シリーズ第3弾は、なぜアクセルとセコイアなのか?
この回は、VCをテーマにしたシリーズの3回目です。パート1ではシリコンバレーの成功とVCの役割を、パート2ではアンドリーセン・ホロウィッツをもとにVCの立ち上げ方を扱ってきました。
今回のパートで宮武さんが扱うのは、VCを立ち上げた後、実際に投資するうえでどんな考え方が必要なのかという問いです。題材は、名門VCのアクセルとセコイアです。
セコイアは1972年に、アクセルは1982〜83年ごろに立ち上がりました。セコイアは約50年、アクセルは約40年にわたってトップティアのVCであり続けています。
宮武さんは、いまのVCは資本がコモディティ化しているなかで、どう優位性を作るかが問われていると話します。さらに、10年のファンドを成功させるだけでなく、VCのブランドを30年、40年、100年と保つことが重要になるといいます。
逆にアンドリーセン・ホロウィッツって、そのダウントレンドってほぼ経験してなくて、VCとして。
アンドリーセン・ホロウィッツは2009年、リーマンショックのタイミングで立ち上がり、そこからテック業界は上り調子でした。何度もビジネスサイクルを経験してきたアクセルとセコイアを見る意味は、この点にあると宮武さんは考えています。
アクセルの原点にある「Prepared Mind」とは?
アクセルはFacebook、Etsy、Supercell、Slackなどに投資してきたシリコンバレーの名門VCです。創業者はアーサー・パターソンさんとジム・シュワルツさんで、2人とも以前はCityCorpでVC業務をしていました。
宮武さんによると、アクセルは初のスペシャリストVC、つまり業界特化型のVCで、最初はテレコムとソフトウェアを中心にしていました。社名は辞書の最初の「A」で始まる言葉がほしかったことと、音楽用語のアッチェレランドに由来するそうです。
アクセルのメンタルモデルとして業界で知られているのが、英語で「Prepared Mind」、日本語で「準備された心」と訳せる考え方です。これはルイ・パスツール ── 19世紀フランスの化学者・微生物学者。狂犬病ワクチンの開発や低温殺菌法で知られますの名言「Chance only favors the prepared mind」に由来します。
VCって結構運とかそういうのって重要だったりするんですけど、でもそれを常に探しに行かないといけない。
宮武さんの説明では、運に恵まれたときにそれをチャンスだと理解できるよう、仮説を持ち、業界を徹底的に調べ、「この領域に絶対張る」と決めておくのがPrepared Mindです。
アクセルは毎年トピックを選び、チームで研究し、エキスパートネットワークを作っています。最近ではNFT、自動化、セキュリティ、開発者向けツールなどが対象です。
研究対象はカテゴリーだけではありません。次世代スタートアップの成功の設計図、よいチームの条件、ファウンダーの経歴の共通点、SaaSならエンタープライズかセルフサービスかといった市場展開の戦略、ベストな地域まで調べているといいます。
テーマを絞る投資アプローチは、いまではユニオン・スクエア・ベンチャーズやベータワークスも取り入れています。宮武さんは、これがアクセルのVC業界への影響の一つだと見ています。
Facebook投資の前に、アクセルは何を振り返ったのか?
宮武さんがPrepared Mindの一番よい事例として挙げるのが、アクセルのFacebook投資です。当時のFacebookはVC嫌いで、それにはショーン・パーカーさんとピーター・ティールさんの影響がありました。
2人はマーク・ザッカーバーグさんに「VCから出資を受けるな」と助言していたといいます。ザッカーバーグさんがセコイアにパジャマ姿で行き、「うちに投資するな」というプレゼンをしたという有名な話もあるそうです。
同じころ、アクセルは10月に社内合宿を開いていました。その年の投資はまだ4件ほどで、なぜ少ないのかを分析していたのです。
合宿では、他のトップティアVCが投資したテック企業62社を並べたスライドが出されました。各社の横には「認知していたが投資できなかった」「認知していたが検討もしなかった」といった区分が書かれていました。
宮武さんは、他のトップティアVCと同じものを見ていたかを確かめることが、VCにとってまず重要なポイントだと話します。そのうえでアクセルは、次はインターネット2.0が来ると考え、SNSやコミュニケーション系のサービスを探しに行くことにしました。
なぜ若手にソーシングを任せたのか?
アクセル特有のポイントとして宮武さんが挙げるのは、パートナーではなく若手に投資先を探しに行かせたことです。その背景には、アクセルがSkypeとFlickrへの投資を見送っていた経験がありました。
(SkypeとFlickrは)これも結局多分パートナーが見てたから見送ってて。
宮武さんによると、若手はテクノロジーをより深く理解できるうえに、よりリスクを取ってくれます。経験のある人ほど慎重になり、リスクを取らない傾向があるといいます。
さらにアクセルは、C向けインターネット企業は変わった人が作るものだと見ていました。YahooやeBayもそうだと宮武さんは話します。
何回もそのサービスにユーザーが戻ってくるとか、そういうのがあれば最悪ファウンダー大丈夫ですと。
そのためアクセルは、C向けインターネット企業を見るときに、ファウンダーの重要性をあえて下げ、ユーザーが戻ってくるかといったデータを重視しました。
ファウンダーの重要性。面白いサービスは変わった人が作るため
プロダクトとデータ。ユーザーが何度も戻ってくるか
VC嫌いのFacebookに、アクセルはどう食い下がったのか?
アクセルの若手メンバーは、スタンフォードでMBAを取っていた知人からFacebookの存在を聞きます。当時のFacebookは大学限定で、ちょうどスタンフォードに入ったところでした。
調べて面白いと感じた若手メンバーは、ショーン・パーカーさんとのアポを取ろうとします。しかしVC嫌いのパーカーさんには、一度取れたアポもドタキャンされてしまいました。
次に、Facebookで働き始めた知人のマット・コーラーさんに紹介を頼みますが、「彼は興味がない」と断られます。さらにアクセルのパートナーが知っていた株主のリード・ホフマンさん経由でも頼みましたが、これもだめでした。
ホフマンさんの説明によると、パーカーさんとザッカーバーグさんは「VCはFacebookを絶対に理解できず、フェアな値段を払えない」と考えていました。加えて、事業会社からもっとよいバリュエーションのオファーが来ていたといいます。
アポが取れないアクセルは、ついにアポなしでFacebookのオフィスを訪ねます。そこにいたザッカーバーグさんとパーカーさんに、パートナーシップミーティングに1度だけ来てくれれば、その日中にタームシートを出すと伝えました。
翌日2人は来ましたが、ザッカーバーグさんは一切話さず、パーカーさんとコーラーさんがほぼ話していたそうです。それでもアクセルは、Prepared Mindの調査にもとづき、ファウンダーはいったん置いてプロダクトがよいから出すべきだと判断しました。
ドタキャンもされるけど。
ドタキャンされるけど、まず出そうと。で、えっと、60億のタームシート出したんですよね。
ザッカーバーグの涙と、ワシントンポストとの口約束
アクセルの60億円のタームシートは、Facebook側に見送られました。そこでアクセルは、どの事業会社がオファーしているのかを調べ、おそらくワシントンポストだと突き止めます。
アクセルはさらに高い条件として、プレマネー70億円に10億円を入れ、ポストマネー80億円のバリュエーションを提示しました。ここで初めてパーカーさんも「こいつら結構本気なんだ」と前向きになったといいます。
ただ、ザッカーバーグさんはすでにワシントンポストと口頭で合意していました。その夜の会食で、ザッカーバーグさんは途中から話さなくなり、トイレから出てこなくなります。
マットコーラーさんが、マークさんチェックしに行ったら泣いてて。
ザッカーバーグさんは、当時ワシントンポストのCEOだったドン・グラハムさんとの口約束を裏切りたくない一方、アクセルの提案も魅力的で、どうすべきか迷っていました。翌日に電話すると、グラハムさんは「バリュエーションが高いほうに行ってもいいのでは」と答え、Facebookはアクセルを選びました。
本当になんか経営者CEOが一つの意思決定にどれだけ苦しむかっていうのが象徴したエピソードですね。
宮武さんは、ザッカーバーグさんはそこから相当進化したと話します。出資は受けなかったものの、ザッカーバーグさんはドン・グラハムさんを3日間シャドーイングして経営を学び、グラハムさんはシェリル・サンドバーグさんをCOOに採用するよう助言したそうです。
創業者が去っても、哲学はどう受け継がれるのか?
宮武さんが驚くのは、いまのアクセルのメンバーと話すと、全員がPrepared Mindのアプローチについて話すことです。アクセルは22年前にロンドン、14年前にインドにオフィスを作っていますが、どちらのメンバーも同じ話をするといいます。
VCというか、会社のカルチャーがめちゃくちゃ浸透してるのはすごいですね。
アクセルの創業者2人はすでに抜けていて、基本的には経営に関わっていません。それでもメンタルモデルが保たれていることが、長く続く理由の一つだと宮武さんは考えています。
VCは一般に、パートナーについて学ぶ徒弟制度 ── 師匠のもとで弟子が実地で学びながら技能を身につける育成の仕組み。職人の世界などで伝統的に見られますのようなモデルが多く、アクセルはその象徴です。約28人のパートナーのうち6割ほどが社内育成で、ロンドンオフィスでは6人中5人がアソシエイト出身です。
VCで働いた経験のある草野さんは、新卒でVCに入ると、何が重要で何を聞くべきか「わからないことがわからない」状態になると振り返ります。宮武さんは、外部からスタープレーヤーを呼ぶより、1つのモデルで育てることがアクセルの成功モデルであり、カルチャー維持にもつながっていると話します。
クライナー・パーキンスとセコイアの明暗を分けたもの
セコイアは1980年代から本当のトップティアであり続けてきました。1980〜90年代はセコイアとクライナー・パーキンス ── 1972年創業のシリコンバレーの老舗VC。Google、Amazonなどへの初期投資で知られますが2強で、2000年代初めはジョン・ドーアさんがGoogleに投資していたクライナーのほうが強く見えたといいます。
しかしクライナーは、2005〜06年ごろから2010年にかけて一度落ち込みます。宮武さんは、クリーンテックに寄せすぎたことと、ビノッド・コースラさんが独立してコースラ・ベンチャーズを始め、ドーアさん単独の体制になったことを理由に挙げます。
一方のセコイアは、創業者のドン・バレンタインさんが引退する際、マイケル・モリッツさんとダグ・レオンさんの2人に託しました。2人はセコイアの判断をすべて2人で決めていたそうです。
人材の入れ方も対照的でした。当時のクライナーがセレブ系の人や業界のエキスパートを呼んだのに対し、セコイアは新人を入れていきました。
ジョン・ドーアさん単独体制。セレブや業界エキスパートを招き、クリーンテックに傾斜
モリッツさんとレオンさんの2人体制。新人を採用して社内で育てる
無名の28歳を育てる「homegrown」の思想
新人を育てる方針は、セコイアのメンタルモデルとして「nurturing the unknown, the homegrown, and what becomes the next generation」と表現されています。知られていない人、地元ネイティブの人、次世代の人を育てるという意味です。
代表例が、次のセコイアのトップになるとみられるロエロフ・ボタさんです。ボタさんはPayPalのCFOで、PayPalを上場させたときは28歳でした。
「28歳で何がわかるんだ」みたいな。「CFOなんかできないでしょ」みたいな。
ウォール街からは批判されましたが、eBayがPayPalを買収した際には、メグ・ホイットマンさんがボタさんに残留を頼んだほど優秀だったといいます。セコイアは、VC経験はなくてもインターネットネイティブで若いボタさんを誘いました。
ボタさんはシャドーイングから始め、ボードミーティングに出たり、ドン・バレンタインさんから「優秀なファウンダーほど一番難しい人たちだからね」と助言を受けたりしました。
ボタさんの初期投資である送金系の会社では、あるパートナーが2人体制での担当を提案します。最初はパートナーが社外取締役に座り、ボタさんはオブザーバーとして入ります。
会社が成功した場合は2人の役割を入れ替え、失敗した場合は何も変えないという取り決めでした。成功して上場などで注目されたとき、社外取締役としてボタさんの名前が出るようにするためです。
やっぱりその若手をどれだけ持ち上げるか。
クライナーなど多くのVCでは、パートナーがよい社外取締役の席を取るのが普通でした。セコイアは初期から、若手をどう育成するかを考えていたVCだと宮武さんは話します。
セコイアのプレスリリースに名前が並ぶ理由
セコイアは投資先がイグジットしたときのプレスの出し方も独特です。多くのVCでは担当者の名前が出ますが、セコイアは担当者以外の名前も数多く挙げ、チームで成功させたことを強調します。
WhatsAppの例では、担当者のジム・ゲッツさんに加え、10人以上の名前が挙がっていたそうです。エンジニアリングチームを4〜5倍にした人材担当、流通やグローバル戦略を助言したボタさんやモリッツさん、各国の状況を伝えたインド・シンガポール・中国のチーム、創業者のPRトレーニングを担ったコミュニケーション責任者などです。
さらに、買収契約をまとめる夜中にWhatsApp創業者の車が壊れた際、新しい車を用意したオフィスのアシスタントの名前まで載っていたといいます。
なんかその名前載ったらちゃんと貢献しようって、まあ元々あると思うんですけど、さらにしようって思いますよね。
「執事」ではなく「補佐」が下に任せる体制
セコイアでは2009年から、モリッツさんとレオンさんの役職が「スチュワード」になりました。2人はトップではあるものの、実際のアメリカでの投資はジム・ゲッツさんとボタさんが仕切ることになります。
宮武さんは最初「執事」と訳しましたが、草野さんとのやり取りで「補佐」のほうが近いという話になりました。全体は見つつ口出しせず、下に任せるのがセコイアのカルチャーだといいます。
いまのセコイアは、ゲッツさんとボタさんの考えに強く影響されています。ゲッツさんはアクセル出身で、Prepared Mindのアプローチをセコイアに持ち込みました。
セコイアはトップ25ほどのVCが投資した案件の3分の2ほどを見ていますが、そのぶんパートナーはミーティングに追われ、次のトレンドが見えにくくなります。そこでゲッツさんは、次のテックトレンドを議論する場や社内リサーチを設けました。
セコイアはスマホのインターネットのカオスマップを自作したほか、開発者の重要性についても研究しました。当時コードを書ける人は約2500万人、人口の約0.3%しかおらず、その層を増やす、または支援するサービスが重要になると考えたのです。
宮武さんによると、この研究はマーク・アンドリーセンさんの「Software is eating the world」というブログより前に行われていました。その結果、セコイアはUnity、MongoDB、GitHubに投資できたといいます。
ボタさんは投資判断の「人間らしさ」をどう正したのか?
ボタさんがVCに取り入れたのは行動科学です。VCでよく語られる「何が成功するかを感じ取る」パターン認識は本当に正しいのか、人間だからこそ不完全な判断をしてしまうのではないか、という疑いがありました。
特に気にしていたのが、いつ売却するかの判断です。YouTubeに投資していたボタさんは、YouTubeをGoogleに早く売りすぎたと考えていました。
その損を回避するためには、人って意外とギャンブルするんですよね。
でもアップサイドを狙うためにはリスクを回避するんですよね。
ボタさんはこの傾向をVCとして良くないと考え、パートナー全員を集めて、全案件についてなぜ投資したのか、その判断に合理性があったのかを聞き取りました。
もう一つの課題は投資委員会です。投票制のため、事前に相談して票を集める行動が起き、セコイアでも同じことがあったといいます。
例えば9人いるんだったら5人必要なんで、自分がそのうち1人であれば、あと4人みたいな。
セコイアは投資委員会の投票結果を、誰が賛成し誰が反対したかまで含めてすべて記録していました。
投資メモの冒頭に「理想の未来」を書かせる仕組み
投資委員会の判断のもとになる投資メモについても、ボタさんは手を入れました。失敗したときに後から読まれると恥ずかしいため、セコイアでもメモをコンサバティブに書き、リスクばかり並べる傾向があったといいます。
そこでボタさんは、メモの冒頭に必ず、仮説がすべてうまくいった場合にその会社がどれほどすごい会社になるかを書くセクションを設けました。数値よりも、世界を変える、Googleを置き換えるといった未来像を書かせるものです。
VCの事業って恥ずかしい思いしなければいけない事業なんで。
宮武さんによると、ボタさんは失敗を乗り越えられる文化を投資メモに埋め込みたかったのです。投票についても、メモを読んだあとは誰にも話さず、自分の意見で投票するよう求める文化を作りました。
投資メモはリスクを並べてコンサバに書き、投票前に根回しして票を集める
冒頭に理想の未来像を書き、メモを読んだら事前に相談せず自分の意見で投票する
育成文化も続いています。レオンさんはアソシエイトとの1対1で、パートナーミーティングの言葉の裏にある意味を考えさせ、モリッツさんはアソシエイトの過去1年のカレンダーを一緒に見てタイムマネジメントを指導したそうです。
いやー、YouTubeで動画で上げてほしいですね。
スカウトプログラムはジェイソン・カラカニスから始まった
宮武さんは、セコイアのすごさは育成だけでなくイノベーションにもあると話します。いまでは米国のVCで広く行われているスカウトプログラムは、セコイアが2010年に始めたものです。
仕組みは、投資先のCEOや起業家に1000万円を渡し、その資金で彼らがエンジェル投資をするというものです。セコイアは利益の一部だけを取ります。
初期のスカウトには、ジェイソン・カラカニスさん、Airbnbのブライアン・チェスキーさん、Dropboxの創業メンバー、サム・アルトマンさんらがいました。そこからフルタイムのVCになった人として、アンドリーセンのデイビッド・ウレヴィッチさん、セコイアのジェス・リーさん、Zappos元CEOのアルフレッド・リンさんなどが挙げられています。
きっかけはカラカニスさんです。2007年ごろ、カラカニスさんはZyngaと、友人エヴァン・ウィリアムズさんのプロジェクトをセコイアに紹介しましたが、セコイアはどちらも見送りました。
うちらがジェイソンさんにお金あげたら、そういうところに投資してくれてた?
ボタさんのこの問いかけから、スカウトプログラムが始まりました。宮武さんは、アンロックされた人材をさらにVC化させ、女性や白人以外のVCが増えるなど、業界にダイバーシティをもたらした点でも意義があったと見ています。
アーリーバードとYCがもたらした案件
ジム・ゲッツさんは、社内システム「アーリーバード」を作りました。60カ国で一般消費者のアプリダウンロードをトラッキングするシステムです。
アメリカだけを見るとWhatsAppのランキングは高くありませんでしたが、アーリーバードでは60カ国中35カ国でWhatsAppが1位か2位でした。この情報があったからこそ、セコイアはWhatsAppに投資できたといいます。
もう一つ重要だったのが、Yコンビネーター ── 2005年にポール・グラハムさんらが創業したシリコンバレーのアクセラレーター。DropboxやAirbnbなどを輩出しました(YC)との関係です。2009年、YCを訪ねたセコイアのパートナーにポール・グラハムさんが紹介したのがAirbnbでした。
ペルシア絨毯店にいたスカウトと移民ネットワーク
Dropboxのドリュー・ヒューストンさんがYCのデモデーでピッチした際、イラン出身の移民であるペジマン・ノザッドさんと出会いました。Dropboxの共同創業者アラシュさんもイラン出身で、ノザッドさんは資金調達を手伝うと申し出ます。
ところが、Dropboxの創業者が訪ねると、そこはペルシア絨毯を売る普通のお店でした。実はノザッドさんは、公式な制度ができる前からセコイアのスカウトだったのです。
セコイアって一個重要なポイントって、ほぼ全メンバーが移民なんですよ。
セコイアは移民の力を信じ、各移民ネットワークと関係を築いてきました。イランのネットワークにはノザッドさんのほか、eBayの創業者やUber現CEOのダラ・コスロシャヒさんもいると宮武さんは話します。
Stripe投資にすべてがつながった
スカウト、YC、チームでの出資がすべて組み合わさったのがStripeでした。アイルランド出身のコリソン兄弟は、パロアルトに着いてまずポール・グラハムさんに電話し、グラハムさんはYCコミュニティの一人として、当時セコイアのスカウトだったサム・アルトマンさんを紹介します。
当時のパトリック・コリソンさんのアイデアはネオバンクで、アルトマンさんには遠すぎる未来に見えました。それでもパトリックさんの人物に惹かれ、グラハムさんとアルトマンさんは15万ドル、約150万〜200万円で2%の株を得ます。アルトマンさんの出資はセコイアのスカウトファンドからでした。
その価値は、いまでは25億円以上になっていると宮武さんは見ています。翌年の夏にはグラハムさんがモリッツさんに、アルトマンさんがボタさんにStripeを推し、モリッツさんが兄弟のアパートまで出向いて投資を決めました。
YCとのつながり
コリソン兄弟がポール・グラハムさんに連絡
スカウト
グラハムさんがセコイアのスカウトだったサム・アルトマンさんを紹介し、スカウトファンドから出資
複数ルートの推薦
グラハムさんがモリッツさんに、アルトマンさんがボタさんに推薦
トップ自ら出資
モリッツさんが兄弟のアパートまで出向いて投資
草野さんは、アメリカのVCではインナーのコミュニティに入ることが重要だと話します。宮武さんは、セコイアはただのインサイダーではなく、インサイダーのコミュニティを自ら作ろうとしている点がすごく、それはVCにとって命であるソーシングの強さになっていると応じました。
Yahoo!投資で起きたセコイアのしくじり
セコイアは近年、グロースファンドやレイターステージにも力を入れています。その進化のきっかけは、過去の案件でのしくじり、つまりYahoo!への投資でした。
Yahoo!を最初に嗅ぎつけたのはアクセルで、1995年に投資先の役員会でその名前が挙がりました。しかし社内で話すと、名前がふざけていると笑われてしまったそうです。
ビル・ドレイパーさんもYahoo!に会い、Netscapeが提供していない検索やディレクトリを提供している点を評価して、息子のティム・ドレイパーさんに投資を勧めました。多くのVCが会いに行くなかに、モリッツさんもいました。
モリッツさんはVCになる前、タイム誌でシリコンバレーを取材していました。メディア事業には情報を無料で提供して広告で稼ぐ考え方があり、当時のソフトウェア企業にはない発想でした。
そのためモリッツさんは、ジェリー・ヤンさんから無償で提供すると聞いてもむしろ歓迎し、社名を変えるべきかと聞かれると「名前を変えたらセコイアは投資しない」と答えました。1995年4月、セコイアは1億円弱を投じて32%を取得します。
孫正義さんの「お前ら潰すぞ」が残した教訓
特許もないYahoo!の優位性はブランドだけで、成長し続けバズを生み続けるために資金が必要でした。1995年11月、ソフトバンクの孫正義さんが投資したいとYahoo!を訪れます。
時価総額を聞かれたYahoo!側が「とりあえず40億円」と答えると、孫さんは即答でOKし、Yahoo!は約5億円を調達しました。半年ほど前のセコイア投資時は、時価総額約3億円の計算です。
1996年3月、孫さんは再びYahoo!を訪れます。調達資金を使い切りつつあり、ExciteとLycosという競合が出てきたなか、Yahoo!はゴールドマン・サックスにIPOを相談していました。孫さんは当時のVC業界にない100億円の出資と、30%の株式を求めました。
ゴールドマンはIPO時にもっと高い値がつくと言っていましたが、保証はありません。孫さんは競合の名前を聞き、部下に2社の名前を書かせたうえで、モリッツさんとYahoo!創業者に迫りました。
「ヤフーに投資しなければ、この2社に投資してお前ら潰すぞ」と。
当時のシリコンバレーでは誰もしなかった脅しでしたが、モリッツさんにとっては重要な学びになりました。
モリッツさんは二度とその立場に立たないと決め、それをセコイアのティッピングポイントだと語っています。ちょうどバレンタインさんの引退時期で、モリッツさんがセコイアを仕切ることになりました。
Appleを早く売った世代と、待てたモリッツの違い
宮武さんは、ドン・バレンタインさんが不況の中で育ち、すべてを失うことを恐れる世代だったと説明します。そのためセコイアは、投資していたAppleの株をIPO前に売っていました。
一方のモリッツさんは、Yahoo!が上場した後もLPに株の分配を待ってもらい、株価が大きく上がってから分配しました。宮武さんは、VCは進化しなければならないものだと示すエピソードだと話します。
お金を持てば勝者を決められると理解したセコイアは、グロースファンドを試し始めます。投資先のGlossierとシャーロット・ティルバリーが使うツールを調べ、まだ投資していなかったShopifyに投資したところ、2020年時点で約35倍のリターンになりました。
2018年ごろには、コミュニケーションソフトウェアのクラウド化が遅れていることに注目し、RingCentralやZoomにも投資しています。
ソフトバンクがビジョンファンドを作った際には、引退していたモリッツさんがわざわざ戻って戦略を助言し、セコイアはすぐに80億ドルほどのファンドを作りました。宮武さんは、そこに孫さんへの警戒があったと見ています。
2人体制から3人の補佐へ、リーダー交代の作法
今年で50年目のセコイアは、リーダーシップの交代をすでに何度も経てきました。最初はバレンタインさんからモリッツさんとレオンさんへの交代です。
2012年、モリッツさんが健康上の理由で補佐を続けられないと伝えると、レオンさんは代わりの1人を立てるのではなく、香港に飛んでセコイア・チャイナのニール・シェンさんに、帰国後にジム・ゲッツさんに補佐を頼み、2人体制を3人体制に変えました。
さらにレオンさんは、自分の給料を3分の1下げ、それを他のメンバーに渡しました。
2017年には、ゲッツさんが「ボタさんができるから」という理由で補佐を降ります。ボタさんが補佐になり、ボタさんの持ち場はアルフレッド・リンさんが引き継ぎました。
(ジム・ゲッツさんが)降りる理由がすごくて、「ボタさんができるから」っていう理由で。
今後はレオンさんが退くとみられ、ボタさんとシェンさんがトップに、3人目はリンさんになると言われています。草野さんは本当に移民のチームだと感嘆し、元の経歴の優秀さも大きいと話しました。
宮武さんは、ジョン・ドーアさん一人の力に寄せたクライナーや、まだ一度も交代を経ていないアンドリーセンと比べ、最もうまくトランジションをやっているのがセコイアだと話します。
マイケル・モリッツが「一番好きな投資先」に挙げるもの
宮武さんは最後に、アクセルとセコイアの成功には2つの要素があると整理します。一つは、焦点を定めたメンタルモデルとそれにもとづく戦略で、アクセルのPrepared Mindがその代表です。もう一つは、常に新しいことに挑戦し続ける進化です。
彼(マイケル・モリッツさん)が大体言う回答ってセコイアって言うんですね。
モリッツさんはYahoo!、Google、PayPal、Stripeを挙げることもできますが、一番好きな投資先にはセコイアそのものを挙げるそうです。行動科学、若手のメンタリング、アーリーバード、YCとの関係、スカウト網、中国とインドのファンド、グロースファンドといった社内への投資こそが成功の理由だと、宮武さんは見ています。
草野さんは、VCは属人的になりがちで、人を増やしてスケールさせるのはどこも壁だと話します。そのなかで、哲学を継承し、若い人にチャンスを与え、チームで信頼し合い、新しいことを試し続けるのは本当にすごいことだと述べました。
次回はアンドリーセン・ホロウィッツに戻ります。宮武さんによると、PEファンド、ヘッジファンド、弁護士事務所、広告代理店、経営コンサルも同じ進化をたどってきました。
中間のプレイヤーは消えていき、トップティアのファンドはスケールに向かうと宮武さんは見ています。そのスケールの仕方として、アンドリーセンが描く未来のVC像が次回のテーマになります。
まとめ
アクセルとセコイアが数十年にわたりトップティアにいる背景には、領域を調べ尽くして機会に備えるPrepared Mind、若手を育ててチームで成果を分かち合う文化、そして失敗から学んで進化し続ける姿勢がありました。
- アクセルは「Prepared Mind」で領域を研究し、若手にソーシングを任せることで、VC嫌いだったFacebookへの投資を実現した
- セコイアは無名の若手を育て、社外取締役の席やプレスでの名前の扱いまで含めて、チームで成功する文化を作ってきた
- ボタさんは行動科学を取り入れ、投資メモの冒頭に理想の未来像を書かせ、根回しのない投票を促した
- スカウトプログラム、アーリーバード、YCや移民ネットワークが、WhatsAppやStripeなどの投資につながった
- 孫正義さんとのYahoo!交渉の教訓が、グロースファンドなどセコイアの進化と、巧みなリーダー交代の土台になった



