AIへの投資は増えているのに、なぜVCは慎重なのか
今回のOff Topicは、数カ月ぶりにAIだけを扱う回です。宮武さんは、年内最後にもう一度AIの話をしたかったと切り出し、年末のニュースランキングにもAIが入るだろうと話します。
草野さんは、今年のAIの捉え方は去年や一昨年とは違い、スタンスが変わったように感じると振り返ります。
本題の前に、11月8日水曜日に開催するイベント「オンエア by Off Topic」の告知があります。以前の回で取り上げたNightMediaのリードさんを囲み、クリエイターエコノミーやクリエイターの事業化を深掘りする予定で、通訳も付くといいます。
(リードさんは)いろんな案件をリードしてるので。
ダジャレですか?
え?ダジャレじゃないです。そういう意図じゃなかったです。
本題に入ると、宮武さんはまず、今年は生成AIのハイプサイクルが来たものの、それがようやく落ち着き始めたという見立てを示します。そのなかで、これから出てくる「AIネイティブ」なサービスが少し見え始めたというのが、この回の出発点です。
宮武さんによると、生成AI関連のスタートアップは、今年の上半期だけで86件、約140億ドルの資金を調達しました。ほかの業界の調達額が落ちるなかで、AIだけが伸びており、毎週のように大型調達のニュースを聞く状況だといいます。
ただし、多くのVCと話すと、大型調達以外ではそれほど積極的に出資していないという話も聞くそうです。理由は、すぐにコピーされて優位性を作りにくいサービスが多いことと、大手がすごい勢いで参入していることです。
草野さんがGoogleやMetaの名前を挙げると、宮武さんはAdobeやCanvaもAI機能を次々と取り入れていると付け加えます。
スタートアップか大手か。過去の技術革新では誰が勝ったのか
宮武さんは、過去の回で比べた「新しい技術が出てきたとき、大手とスタートアップのどちらが価値を取ったか」という整理を持ち出します。
インターネット時代は、GoogleやAmazon、PayPal、Salesforceが生まれ、6対4か7対3くらいでスタートアップ側が勝ったといいます。モバイルではUberやWhatsApp、Instagramが出てきたものの、主にAppleやGoogleといった既存プレイヤーが勝ち抜きました。
クリプトはほぼ100%スタートアップ、第一世代のAIは大手でした。今回の生成AIがどちらに転ぶかは業界内で議論されていて、宮武さん自身も含め「大手が強いのでは」とよく言われるそうです。
| 技術の波 | 主に勝った側 | 宮武さんが挙げた例 |
|---|---|---|
| インターネット | スタートアップ(6対4〜7対3) | Google、Amazon、PayPal、Salesforce |
| モバイル | 既存プレイヤー | Apple、Google(新興はUber、WhatsApp、Instagram) |
| クリプト | ほぼ100%スタートアップ | ― |
| 第一世代のAI | 大手 | ― |
大手が強いとされる理由として、宮武さんは3つを挙げます。キャッシュがあり、ドラッグのように奪い合われているGPUを買えること。独自データを抱えていること。そして最も重要なのが、すでにディストリビューションを持っていることです。
たとえばGoogleは、裁判中ではあるものの、デフォルト検索のポジションを持っています。Microsoft Officeを導入済みの会社が多いなかで、代替サービスを作っても一気に置き換えるのは難しいのが実態だと宮武さんは話します。
大手は、LLMなどのAIモデルを作る会社への出資や資本業務提携も大規模に進めています。OpenAIにはMicrosoft、AnthropicにはGoogle、Salesforce、Zoom、直近ではAmazonが出資し、Hugging Face、Kohya、Runway、Inflection AI、AdeptにもNVIDIAやSalesforce、Microsoftなどが入っています。
もう、じゃ、囲い込みですね、本当に。投資から。若い芽を摘んでる感。
宮武さんによると、NVIDIAは去年11件しか投資していませんでしたが、収録時点の10月にはすでに20件に達しています。スタートアップは、大手がイノベーションする前にディストリビューションを確保しなければならないという課題を抱えています。
それでも宮武さんは、今どんなAIサービスが出てきているかを見ると、将来どんなサービスが出てくるかのヒントになると考えています。そのためにまず、今どんなシフトが起きているのかを理解する必要があるといいます。
モバイルとインターネットの革命は何が違ったのか
宮武さんは、いま起きているのはいわゆるプラットフォームシフトだと述べます。AIのプラットフォームシフトはよくモバイル革命やインターネット革命に例えられますが、似ている点だけでなく、違いを知ることも重要だと強調します。
モバイルとインターネットに共通していたのは、どちらも「ディストリビューションの革命」だったことです。新しい技術であるだけでなく、まったく新しい流通チャネルを作ったため、全員がゼロから始まりました。
インターネットが始まった時は、ニューヨークタイムズのサイトも、個人ブロガーのサイトもゼロ人のユーザーから始まってるんですよ。
一方で、インターネットはディストリビューションだけでなく、ビジネスモデルの革命も起こしました。オンプレ型でライセンスベースのソフトウェアからSaaSへの移行です。
新しいビジネスモデルは新しい市場を切り開きます。SaaSによってSMBが初めてソフトウェアを使えるようになり、SlackやFigmaのような、個人ユーザーが使えるプロシューマー向けのサービスも出てきました。
モバイルは、ゲームなどの例外を除けば、インターネットと同じビジネスモデルの上で、新しいディストリビューションチャネル、つまり新たな利用時間をアンロックしたのだと宮武さんは整理します。
ディストリビューションの革命に加え、オンプレ・ライセンス型からSaaSへのビジネスモデルの革命が起き、SMBやプロシューマーという新市場が開けた
ディストリビューションの革命が中心。同じビジネスモデルの上で、新しいチャネルと利用時間をアンロックした
さらに宮武さんは、プラットフォームシフトの初期には、企業が前のプラットフォームのメンタルモデルを抱えたまま移行すると指摘します。アプリストアの開始時には、多くの企業がデスクトップアプリをモバイルアプリにしただけでした。
Uberがローンチしたのはアプリストアのローンチから2年後で、Instagramはさらにその5カ月後です。ネイティブなサービスが出るまでには、どうしても時間がかかるといいます。
直近2回のシフトがどちらもディストリビューションの革命だったため、私たちはその見方に慣れています。しかし宮武さんは、AIのプラットフォームシフトはディストリビューションの革命ではないと言い切ります。
何の革命なんですか。
Copilotは誰のための戦略か
宮武さんは、AI業界でよく聞く「Copilot」という言葉を取り上げます。Copilotは、スタートアップよりも既存の大手に向いた戦略だというのが宮武さんの見方です。
Copilotってそもそも既存の何かがあって、その上にアシスタント的な要素を加えているわけじゃないですか。
既存のサービスに機能を足す以上、Copilotにはディストリビューションが必要になります。Microsoft、Canva、Adobe、Salesforce、Zoom、Instacart、Shopifyなどの大手がCopilotを導入しているのは、すでにサービスが成立しているからだと宮武さんは説明します。
ディストリビューションもデータもUXもビジネスモデルも持っている企業にとって、それにフィットするAI戦略がCopilotです。そのため、Copilotの発想で考えると、ほとんどの領域では既存企業が勝ってもおかしくありません。
逆に既存しか勝てなそうなぐらいなんか。
そうなんですよ。だからこそ、やっぱり大手が強いですよねっていう話をしてしまうんですよ。みんな。僕も含めてですけど。
宮武さんは、だからこそまったく違う考え方、違う戦い方が必要だと話します。その参考になる瞬間として挙げたのが、2000年のSalesforceです。
2000年のSalesforceは何を壊しに行ったのか
Salesforceは1999年に設立され、初年度に40人ほどまで成長しました。当時のソフトウェアはほぼすべてオンプレ型で、購入するとソフトウェア企業のエンジニアが顧客のサーバールームへ出張し、1〜2週間作業するのが一般的でした。
場合によっては、出張中のホテル代や食事代まで顧客が負担する必要があり、ソフトウェアを導入するだけで大きなコストがかかっていたといいます。草野さんは、以前の回でクラウド化の革命について話したことを思い出します。
マーク・ベニオフ ── Salesforceの共同創業者でCEO。派手なマーケティングと、クラウド型の業務ソフトを広めた人物として知られますさんは、ブラウザさえあればソフトウェアを購入して使える世界を目指しました。宮武さんは、エンタープライズソフトウェアの売り方そのものを変えたのだと説明します。
Salesforceの初期のスローガンは「The End of Software」でした。ソフトウェア全般の終わりではなく、一世代前のソフトウェアのあり方が終わるという意味です。
当時の最大の競合は、オンプレ型CRMの超大手Siebel ── 1990年代に企業向け顧客管理ソフトで大きなシェアを持っていた会社。のちにOracleに買収されましたでした。2000年2月22日にサンフランシスコで開かれたSiebel Conferenceの会場の外に、「End of Software」の看板を持った反対運動が現れます。
反対運動
ベニオフさんが役者を雇い、会場の外で「End of Software」の看板を掲げさせる
偽のテレビ取材
存在しない「チャンネル22」が取材に来る。これもベニオフさんの仕掛けだった
警察の出動
騒ぎを見たSiebelが警察を呼んで止めさせる
報道
その出来事をウォール・ストリート・ジャーナルが取り上げ、Salesforceが徐々に有名になる
え、じゃあその取材した映像、どこにも流れないってことですか?
どこにも流れないです。でも、それだけなんか大事になってるっていうのを見せたくて。
宮武さんによると、ベニオフさんの本には、本当は戦車を呼ぶ予定だったとも書かれていたそうです。さすがにそれは見送られたといいます。
ちょっと境界線が全然わかんない。
フランスで開かれたSiebelのイベントでも、Salesforceは似た手を打ちました。空港から会場まではタクシーで45分ほどかかるため、空港のタクシーをすべて貸し切り、移動中の45分間ずっとsalesforce.comを売り込んだといいます。
宮武さんは、こうしたマーケティングの根底には、既存のビジネスモデルを叩きに行くというSalesforceの考え方があったと見ています。完全に違う売り方をすることがプロダクトの根本にあり、同じことをAIでも考えなければならないというのが宮武さんの主張です。
1ユーザー課金をやめると、どんな市場が見えるのか
宮武さんは、生成AIやLLMを活用したソフトウェア企業の多くは、過去25年間のソフトウェア企業と同じ考え方をしていると指摘します。つまり、従業員の生産性をどう上げるかを考えているということです。
従業員向けのプロダクトに最もフィットするのが、1ユーザーあたりの月額課金、英語でいう「per seat basis」です。人事の給料は開発者より平均的に低いため、人事向けソフトウェアは低価格になりやすいなど、価格は生産性をどれだけ上げられるかで決まるのが一般的な考え方です。
ただ、このモデルには入りにくい領域があります。従業員が少ない市場では、価格を高くしない限り市場規模が小さくなってしまうからです。
そこで宮武さんが挙げるのが、ソフトウェアを売って従業員1人の生産性を上げるのではなく、労働そのものを売り込むという発想です。SaaS業界ではソリューションが多すぎてレッドオーシャン化していますが、ビジネスモデルを変えればブルーオーシャンが見えてくる可能性があるといいます。
この考え方は宮武さん独自のものではなく、VCのBenchmarkに所属するサラ・タベルさんが提唱していたものです。タベルさんが事例に出したのが、人身傷害弁護士向けのサービスを提供するEvenUpです。
人身傷害の案件では、依頼者が提供した情報を弁護士が「デマンドレター」と呼ばれる要求書にまとめます。EvenUpは、このレターを自動生成するサービスを作っています。
EvenUpはCopilot的にも見えますが、ビジネスモデルが根本的に違います。普通のSaaSなら弁護士1人あたりいくらという課金になりますが、EvenUpはレター1通を作るごとにいくらという課金です。
弁護士1人あたりの月額課金。売上はユーザー数に比例し、ユーザーの生産性向上に価値を置く
デマンドレター1通ごとの課金。弁護士が多くの案件を扱うほどEvenUpも儲かり、弁護士は削減できる人件費で価値を測れる
宮武さんは、EvenUpは普通のSaaSモデルならスタートアップとして存在しにくかったと話します。アメリカの人身傷害弁護士は5万人しかおらず、1人が月10ドル払っても売上は100億円ほどにしかならない、と宮武さんは試算します。
結局その席数が足りない、いわゆるユーザー数が足りないんですけど、デマンドレターの数は足りるっていう。
ビジネスモデルを変えることで、今まで入りにくかった市場が見えてくるかもしれない。それがサラ・タベルさんの考え方だと宮武さんはまとめます。草野さんは、ソフトウェアというよりアシスタントに近い考え方なのかと受け止めます。
部分的な労働の置き換えと、両側をつなぐマーケットプレイス
宮武さんは、労働の置き換えは必ずしも「完全リプレイス」ではないと補足します。たとえばOff Topicの会社が頼んでいる税理士も、今はある程度の顧客しか対応できません。
我々からすると、その税理士っていう、その認定を持った人を雇う必要はあるので、完全(に)税理士をリプレイスするのではなくて、税理士が自分の労働を一部リプレイスする。
税理士が労働の一部をAIに置き換えれば、より多くのクライアントや、よりよいクライアントに対応できるようになるかもしれない、と宮武さんは考えています。
もう一つの考え方として、宮武さんはVCのGreylockでパートナーになったセス・ローゼンバーグさんのブログを紹介します。ローゼンバーグさんは、AIファーストのマーケットプレイスには2つの要素が必要だと書いています。
1つ目は、マーケットプレイス内から生まれる独自のデータです。2つ目は、供給側と需要側のどちらか一方をAIで置き換えるのではなく、両側をつなげることです。
弱い例として挙げられたのが、フリーランスのロゴデザインのマーケットプレイスです。人間のデザイナーをアルゴリズムに置き換えても、得られるのはプロンプトと、出てきたロゴの中からどれを選んだかというデータくらいで、優位性のあるデータにはなりにくいといいます。
宮武さんは、本当に必要なのは、デザイナー側のニュアンスや、どんな場面でどんなスタイルのロゴを出すのかといった情報だと説明します。
強い例は、AIファーストの採用マーケットプレイスです。採用されたい側にはAIキャリアコーチを、リクルーター側にはAIアシスタントを提供し、2つのプロダクトを同じアルゴリズムでつなげます。
人間のデザイナーという片側をアルゴリズムで置き換える。得られるのはプロンプトと選択結果くらいで、データの優位性が弱い
求職者にAIキャリアコーチ、リクルーターにAIアシスタントを提供し、同じアルゴリズムでつなぐ。両側の深いデータでよりよいマッチングができるという仮説
さらに宮武さんは、カスタマーサポートの例も挙げます。アメリカの企業はコスト削減のため、できるだけ電話をさせず、FAQ、チャット、最悪の場合に電話という順で対応を任せようとします。
AIを入れるとなると、まず思いつくのはカスタマーサポートの自動化です。しかし宮武さんは、その先の考え方として、コストではなく売上にできないかと問いかけます。
電話を有料化するってことですか?問い合わせを。
いや、電話を有料化するよりも、結局これって顧客との接点なので。
今のカスタマーサポートは、問題が起きて顧客が動かない限り始まりません。AIの側から自ら動き出し、「こういうサービスもありますよ」と伝えられれば、より営業に近い役割を担えると宮武さんは説明します。Amazonなども昔から、コストを売上に変える考え方を実践しているといいます。
モバイルネイティブの答えは2009年のブログにあった
いくつかの事例を踏まえて、宮武さんは、AIネイティブなサービスを作るときに「ネイティブさ」をどう考えるかが重要だと話を進めます。
ネイティブなサービスが生まれるまでには時間がかかります。インターネットの初期は新聞のようなテキストベースのものが多く、コードを埋め込めると理解されるまでに時間がかかりました。
時間はかかるものの、ネイティブなアプリを作れればリードが取れる、と宮武さんは考えています。ネイティブさを考えるうえで参考になるとして挙げたのが、VCのUnion Square Venturesが2009年に出したブログです。
2009年は、ちょうどモバイルのプラットフォームシフトの時期でした。CNNがアプリ化するなど、デスクトップのものをアプリにする動きが起きていたなかで、「モバイルネイティブとは何か」が問われていました。今の「AIネイティブとは何か」のモバイル版だと宮武さんは話します。
Union Square Venturesのアルバート・ウェンガーさんは、スマホという新しいデバイスがもたらす「基盤要素」を考えるべきだと書き、5つの要素を挙げました。
重要なのは、どの要素も単体では新しくないことです。タッチは以前のデバイスにもあり、GPSも昔からありました。それらが1つのデバイスに統合され、インターネットにつながったことで、新しい行動やアプリケーションが生まれたといいます。
宮武さんの整理では、こうした基盤要素を基本的に2つ以上取り入れることで、モバイルネイティブなアプリケーションが生まれます。では、AIの基盤要素とは何か、というのが次の問いです。
AIの幻覚は解決すべきバグなのか
宮武さんがAIの基盤要素の候補として挙げるのは、AIの幻覚現象です。草野さんは「見えないはずのものが見えるようなことか」と確認します。
幻覚の例としてよく挙がるのは、AIが間違った情報を伝えることです。昔のChatGPTは基本的な数学ができないことがありました。LLMは次の言葉を予想しているだけで、実際には計算していないからです。
幻覚は解決すべき課題だとよく言われます。しかし宮武さんは、本当に解決しなければならないものなのか、実は基盤要素なのではないかと考えています。
人間もさまざまな幻覚を見たり口にしたりします。過去の情報をもとに新しいアイデアを出すような、クリエイティブな面では幻覚がとても重要だと宮武さんは話します。
幻覚をバグではなく機能として扱うサービスの例として、宮武さんは大喜利のようなコメディ的なものや、セレンディピティ ── 思いがけない偶然から価値あるものに出会うこと。予想していなかった発見や巡り合わせを指す言葉ですが求められるサービスを挙げます。
ビジネスでも使えるのかという点については、ベニオフさんとOpenAIのサム・アルトマンさんの対話が紹介されます。ベニオフさんが幻覚をどう解決するのかと尋ねると、アルトマンさんは「それは解決する話ではない」と答えたそうです。
(アルトマンさんいわく)「データベースを調べて何か答えを出すサービスは、今世の中にいっぱいあります。ただ、そのデータベースをベースに新しいアイデアを考えるサービスって少ないですよね」と。
学生とChatGPTのビジネスアイデア対決、勝ったのはどちらか
新しいアイデアを考える例として、宮武さんはペンシルベニア大学のウォートンスクールで行われた、学生とChatGPTのビジネスアイデアコンテストを紹介します。
課題は「大学生市場向けで、50ドル(約7000円)以下の、フィジカルな新商品のアイデア」です。学生のアイデアからランダムに200個を選び、ChatGPTからは学生と同じ指示で100個、過去の成功事例を参考にさせて100個、合計400個のアイデアが集められました。
比較の指標は3つです。1つ目はスピードで、ChatGPTを使った1人が200個のアイデアを出すのにかかった時間は15分でした。人間が1人でやると、15分で出せるのはおよそ5個です。
2つ目は、他の大学生へのアンケートで測った平均の購入意向です。完璧な質問ではないものの、アイデアの質はおおよそわかるといいます。
平均ではChatGPTが上回ったものの、差は大きくありません。宮武さんは、ビジネスではアウトライヤーが勝つため、平均より一番いいアイデアを出せたかが問題だと指摘し、3つ目の指標として購入意向の上位10%、40個のアイデアを見ます。
トップ40個のアイデアを見た中で、どれくらい学生が作ったと思います?
半分以上。
残念ながら。5個なんですよ。
上位40個のうち35個がChatGPTのアイデアで、そのうち15個が学生と同じ指示、20個が成功事例を参考にしたものでした。評価したのは実際の学生で、どちらが作ったアイデアかは知らされていません。
さらに、上位16個はすべてChatGPTで、人間のアイデアは17位が最高でした。上位16個のうち11個は、過去の成功事例を参考にしたChatGPTのアイデアです。
最も購入意向が高かったのは、ChatGPTが出したコンパクトなプリンターで76%でした。人間のアイデアの最高は、大きなアダプターも挿せる延長コードで64%です。宮武さんは、ビジネスアイデアを出す場面でもChatGPTが活用できるかもしれないと話します。
自動運転にこそ「想像」が必要な理由
宮武さんは、幻覚が役立つもう一つの例として自動運転を挙げます。最近、自動運転技術にLLMを加えるとパフォーマンスが上がるという研究が行われているそうです。
これまでの自動運転車は、LiDAR ── レーザー光を照射し、その反射から周囲の物体までの距離や形を測るセンサー。自動運転車の目として広く使われていますやカメラなどのセンサーデータをもとに判断していました。その判断は「この時はこうする」というルールベースが中心で、テスラなどもまさに、すべてのケースをカバーしきれないという課題を抱えていたといいます。
そこで、センサーデータと判断の間に、人間のような考えを持つ「コミュニケーションレイヤー」としてLLMを挟むべきではないか、という発想が出てきます。そうすることで、車がより状況を理解できるようになるというのです。
センサーデータからルールベースで判断する。起こりうる状況をすべて書く必要があり、カバーしきれない
センサーデータと判断の間にLLMのレイヤーを挟み、状況を理解・想像したうえで判断する
実例として、Waveという会社が作っているAIモデルRingo-1のデモが紹介されます。自動運転のカメラ映像と並んでチャットがあり、AIに今何を見て何をしようとしているかを尋ねると、「バイクが横を走っているので右に寄っています」といった説明が返ってくるそうです。
宮武さんが幻覚の重要性を感じるのは、「そこにいる歩行者は何をすると思いますか?」と聞かれたときに、AIが想像しなければならない場面です。
そこで変なでたらめになってしまったら怖くないですか。
変な幻覚になってしまうと悪いんですけど、でもいい幻覚になると、より安全になるんですよ。
そこで幻覚をしないっていうのは間違いだと思うんですよ。幻覚をしなかった場合に、全部のシナリオを考えないといけなくなるので。
すべてのシナリオを事前に入力しておくのは不可能なため、ある程度の想像が必要になります。それをどう組み込むかがネイティブさの一つの鍵になる、と宮武さんは考えています。
LLMは答えではなく、判断のためのインターフェース
宮武さんは、今の多くのAIスタートアップが、LLMに企業のデータを組み込んで精度を高めるサービスを作っていると指摘します。ユースケースはあるものの、それがLLMの一番いい使い方なのかは議論が必要だといいます。
ChatGPTはナレッジのリポジトリではなく、次の言葉を予測するLLMです。そのため宮武さんは、アウトプットを信頼するよりも、LLMをインターフェースとして見るべきではないかと提案します。
宮武さんの例えでは、アーティストに数学の質問をすると、アーティストはそれが数学の質問だと理解しているからこそ、適当には答えず計算機を取り出します。質問を理解して、どんな答え方がいいかを判断しているわけです。
宮武さんは、これこそがLLMの役割だと考えています。想像をすべきか、パソコンやデータベースにつないで答えを出すべきかを判断するのがLLMで、LLM自体が真実を言うのではなく、答えに導くための判断のインターフェース、いわばOSだという見方です。
元テスラで現在はOpenAIで働くアンドレイ・カーパシー ── AI研究者。テスラで自動運転のAI開発を率い、OpenAIの創業メンバーの一人でもありますさんも「LLMはOSだ」という趣旨の話をしていたと宮武さんは紹介します。インプットとアウトプットの間に入るものとしてLLMを捉えることが、AIネイティブになるための大きな考え方の一つかもしれないといいます。
最後に宮武さんは、Copilot型で成功するスタートアップも多く出てくるとしつつ、個人的には2000年のSalesforceのように、大手の根本の部分に戦いを挑む人たちを見たいと語ります。
ビジネスモデルの話から始めた理由について、宮武さんは、既存企業にとってビジネスモデルは非常に変えにくいからだと説明します。ディストリビューションはキャッシュで解決できるかもしれませんが、根本的なお金儲けの仕方を変えるのは難しく、そこにスタートアップの大きなチャンスがあるといいます。
アメリカのVCやスタートアップの間でも、AIネイティブなサービスのネイティブさをどう作るかが盛んに議論されているそうです。宮武さんは、AIサービスを作る人たちのヒントになればと話し、この回を締めくくりました。
まとめ
この回で宮武さんは、AIのプラットフォームシフトをビジネスモデルの革命と捉え、Copilotで既存サービスを強化する大手とは違う戦い方として、労働を売るモデルや幻覚を機能として扱う発想を示しました。
- AIはディストリビューションではなくビジネスモデルの革命であり、Copilot的な発想では大手が有利になりやすい
- 2000年のSalesforceのように、既存企業が変えにくいビジネスモデルを叩きに行くことがスタートアップのチャンスになる
- EvenUpのように1ユーザー課金をやめて労働の成果に課金すると、ユーザー数が少なく入りにくかった市場が開ける
- スマホの基盤要素のように、AIでは幻覚(想像)が基盤要素になりうるとし、ビジネスアイデアや自動運転での活用例が紹介された
- LLMは真実を答える存在ではなく、想像するか外部データを使うかを判断するインターフェース、OSとして捉えるべきだという見方が示された





