ラルフローレンはなぜ「時の流れを遅らせた」と答えたのか
宮武さんがこの回で考えたいのは、会社やブランドが時間をコントロールすることで、エンゲージメントの高い商品や、ユーザーとの深い関係をどう作れるかという問いです。
宮武さんがこの問いを考え始めたきっかけは、リテール関連メディア2PM ── リテールやEコマースを中心に分析記事を発信するアメリカのメディア。著者のウェブスミス氏が運営していますの著者ウェブスミスさんが紹介したエピソードでした。ウェブスミスさんがラルフローレンにブランド作りの秘密を尋ねたところ、意外な答えが返ってきたといいます。
(ラルフローレンさんの回答が)それが、えっと、「時の流れを遅らせたんだぞ」と。
宮武さん自身は、ラルフローレンの言葉の意味を今もしっかり理解できていないと率直に話しています。ウェブスミスさんは「時代を超えるブランドを作るには時間がかかる」という意味に捉えていたそうです。
そのため今回の宮武さんの話は、ラルフローレンの言葉への答えではありません。ラルフローレンの言葉をきっかけに「時間という軸をもっと考えるべきだ」と感じた宮武さんが、関連するテーマを並べていく構成になっています。
人類の歴史が1000ページの本だったら?
宮武さんは最初に、時間を操作する前に「時間の見え方」を広げることが大事だと話します。例に挙げたのが、ブロガーのティム・アーバン ── 人気ブログ「Wait But Why」の書き手。テクノロジーや人類の未来を図解とユーモアで解説する長文記事で知られていますさんが最近出した本の冒頭です。
ティム・アーバンさんの本の設定では、ホモ・サピエンスの20万〜30万年の歴史を、1ページ250年として1000ページの本にまとめます。その本では、農業革命が950ページ目、記録された歴史が976ページ目、キリスト教の誕生が993ページ目に始まります。
アメリカの歴史は1770年から2020年ほどと考えると、最後の1000ページ目にほぼ全部が収まります。今の人類が書き始めているのは1001ページ目だ、というのがティム・アーバンさんの見立てです。
宮武さんがこの設定を面白いと感じたのは、テクノロジーの進歩の見え方が変わるからです。Off Topicではイノベーションの加速が足りないという話を何度もしてきましたが、人類史の本で見るとまた違う視点が生まれるといいます。
最初の999ページはなぜ退屈なのか
ティム・アーバンさんの本では、700ページ目の人を250年後の701ページ目に移動させても、文化的な違いはあれど、基本的に同じ暮らしができるとされています。長い間、250年たっても世の中はほとんど変わらなかったからです。
ティム・アーバンさんによれば、もし宇宙人が人類史の1000ページの本を読んだら、めちゃくちゃつまらないと言うだろうとのこと。最初の999ページはほぼ何も変わらないからです。
宮武さんは、テクノロジーの観点からも始まりの遅さを紹介します。ホモ・サピエンスが生まれてからベッドが生まれるまでに10万年、そこから弓矢まで4万年、人類初の楽器まで1.7万年、さらに農業革命まで3.3万年かかったといいます。
ホモ・サピエンス誕生
約30万年前
ベッド
誕生から10万年後
弓矢
そこから4万年後
初の楽器
そこから1.7万年後
農業革命
そこから3.3万年後
一方で、1000ページ目だけは全部が急に変わります。ティム・アーバンさんの比較図では、世界の人口は10億人から80億人に増え、移動手段は徒歩や馬、船から車・飛行機・ロケットへ、コミュニケーションも会話や手紙、狼煙から電話・メール・ビデオ会議へと変わっています。
人口10億人。徒歩・馬・船で移動し、会話・手紙・狼煙で伝え、マスへの発信は本や新聞、口頭
人口80億人。車・飛行機・ロケットで移動し、電話・メール・ビデオ会議で伝え、ラジオ・テレビ・YouTube・SNSで発信
宮武さんは、今の世の中を普通だと思いがちだけれど、実は社会は異常に加速しているのだと強調します。企業は四半期単位で物事を見がちですが、もっと広い視点で見るからこそ違う形で世の中を捉えられるというのが宮武さんの考えです。
若い世代のテック起業家が少ないのはなぜか
宮武さんは、時間の見方には人類史のような大きなスケールのほかに、過去のエピソードで話した「変曲点」もあると話します。たとえばインターネットの普及率が50%を超えたタイミングで、インターネットネイティブのサービスが生まれ始めたという見方です。
Off Topicでは別の回で、20代など若い世代にテック業界を代表する人が少ないという課題も話していました。この課題に対して、Coinbaseの元CTOであるバラジ ── バラジ・スリニヴァサン氏。Coinbaseの元CTOで、テクノロジーと社会についての独自の論考で知られる投資家・起業家ですさんが「年代」という仮説を示しています。
オフラインの生活を理解しているため個人主義的で、インターネットを最先端として見ていた
オンラインで育ったため同調的で、インターネットを新しいものではなく戦場として見ている
宮武さんは、この違いによってインターネットでサービスを作りたいかどうかといった考え方も変わってくるのではないかと紹介しています。仮説が正しいかどうかは置いたうえで、面白い考え方だという受け止めです。
シリコンバレーを「場所」ではなく「時間」として見る
バラジさんの仮説から宮武さんが広げたのは、シリコンバレーを場所ではなく時間として見るという考え方です。草野さんが「20年、30年とかですもんね」と応じたように、インターネット革命はそれほど古くありません。
宮武さんによれば、シリコンバレーのきっかけとなった「8人の反逆者」の1人、ゴードン・ムーア ── 半導体企業インテルの共同創業者。半導体の集積度が約2年で倍になるという「ムーアの法則」の提唱者として知られていますさんが今年亡くなったばかりです。パーソナルコンピューターも50〜60年ほど、モバイルは15〜16年ほどで、まだまだ若い業界だといいます。
あんまり世代間での、なんか、世代間で接することが少ない。
宮武さんは、シリコンバレーでは世代同士の接点がピッチくらいしかなく、複数の世代が集まって何かすることが少ないのを不思議な現象だと話します。草野さんは、若い人が常に多いことや、成功した上の世代が別のことに興味を移していることが理由ではないかと推測しました。
宮武さんもその可能性に同意しつつ、成功しなかった人たちはシリコンバレーを離れているのかもしれないと付け加えています。
パソコンが分解できなくなると、起業家はどう変わる?
宮武さんは、世代をコホートとして見ると、どんなスタートアップを作るかという考え方も変わってきたのではないかと話します。その一因として、時代ごとにどんな製品が作られていたかを挙げました。
1970年代にスティーブ・ウォズニアック ── Appleの共同創業者。初期のApple IやApple IIの設計を手がけたエンジニアとして知られていますさんが設計したAppleⅡは簡単に開けられ、中身をカスタマイズできました。一方で1984年のMacintoshは、スティーブ・ジョブズが開けさせないようにしたかった製品だといいます。
分解できた時代
パソコンや家電、車のエンジンを自分でいじり、直せた
開けられない製品
ハードウェアはプロに任せるしかなくなる
遊べるのはソフトだけ
唯一カスタマイズできる対象がソフトウェアになる
ソフトの起業家が増える
ハードウェアの人気が相対的に下がる
宮武さんは、ソフトウェアが人気になった理由はお金や初期投資の大きさだけではなく、一部は世代の理由ではないかと見ています。コホートの考え方は、スタートアップ業界ではもともと自社サービスのエンゲージメントや満足度を測るために使われるものでもあります。
草野さんは、今も自作PCはあるものの、iPhoneの出始めにはjailbreak、いわゆる脱獄をする人がいたのに最近はあまり聞かないと振り返ります。宮武さんも、カスタマイズがどんどん難しくなっていて、ハードウェア自体も複雑になっていると応じました。
時間がブランドの価値になる「ヘリテージ」とは
宮武さんは、プロダクトが変わればエンドユーザーも変わる可能性があると述べたうえで、時間の長さがブランド価値を作る「ヘリテージ」の話に移ります。テクノロジーやマーケティング施策がコモディティ化する中で、最後に残るのはブランドだという考えです。
過去のエピソードで出した例は培養肉です。培養肉のブランドは今はテック企業として見られていますが、培養肉が普及すれば、ただのフードブランドにしか見えなくなるだろうと宮武さんは話します。
ナイキ、ルイ・ヴィトン、コカ・コーラは、ヘリテージを活用してブランドの信頼度を高め、競合にはできない施策を打てています。逆にヘリテージを持たないD2C ── Direct to Consumerの略。メーカーが小売店を介さず、主に自社のECサイトで消費者に直接販売するビジネスモデルですブランドは、何らかのレガシー要素を作りに行くケースが多いといいます。
創業者の経験や歴史、アジアンアメリカンの文化史、ランニング文化など昔からある営みを語る
Notion・Slack・Discordのように若い層を狙い、一緒にヘリテージを作る
宮武さんによれば、他の競合を使ったことがない若い世代がDiscordを使い始めれば、Discordを使う割合は他のサービスに比べてどんどん上がっていきます。
エッフェル塔はなぜ嫌われ、なぜ愛されるようになったのか
宮武さんは、時間の長さの面白さを示す例として、以前DAILYMEMOで書いたエッフェル塔の話をします。今は毎年700万人ほどが訪れるパリの象徴ですが、1889年に建てられた当時はめちゃくちゃ嫌われていたといいます。
当時のエッフェル塔は世界一高い建造物でしたが、商業的でアメリカっぽすぎるとして、ミュージシャンやアーティスト、詩人などフランスのクリエイティブ層から強く批判されました。政府に対して、パリの芸術的なヘリテージに恥をかかせる、という趣旨のレターも出されたそうです。
(その文学者は)毎日その人はエッフェル塔の下のレストランで、なんかほぼ毎日ランチをしてたらしいんですよ。
唯一パリでエッフェル塔が見えない場所がエッフェル塔の下だからっていう。
それでもエッフェル塔への評価が変わっていった理由を、宮武さんは「おそらく時間」だと考えています。設計者のギュスターヴ・エッフェルさん自身も、エッフェル塔をエジプトのピラミッドと比べていたといいます。
ギュスターヴ・エッフェルさんは、博物館で古代ローマの壊れたお皿のような一見しょうもないものが面白く見えるのは、時間が過ぎたからだと考えました。建物のすごさは素材ではなく時間なのではないか、という問いかけです。
宮武さんは、周りの世界がどんどん進歩する中で唯一変わらないものは、世代をまたぐ存在になると話します。今年で100年を迎えるディズニーも、いろんな世代が同じ場所で似た体験をできることが強みだといいます。
宮武さんはさらに、100年を超えるブランドは人間の寿命を超えるため、宗教的な意味合いでは神様になったような感覚もあるのかもしれないと付け加えました。
批判をし続けるのはなぜ難しいのか
草野さんは、建物がずっと在り続けることもすごいけれど、ブランドは誰かが手を動かして格好よくあり続け、ビジネスとしても成功し続けなければならない点でさらにすごいと話します。東京タワーもエッフェル塔の真似だと批判されていたことにも触れました。
まあみんな好きっていうのは、まあそれずっと批判し続ける人って、いない、あんまり少ないので、そうなるのは確かにそうですよね。
宮武さんは草野さんの話を受けて、最初は変化するから批判されるけれど、長続きするということは変化しないことでもあると整理します。エッフェル塔への批判は、変化に対する批判だったのだろうという見方です。
宮武さんは、Facebookのニュースフィードも最初は強く批判され、今は普通になったと例を挙げます。カウンターカルチャーとして生まれたSupremeも、今はカルチャーに馴染み始めています。
宮武さんの結論は、ブランドやスタートアップを作るときは、全員が納得するものより一部の人が納得したいものを出すほうが、ブランド作りの意味ではよい場合もあるかもしれない、というものです。
ブランドと街づくりは同じように考えていいのか
草野さんは、ブランドはそうかもしれないが、街づくりは少し違うのではないかと返します。賛同しなかった人がいたことを消してはいけないし、踏み台にしてはいけない気がするという考えです。
(ブランドは)その人がやりたいことをやって、それに対してそんなに勝手にやってればいいじゃんっていう感じな気がするんですよね。
街づくりの場合だと、実際に弊害が出てくる人たちも出てくるので。
草野さんは、エッフェル塔ができたことで自宅からの景色を奪われた人のように、ずっと嫌だと思い続けている人もいるかもしれないと話します。宮武さんも、反対し続けた人はいただろうと認めました。
一方で宮武さんは、エッフェル塔の人気で物件の価値が上がった人もいるかもしれないと指摘します。草野さんは家賃が上がって引っ越さざるをえなかった人もいるかもしれないと応じ、宮武さんは家を持っていれば売れた人もいただろうと、良い方向と悪い方向の両方を挙げています。
宮武さんは、建物は周りの人に直接影響を与えるのに対し、オンラインから始まるD2Cブランドはそこまで影響を与えない点が違いだとまとめました。
時間は「努力」として評価される
宮武さんは、時の流れそのものはコントロールできず、ブランドは生き残るしかないと前置きします。そのうえで、時間を操作する1つ目の方法として「時間は努力として捉えられる」点を挙げました。
たとえばXで140文字のテキストを書くより、同じ内容をミームや図、インフォグラフィックにしたほうが評価されやすいと宮武さんは話します。わかりやすさに加えて、テキストより図のほうが圧倒的に大変で、努力が入っていると見られるからです。
ところがAIによって図やインフォグラフィックの制作コストが下がり始め、努力にかかる時間が減ったぶん、そうした表現は以前ほど評価されなくなりつつあります。そこで宮武さんが目にしたのが、何人かの記者が図を編み物で表現するという試みでした。
そっちの方が見やすいかっていうと、おそらく見やすくないんですよ。ただ、なんかそれだけの努力を重ねて出したものっていうところが評価される。
草野さんは、以前「熱量」という言葉で努力の話をしたと振り返ります。1分で作ったものでも、本人が熱量を持って作っていればすごくいいものになり、出した本人のスタンスも大事だと話しました。
AIのツールとか使っても、パッてやったやつじゃなくて、いろんなプロンプト試してみて、いろんなことやってみて、で、最終的に出したアウトプットがこれなんですっていう、自らの熱量があるとないのって結構(違う)。
人を巻き込むっていうのはAIじゃできないので、なんかそこの部分の違いかなっていうのは思います。
宮武さんは、こうした熱量は一見評価しづらく、ブランドとしては「AIを使ったほうがよくない?」と言いがちだと認めます。それでも、何度もプロンプトを試してよりよいものを目指したという努力は、毎回ではないにせよ評価されやすいと話しました。
「今」と「昔」をどう組み合わせるか
宮武さんが挙げるもう1つのわかりやすい方法は、TikTokのトレンド動画に乗るように、今の時代に合わせて調整することです。ただしヘリテージが大事だという話とも関わるため、今に合わせることと昔を大事にすることのバランスや両立をブランドは考える必要があるといいます。
そこで多くのブランドが使っている手法が、昔を振り返るノスタルジア ── 過去を懐かしむ感情のこと。マーケティングでは、昔のデザインや流行を復活させて好意的な記憶を呼び起こす手法として使われますを活用したマーケティングです。過去のトレンドの再流行や、昔のデザインの復活によって、過去のいい時を思い出してもらう方法だと宮武さんは説明します。
宮武さんによれば、Booking.comの調査では、最近人気の旅行先に80年代や90年代に人気だった場所や、昔の映画のロケ地が挙がっていました。数年前にAirbnbで最後のブロックバスターに泊まれる企画もありました。
今年の映画『バービー』や、以前話したマクドナルドについて、宮武さんはタイムリーなものとタイムレスなものをうまく組み合わせているからこそ成功していると見ています。時間を飛び交うことで、世代を超えるブランドも作れる可能性があるという考えです。
世代を超えるリファレンスカルチャーとは
宮武さんは、ブランドは立ち上げ時には1つの世代にフィットするケースが多いと話します。一方でNIKEの店舗に行くと年齢層や属性が幅広く、どう世代をブリッジするかがトップブランドにとって重要で、難しい課題だといいます。
ポップカルチャーで世代を超える仕組みとして宮武さんが挙げるのが、昔のミームなどを使い直すアメリカの「リファレンスカルチャー」です。宮武さん自身、ガンズ・アンド・ローゼズやメタリカ、KISSをゲームの『ギターヒーロー』から知り、エルトン・ジョンの『ロケットマン』などの曲はアニメ『ファミリー・ガイ』から知ったといいます。
宮武さんはそこからYouTubeなどで原曲を直接聴くようになったそうです。草野さんが以前紹介したマクドナルドのキャンペーンは、映画やアニメ、ドラマをマッシュアップし、新しいドラマの予告やコラボブランドのスポイラーを入れた映像だったと草野さんは説明します。
宮武さんは、マクドナルドのキャンペーンは若い世代と昔の映画を見た世代の両方を喜ばせ、若い世代が昔の映画を見に行くきっかけにもなりうると話します。ただし長続きしているマクドナルドだからこそできることかもしれない、とも添えました。
リック・アンド・モーティとバーガーキングは時間をどう超えたか
宮武さんはマクドナルド関連の例として、アニメ『リック・アンド・モーティ』を挙げます。作中でリックが、マクドナルドが1998年に出した四川系のソースをめちゃくちゃ美味しいと言い続けるエピソードがありました。
そのソースを知らなかった世代がソースを欲しがり、二次流通では未開封のソースが200万ほどで売りに出されたといいます。2か月後、マクドナルドはソースを1日だけ再リリースし、その後も3回ほどリリースしました。作品のクリエイターには、エピソードに合わせたパッケージの特別バージョンも送っています。
宮武さんは、リック・アンド・モーティの例はたまたまだったと思うとしつつ、意図的に時間を超えた例としてバーガーキングの2019年のTwitterキャンペーンを紹介します。
世代を超える例として、宮武さんはセレブをインタビューするYouTube番組『Hot Ones』も挙げます。出演するセレブと同世代の人はあまり見ていないものの、子どもに出てくれと頼まれて出演するセレブが多く、その結果、親の世代も見るようになるといいます。
BeRealやドロップのように「自分の時間」を作る
宮武さんは次に、過去のOff Topicでも話した「自分の時間を作る」という考え方を挙げます。わかりやすいのは、通知が来てから2分間のうちに写真を投稿するBeRealです。
しかも全員共通で同じ時間ってなると、いわゆる今のアテンション取り合いするのがすごい大変な中、二分間自分たちの時間を作れるっていうのってすごい重要で。
ブランドにとっては、決まった時間にだけ販売する「ドロップ」も同じ概念だと宮武さんは説明します。さらに重要なのは、自分の時間を何回も作るだけでなく、複数の時間を結びつけて1つのタイムラインにすることだといいます。
エンタメ業界でわかりやすいのは、いろんな映画が1つのストーリーにつながるマーベルのMCU ── Marvel Cinematic Universeの略。マーベル・スタジオの映画やドラマが同じ世界観を共有し、作品同士がつながる一連のシリーズですです。Off Topicでも年末のエピソードで1年間を1つのテーマで振り返るナラティブを作ってきたとし、ブランドもナラティブ作りをもっと考えてよいのではないかと宮武さんは話します。
ヒュンダイはTikTokでどうタイムラインを作ったのか
ナラティブ作りの最近の事例として宮武さんが紹介したのが、韓国の自動車メーカー、ヒュンダイがアメリカで行った新車IONIQ 6のキャンペーンです。自動車の宣伝は認知を広く取る必要があるため、TikTokの活用が非常に効果的だといいます。
ヒュンダイがまず組んだのは、チョコレートで自転車や大きなクマのぬいぐるみ、バーカウンターなどを作る2000万人以上のフォロワーを持つショコラティエ、アマリー・グイションさんです。ヒュンダイはこのショコラティエに、チョコレートで新車を作ってほしいと依頼しました。
もちろんなんかフォロワーが多いっていうのもあるんですけど、コンテンツが広告であっても誰も文句を言わないっていう。
宮武さんによれば、ファンは「またやばいもの作ってる」という目でショコラティエの動画を見るため、作るのがヒュンダイの車でもネガティブな印象を与えません。さらにヒュンダイは、TikTokに動画を流しながら自分の反応を重ねるデュエット ── TikTokの機能の1つ。他人の動画と自分の動画を画面に並べて表示し、反応やコラボを投稿できますというリミックス文化があることも理解していました。
チョコレートで車を作るのはスキルが必要でチャレンジ企画にできないため、交流はデュエットに限られます。そこでヒュンダイは、過去にショコラティエの動画へ反応したことがある、300万〜400万人ほどのフォロワーを持つリアクション系インフルエンサーのChef Reactionsさんもスポンサーしました。
宮武さんは、単体の動画で終わらせずナラティブとして設計し、チャネルに合ったデュエット機能も使った点がうまいと評価します。草野さんも、ただ動画を撮るのではなく実際に移動してコラボする作りは、努力や熱量が感じられて見応えがあると応じました。
宮武さんは、動画がつながっているからこそ、最初の動画をもう一度見に行く人もいるだろうと付け加えています。
「ゆっくりした時間」を作るブランドは矛盾しないか
宮武さんが最後に挙げたのは、よりゆっくりした時間を作るという戦い方です。アメリカのブランディングの多くは、Nikeの「Just do it」やOutdoor Voicesの「Doing things is better than not doing things」のように、アクションを取ることを勧めるものだといいます。
宮武さんは、ミレニアル世代はバーンアウトする世代とも言われるため、アクションを取るだけではないブランドがカウンターカルチャー的に必要なのではないかと考えています。代表例として宮武さんはこんまりさんを、草野さんはパタゴニアを挙げました。
ビジネスやる上でアクション取ってほしい、消費者に。買うということを。
それをやった時に、え、言ってることと違うじゃんとか、なんかちょっとギャップが生まれると、なんか難しいなとは思いますよね。
宮武さんも、草野さんが挙げた矛盾こそがゆっくりした時間を作るうえで一番難しい点だと認めます。それでもブランドの一部分にゆっくりした時間を取り入れることはヒントになるかもしれないと話し、Slackのロード画面に出るジョーク的なメッセージを例に挙げました。
宮武さんによれば、Slackのロード中に面白いメッセージで笑わせることで、効率ばかりを求める中にちょっとしたひとときや一息を作れます。ブランド全体をそれに象徴させるべきかは別として、部分的には作れるという考えです。
草野さんは、Slackの例も同じ画面にいてほしいということでもあり、リップのように「これだけでいい」と言いつつそのブランドに留まってほしいという矛盾があるとして、パラドックスだと表現します。宮武さんは、次の年にまた新しいリップを出していたらどういうことだと思うと応じました。
特にサステナビリティを押すブランドに関してはすごい心配になりますね。本当にそう思ってるんですか?っていう。
宮武さんは、パタゴニアのようなブランドが毎年のように新商品を出すことに心配を覚えると話します。草野さんは、消費者が新商品を待ち望んでいることやビジネスの事情もあり難しいと返し、二人とも「めちゃくちゃ難しい」と認め合いました。
答えより「時間という軸」で世の中を見る
宮武さんはこの回の締めくくりに、答えを出すというより、時間という軸を見ることでブランドの捉え方や作り方の視点を変えられたらと話します。
草野さんは、冒頭の人類史で超長期的に考える話は、なかなかできない発想だと振り返ります。宮武さんも、普通はやらないと笑いつつ、100回目のエピソードで話したレイ・ダリオさんの本の帝国の盛衰の話も、新しい視点を開いてくれたと話しました。
まとめ
この回は、ラルフローレンの「時の流れを遅らせた」という言葉を起点に、人類史のスケール、世代、ヘリテージ、努力、ノスタルジア、タイムライン、ゆっくりした時間まで、時間という軸からブランドとプロダクトを捉え直す内容でした。
- 人類史を1000ページの本として見ると、今の社会が異常なほど加速していることがわかる
- エッフェル塔のように、最初は変化として批判されたものも、時間がたつと世代をまたぐ価値になる
- AI時代には、かけた努力や熱量そのものが評価の軸になりうる
- ノスタルジアやリファレンスカルチャー、ヒュンダイのような連続した動画で、ブランドは世代や時間をつなげられる
- ゆっくりした時間を作るブランドは魅力的だが、買ってほしいというビジネスとの矛盾をどう扱うかが難しい


