。
- UberとLyftはどちらも赤字で、Uberは規模、Lyftは成長スピードで勝り、黒字化への道筋が評価の焦点とされた
- 米国のExitの9割はM&Aで、Uberほどの規模になると買える会社がなくなりIPOしか選べないという
- モルガン・スタンレーは福利厚生、専用ファンド、トップバンカーのドライバー体験を通じてUberの主幹事を勝ち取ったと紹介された
- 政府機関の一部閉鎖でSECの審査が止まり、景気悪化前に上場したい企業のIPOが遅れるおそれがあった
- 今後の論点として、トラックの自動運転とUberEatsの成長、超大型IPOが中規模の上場を締め出す懸念が挙げられた




