エマ・チェンバレンとは何者か?
この回のテーマは、アメリカの人気YouTuberが、動画以外にどうビジネスを広げて起業しているのかです。Off Topicでは過去にもデイビッド・ドブリックさんやミスタービーストさんを取り上げており、今回はクリエイタービジネスを改めて扱っています。
1人目として宮武さんが紹介するのが、エマ・チェンバレンさんです。YouTubeを始めて約4年で登録者1000万人を突破し、TikTokでも1000万人弱、Instagramでは1000万人以上のフォロワーを抱えています。
宮武さんはエマ・チェンバレンさんを、Z世代の代表的なクリエイターと位置づけます。草野さんが人気の秘密を一言で尋ねると、返ってきた答えは「オーセンティシティ」でした。
一言で言うとオーセンティシティ。
オーセンティシティとは、ありのままであること、リアルな人であることを指します。宮武さんは、この点こそがエマ・チェンバレンさんの魅力であり、彼女自身もそこを強調していると話しています。
エマ・チェンバレンさんが動画を始めたのは2017年、当時はまだ高校生でした。ほぼ毎日Vlogを上げ、Pinterestの使い方、ターゲットでの買い物、古着屋で面白いファッションアイテムを探す様子、初めての運転などを撮っていました。
宮武さんによれば、エマ・チェンバレンさんは一人の高校生の女子として、自分の毎日の生活をそのままアップロードしていたといいます。
登録者80人の苦しい出発と、Z世代に刺さった自虐ネタ
エマ・チェンバレンさんの出だしは順調ではありませんでした。最初の1ヶ月で登録者は約80人しかおらず、宮武さんは「本当に初期は苦しかった」と振り返ります。
流れを変えたのは、100円ショップで買ったもののレビューでした。この企画をきっかけに、エマ・チェンバレンさんの登録者は約4000人から1ヶ月で15万人まで伸び、そこから積み上がっていきます。
宮武さんが挙げる成功の理由の1つめは、Z世代や若者層に響くトーンです。とくに、エマ・チェンバレンさんの動画には自虐ネタがとても多いといいます。
草野さんは、Z世代は自虐ネタを好まない世代だと思っていたと意外そうに返します。これに対し、宮武さんはZ世代の笑いの線引きを説明しています。
めちゃくちゃ好きなんですよ。なんか他人のことを、相手のことを悪く言うのはめちゃくちゃ悪いんですけど、自虐ネタはみんな好きで。
当時、自虐ネタをYouTubeでやっている人は少なかったと宮武さんは話します。その空白を突いたことが、エマ・チェンバレンさんにとって重要なポイントだったということです。
ビスコガール、すっぴん、あえて下げる動画のクオリティ
2つめの理由として宮武さんが挙げるのが、ファッションとライフスタイルです。エマ・チェンバレンさんは、2019年ごろに爆発的に広がった「ビスコガール」の初期のパイオニア的な存在だったといいます。
草野さんの説明によると、ビスコ ── VSCO。写真の加工・編集アプリで、独特のフィルムのような色味が特徴。2019年ごろにアメリカの10代で大流行しましたというカメラ編集アプリのトーンがかわいいとトレンドになり、そのトーンを真似する人たちをビスコガールと呼ぶようになりました。
3つめの理由は、自分のリアルな姿を見せるうまさです。エマ・チェンバレンさんの動画は大体が朝から始まり、起きた直後に撮っているのでノーメイクです。ニキビがあっても隠さず、メンタルが弱っているときもそのまま話します。
宮武さんは、今でこそこうしたクリエイターは増えたものの、2017〜2018年当時はほとんどいなかったと指摘します。
さらに当時のYouTuberは、良いカメラを使い、きちんと編集して、動画のクオリティを上げる方向に進んでいました。エマ・チェンバレンさんは、その流れの中であえてクオリティを下げるような編集をしていたといいます。
良いカメラとしっかりした編集で、動画のクオリティを上げていた
ノーメイクで朝から撮り、あえてクオリティを下げる編集や自虐ネタを入れていた
編集にも独特の工夫がありました。エマ・チェンバレンさんは、自分が変なリアクションをした場面のあとに、編集している自分の映像を差し込み、過去の自分にツッコミを入れます。しかも、それをミームっぽく見せていました。
あれ?なんかあれ、あのリアクションほんとおかしかったよねみたいな話を自分で言うとか。
宮武さんは、こうした工夫の積み重ねで「エマさんは本当に一般女子なんだ」と感じさせることに成功したと話します。朝起きられない、朝はコーヒーが欠かせないといった話に、多くの視聴者が「自分もそうだ」と共感するということです。
草野さんは、アメリカのVlogは部屋も広く、とても綺麗だという印象を語ります。一方で日本のVlog系YouTuberは、部屋の事情もあってリアルな生活感が出やすく、まあたそさんのように、ありのままを見せる人が多いのではないかと話しています。
ルイヴィトンに招待されても、すっぴんのコーヒーから始まるVlog
宮武さんは、エマ・チェンバレンさんが動画の途中でゲップをしてもそのまま流すなど、「友達だったら多分このままなんだろうな」と思える姿を見せていると話します。
エマ・チェンバレンさんは2018年末に、次世代クリエイターに贈られる「ブレイクアウトクリエイター賞」を受賞しました。これをきっかけに、さまざまなブランドから声がかかるようになります。
宮武さんによると、エマ・チェンバレンさんは親近感を持てる人だからこそ、ラグジュアリーブランドが声をかけたといいます。ルイヴィトンとは今も提携しており、パリのファッションウィークにも招待されました。
普通なら、そうした華やかな場に行くと「遠い人」になってしまいます。しかしエマ・チェンバレンさんは、華やかな部分を見せながらも、日常的な姿を出し続けました。
パリのファッションウィークに行った時のパリのVlogのスタートが「一緒にコーヒー作ろう」っていう、で、メイクなしで「今日何が起こるか話します」みたいなことから始まってたりするので。
宮武さんは、華やかさと日常の両方をバランスよく取れたことが、エマ・チェンバレンさんの2019年のすごさだったと話します。
2019年には、ほかのYouTuberとのコラボ、Snapchatでのクリエイターショー、サングラスのコレクション、ターゲットとのコラボなど、さまざまな挑戦をしています。その結果、2019年にはクリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。
チェンバレンコーヒーは、なぜ彼女に「フィット」したのか
2019年末、エマ・チェンバレンさんは自分のコーヒーブランドを立ち上げます。宮武さんは、これが非常に重要なポイントだと考えています。
理由は、エマ・チェンバレンさん自身が大のコーヒー好きであることを、視聴者がすでに知っていたからです。Vlogでは少なくとも1回はコーヒーを飲み、散歩がてら買いに行き、コーヒーのレビューもしていました。
だからこそ、自分のコーヒーブランドを作るっていうのがすごいメイクセンスしてて。
ブランド名はChamberlain Coffee ── エマ・チェンバレンさんが立ち上げたコーヒーブランド。オンラインでコーヒー豆やドリップバッグなどを販売していますです。2020年にリブランディングして再ローンチし、まず「美味しい」と評判になりました。
宮武さんは、コーヒーそのものに親近感があることも重要だと話します。毎日のようにみんなが飲むコーヒーと、親近感を売りにするエマ・チェンバレンさんが、ブランドとして重なっているということです。
日常のコーヒー
エマ・チェンバレンさんはVlogで毎日のようにコーヒーを飲み、話題にしていた
ブランド化
コーヒー好きという既知の人物像に合わせて、自分のコーヒーブランドを作る
Vlogに登場
最近のVlogには、チェンバレンコーヒーを飲んだりアレンジしたりする場面が必ず出てくる
信頼
本当に好きなことが知られていて、味の評判も良いため、視聴者が信頼しやすい
草野さんは、最近のVlogにチェンバレンコーヒーが必ず出てくると聞いて「本当にビジネスマンですね」と驚きます。本人がコーヒー好きだと視聴者が知っていて、しかも美味しいと評判なら、信頼は大きいだろうと話しています。
スキンケアブランドと「自分で決めたい」起業家像
宮武さんは、2018〜2019年はInstagramの時代で、自分をよく見せることが重視されていたと振り返ります。エマ・チェンバレンさんは逆に、ノーメイクでニキビや自分の課題の話をし、自分は完璧ではないと伝えてきました。
毎日飲むのがコーヒーなら、毎日するのがメイクやスキンケアです。エマ・チェンバレンさんはスキンケアブランド「バッドハビットビューティー」のブランドアンバサダーになり、のちにクリエイティブディレクターに任命されました。
このスキンケアブランドはインフルエンサーと提携する新興ブランドで、エマ・チェンバレンさんはどんな商品を作るべきかまでディレクションしているといいます。
エマ・チェンバレンさんのVlogはノーメイクで始まるため、スキンケアのルーティーンが自然とコンテンツになります。そのため、このブランドも最近のVlogにはほぼ毎回登場しているということです。
宮武さんは、起業家としてのエマ・チェンバレンさんのテーマを「オーナーシップとコントロールを自分で持ちたい」ことだと見ています。チェンバレンコーヒーはVC調達もしておらず、方向性を自分で決められる形で進めているといいます。
宮武さんは、これが最近のトレンドでもあると話します。例として、TikTokでフォロワー数の多いアディソン・レイさんが、レーベルに所属せずに音楽アーティストとしてのキャリアを始めたことを挙げています。
なんか誰でも親近感があるビジネスウーマンってなんかすごいなって思うので。
LAへの移住、高校中退、コロナで戻ったVlog
草野さんは、エマ・チェンバレンさんがYouTuberになると決めて単身でLAに移住した経歴に注目します。日常生活は共感を呼ぶ普通のものなのに、やっていることは夢や勇気をもらえるものだという点です。
本当に身近な友達になりたい、夢を持ってるいい友達みたいな。なんかすごくいいポジションですよね。
宮武さんは、エマ・チェンバレンさんがYouTubeに専念するため高校を中退していることにも触れます。2018年の成長はとくに著しく、4月に登録者100万人に達し、その2ヶ月後には倍に、さらにその後も1ヶ月ごとに100万人ずつ増えていったといいます。
その後、エマ・チェンバレンさんはVlogから一時離れ、企画系の動画にも取り組みました。しかしコロナ禍で、再びVlogに戻ります。
コロナ禍では、他人とのコラボで成長してきたYouTuberが苦しみました。宮武さんによると、エマ・チェンバレンさんはもともと一人で自分の人生を撮っていたため、「コロナって退屈だよね」とフランクに話せる存在になれたといいます。
草野さんは、日本でもけみおさんが、ニューヨークでの在宅生活や気分の落ち込みをリアルに語るVlogをしていたと重ねます。ただ、それができる人は稀だとも話しています。
宮武さんは、エマ・チェンバレンさんがLAに数億円の家を買い、ルイヴィトンともコラボするほど成功していることを認めたうえで、それでも「めちゃくちゃ普通の子だな」と感じる瞬間が多いと話します。
自分の弱みを出すってなかなかできないんで。
ミスタービーストの企画は、なぜここまで巨大化したのか?
宮武さんは、エマ・チェンバレンさんのように親近感を前面に出してブランドにつなげる人とは別のパターンとして、ミスタービーストさんを取り上げます。過去にもnoteなどで扱った人物ですが、最近の動きが加速しているため、アップデートが必要になったといいます。
ミスタービーストさんは、登録者がもうすぐ6000万人に届くYouTuberです。企画系のチャレンジ動画が多く、たとえば高級車を買い、最後まで触り続けた友達がその車をもらえる、という企画をしています。
クリスマスには、家を3軒買って大量のクリスマスライトを用意し、一晩で一番うまく飾りつけた人がその家をもらえる企画もありました。何かを買って誰かに贈り、そのリアクションを撮るギブアウェイ ── プレゼント企画のこと。商品やお金を視聴者や参加者に無償で配る形式で、YouTubeやSNSでよく使われますが、ミスタービーストさんの定番です。
規模はどんどん大きくなり、去年は無人島を8000万円で買いました。友達を呼んでチャレンジを行い、最後まで勝ち残った人が無人島をもらえる企画です。
ミスタービーストさん自身は参加せず、司会役に徹しています。宮武さんはこの立ち位置を「ゲームショーのホスト」と表現し、費用は基本的に自腹、ときどきスポンサーが入るといいます。
赤字のメインチャンネルを、サブチャンネルで支える仕組み
企画が巨大化した結果、ミスタービーストさんの登録者6000万人のメインチャンネルは赤字になっています。1本の動画が2000万〜3000万回再生を必ず超えるものの、その広告収入では賄えないコストになってしまったということです。
ミスタービーストさんの目標は、年末までにYouTube登録者1億人を達成することです。しかし動画が大きくなるほど、メインチャンネルの広告収入はそれに見合うほど伸びていません。
そこでミスタービーストさんが取り組んでいるのが、複数のサブチャンネルです。友達とカジュアルにゲームをする「ミスタービースト・ゲーミング」、ほかの人の動画にリアクションするチャンネル、YouTubeショート用の「ミスタービースト・ショーツ」などがあります。
サブチャンネル
ゲーミングやリアクションのチャンネルで、作りやすい動画から広告収入を得る
外部配信
Jellysmackと提携し、動画をFacebookやSnapchat向けに修正して配信、その広告収入も得る
メインチャンネルへ
これらの収益をメインチャンネルの制作費に回す
大型企画
本当に良い動画を作り、メインチャンネルに上げる
じゃないと逆にメインチャネルが赤字すぎて作れないので。
Jellysmack ── クリエイターの動画をほかのSNS向けに最適化して配信し、収益化を支援する企業。YouTube動画をFacebookなどへ展開するサービスで知られていますとの提携も、メインチャンネルにお金を流すための取り組みの1つです。
草野さんは、日本でもひろゆきさんの動画をファンが切り抜き、その利益の半分がひろゆきさんに入る仕組みがあると話します。別のプラットフォームや形式へ変換するディストリビューションには需要がある、という見方です。
サブチャンネルの将来性についても、ミスタービーストさんは独自の予想を持っています。ゲームチャンネルは現在1300万〜1400万人ほどの登録者がいますが、ゲームには上限があり、月3億〜4億再生あたりが限界ではないかと考えているそうです。そのため長期的には、リアクション動画がゲームを上回ると見ています。
草野さんがこうした話を本人が直接語っているのかを尋ねると、宮武さんは、ミスタービーストさんはYouTubeが大好きで研究をひたすら続けており、インタビューやClubhouseでもよく話していると答えています。
クオリティへのこだわり、Shortsの実験、慈善活動チャンネル
ミスタービーストさんのメインチャンネルは、最近投稿頻度がだいぶ落ちています。宮武さんによると、それは良い動画だけを出したいという思いからで、企画によっては1年以上前から準備しているそうです。
たとえば花火の企画は1年半前から取り組み、何度か失敗しています。2000万〜4000万円をかけても、本名のジミーさんが良くないと判断すれば公開しません。公開していない動画には、合計で1億円以上かけたものもあるといいます。
メインチャンネルの方は頻度ではなくて、本当にクオリティが一番重要だと彼が言ってますね。
一方でShortsのチャンネルは、海外、とくにインドのユーザー獲得に効果があるといいます。インドでTikTokが使えなくなった影響ではないか、と宮武さんは見ています。Shortsはマネタイズが難しいものの、視聴者の獲得と、ショート動画が本当に流行った場合へのヘッジになっています。
ミスタービーストさんは、専用のShortsチャンネルをYouTube業界で最初に作った人物だといいます。多くのYouTuberが追随していますが、ジミーさん自身も正しい判断かはわからず、試しているだけのようです。
さらにミスタービーストさんは、動画を通じた慈善活動を一段階進め、専用の慈善活動チャンネルを作りました。動画を出す前から登録者が100万人おり、その広告収入は利益ではなく売上のすべてが慈善活動に使われます。
このチャンネルの資金で、すでにフードバンクが作られています。将来的にはアメリカ中、さらには世界中に広げ、ホームレスのシェルターも作りたいと考えているそうです。
宮武さんが紹介した構想の一つが、グッズとして購入できる支援用の箱です。中には食べ物やブランケットなどホームレスの人に必要なものが入っていて、車のトランクに積んでおき、出会ったときにそのまま渡す、という企画が考えられているといいます。
草野さんは、ミスタービーストさんのキャラクターのファンに加えて、こうした活動によって新しい層のファンも増えそうだと話しています。
クリエイターがクリエイターに投資する「Creative Juice」
ここまでがミスタービーストさんのコンテンツ戦略です。宮武さんは「ここからが面白いところ」として、ミスタービーストさんの3つの取り組みを紹介します。
1つめはCreative Juice ── ミスタービーストさんが立ち上げに関わった、クリエイター向けの金融サービス企業。クリエイターへの資金提供などを手がけていますです。クリエイターがクリエイターに投資できる仕組みを作る会社で、ファンドの形なのかなど、具体的な部分はまだ見えていないといいます。
ミスタービーストさんは、投資こそしていなかったものの、以前からほかのクリエイターへのフィードバックやメンタリングを続けています。Twitterで動画のサムネイル案をAとBで示すと、「Aの方がいい」「これは全然ダメ」とフランクにコメントしてくれるそうです。
知り合いのチャンネルを、登録者約1万人から2ヶ月で20万人まで伸ばす手伝いをしたこともあるといいます。ミスタービーストさん自身も、成長初期には苦しみ、登録者の少ないクリエイター仲間とミスを教え合いながら育ってきました。
宮武さんは、登録者6000万人規模のノウハウを提供し、そこに投資を組み合わせることで、ミスタービーストさん自身もマネタイズできる形を目指していると見ています。3年後、5年後には、YouTubeチャンネルへの投資が主流になるかもしれないとも話しています。
草野さんはこれを「クリエイター版Yコン ── Y Combinator。アメリカの有名なスタートアップ支援組織で、少額投資と短期集中の指導を組み合わせたプログラムで知られています」と表現しました。宮武さんによると、ミスタービーストさんはほかのクリエイターが自分のファンドを簡単に作れる仕組みも提供すると話しているそうです。
いいですよね、その自分だけが儲かる仕組みじゃなくて、この仲間たちが。
300店舗で一斉ローンチした「MrBeast Burger」
2つめの取り組みは、去年末に立ち上げたMrBeast Burger ── ミスタービーストさんのハンバーガーブランド。既存レストランのキッチンを使い、デリバリー専用で提供する形で始まりましたです。ミスタービーストさんは、一気に300店舗のレストランを立ち上げました。
ただし、MrBeast Burgerは自前の店舗ではなく、バーチャルキッチン ── 店舗を持たず、既存の厨房を借りてデリバリー専用の料理を提供する仕組み。ゴーストキッチンとも呼ばれますの仕組みを使っています。アメリカの既存レストラン300店舗と組んで始めたということです。
ローンチはコロナ禍で、レストランが苦しんでいた時期でした。そのため、提携先のレストランにも喜ばれたといいます。
草野さんは、マクドナルドのような有名チェーンと組まず、地元のレストランと組んでいる点が面白いと話します。宮武さんによると、実は最初は名前のわからない有名チェーンと交渉していたものの、ミスタービーストさん側が断ったそうです。マクドナルドとトラヴィス・スコットさんの事例を見て、自分たちでやりたいと考えたということです。
MrBeast Burgerの専用アプリは全米のアプリランキングで1位になり、開始10分後にはトラフィックが多すぎてクラッシュしました。成功してからチェーン店が声をかけてきたものの、「もう遅い」という話だったそうです。
現在は約450店舗で、カナダでもローンチしています。年内には1000〜1500店舗ほどになる予定だといいます。
ハンバーガーの先にある「YouTuberのためのレストラン」
宮武さんは最初、MrBeast Burgerは一時的なものではないか、ミスタービーストさんのハンバーガーを食べ続ける人はいるのか、と考えていたそうです。しかし、ミスタービーストさんの発言などから、戦略が少しずつ見えてきたといいます。
ミスタービーストバーガーっていうのはレストランというディストリビューション戦略で。
MrBeast Burgerによって、全米に食べ物を届けられる拠点ができました。宮武さんは、この拠点を使えば、食べ物だけでなくグッズやローカル商品、限定グッズを販売するインフラにもなると見ています。
さらに大きな話として、宮武さんは、ミスタービーストさんが他のクリエイターとのコラボに乗り出すはずだと予想します。最終的には「ビーストバーガー」という名前ではなくなり、YouTuberのディストリビューションレストランになるという見立てです。
つまり、どのYouTuberでも、一から店を作らずに全米で食べ物をローンチできるインフラができたということです。草野さんも、今から始めても追いつくには相当な時間がかかると話しています。
宮武さんは、将来ジミーさん自身がコンテンツを作りたくなくなり、ミスタービーストさんのメニューが消えたとしても、ほかのYouTuberがいればビジネスは続くと指摘します。
結局彼がお金儲けし続けられるんですよ、これだと。
草野さんは「日本の誰かがやった方がいい」と反応し、宮武さんも「絶対誰かやった方がいい」と応じます。草野さんは、ここまでビジネスに意欲的なクリエイターは世界的に見ても突出していると話しています。
「Finger on the App」と、次世代のゲームショー
3つめの取り組みは、ミスタービーストさん自身のブランドとして作ったゲームアプリ「Finger on the App ── 画面に指を置き続け、最後まで離さなかった人が賞金を得るスマホゲーム。ミスタービーストさんの企画として話題になりました」です。去年と今年に実施されました。
ミスタービーストさんの動画は、ゲームで最後まで勝ち残った人がお金や車、家をもらえる企画が中心でした。Finger on the Appは、その形式をアプリにしたものです。
初回はMISCHIEFという会社と組み、参加者全員が同時にスタートして、最後までアプリに指をつけていた人がキャッシュをもらえるという内容でした。草野さんは「めちゃめちゃくだらないけど、めちゃめちゃ人気」と笑います。
2回目も大成功し、イカサマを防ぐ取り組みにも力を入れていたといいます。今年の回では、優勝者に1000万円が渡されました。
宮武さんは、ミスタービーストさんを「次世代のゲームショー番組」と捉えています。そして、それをさらにスケールさせる方法がアプリだと考えています。
彼って絶対今自分のスマホゲームのスタジオ作ってるんですよ。
その根拠として宮武さんが挙げるのが、ミスタービーストさんが最近取得したbeastgames.comというドメインです。サイト名は「Mr.Beast Apps」で、複数形の「s」がついていることから、複数のアプリを作るつもりだと読み取れるといいます。
宮武さんは、メイン動画1本に1億円かかることもある以上、アプリを作った方が安い場合があると指摘します。アプリは誰でも参加でき、続けて遊ばれるのでマネタイズもでき、ミスタービーストさんの名前を知らない人でもダウンロードしてくれる可能性があります。
1本に1億円かかることもあり、広告収入では賄えず赤字になっている
場合によっては動画より安く作れ、誰でも参加でき、遊ばれ続けることで継続的にマネタイズできる
ゲームから新しい人を集め、最終的にメインチャンネルの登録につなげられれば、ミスタービーストさんにとっては良い流れだと宮武さんは見ています。
さらにミスタービーストさんは、このゲーム事業のために別会社の社長を探していると明かしているそうです。草野さんは宮武さんに立候補を勧めますが、宮武さんは「ゲーム会社の人がならないといけない」と笑って返します。
ミスタービーストさんが組むタレント会社ナイトメディアには、元YouTubeのディレクターレベルの人物が創業者の一人にいるといいます。また、詳細は明かされていないものの、ミスタービーストさんは別の会社も作っており、その社長の採用を進めているそうです。
動画に出る「友達」を探し、キャラクターを増やす
草野さんは、動画を撮って出演し、会社を作り、ハンバーガー店まで手がけるミスタービーストさんに「本当に仕事ができる人」と驚きます。宮武さんによると、それでもミスタービーストさんのメインフォーカスはメインチャンネルだといいます。
ミスタービーストさんの動画には、5年ほどほぼずっと一緒に出ている友達グループがいます。ミスタービーストさんは、彼らにもそろそろ休みが必要ではないかと考え、動画に出てくれる新しい友達を探しているそうです。
本当に仲良くなれないと一緒に動画って作れないんですよ。彼、Mr.Beastに関しては。結構その場合によっては4、50時間一緒にいる人たちなので、仕事感覚だともうできない。
ミスタービーストさんはLAではなくノースカロライナに住んでおり、地元の友達しかいないため、新しい出会いが少ないという事情もあるといいます。
最近のミスタービーストさんの動画では、編集スタッフが出演してチャレンジをするなど、少しずつ新しい人を紹介し始めています。宮武さんは、キャラクターを増やそうとしているのではないかと見ています。
草野さんは、日本の芸人や芸能人のYouTubeでもマネージャーが出ると再生回数が伸びることがあり、TikTokでもマネージャーのアカウントをよく見かけると話します。
宮武さんは、これこそがスケールさせる方法だと指摘します。マネージャーが頻繁に動画に出るようになると、やがて自分のチャンネルを持ち、ビジネス面の話など新しいコンテンツを作れるようになるからです。
一人に依存しない「クリエイターカンパニー」へ
宮武さんは、一人のクリエイターが複数のキャラクターを生み、そのキャラクターがさらにコンテンツを作り、すべてがメインの会社につながる仕組みができつつあると話します。うまくいけば、ミスタービーストさん本人がクリエイターを降りても、持続可能な会社になる可能性があります。
その代表例として宮武さんが挙げるのが100 Thieves ── アメリカのeスポーツ・ライフスタイル企業。人気クリエイターを抱え、アパレルなども展開していますです。最近、主要なクリエイター2人がオーナーとして加わったというニュースも、この流れを示していると見ています。
草野さんは、エマ・チェンバレンさんのVlog系と、ミスタービーストさんの企画系は違うものの、どちらにも魅力があると振り返ります。作り込まないように見えるエマ・チェンバレンさんも編集が非常にうまく、作り込むミスタービーストさんにもフレンドリーさや慈善活動があるということです。
作り込まないVlogで、ノーメイクや弱みまで見せ、身近な友達のような親近感を作る
大がかりでふざけた企画をしつつ、フレンドリーさや慈善活動で愛嬌と信頼を作る
宮武さんは、次世代のクリエイターになるには親近感を作れない限りオーディエンスはついてこないと話します。そのうえで、2人が違うやり方で親近感を作っていることに、いろいろな可能性があると締めくくっています。
まとめ
エマ・チェンバレンさんはありのままの姿を見せるVlogで信頼を築き、自分の日常に根ざしたコーヒーやスキンケアのブランドへつなげています。ミスタービーストさんは巨額の企画動画を軸に、サブチャンネル、MrBeast Burger、投資、ゲームアプリへと事業を広げ、自分一人に依存しない仕組みを作ろうとしています。
- エマ・チェンバレンさんの人気の核は、自虐ネタやノーメイクで弱みまで見せる「オーセンティシティ」
- チェンバレンコーヒーは、Vlogで日常的にコーヒーを飲む本人像と重なるからこそ自然に受け入れられている
- ミスタービーストさんは赤字のメインチャンネルを、サブチャンネルや外部配信の収益で支えている
- MrBeast Burgerは、宮武さんの見立てでは、将来YouTuberが全米で食べ物を出せるディストリビューションのインフラになり得る
- 2人のやり方は違っても、次世代クリエイターに欠かせないのはオーディエンスとの親近感だと語られている





