ユニコーンを目指す時代は終わるのか、の前にイベント告知
この回のテーマは「ユニコーンを目指す時代が終わるかもしれない」です。時価総額1ビリオン以上の未上場スタートアップを指す「ユニコーン」が、この10年でどう変わったのかを宮武さんが数字で解説していきます。
本題の前に、宮武さんから11月8日(水)の夜に開催するOff Topicのイベント「On Air 2023」の告知がありました。テーマは、番組が3年ほど追いかけてきたクリエイターエコノミーで、レガシーブランドからクリエイターブランドへのシフトを専門家と解説するといいます。
登壇するのは、Night Media のCEOであるリード・ダクシャさんと、日本のトップTikTokクリエイターのバヤシさんの2人です。リードさんはアメリカからの初来日になると紹介されました。
Night Media は、MrBeast ── 登録者数で世界トップクラスのアメリカのYouTuber。大規模な企画動画で知られ、動画以外の事業も手がけていますをはじめ大型デジタルクリエイターを担当するタレントマネジメント会社です。宮武さんは、クリエイターと一緒に新しい事業やブランドを立ち上げる点が特殊で、MrBeastのお菓子ブランド「Feastables」もそのインキュベーションから始まったと説明しています。
バヤシさんについては、世界中のトップクリエイターとコラボしている存在として紹介されました。宮武さんは、ショートフォーム動画の作り方に加えて、ロングフォームにも進むのかが個人的に気になっていると話しています。会場は品川・大崎のTONNEAU TOKYOで、オンライン参加も用意されています。
上場や急成長は本当に幸せなのか?
本題の入口として、草野さんは知り合いの起業家から聞いた話を持ち出します。上場や急成長を目指すより、10人や数十人規模で自己資本でやったほうが幸せなのではないか、という声が周りで増えているというのです。
宮武さんはこの考え方を否定しません。スタートアップは急成長する企業であり中小企業とは違うとしたうえで、資金調達が正しいかどうかは、どんな事業を作りたいかで大きく変わると話しています。
VCから出資を受けるっていうことは、その(エグジットする)規模感がある程度決まってくるので、結構大きな事業を作らないといけないので。
宮武さんが挙げた例は具体的です。いいプロダクトを持つ会社が、5億円で売却できるとします。VC出資を受けていない会社なら創業者が判断でき、創業者自身も大きく儲けられます。
ところがVCが株式の半分以上を持っている場合、5億円での売却ではVCは投資額を回収できません。何百億円で売らないとVC側は儲からないため、創業者にはそのプレッシャーがかかります。今回の話は、そうした大きな会社を目指す人たちに向けたものだと宮武さんは前置きしました。
1ビリオンという線はなぜ引かれたのか
宮武さんによると、ユニコーンとは時価総額1ビリオン、日本円でざっくり1000億円(為替で考えると1400億〜1500億円ほど)の未上場企業のことです。この言葉が生まれたのは2013年11月で、ちょうど10年前にあたります。
言葉の生みの親は、カウボーイ・ベンチャーズのアイリーン・リーさんです。TechCrunchに寄稿した記事「Welcome to the Unicorn Club」で一般化しました。実はOff Topicの第1話でも、この記事から5年が経ったタイミングで、ユニコーンが増えすぎているのではないかという話をしていたそうです。
アイリーン・リーさんは、1ビリオンという数字を選んだ理由も記事で説明しています。仮に400ミリオンのファンドが、ユニコーン企業2社にそれぞれ20%の株式を持って投資していれば、ファンドを1倍回収できる、という計算です。
ユニコーンはレアなので、1つのファンドで投資できるのは1〜2社程度です。それでも見つけられればファンド全体がペイする、というのが1ビリオンの意味でした。
何千社もあるスタートアップの中で年4社なので、まさにレアな存在でした。Facebookのような100ビリオン規模の「スーパーユニコーン」は、10年に1〜3社ほど生まれるというのがアイリーン・リーさんの予測だったといいます。
39社のリストから見える当時のユニコーン像
「当時のユニコーン企業を知りたいか」と尋ねた宮武さんは、39社を早口で全部読み上げました。Fab.com、Gilt、Instagram、Tumblr、Waze、Box、YouTube、Evernote、Airbnb、Square、Uber、Pinterest、Dropbox、Twitter、LinkedInなどが並びます。
おー、知りたいって言ったら全部出てくると思いませんでした。
草野さんはFabの懐かしさに触れつつ、YouTubeのように突き抜けた会社が入っていることを面白がります。宮武さんは、リストを聞けばC向けの会社が多いことに気づくはずだと指摘しました。
一方でアイリーン・リーさんは、これからユニコーンになりそうなビジネスモデルとして、EC、SNSや広告、SaaSのエンタープライズモデルを挙げていたそうです。宮武さんは、当時はまだBtoBのSaaSの時代に入っていなかったからではないかと見ています。
草野さんが「一般消費者がまだインターネットに慣れていなかったのでは」と尋ねると、宮武さんはそれを裏づける数字を出します。39社のうちモバイルファーストの会社は4社しかなかったのです。
創業チームにも特徴がありました。平均3人の共同創業者がいて、6割は過去に一緒に仕事をした経験があり、半分弱は同じ学校に通っていたといいます。
すごい面白かったのが、9割のその当時のユニコーンはピボットしなかったんですよね。
もともとのプロダクトビジョンをそのままやり遂げた会社が9割だったことは、宮武さんにとっても想定外だったそうです。草野さんは、インターネット起業のハードルが高かったぶん、それを越えた人たちが成功したのではと推測し、宮武さんも当時は競争がそこまで激しくなかったので可能性はあると応じています。
「幻の動物」が1200社に増えた?
10年前のユニコーンは、アメリカで39社、全世界でも50社はいなかったと宮武さんは見ています。では2023年7月時点でユニコーンは何社いるのか、というクイズが草野さんに出されました。
草野さんの「数百はいる」という予想に対し、宮武さんはアメリカだけで140社を超えたのが5年前、つまりOff Topic第1話の頃だったと振り返ります。そして今は桁が1つ飛び、全世界で少なくとも1200社いるといいます。
動物園レベルじゃないですか、もしかしたら、じゃあ。
動物園レベル、もう幻じゃないっていう。
10年間で20〜30倍に増えた計算です。時価総額のトップ5は、ByteDance、SpaceX、Shein、Stripe、Canvaでした。草野さんは、女性起業家が率い、アメリカではなくオーストラリア発のCanvaが入っていることに驚いています。
データベースによって数は少し違い、CB Insights ── スタートアップや投資の動向を集計・分析するアメリカの調査会社。ユニコーン企業の一覧でもよく参照されますは1221社、PitchBookは1330社を挙げています。そのうちアメリカが半分ちょっとで650〜700社、2位の中国が170〜270社、3位のインドが60〜80社です。
2021年は「誰でも調達できる」投資環境で、即時配達系などが一気にユニコーンになったといいます。1200〜1400社のうち900社がこの2年で生まれたという数字が、ここからの議論の出発点になります。
上場という出口に700社は並べるのか
宮武さんが最初に挙げた課題は、これだけ多くの会社に出口があるのかという点です。ここでいう出口とは、上場するか、買収されるかのことです。
アメリカのIPO数を見ると、テック業界以外も含めた全体で、2020年は480社、2021年は1000社超、2022年は180社ほど、2023年は100社ほどでした。テック企業に絞ると、その落ち込みはさらに激しくなります。
| 時期 | 上場社数 | 状況 |
|---|---|---|
| コロナ前 | 年40〜50社ほど | 平常時の水準 |
| 2020年 | 58社 | コロナ禍で増加 |
| 2021年 | 124社 | ピーク |
| 2022年 | 2社 | 急減 |
| 2023年(収録時点) | 6社ほど | 低迷が続く |
年50社ほどのテック上場が普通だったとすると、アメリカにいる700社のユニコーンが全社IPOを選んだ場合、全部が上場し終えるまで13〜14年かかります。宮武さんはこれを「バックログ(上場待ちの列)」と呼びました。
草野さんは「上場まで10年以上かかることもあるので妥当では」と返します。しかし宮武さんは、それは今のバックログだけの話で、2023年上半期だけでも30社ほどの新しいユニコーンが出てきていると指摘しました。上場件数をよほど増やさない限り、上場市場だけではユニコーンを捌けないというのが宮武さんの見立てです。
大手テックは1000億円の会社を買えるのか?
もう一つの出口である買収も簡単ではありません。草野さんの言うとおり、1000億円の会社を買収するのは大変です。事例としては、Databricksが2023年にMosaicMLを1.3ビリオンで買収したケースなどがあります。
ただ、Apple、Microsoft、Google、Amazon、NVIDIAのトップ5社は、2023年に入って5社ほどしか買収しておらず、そのうち4社はシードステージでした。MicrosoftのActivision Blizzard(69ビリオン)やNuance(19ビリオン)、AmazonのMGMやiRobot、One Medicalといった大型買収が続いた前年までとは様子が違います。
大手テック企業は株主からコスト削減を求められ、むしろ売却に動いています。Metaは、1ビリオンで買収したカスタマーを250ミリオンで売却し、Giphyも売却しました。
Giphyについて草野さんが「結局買収は成功したのか」と尋ねると、宮武さんはイギリスの独占禁止法の判断でNGが出たと説明し、Meta側は赤字だと答えています。案件によっては、買収が成立しなかった場合に提案した側がお金を払う条件もあり、AdobeとFigmaの件もそうした条件があったはずだと話しています。
アメリカやEU、イギリスの政府機関も大手テックの買収に厳しく、Googleの独占禁止法裁判や、MetaのInstagram・WhatsApp買収をめぐるFTC ── アメリカ連邦取引委員会。独占禁止法や消費者保護を担当する政府機関で、大手テック企業の買収にも目を光らせていますの訴訟も進んでいます。
それでも、買収できる資金そのものはあります。モルガン・スタンレーの分析では、ユニコーンを1社以上買収したことがある上場企業は約40社あり、その資金力を合わせれば1200社すべてを買収できるといいます。
この計算は、ユニコーン全体のもともとの価値5トリリオンが、今の経済環境で半減しているという想定に基づきます。2社以上を買収した経験のある上場企業19社に絞っても、トップ30社のユニコーンを買える計算です。GAFAを外せば資金力は落ちるものの、上場とM&Aを合わせれば出口はあるかもしれない、というのが宮武さんの整理です。
角が生えていないユニコーン、つまり「ただの馬」?
出口よりもさらに根本的な問題として、宮武さんは「そもそもユニコーンの価値があるのか」を挙げます。
本当にユニコーンだったのか。ただの馬だったんじゃないかと。
宮武さんは、新規ユニコーンの数よりも、ユニコーンとしての価値を保てるかどうかのほうが重要かもしれないと話します。実際に、大幅なダウンラウンドや、ほぼゼロでの売却をするユニコーンが出てきています。
代表例が、バーチャルイベントを開催できるツールのHopinです。コロナ禍で大きく伸び、2021年のピーク時には7.8ビリオンの時価総額がつき、有力なVCも付いていました。そのHopinが、コアのバーチャルイベント事業をわずか15ミリオンで売却しました。会社自体はまだ残っています。
ストレージ系スタートアップのClutterもほぼゼロで売却されました。売却に至らなくても、前回ラウンドの評価を投資家が維持できず、次の調達で時価総額を大きく下げるダウンラウンド ── 前回の資金調達よりも低い企業評価額で新たに資金を調達すること。既存株主の持ち分価値が下がるため、避けたがる関係者も多いとされますが増えています。Stripeも2023年にダウンラウンドを行い、Sheinも評価額が半減ほどになりました。
草野さんが「一度評価を下げることで次に頑張れるポジティブ面はあるか」と尋ねると、宮武さんは、結局は正しく評価されるということだと答えます。上場企業の株価は毎日動きますが、未上場企業は調達ラウンドがない限り評価が変わらないため、ずっと上がっているように見えてしまうのです。
あまりダウンラウンドさせたくないっていう株主さんも多いので、(でも)もう株式市場は完全に悪化してしまったので、もうそうするしかないですよねと。
宮武さんは、Coraも大型のダウンラウンドを話し合っていると紹介し、2023年から2025年にかけて、前回ラウンドから8〜9割のディスカウントでダウンラウンドする会社が大量に出てくると予想しています。StripeやSheinのようなトップ企業でも5割オフになるなら、そのレベルにない企業のディスカウントは5割では済まないという理屈です。
キャッシュアウトが迫るユニコーンたち
新規ユニコーン900社という数字以上に「もっと怖い」と宮武さんが言うのが、その若さです。2022年に生まれた約300社の新規ユニコーンのうち25%、約75社はシードからシリーズBの会社でした。通常ユニコーンになるのはシリーズDやEといったレイトステージなので、明らかに早すぎます。
草野さんも「半年前に出たばかり、リリースもまだなのに」という例があったと振り返ります。アメリカでは売上の100倍のマルチプルがつき、10ミリオンの売上で1ビリオンの時価総額になる、という異常値が語られていたそうです。
ほとんどのユニコーンは2020〜2022年に調達しています。宮武さんの説明を順に追うと、キャッシュアウトが迫る構図が見えてきます。
2021年前後に大型調達
多くのユニコーンが資金を集める
手元資金は通常18か月分
延ばしても2〜3年が目安
その後の追加調達がない
2023年4月末時点で約400社(全体の3分の1)が2021年以降調達していない
94%が黒字化していない
売上で資金をまかなえない
キャッシュアウトが増える
2023年後半から2025年にかけて急増が予想される
追い打ちをかけるのがレイオフです。SaaS企業は顧客企業の従業員数に応じて課金していることが多いため、顧客がレイオフをすると既存顧客からの契約が減ってしまいます。
従業員8割切ったってことは、Slackとかの、あのTwitterからもらえる契約って8割落ちてるっていうことじゃないですか。
宮武さんは、X(旧Twitter)を一番わかりやすい例に挙げました。単純計算ではありますが、こうした形でSaaS企業は大きな影響を受けているといいます。
上場企業より未上場企業のほうが多いのは変ではないか
未上場企業の評価が実態とずれているかを確かめるため、宮武さんはBattery Venturesが2022年末に出したスライドを紹介します。時価総額3ビリオン以上、5ビリオン以上、10ビリオン以上の会社の数を、上場企業と未上場企業で比べたものです。
10ビリオン以上が15社、5〜10ビリオンが50社
10ビリオン以上が40社、5〜10ビリオンが60社
未上場ですでに10ビリオン以上の会社が15社もいるのに、過去10年に上場したソフトウェア企業で同じ規模なのは40社しかいません。宮武さんは、数のバランスがそもそもおかしいのではないかと指摘します。
さらに2023年8月時点で、時価総額1ビリオン以上の上場テック企業は537社しかいませんでした。アメリカのユニコーン数(650〜700社)よりも少ないのです。
草野さんが「起業する人が増えているからでは」と尋ねると、宮武さんはいい会社が増えている面はあると認めつつ、それにしても多すぎると答えます。上場企業の数は毎日評価され、最終的な出口でもあるので恐らく正しい。調整の機会がない未上場企業のほうが過剰評価されているのではないか、というのが宮武さんの推定です。本人も「推定でしかない」と断っています。
VCも生き残れるのか?
ユニコーンの過剰評価は、VCファンドにも跳ね返ります。VCは、たとえば10億円の時価総額で投資した会社が1000億円のユニコーンになれば、持ち分が50〜100倍になったとLP(ファンドに出資する投資家)に説明し、次のファンドを立ち上げます。
しかし投資先のユニコーンの価値が1000億円ではなく100億円だったら、ファンドのパフォーマンスは大きく変わります。そのためアメリカでは、VCのファンド調達がとても苦しくなっているといいます。
LP側がちょっと待ちましょうと。君たちが投資してるユニコーンが本当にユニコーンか、ちょっと確かめたいですと。
草野さんは「キャッシュアウトするまでじりじり見ているみたい」と表現しました。アメリカのVC業界では、スタートアップだけでなく「VCが何社生き残るのか」が議論されていて、ユニコーンがユニコーンではなかったという想定では、VCファンドの半分ほどがなくなるのではないかとも言われています。
草野さんは、VCが減れば生き残れるスタートアップも減ってしまうと懸念し、宮武さんもその可能性はあると応じました。ユニコーンの問題はスタートアップ業界だけでなく、VC側にも大きく影響する話なのです。
ちょうど1ビリオンが31%、という偶然ではない数字
なぜ過剰評価が起きたのか。宮武さんは、ユニコーンになること自体が目的になってしまったことが理由の一つだと考えています。
2019年、Lightspeed Venture Partnersのジェレミー・リューさん(Snapchatなどに投資した投資家)が、あるユニコーンのまとめレポートの一節をTwitterで取り上げました。ユニコーンクラブに入っている会社の31%が、ちょうど1ビリオンの時価総額だったというのです。
(ジェレミーさんは)その部分を切り取って、「これはおそらく偶然ではないです」っていうツイートを出したんですよ。
宮武さんもこれに同意しています。本来の評価が700億円だった会社でも、ユニコーンになったほうがいいからと、とりあえず1000億円にしてしまう。PR的にも採用的にも「ユニコーン企業です」と言えたほうが有利だったからです。
これはスタートアップ側だけでなくVC側も同じで、投資先にユニコーンが何社いるかを競い合っていたといいます。宮武さん自身もそうしたツイートをしたことがあり、今振り返ると反省していると明かしました。
ユニコーンの数は、VCが「成功しています」と見せるための指標になってしまいました。宮武さんは、大きな会社を目指すべきではないという話ではなく、スタートアップ業界の成功を「1000億円」に置くべきではないのではないか、と問題を整理しています。
ドラゴンとケンタウロス、ユニコーンに代わる候補
業界ではユニコーンに代わる指標のアイデアがいくつも出ていて、宮武さんは4つを紹介します。1つ目は昔からある「ドラゴン」です。VCが投資した1社のリターンだけでファンド全体を回収できる会社を指します。
たとえば100億円のファンドが、上場時に1000億円になる会社の10%を持っていれば、その会社はドラゴンになります。ただ、後から出資したVCにとってはドラゴンではないかもしれず、VCごとに定義が変わってしまいます。宮武さんは、誰にでもわかりやすいユニコーンの定義と比べ、アイリーン・リーさんはやはりすごかったと話しています。
2つ目は、Bessemer Venture Partners ── アメリカの老舗ベンチャーキャピタル。クラウドやSaaS企業への投資と、その業界分析レポートで知られていますが考えた「ケンタウロス」です。クラウドやSaaS企業を念頭に、ARR(年間経常収益)100ミリオン、ざっくり100億円の年間売上がある会社を指します。
2022年時点で世界のケンタウロスは160社で、ユニコーンより7倍レアです。創業からケンタウロスになるまでは平均8年ほどかかっています。
1000億の価値って誰でもつけられちゃうので。でも100ミリオンの売上ってなかなか嘘ってつきづらい。
ケンタウロスの良いところは、実際のトラクションである売上を見ている点です。ただ宮武さんは、100ミリオンでは足りないのではないかと考えています。上場しているSaaS企業のうちARR200ミリオン以下の6社は、どれも時価総額が1ビリオンを切っているからです。
急に象、そして「ギガコーン」
3つ目は、幻の動物ではない「象(エレファント)」です。VCのエリカ・ウェンガーさんが考えた言葉で、草野さんは「急に現実に戻された」と笑いました。
彼女によれば、ユニコーンはステルスで作られ、パーパスよりスケール、ロイヤルカスタマーより新規顧客、PMFに強くフォーカスする傾向があります。対して象は、パーパスドリブンでコミュニティファーストで、ストーリーのある会社だといいます。宮武さんは、この比較は定義しづらいと感じつつ、象を選ぶ理由はきちんとあると紹介しています。
象は打たれ強く、群れで行動するのでコミュニティ感があり、幻ではなく実在し、地球上でも長生きする動物です。
宮武さんが最も納得しているのは、4つ目の「ギガコーン」です。名前ではなく定義に納得していると前置きしています。Footwork VCのGPが作った定義で、ARR100ミリオンではなく、売上1ビリオンに届くかを見るべきだという考え方です。
| 名前 | 定義 | 宮武さんの評価 |
|---|---|---|
| ドラゴン | 1社のリターンでファンドを回収できる会社 | VCごとに定義が変わり、わかりにくい |
| ケンタウロス | ARR100ミリオン(約100億円) | 売上を見る点は良いが、100ミリオンでは足りないかもしれない |
| 象 | パーパスドリブンでコミュニティファーストの会社 | 理由はあるが、定義しづらい |
| ギガコーン | 売上1ビリオン | 最も納得している |
売上1ビリオンは非現実的だという声もありそうですが、宮武さんは、ユニコーンはそもそも幻の動物なのだからレアであるべきだと話します。アイリーン・リーさんと同じようにファンドのリターンから計算することもできます。
上場SaaS企業の売上マルチプルは6〜7倍ほどです。7倍と仮定すると、売上1ビリオンの会社は時価総額7ビリオンになり、今主流の1ビリオン規模のファンドなら、その会社の15%を持てばファンドを1倍回収できます。それくらいの規模の会社に投資しないといけない時代になっている、というのが宮武さんの説明です。
実際にギガコーンは存在します。2003年以降に設立され、売上1ビリオン以上の上場テック企業は64社。未上場では推定12社で、ByteDance、Canva、Fanatics、SpaceX、Revolut、Chime、Shein、Epic Games、GoPuff、Stripe、Databricks、Instacartが挙げられました。
なぜ利益ではなく売上を指標にするのか?
最終的には利益を目指すべきなので、利益を指標にすればいいという意見も出てくるはずです。しかし宮武さんは、会社によってマージンがまったく違い、利益はほとんどの会社が公開していないので追跡できないと説明します。
さらに、いい会社でも上場前に利益を出しているとは限りません。草野さんが「いい会社とは」と尋ねると、宮武さんはAmazonを例に挙げました。
詳しいですね。
まあ、調べてるんで。
Uberも、ようやく最近になって四半期ベースで黒字化しました。大きな会社を作るには時間がかかり、最初から利益を出すことが大事ではないケースもあります。でも売上はどの会社にもあるので、売上1ビリオンを指標に置くべきだと宮武さんは考えています。
売上1ビリオン以上の上場テック企業64社を見ると、ほぼ全社が時価総額1ビリオン以上で、半分以上が1ビリオン以上の利益を出し、約3分の2がフリーキャッシュフローもプラスです。宮武さんは500ミリオンや100ミリオンという説があってもいいとしつつ、売上1ビリオンの会社はしっかり実績を出していると話しました。
草野さんが「VCは保有するユニコーンの数ではなく、ギガコーンの数をアピールすべきか」と尋ねると、宮武さんは言ってもいいと答えています。ユニコーンは必ずしもいい会社とは定義できないが、売上1ビリオンの会社はより「いい会社」と定義しやすいからです。日本の場合は、市場に合わせて100億円の売上など別の定義にしてもいいかもしれないとも話しています。
今のユニコーンの3〜4割は「ゾンビコーン」?
シリコンバレーでは過去1年間、1200社のユニコーンのうち何社が生き残るかという議論が続いています。宮武さんがあるVCから聞いた見立ては厳しいものです。
幻の生き物なのに、もうゾンビになっちゃいます。
この見立てから、宮武さんは「イノベーションは加速しているのか」という以前の議論に戻ります。2014年、アンドリーセン・ホロウィッツ ── マーク・アンドリーセンらが2009年に設立したシリコンバレーの大手VC。テック業界への発信力の強さでも知られていますのマーク・アンドリーセンさんは、ベンチャー業界の構造を次のように説明していました。
アメリカでは年間20〜30ビリオンの出資が4000社のスタートアップに渡り、そのうち15社がユニコーンになって、リターンの90〜97%を生み出す。そしてその15社が150社になるなら、それに見合う規模のファンドが必要だ、という理屈です。
本当の新規ユニコーンが15社なのか、150社なのか、20社なのかによって、大型ファンドが次々に立ち上がった流れの意味も変わります。イノベーションは10年前と比べて思ったほど成長していないのではないか、という仮説も生まれてしまう、と宮武さんは話しています。
何を指標に置くか、会社づくりのアンラーニング
宮武さんがこの回を話したかった理由は、3週間前のエピソードで扱ったエクイティのインセンティブ設計と同じ問題が、スタートアップ業界にもあると考えたからです。この10年、ユニコーンを作ること、ユニコーンに出資することが、なぜか指標になってしまいました。
宮武さんは、1000億円の会社がいけないわけではないとしつつ、「最も早くユニコーンになった」というニュースが本当にいいのか疑問を投げかけます。一方で「最も早く売上100億円、1000億円に達した」なら、そこには実際の数字があります。
この問題はVCや起業家だけでなく、スタートアップで働く人たちにも関わると宮武さんは言います。Benchmarkのビル・ガーリーさんの言葉を引きながら、自分たちの世代は会社づくりの考え方を一部アンラーニングしなければならないと話しました。
スタートアップの雰囲気は変わったのか?
最後に草野さんは、冒頭の起業家の話に戻ります。5年以上前のスタートアップには、グロース、上場、ユニコーンを目指す空気があり、「ユニコーン」という言葉自体がそれを象徴していました。その雰囲気が変わってきていると草野さんは感じています。
もうちょっとカルチャーだったり、会社のビジョンっていうところを重要視した(働き方というか)、経営の仕方っていう方法もある。
宮武さんも、特にこの1〜2年で変わったと同意します。ピーク時から離れたことで、根本的なことを考え直すVCや起業家が増え、「成長、成長、成長」ではなく、利益など別の言葉が出てくるようになったといいます。
宮武さんは、多くのユニコーンがゼロになったりダウンラウンドしたりすれば、ユニコーンはもう一度レアになるかもしれないとも話しました。角が生えていない馬をよけてみたら、本物は100社しかいなかった、ということもありうるからです。その場合は、改めてユニコーンを指標にしてもいいかもしれません。
草野さんが、売上を重視するのは理解できる一方で、ビジョンや自分に合った働き方まで見られるようになったのはなぜかと尋ねると、宮武さんは複数の理由を挙げました。カルチャー的な理由、経済環境的な理由、そしてAIなどによって少人数でもより多くの仕事ができるようになったというテクノロジー的な理由です。
まとめ
「ユニコーン」という言葉が生まれて10年で、その数は39社から1200社超へと増えました。宮武さんは、出口の数や上場企業との比較、キャッシュアウトの迫り方から、その多くが過剰評価されている可能性を示し、成功の基準を時価総額ではなく実際の売上に置くべきではないかと提案しています。
- ユニコーンの1ビリオンという基準は、もともとファンドのリターン計算から生まれた「レアな会社」の目安だった
- 2021〜2022年だけで約900社の新規ユニコーンが生まれ、上場・買収の出口やキャッシュアウトの問題が迫っている
- 未上場企業は評価が調整されにくく、上場企業との比較からも過剰評価が疑われている
- 代替指標の中で宮武さんが最も納得しているのは、売上1ビリオンを基準にする「ギガコーン」
- ユニコーンを目指すこと自体が目的化した文化を見直し、会社づくりを一部アンラーニングする時期に来ている



