決済の会社に、なぜ気候の責任者がいるのか?
このエピソードは、宮武徹郎さんがStripeのイベント「Stripe Sessions」に招かれ、会場でStripeのHead of Climateであるナン・ランソホフさんに話を聞いたインタビューです。
ランソホフさんはStripeで気候分野全体を率いています。担当範囲は、Stripeユーザー向けのプロダクト「Stripe Climate」と、複数企業による炭素除去の購入枠組み「Frontier」の両方です。どちらも「炭素除去の市場をどうつくるか」という一つのテーマに向けた取り組みだと説明されています。
決済企業がなぜ気候の責任者を置くのかという宮武さんの質問に、ランソホフさんはStripeを「インターネットのインフラを作る会社」と位置づけて答えます。Stripeの事業は経済成長そのものに関わっており、その経済成長を最も妨げうる要因の一つが気候変動だという見方です。
そのためStripeは、長期的な視点で見れば気候は自社のミッションの中核にあると考えているそうです。ランソホフさんの仕事は、気候変動が将来の経済の足かせになる可能性を小さくするために、Stripeだからこそ引けるレバーを見つけて引くことだと語られています。
100万ドルから10億ドルへ。Stripe ClimateとFrontierはどう生まれた?
ランソホフさんによると、Stripeの気候の取り組みはすべてつながっています。共通する目標は、炭素除去の市場をつくることです。
Stripe Climateは、Stripeユーザーが売上の一部を簡単に炭素除去へ回せるプロダクトです。集めた資金はまとめて、炭素除去をコストカーブ ── 生産量が増えるにつれて単位あたりのコストが下がっていく曲線。初期の高価な技術でも、購入が続けば量産効果で安くなっていくという考え方を表しますの下流へ押し下げるための購入に使われます。
Frontierはその延長にある仕組みです。Stripe本体とStripe Climateユーザーの資金に加え、Alphabet、McKinsey、Shopify、Meta、JPMorganなどが資金を出し合い、総額は10億ドルを超えています。
始まりは2019年、Stripeが永続的な炭素除去の購入に100万ドルを投じた小さな企業コミットメントでした。ここで重要なのは、投資ではなく「購入」だった点です。株式を取得するのではなく、技術がまだ初期で高価でも、提示された価格で炭素除去を買ったといいます。
この100万ドルの購入に、炭素除去のコミュニティは予想外に好意的に反応しました。ランソホフさんはこれを、100万ドル程度でも大きな意味を持つほど、この分野が顧客に飢えていた証拠だと受け止めています。
同じ頃、Stripeユーザーからも「気候のために何かしたいが、何をすればいいかわからない。お金を送るから使い道を考えてほしい」という声が届きました。これが第2段階のStripe Climateにつながり、規模は100万ドルから数千万ドルへ広がります。
さらに約2年半前、チームは炭素除去市場を一段引き上げる案を出し合いました。多くの案を却下するなかで最後まで残ったのが「事前買い取り保証(AMC)」で、これがFrontierになったと説明されています。
3つの段階に共通するのは、政策が追いつくまでのあいだ、需要側から炭素除去の市場をつくるという考え方です。
(Frontierでは)手数料は取らずに、売り買いを仲介しているだけなんですよね?
宮武さんの確認に、ランソホフさんは「まさにそのとおり」と応じます。需要を先につくって供給側の技術革新と規模拡大を促す仕組みは「デマンドプル」と呼ばれます。投資家も市場の見込みがあるから投資を始められる、という構図です。
ただしランソホフさんは、炭素除去に必要な規模を考えると、最終的には政策が資金を担うことになるだろうとも話しています。Stripeたちの役割は、この産業を最良の軌道に乗せて「一塁まで進める」ことであり、その先は政策が運ぶ必要があるという整理です。
排出削減ではなく、なぜ炭素除去なのか?
宮武さんは、Stripeが排出削減ではなく炭素除去を選んだ理由を尋ねます。難しい問題ほど挑みたがるパトリック・コリソンさんとStripeチームの気質によるものなのか、それとも別の理由があるのか、という問いです。
ランソホフさんはまず、気候対策の努力の9割ほどは排出削減に向けられるべきで、炭素除去だけで気候変動は解決しないと前置きします。そのうえで炭素除去を選んだのは、「重要さのわりに注目が最も少ない問題」を探した結果だと説明しています。
ランソホフさんによれば、気候の目標は、現在約50ギガトンある世界の排出量を2050年までにネットゼロ ── 温室効果ガスの排出量と、吸収・除去量を差し引きでゼロにする状態。排出を完全になくすのではなく、残った排出分を除去で相殺する考え方を含みますにすることです。そのためのレバーは、そもそも排出しないことと、大気からCO2を吸い出すことの2つです。
両方とも大規模に必要ですが、特に遅れているのが後者の炭素除去です。理由は、炭素除去がエネルギーなどと違い、エンドユーザーにとってそれ自体の価値を持たないからだとランソホフさんは話します。
本来の価値がない
炭素除去は、使う人に直接の便益をもたらさない
買い手がいない
お金を払って買う理由を持つ人がいなかった
企業が生まれない
顧客の見込みがなければ、起業する人も投資する人もいない
Stripeの購入
価格を問わず「買う」ことで、この循環を断ち切ろうとした
「100万ドルに誰かが関心を持つ」という事実そのものが、炭素除去が重要さに比べて資金不足である良いシグナルだった、とランソホフさんは振り返ります。ほかの分野を軽視しているのではなく、大きな問題があり、かつStripeが市場を立ち上げるのに独自の立場にいる場所を選んだという説明です。
買い手側の変化についても話が及びます。多くの企業や国は、排出量を測る、できる限り減らす、残りに対処する、という3要素からなるネットゼロ目標を掲げています。ランソホフさんは、3つ目の「残りに対処する」部分が、ほとんどの企業や国でまだ曖昧だと指摘しています。
ごく最近まで炭素除去の買い手は数社しかいませんでしたが、今は増え始めているそうです。依然として大きく不足しているものの、解決策を将来使えるようにするには今から買い始め、量を増やしコストを下げる必要があると、多くの人が気づき始めているといいます。
木を植える以外に、どんな炭素除去があるのか?
宮武さんは、炭素除去と聞くと多くの人は植林を思い浮かべるものの、植林には限界があると話を向けます。ランソホフさんも、植林や土壌への炭素貯留は解決策の一部になると認めたうえで、植えられる耕作地の面積には限りがあると指摘します。
もう一つの論点は永続性です。ランソホフさんは、大気に放出したCO2はそこに永続的にとどまるので、取り除くのも永続的でなければならないと説明します。
そのためFrontierが求める解決策には、3つの条件があります。1000年以上の永続性があること、今は無理でも将来低コストかつ大量に実施できる道筋があること、耕作地に制約されないことです。
ランソホフさんは、炭素除去の分野で企業やアプローチの多様性が大きく広がっていることを面白さとして挙げ、いくつかの例を紹介しています。
| アプローチ | 仕組み | 特徴 |
|---|---|---|
| 風化促進 | 岩石をスポンジのように使い、大気中のCO2を吸わせる | 地球の炭素の多くは岩石圏にあり、自然の働きを加速させる |
| バイオマスの熱分解・地中貯留 | トウモロコシの茎葉などの廃棄バイオマスを無酸素で加熱してバイオオイルにし、地下に注入する | 光合成で植物がすでに吸った炭素を永続化する |
| 直接空気回収(DAC) | 巨大なファンで大気からCO2を吸い出す | 最も「絵になる」手法 |
| 海洋・河川 | 河川での風化促進に相当する手法などを模索中 | 大きな可能性があるとして注目が高まっている |
| 既存産業の活用 | 銅やニッケルの鉱山の残土、セメントの生石灰の残りをCO2の吸収源にする | 低コスト化のために、既存の産業工程を少し変える発想 |
特にランソホフさんが「まだ見過ごされている」と見ているのが、大規模な産業との組み合わせです。将来炭素除去を本当に安くしたいなら、既存の産業工程に相乗りして少し手を加える方法がないかに関心があるといいます。
たとえば鉱山で銅やニッケルを掘ると、鉱滓 ── 鉱石から目的の金属を取り出したあとに残る岩石の粉や残土。英語ではマイン・テーリングと呼ばれ、鉱山の周辺に大量に積み上げられていることが多いですと呼ばれる大きな岩の山が残ります。この古い鉱滓をCO2の吸収源に変えられないか、という問いが紹介されています。
支援先はどう選び、どこまで伴走するのか?
宮武さんは、Frontierのチームが支援先の企業をどこで見つけ、どう選んでいるのかを尋ねます。ランソホフさんは、イノベーションはどこからでも生まれるので出どころを予測するのは難しいと答えます。そのうえで、AMCの利点として、炭素除去に取り組むスタートアップへ広く一般公募を出せる点を挙げています。
選定の際には、4つの観点で企業を見ているといいます。
実際には企業を訪問し、多くの専門家に話を聞きます。チームには6人の博士号保持者がいて、かなり深く調べるそうです。ごく初期の企業向けの枠と、後期の企業向けの「オフテイク」の枠があり、企業の現在の段階に合わせて振り分けています。
支援先との関係について、ランソホフさんはFrontierの目的は企業の成功だと答えます。取り除く障害のなかで最も大きいのは、Frontierが顧客になることです。加えて、政策、測定と検証の課題、重要な人材の採用でも支援しているといいます。
手厚く伴走すると支援できる企業数が限られるのでは、という宮武さんの問いには、今のところそれが制約にはなっていないと答えています。複数の企業に共通する問題を見つけて解決することを優先しているためです。
その例が、昨年アメリカで立ち上げを手伝った「Carbon Removal Alliance」です。多くの企業から共通して聞いた政策面の悩みを受けて生まれた組織で、Frontierが運営するのではなく、企業自身が手を組んで政策に働きかける自立した組織になっています。
チームは16人で、一人が複数の領域を担当する流動的な体制です。ランソホフさんはメンバーを大きく3つに分けて考えています。
| 役割 | 担うこと | メンバー |
|---|---|---|
| スティッチャー(クォーターバック) | Lithos、Charm、Heirloom、CCIなどとの個別の案件を担当し、結論まで責任を持つ | 博士号保持者と商業寄りの人材 |
| 領域の専門家 | 科学、政策、金融、法務、広報に深く通じ、多くの案件に呼ばれる | 各分野の専門家 |
| プロダクトチーム | デザイン、プロダクト、エンジニアリングで全体を運用し、ウェブサイトやツールを作る | 少人数のチーム |
スティッチャーについて宮武さんが「VCのような存在ですか」と聞くと、ランソホフさんは「そんな感じです」と応じています。スティッチャーが横断的に動き、専門家が縦に深く掘る、という役割分担です。
32社の支援先と、事前購入からオフテイクへの「卒業」
Frontierの支援先は32社です。Stripe Climateを通じて支援した企業も含めると、正確な総数はわからないものの、ランソホフさんの推測では40社台半ばになるそうです。
32社のうち4社がオフテイク枠、残りが事前購入枠です。オフテイク枠の4社のうち2社は事前購入枠から始まり、かなり短期間でオフテイク枠に「卒業」したといいます。ランソホフさんはこれを有望な兆しと見ています。
具体例の一つが、昨年12月に5300万ドルのオフテイクを仲介したLithos ── 風化促進を手がける炭素除去のスタートアップ。玄武岩の粉を農地にまく手法で、炭素を鉱物として固定することを目指していますです。採石場ですでに細かく砕かれた玄武岩を農場へ運び、農家が農業用石灰の代わりに畑にまきます。作物の収量を上げながら、炭素を取り除く方法です。
Lithosの手法は、有機物として土に炭素をためる方法とは違い、炭素が鉱物化するので永続的に除去されます。ランソホフさんはこれを「かなりローテクな企業」の良い例と呼びつつ、最も難しいのは測定だと話しています。屋外の開かれた環境で行うため、実際にどれだけ除去できたかを確かめにくいからです。
Lithosの革新は、採石場の廃棄玄武岩と農場を結びつけたことと、測定・報告の手法を生み出したことの両方にあると説明されています。
もう一つの例はCharm Industrial ── 廃棄バイオマスを熱分解してバイオオイルにし、地下に注入して炭素を固定する炭素除去のスタートアップです。トウモロコシの茎葉に限らず、農業や森林の残渣など廃棄されるバイオマスを使い、バイオオイルとして地下に戻しています。
LithosとCharm Industrialはどちらも、Frontierが事前購入で最初の顧客になり、3年足らずで最初のオフテイク先にもなった企業です。
通常50万ドルを、除去の実績が出る前に前払いする。研究室を出たばかり、あるいはまだ研究室の中にある初期の企業向け
企業が供給できた場合に、決まった量の炭素除去を決まった価格で買う法的拘束力のある契約。多くは複数年にわたる
オフテイクでは「この年に何トン、次の年に何トン」と約束するので、その意味ではFrontierが継続して顧客であり続けます。すべて納品したうえでさらに供給できるなら追加購入も検討するものの、まだその段階には至っていないそうです。
炭素を「どれだけ減らしたか」はどう測るのか?
宮武さんは、Lithosの例で出た測定の問題に触れます。気候変動の取り組み全体で、実際にどれだけの炭素を除去・相殺したかを追跡し確かめることが課題になってきた、という問題意識です。
(測定には)もっと基準が必要だと思いますか?どういう道筋で進めていくべきなんでしょう。
ランソホフさんによると、この分野では測定・報告・検証をまとめてMRV ── Measurement, Reporting and Verificationの略。炭素の削減量や除去量を測定し、報告し、第三者などが検証する一連の仕組みを指しますと呼びます。炭素除去は手法がばらばらで、しかも新しいため、測定方法も手法ごとに異なります。
圧縮機から出てくるCO2の流れを測ればよく、測定はとても簡単
海にマグネシウムを入れる、畑に玄武岩をまくなど。安くなりやすいが測定が難しい
オープンシステムに対しては、不確実性の幅を考えるアプローチをとっているそうです。確実にわかる部分とわからない部分を切り分け、納品されたトン数を適切に割り引くことで、カウントする分には高い確信を持てるようにします。
手法ごとの手順書や全体の基準づくりは進んでいるものの、ランソホフさんはこの状況を「飛びながら飛行機を組み立てている」と表現しています。良い手順書をつくるには試す技術が必要で、多くの企業はちょうど実際にトン単位で除去を納品し始めた段階です。そのため、今後2〜4年で測定と報告の知見は段階的に大きく進むと見ています。
測定の負担を誰が負うのかという質問には、Frontierがオフテイク契約を結ぶとき、除去そのものだけでなくMRVの費用も価格に含めて支払っていると答えています。MRVはDACでは安く、風化促進では高くつきますが、検証済みの1トンを得るには両方を価格に織り込む必要があるという考え方です。
Frontierは手順書づくりでも企業と多くの時間を使い、最終的に検証に用いる手順書を承認しています。一方で、空白を埋める他のプレイヤーも増えており、コミュニティ全体で前に進めようとしていると話されています。
ワクチンから借りた「事前買い取り保証」とは?
宮武さんは、需要側のプールについて、AMCとは何か、どこから着想を得たのかを尋ねます。ランソホフさんは、この考え方はワクチンから借りたものだと答えています。
2000年代半ば、低所得国向けの肺炎球菌ワクチンが求められていました。しかし製薬会社は、最終的な買い手が開発費を回収できるだけの額を払えるか不安で、開発と量産に動けなかったといいます。
そこで経済学者の発案により、政府や慈善団体が資金を出し合い、「仕様を満たすワクチンを開発して量産できれば市場がある」と製薬会社に示しました。この仕組みは機能し、おそらく本来より何年も早くワクチンが開発・量産されたとランソホフさんは説明しています。アメリカの新型コロナワクチン開発を後押ししたOperation Warp Speed ── 2020年にアメリカ政府が始めた新型コロナワクチンの開発・製造を加速する計画。開発前から製造や購入の資金を確保しましたにも、ある程度この考え方が使われたそうです。
ただし炭素除去に当てはめるにあたって、いくつか大きな修正が必要だったといいます。
| 観点 | 肺炎球菌ワクチンのAMC | 炭素除去のAMC(Frontier) |
|---|---|---|
| 買い手 | 慈善団体と政府 | 大企業 |
| 供給者 | 資金力のある大手製薬会社 | 自力で施設を建てられないスタートアップ |
| 契約の形 | 施設建設のための追加資金は不要 | 銀行融資を受けやすくするためのオフテイク契約 |
| 資金の規模 | 15億ドルで製品が実現した | 10億ドルではコストを数段下げるにとどまり、1トン100ドル未満までは届かない |
オフテイク契約があれば、供給者は銀行に「この施設を建てれば代金を払う人がいる。融資してほしい」と言えます。これが構造上の修正だったといいます。
資金規模の違いから、FrontierのAMCは従来のAMCより少しリスクが高いかもしれない、とランソホフさんは認めています。それでも1000億ドルを集めるのは現実的な選択肢ではなく、10億ドルを選んだと話しています。宮武さんが「もしかしたら(集められたかも)」と返すと、「政府からならね」と応じる場面もありました。
宮武さんは、ワクチンは広く知られて成果も明確な一方、気候分野は新しく、プロセスも理解されていない分だけリスクが高いのではと指摘します。ランソホフさんは、経済学者はそれを「技術的距離」と呼ぶと答え、ワクチンは炭素除去よりその距離がずっと短かったと認めます。
一方で、岩石なのか、DACなのか、海洋アルカリ度の向上なのかが決まっていないことは、逆にAMCが向いている理由でもあるといいます。「永続的で、低コスト・大量供給への道筋があれば、形は問わない」と技術中立 ── 特定の技術を指定せず、成果の条件だけを示して手段は提案者に任せる考え方な呼びかけができるからです。ランソホフさんはこの点をAMCの大きな強みだとしています。
勝つのは1つの技術か、多様な組み合わせか?
宮武さんは、最終的に1つか2つの解決策が勝ち残るのか、5〜10種類やそれ以上の多様な組み合わせになるのかを尋ねます。
ランソホフさんは、実際のところは言い切れないとしたうえで、数字の大きさに注目します。IPCC ── 気候変動に関する政府間パネル。各国政府が参加し、気候変動の科学的知見を評価して報告書をまとめる国連の組織ですの中央値のシナリオでは、2050年までに年間約60億トンの除去が必要で、これはアメリカが毎年排出している量とほぼ同じだそうです。
あまりに大きな数字なので、ポートフォリオ型になる可能性が最も高いとランソホフさんは見ています。廃棄玄武岩や廃棄バイオマスがどれだけあるかにも限りがあり、どの技術にも強みと弱みがあるからです。
ランソホフさんは再生可能エネルギーにたとえ、太陽光だけ、原子力だけにはならないのと同じで、地域ごとに必要なものも条件も違うと説明します。うまくいかない解決策も見つかるだろうが、それでも多様なポートフォリオになるというのが最善の推測だと話しています。
宮武さんは、DACが今はとても高価な例を挙げ、コストが長く最大の課題になるのではと尋ねます。ランソホフさんは、コストは一部で下がり始めているものの、この分野は実質6年ほどの歴史しかない「ハードテック」だと答えます。
多くの人が問題に気づいたのは2018年のIPCC報告書を読んでからで、そこから仕事を辞め、共同創業者を探し、最初の工場を建てる必要がありました。まだ本当に始まったばかりだ、という認識です。
それでもランソホフさんは、スプレッドシート上で正しく見えることが現実でも正しいとは限らないと付け加えています。学びながら進めるしかなく、うれしい驚きもあれば、実際にはもっと難しいこともあるだろうと話しています。
サステナビリティは「我慢」ではなく「切り離し」なのか?
宮武さんは、自身の番組の過去回でサステナビリティを扱ったことに触れながら問いかけます。サステナビリティは「自分たちを制限し、何かをやめること」として語られがちだが、技術を使えば同じ量の消費を続けながら、より良いやり方でできるのではないか、という考えです。
(サステナビリティは)ネガティブに見られがちなんですが、もっと楽観的な光で見たいんです。
ランソホフさんは「とてもうまく言ってくれた」と応じ、宮武さんの見方は広がりつつある潮流をとらえていると話します。
反消費的で、少しネガティブな光で捉える
経済成長と排出をどう切り離すか。もっとエネルギーを使いながら、環境を損なわない方法を探す
ランソホフさんは、この切り離しは十分に可能だと見ています。最近、Our World in Dataが、成長と排出の切り離しを実現した国々をまとめた優れたチャートを公開したことも紹介されています。
さらにランソホフさんは、途上国に住む多くの人々は本来なら1人あたりもっと多くのエネルギーを使えるべきだとも指摘します。大気や環境を損なわずに皆の生活の質を上げることは十分に可能で取り組める課題であり、今の世代こそがそれを実現する機会を持っていると語っています。
後半は気候について学べる場所の話題になります。ランソホフさんは、気候は実質的に世界経済全体に関わるので、1つか2つの領域を選んで深く掘るのが理想だと話します。そうしないと、あらゆることをすべて学ばなければならなくなるからです。
ランソホフさん自身も、この分野の新参者向けに全体のメンタルモデルを示す記事と、気候分野での仕事の探し方についての記事の2本を書いているそうです。ほかにおすすめとして挙げられたものは次のとおりです。
- Watershedのウェブサイトにある読書リスト
- エズラ・クラインの気候をテーマにしたポッドキャスト
- Heatmapが新しく始めたポッドキャスト
- 気候を深く掘り下げているOur World in Data
宮武さんは個人的にハンナ・リッチーのニュースレターが好きだと話し、ランソホフさんも「素晴らしい人」と同意して、彼女が最近書いた本も勧めています。
排出削減の現場から、なぜ炭素除去へ移ったのか?
ランソホフさんが炭素除去の分野にいるのは4年間です。ただ、気候分野にはもっと前から関わっていて、2012年には排出削減の側で、初期の気候系企業であるOpower ── 電力会社と組み、家庭の電力使用量を比較して省エネを促すサービスを提供した企業。初期のクリーンテックブームを代表する会社の一つですで働いていました。
ほかにもサーモスタットのNestや、より少ない車により多くの人を乗せようとするUberPoolに携わってきたといいます。広い意味では、しばらく前から気候の分野にいたことになります。
炭素除去に入ったきっかけは、2018年のIPCC報告書でした。基本的な計算を学び直すなかで、大量の排出削減に加えて、多くの除去も必要だという点が目に飛び込んできたそうです。
誰がこれに取り組んでいるのか調べると、当時は数社の供給者がいたものの、科学者でもエンジニアでもない自分が最も影響を出せる場所ではないと感じたといいます。そこで供給側から需要側へ視点を移し、政策がない状況で炭素除去の市場をどうつくるかを考え始めました。
ちょうど同じ頃、Stripeが「永続的な炭素除去を買うための100万ドル」というブログ記事を公開していました。ランソホフさんはそれを素晴らしい変化の理論だと感じてStripeと話し、そこから縁がつながって今に至るそうです。
4年間で何を学んだのか?そして支援を求める企業へ
宮武さんは最後に、炭素除去市場に入ってからの4年間で何を学び、何について考えを変えたかを尋ねます。ランソホフさんは「当たり前に聞こえるかもしれない」と前置きして、2つを挙げています。
1つ目は、ほとんど存在しないほど新しいエコシステムでは、一つの役割だけを担いたくても周辺のすべてに目を配る必要があるということです。Frontierもstripe Climateも形式上は「買い手」ですが、MRV、初号機の資金調達、正しいテーマに取り組む企業が十分にいるかまで考えないと、どこかで行き詰まってしまうといいます。
ランソホフさんによれば、Frontierの仕事は単なる購入より、エコシステム全体を支える役割にずっと近いものでした。この学びは、注目が足りず資金に乏しい、ほかの重要な地球規模の課題にも当てはまるだろうと話しています。
2つ目は、特に気候分野では、すべての道が最終的に政策に行き着くということです。民間企業は歴史的に政策を考えることを避けがちだったかもしれないが、それは間違いだとランソホフさんは考えています。
ランソホフさん自身も当初は「自分は政策立案者ではないし、この分野は何も知らない」と思っていたそうです。今も少ししか知らないとしつつ、政策は思っていたよりずっと面白く重要で、取り組みやすく、ブラックボックスでもなかったと振り返っています。気候のような大きな分野では、政策を早い段階から議論の中心に入れる必要があるという考えです。
炭素除去に取り組む起業家やスタートアップへの案内として、ランソホフさんはfrontierclimate.com/applyを挙げています。初期段階の企業向けの枠では年に1回購入を行っており、次のラウンドの発表も近いそうです。
宮武さんが「世界のどこにいても関係ないのか」と聞くと、ランソホフさんは関係ないと答えます。地球規模の課題でイノベーションはどこからでも生まれるとして、すでに支援先の50%以上がアメリカ以外の企業であり、その割合をさらに増やしたいと話しています。
まとめ
決済企業のStripeが炭素除去に取り組むのは、気候変動が長期的に経済成長を妨げうると考え、重要さのわりに注目されていない分野で、買い手として市場の「鶏と卵」の問題を断ち切ろうとしているからです。100万ドルの購入から始まった取り組みは、ワクチンのAMCを応用したFrontierへと広がり、政策が追いつくまでの需要をつくる役割を担っています。
- 炭素除去はそれ自体に価値がないため買い手がいなかった。Stripeは投資ではなく「購入」で需要をつくった
- FrontierはAMCとして10億ドル超の購入を約束し、事前購入とオフテイクの2つの枠で企業の段階に応じて支援している
- 炭素除去の手法は多様で、MRVは手法ごとに難しさが違う。最終的には多様なポートフォリオになる可能性が高い
- ワクチンのAMCとの違いを踏まえ、スタートアップが融資を受けやすいオフテイク契約という形に修正している
- ランソホフさんの学びは、新しい分野では買い手もエコシステム全体を支える必要があり、気候では政策がすべての道の先にあるということ





