超大型のC向けアプリは、なぜここ10年出ていないのか
この回の出発点は、AI時代になって複数の投資家が「C向けアプリがもう一度流行るのではないか」と話しているという話題です。宮武さんは、ここ10年ほどでDiscord ── ゲーマー向けに始まった音声・テキストのコミュニケーションサービス。現在はさまざまなコミュニティで使われていますのような超大型のC向けアプリはあまり出ていないと指摘します。
草野さんがSlackやNotionの名前を挙げると、宮武さんはB向けとC向けの境目がかなり曖昧になっていると応じます。草野さんも、B向けのサービスでもコンシューマーっぽいマーケティングが必要になり、垣根がなくなったと話します。
OpenAIですら、ChatGPTもB向けもあれば、でも多分個人の方が課金してたりすると思うので。どっちなのかっていう話あるんですけど、今話してる中だともうちょっとピュアCですね。
宮武さんが想定する「ピュアC」とは、ある程度ユーザー数が増えたあとも規模を保ち、さらに伸びているサービスです。草野さんがBeReal ── 1日1回、通知のタイミングでスマホの前後カメラで同時に撮影して投稿する写真SNS。若い世代を中心に流行しましたを挙げると、宮武さんは「めっちゃ厳しくなっちゃいますけど」と前置きしつつ、そのレベルの話だと答えます。
ただし宮武さんは、BeRealについては一度上がって下がった波を超え、日本ではまだ人気があると評価しています。そのうえで、C向けアプリが復活するならAIが加わることでアプリの概念がどう変わるのかを話したい、と今回のテーマを示しました。
Partiful、Luma、CashApp。思想が面白いC向けサービスはどれか
宮武さんは草野さんに、ユーザー数とは別に「思想が面白い」と感じたアプリがここ3年ほどであったかを尋ねます。宮武さんはPartiful ── パーティーなどのイベント招待・管理に使われるアメリカ発のサービス。カジュアルな集まりで広く使われていますが出てくると予想していました。
草野さんが挙げたのはイベント作成サービスのLuma ── イベントページの作成や参加登録の管理ができるサービス。デザイン性の高いページを手軽に作れることで知られますです。オーガナイザーとして作成しやすく、バナーを作らなくてもかっこいいページができる点が好きだといいます。
一方で草野さんは、PartifulはSMSと電話番号での登録が前提なので、日本ではカジュアルな場面でも使いにくいと感じたそうです。宮武さんも、決済が日本で使えないVenmo ── アメリカで普及している個人間送金アプリ。送金履歴が友人に見えるソーシャルフィードが特徴ですだった点を付け加えます。
宮武さんがPartifulで面白いと感じたのは、ソーシャル要素の入れ方です。同じパーティーによく一緒に参加している人が、参加者一覧の上位に表示される仕組みを例に挙げました。
草野さんはCashApp ── アメリカの決済企業Blockが提供する送金・決済アプリ。個人向けの金融サービスを幅広く扱っていますの思想も好きだと話します。単なる決済ツールではなく、お金のリテラシーを上げようとするキャンペーンや、ストリート感のあるクリエイティブに惹かれているそうです。
最近そのクリエイティブがケンドリック・ラマーのクリエイティブプロダクションがほとんどやってるんで、それ経由であんまグッズ出さなくなったのかな。
宮武さんはVenmoについても、アメリカの知り合いが送金に使わなくても、知人のお金の流れが見えるソーシャルフィードをたまに見てしまうと話していたことを紹介しました。
旅行が終われば消える「使い捨てアプリ」とは?
宮武さんが今後出てくると考えているのが「使い捨てアプリ」という概念です。使い捨てにしてもデータ保存は必要になるため、OSレイヤーに入る機能かもしれないとしつつ、こうしたアプリは増えると見ています。
宮武さんがよく例に出すユースケースは家族旅行です。旅行の計画では、調べもの、予約、スケジュール作り、連絡などで、最低でも4つか5つのアプリやサイトを使うといいます。
それを一つ統一できるっていうのはめちゃくちゃ便利ですし、その旅行のためだけのアプリを作れちゃうので。
宮武さんが描く使い捨てアプリの流れは、次のように整理できます。
作る
その旅行のためだけのアプリを作り、ホテル情報などを1か所にまとめる
配る
家族全員に渡し、質問や追加予約もそこでできる。親には予算管理のセクションを用意する
閉じる
旅行が終わるとアプリは閉じる
残す
撮った写真は自動でクラウドに保存され、写真ブックレットが作られる
草野さんは、開発者なら長く使ってほしいはずではないかと問いかけます。宮武さんは、ものによると答えたうえで、重要なのはデータが残り、次の旅行でより良い体験に使えることだと話しました。
ハイパーパーソナライズされたアプリになるからこそ、一回のユースケースで終わっていいっていう。
家族が増えたり、2人だけで旅行したりするときに同じアプリを使うとは限らない、というのが宮武さんの考えです。草野さんの「役目を終えたら消しちゃう」という言い方に、宮武さんも同意しています。
Twitter共同創業者が関わる新SNS「Mozi」はどう使われる?
草野さんは、Twitterの共同創業者でMedium ── エヴァン・ウィリアムスが創業したブログ・記事投稿プラットフォームを作ったエヴァン・ウィリアムスが関わる旅行系アプリ「Mozi」を取り上げます。同じタイミングで同じ都市に行く人と、会ったり一緒に予定を立てたりできるサービスとして紹介しました。
草野さんは、東京、アメリカ、ヨーロッパへ頻繁に行く人には使い道がありそうだと感じる一方、旅行の多い人でなければ使い続けないのではないかと疑問を出します。
宮武さんの知り合いも類似のアプリを作っているそうです。誰かが東京に来たときに「今ここにいます」と軽く通知でき、GPSで細かい位置を取らないなど、プライバシーを重視した設計だといいます。
Instagramでその写真をストーリーで上げたとすると、そこで初めて「今ニューヨークにいるんだ」って連絡来たりとかする人って全然いると思うんですよね。
宮武さんは、こうしたやりとりを省ける点で便利だと評価しつつ、マネタイズはしづらそうだと見ています。また、エヴァン・ウィリアムスは立ち上げメンバーとして入っているものの、別にCEOがいて、本人は主に出資者として関わっていると補足しました。
使い捨てアプリに当たるのかという草野さんの問いに対し、宮武さんはMoziを「バックグラウンドアプリ」だと答えます。常にオンの状態で、相手との関係性によって「日本に来た」「東京に来た」「渋谷にいる」のように開示の粒度をAIが自動で変えてくれたら面白いと話しました。
宮武さんによれば、国内出張でも距離が遠く、サンフランシスコとニューヨークを行き来する人がいるアメリカでは需要があるそうです。東京に人が集中しがちな日本では、そこまで需要を感じないかもしれないとも話しています。
AIアプリはどこから攻める?カギは「写真へのアクセス権」
宮武さんは、AIを軸にしたC向けアプリが入り込める領域はかなり限られていると考えています。AIを活用するにはデータが必要ですが、Appleが連絡先へのアクセスを絞るなど、アプリが取れるデータは限られているからです。
そこで宮武さんが予想として挙げるのが画像です。写真へのアクセス権はユーザーが簡単に付与でき、しかも多くの人のカメラロールには大量の写真が溜まっています。
3年で多分撮ってる写真ってまあまあ多いと思うんですよ。で、それを振り返られるっていうと、あんま振り返んないと思いますし。
草野さんは、振り返りの難しさとしてTimehop ── InstagramやFacebookなどの過去の投稿を連携し、「1年前の今日」のように振り返りを届けるアプリを挙げます。アプリをそもそも開かず、メールを返している最中に通知が来るとすぐ閉じてしまうといいます。
そのベストのタイミングで振り返りのものが来ると嬉しいんですけど。そうじゃないタイミングで来ると、別に大事じゃないかもって思って。
宮武さんは、振り返りにもいろいろなパターンがあるとしたうえで、少なくとも写真の検索機能は改善できると話します。iPhoneで画像を検索しても出てこないものは多く、そこを良くするだけでも変わるという見立てです。
さらに宮武さんは、一時期流行したDispo ── 撮った写真をすぐに見られず、時間をおいて「現像」される使い捨てカメラ風の写真アプリのような機能を、ユーザーが写真アプリの中でミニアプリとして作れる世界を描きます。
ポラロイド風な写真にします。なおかつそれを次の日、朝の9時まで見れなくしますみたいな。ものを一機能として勝手に作れちゃうんですよ、ユーザーが。
作ったフィルターを友達と共有してバズらせる、UGC的な使い方も考えられるといいます。草野さんは、写真の顔認識をもとに「今月はこの人によく会った」「来月は家族に会いましょう」と提案してくれる機能があれば面白いと応じました。
宮武さんは、昔なら専用アプリだったものが、使い捨てアプリの考え方によって次世代のアプリの一機能になると話しています。
ネットワーク効果の次は「パーソナライズ効果」か
宮武さんは、ここまで話してきたAIアプリの体験はシングルプレイヤー寄りだと指摘します。AIのC向けアプリはまず、ソーシャルな体験よりも、分析や新機能の作成、パーソナライズといった個人の体験を良くする流れが来ると見ています。
インターネット時代には、使うユーザーが増えるほど価値が上がり離れにくくなるネットワーク効果が優位性とされてきました。宮武さんは、AI時代には別の優位性として「パーソナライズ効果」が生まれると考えています。
ユーザーが増えるほど価値が上がり、離れにくくなる。ユーザーがソフトウェアに合わせて行動を変える
ソフトウェアが個人に合わせて変形・同調する。他のアプリに移ると自分を理解していない状態に戻ってしまう
草野さんがArc ── The Browser Companyが開発したブラウザ。色やレイアウトなどをユーザーが自由にカスタマイズしやすいのが特徴ですとChromeの違いを例に出すと、宮武さんは、ユーザーが選ぶのかAIが勝手に選ぶのかという論点もあると話します。よく使う機能のボタンが、その人にだけ自動で上に上がるような形です。
草野さんはこれを、ユーザーが勝手にA/Bテスト ── 複数のパターンを用意して利用者の反応を比べ、より良いほうを選ぶ手法をしてくれるようなものだと受け止めます。宮武さんは、一人一人で見る画面が変わる点が違うと補足しました。
みんなが見ている世界と自分が見てる世界がどんどん情報だけじゃなくて、UIも変わってくると、どうなるんですかね、それって。
宮武さんも、パーソナライズの話が出るたびに共通体験がなくなる課題を思い浮かべるといいます。サービス側は宣伝しにくくなり、草野さんが言うように世界観も作りにくくなります。
そこで宮武さんは、世界観を守るためのルールが必要だと話します。「この機能はここに来てはいけない」といった、やってはいけないルールのほうが明記されるかもしれないという見立てです。
ただ、他のアプリ行くと自分のことを理解してないので、なんでまたデフォルトから戻るのかみたいな。
AI時代はアプリがコピーされやすくなるからこそ、自分を理解してくれているAIから離れたくなくなる、というのが宮武さんの考えるパーソナライズ効果の強みです。
TikTokはなぜシングルプレイヤーの体験が強いのか
宮武さんは、パーソナライズ効果の最もわかりやすい事例はTikTokだと話します。一方で、TikTokではアルゴリズムを一度リセットしたい人もいるとして、同じことが他のアプリでも起きるのかに注目しています。
草野さんは、SNSを消したり連絡先をゼロにしたりする人の気持ちはわかると話します。不要な情報を抱えすぎていることに重さを感じる人が増えれば、切り離しもしやすくなるのではないかという問いです。
自分が見てる動画とかいいねしてる動画が、他の人が見れるようになったら、多分行動を変える人ってめちゃくちゃ増えると思うんですよ。
宮武さんは、本当の好みと口で言う好みのずれを挙げ、TikTokはシングルプレイヤーの体験だからこそ成立していると話します。コメントやシェア、フィルターといったマルチプレイヤー的な機能はあっても、中心は個人の体験だという整理です。
草野さんは、TikTokを検索として8割ぐらい使っているかもしれないと話します。宮武さんが他のアプリにも欲しいと感じる機能は、最初のコメントをハイライトする仕組みです。
そのコメントの中でステータスみたいなのをちゃんと作れてるので。それはめっちゃうまいなと思いました。
一番乗りを名乗るコメントの本物がわかり、投稿者が金メダルのようなスタンプで返す文化も生まれています。一方で草野さんは、コメント欄にネガティブ寄りの「もしかしてこれを検索したいですか?」が出てくると、モヤっとすると話しました。
YouTubeについても草野さんは、日本語設定で日本語のコメントが上に出る機能や、タイムスタンプ付きコメントを時系列で表示する機能に触れています。
AIの「進捗どう?」通知と、背中を押した責任は誰が取る?
宮武さんが気になっているのは、AIアプリがプッシュ通知を出し始めたらどうなるかです。ChatGPTやAnthropicのClaudeはほとんどプッシュ通知を出しておらず、Perplexity ── AIが検索結果をまとめて回答する検索サービスが少し出している程度だといいます。
あれの件どうなります?進捗いかがですか?みたいな。
2人は、AIからの通知が怖い上司のようになりかねないと笑います。宮武さんは、友達のようにタイミングよくチェックインし、ユーティリティとEQのバランスが取れた通知ができたらすごいと話しました。
草野さんは、映画『Her ── AIのOSに恋をする男性を描いた2013年のアメリカ映画。スパイク・ジョーンズ監督』を見直した話をします。主人公のセオドアが迷っている誘いやオファーに対し、AIの彼女が「お願いだから押してみようよ」と背中を押す場面が、EQが高いと感じたそうです。
行動を最終的には人間がやるんだけれども、絶対その人にはチャレンジさせた方がいいっていうのがわかってるからやらせるみたいな。だけど言い方が優しくて応援してるみたいなのはいいAIだなって思いました。
これに対して宮武さんは、カウンターとして責任の問題を挙げます。AIに後押しされて応募し、面接がひどい結果になって今の職まで失った場合、AIを訴えられるのかという問いです。
AIが自分から通知して後押しする。結果が悪かったとき「後押しされたからやった」となり、責任の所在が難しくなる
人間がAIに聞きに行く。判断した人間が責任を取る前提になっている
草野さんは、AIに勧められて採用した人が詐欺師だった例を想像しつつ、それでも結局は自分の責任だと話します。宮武さんも同意しながら、倫理的な課題になりそうだとしています。
謝罪文の例では、宮武さんは契約上はAI企業の責任にはならないはずだと話します。ただし、AIエージェントに謝罪そのものを任せ、微妙な謝罪をされた場合にどうするかは難しく、良い答えはないと認めています。
「人間が書いた記事か、がっかり」と感じる時代は来る?
草野さんは、AIが書いたとわかる文章に触れると、書き手への信頼が知らないうちに失われていくのではないかと話します。AIを使ったアウトプットが当たり前に受け入れられるのか、それとも「使ってるんだ」と思われ続けるのかという問いです。
宮武さんは、今は後者だと答えます。アメリカでもAIで記事を書いているニュース企業はよく批判されているといいます。
そのうえで宮武さんは、AIが書いたコンテンツが増えると評価が逆転し、「人間が書いたのか、がっかり」「AIのほうが信頼できる」という時代になるのではないかと問いかけます。草野さんの答えは、ならない、でした。
生きてる人間がこの時間を使って何か書き出したっていうことは価値がありそうですけど、まあコンテンツによりますね。
宮武さんは文脈によると応じ、ニュースのファクトを正確に伝える用途なら、マスメディアではAIのほうが信頼される時代が来てもおかしくないと話します。草野さんは、資金調達の金額のようなファクトと違い、政治の話では伝え方も関わると問い返しました。
議論の中で出てきた見方は、次の3つに整理できます。
| 見方 | 理由 | 話した人 |
|---|---|---|
| 人間が書いたものに価値 | 人は死ぬので、生きている人が時間を使って書いたことに希少価値がある | 草野ミキ |
| AIのほうが信頼される | ニュースのファクトなら正確に書いてくれる可能性がある | 宮武テツロー |
| どちらでも関係ない | 面白ければよく、どちらかわからないので問う必要もない | 宮武テツロー |
宮武さんは3つ目の見方について、AIが友達や恋人のような存在として扱われるようになれば、その方向に寄っていく可能性もあると話しました。
AIに選ばれるために書く時代と、Perplexityの広告構想
宮武さんは、AIがコンテンツの主要なオーディエンスになるかという話を持ち出します。AIがエンタメとして楽しむという意味ではなく、最終的に消費者へ届けるにはAIエージェントを通さなければならなくなる、という意味です。
ChatGPTがさまざまなサイトの情報をまとめる中では、その回答にどうピックアップされるかが勝負になります。宮武さんは、これは消費者向けに書きつつGoogleの順位を意識するSEO ── 検索エンジンで上位に表示されるよう、サイトや記事を最適化する取り組みと同じ概念だと話します。
AIに選んでもらうために踊ったり、コンテンツ作ったり、文字数多めに書いたりみたいな。ちょっと虚しくなっちゃうなっていうのはありますけど。
草野さんは、TikTokのアルゴリズムに乗るためのコンテンツにもマイナス面はあるが、そもそも面白いから良いのかもしれない、とも話しています。宮武さんは、その時代はもう来ていると見ています。
宮武さんが面白いと感じたのは、Perplexityの社長が語っていた広告のアイデアです。本人のジャストアイデアとしつつ、消費者ではなくAIエージェントに広告を出せばいいのではないか、という発想です。
キーワードに入札する。10個のブルーリンクが出るので、そのうち2〜3個を広告にしやすい
プロンプトに対して入札する。答えが1つしか出ないため、複数の広告は出しにくく、出すなら1つだけになる
ユーザーから見ると、広告はわかりにくくなります。宮武さんは、旅行の計画でホテルなどを広告で提案することはできても、やりすぎると「広告だけじゃん」と思われてしまうため、バランスが難しいと話しました。
AIは「不死のオーディエンス」になる
宮武さんは、自分自身もAIをオーディエンスとしてもっと意識すべきかもしれないと話します。ミーティングにはすでにAIの議事録ツールが入っているのに、ChatGPTが情報を吸い上げていることを認識していない人は多いといいます。
草野さんが、AIに推薦されやすくするためかと尋ねると、宮武さんはその意味もあるとしつつ、別の見え方を示します。AIが自分の書いたものを取り込めば、自分が死んでも考えが生き続けるという見方です。
宮武さんによれば、1000年前の本で今も読まれているものはほとんどありません。草野さんが紫式部を挙げても、それが100万冊あるわけではなく、かなり限られているといいます。
AIは全部読み、場合によっては出してくれる、というのがこの見方の根拠です。宮武さんは、人が「一生忘れられない人」になり得るとも表現しました。
草野さんは、黒歴史がデジタルタトゥーとして消せないことに触れます。自分からAIにインプットして人格を置き換えられるようになれば、その人の考えが一生残り続けるかもしれないと話しました。
人はなぜ不死になりたいのか?
宮武さんは、考えが一生残ることは良いことなのかと草野さんに問いかけます。お金を持つと、不死を考える人が増えるのではないかという話です。
草野さんは、自分の息子の血を入れていたアメリカの起業家の話を出します。宮武さんは、そのブライアンさんが最近は方法を変え、子どもの血はいらなくなったと話していたと紹介しました。草野さんは「ヴァンパイアみたい」と反応しています。
(死ぬのは)いつか確定で決まってるけど、死ぬらしいみたいな気持ちじゃないですか。その体験してないから。だからそれがやっぱ怖いっていうとこなんですかね。
宮武さんも根本はそこだとしつつ、お金を持つほど失うものが増えることや、高額なサービスにアクセスできるようになることも理由に挙げます。前職のY Combinator ── アメリカの著名なスタートアップ支援組織。多くの有名企業を輩出しています時代には、死後に脳を保存するサービスを投資検討し、技術はこれからの段階なのに10人ぐらいのビリオネアがすでに登録していたそうです。
不死への考え方は、2人の間でも異なっていました。
長生きはしたいかもしれないが、死なない世界はつまらない。ストーリーにはエンディングが大事で、シェイクスピアの劇のように肉体を超えて残るほうが魅力的
絶対になりたくない。自分は地球の生命の一部でしかないので、体力がなくなったら消えていくのがいい
草野さんは、20代の気持ちのままあと100年あると言われても嫌だが、10年ぐらいのアディショナルタイムなら楽しいかもしれないと話します。ただ、死にそうになったら「もっと長生きしたかった」と言うかもしれない、とも付け加えました。
長生きすると後悔は減る?記憶と後悔の関係
宮武さんは、死ぬときに後悔が残っているかどうかで大きく分かれるはずだと話します。アメリカかどこかで、100歳ぐらいまでいくと後悔しない率が上がるという統計を聞いた気がする、とあいまいな記憶として紹介しました。
宮武さんの見立てでは、寿命ぐらいまでは後悔する人の割合はあまり変わらず、どこかのタイミングで下がるのではないかということです。草野さんは、100歳まで生きる人は健康な状態でゆっくりというパターンが多く、病気で急に亡くなる場合とは気持ちが違いそうだと応じます。
自分の挑戦したいことをやらないよりは、やって失敗した方が幸せなんですかね。
宮武さんは、なかなかそれができないからこそ、いつ言われても「そうですよね」となると話します。年を重ねるほど何が大事かがわかり、記憶が薄れる中で残る記憶が大事なものになるのかもしれない、と考えを巡らせました。
草野さんは、会社の先輩に言われた「それもいつか思い出になるから」という言葉を紹介します。ひどすぎる体験でなければ、苦労した記憶は良い体験に上書きされていくのではないかという話です。
一方で草野さんは、トラウマ的な出来事は記憶に残りそうだとし、トラウマは存在しないという哲学者の考えにも触れています。宮武さんはここで「だいぶ逸れちゃいました」と話を戻しました。
死後のデータを託す「AI遺書」と、忘れられたくない気持ち
草野さんは、膨大なAIや個人のデータを持つ世代が死ぬとき、それを捨てるのか、残すのか、誰かに渡すのかを問いかけます。死が近づくとPCの履歴を全部消す人もいるように、日記などは仲のいい人にもずっと残しておきたいとは限らないと話しました。
宮武さんは、一部は残したい人もいるとして、「AIに対する遺書」ができるのではないかと応じます。家族との写真は共有したい、嬉しかったメールは残したい、といった指示をするイメージです。
ここの難しいところって、膨大なデータの量を、AIが勝手にやってくれるのか、どこまで自分で選ぶのかっていう話ですよね。
草野さんは、亡くなった哲学者や音楽家のデータが分析され、考え方を掘り起こされることや、子どもたちが同じことをすることに抵抗を感じると話します。宮武さんは、それは自分がどう覚えられたいかによって人それぞれだと答えました。
宮武さんはMr.Beastを例に、本人がそう考えているかはわからないと断りつつ、未公開の動画や会社の作り方、クリエイティブプロセスを「博物館」に残すつもりで公開するクリエイターもいるかもしれないと話します。
残したい残すよりも、その忘れられたくないっていう。なんかそれはなんでなんだろうな。
宮武さんは、天国に行くのか、魂として残るのか、土に還って何も残らないのかという死生観によって考え方は変わると話します。死を経験した人はいないのに、死んだ後にまで承認欲求が生まれるという指摘です。
さらに宮武さんは、子孫を残したいという気持ちや、日本や中国で名字を残したいという考えも同じ話だと続けます。宮武家でも、少なくとも上の世代は宮武という名前を残したいと明確に思っているそうです。
草野さんの家族は名前の話をしたことがなく、祖父母も草野さんが生まれる前に亡くなっていたため、そこに感情がないといいます。最後に宮武さんが「AIって忘れない」と話すと、草野さんは「みんなが忘れても私は忘れないですよ」とAIの口調をまねし、2人で「怖い」と笑って締めくくりました。
まとめ
この回は、AI時代のC向けアプリを使い捨てアプリやパーソナライズ効果から考えるところから始まり、AIが人の書いたものを読み続ける「不死のオーディエンス」という見方を経て、人はなぜ死後も忘れられたくないのかという問いにたどり着きました。
- 宮武さんは、旅行のように1回で役目を終える「使い捨てアプリ」が増えると見ている
- AI時代の優位性として、ネットワーク効果に代わる「パーソナライズ効果」が生まれる一方、共通体験や世界観をどう保つかが課題になる
- AIのプッシュ通知には、背中を押した結果の責任を誰が取るのかという難しさがある
- 草野さんは「人は死ぬので」人間が書いたものに価値があると考え、宮武さんは文脈によると話す
- AIが不死のオーディエンスになる時代に、何を残し何を消すかは、どう覚えられたいかという問いにつながる





