前回の「カレントシングス」は何を残したのか?
Off Topicの今回のテーマは、ブロガーのティム・アーバンさんが考えた「シンキング・ラダー」という概念です。前回のエピソードで扱った「カレントシングス」と関連するテーマとして、宮武さんが紹介しています。
前回の「カレントシングス」は、これまでのOff Topicとは毛色の違う回でした。草野さんは、Twitterで感想が届いたことに触れつつ、初めて聞くキーワードが多く「なるほどな」と感じたと振り返ります。
確かにその両極端になってるというか、それは(世の中が)ウクライナの話だけじゃなくて、全てにおいて、いろんなことの事象もそうだなというのは思いました。
宮武さんも、カレントシングスという現象は多くの人がなんとなく理解しているものの、言葉にすると様々な場面で見えてくる点が面白いと話します。例として挙げたのが、ジョニー・デップさんとアンバー・ハードさんの裁判をめぐる盛り上がりです。
宮武さんによれば、TikTok ── ショート動画を中心としたSNS。おすすめアルゴリズムによって特定の話題が一気に拡散しやすい特徴があります自体が、カレントシングのムーブメントを作りやすいテクノロジーだといいます。
前回の要点として宮武さんが確認したのは、グループで集まると個人の合理性が失われ、それが場合によってはイノベーションに害を与えるという点です。当時「悪い」と思われたアイデアがキャンセルカルチャー ── 問題視された人物や発言を、SNSなどで集団的に批判し、仕事や発言の場から排除しようとする動きによって消えてしまうことがある、という指摘です。
もちろん悪いアイデアも多くあります。ただ宮武さんは、意外とそうしたアイデアが、場合によっては本当に良いアイデアやイノベーティブな考え方になることがあると話しています。
新しいテクノロジーはなぜ最初に叩かれるのか?
宮武さんは、歴史上の新しいテクノロジーが社会に受け入れられるまでには、社会からの扱われ方に3つのステップがあると説明します。最初は無視され、次に強く否定され、最後は悪口を言われたり変な名前で呼ばれたりするという流れです。
無視される
登場しても、最初は相手にされない
否定される
「これが悪い」というダメ出しが長いリストのように出てくる。起業家にとっては解決すべきチャンスにもなる
悪口・変な名前で呼ばれる
この段階で、元々権力を持っていた側は、自分たちのカレントシングが新しいものに置き換わりつつあると気づく
草野さんが「Web3の話とかも特にそんな感じがしますよね」と応じると、宮武さんはWeb3の根っこにある暗号化技術の歴史を例に挙げます。
宮武さんによると、インターネット上の暗号化を最初に出したのはNetscape ── 1990年代に人気を集めたWebブラウザ「Netscape Navigator」を開発した企業。初期のインターネット普及を牽引しましたで、それがSSL ── Webサイトとブラウザの間の通信を暗号化する技術。現在のhttpsの基礎となった仕組みですという技術でした。そしてSSLは、登場した当時、特にアメリカ政府から強く批判されたといいます。
当時、その暗号化がどこの場面で使われてたかというと、基本的に戦争でしか使われなかったんですよ。
一般消費者が暗号化を使う場面はほとんどなかったため、アメリカ政府からすると「暗号化したい人は犯罪者ですよね」という見方になったと宮武さんは説明します。草野さんも、Telegramにも最初は犯罪に使われるチャットツールではないかという印象があったと重ねます。
宮武さんは、Web3でも「ビットコインを使う人は犯罪者だ」と最初は言われていたと指摘します。そして、SSLを組み込んだNetscape Navigatorは、アメリカでトマホーク ── アメリカ軍が運用する巡航ミサイル。軍事兵器の代表例として名前が挙がっていますミサイルと同じカテゴリーに入れられたというエピソードを紹介しました。
面白いですね。最初本当にめちゃめちゃ完全に否定されてたのが、今の現状を見る限りだと、全然インターネット(の暗号化を)みんな使ってますしね。
宮武さんは、今では必要不可欠なものも当時のデフォルト、当時のカレントシングではなかったと話します。起業家やイノベーターは常に、当時受け入れられないアイデアをいかに広めるかに取り組んでいる、というのが宮武さんの見方です。
アメリカの分断は数字でどう見えるのか?
新しいテクノロジーに対しては、いいという人、悪いという人、その間の人に分かれます。宮武さんは、政治やWeb3の賛成派・反対派など、アメリカではいろいろな場面でこうした議論があり、その間には白黒ではないグラデーションがあると話します。
宮武さんはこれまで、このグラデーションを民主党派と共和党派を両端とする1本の軸で考えていました。ところがAll-In ── シリコンバレーの投資家らがホストを務める人気ポッドキャスト「All-In」。番組主催のイベント「All-In Summit」も開催していますサミットで、シンキング・ラダーを考えたティム・アーバンさんのプレゼンを聞き、それだけではないと気づいたといいます。
ただ、ラダーの話に入る前に、宮武さんは横軸、つまり左右の対立そのものが今のアメリカでより極端になっていると指摘します。草野さんの言葉では「分断している」状態です。その例として、宮武さんはあるツイートで見た調査結果を紹介しました。
宮武さんは、1960年には両党とも4%だった数字が明らかに上がっていて、相手を敵対視していることがわかると話します。草野さんは、支持政党の違いで親子が喧嘩し、話せなくなるドキュメンタリーやニュースを見たことがあり、それくらいの数字はありそうだと感じたといいます。
それはその分断が広がってるのか、それともその政治の考え方っていうものがよりちゃんと(国民として)考えなくちゃいけないものになったのか。
宮武さんは、50〜60年前とは情報格差もあったとしつつ、それでも今まで以上に分断していると見ています。60年前の大統領について、宮武さんはアイゼンハワーやニクソンの名前を挙げ、ちょうど冷戦期でアメリカが団結しようという空気があったと話しました。
まあでもそれ(冷戦)がなくなったからこそ、より分断が広まったっていうところだと思うので。
左右の横軸に「縦軸」を足すと何が見えるのか?
ティム・アーバンさんのシンキング・ラダーは、民主党派・共和党派という横軸に、もう1本の縦軸を加える考え方です。宮武さんは、2つのグループに分けていたものが、縦軸を入れると4つのグループになると説明します。
縦軸が表すのは「考え方」です。ラダーは英語で「はしご」のことで、はしごは上にも下にも行けるため、縦方向にもグラデーションがあることを表しています。草野さんは「表現の仕方面白いですね」と反応し、宮武さんもティム・アーバンさんはそうした表現が上手いと話しました。
宮武さんは、All-In ── シリコンバレーの投資家らがホストを務める人気ポッドキャストのポッドキャストで語られている考え方にも触れます。民主党のカラーは青、共和党は赤なので、All-Inは「もっとセントリスト、つまり紫になるべきではないか」と主張しているといいます。
ただ宮武さんは、その「真ん中にいるべき」という発想自体を疑問視します。横軸の上で位置を決めるのではなく、縦軸を入れることで、どういう人がいるべきかがより正しくわかるのではないか、というのがシンキング・ラダーの視点です。
縦軸の上の方を、ティム・アーバンさんは「ハイランク」と呼びます。ランク(rung)について、宮武さんは良い訳がないと言い、草野さんが調べると「はしごの段」という意味で、地位や階級の段階にも使う言葉だとわかりました。
なんかすごいざっくり言うと、ハイレベル、低レベルっていうところなんです。なんかそれを言うと、なんかすごい失礼なんですけど。
2人は話し合い、番組内ではニュアンスを残すために「ハイランク」「ローランク」という言葉で統一することにしました。
ハイランクの人は仮説をどう扱うのか?
宮武さんは、左右の人々は違う意見を持って議論しますが、ハイランクとローランクでは議論のやり方そのものが違うと説明します。根本的に考え方が違うからです。
ハイランクの人は、科学者のような考え方をする人たちです。真実を求めながらも、まず真実を知らないことを認め、答えを探しに行って仮説を作ります。
宮武さんは、Off Topicもまさにこのやり方をしていると話します。様々なエビデンスを集めて仮説を立てますが、真実にはたどり着けないことも理解している、という姿勢です。
いわゆる一つの考え方で、たまたまこういう時には当てはまりますけど。場合によっては当てはまらない瞬間も将来出てくるかもしれないっていう。
宮武さんは、Off Topicで過去に話したことも振り返ると間違っていたものがあると認めます。そのうえで、番組がしているのは真実を語ることではなく「世の中はこう動いていると思う」というモデルを作って出すことだと説明します。
宮武さんが強調するのは「作っている」という言葉です。エビデンスの1つひとつをレゴブロックに見立てると、それを積み重ねて1つの形を作り、「これがいいんじゃないか」と世の中に出しているのがOff Topicだといいます。
集めたエビデンスによっては、左寄りのモデルになることも右寄りのモデルになることもあります。左寄りで作っていたものが、途中で右寄りに変わることもあるそうです。
宮武さん自身の例が、IPの作り方に関する考えの変化です。宮武さんは、スター・ウォーズのようなトップダウン型と、Web3で多く信じられているボトムアップ型の間に答えがあるのではないかと考えていました。
完全なボトムアップでも完全なトップダウンでもなく、その中間が次の段階ではないかと考えていた
ニューヨーク出張で知人に「ボトムアップの一番いい事例はロブロックス」と言われ、ボトムアップ型で成功するパターンもあると気づき、考え直す必要を感じた
宮武さんは、聞いても納得しない自分がいるときもあると率直に話します。そのうえで重要なのは仮説を作ること、そして作った仮説は試さなければならないことだと続けます。
仮説を試すことの意味を、宮武さんは極端な例えで説明しました。宮武さんが知らない人を連れてきて「この人が世界一のボクサーです」と言い、試合をしたこともないのに「なんとなくわかる」と答えたら、草野さんはどう思うか、という例です。
うーん、もう信頼がなくなりますよね。信頼が。なんかやばい人に、「あ、この人なんか、なんかハマっちゃったんだな」って。
宮武さんは、エビデンスがないことは議論ができなくなるポイントだと話します。草野さんは身近な例として、雑誌に「トマトをたくさん食べるといい」と書いてあったからと、理由もわからないまま続けるダイエットを挙げ、宮武さんも「めちゃくちゃ近い」と同意しました。
アイデアは「おもちゃ」か「赤ちゃん」か?
宮武さんによれば、仮説はローランクの人も作ります。重要なのは、その仮説やアイデアをどう見るかです。
ハイランクの人は、アイデアを「おもちゃ」として見ます。草野さんが確かめたように、まだ試作品だという軽いテンションの意味でのおもちゃです。仮説は検証が必要なので、ハイランクの人はそのおもちゃを人前に出し、蹴ったりパンチしたりして、まだ立っていられるかを確かめます。
ここでいう「蹴る」とは、ツッコミを入れたり、「こういう点は考えましたか」「こういう仮説もありますよね」と問いかけたりすることです。生き残るかどうかが問われるのは作った人の気持ちではなく、アイデアの耐久性だと宮武さんは説明します。
ハイランクの人同士はよく集まってこうした議論をします。おもちゃが壊れることもありますが、それをスポーツとして見ているので、嫌ではあっても受け入れられるといいます。
正しければより自信がつきます。人の知識は完璧ではないからこそ、セオリーを作り、それをスポーツとして扱うことがイノベーションを前に進める、と信じているのがハイランクの人たちだと宮武さんは整理しました。
一方、ローランクの人たちは、アイデアをおもちゃではなく「自分の子ども」、つまり赤ちゃんとして見ています。草野さんは「その例えうまいですね」と反応し、宮武さんは「これはティム・アーバンさんの例えなんで、僕じゃないんですけど」と付け加えました。
(アイデアを)赤ちゃんとして見てる(人にとって、それを)蹴る人ってほんとすごい悪い人じゃないですか。
この人最低の人だって思うじゃないですか。それ、それがローランクの人なんですよね。
アイデアを「おもちゃ」として扱う。人前に出して蹴ってもらい、壊れても「頭が良くなった」と受け止める。テーマによって左右を行き来する
アイデアを「赤ちゃん」として扱う。批判する人は最低の人に見える。1つの考えがわかれば他の考えもわかり、所属グループへの忠誠を示したがる
ローランクの世界はなぜ「ディズニー」なのか?
ティム・アーバンさんは、ローランクの世界を「ポリティカル・ディズニーワールド」とも呼んでいます。草野さんは「ディストピアな気が」と反応しましたが、宮武さんの説明は、ディズニーの世界には明確なヒーローと悪役がいる、という点に由来します。
昔のディズニーでは、悪役は何があっても悪で、その考えも悪とされていました。草野さんは、最近は悪役になる理由も描かれるようになってきたと指摘し、宮武さんも「ちょっとニュアンスが出始めた」と認めています。
宮武さんによれば、ローランクの人は、ある分野で1つの考えがわかると他の考えもすぐにわかります。アメリカでいえば、銃規制に賛成か反対かを聞くだけで、中絶についてどう考えているかもなんとなくわかる、という例です。
対してハイランクの人は、アイデアをおもちゃとして扱うので、テーマによっては完全に反対側の意見に賛同することもあります。左右を行き来するのです。
この場合はこっちだけど、こっちのこれの場合はこっちだと仮説してますみたいな。
ローランクの人は、左にいれば他もすべて左です。宮武さんは、カレントシングの概念と同じように、所属するグループにいかに忠実かを見せたいという心理があると話します。
草野さんは、グループ化されている分、組織としての団結力はありそうだと指摘します。宮武さんもそこが重要なポイントだと応じ、「相手が絶対悪い」となるので、上の人たちよりも団結力が強いと説明しました。
さらに宮武さんは、同じ左側でも、ハイランクの人から見るとローランクの人は考えの柔軟性がなく「微妙な存在」だと話します。草野さんが「同じ考えだったとしても」と確かめると、宮武さんは「実は対抗してるんですよ、そこって」と答えました。
ローランクが増えると何がキャンセルされるのか?
宮武さんが大きな課題として挙げるのは、今のアメリカでローランクの人たちが増えていることです。インターネットなども含め、カレントシングの勢いが加速しているためだといいます。
ローランクの人には群衆(モブ)的なメンタリティーが出るため、意見が武器化します。相手は悪役で言っていることは絶対に間違いだとなれば、敵対視し、攻撃的になってしまいます。
問題は、その攻撃が反対側のローランクだけでなく、反対側のハイランクの人にも向かうことです。宮武さんはこの先に起きることを、連鎖として説明しました。
ローランクが増える
カレントシングの加速で、敵対的な層が膨らむ
反対側のハイランクを攻撃
左側のローランクが右側のハイランクも敵とみなし、その考えをキャンセルする
多様な考えが見えなくなる
世の中に1つの考えしかないように感じられる
言うのをやめる
違う考えを持つ人も、群衆を収めるために同じことを言い始める
議論が止まる
ハイランク同士が話せなくなり、イノベーションが進まなくなる
草野さんは「アメリカでも同調圧力みたいな、そういう瞬間はあるんですね」と驚きます。宮武さんは、こうした文化は日本の方が多分あるとしつつも、アメリカにもあると答えました。
そうすると、どんどんそのハイレベルの人たちが巻き込まれて。みんな違う考えを持ってるのに同じことを言うっていう現象になってしまう。
ハイランクの人たちは、お互いに話し、アイデアを議論することで世の中を加速させようとしています。その場が失われることこそが問題であり、宮武さんは、それをどう取り戻すかが非常に重要になると話しています。
自分の「無知さ」はどう知ればいいのか?
宮武さんは、人は極端にハイランクかローランクかに分かれるのではなく、トピックごとに位置が変わり、その間にもグラデーションがあると説明します。宮武さんも草野さんも、トピックによってはローランクな考え方をしているかもしれない、というのです。
だからこそ、まず自分がそうなっていることを理解する必要があります。草野さんはここで、自分の無知さを理解することの重要性を挙げ、宮武さんも「すごい関連する話」だと応じました。
宮武さんによると、ティム・アーバンさんは知識と自信の関係をカーブとして描いています。何かを知った直後は何でもわかった気になり、調べ続けると奥の深さに気づいてどん底に落ちる、という流れです。
わかった気になる
Web3などのトピックを知った直後、何でも知っているように感じる
どん底に落ちる
調べるほど奥の深さに気づき、何も知らなかったと自覚する
再び自信をつける
研究やリサーチを重ね、わかってきたと感じ始める
また落ちる
どこかのタイミングで再び無知を自覚する。この上下を繰り返す
宮武さんは、理想は自信と無知の自覚のバランスを保つことだとしつつ、人間にはそれが難しいため、上がって下がるを繰り返すべきだと話します。
草野さんは、無知に気づくきっかけは対話だと実感を語ります。ネットサーフィンで詳しくなったつもりでも、誰かと話すと、もっと詳しい人がいることに気づく瞬間があるといいます。
なんか自分が考えてたことって、あの100パーセントのうちの1パーセントじゃんみたいな瞬間とかってあるの、やっぱり対話から生まれるものですよね。
宮武さんも、人間は大体1つの目線でしか物事を見られないため、違う目線から見ること、その目線の深さを知ることが重要だと話します。今のカレントシングの中で言いにくいことも、間違っているかもしれないとしたうえで、なぜそう話す人がいるのかを探るべきだと、自身の反省として語りました。
Coinbaseはなぜ職場の政治談議を禁じたのか?
違う考え方をあえて口にする例として、宮武さんはCoinbase ── アメリカの大手暗号資産取引所を運営する企業。CEOはブライアン・アームストロングさんのブライアン・アームストロングさんの発言を挙げます。仕事場で政治的な話は一切NGにすると発言し、強い批判を受けたというものです。
当時のテック業界では、より自由な職場関係を作りたいというのがカレントシングだったと宮武さんは説明します。それに逆行するのにも、何かしらの理由がちゃんとあった、というのが宮武さんの見方です。
草野さんが「対立してうまく仕事が回らないから言わないことにしたのか」と尋ねると、宮武さんはその通りだと答えます。仕事場では仕事をする、集中が乱れるのも人を傷つけるのも良くない、というのがCoinbaseのスタンスでした。
逆にそこに、そのビジョンに賛同しない人は、退職金渡すので出てくださいと。
宮武さんによれば、その後Shopifyなど他の会社も同じ考え方を取り入れました。ただ宮武さんは、こうした話は簡単に語れるようでいて、実際にはとても難しく、ニュアンスがあると話します。
草野さんは、自分が話したくても相手がローランクだと噛み合わないし、逆に自分がローランクの場合もあると指摘します。宮武さんは、トピックごとにまず自分の位置を認知し、そのトピックで別のハイランクの人を見つけて初めて会話が生まれるとし、それが今は難しくなっていると話しました。
VCは起業家の「アイデアの迷路」をどう見るのか?
宮武さんは、この話を起業家やテック業界の目線に寄せるために、「アイディアメイズ(アイデアの迷路)」というコンセプトを紹介します。元CoinbaseのCTOであるバラージさんが考えたもので、スタンフォード大学で書かれた論文にまとまっているといいます。
論文の主張は、価値の高い起業家を見つけるには、アイディアメイズを通り抜けている起業家を探すのがいいのではないか、というものです。自分のサービスを単なるプロダクトとしてだけでなく「おもちゃ」として見て、質問や議論に耐えられ、それを予想している起業家です。
迷路の出口は、たとえばIPOなどの成功です。宮武さんは、迷路で右に行くべきところを左に行っても戻れるかどうかが問われると説明し、VCにとっては、起業家がいろんな道を頭の中で考え抜いているかを見抜くことが重要だと話します。
起業家としてはその、ただそのいろんな道を試すだけではなくて、それを何か上からどれだけ見れるか。その全体の迷路。
宮武さんは、次の5年、10年に向けてシナリオプランニング ── 将来起こりうる複数のシナリオを想定し、それぞれに備えて戦略を考える手法をどこまで考え抜いているかも大切だと続けます。草野さんは、起業家だけでなく普通に生きていく中でも持っておきたい考え方だとし、「学習マシンであるか」という起業家評価の基準にも近いと感じたと話しました。
宮武さんは、ハイランク・ローランクの話で難しい点として、ローランクにもめちゃくちゃ頭のいい人がいることを挙げます。エビデンスを大量に集めていても、完全に敵対していて自分に都合のいいエビデンスしか見ないことがあるからです。
草野さんが、敵対視してしまうマインドとの違いはどこにあるのかを尋ねると、宮武さんは3つの点を挙げます。個人で考え抜くかグループのメンタリティーに流されるか、アイデアにどこまで感情移入するか、そして自分が無知だと受け入れられるかです。
草野さんは、感情移入の問題は難しいと率直に語ります。合理的でないとわかっていても、過去に自分や身内がされたことから、あるグループにいたいと思う気持ちもわかるといいます。
宮武さんは、全トピックでハイランクになれる人はいないと思うと応じます。ハイランクにも感情的な人は多く、違いは感情的でもきちんと議論することだと説明しました。理解していてもハイランクになれない人がほとんどで、まずそれを理解することが第一歩だと宮武さんは話しています。
Off Topic自身は「おもちゃの仮説」を出せているのか?
宮武さんは、前回と今回はこれまでのOff Topicらしいエピソードではなく考え方の話だったとしつつ、個人的にはこういう話をもっとしていきたいと話します。草野さんも、リスナーの感想を聞きたいと呼びかけました。
宮武さんは自分自身についても、時と場合によってローランクな考え方になっていると認めます。アイデアを否定されると嫌になったり、イラついたり、相手の悪いところを探したりしてしまうことがあり、反省しないといけないと話しました。
宮武さんは、Off Topicに一番多く届く「どういうソースを読んでいるのか」という質問にも触れます。これまではTwitter、起業家やVCとの会話、ニュースレターなどと答えてきましたが、本当に聞きたいのはどういう考え方をしているかではないか、と今は考えているそうです。
もしかしたらオフトピックとしてももっとそういうところ(考えのプロセス)を情報発信して、オフトピック流のこういう考え方が、はい、仮説が。おもちゃの仮説ですね。赤ちゃんの仮説ではないっていう。
宮武さんは、批判的なコメントに対して「オフトピック流が一番いい」となるのは良くないと笑いつつ、そうしたプロセスをもっとさらけ出した方がいいのかもしれないと話しました。
最後に、宮武さんが新しく始めたポッドキャスト「Repeat Rhyme(リピートライム)」が紹介されました。「歴史は繰り返さないが韻を踏む」という言葉を引用した番組で、GCPのエムレエムレさん、TCMの原原さんというVCの2人と宮武さんの3人で、VCや経済系のニュースを深く語っているといいます。
まとめ
シンキング・ラダーは、左右の対立という横軸に「考え方の高さ」という縦軸を加え、どの立場かではなく、アイデアをどう扱うかに目を向けさせる枠組みです。宮武さんは、アイデアを赤ちゃんではなくおもちゃとして扱うことが、議論を可能にし、イノベーションを前に進めると話しています。
- 新しいテクノロジーは、無視・否定・悪口という段階を経て受け入れられ、SSLもかつてはミサイルと同じ扱いを受けた
- ハイランクの人はアイデアを「おもちゃ」として人前で蹴ってもらい、ローランクの人は「赤ちゃん」として守り、批判者を敵とみなす
- ローランクが増えると反対側のハイランクまでキャンセルされ、違う考えを持つ人も口を閉ざして議論が止まる
- 人はトピックごとに位置が変わるため、自分の無知さと立ち位置を知り、対話で違う目線に触れることが第一歩になる
- 起業家にも、アイデアの迷路を上から見渡し、間違えても戻れる柔軟性が求められる




