始まりは株の買い増しと「いい人すぎる」CEO
2022年10月27日、イーロン・マスクはTwitterの買収を完了しました。この回はその日からちょうど1年が経つタイミングで配信され、草野さんと宮武さんが買収後のTwitterに何が起きたのか、どう受け止めたのかを振り返っています。
冒頭では、サービス名がXに変わったことについて、二人とも「まだ慣れない」と話しています。
慣れないですね。Twitterってどうしても言っちゃいますよね。
宮武さんはまず、買収までの時系列をたどります。イーロンがTwitter株を買い始めたのは2022年1月で、当時はまだ公表されていませんでした。3月にはTwitterの代替サービスを作りたいとツイートし始めます。
イーロンは株の保有が明らかになる前に、当時のTwitter CEOだったパラグ・アグラワル氏と食事をしています。その場で社外取締役として入らないかという話が出たものの、イーロンのパラグ氏への評価は「いいやつすぎた」というものでした。
振られる時の一言みたいですね。「あの人はいい人すぎるんだよな」つって。
宮武さんによれば、イーロンはTwitterのCEOに「いいやつ」は必要ないと考え、「火を吹くドラゴンが必要だ」という言葉を使ったといいます。イーロンが好む「ハードコア」という言葉に通じる人物像です。
草野さんが、これは今のTwitterに対する評価なのか、イーロンが求める経営者像なのかと尋ねると、宮武さんは「どっちもだと思います」と答えています。イーロンは全部の会社でそういう人を求めているからです。
ハワイ休暇中に決まった440億ドルの買収
2022年4月、イーロンがTwitter株の9%を保有していることが明らかになり、社外取締役就任のオファーも出ました。Off Topicの二人も、当時Spotifyで配信していた別番組でこの動きを追っていたそうです。
イーロンは当初、社外取締役のオファーを受け入れる予定でした。ところが4日ほどのハワイ旅行の間、旅行そっちのけでTwitterのことばかり考え、社外取締役ではだめだという結論に至ったといいます。
ハワイのバケーションで考えるディールじゃないですね。
イーロンは2022年4月14日、時価総額44ビリオンでの買収オファーを出します。当時会長だったブレット・テイラー氏らとのやりとりもSMSで済ませていたそうです。Twitterの取締役会はポイズンピル ── 敵対的買収を防ぐ手段の一つ。買収者以外の株主に新株を安く取得できる権利を与え、買収者の持株比率を下げて買収コストを上げる仕組みですで対抗しましたが、10日後の4月25日にはオファーを受け入れました。
しかし、一件落着とはなりませんでした。宮武さんが振り返った、その後の経緯は次のとおりです。
なんかたらい回しにされてるのがちょっとかわいそうなんですけど、Twitterが。
宮武さんによれば、オファーの受け入れから10月までの間、イーロン自身も日によって「すごくいい買い物だ」と思ったり「もうダメだ」と思ったりしていたそうです。答えは決まっていなかったといいます。
株式市場も下落し、合意した時点では明らかに44ビリオンの価値はない状態でした。宮武さんは、この点が後の判断に最も影響したのではないかと見ています。
買収完了は半日前倒し。退職金を払わないための計画
2022年10月27日の買収完了の裏側にもドラマがありました。宮武さんによると、イーロンは予定より半日ほど早く買収を完了させており、それは意図的だったといいます。
本来の計画では、買収完了後にパラグ氏らキーメンバーが退職届を出し、退職金を受け取るはずでした。退職金は数十億規模でした。イーロンはそれを払いたくなかったため、買収のタイミングを早め、退職届が出される前に解雇したのです。
でまああとはイーロンとしてもおそらく若干復讐な意味合いがあって。
いわゆる44ビリオンで買わせられたって思ってるから。
草野さんは「仕掛けたのは本人なのに」と驚き、宮武さんも「仕掛けたの彼本人なんですけど」と認めています。二人は、イーロンが洗面器を抱えて本社に現れた件や、偽物の社員が出てきた件にも触れ、当時のドタバタぶりを振り返りました。
8割以上を解雇。3段階のレイオフの中身
買収後に最も話題になったのは大規模レイオフです。Twitterは最終的に、従業員の80〜85%ほどを解雇しました。
宮武さんはイーロンに関する本などで明かされた背景を紹介します。テスラで自動運転ソフトウェアを開発するチームは150〜250人ほどでした。それに対し、Twitterのソフトウェアエンジニアは2500人と、その約10倍いたのです。
イーロンの計算では、2500人が1日3行ずつコードを書くだけでも、年間300万行になります。これは1つのOSを作るレベルであり、そんなに人は必要ないのではないかと考えたわけです。
レイオフは3つの段階に分かれていました。
2回目は普通なら考えにくいやり方です。ただ宮武さんは、買収直後に批判的なコメントが実際にあったことや、イーロンが入るとカルチャーショックが大きいことを背景に挙げています。イーロンのチームによれば、データセンターを止めるようなコードを復讐目的で書いた人もいたそうです。ただし宮武さんは「どこまで本当かは分からない」としています。
イーロンのチームは、Slackの公開チャンネルは見たもののDMは見ていないと説明しています。ただ、権限上はおそらくDMも見られる状態だったといいます。
「解雇しすぎだ」という議論もありました。宮武さんによれば、これも意図的です。イーロンは全ての条件を疑い、不要と思うものを削ります。そして削ったうち2割ほどを戻すくらいでなければ、そもそも削り方が足りなかったと考えるのです。Twitterが今採用を行っているのも、この考え方によるものだといいます。
全サービスが壊れてはないっていう。
「これだけ解雇すると壊れる」という声はレイオフのたびに上がっていました。実際に部分的な不具合は出ており、宮武さんもアナリティクスが信用できなくなったと感じています。それでもシステム全体は壊れておらず、イーロン自身はこれを正解だと考えているだろう、と宮武さんは見ています。
「心理的安全性」をイーロンが笑った理由
宮武さんは、イーロンの買収でおそらくポジティブに変わったのは「文化」だと話します。どの元従業員に聞いても、Twitterは社内政治が大変で、イノベーションが起きにくい会社だったといいます。
新しい機能を開発はできても、リリースまでたどり着けない。この状況は、パラグ氏の時代にも、その前のジャック・ドーシー氏の時代にも共通していたそうです。
草野さんが理由を尋ねると、宮武さんは社内のバズワードが心理的安全性 ── チームの中で、自分の意見や失敗を気兼ねなく口にできる状態のこと。Googleの調査で、成果を出すチームに共通する要素として注目されましただったことを挙げます。重要なサービスだからこそ、周りを怒らせたくない、悪い環境にしたくないという空気があったといいます。
革命を起こすイーロン・マスクみたいなキャラクターの人は少なそうですね。
なんで、やっぱりまあイーロンもその心理的安全性っていう言葉を聞いてなんか笑ったらしくて。いやいやみたいな。
草野さんは「大事なんですけどね」と返し、宮武さんも「大事なんですよ」と同意しています。笑ったのはイーロンであって自分ではない、と念を押したうえで、ハードコア好きのイーロンとはほぼ正反対の考え方だったと説明しています。
元Twitterのプロダクト責任者エスター・クラフォード氏も同じことを語っていたそうです。インフラが古いうえに、何カ月もかけて開発した機能が直前で「リスクが高い」と止められることがありました。成果を出さない人も解雇されず、別のチームに異動するだけだったといいます。
怒涛の新機能ラッシュ。認証マークと決済の明暗
イーロンの体制になってから、Twitterは上場以来ともいえるスピードで新機能を出し始めました。QAテストをしていないのではと思うほどバグも出ていますが、宮武さんは、機能の良し悪しは別として、スピードが上がったこと自体は良いことだと考えています。
ただ、プロダクト判断を個別に見ると、うまくいっていないものが多いといいます。分かりやすい例が認証マークです。お金を払えば誰でも認証マークを付けられたため、広告主や有名人になりすます人が現れ、一度取り下げられました。
有料サービスのTwitter Blueも大きな成果を出せていないようです。宮武さんは、加入者が100万人に届いていれば発表しているはずなので、おそらく届いていないだろうと推測しています。
一方で、評価された施策もあります。
認証マークのなりすまし騒動、トラクションの乏しいTwitter Blue
クリエイターへの収益還元、決済システム導入の動き
特にクリエイターへの支払いは、Twitterで初めて投稿から収益を得られるようになった点が評価されていると宮武さんは見ています。送金事業者のライセンスも、宮武さんが確認した時点で7つの州で取得済みでした。イーロンが構想するスーパーアプリ ── メッセージ、決済、買い物など複数の機能を1つのアプリにまとめたもの。中国のWeChatが代表例です「X」への布石と考えられます。
ロゴの青い鳥がXに変わった理由について、宮武さんは、イーロンが本社のあちこちで鳥のロゴを見すぎて気に入らなかったらしい、というエピソードを紹介しています。またイーロンは、PayPalの創業期にもサービス名をXにしたがっていた人物です。ずっと出したかったXをようやく実現した、というわけです。
Twitterは死んだのか。じわじわ劣化するSNS
宮武さんは「Twitterは今死んでいるのか」という根本的な問いを投げかけます。手がかりにしたのは、SNSについて優れたブログを書くユージン・ウェイ氏の記事で、宮武さんもその内容に強く同意したといいます。
ウェイ氏の見立ては、Twitterを置き換えるのはとても難しいが、少しずつ劣化しているのは明らか、というものです。宮武さんも、テック業界でアクティブだった人の投稿が減っていると肌で感じています。その原因は買収そのものではなく、イーロンが下したプロダクト判断にあると考えています。
SNSは「自殺」しにくいサービスで、なくなるときは基本的に新しいサービスに置き換えられるしかない、と宮武さんは説明します。理由はネットワーク効果 ── 利用者が増えるほどサービスの価値が高まる性質。SNSでは知人や話し相手が多い場所ほど離れにくくなりますの強さです。サービスの質が落ちても、ネットワーク効果は残り続け、乗り換えのコストも高いのです。
なんか結構最後まで、なんかもう帰らせないと、あの、あの、なかなか出ていかない人っていると思うんですけど、
それと同じ現象がSNSで起きるっていう。
イベントで最後まで帰らない人がいるように、一度できたグループは価値が下がっても人が残ります。草野さんは、人が減ってむしろ話しやすくなる面もあると付け加えました。宮武さんは、Twitterの代わりが出にくいからこそ、一気に置き換わるのではなく、じわじわ劣化していくパターンになるだろうと話しています。
ハッシュタグもRTもユーザー発案。ボトムアップで育ったTwitter
宮武さんがTwitterのもう1つの重要な要素として挙げるのが、イノベーションの起こり方です。Twitterは他のSNSと比べて、機能の生まれ方が大きく違っていたといいます。
ストーリーズやリール、ニュースフィードを経営陣が決めて導入するトップダウン型
コミュニティが始めた使い方を会社が後から機能にするボトムアップ型
宮武さんが挙げた例は多くあります。ハッシュタグは一般ユーザーのクリス・メッシーナ氏が始めたもので、本人がTwitterチームにプレゼンまでしたそうです。「ツイート」という言葉もコミュニティが生んだもので、Twitter社は最初は嫌っていました。返信の@、リツイートの元になった「RT」、リストもユーザー発です。
かつてはAPIも公開されていて、さまざまな外部アプリが生まれました。Twitterはツイート検索アプリのSummizeを2008年に買収し、自社の検索機能の土台にしています。
しかし上場にあたって1つのフィードに統一し、APIを絞ったことで、そのイノベーションのエンジンを切ってしまったのではないか、と宮武さんは指摘します。広告で収益化するには統一が当時の正解だったものの、外で起きていたイノベーションを社内に取り込めなかったのかもしれません。
草野さんは、ジャック・ドーシー氏や初期のTwitterについて、経営者というよりコミュニティのリーダーで、いい意味での教祖っぽさがあったと振り返ります。宮武さんも、コミュニティをエンパワーするというドーシー氏の理念に、元々のTwitterはよく合っていたと応じました。
ユーザーがアルゴリズムと「会話」していたフィード
コミュニティと一緒に作るという性格がTwitterに最後まで残っていたのが、フィードだと宮武さんは考えています。少なくとも2年ほど前までのアルゴリズムは、土台にアルゴリズムがありつつも、ユーザー一人ひとりが自分のフィードを選び取れるものでした。
なんか誰をフォローしてるか、誰をアンフォローするか、誰を何をいいねするか、何をミュートするか、何をブロックするかによって、
なんかフィードのアルゴリズムと常に会話を(各ユーザーが)してたと思ってるんですよ。
宮武さんによれば、Twitterはパーソナライズされたアルゴリズムを作るために、あえてエンドユーザー側に負担を与えていました。誰もが好きに投稿し、それをどう並べるかはユーザーが決める、という設計です。
ところがイーロン以前から始まり、イーロンが加速させた変化によって、ユーザーが作り上げたフィードがTikTok風のアルゴリズムに置き換えられました。ソーシャルグラフ自体は変わらなくても、その評価と優先順位の付け方が変わったのです。
フォローしている人を優先し、その中でエンゲージメントの高い投稿を表示
フォローしていない人の投稿の割合が増えるTikTok風の表示
アメリカのテック業界でよく言われるのも、「おすすめ」でフォローしている人の投稿の割合が減ったということです。宮武さん自身もそう感じています。
時系列順フィードは「欲しいけど使われない」
フォローしている人だけの「フォロー中」フィードもあります。しかし宮武さんは、そちらにも課題があると言います。宮武さんは基本的に「おすすめ」しか見ないと明かし、草野さんを驚かせました。
え、だって、おす--普通にフォローしてる人見たくないですか?
見たいですけど、それ(フォローしてる人の投稿)が今までのフィードだとそれをやってくれてたんで、
宮武さんの考える問題は、「フォロー中」フィードが時系列順であることです。時系列順は欲しいと言う人は多いものの、実際に使う人は少ないといいます。Instagramでは、ユーザーはフィード内の投稿の7割を見ていません。Twitterも似た数字だろうと宮武さんは推測しています。そうなると、時系列順ではいい投稿が埋もれやすくなります。
Twitterは、Facebookのように相互に友達になる必要がなく、一方的にフォローできます。そのためTwitterのグラフは、ソーシャルグラフから作られる「興味グラフ」だと宮武さんは説明します。
以前のフィードがうまくいったのは、この性質に合っていたからです。フォローしている人を優先しつつ、エンゲージメントの高い投稿を出すことで、ソーシャルな感覚と興味ベースを両立していました。フォロー外の投稿が増えた今は、投稿しても自分のフォロワーに届きにくくなっています。
InstagramにはハマったTikTok化が、Twitterに合わない理由
宮武さんは、InstagramがリールでTikTok化するのと、TwitterがTikTok化するのは大きく違うと考えています。
ストーリーズやDMでフォロー関係のコミュニケーションが別に成り立っていた。1本ずつ見る動画はスワイプで「興味なし」を判定しやすい
フィードそのものがフォロー関係の場。複数の投稿が同時に見えるため否定的な反応を読み取りにくい
Twitterでは基本的にポジティブなシグナルしか取れないため、エンタメやジョーク、誰もが好むもの、スレッドが評価されやすくなります。さらに短文は、引用や返信の文脈がないと理解できないことが多く、AIにとっても人間にとっても分類が難しいといいます。
イーロンが滞在時間を指標にしていることも、スレッドや動画が強調される原因だと宮武さんは見ています。宮武さんは同じ動画をYouTubeとTwitterに投稿したことがあり、Twitterのほうが視聴維持率は明らかに悪かったそうです。Twitterでは短いコンテンツを求める人が多く、10分の動画を最後まで見る人は少ないといいます。
エンジニアリングでは測れない、「広場」としてのTwitter
TikTok化はイーロン以前から始まっていた可能性がありますが、加速させたのは明らかにイーロンだと宮武さんは言います。そしてイーロンはTwitterの改善を語るとき、エンジニアリングの話をすることが多い、と指摘します。
しかし宮武さんは、Twitterの良さはエンジニアリングではない部分にあると考えています。人間味があるかどうかであり、ユーザーが機能を生み、自分のグラフやフィードを作ってきたことです。
元々のTwitterには、いろいろな小さな広場がありました。宮武さんは、TikTok化で万人受けする動画がバズるようになると、それらが1つの大きな広場にまとまってしまうかもしれない、と懸念しています。
宮武さんによれば、Twitterには2つのソーシャルキャピタルがあります。バスケ好きやテック好きが集まるポジティブな興味と、嫌いなものを一緒に嫌うネガティブな共感です。
宮武さんは、Twitterを毎日スクロールすることを、毎週教会に通うことにたとえます。今日の主人公は誰か、何の話が聞けるのかを確かめに行く。時には敵が現れて石を投げる。この構図は、Twitterではキャンセルカルチャー ── 問題があるとみなした人物を、SNS上の批判や不買などで社会的に排除しようとする動きのこととして表れます。広場は昔から、良い場所であると同時に公開処刑の場でもありました。
一方で、会ったことのないTwitter上の友達ができる場所だったことも、Twitterの大きな良さだと宮武さんは話します。ここで紹介されたのが、ユージン・ウェイ氏の言葉です。
(Twitterは)仕事場では内向性的な人。
なんですけど、えー、テキストベースだと外向性の人。
そうですね、が集まれる24時間のナイトクラブだと。
草野さんはこれを「内弁慶」と受け止め、いい意味でオタクっぽく、ネットだと元気でいられる感覚だと話します。宮武さんは、外から見ると少しイケていないギークが集まってかっこいい場所だったと付け加えています。そうしたマイクロコミュニティの集まりを、イーロンは自分のカルトに引き寄せているのではないか、と考える人も多いといいます。
10億ユーザーを目指すなら、イーロンの判断は正しい?
宮武さんは、今のコアユーザーにはネガティブに見えるTikTok化も、イーロンの立場で考えると実は正しい判断だと話します。44ビリオンで買収したTwitterには、今明らかにその価値がないからです。
10億人に届くには、思い切った手を打つ必要があります。その1つがTikTok風フィードだと宮武さんは見ています。パワーユーザーには分かりにくいものの、Twitterは実はかなり使いにくいサービスです。例えば投稿の先頭に@を付けると通常の投稿にならないため、先頭にドットを入れる必要があります。
草野さんは、今から始めるなら友達探しは難しくても、話題のニュースや緊急のニュースを追うには「おすすめ」は便利だろうと話します。一方で、新規ユーザーが特定のコミュニティに入るのは難しいという点では、二人の意見は少し分かれました。
でも学校とか、あの、好きな芸能人とかだったら見つけられる気がします。
例えばですけど、バスケコミュニティに入りたいってなると、一つのアカウントだけではなくて、その、そのバスケ業界内で何が起きてるかっていうのを知りたいじゃないですか。
宮武さんによれば、タイムラインを開くと、何の話か分からない話題をみんなが一斉に話している。スクロールしてスレッドを読み、ようやく理解する。その満足感はTwitterのマジックモーメントでもありますが、ユーザーの大きな負担を前提としています。Twitterは、TikTokやリールと比べて圧倒的に能動的なサービスなのです。
草野さんが「ある意味、摩擦があっていいのか」と尋ねると、宮武さんは同意しつつ、摩擦はマスに広げにくい原因にもなると答えます。TikTok化は、その摩擦をなくすための施策なのかもしれません。
そこで宮武さんが示したのが、2つのフィードの役割を分ける案です。
TikTok風のまま残し、ライトユーザーや新規ユーザーが使う
時系列順をやめ、2年前のようなフォロー中心のランキングに戻してコアユーザーが使う
ただし宮武さんは、イーロンが望まない答えとして、TikTok風アルゴリズムがTwitterでは機能せず、そもそも大きなサービスにはなれないという可能性も挙げています。過去10年、実際にそうだったからです。アメリカでも、Twitterを知っていても使っていない人はとても多いといいます。テキスト中心で受け身では見られないため、普通の人にとっては「だったらTikTokを見る」となってしまうのです。
しっかりした議論の場はスケールしない?
宮武さんは、社会には議論できる広場がほしいと言う人が多く、自分もその一人だと話します。そして、その役割を担うのがTwitterのような場所だと語られがちです。
例として挙げたのが、Redditのサブレディット ── Redditの中にある、テーマごとの掲示板コミュニティのこと。それぞれに管理者がいて独自のルールで運営されます「ChangeMyView」です。自分の意見を書き、その意見を変えるための議論を求める場で、個人攻撃は削除されるなど厳しく管理されています。宗教や政治、中絶といったテーマでもしっかりした議論が行われていました。
しかし、このコミュニティを独立したサービスとしてスピンアウトさせる試みはうまくいきませんでした。宮武さんは、しっかりした議論の場はスケールが難しく、Twitter風の「路上での殴り合い」のほうがスケールしやすいのかもしれない、と話しています。
宮武さんは、ラッパーのドレイク氏の歌詞「trigger fingers turn to Twitter fingers」も紹介しました。引き金を引く指がツイートする指に変わる、という意味です。Twitterにヘルシーな会話だけを期待するのは間違いなのかもしれない、と宮武さんは考えています。
SNSがパブリックにした会話は、グループチャットへ戻るのか
最後のテーマは、パブリックとプライベートの関係です。宮武さんは、DMやクローズドなコミュニティ、グループチャットへの移行が起きている一方で、TwitterはDM機能を強化してこなかったと指摘します。
さらに宮武さんは、20〜30年後にSNS時代を振り返ったとき、「あの頃のコミュニケーションの仕方はおかしかった」と言われるかもしれないと話します。かつて電話やメールでしていた会話を、公開の場でするよう意識付けたのがSNSだったからです。
草野さんは、もともとネットはパブリックという前提があった中で、見られていることがより可視化されたと受け止めています。そのうえで、パブリックかプライベートかのどちらかに戻るのではなく、両方になったのではないかという見方を示しました。
宮武さんは、グループチャットも万能ではないと言います。2カ月放置して未読が数百件たまると、もう見たくなくなります。草野さんも、参加しているのに何も発言しない人がいると「積極的に参加してよ」と感じるプレッシャーがある、と付け加えました。
グループチャットではすべてのメッセージが同じ優先度で扱われ、1件ずつ未読として数えられます。アルゴリズムで良いものから見せてくれるタイムラインは、全部追わなくていいという感覚を与えてくれます。宮武さんは、短文の分類は難しくても、ニュアンスを読み取るのが得意なLLM ── 大規模言語モデルの略。大量の文章から学習し、文章の理解や生成を行うAIで、ChatGPTなどの基盤になっていますが新しいフィードやUIを生むかもしれないとも話しています。
締めくくりとして宮武さんは、タイムラインは徐々に劣化しているように見えるものの、イーロンがそうする理由には納得していると語ります。そして、パワーユーザーを拒まずに新規ユーザーを獲得する仕組みを考えてほしい、と期待を述べました。
まとめ
イーロン・マスクによるTwitter買収から1年。この回では、ドタバタの買収劇と大胆な組織改革、新機能ラッシュを振り返ったうえで、フィードのTikTok化が、ユーザーが育ててきた「広場」の性格を変えつつあることが語られました。宮武さんは、10億ユーザーを狙うイーロンの判断に理解を示しながらも、パワーユーザーと新規ユーザーを両立させる設計を求めています。
- 買収はハワイ休暇中の思いつきから始まり、訴訟を経て44ビリオンで決着。完了は退職金を払わないために半日前倒しされた
- 80〜85%を解雇するレイオフで社内政治の文化は一変し、開発スピードは上がった。一方で認証マークのように失敗した施策も多い
- ハッシュタグやRTなど、Twitterのイノベーションはユーザー発のボトムアップで生まれてきた
- ユーザーがアルゴリズムと「会話」して作ったフィードがTikTok風に変わり、小さな広場が1つの大きな広場にまとめられつつある
- 宮武さんの提案は、「おすすめ」はライト層向けに残し、「フォロー中」をフォロー中心のランキングに戻すという使い分け





