「I Support The Current Thing」はどんなミームか?
今回のOff Topicのテーマは、ミーム「I Support The Current Thing」です。宮武さんによると、このミームはここ2〜3か月ほど、アメリカのテック業界やメディアで多少なりとも取り上げられてきたものです。
宮武さんがこのミームを取り上げた理由は、ただのネタではなく、人の行動の仕方やソーシャルムーブメントを説明する1つのセオリーでもあるからだといいます。そして、それを理解することは起業家にとって意外と重要だと話します。
これ(Current Thing)ってなんかただのミームではなくて、人の行動の仕方とか、ソーシャルムーブメントの1つのセオリーでもあって。
「Current Thing」を直訳すると「最近のこと」です。ミームを追跡するサイトknowyourmeme.com ── ネット上のミームの起源や広まり方を記録・解説している英語のデータベースサイト。ミームが最初にどこで使われたかなどを調べられますによると、このミームが最初にツイートされたのは2022年3月1日で、本当に最近生まれたものです。
草野さんは、このミームのイメージを、Facebookで特定の国やLGBTQへの支援を表明するときにプロフィール画像を変えられる機能になぞらえて説明します。その機能をもじったイラストが、このミームの見た目です。
宮武さんの説明では、このミームは、何かのムーブメントや出来事が起きるたびにプロフィールを変える人たちを、多少なりとも馬鹿にしたものです。数週間おきに新しいムーブメントが生まれ、みんながそこに乗ってサポートを見せなければならず、サポートしなければ悪い人と見なされる。その風潮を皮肉っています。
草野さんは、日本でも「コロナのワクチンを受けました」「ウクライナをサポートします」といった表明をする人がいると話し、身近な例と結びつけています。
イーロン・マスクとマーク・アンドリーセンは何を皮肉ったのか
このミームがより話題になったきっかけは、イーロン・マスクがウクライナの旗の入った「I Support The Current Thing」のミームを投稿したことでした。この投稿は強い批判を浴びます。
宮武さんの解釈では、イーロン・マスクが示そうとしたのは、ウクライナのことをよく知らない人も多いなかで急にみんながプロフィール写真を変えている現象そのものです。本当にそう思っているのか、便乗しているだけなのか、思っていたとしてもそれがソーシャルムーブメントとして起きている、という指摘でした。
その表明しなくちゃいけないってことが(問題)ってことですか?
宮武さんは、まさに「表明しないといけない」という点を指摘していたと答えます。ただ、受け手の中には、イーロン・マスクはウクライナに反対しているのではないか、支援する人を馬鹿にしているのではないか、と受け取る人もいました。
一方で宮武さんは、イーロン・マスクのウクライナに対する実際の動きはサポーター側だったと補足します。草野さんが挙げたのが、インターネット接続の支援です。
あの[[スターリンク::SpaceXが運営する衛星インターネットサービス。多数の低軌道衛星を使い、地上回線がない場所でもネット接続を提供します]]のやつですよね。
同じ時期に、ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセン ── ネットスケープの共同創業者で、ベンチャーキャピタル「アンドリーセン・ホロウィッツ」の共同創業者。テック業界で強い影響力を持つ投資家ですもこのミームを投稿しています。メディアと対立的な立場のアンドリーセンさんには、メディア側からも批判の声が上がりました。
これに対しアンドリーセンさんは、トランプ支持者の帽子をかぶったバージョンなど、さまざまなミームを出して応じます。いろいろな分野にそれぞれのCurrent Thingがある、と示そうとしたのだと宮武さんは見ています。
宮武さんの整理では、2人はウクライナを批判しているわけではありません。インターネット上でこうした社会的ムーブメントが起きること自体が不思議だ、と指摘しているのです。ただTwitter上なので詳しい説明はしておらず、だからこそ番組で解説したいと宮武さんは話します。
個人の意見と集団の意見は何が違うのか?
宮武さんがCurrent Thingの核心として挙げるのは、個人で意見を言うことと、グループでそれを考えることの違いです。ウクライナ支持、バイデン派、トランプ派、Web3推しといった立場も、個人として語るのとグループとして語るのとでは性質が変わるといいます。
Current Thingは結局グループの考え方であり、それに賛同するということは、そのグループに賛同することだと宮武さんは説明します。草野さんが「賛同するのは個人ですよね」と返すと、宮武さんはそこが論点だと応じます。
個人でありながら個人じゃないっていうのが、この(Current Thingで)指摘するポイントで。
それが本当に個人の意思なのか、違うのかっていうところが、1つ面白い部分で。
情報が無限にあると、なぜ人は自分で考えなくなるのか
宮武さんは、ライターのベン・トンプソン ── テック業界の分析で知られる独立系メディア「Stratechery」の運営者。プラットフォームが市場を支配する仕組みを説明した「アグリゲーターセオリー」の提唱者ですさんの視点を紹介します。トンプソンさんは、Current Thingを理解するにはメディアの進化を見るとわかりやすいと述べています。
インターネットはメディアのアンバンドル化をもたらしました。Off Topicのような個人が、さまざまなトピックについてインサイトを発信でき、しかもそれに世界中からアクセスできるようになりました。
理論上は、無限の情報にアクセスできる人々が、自分で情報を探し、分析し、自らインサイトを持つようになるはずです。しかしトンプソンさんは、そうはならないと言います。
情報が無限にあると、自分で考えることがかえって割に合わなくなります。その結果、分散型の世界の副次的効果として集権型のサービスが出てくるというのがトンプソンさんの見方です。メディアの例では、情報を集めて何がよいかを示してくれるGoogleやFacebookがそれにあたります。
やっぱり無限に情報があると、何がいいかってわかんなくなるじゃないですか。
アンバンドル化
インターネットで個人が発信でき、世界中からアクセスできるようになる
無限の情報
何がよいか、ほとんどの人には判断しにくくなる
レコメンド需要
自分で考えるより、選んでもらうことへの需要が高まる
集権型サービス
GoogleやFacebookのように情報を集めて良し悪しを示すサービスが力を持つ
人気の意見がさらに人気になる仕組み
宮武さんは、TwitterのようなSNSのフィードバックループにも目を向けます。SNSは多様な意見を並べるのではなく、すでに人気の意見がどんどん人気になる仕組みになっているといいます。
宮武さんの例えでは、いいね0・リツイート0のツイートAと、いいね100・リツイート50のツイートBがあれば、次にリツイートされやすいのはおそらくツイートBです。こうして意見の正しさとは関係なく、1つの意見がネット上で人気になりやすくなります。
いいね0、リツイート0。次に拡散されにくい
いいね100、リツイート50。次にリツイートされやすい
この仕組みの背景には、コミュニティが選べばよい意見が残り、悪い意見は潰されるという理屈があります。しかし宮武さんは、それが本当に成り立つかといえば、おそらくそうではないと疑問を投げかけます。
宮武さんは、悪い意見にも重要な役割があると話します。よい意見を知るには悪い意見を知る必要があり、反対意見はその典型だといいます。
天動説の教訓と、逆張りの起業家が抱える怖さ
宮武さんがわかりやすい例として挙げるのが、宇宙の中心に地球があるという考え方です。かつてはキリスト教がこの説を推していたこともあり人気でしたが、後に正しくないとわかりました。
でも正しくないっていうアイデア自体は、当時は人気なかったんですよね。でも正しかったんですよね。
人気のアイデアがひたすら上がり、人気のないアイデアが上がらない仕組みには、よい面もあれば課題もある、と宮武さんは整理します。
特に起業家は逆張りの発想をすることが多く、インターネットによってそうした意見がますます受け入れられない世の中になるのではないか、という怖さもあるといいます。
さらに今のインターネットには少数の強いプレイヤーがいるため、彼らにプレッシャーをかければ、人気のない情報をさらに目立たなくさせることもできます。宮武さんは、それが全体として良いのか悪いのかを議論すべきだと話します。
宮武さんによれば、Current Thingとは人気の意見をグループ化し、賛同する人が多い一方で、賛同しない人が敵と認識される状態です。全部がそうではないとしつつ、分断が進むアメリカを見るとそうなっているといいます。
「今の話題」は「大事なこと」と同じなのか?
宮武さんは、グループが集団で悪いことをしてしまうケースはインターネット以前からあったと前置きします。そのうえで「Current Thing」という言葉の「Current」の部分に注目します。
Currentは今現在の出来事を指しますが、宮武さんはCurrentは大事なこととイコールではないと強調します。ある揉め事がCurrent Thingになっているとき、別の国では戦争が起きているかもしれません。その戦争がCurrentに入らないのは、重要度を多少なりとも無視していることになります。
もう1つの面白い点として、宮武さんはアンドリーセンさんが何も書かれていない空白の「I Support The Current Thing」ミームを投稿したときの反応を挙げます。批判的なリアクションが、特定のトピックについて寄せられたのです。
空白のミームなのに、ウクライナ支持を馬鹿にしないでほしいといった批判が届きました。アンドリーセンさんは一切ウクライナの話をしていないにもかかわらずです。
でもそれってやっぱり、誰もが思う、自分が今賛同してるカレントシングが何かって、多分チクってくるんですよね。
どんなグループにもCurrent Thingがある理由
宮武さんは、どの業界、どのグループにもCurrent Thingがあり、それ自体は悪いことではないと話します。ウクライナのように世界中が賛同するものもあれば、テック業界のWeb3のような話題もあります。
宮武さんによれば、Off Topicの2人がいま気にしているトピックも番組の中のCurrent Thingですし、学校で誰と誰が付き合っているかといったゴシップもCurrent Thingになり得ます。
では、なぜあらゆるグループでCurrent Thingが生まれるのか。宮武さんは、Current Thingがグループの目的とモチベーションを作っているからだと答えます。
マーク・アンドリーセンさんによると、Current Thingには2つの役割があります。1つはグループを団結させること、もう1つは周りを見えなくさせることです。
グループが気にしているトピックを自分も気にしていると示すことで、メンバーであることを証明する
グループの目的を覆すデータが出ても、受け入れられず拒否するようになる
団結の役割はわかりやすく、グループの一員だと示すには、いまグループが気にしているトピックを自分も気にしていると証明すればよいのです。より良いメンバーだと示すには、そのトピックをさらに強く気にしていると証明することになります。
銃をめぐる実験が示した「極端化」
宮武さんは、この現象を確かめたある研究者の実験を紹介します。フォーカスグループ ── 10〜20人ほどを集めて商品などについて意見を聞く小規模な座談会形式の調査手法。マーケティングでよく使われますを2つ作り、一方を銃賛成派、もう一方を銃反対派だけで構成し、完全に分けたうえで各グループが3時間ほど話し合いました。
その結果、反対派はより反対に、賛成派はより賛成に寄り、両者はより極端な立場へ分かれていきました。
銃賛成派と銃反対派を完全に分けたグループで、各3時間ほど議論
反対派はより反対に、賛成派はより賛成になり、より極端に分かれた
草野さんは、みんなで肯定している状態では反対意見が出てこないので、そうなるだろうと受け止めます。宮武さんはそれに加えて、グループの中で自分がより良い人であることを証明するには、よりその立場を強く取らなければならないと説明します。
それの重ね合いで、結果、より極端に分かれてしまうと。
宮武さんはこれをグループ内でのステータスの問題と捉え、草野さんの「集団の心理なんですかね」という問いに、それが多分集団の心理だと答えています。
都合の悪いデータを拒否するのはなぜか?
2つ目の役割「周りを見えなくさせる」は、個人が集団になる瞬間でもあると宮武さんは言います。Current Thingがグループの目的になったところに、それを覆すデータが出てきたとします。
でもそれ(覆すデータ)が出てきて、それを受け入れた瞬間、グループが、グループの意味がなくなるじゃないですか。
そうなると、グループはどこかのタイミングでそのデータを拒否するしかなくなります。宮武さんによれば、個人の考え方がグループを存続させるために自分たちを守る方向へ働き、相手を信じられなくなっていきます。
草野さんに経験を聞かれた宮武さんは、アメリカではあると答え、認めたくはないけれど自分でもやっていると思うと率直に話します。特に民主党派と共和党派の間、中絶や銃の問題などでは、違うデータが来ても受け入れず、見ず、言っている人が悪いとする例が多いといいます。
どちらの意見も聞く草野さんと、テックを選ぶ宮武さん
草野さんは、自分はいつもどちらの意見も聞いて、何も意見を出せなくなってしまうと打ち明けます。
私いつもなんかこう、どっちの意見も聞いて何も意見出せなくなっちゃう。あー、どっちの意見もあるしなと思っちゃうんですよ、いつも。
宮武さんは、トピックによっては草野さんにも強い意見があるのではと問いかけ、テックがある世の中とない世の中のどちらを選ぶかを例に出します。草野さんは悪いところもあると答え、どちらを選ぶかは「わかんない」と返します。
なんかテクノロジーがない世界に生きていけたらなって思う時はないですか?
宮武さんは「ないですね」と答え、選ぶならテックのある世の中だとしつつ、テックにも悪い部分はたくさんあり、結局はツールだと話します。そのうえで、こうした議論ができるかどうかが重要であり、それが次回に話すかもしれないパート2のテーマだと予告します。
起業家は自分のサービスをCurrent Thingにすべきか?
宮武さんが最後に強調するのは、起業家の立場から見たCurrent Thingです。テック業界にもCurrent Thingがあるだけでなく、起業家は自分のサービスをCurrent Thingにしなければならないといいます。
業界で話題にさせなければサービスは伸びません。そのためCurrent Thingは必ずしも悪いものではなく、サービスを立ち上げるには実は必要なものでもある、と宮武さんは話します。Current Thingがどう生まれるかを調べることは、起業家にとって重要な勉強だといいます。
Off Topicがカルチャーやユーザー行動、ソーシャルムーブメント、社会学を追っているのも、Current Thingの作り方を理解するためだと宮武さんは説明します。
ただし、新しくイノベーティブなテクノロジーは、たいてい今のCurrent Thingに反するものです。今のCurrent Thingに反しながら、自らをCurrent Thingにするにはどうすればよいか、それが起業家の課題だと宮武さんは整理します。
宮武さんは、この話は何かを批判するためではないと締めくくります。インターネットの世の中ではグループの行動や人と人の関係から多くのものが生まれ、それを起業家やコンテンツクリエイターとしてどう誘導できるかが今後の勝負になる、という見立てです。去年番組で話したコンポーゼンカルチャーとも似た話だと付け加えています。
まとめ
「I Support The Current Thing」は、話題に乗ってサポートを表明する風潮を皮肉るミームですが、宮武さんはそこに、人気の意見が集団の目的となり、人を団結させると同時に周りを見えなくさせる仕組みを読み取ります。その仕組みを理解することは、自分のサービスを新たなCurrent Thingにしたい起業家にとって欠かせない、というのがこの回の着地点です。
- ミームはイーロン・マスクやマーク・アンドリーセンの投稿で話題になり、表明を求められる風潮そのものを指摘している
- 情報が無限にあると集権型サービスが力を持ち、SNSでは人気の意見がさらに人気になりやすい
- 「今の話題」は「大事なこと」と同じではなく、人気のない意見が正しいこともある
- Current Thingはグループを団結させる一方、都合の悪いデータを拒否させ、立場を極端にする
- 起業家は今のCurrent Thingに反しながら、自分のサービスをCurrent Thingにする方法を考える必要がある




