a16zはなぜ記者を通さず自ら発信するのか
この回の出発点は、ベンチャーキャピタルのAndreessen Horowitz(a16z)が、メディア専門の人材を雇い、Clubhouseも活用して自社のメディアプラットフォームを作ろうとしている動きです。草野さんは、その戦略の徹底ぶりを「凄まじい」と表現しています。
宮武さんによると、a16zはかつてメディアの取材やインタビューに応じていましたが、最近は記事へのコメントを一切しなくなったといいます。The Informationなどが投資先や資金調達の情報を報じても反応せず、評価額などで多少ずれた情報が出ることもあるそうです。
背景には、アメリカで話題になっている「テックメディア対VC」という対立があります。宮武さんは、a16zが自前の発信手段を持ちたいのはこの流れの中にあると見ています。
明らかにアンドリーセンの戦略は、自社のプラットフォームを作ること、メディアプラットフォームを作ることなんで。
Good Time Showにイーロン・マスクが出る意味とは
象徴的なのが、a16zに加わったスリラムさんが仕切るClubhouseの人気番組「Good Time Show」です。イーロン・マスク、Robinhoodのブラッドさん、マーク・ザッカーバーグといった、テックメディアでは取材しにくいゲストを揃えています。
逆にテックメディアの人たちってその人たち(豪華なゲスト)を取れないじゃないですか。
Clubhouseはa16zのプラットフォームではないもののa16zの投資先です。宮武さんは、記者を通さずに直接話すことで、自社のナラティブやストーリーをコントロールできる点に意味があると考えています。
草野さんは、マスクやザッカーバーグがClubhouseで話したこと自体がまたニュースになる、という面白い状況も指摘しました。一方でテックメディア側は当初、甘い質問ばかりではないかと怒っていたそうです。
宮武さんは、こうした「ダイレクトに行く」流れはVCに限らないと話します。政治ではトランプ前大統領が代表例で、記者会見で記者に解釈されるより、Twitterで自分の言葉をそのまま伝えようとしたと説明しています。
記者会見や取材を通じて発信する。記者やメディアの解釈を経て届く
ClubhouseやTwitterで本人が直接話す。自分のストーリーをコントロールしやすい
アメリカでメディアの信頼はなぜ失われたのか
宮武さんは、アメリカではテックメディアとVC業界がすでに信頼関係を失っていると述べます。テック業界に特に顕著ですが、他の業界も同様で、そもそも多くのアメリカ人がメディアを信頼していないといいます。
その理由として紹介されたのが、投資家Naval ── ナヴァル・ラヴィカント。AngelListの共同創業者として知られる投資家で、スタートアップ業界で影響力のある発信者ですの「真実の一般化」という考え方です。インターネット、特にSNSによって、地震が起きた、コロナで何人亡くなったといった事実の報道は誰でも手に入るものになりました。
その結果、多くのメディアはオピニオンの方に寄せていき、自社のアジェンダに沿った伝え方が増えて、強いバイアスがかかるようになったと宮武さんは説明します。ニュースにある程度のバイアスがあるのは前提でも、行き過ぎると問題だという立場です。
さらにインターネットは、メディアの収入源も減らしました。Craigslist、Google、Facebookが広告収入を奪い、配信頻度も上がったことで、ファクトチェックがしにくくなったといいます。
真実の一般化
SNSなどで事実の報道を誰でも得られるようになる
オピニオン化
メディアが意見寄りになり、バイアスが強まる
収益の減少
広告収入がGoogleやFacebookに移り、ファクトチェックが手薄に
直接発信へ
当事者がメディアを通す理由を失う
そうすると、なぜメディアを通さないといけないっていうことになっちゃうんですね。
当事者発信と記者報道、どちらに価値があるのか
草野さんは、Clubhouseのような関係者だけの発信にもメリットがある一方、第三者である記者が伝える報道にも良さがあり、どちらにもバイアスはかかるので難しいと話します。
宮武さんも同意し、記者の本来の役割は真実を求めて報道することで、セラノス ── 血液検査技術をうたったアメリカのスタートアップ。技術の実態がなかったことが報道で明るみに出て、詐欺事件として知られていますの問題もウォール・ストリート・ジャーナルの記者が発見したものだと評価します。
ただ、最近は政治報道でバイアスがわかりやすいといいます。宮武さんは、右寄りのFOXニュースが嘘を言うこともある一方で、左寄りのメディアにも、バイデン氏とトランプ氏の同じ発言を違う扱いで報じるような矛盾があると指摘しました。
そうしたメディアがテックをネガティブに書くと、テック業界も反発し「自分たちで発信しよう」となります。宮武さんによれば、政府や企業に続き、ニューヨーク・タイムズすら信頼しない人が増えているそうです。
メディアもTwitterやClubhouseと競うため、クリックを誘うタイトルや動画を出さざるを得ず、悪循環に陥っていると宮武さんは見ています。草野さんも、短尺動画やPV至上主義の中でニュアンスを伝える難しさに触れました。
信頼が個人に移ると、VCはメディアになるのか
宮武さんは、クリエイターエコノミーの流れの中で、信頼が個人のブランドへ移っていると話します。Twitterで人気のVCも多く、彼らがニュースレターやポッドキャストを始めると信頼を集め、メディアに対抗できる情報源になるといいます。
a16zはその代表例で、ニュース系を含む複数のポッドキャストや記事を以前から手がけてきました。2人は、去年末に公開されたソーシャル分野の解説記事について、専用サイトまで作りデザインも凝っていたと振り返ります。
宮武さんは、VC業界全体が個人のブランドかディストリビューションのどちらかを持たないと戦えない方向に向かっていると考えています。そしてVCがメディア化する動きと、メディアがVC化する動きが両方起きているといいます。
ハリー・ステビングス、アンドリュー・チェン、リ・ジンは何を発信してきたか
メディアからVCになった例として挙がったのが、ポッドキャスト「20VC」のハリー・ステビングスさんです。ポッドキャストで起業家やVCのネットワークとオーディエンスを築き、エンジェル投資やファンド立ち上げに進んだと宮武さんは説明します。
a16zのアンドリュー・チェンさんは、グロース戦略のブログを多く書いてきたからこそa16zに入れた人物だといいます。草野さんは「元祖コンテンツ系VC」と表現し、メルマガや、年末年始に記事をまとめたPDFの冊子にも触れました。現在は本も執筆中だそうです。
元a16zで自身のファンドを立ち上げたリ・ジンさんは、パッションエコノミー ── 個人が自分の好きなことや専門性を収益化する経済圏を指す言葉。リ・ジンさんがa16z在籍時のブログで広めましたのブログで自分のテーマを確立し、クリエイターエコノミーの第一人者になりました。TikTokでも発信しています。
リ・ジンさんは、クリエイターエコノミーやエンジェル投資をテーマにしたコホート型 ── 少人数のグループが同じ期間に一緒に受講する形式。講師の一方的な講義だけでなく、受講者同士の議論を重視しますのオンライン授業も始めています。宮武さんは日本のゼミに近いのではと話し、草野さんはワークショップっぽさもあると応じました。
Z世代VCコミュニティでは何が話されているのか
宮武さんはもう一つの例として、メーガン・ロイストさんが作ったZ世代向けのVCコミュニティ「Gen Z VCs」を紹介します。起業家もVCも参加しており、宮武さん自身もメンバーで、6000人以上いるのではないかといいます。
コミュニティにはBtoB、DtoC、アーリーステージなどのカテゴリー別チャネルがあります。サービスのローンチ告知は意外と少なく、「ディールフロー」のチャネルでは案件への共同参加の呼びかけもあるそうです。
そこ(コミュニティ)で僕もそのDtoC企業が今調達してるんですけど、興味ある人はここにメールしてくださいとか。で、そこにメールして、実際にその会社と会ったりとかはしてますね。
宮武さんは、このコミュニティ経由で2件ほど投資しているとも話しています。草野さんは、リ・ジンさんの例も含め「コミュニティを作る」ことがキーワードではないかと投げかけました。
コンテンツ
発信で人を引き寄せる
専門性の提示
自分のエキスパティーズを見せる
場づくり
教育、事業、コミュニティを作る
活性化
集まった人同士で場が回り始める
なぜVCはテーマを絞らなければならないのか
宮武さんは、テーマを決めて特定のカテゴリーにコミットすることが、VC業界で重要になっていると話します。メンバーの多いファンドなら分担できても、最近増えている個人VCではジェネラリスト型は厳しいといいます。
コンテンツ面でも、アメリカには大量のコンテンツがあるため、浅く広く作ると埋もれてしまいます。草野さんの「結局何も刺さらんまま」という言葉に、宮武さんは「まさにそう」と応じ、1つでなくてもトピックを絞ってコミットすべきだとしました。
Double Down on Your Winners、セコイアはDoorDashにどう賭けたか
テーマを絞る考え方は投資にも当てはまります。宮武さんが紹介したのが、投資業界の格言Double Down on Your Winners ── 最も有望な投資先に資金を追加で集中させよという考え方。初回以降に追加出資する「フォローオン投資」を重視しますです。
代表例がセコイアとDoorDashです。セコイアはシードラウンドを見送ったものの、シリーズAをリードして15億〜17億円ほどを投じ、約20%を取得しました。事業がフラットになり投資環境も悪い時期にも、再びリードを決めたといいます。
まあちゃんとそこにコミットしたっていうのはすごいなっていうところですよね。
a16zはなぜCoinbase株を買い増したのか
宮武さんによると、上場したCoinbaseでもa16zはセコイアに似た動きをしました。追加ラウンドへの出資に加え、2019年から2020年にかけてセカンダリー市場で既存株主からCoinbase株を買い取っていたといいます。
a16zの投資テーマの一つがビットコインや仮想通貨で、短期的な市場の動きは無視し、長期的に儲かると信じて投資したと宮武さんは説明します。失敗の可能性もあったうえでの判断です。
ここで宮武さんが強調するのは、市場のタイミングを伺う投資は良くないという点です。今の評価額が高いかどうかは結局わからず、草野さんも「それわかったら最高ですけどね」と応じています。
アルティメーターの「ほらね」はなぜ間違いだったのか
宮武さんは、投資では短期的なフィードバックが返ってくるものの、その多くは間違っていると話します。それでも正しいと思い込み、同じ行動を繰り返す人が増えるといいます。
その例が、VC・PEファンドのアルティメーターです。2014年、アルティメーターは仮想通貨市場のアップサイドを信じ、a16zも投資していたスタートアップトニーワンダコへの投資を検討しましたが、見送りました。
数ヶ月後、ビットコイン価格は1200ドルほどから300ドルまで下落し、アルティメーターは「見送ってよかった」と考えたそうです。草野さんの「ほらねって」という合いの手に、宮武さんも「ほらねっていう」と重ねました。
ビットコイン下落を見て「見送ってよかった」と判断
投資先はCoinbaseに買収され、株主はCoinbase株を得て一部は利益を出した
そのタイミングで、なんでこんなに下がったんでしたっけ?とか、これってまだこれだけのアップサイドってあるんですかっていうのを本当は考えるべきで。
宮武さんは自分も同じことをやってしまうと反省を口にしつつ、a16zが投資を続けたことが重要なポイントだと締めくくりました。
Thought Leaderになると何が起きるのか
宮武さんは、a16zや次世代VCがやっていることを一つの仕組みとして整理します。アップサイドが圧倒的にある領域のテーマを決め、コンテンツを出し続けてその分野のThought Leaderとして知られ、良いスタートアップを集めて投資するという流れです。
例として挙がったのが、クリエイターエコノミーのリ・ジンさんと、VC「Worklife」のブリアン・キメルさんです。キメルさんはリモートワーク関連の発信で知られ、Tandemや Figmaといった投資につながったといいます。
「Let me know」から「Let me show」へ、VCの言葉はどう変わったか
宮武さんによると、今のアメリカのアーリーステージ投資では、良い案件に入ることが本当に大変になっています。かつては会社単位で選ばれていたVCが、今は個人として何ができるのかを問われるといいます。
象徴的なのが、アメリカのVCがよく使う「Let me know how I can be helpful」という言葉です。草野さんは「何かできることがあったら言ってください」と訳し、2人とも自分も言っていたと反省を込めて笑いました。
Let me know how I can be helpful(何かできることがあれば言ってください)
Let me show how I can be helpful(最初から自分の価値を見せる)
その例が、コーポレートカードを提供するRampの調達です。ある投資家は130ページの資料を作り、プロダクト分析や競合比較、顧客アンケートをまとめたうえ、10人以上の顧客候補にRampを紹介しました。
それでもその投資家はリードを取れず、アロケーションをもらうにとどまったそうです。宮武さんは、それだけ良い案件にはVCが集まると話しています。
なぜVCは良い案件に群がるのか
草野さんの「本当にそこまでやらないと入れない状況になっているのか」という問いに、宮武さんは優秀なVCが増え、競争が激しくなっていると答えます。
テック業界のトップ、例えば30%の企業に投資ができれば、で、5年から10年ぐらい持ち続けることができれば、絶対に儲かるんですよ。
宮武さんは、地球の歴史上これほどアップサイドがあるものはテクノロジー業界以外にないとし、投資できる「切符」を持つ人が儲かると話します。だからこそ、テーマを絞って価値を見せ、良い案件に投資し続けるサイクルが必要だという見立てです。
新世代のコミュニティにa16zはどう入り込んでいるのか
草野さんは、VCの最初の世代は人も少なく、良い案件が限られたコミュニティに集まっていたのではと振り返ります。今は面白いスタートアップがあちこちで生まれ、入り込む戦い方も変わってきたといいます。
宮武さんは、シリコンバレーには今もインナーのコミュニティが強くあると認めつつ、a16zは新しいコミュニティにも入り込み、リ・ジンさんのように新世代のVCを一部生んでもいると話します。アメリカではその流れのペースが速いそうです。
頑張らないとなって。今回ポッドキャスト(の準備で)いろいろリサーチした上で、すごい反省になりましたね。
番組は二部作で、後編では投資プレイヤーの増加、レイターステージからアーリーステージへのシフト、ラウンドごとの資金調達オプションの増加を扱うと予告されました。
まとめ
この回では、アメリカのメディア不信と当事者の直接発信という流れを背景に、a16zをはじめとするVCがコンテンツで信頼を集め、テーマを絞り、良い案件に投資し続ける戦略が語られました。
- a16zは記者へのコメントを控え、Clubhouseやポッドキャストなど自前の発信でストーリーをコントロールしようとしている
- SNSによる「真実の一般化」と収益減でメディアはオピニオン化し、信頼が個人ブランドへ移っている
- セコイアのDoorDash、a16zのCoinbaseのように、アップサイドのある勝ち筋に賭け続けることが重視される
- テーマを絞ってThought Leaderになり、良いスタートアップを引き寄せるのが新世代VCの型になりつつある
- VCには「何かあれば言って」ではなく、最初から役立つことを示す姿勢が求められている


