長すぎた前回からこぼれた話とは?
今回の雑談回は、前回のGoogleのムーンショットを扱った2回分の収録の振り返りから始まります。宮武さんは、後編が長くなりすぎたと感じ、台本の一部をスキップしていたと明かします。
たまに「このセクションはいいや」ってスキップする時もあるんですよ。
もったいないっていうか、話してくださいよ。
宮武さんは、1時間を超えると長いと感じる一方、伝えたいことがあるので話を2つや3つに切るのも嫌がることがあると話します。そこで、前回こぼれた話題を今回の雑談で拾うことになりました。
反論してくれるAIアシスタントは欲しいか
前回、GoogleがAIアシスタントを作るという話をした流れで、宮武さんはOpenAIのサム・アルトマン ── ChatGPTを開発するOpenAIのCEO。生成AIブームを牽引する人物の一人として知られていますがAIアシスタントについて語った内容を紹介します。
多くの人がAIアシスタントと聞いて想像するのは、頼んだタスクをこなし、好みを予想して動いてくれる秘書的な存在です。一方でアルトマンは、スタートアップの経営層に近い従業員のようなAIアシスタントを望んでいるといいます。
時には反論してくれて、時には「これはやるべきではないです」と言い切ってくれるAIっていうのが、いいんじゃないかと言ってたので。
宮武さんは、急いでいるときにAIに断られたらユーザーは苛立つのではないかと問いかけます。草野さんは、用途によって求めるものが違うと答えます。
セラピーとか友達的な存在だったら反対の意見言ってほしいし。(そういうAIが)自分のめちゃくちゃバイアスを整えてくれるというか。
「じゃあこうした方が良くないですか?」っていう提案は欲しいですけど。
議論は、単に拒否するAIではなく、会社のために考えて時には断りつつ代案を出す従業員のようなAIなら受け入れられる、という方向に落ち着きます。
頼まれたタスクに応じて動き、好みを予想してパーソナライズされていく
必ずしも要求どおりに動かず、反論や「やるべきではない」との判断、代わりの提案をする
草野さんがAIアシスタントは1つなのかと尋ねると、宮武さんはアルトマンはそこには触れていなかったと答えます。そのうえで、友達のような存在なら複数欲しくなり、複数のAIアシスタントが出てくるかもしれないと話します。
草野さんは、ChatGPTが会話ベースのUIであることから、同じAIでも会話ごとに人格を使い分けるくらいがいいのかもしれないと述べます。宮武さんは、ChatGPTが過去のスレッドを自動でグループ分けし、Stripeの話、プライベート、仕事などのフォルダーにしてくれる未来を想像します。
AIアシスタント同士が勝手に話し始めたら?
宮武さんは、ユーザーがAIアシスタントに話しかける裏で、AIアシスタント同士が会話するのかという論点を挙げます。
草practice野さんは、ChatGPT4o ── OpenAIが2024年に発表したGPT-4oのこと。音声でのリアルタイムな会話に対応したことで話題になりましたが出た際、TikTokで2台のスマホを向かい合わせて喋らせる動画を見た体験を語ります。
何見てんだろう、自分って思い。何のコンテンツを見てるんだろうみたいな、ちょっと虚無感あったんですけど、(動画的には)めっちゃ面白くて。
宮武さんが気にしているのは、アシスタント同士が人間を手伝うために、必要な情報を勝手にやり取りするかどうかです。草野さんにしてほしいかと聞かれ、宮武さんは「許可制」だと答えます。
仕事のアシスタントに、めちゃくちゃパーソナルな情報を入れ込んでも、なんか嫌じゃないですか。
人間も相手によって話す内容を選んでいるように、AIアシスタント同士が話すようになれば、情報を渡す塩梅のコントロールが必要になると宮武さんは指摘します。
メディアはなぜ疑われないのか
草野さんは、番組編集で目次作りやカットをする中で、過去回の内容に後から思うところがあったと切り出します。対象は218話「平均メディア時代の終わりと新域エキスパートメディア」で話した、メディアの信頼性の話です。
その回ではゲルマン健忘効果 ── 自分が詳しい分野の記事の誤りには気づくのに、詳しくない分野の記事は同じ媒体でも信じてしまう現象。作家マイケル・クライトンが名付けたとされますが取り上げられ、メディアには起きても人には起きにくい、という話になっていました。草野さんは、人に対しても同じことが起きると考えたといいます。
自分が信じたいものを引っ張って、それを信じていくっていう。だからその人も信頼できるよねっていうロジックかなと思ってて。
草野さんによれば、過去の言動がめちゃくちゃな人でも、自分にとって正義や真実だと思うことを言っていれば「言ってること合ってる」と感じてしまうのが人間だといいます。
宮武さんは、個人なら知らないトピックで嘘を重ねれば「この人めちゃくちゃだ」となるのに、メディアは不思議と疑われないと応じます。「人じゃない」という旗を立てることで信頼を得ているのではないか、という見立てです。
草野さんは、会社や役職にも「会社でやってるなら、ちゃんとしてるんだろう」という勝手な納得感があると続けます。宮武さんは、監査や認証を受けているはずだという前提を人が勝手に想像していると補足し、草野さんは責任の所在がわからないことも一因だと付け加えます。
組織の旗
「会社でやっている」「老舗のメディア」という看板がある
前提の想像
監査や認証を受けているはずだと受け手が勝手に考える
責任の拡散
誰を責めればいいかわからず、追及されにくい
信頼の獲得
個人なら疑われる発言でも、組織発なら疑われにくい
宮武さんは、実際に書いているのは記者個人なのに組織の旗を立てられるのが強いと述べ、その構図が少しずつ変わってきたからこそクリエイターエコノミー ── 個人のクリエイターが発信や作品を通じて直接収益を得る経済圏。SNSや配信プラットフォームの普及で拡大しましたが出てきたのではないかと話します。
ニューヨーク・タイムズも「ただの会社」?
宮武さんは、以前番組で触れたニューヨーク・タイムズの歴史をたどる本を紹介します。昔から誤った情報やアジェンダのある記事を出していたことを示し、真実を出すメディアというより、インセンティブが働く「ただの会社」だと伝える本だったといいます。
草野さんは、以前紹介した『プアシングス』の「信頼できない語り手」という手法を引き合いに、語り手の視点が本当に正しいのかという問いは世の中全体に当てはまると共感します。
まあ、あと疑うのってめっちゃ体力使いますよね。
宮武さんも、人は常に疑っているわけではなく、どの情報をいつ疑うかを選んでいると認めます。そのうえで、今後AIアシスタントが情報をばらまけば、さらに疑わなければいけなくなると指摘します。
草野さんは、信じられるものがなくなるほど「これだけは本当であってくれ」という宗教性の高いもののニーズが高まると話します。宮武さんは、宗教は多くの場合本当ではないと返しつつ、何があっても真実だと思えるものへの欲求には同意します。
街中のCGI広告はどこまでフェイクか
宮武さんは、CGIの制作コストが下がり、ブランドが街中のスペクタクル的な広告に使い始めたと話します。その日Twitterで見たのは、ニューヨークのブルックリン橋に『ゲーム・オブ・スローンズ』のウェスタロスの旗が掲げられたという動画でした。
宣伝の取り組みだと思ったところ、同じ動画の別の投稿にはTwitterの注釈が付き、CGIだと書かれていたといいます。
もうわかんなくなりますよね。
草野さんは、実際に広告費を出している人はどう思うのかと疑問を投げます。日本でも、広告枠をPhotoshopで加工して「広告を出している風」のクリエイティブを作る人を見たことがあり、失礼だとは思いつつ、その流れは止められない気がすると話します。
宮武さんは、アメリカのビデオポッドキャストで、背景のポスターをCGIでブランドに合わせて作るサービスが出てきていると紹介します。プロダクトプレイスメント ── 映像作品の中に実在の商品やブランドを自然に登場させる広告手法も商品を置かずに済み、過去動画への後入れや差し替えもできるといいます。
この1週間は我々のポッドキャストはLiquid Deathでスポンサーしますけど、来週はコカ・コーラがスポンサーしましたとか、そういうことができるようになってくると、何がリアルなのか、何がフェイクなのかっていうのがどんどんわかんなくなる時代になりますよね。
草野さんは、その反動で全く広告をやらない人が「信頼できる」と評価される波も来そうだと予想します。
AIインフルエンサーにも「終わり」が必要?
宮武さんは、人間が作ったものがレアになれば、そのマークが付いたものだけを集めたメディアが出てきそうだと話します。2年ほど前の回で、AIが95%以上のコンテンツを出す日が来るのかを話したことにも触れます。
「AIコンテンツは本当に面白いのか」という問いに対し、宮武さんはその世界に進むとは考えつつ、ミスタービーストのような人間は出続け、ただ区別がつかなくなっていくと見ています。
やっぱり終わりがあるからこそ面白いっていう。
宮武さんは、ずっと同じことをするインフルエンサーはいずれ飽きられるので、AIインフルエンサーにも成長や進化、場合によっては終わりを表現することが大事だと話します。草野さんは「人はやっぱり物語を求めてしまう」と受けます。
さらに宮武さんは、Tシリーズ対ピューディパイのような順位争いを、急成長中・トップ・下降気味のAIインフルエンサーすべて1社が設計する未来を想像します。ただ自分はビジネス目線だから楽しめるだけで、ファンは冷めるかもしれないとも認めます。
宮武さんは、人間の世界でも事務所がAKBと乃木坂のようにアイドルグループのポジショニングやライバル関係を設計していると指摘します。草野さんは、人が介在しない分AIのほうが設計しやすいと応じ、IPや物語を作る会社がやりそうだと話します。
スター・ウォーズに勝手にビールを入れたCM
宮武さんは、Twitterでバズっていた2003年のチリの広告キャンペーンを紹介します。チリで初めて『スター・ウォーズ』エピソード4〜6が放映された際、ビール会社が通常のCMではなく、映画のシーンそのものに商品を入れ込んだといいます。
例として挙げられたのは、エピソード4でオビ=ワン・ケノービがルーク・スカイウォーカーに父のライトセーバーを渡す場面です。ケースを開けると氷の中にビールが入っていて、それを取り出すシーンに作り替えられていました。
このキャンペーンはカンヌライオンズ ── 毎年フランス・カンヌで開かれる世界最大級の広告・クリエイティブの祭典。優れた広告作品に賞が贈られますで賞も取ったものの、翌年にはジョージ・ルーカス本人から訴えられ、ルーカスフィルム側が勝訴したと宮武さんは語ります。
「ブランドがここまでIPに入り込んでいいのか」っていう線があると思うんですけど、それを割と無視した案件だったんですけど。
著作権切れの名作にブランドを詰め込んだら
似た事例として宮武さんが挙げるのが、MSCHF ── ニューヨークを拠点とするアート集団・企業。風刺的で話題性の高いプロダクトやプロジェクトを次々と発表していますの「ブランドブック」というプロジェクトです。著作権が切れた『高慢と偏見』『不思議の国のアリス』『宝島』などに、ブランドを大量に入れ込んだといいます。
『不思議の国のアリス』では、冒頭でアリスが本を読む場面が「Kindleで読んでいる」になり、ティーパーティーではアリゾナアイスティーが使われているそうです。ほかにもApple、ゲータレード、ソイレント、チーズケーキファクトリー、リフトなどが登場するといいます。
初めて読む人はまあまあ困惑すると思うんですけど。
ただし、作品の著作権は切れていても、ブランド側の許可は取っていないので「多分ダメ」だと宮武さんは話します。草野さんは、昨年ごろ著作権が切れた『グレート・ギャツビー』を5時間ほどかけて全文朗読するポッドキャストがあり、それはいいと思ったと紹介します。
コーヒーは体に良いのか悪いのか
草野さんは、114回の希少性のあるコンテンツの回で、文脈とニュアンスの希少性や、アメリカの死因ランキングの背景に医師不足や衛生状態があった話を聞き、健康問題はコンテキストとニュアンスの話だと感じたといいます。
何したら健康になれるとか、コーヒー飲んだら健康になれるとか、もしくはコーヒー飲んだらダメとか。
運動、お酒、赤ワイン1杯など、健康情報には正反対の主張が並びます。草野さんは、体質や状況など要因が多すぎるため、健康関係の仕事はある意味一生あり続けるだろうと話します。
宮武さんは、昔は石炭の環境への悪影響を知らなかったような技術的な理由のパターンと、研究を重ねた結果どちらの答えも出てくるパターンがあると整理します。そして、自分が信じたいデータポイントを取りやすくなっていると指摘します。
コーヒー飲んでるから健康だわ。
宮武さんは、いろんなライフスタイルに合わせた研究があるからこそ、自分のやっていることを正当化する材料として受け入れられるのかもしれないと話します。草野さんは、情報を選ぶ側のマインドが試されると受け止めます。
宮武さんは、Off Topic自身も情報をキュレーションしている以上、選んだデータより選ばなかったデータのほうが多く、バイアスがかかっていると認めます。
「犯罪は増えているように感じる」はファクトか
宮武さんは、2015年ごろのアメリカの政治家の発言を紹介します。FBIが出している犯罪率の統計は年々下がっているのに、その政治家は犯罪が増えていると主張していました。
CNNなどのメディアの記者がFBIのデータを示すと、政治家は「増えているように感じるからそうだと思う」と答えたといいます。
FBIの犯罪率統計は年々下がっている
政治家は「増えているように感じるから」増えていると主張する
草野さんは、住んでいる地域で体感しているという意味なら理解できると返しますが、宮武さんは、政治家本人は守られていて体感していないはずだと見ます。自分のナラティブのために何人かの話を集め、一部のメディアが報じれば「メディアも言っている」と言え、最後はそれも無視して「そう感じる」と言い切れることに驚いたといいます。
草野さんは、感情的な部分も大事なので、データと同じ土俵で戦わないほうがいいかもしれないと述べ、N100とN1の話は違うと指摘します。宮武さんは、自分としては間違った話だと思いつつ、それが主流になり始めていることを「すごい現象」だと語ります。
単純に今までそれ(感情ベースの思い込み)を見えてきてなかっただけだと思うんですよ。
一方で草野さんは、データポイント自体が間違っていることもあると指摘し、宮武さんは「たまにじゃない」と強調します。データが間違えば「データなんか信じられない」となり、陰謀論が当たっていることもあるため、世の中は難しいと二人は話します。
矛盾がいっぱいあって、その中で矛盾だらけの人間が動くっていうところですよね。
草野さんはそれこそが人間の面白さだと応じ、宮武さんはAIが冷静に見たらどう思うのか、だからターミネーターのような世界観を描くのかもしれないと締めくくります。
まとめ
AIアシスタント、メディア、フェイク広告、健康情報、犯罪統計と話題は広がりましたが、どの話にも人は信じたいものを信じるという共通点がありました。情報があふれるほど、受け手の選ぶ力が問われていきそうです。
- サム・アルトマンは、反論や提案をする従業員のようなAIアシスタント像を語った
- メディアや組織は「人じゃない」看板によって、個人より疑われにくい
- CGI広告や無許可のブランド挿入で、リアルとフェイクの境界がわかりにくくなっている
- 健康情報は正反対の研究があり、人は自分に都合のいいデータを選びやすい
- 「そう感じるから」とデータより感情を優先する主張が、目に見える形で広がっている




