エアコンは人類の建築をどう変えたのか?
宮武さんが最初に持ち出した雑談のテーマは、記事かツイートで目にしたという「エアコンがどう世界を変えたのか」という話です。宮武さん自身、エアコンのインパクトをそれまで考えたことがなかったといいます。
宮武さんによると、人類の歴史の中で大きな課題の1つは、その土地の環境に合わせたビルを建てることでした。古代ローマの建築家も、全世界で同じビルを建てるのは無理だと語っていたそうです。
具体例として宮武さんが挙げたのが、北欧の教会やドイツの家のとんがった屋根です。雪の重さに耐え、雪が落ちるようにするための形で、寒い地域では壁を厚くしたり、窓を小さくしたりする工夫もされてきました。
宮武さんが「一番課題があった」と話したのは暑い地域です。窓を大きくする、天井を高くする、バルコニーやオープンスペースを作る、部屋を地下に入れるといった工夫を重ね、さらに山などから氷を運んで家に入れることもあったといいます。
多分一番課題があったのが暑い地域で。
こうして地域ごとに、その土地に合った家の形ができていました。宮武さんは、それを変えたのがコンクリートやガラスといった素材のイノベーションと、家庭に入れられるほど小さく安価になったエアコンの組み合わせだったと説明します。
環境の制約
雪・寒さ・暑さに合わせて、地域ごとに建物の形を工夫していた
素材の革新
コンクリートやガラスなど、新しい素材が登場した
エアコンの小型化
家庭に入れられる安価なエアコンが出てきた
環境に縛られないビル
素材とエアコンがそろい、環境に合わせなくてもよいビルが建てられるようになった
上の流れのとおり、宮武さんは2つがそろったことで、ようやく「環境に合わせなくてもいいビル」が作れるようになったと話しています。
宮武さんがその象徴として挙げたのがドバイです。砂漠の上にできた街で、エアコンがないと生きていけないといいます。そもそも作れなかった街が、エアコンによって作れるようになったという見方です。
もう1つの例は上海です。宮武さんによると、中国で上海のような大都市が伸びた1995年から2005年あたりに、エアコンの普及率は8%から70%まで上がっています。
1995年ごろ: 普及率8%
2005年ごろ: 普及率70%。上海など大都市の成長期と重なる
草野さんが「相関関係があるんですかね」と尋ねると、宮武さんは「おそらく」と答えつつ、完全に相関しているかはわからないと留保しています。そのうえで、都市の成長に影響はあったのではないかという考えです。
宮武さんはテック業界とのつながりにも触れ、サーバールームには必ずエアコンが必要だと指摘しました。草野さんも「冷やしておかないといけないですもんね」と応じています。
エアコンがなかったら、今の生活ってなかったのかもしれないなっていう。
エアコンがない国と、世界中に同じビルが並ぶ時代
草野さんはエアコンの話から、ヨーロッパに住む知人の話を思い出しました。フランスだったか記憶はあいまいとしつつ、その人の家にはエアコンがなく、室外機が置けないため猛暑に対応できていないという内容です。
草野さんによると、その部屋には暖める機械はあるものの、エアコンはありません。夏も涼しく暖めるだけでよい環境ならエアコンはいらないのかもしれない、と草野さんは考えました。
なんかそれは面白いなっていうか、設計上、特にヨーロッパとか外観が難しいじゃないですか。
草野さんは、日本の夏の暑さと比べながら、ヨーロッパの街並みの外観という設計上の制約もエアコンが普及しにくい理由になりうると受け止めています。
一方で宮武さんは、エアコンやコンクリート、ガラスがもたらした変化にはネガティブな面もあると話します。それらがあったからこそ、世界中で同じようなビルが建つようになったという指摘です。
高層ビルとか、世界中あるじゃないですか。それを一ついいことでもありながら、若干独自性を失うっていう、ちょっと複雑な思いになるって感じですかね。
草野さんは、エアコンのないフランスのような街並みは、そうした均質化と逆の位置にあるのかもしれないと応じ、宮武さんも「もしかしたら」と返しています。
宮武さんはさらに、エアコンがあるからこそ室内で活動でき、知識労働のようなデスクワークも成り立っているのではないかと話を広げました。
宮武さんは、リピートライムでえむれさんが触れていたという『コンテナ物語 ── 海上輸送用コンテナの標準化が世界の物流と経済をどう変えたかを描いたノンフィクション。マーク・レビンソン著で、ビジネス書としても広く読まれています』も引き合いに出します。宮武さん自身は未読としつつ、小さく見えるものが思った以上のインパクトを持つという点で通じると話しました。
草野さんは「当たり前すぎて気づかない」と応じ、気づかないというより忘れてしまうのかもしれないと言い直しています。当たり前すぎて忘れてしまうものの大きさが、この回の雑談全体に通じる視点になっています。
イーロン・マスクはなぜボルトを6本から4本にできたのか
次の話題は、伝記作家ウォルター・アイザックソン ── アメリカの作家・ジャーナリスト。スティーブ・ジョブズやアインシュタイン、レオナルド・ダ・ヴィンチなどの評伝で知られますが書いたイーロン・マスクの伝記です。宮武さんは、この雑談回が公開される頃にはすでに出ているはずだと紹介しました。
宮武さんによると、アイザックソンは少なくとも1年ほどイーロン・マスクに付きっきりで取材し、Twitter買収の際もずっと一緒にいたそうです。収録時点では、ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルなどに本の内容が出始めていました。
宮武さんが特に面白かったと話すのは、アイザックソンがポッドキャストなどで語っていた「視覚型」の思考の話です。イーロン・マスク、アインシュタイン、ダ・ヴィンチ、スティーブ・ジョブズには、視覚で考えるタイプという共通点があるといいます。
「イーロン・マスクのスーパーパワーは何か」と聞かれたアイザックソンは、2つを挙げたそうです。1つは火星に行くようなビジョンを考え、それを信じる力です。
もう1つが、機械の作り方を頭の中で組み立てる力です。宮武さんによると、イーロン・マスクはテスラの工場で、作り方や部品の組み合わせをその場で頭の中に描き、見ることができるといいます。
そのためイーロン・マスクは、工場を歩きながらある部品の前で止まり、「この部品って必要なんでしたっけ?」「ここ削ってもいけるんじゃないか」と問いかけることがよくあるそうです。宮武さんが紹介した具体例が、車のシャシーのボルトの話です。
(ボルトを)6個必要なのか疑うって、すごい疑う力が。
宮武さんによると、これは小さな1つの事例にすぎず、同じような出来事が何百件もあるそうです。エンジニアリングの問題を頭の中でビジュアライズできることが、イーロン・マスクのすごさだという紹介です。
イーロン・マスク自身もこの力を重要だと考えているため、テスラではデザイナーの机が工場の真横にあるといいます。デザイナーにも作る現場を全部見て意識してほしいから、という理由だと宮武さんは説明しています。
視覚で考える人は、どう発想しているのか?
草野さんは、宮武さんの話から、最近立ち読みした『ビジュアルシンカーの脳』という本を思い出しました。アインシュタインやスティーブン・スピルバーグなど、視覚で考える人を扱った本だといいます。
草野さんによると、その本では、目で見たことは覚えているが耳で聞いたことは忘れてしまう、考えるときは言葉ではなく絵で考える、といった視覚思考者の特徴が紹介されていたそうです。
でもイーロン・マスクはちょっとすごいですね。視覚タイプの人でも突出してスペシャルな気がする。
宮武さんも、イーロン・マスクは例外かもしれないと応じ、物理そのものをビジュアライズしているようだと話しています。
草野さんに「宮武さんはどっちですか」と聞かれた宮武さんは、自分は完全には絵にしていなさそうだと答えました。草野さんも絵にする感覚はあまりないといい、宮武さんはアインシュタインの相対性理論の例で説明を試みます。
宮武さんによると、アインシュタインはある年に有名な論文を3本書き、E=mc²もその年に生まれました。しかも論文はメインの仕事ではなく、本業は特許の審査のような仕事だったといいます。
特許の仕事
光を使って複数の時計を同期させる特許を見ていた
想像
光と一緒に流れたらどう見えるかを思い浮かべた
気づき
同じ速さで進めば光が止まって見えると想像し、当時の理論と違うと考えた
理論へ
時間の捉え方を見直し、相対性理論につながった
宮武さんの説明では、その特許はスイスのものだったかもしれないとのことです。光を実際に想像したことが発想の出発点で、そこからのひらめきだったらしいと話しています。
(相対性理論は)そっからひらめきだったらしいです。
ただし宮武さんは、アインシュタインを詳しく調べたわけではないと何度か断っています。そのうえで、アインシュタインもイーロン・マスクも想像力豊かな人で、逆に言葉に難があったという話もあると付け加えました。
宮武さんによると、アインシュタインは2歳まで話せず、親が心配したほどだったという話が有名です。だからこそ視覚のほうへ向かったという説もある、と紹介しています。
草野さんは、ビジュアルと聞くとデザインやアートを連想するが、ここでの話は「視覚で捉えるか、言語で捉えるか」という考え方の違いだと整理しました。物理学者が視覚で考えるのは意外でもあり、納得もできると話しています。
草野さんが「言語思考の人はどう考えるのだろう」と問うと、宮武さんは、言語で考える人が同じ結果にたどり着けるのかは気になると応じました。そのうえで、言語で考える人も違う形のイノベーションをしているのかもしれない、と話を結んでいます。
『カルビンとホッブス』はどんなコミックか?
最後の話題は、宮武さんが小学生の頃に読み、最近読み返しているというアメリカのコミック『カルビンとホッブス』です。英語のタイトルは「Calvin and Hobbes」で、日本語訳もあるもののあまり知られていないのではないか、と宮武さんは話します。
宮武さんによると、『カルビンとホッブス』は1985年から1995年まで約10年続いた新聞連載のコミックです。最後の良い新聞コミックだったとよく言われているそうです。
主人公は6歳の男の子カルビンで、ホッブスは虎のぬいぐるみです。草野さんは「スヌーピーっぽい」と反応し、宮武さんも少しそういう要素はあると認めています。
本物の虎で、話もできる相棒
ただの虎のぬいぐるみ
この見え方の違いが作品の土台になっています。カルビンは想像力豊かで、学校ではあまりうまくいっておらず、少しやんちゃな子として描かれているといいます。
宮武さんは、子どもの頃は単純に面白いと思って読んでいたものの、大人になって読み返すと深かったのだと気づいたそうです。子どもながらに、難しい単語を使っていることや、子どもには理解できないような話題を普通に語っていることは感じていたといいます。
宮武さんが例に挙げたのはテストの場面です。何年に何が起きたかを問う問題に、カルビンは正しく答えたうえで、テストのために覚えたがこのあと絶対忘れるので意味がない、という続きを書き足したそうです。
大人になって考えると、これってこういう意味があったんだとか。
草野さんが「逆に子どもの時に楽しめたのがすごい」と応じると、宮武さんはジブリ作品にたとえました。子どもでも楽しめて、大人になると深い意味合いを理解できる作品だという見方です。
子ども向けコミックに描かれた深いテーマ
宮武さんは、2〜3年前にStripe ── オンライン決済サービスを提供するアメリカのフィンテック企業。パトリック・コリソンは弟ジョンとともに創業したCEOですのパトリック・コリソンさんが『カルビンとホッブス』の1場面をツイートしていたことを紹介しました。
その場面では、カルビンが「空飛ぶ車はどこへ行った?」などと、テクノロジーが全然追いついていないことを嘆いているそうです。最後にホッブスが、それを受け入れる知能がないのではないか、とコメントして終わるといいます。
子どもでもなんとなくわかるんですけど、大人で読むとすごい意味がある。
宮武さんは、ピクサー映画『カールじいさんの空飛ぶ家』の冒頭も例に出しました。妻との暮らしから死別までを、セリフを使わず絵と音楽だけで伝える場面です。『カルビンとホッブス』にも、ほぼセリフなしでカルビンの1日を伝えるような回があるといいます。
宮武さんが面白いと感じているのは、子どもの無邪気さと、深い問いへの思考が同居している点です。しかもそれを、ポジティブな形で描いていると話しています。
時にはすごいやんちゃな子で、時にはただのガキで、で、時には哲学者的な言葉を発するときがあって。
象徴的な例が、カルビンとホッブスが遊ぶ「カルビンボール」というゲームです。ルールは1つしかなく、それは「ルールを作りながらゲームをやる」というものだそうです。
宮武さんはさらに、親と子の関係、子どもの創造性、死とは何かといったテーマも扱われていると話します。作者の考えをカルビンやホッブスを通して表しているのだろう、という見方です。
宮武さんによると、学校へ行くことを、自分がSFのヒーローとして悪者を倒すミッションに出かける場面として想像する、といった描写もあります。子どもの頃に同じような想像をした人には懐かしさがあり、同時に子どもの良さも理解できると話しています。
宮武さんは、こうした深さがガーフィールドなど他の新聞コミックとは違う点だと感じているそうです。ピーナッツにもそういう面はあるかもしれない、と付け加えています。
アニメもグッズもない、アメリカっぽくないコミック
草野さんが「アニメなどはないのか」と尋ねると、宮武さんは『カルビンとホッブス』にはコミックしかなく、アニメもグッズもないと答えました。それは作者本人の希望だったといいます。
(グッズを作らないのは)お金儲けのためにやってるんじゃないですっていう。
草野さんは「アメリカっぽくない」と反応し、宮武さんも同意しています。コミックしかないという潔さも、宮武さんがこの作品に惹かれる理由の1つになっているようです。
宮武さんは、子どもの頃にインターナショナルスクールの図書館でこの作品を見つけて読んでいたそうです。日本語訳がどう書かれているかはわからないとしつつ、久しぶりに本を買おうかと考えていると話しました。
草野さんは、日本でもスヌーピーは名言が多く人気だと話し、同じような立ち位置なのかと尋ねます。宮武さんはピーナッツをほぼ読んだことがないとしつつ、周りの子も『カルビンとホッブス』は読んでいたと答えています。年代は、スヌーピーのほうが先だろうという見立てです。
宮武さんが読み返したきっかけは、Twitterでちょこちょこ見かけて思い出したことでした。最終回もすごく良く、「らしい」終わり方で満足感があったといいます。
今までのストーリーを理解してると、すごい分かるっていう感じになる。
作品の読み方について、宮武さんは英語であれば個人的にすごく勧めたいと話しています。ネット上では、誰かが作った非公式の検索エンジンがあり、キーワードで関連するコミックを探せるそうです。草野さんは著作権面を気にしていました。
昔読んだコミックを読み返す意味とは?
宮武さんは、アメリカのコミックというとスーパーヒーローものを想像する人が多いものの、実際により一般的だったのはピーナッツやガーフィールドのような新聞コミックだったと話します。新聞に載っていたことが大きかったという見方です。
宮武さんによると、『カルビンとホッブス』は人気すぎて、確か2010年に新聞が再び掲載を始めたほどだったそうです。宮武さんは図書館でよく借りていたといい、草野さんは「エモいですね」と反応しました。
当時の宮武さんは内容を全然理解しておらず、「カルビンって変な子だな」と思っていたそうです。小学生の頃、図書館で特に男子が借りたがったのは『カルビンとホッブス』と『タンタン ── ベルギーの漫画家エルジェによるコミック『タンタンの冒険』シリーズ。少年記者タンタンが世界を旅する物語で、日本でも翻訳が出ています』の2つだったといいます。
草野さんは、以前の回で「コンテンツをまた見ることの意味」を話したことを思い出しました。草野さんの記憶では、音楽について、また同じ気持ちになりたいから聴く、という話だったそうです。
(コミックを)読み返してる理由は、その時の気持ちは多分覚えてないんで、正直言うと。
草野さんも小学校の頃に読んだ本は覚えていないと応じます。それでも宮武さんは、読み返すことで得られる何かがあると感じているそうです。
草野さんは、その時には気づかなかった視点があるのだろうとまとめ、宮武さんも同意しています。子どもの頃には見えなかった深さに大人になって気づくことが、読み返す意味なのかもしれません。
まとめ
エアコン、イーロン・マスクのボルト、子ども向けの新聞コミックと、話題はばらばらに見えますが、どれも「当たり前すぎて見過ごしているものに、思った以上の大きさがある」という視点でつながった雑談回でした。
- エアコンと新素材の組み合わせが、環境に合わせなくてもいいビルを可能にし、ドバイのような都市を生んだ一方、世界中の建物を似たものにした
- アイザックソンによれば、イーロン・マスクの強みの1つは、工場の部品や事故の状況まで頭の中でビジュアライズできることにある
- アインシュタインも光と一緒に進む姿を想像したことが相対性理論につながったとされ、視覚で考える人の共通点として語られた
- 『カルビンとホッブス』は、子どもの無邪気さと、学びや死、人生といった深い問いを同居させた新聞コミックである
- 昔の作品を大人になって読み返すと、当時は気づかなかった視点に出会える





