Googleの本当のムーンショットとは何か
前回のOff Topicでは、Googleの創薬子会社Isomorphic Labsやビジネスコミュニケーション領域など、ポテンシャルのあるムーンショットが取り上げられました。ただ宮武さんは、時間切れで「Googleの本当のムーンショット」の話ができなかったといいます。
宮武さんの考えるGoogleの本当のムーンショットは、Googleが最も頼っている部分、つまり最大のリスクをカバーし、それを強みに変えることです。そのリスクとは、過去の回でも触れた検索事業の危機であり、中でも大きな要因がAppleだと指摘します。
すごいサマリーレベルで話すと、Googleの本当のムーンショットはAppleとしっかり対抗することっていうところです。
草野さんは、ティム・クックCEOのもとでAppleがビジネスモデルを大きく進化させながら、穏やかなブランドイメージを保っている点を不思議がります。宮武さんも、ティムさんは前に出すぎず変な発言もしない人で、実態は「ゴリゴリのオペレーションの人」だと応じます。
宮武さんによれば、Appleはプライバシーの強調などを通じて「人々を守っている」という立ち位置をうまくブランディングしてきました。そのうえで、すごい力を持つ会社になったと語ります。
Apple経由の広告売上は550億ドル規模
GoogleとAppleの関係の大きさを示すのが、iPhoneのデフォルト検索をめぐる契約です。宮武さんによると、GoogleはAppleに広告売上の36%をレベニューシェア ── 売上の一定割合を取引相手に分配する契約形態。ここではAppleのデバイス経由で生まれた検索広告売上の一部をGoogleがAppleに支払う仕組みを指しますとして支払っています。
Appleのソフトウェア担当者は、2022年にGoogleからAppleへ200億ドルが支払われたと発言しています。宮武さんは、36%が200億ドルにあたると仮定すると、GoogleはAppleのデバイスだけで約550億ドルの広告売上を作っている計算になると説明します。
宮武さんは、これがGoogleの広告売上の少なくとも4分の1ほどになるのではないかと見ています。草野さんの「もう離せないですよね」という反応に、宮武さんも「離せないです」と同意します。
今の提携は2026年までの契約とされるため、すぐにGoogleが置き換えられるわけではありません。ただ、OpenAIとAppleの提携の話やAI検索エンジンの普及によって、Googleの立ち位置は変わっていくと宮武さんは考えています。
インターネットはなぜ「すべてを平ら」にしたのか
宮武さんがもう一つ挙げるのが、Appleがいろんな会社に及ぼしている影響は、インターネットがサービスに及ぼした影響と似ているという点です。インターネットは、いろんなものを平らにしたといいます。
インターネットの元々の理想は、核戦争などで一つのネットワークが潰れても他で補える分散型ネットワークでした。実際、一社がインターネットを支配しているわけではなく、誰でもコンテンツを作れるようになりました。
ところがインターネットの普及とスケールは、逆の革命も起こしたと宮武さんは語ります。物事は分散型にならず、世界最大級のアグリゲーター ── 多数の商品やコンテンツ、サービスを一か所に集めてユーザーに提供し、ユーザーの注目を握ることで市場で強い力を持つプラットフォームのことが生まれたというのです。
そうなんですよ、真逆が起きたんですよ。
宮武さんの説明では、インターネットで配信コストがゼロになり、供給側を押さえれば市場を独占できる時代が終わりました。その結果、GoogleやYouTube、Facebookがユーザーのアテンションを取りに行き、メディア企業のような従来のサプライヤーはコモディティ化したといいます。
配信コストがゼロに
誰でもコンテンツを出せるようになり、サプライヤーがネット中にあふれる
供給側の独占が崩れる
サプライヤーを押さえても市場を握れなくなる
アテンションの争奪
ユーザーの注目を集めるプラットフォームが力を持つ
アグリゲーターの誕生
コンテンツが横並びになり、集める側が最も強くなる
宮武さんは身近な例として、Off TopicのポッドキャストがNew York Timesのコンテンツと同じ場所に並ぶことを挙げます。内容は違っても、立ち位置としては同じポジションにいるわけです。
無限のコンテンツがあるからこそ、人々はある程度キュレーションしてもらいたいと考えます。草野さんは、ビッグテックがますます強くなる構図に「なんかすごく悲しくなってきました」と漏らしますが、宮武さんはそれによって新しいチャンスも生まれており、必ずしも悪い意味ではないと補います。
FacebookからTikTok、Uberまで進む平坦化
宮武さんは、平坦化はメディアにとどまらないと続けます。Facebookのフィードでは家族の写真と流行りのミームが同じ場所に並び、Amazonではどの商品も同じ検索結果に出て、Netflixではハリウッド映画もインディーズ映画も同じ場所で見つかります。
さらにインターネットが進化すると、平坦化はもっと進むといいます。宮武さんが挙げる例は、SNS、EC、動画、移動・宿泊の各分野にわたります。
SNSは友達やフォロー中の人の投稿、Amazonは自社扱いの商品、Netflixはハリウッドとインディーズ映画が並ぶ
TikTokは世界中のどんなコンテンツも推薦し、Amazonは第三者マーチャントへ拡大、YouTubeは個人クリエイターも同じ立ち位置で戦い、UberやAirbnbは移動や宿泊までコモディティ化する
そして、この平坦化の議論であまり言及されないのがAppleだと宮武さんは指摘します。Off Topicでは、MetaがなぜAppleを強く意識し、依存から離れようとしているのかを話した回で、この点に触れてきました。
App Storeというアグリゲーターの支配力
宮武さんによれば、AppleのApp Storeは開発者に向けたアグリゲーター効果を持っています。iPhone上のアプリは、すべて平らに並ぶ構造になっているのです。
その象徴として宮武さんが挙げるのが、iPhone 3G発売時の「何でもアプリがありますよ」という広告です。天気予報のアプリも複雑なアプリも同じ場所で見つけられる、というメッセージだったと宮武さんは読み解きます。
いくらGoogleとMetaがすごいサービスを出したとしても、結局アグリゲーター配下にいる場合は、そこの支配権の中に、コントロールされるっていう。
草野さんは、独占禁止法の動きで独占的なアグリゲーターの状態は薄まっていくのかと尋ねます。宮武さんは、アメリカ政府やEU、イギリスが敵対視しているため、各プラットフォームの立ち位置は多少弱まるだろうと答えます。
一方で宮武さんは、アグリゲーター自体は消費者にとって価値があるとも強調します。Amazonに行くのは品揃えと推薦があるからで、サプライヤーが半分切られたら「だったらどうすればいいの?」となるのが消費者の考えだといいます。
いわゆるアグリゲーターの強さって、どんどんアグリゲーションするとどんどんバリューが出てくるので、どんどん消費者にとって、離れられなくなるっていう。
Google MapsはAppleに何を奪われたのか
Googleの戦略は常にサービスファーストで、検索から始まり全デバイスに対応する形で進化してきました。しかしApple側から見れば、GoogleのサービスはiOS上のただのアプリにすぎず、契約がなければすぐにリプレースできてしまうと宮武さんは語ります。
「お前の代わりは他にもいるよ」と。
宮武さんは、実際にそれが起きた例としてGoogle Mapsを挙げます。最近はApple Mapsの評判がよく、日本に来るアメリカのテック起業家やVCから、会食の場所を送ると「これAppleのURLないですか?」と聞かれることもあるそうです。
iPhone発売当初の地図はGoogle Mapsで、その影響もあってGoogle Mapsは2012年に10億ユーザーを達成しました。ところが同じ年にAppleが自社マップに置き換えたことで、Googleはモバイルユーザーの30%弱、約3億人を失ったといわれています。
宮武さんは「たったの40%」の回復にとどまった点を挙げ、Appleの置き換えの影響の大きさを強調します。草野さんは、Google Mapsがリスト機能やグルメレビューを推す動きも、ユーザーを離れにくくする施策なのかもしれないと話します。
アプリはデスクトップよりも代替されやすい
宮武さんは、iOSのアプリストア上では、どのアプリもコモディティ化されると指摘します。草野さんは、Macでもいつも殺されるアプリ、代替される機能があったと思い出します。
宮武さんによれば、アプリのほうがむしろ大変です。デスクトップならウェブアプリで対抗できますが、スマホのユーザーはなかなかウェブに行かず、アプリ上で使いたがるからです。
その代表例がSpotifyで、Apple Musicの登場以降、Appleにクレームを入れ続けています。宮武さんは、創業者のダニエル・エクさんがはっきり発言していることを「なかなかできない」と評します。
宮武さんは、AppleがiPadの発表で流し批判を浴びたCMにも触れます。薄さを見せるためにクリエイティブな道具を押しつぶす映像でしたが、批判の一因は、Appleがいろんなものを平らにすることを人々が無意識に理解していたからではないか、と宮武さんは考えています。
イケてる機能はすべてスタンダードになるのか
草野さんは、平坦化は誰にも止められないのかと問いかけます。New York TimesのWordleのような人気要素をApple Newsに取り入れる、Storiesが良いからInstagramに入れる、といった動きは、スタンダードになる場合もあれば、パクリと言われる場合もあります。
相談の要旨: ユーザーにとって良いものなら、プラットフォームが標準機能としてどんどん取り入れていくことを、みんな肯定していくのが普通なのか。
上の問いは草野さん自身が投げかけたものです。宮武さんは、全部は無理でも一部はそうなると答えます。天気予報アプリも元々は別会社が作っていた時期がありました。
ただし、InstagramやTikTokのようにネットワーク効果があるアプリを、Appleがすぐに置き換えるのはかなり難しいといいます。それでも、どのアプリにとってもAppleは「何されるかわからない」強敵だと宮武さんは語ります。
「無料以下」戦略はなぜ通用しなくなったのか
宮武さんは、スマホのインターネットではAppleが重要なアグリゲーターになっているため、Googleは根本的な戦略を変えなければならないと考えています。今までの戦略は、明らかにAppleに対抗するモデルになっていないといいます。
Googleの戦略は「無料以下」のビジネスモデルと呼ばれます。Appleがハードウェアとから始めてサービスへ入り込んだのに対し、Googleは逆に、サービスから始めてOSやハードウェアに進出しました。
ハードウェアとOSが核。そこからサービス領域へ入り込んでいく
検索サービスが核。検索を守りスケールさせるためにOSやハードウェアへ進出する
宮武さんの説明では、Googleは検索とユーザーの間にあるものをすべて無料にし、場合によってはお金を払ってでも摩擦をなくしてきました。過去の回の言い方では「周りを全部燃やす」戦略です。
具体的には、スマホメーカーにお金を払ってAndroidを使ってもらい、Mozillaにお金を払ってGoogleを既定の検索エンジンにしてもらってきました。宮武さんにとって、ChromeやAndroidは普通の製品ではなく、検索のための優位性そのものです。
この戦略には理屈がありました。誰もがiPhoneを買えるわけではありませんが、無料のソフトウェアならインターネットさえあればほぼ世界中の誰でも使えます。周りをオープンにしてiOSの代替を提供すれば、PC時代のMicrosoft対Appleではなく、Apple対多数の競合という構図を作れたのです。
草野さんはこの戦略を「美しい」と評し、宮武さんも、これだけの規模の会社になれたのは大成功の証拠だと認めます。
オープンかクローズドか、Googleはどちらへ
どのコンピューティングの時代にも、オープンとクローズドのどちらが勝つかという議論があります。宮武さんによれば、PC時代はMicrosoftのよりオープンなモデルが勝ち、モバイルでは今のところAppleが勝っています。
クローズドはより良い体験を提供しやすく、オープンはより広まりやすいというメリットがそれぞれあります。スマホでここまで一社が勝つとは誰も思わなかった、と宮武さんは振り返ります。
Appleが次のAR・VRで急にオープンになることはないため、だからこそ対抗するオープンなエコシステムが必要になります。そのAndroid的なポジションを狙うのがMetaのマーク・ザッカーバーグで、最近はMeta Horizon OSをオープンソース化しました。
ではGoogleはどうか。これまではオープンで、ハードウェアからサービスまで持ちながら、自社のエコシステムに連携させすぎないよう、あえてつなげてこなかったと宮武さんは説明します。草野さんも、Pixelはカメラが良いから使う程度で、Googleにどっぷり浸かるイメージはなかったと話します。
その方向性が今は間違ってると思っていて。
クローズド化が抱える大きなリスク
宮武さんは、この戦略にはめちゃくちゃリスクがあると認めます。元々の検索売上が失われる可能性があるうえ、Androidを通じて契約してきたスマホメーカーやキャリアが怒るのは当然だからです。
「うちらが連携できないような連携を取るってどういうことなんですか?」っていう話、当然ながらなるじゃないですか。
加えて、デバイスへの多額の投資も必要になり、草野さんはデバイスが高くなりそうだと心配します。GoogleはすでにAIへ1000億ドル以上を投資すると表明しており、そこにデバイス投資が加わると負担はさらに増します。
それでも宮武さんは、AI検索エンジンの流れでGoogleの検索のマージンとシェアは失われていくと考えています。何もやらなくてもリスクだからこそ、リスクを取ってもいいのではないかというのが宮武さんの立場です。
AIを組み込む、Google Cloudを伸ばすといった施策だけでは足りず、答えがPixelかはわからないものの、iPhoneと対抗するデバイスを作らなければならないと宮武さんは語ります。
Googleが他社のAndroidアプリを代わりに作っていた時代
草野さんは、PixelがXiaomiやOPPOなどもいる中でどうすれば勝てるのかと尋ねます。宮武さんは、Googleはこれまでキャッチアップする側だったと答えます。アプリのエコシステムを最初に作ったのはiPhoneで、今もアプリ開発はiPhoneファーストになりがちだからです。
意外な歴史として宮武さんが紹介するのが、SNS系アプリのAndroid版がなかなか作られなかった時期に、Googleが他社アプリを「ほぼ代行」で作っていた話です。最初のTwitterのAndroidアプリはGoogleのチームが作り、デモアプリとしてTwitterに渡して「Android版出してください」と頼んだといいます。
同じことはFoursquareでも行われました。同じGoogleのメンバーが作っていたため、当時のAndroid版SNSアプリの多くは似たUIになっていたそうです。草野さんは、プラットフォーム側としてはやるべきマーケティングだと面白がります。
宮武さんは、今はAIの発展によってiPhone版と同じタイミングでAndroid版を作れるようになりつつあり、Googleにとってはチャンスだと見ています。
AIで出遅れたAppleと、Microsoftを変えたサティア・ナデラ
宮武さんが今をチャンスと見るもう一つの理由は、Appleが以前ほど先を行っていないことです。iPhoneの強みはハードとソフトの連携ですが、AI領域では明らかに出遅れており、そこにDeepMindを持つGoogleが入り込める余地があるといいます。
その戦略をうまく表現したのは、GoogleでもAppleでもなくMicrosoft ── Windowsなどで知られるアメリカのIT企業。2014年にサティア・ナデラがCEOに就任して以降、クラウド事業を軸に大きく成長しましただったと宮武さんは語ります。CEOのサティア・ナデラさんは会社のビジョンを変えた人だというのです。
オープンソース嫌いでWindows中心だったMicrosoftで、ナデラさんはCEOとして初の登壇でWindowsに一切触れず、Microsoft OfficeのiOS対応を発表しました。クラウドもWindows AzureからMicrosoft Azureに名前を変えています。
オープンソースが嫌いで、Windowsに強くフォーカスした会社。クラウドの名称はWindows Azure
オープンソースを支持し、初登壇でOfficeのiOS対応を発表。クラウドをMicrosoft Azureに改称してWindows離れを進めた
宮武さんは、ナデラさんがWindows離れを進めつつ、他社アプリを含めてすべてを一つのOSにどう落とし込むかという、より連携の取れた仕組みを目指したと見ています。
Recallが示すAPIなしの相互運用性
その答えの一つが、Microsoftが最近発表したCopilot+ PCです。AIが最初からネイティブに組み込まれたPCで、メディアで話題になったのがRecall ── Copilot+ PCに搭載が発表された機能。画面の状態を定期的に記録し、AIで後から過去の作業や表示内容を検索して呼び出せるようにするものですという機能でした。
RecallはAIが画面上のあらゆる行動を把握し、完璧な記憶を持つ機能で、宮武さんが以前紹介したRewindというアプリに似ています。宮武さんは、この機能の本当の意味は長期的なところにあると語ります。
今のAIは「このファイルを削除して」のような単発のタスクはできても、複数のアプリをまたぐ指示は苦手です。コンピューターが人間のようにパソコンの使い方を理解していないからで、RecallによってMicrosoftはGUIレベルでユーザーの行動データを得られるようになるといいます。
同じ発想は、オレンジ色のデバイスで知られるRabbitのLarge Action Modelにも見られます。「食べ物が欲しい」と言われたらUber Eatsに行く、と理解するために、AIはボタンの意味やレイアウトを把握する必要があるのです。
本当の相互運用性っていうものって、そのAPIなしの世界だと思うんですよ。
宮武さんの結論は、だからこそハードウェアを持たなければならないということです。たくさん使われるデバイスでなければトレーニングデータが足りず、すでに10億台以上を抱えるAppleは最初からAIを深く入れるリスクを取りにくい一方、シェアが少ないGoogleだからこそリスクを取れるといいます。
宮武さんはさらに、MicrosoftのAIはCopilot PCからCopilotタブレットへ広がり、最終的にはどのデバイスにもついてくる「ただのCopilot」になると予想します。怖がる草野さんに、宮武さんは「Jarvisがいつもいる感覚」と言い換えます。
Google I/Oの3つの発表が指す方向
宮武さんは、Googleもすでにこの考えを持っていると見ており、直近のGoogle I/Oで面白い発表が3つあったといいます。
| 発表 | 内容 | 意味合い |
|---|---|---|
| Gemini Nano for Chrome | デスクトップのChromeにGeminiを組み込み、閲覧中のサイトを要約できる | 複数のウェブアプリを通したデータ分析につながる |
| Gemini for Android | AndroidのOSにAIを組み込み、画面上のコンテンツを要約できる | スマホ上のアプリや画面を横断して見られる |
| AIチームメイト | AIが同僚のように自分やチームの仕事を手伝う | 複数の従業員とやり取りできる |
宮武さんは、個々の機能にはそれほど驚きがなく、多くが未リリースで反応しづらいとも話します。重要なのは、どれも一つのアプリ内ではなく、複数のアプリや複数の人をまたぐシステムを作ろうとしている点だといいます。
スンダー・ピチャイCEOが示したGeminiのデモはその象徴です。ユーザーが靴の写真を撮って返品を頼むと、GeminiがGmailでレシートを探し、Chromeでブランドの返品フォームに記入し、Googleカレンダーにリマインドを入れてくれます。
このデモはGoogleのアプリ内で完結していますが、Googleがハードウェアまで握れば、Google以外のアプリでも完結できるAIアシスタントが可能になると宮武さんは考えています。
コンピューターが人間を理解する時代へ
草野さんは、プラットフォームがさらに強くなるのは独占ではないのかと疑問を投げます。宮武さんは、指摘はされるだろうが、利便性が上回るかもしれないと答えます。
宮武さんが面白いと感じているのは、歴史上ずっと、コンピューターは人間を理解できなかったという点です。人間は「このアプリを開けて」「このURLに行きたい」と直接指示し、ソフトウェアはそれをアグリゲーションとキュレーションで助けてきました。
ただし、人間がコントロールを持つべきだと考えるAppleのUI設計は、この方向とは若干相反します。だからこそ、その考えをベースにAIネイティブなスマホのような新しいハードウェアを作れるのはGoogleかもしれない、と宮武さんは語ります。
データ量でGoogleに対抗できる会社はほぼありません。YouTube、メール、仕事、エンタメ、そして検索まで揃い、弱いのはGmail以外のコミュニケーションやソーシャルくらいです。さらにスマホならローカル処理でプライバシーに配慮したAIも作れるといいます。
本当のムーンショットはAIアシスタント
宮武さんは、将来のデバイスには大型・小型・業界特化型など複数のAIモデルが入り、クラウドとローカルの両方で動くと見ています。そこで必要になるAIは2つあるといいます。
ブレインモデルについて、宮武さんは人間の仕事の進め方にたとえます。草野さんがタスクを頼まれたら、パソコンで調べるか、人に聞くか、計算機を使うかを判断するように、AIにもどこへ振り分けるかを決めるルーターが必要だというのです。
宮武さんにとって、デバイスはデータ収集のための手段です。本気なら無料で出すべきだが、さすがにそのコストは払えないだろうとも話します。AIアシスタントを極め、どのデバイスでも必要とされれば新しいビジネスモデルが生まれ、検索に頼らなくて済むかもしれません。
AIチップ、AIモデル、デバイス、検索事業をすべて持つGoogleなら可能であり、これは「世界中の情報を整理する」というGoogle本来のミッションにもつながると宮武さんは語ります。実現には少なくとも5年はかかるが、5年以内にやらないとAppleが追いつくだろうと見ています。
組織改編に見えるGoogleの本気度
宮武さんは、Googleはすでにこの方向に向かっていると考えています。根拠は、4月にスンダー・ピチャイさんが出した、AIの未来に向けた開発をテーマにしたブログでの組織改編の発表です。
宮武さんが特に注目したのは、AndroidとChromeを含むコンシューマープラットフォーム部門が、ハードウェア部門と統合されたことです。新組織のトップは、8年間Googleのハードウェア部門を率いてきたPixelの責任者、リック・オステルローさんでした。
この統合でリックさんは2万5000人のトップになり、その規模はGoogle検索と検索広告のグループに匹敵するといいます。ブログでは、ハードウェア、ソフトウェア、AIの交差点でコンピューティングを発展させる必要があるとも述べられていました。
草野さんは「名推理」と盛り上がりますが、宮武さんは、Googleのほうが先に考えているはずで、自分の見方は推測にすぎず外れているかもしれないと慎重な姿勢を崩しません。
逆方向から近づくAppleとGoogleという永遠のライバル
宮武さんは、AppleとGoogleは真逆の戦略から出発し、進化した結果、また真逆の方向に進んでいると語ります。Appleはハードウェアから始まり、iPhoneの売上の伸びが鈍る中でヘルスケアなどのサービスを推しています。Googleは検索から始まり、最終的にはハードウェアに軸足を移すかもしれません。
ハードウェアとOSから始まり、バーティカルを取りすぎたため、サービスなど横軸へ広げようとしている
検索などのサービスから始まり、シェア拡大の限界や規制当局の敵対視を受けて、ハードウェアなどバーティカルへ向かう
宮武さんは、両社とも自分の領域で限界を感じ始めたのだろうと見ています。Googleが世界中で使われるサービスという横軸を保ったままバーティカルにも進めれば、めちゃくちゃ強いといいます。
無料の検索がお客さんとの接点となり、これまでマネタイズの源だったサービスレイヤーが、ハードウェアにつなぐディスカバリーの源へ変わる可能性があります。宮武さんは、アラン・ケイの「ソフトウェアに本気のプレイヤーはハードウェアを作るべき」という言葉も引き、Googleは自社ハードウェアにもっとフォーカスすべきだと語ります。
AIの未来はスーパーアプリ化
最後に宮武さんは、本当のAIアシスタントの意味を考えます。中国ではWeChat ── 中国のテンセントが提供するメッセージアプリ。決済や公共サービスなど多様な機能がアプリ内で使え、スーパーアプリの代表例とされますによってスーパーアプリ化が実現しましたが、日本やアメリカなど中国以外では、LINEやUber、Metaが挑んでもまだ実現していません。
宮武さんは、アプリが別々にあるほうが使う場面がわかりやすく、ブランディングもしやすいことが理由の一つだと見ています。そのうえで、AIアシスタントがあれば、分散型のスーパーアプリが作れるかもしれないと語ります。
いわゆる今まで通りアプリをいっぱいダウンロードするかもしれないんですけど、結局AIアシスタントが全部裏方でやるので。
AIがAPIのようにアプリ同士をつなぎ、実体としては一つのアプリでなくても、そう見える世界になるというのが宮武さんの見立てです。草野さんは「何でも頼めるみたいな」とまとめます。
結局本当に相互運用性のあるソフトウェア、ハードウェアっていうのが最終目的地なのかなっていうところで。
宮武さんは、Googleがどこまでそのビジョンを持っているかはわからないとしつつ、そうした方向に進んでほしいと語ります。草野さんも「ここ数年チェックですね」と締めくくりました。
まとめ
今回のOff Topicでは、Appleというアグリゲーターに依存するGoogleが、オープンな「無料以下」戦略から転じ、ハードウェアとAIを連携させたクローズドなエコシステムで対抗する可能性が語られました。宮武さんはその先にある本当のムーンショットを、検索依存から脱却するAIアシスタントだと推測しています。
- GoogleはAppleデバイス経由で約550億ドルの広告売上を得ていると試算され、Appleへの依存が最大のリスクになっている
- インターネットとApp Storeはあらゆるものを平らにし、Google Mapsの置き換えのようにアグリゲーターが他社サービスを代替できる
- 宮武さんは、Googleがオープン戦略を改め、Appleのようにハードウェアと連携したエコシステムを築くべきだと考えている
- MicrosoftのRecallやGoogle I/Oの発表は、複数アプリをまたぎ、APIなしで動くAIアシスタントの方向を示している
- プラットフォームとハードウェア部門の統合から、宮武さんはGoogleがすでにこの方向に動き始めていると推測している


