広告が8割弱のGoogleに、次の柱は必要か?
今回のOff Topicのテーマは、Googleの「次のムーンショット事業」は何になるかです。宮武さんは、AIの発展の中でGeminiをどうするかなど、Googleはいろいろな意味でターニングポイントにあると見ています。
宮武さんによると、Googleの去年の売上は78%弱が広告から来ています。その中身はGoogle検索の広告とYouTubeの広告です。
(Googleの)すごいざっくり今の状況を話すと、去年ですと78%弱の売上が広告から来てるんですよね。
宮武さんが問題にするのは、この広告中心のモデルが今後も通用するかどうかです。AIの発展、規制の問題、そして検索のビジネスモデルが次のAI世代でどこまで変わるのかによって、Googleは次の柱を見つけなければならないと話しています。
草野さんが「広告以外のものってことですか」と確認すると、宮武さんは場合によっては検索以外のものだと答えます。そのうえで、Googleは検索に集中した会社でありながら、次の柱になりそうなプロジェクトをずっと作ろうとしてきた会社でもあると指摘しています。
そよ風で知らせる通知?Googleのプロトタイプ
Googleが次々と出すプロトタイプの中で印象に残ったものとして、草野さんは2、3年前に見た「環境音や風で通知を伝える」試みを挙げました。製品化まではしていないプロジェクトです。
草野さんが思い出したところでは、Google Seeds StudioGoogle Seeds Studio ── Googleが実験的なプロトタイプを公開していたプロジェクトとして草野さんが紹介した名前。正式な名称は確認が必要ですというプロジェクトの「Little Signals」です。近くの植物の葉っぱを揺らしたり、ノックする音や影の動き、そよ風で情報を伝えたりするUIでした。
あんまりストレスじゃない、ストレスの感じない通知をみたいなのは面白いなと思いました。
宮武さんはこのLittle Signalsの発想を、ファントムバイブレーション ── スマホが振動していないのに、振動したように感じてしまう現象。通知を気にしすぎることによるストレスの表れとも言われますのような通知ストレスを減らすためのアイデアだと受け止めました。
宮武さんによると、Googleはこうしたプロジェクトをよく作り、うまくいけばスピンオフさせたり会社化したりします。YouTubeのように、別の事業部としてPLを公開するところまで育つ例もあるといいます。
大企業のイノベーションラボは9割失敗する?
会社が次のイノベーションを生むための定番の手段として、宮武さんはイノベーションラボを挙げます。過去にはHP、Google、Starbucks、SAP、Dell、T-Mobile、CVS、Sephoraなどがラボを作ってきました。
宮武さんによると、今年だけでもイノベーションラボの立ち上げは相次いでいます。M&MやSNICKERSの親会社Marsは約7000万ドルを投じたラボを今年立ち上げ、新しいテストキッチンやパッケージング専用のラボを作っています。
テック企業以外の例として、サッカーリーグのMLSやジョージア州もイノベーションラボを立ち上げています。最近では、エスティローダーがMicrosoftと提携してラボを作ったといいます。
宮武さんは、新事業の取り組みにはいくつかのパターンがあると整理しています。
- 自社ですべて手がけるパターン
- アクセラレーターを使うパターン
- VCとしてベンチャー投資するパターン
ただし、イノベーションラボの成功率は高くありません。宮武さんが調べたハーバード・ビジネス・レビュー ── ハーバード・ビジネス・スクールが発行する経営誌。経営戦略や組織論の論文・記事で知られますの記事には、9割ほどのイノベーションラボが失敗しているという数字がありました。
失敗の理由として宮武さんは、ラボのアイデアが会社の戦略と合っていない場合や、実験としては面白くても商業利用が難しい場合を挙げています。
Alphabetの再編とOther Betsは何を残したか?
Googleは2015年に組織を再編し、Alphabetという持株会社の下に、コア事業のGoogleと、それ以外の事業である「Other Bets」を分けました。宮武さんは、新しいプロジェクトが大きな柱に育ったときにコア事業に縛られないよう、別の子会社として立ち上げるための再編だったと説明します。
Googleのやり方には、買収した会社をそこに入れるパターンと、自社でインキュベーションするパターンがあります。買収の成功例として宮武さんはDeepMindを、草野さんはYouTubeやAndroidを挙げました。Googleの広告ビジネスの基盤になったDoubleClickも、買収の大きな成功例です。
検索やYouTube広告などのコア事業
ヘルスケア、バイオテック、インターネットインフラ、自動運転など、将来の柱を狙う事業
Other Betsの数字について、宮武さんは去年の売上が約15億ドルまで下がった一方、営業損失は約41億ドルまで改善したと話しています。一部の事業をスピンアウトさせた影響もありそうですが、何が売上に含まれるかの詳細は公開されていません。
Other Betsから生まれた事業には、Waymo、ヘルスケア領域のデータ分析を手がけるVerily、製薬会社のIsomorphic Labs、光ファイバーのGoogle Fiber、サプライチェーンセンサーのChorusなどがあります。
ただしここ1、2年のコストカットで、Xのムーンショット部門も大きな影響を受けています。気球でインターネットを届けるLoonは2021年にシャットダウンされ、量子コンピューティングの会社は完全にスピンオフして、VCから約5億ドルを調達しました。
(最近は)自社で全部抱えるのではなくて、もう他社のお金を使ってくださいというところで、他社のVCから調達してくださいっていう雰囲気にはなってるっぽいです。
一方でWaymoは、有料トリップが最近5万回を超えたといい、宮武さんはうまくいったベットの一つと見ています。X Moonshot Factoryは10年ほど前からあり、社内のインキュベーションが中心です。採択には「クレイジーなベットであること」が前提になっているらしいと宮武さんは話しています。
分散型のDeepMindと集権型のOpenAI、どちらが正しい?
Other Bets系で今いちばんうまくいっているのはDeepMindだと宮武さんは見ています。AIがGoogleの基盤になった今、それをリードしているのがDeepMindです。
それでもDeepMindのやり方が正しいのかは問われている、と宮武さんは言います。きっかけは、サム・アルトマン氏がポッドキャストで語った、DeepMindとOpenAIの組織の違いです。
小さいプロジェクトと小さいチームが多数あり、うまくいったものに人が集中していく
会社全体で取り組む。だからこそGPT-4のような複雑なものが作れたとアルトマン氏は話す
アルトマン氏の主張は、より複雑な問題は小さいチームでは足りず、会社全体でやらないと成し遂げられないというものです。宮武さんは、GoogleのOther BetsやX Moonshot Factoryにも同じ指摘ができると考えています。
宮武さんはさらに、各プロジェクトが「世界の情報を整理し、誰もがアクセスできるようにする」というGoogleのミッションに沿っているかも疑問だと話します。たとえば自動運転のWaymoを情報の整理にどうつなげるのかは、少し微妙なところがあるといいます。
広くやりすぎて、結局どれもちゃんと柱になってないんじゃないかっていう指摘ですよね。
シリコンバレーでは多くの会社が同様の取り組みをしてきましたが、その時代は終わったという声もあります。Amazonは社内インキュベーターのGrand Challengeを閉じ、スマートメガネのEcho Frames、バーチャルツーリズムのAmazon Explore、子ども向けデバイスのAmazon Glowなどもシャットダウンしました。
草野さんに「シャットダウンすべきだと思うか」と聞かれた宮武さんは、全部やる必要があるかは別として、やり続けるべきだと答えています。巨額を投じているMetaもAIとメタバースに賭けつつ、Facebookのニュースタブやニュースレター製品、Portalを閉じるなど、選択と集中をしていると指摘しました。
研究所の成果は、他社が儲ける?
宮武さんは、企業のインキュベーターや研究チームの成果は、最終的に他社が利用して儲かるのではないかという説も紹介しています。
代表例がXeroxの研究所Xerox PARC ── Xeroxが1970年にカリフォルニア州パロアルトに設立した研究所。GUIやイーサネットなど、現代のコンピューターの基礎となる技術を多く生み出しましたです。PARCではGUIやパソコンのマウスを最初に開発しましたが、招待されて見学したスティーブ・ジョブズが「これを使える」と考え、実際に製品で使ったのはAppleでした。
Xeroxが作ったのに、結局彼らが使わなかったっていう。ただのおもちゃ、ただのプロトタイプで終わったっていう。
宮武さんは、Metaの大型投資も業界にとってはとても良いものの、Meta自身にとってどこまで良いかはまだわからないと話します。
Googleのムーンショットの成果も、DeepMindなどを除くとWaymoが入る程度です。投資をやめるべきだという意見もありそうですが、宮武さん個人は、大きめのムーンショットがいくつかこれから来ると見ています。
4〜5年で1つの構造解析を、AlphaFoldはどう変えた?
宮武さんが挙げる1つ目の候補は、DeepMind発の技術AlphaFold ── Google DeepMindが開発した、タンパク質の立体構造を予測するAIシステム。生物学の長年の難問を大きく前進させたとして高く評価されていますです。最近、GoogleはAlphaFold3をリリースしました。
AlphaFoldは、タンパク質の3Dの形を予測するAIシステムです。宮武さんによると、DNAの3文字の配列がアミノ酸を作り、アミノ酸が連なってタンパク質になりますが、アミノ酸の並びを見るだけではその立体構造はわかりません。
タンパク質の立体構造が重要なのは、タンパク質が何にくっつくかが形で決まるからです。パズルのようにフィットするかどうかで、タンパク質の効果が実現するかどうかが決まると宮武さんは説明します。
これまで生物学者は約40年かけて、少しずつタンパク質の構造を解き明かしてきました。わかっている形は約15万で、1人の博士課程の学生が4、5年かけて1つの構造を解く世界だったといいます。
判明していたのは全体の0.075%ほどにすぎません。Google DeepMindは、既に画像化された構造を学習データとして使い、2億個のタンパク質の形を1年間で予測しました。間違いもあるかもしれませんが、今のところかなり正しいとされているそうです。
草野さんが「これまでの15万のデータも使ったのか」と聞くと、宮武さんはもちろんで、そのデータがなければできなかったと答えています。
AlphaFold3は創薬の「オフターゲット効果」を防げるか?
AlphaFold3では、さらに小さい分子や、分子同士がどう組み合わさるかのシミュレーションまでできるようになりました。宮武さんはその意味を、新薬開発の例で説明しています。
たとえばがんの治療薬を作る場合、あるタンパク質ががん細胞にくっつくとわかれば、研究と検証を重ねて薬として成立するかを確かめます。この過程には10年ほどかかり、場合によっては数千億円がかかります。
問題は、8年ほど進んだ最後の段階で、そのタンパク質が体の別の部位の細胞にもくっついて悪影響を及ぼすと判明することです。宮武さんによると、これは非常によく起きることで、そうなると開発は止まり、ゼロからやり直しになります。
(オフターゲット効果は)今までは予測できなかったんですよね。
さまざまなシナリオで薬を与えて検証し、狙い以外への作用は実際に起きるまでわからなかった
薬の3Dモデルで体内での影響をシミュレーションし、オフターゲット効果を事前に防げる可能性がある
宮武さんは、薬に限らず生物学や化学の分野で、ソフトウェアを活用したデザインができる時代が来ると話します。草野さんは「人間や生物はまだまだ謎が多い。そこがAIで解明されていくのは本当にすごい、めっちゃ長生きできそう」と反応しました。
AlphaFold3はなぜオープンソースをやめたのか?
GoogleはAlphaFoldのバージョン1と2をオープンソースにしており、タンパク質の構造予測データには誰でもアクセスできます。ところがAlphaFold3は、オープンソースにしていません。
宮武さんによると、GoogleはAlphaFold3を公開も販売もせず、子会社の製薬会社Isomorphic Labs ── DeepMind創業者のデミス・ハサビス氏が率いる、Alphabet傘下の創薬企業。AIを使った新薬の発見を目指していますが使う技術にしています。Isomorphic Labsは今年1月ごろ、イーライリリーとノバルティスと提携し、約30億ドル規模の契約になったと言われています。
科学者が商業利用以外の目的で使えるウェブベースのビューワーはありますが、中身は見られません。宮武さんは、急にクローズドにしたのは本格的にマネタイズし始めるからだろうと推測しています。
草野さんは、Amazonの医療部門がなくなったことにも触れ、テック企業のメディカル系、しかもラボらしい本格的な部門が成功し始めていると驚きます。宮武さんも、研究としての面白さはあっても、ここまで商業的に成功した事例はこれまであまりなかったと応じました。
草野さんはこの宮武さんのルールを「無料で開放して、マーケットを取ったらクローズドにする」プラットフォーマーの戦略だと言い換えました。宮武さんは、Isomorphic Labsでその戦略をうまくやっているのがGoogleではないかと見ています。
HubSpot買収報道、Google史上最大の案件は成立するか?
宮武さんが2つ目に挙げたのは、CRMの会社HubSpot ── 米ボストン発のCRM・マーケティングソフトウェア企業。中小企業向けのマーケティング・営業・顧客管理ツールで広く使われていますをGoogleが買収したいという噂です。宮武さん自身はムーンショットではないと考えていますが、Googleの次の大きな事業を語るうえで外せない話題として取り上げました。
収録時点では、Googleが買収を検討しているという報道が出ている段階です。HubSpotの時価総額は約300億ドルで、合意を得るにはそれ以上、おそらく約400億ドル、6兆円ほどが必要だと宮武さんは見ています。Googleの手元資金は約1110億ドルです。
成立すればGoogle史上最大の買収になります。これまでの最大は2012年に125億ドルで買収したモトローラで、失敗とよく言われています。次いで2022年のMandiant、2014年に32億ドルで買収したNestが続きます。
ただし宮武さんは、この買収は独占禁止法によっておそらく成立しないという前提を置いています。Googleは一番手のSalesforceやMicrosoftを買うわけではないと主張しそうですが、米政府はすでにGoogleの広告事業に目をつけており、広告事業の一環だとして止めにくるだろうという見立てです。
成立したとしても2、3年はかかると宮武さんは見ています。HubSpotの実績は、去年の売上が約22億ドル、赤字が約1億7600万ドル、利用企業は約20万社です。
HubSpotは最初の10万社を獲得するのに15年かかった一方、次の10万社は3年以内で獲得しました。2014年10月に約10億ドルの時価総額で上場し、10年で30倍に成長しています。ボストン発の会社で、インバウンドマーケティングという言葉を作ったのもHubSpotだと宮武さんは紹介しています。
GoogleはなぜCRMを20年も狙ってきたのか?
報道では、Google WorkspaceにCRMを加えてMicrosoftやSalesforceに対抗するバンドル戦略だとよく言われます。宮武さんはそれより、広告領域とのフィットのほうが大きいと考えています。
Googleの検索広告でリードを獲得しても、そのリードを管理しトラッキングする場所が今のGoogleにはありません。さらにChromeからCookieを取り除く方針が進めば、HubSpotが持つファーストパーティーデータ ── 企業が自社の顧客から直接集めたデータ。サードパーティーCookieが使えなくなる中で、広告やマーケティングでの重要性が高まっていますが重要になります。
宮武さんによると、GoogleがCRMを欲しがるのは20年ほど前からの話です。2005年、GoogleはUrchin Softwareという会社を買収し、これが後のGoogleアナリティクスになりました。
トラッキング
広告主がユーザーの行動を追えるようにする
コンバージョンの可視化
広告のROIが見えるようになる
投資の拡大
ROIが良ければ、広告主がGoogle広告への出稿を増やす
この仮説は正しく、Googleアナリティクスの導入後、クライアントは明らかにGoogle広告を多く使うようになったといいます。Googleが本当に欲しかったのは、広告からリード獲得だけでなく、リードを顧客につなげるところまでの流れでした。
だからこそ2005年ごろ、Google経営陣はCRM企業の買収を考え、SalesforceのマーケベニオフさんIに話を持ちかけました。Salesforceは2004年6月、Googleは同年8月に上場していましたが、Salesforceの価格が高く買収は見送られました。NetSuiteなどとも話しましたが、結局何もしなかったといいます。
HubSpot買収は「守り」の一手か?
草野さんの「なぜこのタイミングなのか」という問いに、宮武さんはこの買収はネガティブなシグナルだと答えます。好調なら、この事業を買う必要はあまりないはずだという考えです。
宮武さんの見立てでは、Googleは広告主がGoogleから離れないようにし、去年約2370億ドルあった広告売上を守るために買収を検討しています。HubSpotの売上約22億ドルはGoogleの広告売上の1%で、顧客が5倍に伸びても5%にしかなりません。
そのため、売上を買うための買い物なら400億ドルもかけるはずがない、というのが宮武さんの理屈です。攻めではなく守りの買収なので、ムーンショットのカテゴリには入れるべきではないと話しています。
宮武さんは、自分の推測にすぎないと断ったうえで、別の可能性も挙げました。400億ドルの案件で当局の目を引きつけてブロックされる間に、別のAI企業への10億〜20億ドル規模の買収を通してもらう、という駆け引きかもしれないというものです。リークも含めて戦略であってもおかしくないと見ています。
Workspaceの勝機はSlack・Teams対抗のチャットか?
宮武さんが大型ベットの余地があると見るのはGoogle Workspaceの領域です。Off Topic自身もGmail、Googleドライブ、カレンダーを使っており、草野さんも「それがスタンダードになっている」と話します。
ただし宮武さんの目には、GoogleはWorkspaceにあまり力をかけていないように見えます。草野さんも、チャットは終わってしまった感じがあり、Google Meetももっと頑張らないと、と同意しました。
草野さんが言ったところが個人的にすごいチャンスだと思ってて、チャットだと思うんですよ。
宮武さんの考えは、TeamsとSlackの競合を作るべきだというものです。参考になるサービスとして挙げたのが、PayPalマフィアの一人でYammer ── 社内向けのSNS型コミュニケーションツール。2012年にMicrosoftが買収しましたの共同創業者でもあるデビッド・サックス氏が立ち上げた「Glue AI」です。
Glue AIは、チャネルを使わないスレッド型の社内チャットです。サックス氏は、大きな組織ではチャネルでの会話はうまくいかないと主張しています。特定の会話のためにチャネルに入っても誰もアーカイブしないので、最終的に全員が全チャネルに入った状態になってしまうからです。
Glue AIでは、コミュニケーションをすべてスレッド型にし、メンションされたときに必要なスレッドだけが表示されます。裏側にAIがあるから可能になる仕組みだと宮武さんは説明します。
宮武さんが面白いと感じたのは、特定のスレッドにデータを入れられる点です。サックス氏は自分が出演するAll-Inポッドキャストの書き起こしをスレッドに入れ、別の会話から「この発言はどのエピソードか」とAIに質問でき、引用も返ってくるといいます。
サックス氏はさらに、AIが重要な情報を持っていると判断したときに自ら発言する「プロンプトレス」を目指しています。草野さんはそれを「プロンプトを入れなくても喋ってくれる」と言い表しました。
Googleがチャットを握ると何が変わるのか?
宮武さんは、Glue AIのようなサービスがGoogleにとって重要な理由を2つ挙げています。1つ目は、自社のエンタープライズデータとコミュニケーションデータをすべてつなげ、会社のOSになりうることです。SalesforceがSlackを買収した大きな理由もそこにあり、MicrosoftがCopilotでやりたいことも同じだと見ています。
2つ目は、社内だけでなく会社間のコミュニケーションレイヤーになれることです。そうなれば、Google DocsやSpreadsheetなど他のGoogle製品もより使われるようになると宮武さんは考えています。
宮武さんはSlackを、コミュニケーションサービスであると同時にSNSだと捉えています。メッセンジャーアプリと同じく、周りが使うと自分も使わざるを得なくなり、離れにくくなるネットワーク効果 ── 利用者が増えるほどサービスの価値が高まる現象。メッセージアプリやSNSで強く働き、乗り換えを難しくしますが会社内で起きているといいます。
Slackは2019年にShared Channels、後のSlack Connectを発表し、他の組織と共通のチャネルでやり取りできるようにしました。宮武さんは、この機能がTeamsとの違いを生んでいると見ています。
Microsoftの各サービスと深く連携し、チーム内での便利さを高めるバーティカルな連携
Slack Connectで会社間や社内をつなぐ、エンタープライズSNSのような横の連携
宮武さんによると、Googleはすでに縦軸を持っていますが、横軸をつなぐサービスがあまりありません。Glue AIのような会社を買収するか自社で作れば、横軸と縦軸のどちらも取りに行けるというのが宮武さんの見立てです。
宮武さんはさらに、パーツごとに選べるモジュラー型も提案します。Gmailから始めてもチャットから始めてもよく、全部を一斉に使わなくてもいい形です。Microsoftはもう少しバンドルを推しているので、そこで差がつけられるといいます。
具体的な機能のイメージとして宮武さんは、チャットの内容をGoogleが自動でメモに記録する、AIチームメイトが資料をまとめる、ミーティングの議事録から社外向けの情報だけを切り出して共有する、といった例を挙げています。
Googleはコミュニケーションが苦手な「一人遊び」の会社?
草野さんは、Googleにはコミュニケーションサービスが苦手なイメージがあると話します。機能はすばらしいのに、やりたいことを探すのや相手に伝えるのが難しく、Google+やチャットも「機能だけあって、あとはユーザーどうぞ」という感じだったといいます。
SlackとかGlue AIとかだと(会社のツールなのに)楽しい。
草野さんは、SlackやGlue AIには会社のツールに対する楽しさや、今の時代に合ったカジュアルさがあると指摘します。宮武さんもこの見方に同意し、特にC向けはGoogleが苦手な領域なので、インターフェースや遊び心は買収で取り込み、広げるのはGoogleに任せるのがいいと話しました。
一方で宮武さんは、Googleは検索のイースターエッグのような遊び心は得意だとも指摘します。草野さんはそれを「一人で遊ぶ」遊び心だと表現し、誰かとのコミュニケーションの設計とは違うと話しました。
シングルプレイヤーとマルチプレイヤーってすごい重要なポイントかもしれないですよね。やっぱり検索ってずっとシングルプレイヤーだったので。
宮武さんは、完全なマルチプレイヤー製品であるGoogle Docsのような例外もあると補足しています。草野さんは、Googleは王者であり続けたために他社との連携や競争の必要が少なく、独自のプラットフォームでやればいいと考えてきたのかもしれないと推測しました。
宮武さんは、この点がGoogle社内の課題であり、Workspaceにあまり投資していないように見える理由かもしれないと話します。1時間を超えたため、宮武さんが考える「本当のムーンショット」は次回に持ち越しとなりました。
まとめ
今回のOff Topicでは、広告依存から抜け出したいGoogleの次の柱を、ムーンショット部門の歩みと3つの候補から検討しました。宮武さんは、AlphaFoldを本命に近い候補と見る一方、HubSpot買収は守りの一手と位置づけ、Workspaceのチャット領域に大型ベットの余地を見ています。
- Googleの売上は78%弱が広告で、AIや規制の影響から次の柱が必要とされている
- Other Betsは広く手がけすぎて柱が育っていないと指摘され、コストカットでLoonの閉鎖やスピンオフが進んだ
- AlphaFold3はオフターゲット効果のシミュレーションで創薬を変えうる技術で、クローズド化してIsomorphic Labsで収益化を進めている
- HubSpot買収報道は、広告売上を守るための買収だと宮武さんは見ており、独占禁止法で止まる可能性が高いとしている
- Workspaceでは、Glue AIのようなAIチャットで社内外をつなぐ横軸を取れるかが鍵で、一人遊びが得意なGoogleの文化が課題になる


