月1回のゆるニュース回は何を振り返る?
Off Topicの「3月ゆるニュース回」は、3月に起きたテック関連のニュースを草野美木さんと宮武徹郎さんがまとめて振り返る企画です。
宮武さんは、noteの限定メンバーシップ「Off Topic Club」で週1回ほど軽いニュースまとめをしていると説明します。そのうえで、月に1回まとめて振り返るゆるニュース回は、週次のまとめとは役割が違うと話しています。
草野さんは本題に入る前に、直近のAIと「私向けサービス」を扱ったエピソードが好評だったことにも触れます。最後の15分ほどが予想外の脱線になり、それが面白かったので、ああいう回はまたやりたいと語っています。
Microsoft50周年、3つの時代をどう越えたのか
最初のニュースは、Microsoftが創業50周年を迎えたことです。宮武さんは、設立が1975年であることを確認しながら、Microsoftにはいろいろな時代があったと振り返ります。
宮武さんの整理では、Microsoftは経営者ごとに少なくとも3つの時代を経てきました。パーソナルコンピューターやMS-DOS ── Microsoftが1980年代に提供したパソコン用OS。IBM PCに採用されたことで普及し、同社の急成長の土台になりましたで急成長したビル・ゲイツとポール・アレンの時代、ビル・ゲイツとスティーブ・バルマーの時代、そして現在のサティア・ナデラの時代です。
草野さんが「いいトランジションをしているか」と尋ねると、宮武さんは、苦しい時期を乗り越えた点を高く評価します。
いや、でもすごいと思います。(Microsoftは)一時期すごい大変だったじゃないですか。2000年の独占禁止法の裁判もそうですし、そこからいろいろ失敗した案件も多々あったと思うので。
そこをうまく立て直して、今はもう世界のトップ企業にもう一回戻ってきたので、それをできるのはなかなかできないと思うので。
宮武さんは、Microsoftが立て直しに成功したことから、やはり経営メンバーが揃っている会社なのだと改めて驚くと話しています。
Skype終了に寄せる思い出と、ありえた別の世界線
Microsoft50周年と同じタイミングで、Skypeのサービス終了も話題になりました。草野さんはこのニュースを「エモい」と表現し、宮武さんも同意します。
宮武さんは中学生の頃にSkypeをよく使っていたといいます。当時のSkypeは、無料で音声通話ができるほぼ唯一のサービスだったという認識です。草野さんも留学中にビデオ通話で使っていて、今はLINEなど多くのサービスで同じことができるようになったことに感慨を覚えると話しています。
宮武さんは、Skypeの企業としての歴史も面白いと紹介します。
2009年の出資元であるアンドリーセン・ホロウィッツ ── シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル。ネットスケープ創業者のマーク・アンドリーセンらが2009年に設立し、a16zとも呼ばれますの名前も挙げ、宮武さんはSkypeが「いろんな意味でテックと関わりがある会社」だと話しています。
草野さんは、もしSkypeが買収されていなかったら、あるいは買収後もサービスとして伸ばしていたら、Zoomのような今の状況は違っていたのかと問いかけます。宮武さんの答えは慎重です。
まあ(Skypeが)独立してたとしても、Skypeとしてなんかそこに復帰できたのかっていう話は、個人的にはちょっと難しかったのかなとは思うんですけど。
宮武さんは、ZoomやDiscordが根本の技術を変えていったことや、Skypeのモバイル展開が遅れた時期があったことを理由に挙げます。それでもSkypeは2020年に1億人のMAU ── Monthly Active Usersの略。月に1回以上サービスを利用したユーザーの数で、サービスの規模を測る代表的な指標ですを抱えていたといいます。
宮武さんによると、Skypeのピークは2010〜2011年頃で、ちょうどMicrosoftが買収したタイミングにあたります。2011年の見込み売上は1ビリオン、つまり10億ドルだったそうです。
売上の中身について、宮武さんはエンタープライズ向けの利用に加え、アメリカの電話番号を取得したり、電話のクレジットを購入したりする使い方を挙げます。宮武さん自身も一時期その機能を使っていたと話しています。
草野さんは、一般ユーザー向けのSkypeがDiscordやSlackの遊び心のあるUIにも近かったと振り返ります。チャット機能を伸ばしたり、ゲームのサービスと連携したりしていれば、別の世界線があったのかもしれないと思いを寄せています。宮武さんは、Skypeがヨーロッパ発の会社で、ヨーロッパの初期の成功事例としても重要なサービスだったと付け加えます。
Yコンビネーターのデモデー、成長率の高さは何を示す?
次の話題は、スタートアップアクセラレーターであるYコンビネーター ── 2005年に設立されたアメリカのスタートアップ育成機関。少額出資と短期集中の支援を行い、最後に投資家向けの発表会「デモデー」を開きますのデモデーです。宮武さんはピッチそのものは見ていないものの、参加企業やまとめ記事には目を通したといいます。
宮武さんによると、今回のデモデーには160社が参加し、そのうち82%がAI関連の企業でした。草野さんは、以前の回で話した「バイブコーディング」の企業も載っていたと振り返り、宮武さんもそうした企業がほとんどだったと応じます。
宮武さんが特に注目したのは成長率です。今回のバッチは平均して週次で10%成長していたといい、これまでならバッチの上位10%ほどの企業がようやく達していた水準だと説明します。
草野さんが気になった企業として挙げたのは、PiklusPiklusというサービスです。顔のトラッキングや素材を使い、車を運転していても別の場所にいても、まるで部屋からZoomの会議に出ているように見せられるといいます。
考え方、ニーズは確かにありそうだけど、なんかそこまでして、そこまでして、別に電話だけでもいいんじゃね?っていう気もしたんですけど。
宮武さんは、このサービスはマーケティングの施策としてはよく、今後どう応用するかが問われるとコメントしています。
宮武さん自身が面白いと感じたのは、船に載せられる核融合発電所を開発しようとする会社です。船が燃料を必要としない未来を想定すると、船に積める核融合の発電設備が必要になるという発想に惹かれたといいます。一方で、AI関連の企業はピッチを十分に見られていないため、投資面からは評価しづらいと話しています。
昔のYCは「未来」を、今のYCは「今」を映している?
宮武さんは、Yコンビネーター(YC)について個人的に思うことがあると切り出します。昔のYCは、誰も考えていないスタートアップを見に行ける場所として知られていたという見立てです。
宮武さんは、ギグエコノミーという言葉が広まる前にAirbnbが、クリプトが広まる前にCoinbaseが、そしてフィンテックの分野ではStripeが出てきたことを例に挙げます。だからこそ、YCを見れば今後何が起きるかがなんとなくわかり、みんながデモデーに行きたがっていたといいます。
個人的な感想としては、なんか今のYC見てると、今のトレンドはすごいめちゃくちゃ捉えてるなっていう風に思うんですよね。
誰も考えていないスタートアップが集まり、Airbnb、Coinbase、Stripeのように未来のトレンドが見えた場所
今のトレンドを非常によく捉えている一方、新しい発想は見えにくくなった場所
宮武さんは、この変化がよいか悪いかを言いたいわけではなく、リターンにどう影響するかもわからないと前置きします。ただ、YCが毎年出している「Request for Startups」という、来てほしいスタートアップ像を示す文書については、読んでも新しい発想が見えてこないものが多いと感じているそうです。
そのため宮武さんは、YCはあえてそうしたリクエストを出さないほうが、もっと新しいものが集まるのではないかと考えています。ただし、YCは優れた創業者を引き寄せる力と強いブランドを持っているので、引き続きよいリターンを出すだろうとも話しています。
草野さんは、YCの競合にあたる存在はあるのかと尋ねます。宮武さんは、ハードテックやハードウェア、バイオなど特定のカテゴリーに特化したアクセラレーターや、明確な仮説を持って「ぶっ飛んだ」未来を考える特定のVCがそれにあたるのではないかと答えています。
宮武さんは、ここ5年ほど、YCのデモデーをメディアとしてはあまり見なくていいと感じているといいます。投資の観点は別として、未来のトレンドを探す場としては足を運ばなくなったというのが正直なところだそうです。
草野さんが「次のAirbnbやDropboxはどこにいるのか」と冗談めかして尋ねると、宮武さんは、出てくる可能性は十分あるとしつつ、誰も知らないトレンドの中からYC経由で出てくるのは難しいかもしれないと答えます。
結局でもYコンの強みってもうコミュニティなので、あの起業家ネットワークを持ってるっていうのは本当に最大級の価値ではあるので。
草野さんが、今でもサム・アルトマンのような人物が来てくれるのはすごいと話すと、宮武さんは、そのエコシステムを作れていることこそがYCの強みで、コンテンツ自体は誰でも似たことができてしまうと締めくくっています。
パーソナライズされたSiri延期は、なぜAppleへの信頼を揺らす?
3つ目の話題は、Apple Intelligence ── Appleが2024年に発表した独自の生成AI機能群。文章作成支援や通知の要約などを含み、iPhoneやMacに順次搭載されていますのうち、パーソナライズされたSiriの提供をAppleが延期したことです。Apple Intelligenceの一部機能はすでにローンチされていますが、この新しいSiriは延期されることになりました。
宮武さんによると、この延期をめぐって、業界内、特にAppleファンのコミュニティの中で意見が分かれています。強く怒っている人と、「まあまあ」と受け止める人の2つに分かれているそうです。
宮武さんがこのニュースを取り上げたのは、Appleがこれまで築いてきた信頼に関わるからです。過去10〜20年、AppleがWWDC ── Appleが毎年6月頃に開く開発者向けイベント。新しいOSや機能が発表される場として知られていますなどで「この商品を出す」と発表したものは、基本的に必ず実現されてきたといいます。
宮武さんの説明では、Appleは去年6月のWWDCでパーソナライズされたSiriを発表していました。ところが、メディアやインフルエンサー向けの裏方のデモではベーシックなApple Intelligenceしか見せておらず、パーソナライズされたSiriは一切見せていなかったそうです。
その後、Appleは9月のイベントやCMでもパーソナライズされたSiriを紹介していましたが、最近そのCMを急に削除しました。宮武さんは、結局できなかったのではないかという見方が広がっていると話しています。
去年6月
WWDCでパーソナライズされたSiriを発表。ただし裏方のデモでは見せず
9月以降
別のイベントやCMでも新しいSiriを紹介
最近
CMを削除し、提供の延期を発表
反応
発表がコンセプト動画にすぎなかったのではと受け止められる
それは普通の会社だったら多分全然許される話なんですよ。Appleだから許されないっていうのが、ちょっとアンフェアな期待値を抱いてるのは、それはそれで大変な話ではあると思うんですけど。
宮武さんは、Appleだからこそ発表したことをきちんと実現する会社だと思われていたのに、今回のようなことが起きたため、社内に課題があるのではと指摘する人もいると説明します。
草野さんが「社内が追いついていないのに約束しているのが危うい」と受け止めると、宮武さんも、社内では約束できない段階だと知っていたのにプッシュしていた点を問題視します。マーケティング側とプロダクト側の間で、コンフリクトやミスコミュニケーションがあったのではないかという見方です。
草野さんは、iPhoneやiPodの発表でも、直前まで製品が動かない状態でデモに臨んだ話があったと振り返ります。宮武さんは、あれは結局動くものだったので、リスクを取りつつもできる見込みがあった点が違うと話します。
まあ特にジョニー・アイブとスティーブ・ジョブズがいないAppleとしては、ここら辺が結構課題なんじゃないかなっていう。結局AIもキャッチアップできてないですし。
宮武さんは、今回の延期が、Appleで長期的にイノベーションが足りていないという課題が表に出てきた1つのデータポイントになるかもしれないと述べています。
草野さんは、Markdownの作者が自身のブログ「Daring Fireball」でAppleを批判していたことにも触れます。宮武さんによると、その記事はかなり怒った内容で、彼があれほど怒るのは業界内でも珍しいと言われていたそうです。一方で、ティム・クックをあれほど批判するのはどうかという声も出ていたといいます。草野さんは、AirPodsの同時翻訳機能が今後どうなるのかも気になると話しています。
ニューサム知事のポッドキャストは大統領選への布石か
4つ目の話題は、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサムが自らポッドキャストを立ち上げたことです。テックの話題かどうかは微妙ですが、カリフォルニアはテックの街であり、ポッドキャストの話でもあるとして取り上げられました。
宮武さんは、大統領選でポッドキャストが大きな役割を果たしたことから、今年は多くの政治家がポッドキャストに積極的に関わるだろうと番組で予想していたと振り返ります。そのうえで、ニューサム知事のポッドキャストはPR的に非常にうまいと評価しています。
番組の内容は、ニューサム知事がホストを務め、自分を嫌う人や意見の違う人をゲストに招いて話すというものです。最初の3人のゲストは全員共和党側の人物で、共和党側のインフルエンサーであるチャーリー・カークや、トランプ大統領のアドバイザーを務めたスティーブ・バノン ── トランプ陣営の選挙戦略を担った人物で、第1次トランプ政権では首席戦略官を務めました。保守派メディアでも強い影響力を持っていますも含まれていたといいます。
草野さんは、このポッドキャストを、政治家の番組というより「政治家がホストを務めるトークショー」のようだと表現します。敵を呼んで喧嘩する炎上商法とは異なり、反対意見の相手ともディスカッションできる懐の深さを見せるのがうまいと話しています。
(ニューサム知事に)あれだけなんか感謝されると、相手がもうありがとうございますみたいな感じで終わらないといけないっていうのが、なんかすごいうまいなって思いましたね、単純に。
草野さんは見せ方にも注目します。スーツではなくカジュアルフォーマルな服装や、緑と黄色を使い政治色を感じさせないアートワークも、ポッドキャスターらしい作り方だと評価しています。
宮武さんによると、民主党支持者からは、信頼すべきでない相手を招いて意見を否定しないのはおかしいという声も出ています。それでも宮武さんは、ニューサム知事は明確に次の大統領選を狙っていて、このポッドキャストはその準備だと見ています。
宮武さんが挙げるPR上の狙いは3つです。直接ファンに話しかけられるメディアを持つこと、相手側と会話できる姿勢を見せて中立層や共和党側に届くこと、そして話すプロである相手との会話を討論会の練習にすることです。
草野さんが「大統領になれそうか」と尋ねると、宮武さんは、今の民主党で勝てるかもしれないのはニューサム知事くらいだと答えます。直近の調査で民主党の支持率が27%と過去最低だったことを挙げ、中立的な人を呼び込む必要があることを理解している人物だと評価しています。
草野さんが今後はテック系の創業者がゲストに来たら面白いと話すと、宮武さんは絶対に出てくるだろうと応じ、共和党寄りのテック系人物としてピーター・ティールを呼んでほしいと話しています。
セラノスとFTXの創業者は、刑務所から何を発信している?
最後は雑談的な話題として、セラノスとFTXの創業者の近況が取り上げられます。草野さんによると、セラノスのエリザベス・ホームズの有罪判決を不当とする訴えが却下され、禁錮刑が確定する可能性が高まったと報じられています。最近は独占インタビューも出ていたそうです。
草野さんが面白いと感じたのは、コメディアンのネイサン・フィールダーがエリザベス・ホームズと面会していたという極秘プロジェクトの話です。ネイサン・フィールダーは、エマ・ストーンと共演したコメディ番組『The Curse』で知られる人物で、どんなプロジェクトなのかが気になるといいます。
宮武さんは、エリザベス・ホームズもPRキャンペーンを打っているのではないかと見ています。11年とされる刑期を軽減する狙いなどが考えられ、場合によっては彼女にお金が入るかもしれないと話しています。
FTX創業者のサム・バンクマン=フリード ── 暗号資産取引所FTXの創業者。2022年のFTX破綻後に詐欺などの罪で有罪となり、長期の禁錮刑を言い渡されましたについても、宮武さんは最近の動きを紹介します。元FOXニュースのタッカー・カールソンのビデオインタビューに応じたものの、本来必要な刑務所の許可を取らず、弁護士との電話会議という体で録画していたそうです。
インタビューの中でサム・バンクマン=フリードは、もともと民主党支持だったが、民主党の過激なポジションに耐えられず今はトランプ支持だと必死にアピールしていたといいます。宮武さんは、大統領による恩赦を明らかに狙っているのではないかと見ています。
スキャンダルがすぐコンテンツになるアメリカ
草野さんは、エリザベス・ホームズやサム・バンクマン=フリードの話から、アメリカでは特大スキャンダルがすぐにコンテンツになると話します。その速さを見ると、トゥルークライムというジャンルが人気なのも納得できるといいます。
宮武さんは、OpenAIについての本を書いている人物が、まだ執筆中にもかかわらず映画化の権利を売ったという話を紹介します。取材をもとにストーリー仕立てにした本とみられ、こうした題材は今や取り合いになっているそうです。
草野さんはGameStopの騒動が早くも映画になったことを、宮武さんはコスメブランドのGlossierについての本が出たことを挙げます。宮武さんは、こうした案件には本の話がもう完全にセットでついてくると話しています。
番組の終わりに草野さんは、RipplingとDealの訴訟にも触れます。宮武さんは最近訴訟が多いと感じていると話し、この件はメンバー限定の配信で取り上げるかもしれないとして、今回のゆるニュース回は締めくくられました。
まとめ
3月のゆるニュース回では、Microsoftの50年とSkype終了、Yコンビネーターの変化、AppleのSiri延期、ニューサム知事のポッドキャスト、刑務所から発信する創業者たちまで、幅広いニュースが取り上げられました。どの話題でも、企業や人物が信頼やポジションをどう築き、どう揺らいでいるかが共通する視点になっています。
- Microsoftは3つの経営者時代を経て立て直しに成功した一方、かつて無料通話の代名詞だったSkypeは終了を迎えた
- 今回のYCデモデーは82%がAI関連で成長率も高いが、宮武さんは「未来のトレンド」より「今のトレンド」を映す場になったと感じている
- パーソナライズされたSiriの延期は、発表したものは必ず実現するというAppleへの信頼を揺るがす出来事として受け止められている
- ニューサム知事のポッドキャストは、反対派との対話で中立層に訴え、討論会の練習にもなる大統領選への布石と読み解かれた
- エリザベス・ホームズやサム・バンクマン=フリードの動きから、アメリカではスキャンダルがすぐコンテンツになる構造が見えてくる




