なぜ今、起業家はマイアミへ向かうのか?
Off Topicのこの回は、「マイアミは次のスタートアップシティになるのか」と「カリフォルニアの課題」という2つのテーマを掲げて始まります。
草野さんは、番組で以前ユタやテキサスを次のスタートアップシティとして取り上げたことに触れつつ、コロナ以降はTwitterを見ているとマイアミへ行く起業家やVCが非常に多いという印象を語ります。
コロナになってから、ほんとマイアミに行く起業家、VC、Twitterを見てるとめちゃくちゃいるなっていう印象なんですけど。
めちゃくちゃ多いですね。
宮武さんによると、アメリカのVC業界では少なくとも2年ほど前から、カリフォルニアへの不満がどんどん増えていたといいます。その流れがコロナで加速し、シリコンバレーから撤退する起業家、VC、大企業が増えているため、シリコンバレー内でもホットな話題になっているそうです。
草野さんは、道が汚い、物価が高いといった印象はアメリカの大都市に共通するものだと思っていたと話します。これに対し宮武さんは、サンフランシスコは特にひどく、出張で訪れた人の多くがホームレス問題の目立ち方や道の汚さを口にすると応じます。
それでも宮武さんは、テック業界で圧倒的に強いのは今もカリフォルニアだと強調します。Airbnb、Uber、Facebook、Salesforceの本社はシリコンバレーやサンフランシスコ周辺にあり、サンドヒルロード ── シリコンバレーのメンロパーク周辺を通る通り。名門ベンチャーキャピタルのオフィスが集まっていることで知られ、VC業界の代名詞のように使われますには名門VCが集まっています。
テックハブはどうやって富を生むのか?
カリフォルニアの変化を語る前に、宮武さんはまずテック業界がどれだけの経済インパクトを持つかを知ることが大事だと話します。その説明の軸になるのが、テックハブが生み出す「グロースサイクル」です。
シリコンバレーの場合、グロースサイクルの起点は教育機関だといいます。スタンフォードのような名門大学からエンジニア、デザイナー、ビジネスパーソンが生まれ、Googleのような新しい会社を作ります。
起業精神を持つ人がスタンフォードに多かったため、そこへアクセスしたいVCが近くにオフィスを構えます。VCが集まると周辺で資金調達が活発になり、もともとシリコンバレーに住んでいなかった起業家も集まってきます。
人が集まればユニコーン級のイグジットも起き、その資金で新しいVCや新しい起業家が生まれます。宮武さんはこれを「めちゃくちゃいいイノベーションサイクル」と表現しています。
宮武さんが語るシリコンバレーのグロースサイクルを、順番に整理すると次のようになります。
教育機関
スタンフォードなどからエンジニアやデザイナー、ビジネスパーソンが育つ
起業
起業精神を持つ人がGoogleのような新しい会社を作る
VCの集積
起業家にアクセスしたいVCが周辺にオフィスを構える
起業家の流入
資金調達が活発になり、外から起業家が集まる
イグジットと再投資
ユニコーン級のイグジットの資金で新しいVCや起業家が生まれる
カリフォルニアはこのサイクルから明らかに大きな恩恵を受けてきたと宮武さんは言います。カリフォルニアを1つの国とみなした場合、2019年のGDPは約343兆円で、世界の上位5番目に入る規模だそうです。
それぐらいの規模の州なんですよ。しかもこれ州なので。
ビッグテックは州の税収を支えていない?Amazon第2本社が示す経済効果
草野さんが「ビッグテックが集まっているからですね」と返すと、宮武さんは意外な点を指摘します。ビッグテックはGDPには関わっている可能性があるものの、カリフォルニア州の実際の収入にはそこまで関わっていないというのです。
宮武さんによれば、FacebookやGoogleは税金を払う本社所在地がカリフォルニアではありません。企業は低い税金を払いたいという理由で所在地を選んでおり、カリフォルニアは税金がとても高い州だからだと説明します。
それでも、これだけのGDPが生まれているのはテック業界の影響が大きいはずだと宮武さんは考えています。その別の例として持ち出したのが、Amazonの第2本社の誘致です。
Amazonが第2本社を作ると発表した際、各都市が応募できる仕組みになり、自治体は自分たちのメリットをアピールする動画まで作ったそうです。宮武さんによると、応募したのは200都市以上にのぼります。
最終的に選ばれたのはニューヨークとバージニアでしたが、ニューヨークは一部の市民から批判を浴びて撤退し、バージニアに決まりました。バージニアはワシントンDCのすぐ近くです。
宮武さんは、本来の最終候補にはノースカロライナなど別の地域が残っていたとし、Amazonは戦略的にこの2都市を選んだのではないかと見ています。ニューヨークは金融の経済圏を持ち、バージニアは政治の中心であるワシントンDCに近いという意味合いがあったのではないか、という推測です。
まだすべて完成していないものの、各種調査では、Amazonの進出によってバージニア州に毎年6000億円以上の経済効果がもたらされると試算されているそうです。採用、建設、従業員による地元での消費など、さまざまな形で経済が動くためです。
草野さんは、この第2本社がシリコンバレーのような新しいサイクルを生むかもしれないと話します。宮武さんも、Amazonを辞めたエンジニアが新しい会社を作る流れは十分ありうると応じています。
州になって以来初の人口減少
テック業界の経済インパクトを多くの都市が理解している一方で、宮武さんはカリフォルニアがもともと持っていたアドバンテージが減っていると指摘します。コロナでリモートワークが可能になったことも背景にあり、シリコンバレーから撤退する人が徐々に増えているといいます。
草野さんは、Twitterのような大手テック企業はなんだかんだシリコンバレーやサンフランシスコにとどまるだろうと思っていたと率直に話します。
多分理想としては皆さん(シリコンバレーに)残りたいんですよ。
いろんな要素が出てきてるからこそ撤退し始めてるんですけど。
宮武さんが紹介したのは、VCのInitialized Capital ── Y Combinator出身者らが立ち上げたアメリカのベンチャーキャピタル。シード期のスタートアップへの投資で知られますによる投資先の調査です。2020年には約4割の起業家がサンフランシスコで会社を立ち上げたいと答えていたのが、2021年には28%に落ちたそうです。
宮武さんは、リモートという選択肢が増えた影響もあるかもしれないとしたうえで、カリフォルニア州全体の人口が約18万人減ったことを挙げます。カリフォルニアは1850年に州になって以来、人口が減ったのはこれが初めてだといいます。
その一方で人口が増えているのがテキサスとフロリダです。宮武さんはこれらの州の話は後回しにして、まずカリフォルニアの人口が減っている理由と、州がテック業界に大きく依存している理由を説明していきます。
州の収入の3割を支えるのは、上位1%の人々
宮武さんによると、カリフォルニア州の収入のほとんどは所得税から来ています。ここでの所得税には、投資で得た利益にかかるキャピタルゲイン ── 株式などの資産を売却して得た値上がり益のこと。日本でもアメリカでも、給与所得とは別の扱いで課税されることが多いへの税金も含まれています。
その所得税がカリフォルニア州の収入の66%を占め、この割合は毎年ほぼ同じだそうです。企業からの税金は約10%にとどまり、個人からの税金が圧倒的に大きいことがわかります。
さらに驚くのは、その66%のうち半分が、州の人口の上位1%から来ているという点です。上位1%はおよそ4万〜13万世帯で、ごく一部の世帯が州の収入の約3割を担っている構造になっています。
草野さんが「テックの人ですよね」と尋ねると、宮武さんはおそらくVCなどのテック関係者が多いだろうと答えます。そのうえで、こうした人たちが離れれば州へのインパクトは大きいと話します。
ケアする必要はあるかどうかわかんないですけど、ただまあ(上位1%が)離れていくリスクはあるっていうのはカリフォルニアも理解しないと。
数字で見るカリフォルニアの現状
ここから宮武さんは、さまざまな分野のカリフォルニアの統計を紹介します。前置きとして、良いところもたくさんあるが、今回はあえて悪い数字を集めたと断っています。
経済と雇用では、2021年3月時点の失業率が8.1%で、50州の中で下から2番目でした。貧困率は18.2%で、5人に1人が貧困の状況にあり、これはアメリカで最下位だといいます。
草野さんが「貧富の差が激しそうですよね」と言うと、宮武さんは実態としてかなりの差があると認めています。所得税率は平均13.3%で、州の中で最も高い水準です。
環境面では、石油や天然ガスの設置許可を2倍にしている一方で、クリーンエネルギーを軽視していると宮武さんは指摘します。山火事が最も多い州でもあり、草野さんも街が何日もオレンジ色になっていたことを思い出しています。
生活の質では、ホームレスの数が最も多い州がカリフォルニアです。州の規模が大きいことも理由ですが、数では圧倒的に多く、割合でも高かったはずだと宮武さんは話しています。
宮武さんが特に驚いたというのが教育の数字です。高校の卒業率が83.3%で、16.7%が卒業していない計算になり、これもアメリカで最下位だそうです。
へー、なんかそれも意外っちゃ意外ですね。なんかいい大学があるイメージ。
宮武さんは、物価の高さやコロナ対策の遅れにも触れます。一時期は感染率やワクチンの分配率が全米で下位だった時期があり、コロナ対策がかなりひどい時期もあったといいます。
企業の撤退も続いています。宮武さんが例に挙げたのは、トヨタ、チャールズ・シュワブ、テスラ、オラクル、パランティアです。トヨタ、チャールズ・シュワブ、テスラ、オラクルだけでも、カリフォルニアで約30万人分の雇用が失われるとされています。
テスラがオースティンに移った背景として、宮武さんは、カリフォルニアのある政治家がTwitter上でイーロン・マスクに対して汚い言葉を投げかけた出来事を紹介しています。草野さんは「なんでそういうこと言うんだろう」と首をかしげます。
さらに約300万人が州を離れ、カリフォルニア州民の53%が州を離れたいと答え、半数以上が「アメリカンドリームはもうない」と言っているそうです。宮武さんが挙げた主な数字を並べると次のとおりです。
| 分野 | 数字 | 全米での位置づけ |
|---|---|---|
| 失業率(2021年3月) | 8.1% | 50州中、下から2番目 |
| 貧困率 | 18.2% | 最下位 |
| 所得税率(平均) | 13.3% | 最も高い |
| 高校の卒業率 | 83.3% | 最下位 |
| 州を離れたい州民 | 53% | ― |
サンフランシスコの犯罪増加と、地方検事の方針
ここから宮武さんは、なぜこうした状況になっているのかを説明します。物価の高さやホームレスの多さは誰もが思い浮かべる要因ですが、特にホームレスや治安の悪化には裏の理由があるといいます。
宮武さんによると、サンフランシスコの犯罪率はアメリカの都市全体で上位2%に入る高さです。コロナ期間中には強盗事件が84%、自動車の盗難が20%増えたそうです。
宮武さんは、すべての理由ではないとしつつ、その根本的な原因の1つに自治体のリーダーシップを挙げます。名前が出たのが、サンフランシスコの地方検事 ── アメリカの郡や市で刑事事件の起訴を担う公選の検察官。誰を起訴するかについて大きな裁量を持ちますチェサ・ブーダン氏です。
宮武さんの説明では、チェサ氏の両親はアメリカ国内のテロリストで、チェサ氏が子どものころに逮捕されて刑務所に入りました。刑務所に行って親と話した記憶が鮮明に残っており、同じ経験を他の人にさせたくないという思いを持っていたといいます。
チェサ氏はその後、国選弁護人になります。宮武さんは、刑務所に入れられようとする人を守る立場として、国選弁護人はチェサ氏に適した役職だったと見ています。
背景には、アメリカの刑務所制度の問題もあります。アメリカには企業が運営する民営刑務所 ── 民間企業が政府から委託を受けて運営する刑務所。収容者数に応じて収入を得る契約が多く、収容を増やす動機が働くと批判されていますが多く、収容者を増やすほど利益になる矛盾があると宮武さんは説明します。軽い犯罪でも刑務所に入れる傾向は昔から問題視され、リベラル派が強く批判してきました。
チェサさんの考えもこれにすごい似てて。で、これのちょっと行き過ぎた考えになっちゃったと個人的に思ってまして。
チェサ氏は2019年末にサンフランシスコの地方検事になると、検事局の職員を解雇したり制度を変えたりして、警察が人を逮捕しても刑務所に入れにくい状況を作ったと宮武さんは話します。
サンフランシスコの警察はフラストレーションをためており、Twitterで怒りをあらわにしているといいます。たとえば、ある人物を過去18か月で15回逮捕し、過去20日間で3回目だ、というツイートが何度も出ているそうです。
起訴するかどうかは地方検事が決めるため、警察が動いても刑務所に入れられません。諦めて退職したり引っ越したりする警察官も増え、それ以上に犯罪率とドラッグの使用率が大きく上がったと宮武さんは説明します。
宮武さんが示したこの因果の流れを整理すると、次のようになります。
方針の転換
地方検事が刑務所に入れにくい制度に変える
罰の不在
逮捕されても刑務所に入らないケースが増える
警察の疲弊
警察官が諦め、退職や転居が増える
治安の悪化
犯罪率とドラッグの使用率が大きく上がる
身近な例として、宮武さんは前職のデジタルガレージのサンフランシスコオフィスの隣にあったセブン-イレブンが閉店した話をします。オーナーに理由を聞くと、ホームレスの人が入ってきて物を盗んで出ていき、誰も止められないため、経済的に続けられなくなったと言われたそうです。
日中の窃盗や車上荒らしも頻発しており、日本人も被害に遭っています。2020年12月31日、アメリカの会社で働いていたデータエンジニアの阿部花子さんがひき逃げで亡くなりました。宮武さんによると、ひき逃げした人物は過去半年で5回逮捕されていたものの、刑務所には入っていなかったといいます。
サンフランシスコやLAでは、日中でも絶対に行きたくない場所があると宮武さんは話します。こうした状況を変えなければという声が増えているのが現状だそうです。
なぜ学校は再開されなかったのか?
宮武さんが次に取り上げたのは、コロナ期間中にカリフォルニアの学校の再開に時間がかかった問題です。宮武さんによると、カリフォルニアの教師協会が再開を止めていたといいます。
教師協会は、教師全員がワクチンを受けなければ再開しない、コロナの初期にはオンライン授業をしない、するにしても時間を制限してほしい、といった要求をしていたそうです。
本来であれば、市民が反発して子どもをチャータースクール ── 公費で運営されながら、民間の団体などが独自の方針で運営するアメリカの学校。公立校に代わる選択肢として広がっていますや私立に移します。公立校は生徒数に応じて政府から資金を受け取るため、生徒が減れば資金が減り、教師を解雇しなければならなくなります。そうなれば学校を開けざるを得なくなる、というのが宮武さんの説明です。
ところが、今回はその流れが起きませんでした。宮武さんによると、カリフォルニア州のニューサム知事が、学校を開けなくても教師の給与は保証すると述べたからです。
宮武さんが注目点として挙げるのは、カリフォルニアの教師協会が過去4年間で民主党に2億円以上を寄付し、州議会議員の3分の2やニューサム知事にも直接寄付していることです。
もちろんそれが本当につながってるかは言い切れないと思いますけど、まあ関わりはあるんじゃないかと。
宮武さんは、選挙で資金が必要な政治家は、寄付を受けた団体の意向にある程度寄らざるを得なくなると話しています。
テック企業並み?公的機関の高い給与
宮武さんは、こうした団体の影響は教師協会だけでなくさまざまなところに及んでおり、その結果、カリフォルニアの公的機関で働く人が金銭的に大きなメリットを受けていると話します。
宮武さんは事前に、高い給料をもらうべき人はもらうべきで、これは単に「給料が高すぎる」という愚痴ではないと断っています。そのうえで示したのが、2015年の数字です。
2015年、カリフォルニアの公的機関では約200万人が雇用され、平均給与は14万ドル(約1500万〜1600万円)でした。一方、民間の従業員の平均給与は6.2万ドルで、公的機関の平均給与は民間の約2倍になっています。
約200万人を雇用し、平均給与は14万ドル。サンフランシスコのテック企業の一般従業員(約15万ドル)とほぼ同水準
従業員の平均給与は6.2万ドルで、公的機関の約半分
公的機関で1000万円以上もらっている人は34万人いるそうです。宮武さんは、特定の職業を侮辱する意図はないとしたうえで、具体例を挙げていきます。
あるトラックドライバーは16万ドル、LAのあるライフセーバーは36.5万ドル(約4000万円)を受け取っていたといいます。LAでは44人のライフセーバーが20万〜36.5万ドルの給与を得ていたそうです。
サンフランシスコでは、公的機関で働く2000人以上が25万ドル以上を受け取っています。街を清掃する役割の職員の給与が26.9万ドル(約3000万円)という例もあり、宮武さんは本当にそれだけもらうべきかを検証すべきではないかと話します。こうした給与のコストは、カリフォルニア全体で約450億ドルにのぼるそうです。
15年働けば給料の80%を一生もらえる年金制度
草野さんが「なんでそんなに高いんですかね」と尋ねると、宮武さんは理由の1つとして、給与を上げてほしいという圧力を挙げます。そしてもう1つ、長期的にカリフォルニアの課題になるのが、公的機関の職員向けの特殊な年金制度だといいます。
宮武さんの説明では、カリフォルニアの公的機関では約15年働けば引退でき、50歳以上で引退すると給料の80%を亡くなるまで受け取れます。本人が亡くなった後も、配偶者が亡くなるまで受け取り続けられるそうです。
え?
この制度で起きていることは2つあると宮武さんは話します。1つは、受け取る額の基準になるのが最後の1〜3年の給料であるため、引退の3年ほど前から残業を大幅に増やして給料を上げることです。
もう1つは、50歳で引退した後に別の公的機関の仕事に就くことです。そこでまた15年働けば再び引退でき、最初の年金も受け取り続けられるため、年金を二重に受け取れることになります。
宮武さんが説明した年金制度の活用の流れを、手順として並べると次のとおりです。
じゃあダブルでもらえるってことですか?
そうなんですよ。ダブルでもらえるんですよ。
宮武さんは、年金制度は州ごとにさまざまだとし、他の州に完全に同じ制度があるかはわからないとしています。ただ、カリフォルニアでは特に課題になっており、現在、州内の引退者のうち8万人が年金で毎年1000万円以上を受け取っているそうです。
草野さんと宮武さんは「いいなあ」「カリフォルニアに住むしかないですね」と冗談を交わしますが、宮武さんはこのままでは州の財政がもたないと話します。現在制度に入っている人を考えると、将来的に1600億〜2000億ドルほどの不足が生じ、今は払えていても今後は払えなくなるといいます。
宮武さんは、公的機関の職員の給料が高いこと自体は悪いことではないとしたうえで、問題は州へのインパクトだと指摘します。貧困率が高く卒業率が低い現状を考えると、投資対効果を示すROI ── Return on Investmentの略で、投資した費用に対してどれだけの成果や利益が得られたかを示す指標ですが低すぎるというのが宮武さんの見立てです。
学校名の変更、屋外席、随意契約に見る行政の無駄
宮武さんは、州の無駄遣いは職員の給料だけではないとして、いくつかの例を挙げます。1つ目は、サンフランシスコの教育委員会が数時間かけて44校の学校名の変更を議論したことです。
議論の結果、学校名は変更されることになりましたが、看板などの費用で4000万円以上かかるそうです。宮武さんは、その前に学校を開けて子どもの教育を優先すべきだという声が出ていたことを紹介します。
2つ目はレストランの例です。知事は屋外スペースであれば営業してよいとし、コロナ対策のルールを守るための専用スペースを作るよう求めましたが、資金は出しませんでした。
レストランは平均約300万円をかけてスペースを作りましたが、その3〜4週間後に営業できなくなったといいます。宮武さんは、レストランにとって致命的な額だったと話します。
宮武さんは、成果が可視化されずROIが見えないことは、カリフォルニアに限らずアメリカ全体や他国の自治体にも共通する課題だと見ています。宮武さん自身が以前働いていたLAのスタートアップも自治体向けのサービスを提供しており、高額のコンサル料を取るNPOが、エビデンスのない1枚のレポートを出すだけという事態も見てきたそうです。
3つ目が、コロナで自治体の権限が強まった問題です。通常、自治体がサービスを調達する際は、複数の企業から選ぶ競争入札を行います。しかしコロナの緊急事態を名目に、カリフォルニアでは競争なしで契約先を決める随意契約 ── 競争入札を行わず、発注者が特定の相手を選んで結ぶ契約。緊急時などに認められる一方、透明性が課題になりやすいができるようになりました。
宮武さんによると、その結果、アクセンチュアには数年かけて100億円を支払うことになり、内容はコロナのトラッキングサイトの構築・管理だったそうです。宮武さんは、他のテック企業ならもっと安くできたのではないかと話します。コロナの検査機材の製造でも、ある会社に1000億円が支払われたといいます。
大型契約を結んだ数社を見ると、ニューサム知事に寄付している企業だったと宮武さんは指摘します。ただし関係があるかどうかは正直わからず、ニューサム知事は関係を否定しており、現在調査されていると思う、と慎重に付け加えています。
テック業界とカリフォルニアは互いに嫌い合っている?
宮武さんは、政府側の一部の無駄遣いに加え、テック業界にとって住みにくい環境が作られていると話します。さらに、特に政治家の中にはテック業界を嫌う人が多いといいます。
草野さんが、テック企業がいるおかげでお金が入っているのではと疑問を口にすると、宮武さんは、お金持ちが勝手に動いているという見方から嫌われているのだろうと説明します。それには一部正しい面もあるとしつつ、結果としてテック業界とカリフォルニアは互いに嫌い合う関係になっているそうです。
こうした中、テックコミュニティが動き始めています。地方検事のチェサ・ブーダン氏とニューサム知事に対して、リコール ── 任期途中の公職者を住民の請求によって解職させる制度。カリフォルニアでは一定数の署名が集まると解職の是非を問う選挙が行われますを求める動きが出ているのです。
チェサ氏のリコールキャンペーンでは寄付金の22%が、ニューサム知事の場合は13%がVCから来ているといいます。知事のリコールには住民の署名が必要で、150万あれば自動的にリコール選挙が行われるところ、すでに170万の署名が集まり、夏か秋に選挙が行われる見込みだそうです。
ただし、カリフォルニアでは過去55回リコール選挙が行われ、成功したのは3回だけです。宮武さんは、おそらくニューサム知事が勝つだろうと予想しています。
理由の1つは、コロナが落ち着いてきたことです。カリフォルニアでは7割ほどの人がワクチンを受け、経済も戻りつつあるといいます。もう1つは、州の予算が当初の見込みを大きく上回ったことです。
もともと約500億ドルの赤字が見込まれていたのが、約760億ドルの黒字になったそうです。宮武さんによると、その3分の1は連邦政府から各州に渡されたコロナ対策資金で、カリフォルニアはこれを返していません。そしてもう1つの要因が、前年に多かったテック企業のIPOによる所得税です。
約500億ドルの赤字になると予想されていた
約760億ドルの黒字に。3分の1は連邦政府のコロナ資金、もう1つの要因はテックIPOによる所得税
草野さんがAirbnbについて尋ねると、宮武さんは、IPOは前々年の年末だったものの、ロックアップ ── IPO後の一定期間、創業者や既存株主が株式を売却できないようにする取り決めのことの解除などで実際に株を売った人は前年のほうが多いのではないかと答えます。前年にはSnowflakeやAsanaなど大型のIPOも続きました。
テック業界がこれほど財政に貢献しているのに嫌われているのか、と草野さんが問うと、宮武さんは、ニューサム知事自身はテック業界が嫌いとまでは言っておらず、全員が嫌っているわけでもないと補足します。そのうえで、住みにくくすればテック業界も離れざるを得なくなるのが今の現状だと話しています。
テック業界はどこへ移っているのか?
では、カリフォルニアを離れたテック業界はどこへ向かっているのでしょうか。宮武さんがまず挙げたのは、番組で以前取り上げたユタです。
2つ目はノースカロライナです。草野さんは「何も印象がない」と言いますが、IBM、Red Hat、Cisco、Microsoftがオフィスを構え、物価も安く、Epic Gamesの本社もあります。Epic Gamesはショッピングモールを買い取ってオフィスにしており、Appleもノースカロライナにオフィスを作ると発表したそうです。
3つ目はコロラド州のデンバーです。Palantirが本社を移し、Google、Facebook、Salesforce、Robinhoodもオフィスを持っています。アクセラレーターのTechstars ── アメリカ発のスタートアップ・アクセラレーター。起業家に資金とメンタリングを提供するプログラムを世界各地で運営していますの出身地でもあり、アーリーステージのコミュニティが強いといいます。
4つ目はシアトルで、AmazonとMicrosoftが本社を構えています。Uber、Twitter、Facebook、Disneyなどがエンジニアオフィスを置く傾向があるそうです。
ほかにも宮武さんは、カリフォルニア州内ではあるものの、TikTokerなど消費者向けのインフルエンサーが多いロサンゼルスに触れます。さらに、物価が安く移住者が増えているポートランドも挙げ、CPG系の企業やハードウェアが強く、Nikeの本社もあると説明します。
アトランタは、コカ・コーラ、デルタ航空、CNN、ホームデポなど大企業の本社が集まる都市です。最近はCalendlyなどユニコーンが3社ほど生まれ、若者向けクレジットカードのGreenlightはアンドリーセン・ホロウィッツのリードで時価総額約2000億円になったといいます。ヒップホップ文化や音楽、黒人のインフルエンサーなど、さまざまな文化が集まっている点も宮武さんは挙げています。
そして宮武さんが、サンフランシスコを出た人にとって今2番目にホットだと見るのが、テキサス州のオースティンです。テスラとオラクルが本社を移し、Y Combinatorに参加した起業家が多く集まり、BtoB系のスタートアップが多いと聞いているそうです。
宮武さんが挙げた移転先の候補を、特徴とともに整理すると次のようになります。
| 都市 | 主な企業・組織 | 特徴 |
|---|---|---|
| ノースカロライナ | IBM、Red Hat、Cisco、Microsoft、Epic Games | 物価が安い。Appleもオフィスを作ると発表 |
| デンバー | Palantir、Google、Facebook、Salesforce、Robinhood | Techstarsの出身地でアーリーステージのコミュニティが強い |
| シアトル | Amazon、Microsoft | Uber、Twitter、Facebook、Disneyがエンジニアオフィスを置く |
| ポートランド | Nike、Appleのハードウェア系オフィス | 物価が安く、CPGやハードウェアが強い |
| アトランタ | コカ・コーラ、デルタ航空、CNN、Calendly | ユニコーンが続々と誕生し、音楽やヒップホップ文化も強い |
| オースティン | テスラ、オラクル | Y Combinator出身の起業家が集まり、BtoB系が多い |
その中で一番やっぱホットなのがマイアミかなっていうところですね。ようやくマイアミの話に行きました。
話がようやくマイアミにたどり着いたところで、草野さんは前半と後半に分けることを提案します。マイアミが注目される理由は、翌週の後半で語られることになりました。
まとめ
この前半回では、テック業界の恩恵を最も受けてきたカリフォルニアが、税収の偏り、治安の悪化、公的機関の高い給与や年金、行政の無駄遣いといった課題を抱え、テック業界との関係が悪化している現状が語られました。予算の黒字化でさえテック業界に支えられている一方で、起業家や企業は他の都市へ移り始めています。
- テックハブは教育機関、起業、VC、イグジットが循環するグロースサイクルで富を生み、カリフォルニアはGDPで世界5位級の規模になった
- カリフォルニア州の収入の66%は所得税で、その半分を上位1%の世帯が担っているため、富裕層の流出は大きなリスクになる
- サンフランシスコでは地方検事の方針もあって犯罪が増え、店舗の閉店や市民の被害につながっていると宮武さんは指摘する
- 公的機関の高い給与や二重に受け取れる年金制度、随意契約などにより、州の支出に対する成果が見えにくくなっている
- 移転先としてユタ、ノースカロライナ、デンバー、シアトル、アトランタ、オースティンなどが挙がり、最もホットなのはマイアミだという





