YouTuberはお菓子とソフトウェアで稼ぐ時代?
後編の冒頭で宮武さんが取り上げたのは、アメリカで世界一のYouTuberとされるMrBeastの資金調達です。評価額は5ビリオンほどで、日本円では7500億円ぐらいの時価総額になるといいます。
宮武さんによると、MrBeastは昨年750ミリオンほどの売上を達成したとみられます。その中では、動画よりもお菓子ブランドのFeastables ── MrBeastが立ち上げたチョコレートなどのお菓子ブランド。動画の知名度を生かして小売店で広く販売されていますの売上が大きく、50ミリオンほどの利益も出ているそうです。
コンテンツがインフラになって、で、その上にそのプロダクトを作るっていう、すごいわかりやすい事例なのかなと思ったんですけど。
けんすうさんは、日本で言えばHIKAKINさんがみそきん ── HIKAKINさんがプロデュースしたカップ麺。発売直後から品薄が続くほど売れ、話題になりましたで大きく売り上げて資金調達したような話だと受け止めます。MrBeastのハンバーガー店については、アメリカン・ドリームという施設で実際に食べてみて「普通でしたね」と感想を話していました。
宮武さんによると、MrBeastの事業はハンバーガー店のBeastBurgerだけでなく、ソフトウェアやマーケットプレイスにも広がっています。金融サービスへの展開も口にしているそうです。
昔だと多分ヒップホップアーティストがドリンクを作ったりとか、フィジカルの商品作るみたいな流れがあったんですけど、今だともうソフトウェアを作るところまで、割と一般化してきたのかなと思いますね。
けんすうさんも、ソフトウェアの展開はあり得ると考えています。ToDoリストのアプリはもはや製品ごとの差が小さいので、たとえばヒカルさんが作ったToDoアプリにも十分に可能性があるといいます。けんすうさんの会社でも、インフルエンサーが小さなSaaS ── ソフトウェアをインターネット経由で、主に月額などのサブスクリプションで提供する形態のことを作れる仕組みを提案したことがあるそうです。
ブランドを支える「っぽさ」とは何か
クリエイターが商品を出す時代には、ブランド力やブランドマーケティングが今まで以上に大事になるのでは、と宮武さんは問いかけます。けんすうさんは、その要素はあると答え、コモディティ製品の手帳をほぼ日 ── 糸井重里さんが主宰する会社とウェブサイト。「ほぼ日手帳」は毎年多くの愛用者を持つ定番商品ですのブランドで作って大ヒットした例も挙げました。
けんすうさんが大事だと考えるのは、クリエイターと商品の相性、つまり「っぽさ」です。ひろゆきさんがメイドインジャパンで売るパーカーは、めちゃくちゃ丈夫でナイフで刺されても大丈夫という触れ込みで、いかにもひろゆきさんらしい商品だといいます。
けんすうさんによると、「おしゃれなパーカーを作りました」「ひろゆきマークが入っています」という売り方では全然ダメです。クリエイター本人らしさがにじむ商品であることが、ブランドでモノが売れる条件になっています。
もう一つの例として、けんすうさんは幻冬舎の箕輪さんが作った人間エネルギーカードを紹介しました。「エネルギーが入っているカードで10万円」というジョークのような商品ですが、かなり売れているそうです。
けんすうさんの見立てでは、この商品の背景には「フィジカルの本を買う人は、中身の情報より、著者からもらえるエネルギーを大事にしている」という仮説があります。本の名台詞を書いたカードは、そのエネルギーを圧縮したお守りのような役割を果たすのではないか、という考え方です。
(箕輪さんの)ファンからすると、まあやっぱりそこのこだわりもそうですし、ちゃんと考えているっていうところと、まあ元々そういう考えを持ってるっていうところから、多分支持して、購入までつながるっていうところですよね。
KPIをずらすと、プラットフォームの中身が変わる
けんすうさんが最近重要だと感じているのは、メディアの「KPIをいかにずらすか」という点です。昔のブログサービスは基本的にPVを追っていて、PVを稼ぐプラットフォームほど広告で儲かり、トップに立てる構図でした。
けんすうさんによると、noteはKPIをPVにしませんでした。クリエイターのコンテンツが売れるか、シェアされるかを基準にしたことで、書き手は怒りを呼ぶような扇情的な記事ではなく、お金を払ってでも読みたいと思われる記事に集中するようになったといいます。
その結果、他のブログサービスでは似たような記事が上位に並ぶ一方で、noteには専門家の投稿が増えました。けんすうさんは、PVを追うとどのサービスも同じようなコンテンツになるモノカルチャー化が起き、KPIをずらすことで他にないコンテンツが生まれると説明しています。
広告で儲かるが、扇情的な記事や同じような記事が上位に並び、モノカルチャー化しやすい
お金を払って読みたい記事に書き手が集中し、専門家の投稿が増える
けんすうさんは、MrBeastも再生数ではなくお菓子の売上にKPIをずらしたことで、他と違う特徴が生まれているのではないかと見ています。
宮武さんは、KPIをずらして違いを作っても、やがてみんながそこに乗り、ハックが生まれ、また別のフォーマットが必要になる繰り返しがあると指摘します。そのうえで、伸びたプラットフォームが途中でKPIを変えるべきかを尋ねました。
けんすうさんの答えは2つの方向です。Facebookのように、その時に流行っているフォーマットを取り入れてずらしていくやり方と、多少衰退しても今の位置を守り続けるやり方があるといいます。
noteについてけんすうさんは、一度勝てば有料サービスで勝ち続けられるので本体はそのまま保ち、社内で別の仕組みを作っていると見ています。noteが手がける小説投稿サービスは、完読率や読者数のような別のKPIを持っているはずだといいます。
宮武さんは、Metaが自社のディストリビューションを新サービスに相乗りさせるのがうまいと話し、Instagramのアカウントを紐付けられたThreadsを例に挙げました。一方で、社内のアプリ同士の関係には常に悩みがあるだろうと続けます。
Instagram買収した後もずっと噂で出てたのは、もうマーク・ザッカーバーグはもうInstagramよりもやっぱり自分が作ったFacebookの方が好きだったので、どうしてもInstagramをあんまり優先しないとか。
けんすうさんは、その話がいろいろな本に書かれていて、「出来のいい妹が来た時に嫉妬している姉」のようだと表現されていたと紹介しました。
話はブランドに戻ります。けんすうさんによると、ブランドを持つことの利点は、PVや再生数といった拡大勝負に巻き込まれないことです。YouTubeのようなプラットフォームは新しいクリエイターを優遇しないとサイトとして衰えるので、すでに勝った人はあまり優遇されないというジレンマがあります。
人気なコンテンツとかコンテンツクリエイターを押していかないと、そもそも離脱してしまう可能性もありますし、でもそこばっかをしていると新しい人たちが入れないので不満を抱えてしまうっていう。
この板挟みがあるからこそ、けんすうさんはHIKAKINさんのみそきんのような動きをとてもいい流れだと見ています。他のYouTuberにも、イベントなどで同じような流れが来るだろうといいます。
シリコンバレーの真似をやめた日本勢はなぜ強い?
けんすうさんは、2010年代はグローバルサービスがとても強かった印象がある一方で、最近は日本勢がシリコンバレーの真似をしなくなってから調子がいいと感じています。noteも最初はMedium ── アメリカ発のブログ・記事投稿プラットフォーム。シンプルな編集画面と読みやすいデザインで知られますを参考に作られたと思われますが、今はまったく違うサービスになっているといいます。
BASEやCAMPFIREも、海外勢が強いはずの領域で独自性を保って勝っているとけんすうさんは見ています。宮武さんがその要因を尋ねると、けんすうさんはシリコンバレー勢のサービスの「治安の悪さ」を挙げました。
けんすうさんによると、Facebookには詐欺広告が多く、Xは何を言っても投稿を消してもらえない状況です。日本の会社なら対応してくれるという安心感があり、海外サービスを怖いと感じる人が増えているといいます。
宮武さんは、日本ではNetflixのトップ10も日本のコンテンツが多く、ディズニーやマーベルのようなアメリカ系は日本ほど評価されていないと指摘します。そのうえで、同じ流れがSNSのようなテック領域でも来るかを尋ねました。
けんすうさんは、あり得ると答えます。日本の動画配信ではNetflixが圧倒的な1位ではなく、U-NEXTが20%近いシェアを持ち、Netflixも20数%にとどまるといいます。ABEMAやTELASA、DMMもそれなりにシェアを取っており、SNSでもXをやめてmixi2へ移る流れがあると話しました。
一方で、けんすうさんは日本勢が絶対に負ける領域もはっきりさせています。エンジニアが大量に必要な領域と、お金が大量に必要な領域の2つです。
けんすうさんの見立てでは、エンジニアがそれほど必要なく、ユーザーが1000人規模のアルゴリズム開発を求めていない領域なら、日本勢にも勝ち目があります。U-NEXTがNetflixに近づけたのも、動画インフラの初期投資がそれほどかからなくなったことが大きいのではないかといいます。
技術・資金の差が縮まる
エンジニアやインフラへの大規模投資が不要になる
勝負がコンテンツ調達に移る
何を集めて届けるかが競争の中心になる
日本の会社が有利になる
日本の人と話しやすく、対応も丁寧なため選ばれやすい
けんすうさんは電子書籍の例も挙げました。ドイツやアメリカ、カナダではKindleが7〜8割を占めるのに対し、日本では20%ぐらいしかシェアがないといいます。
日本には電子書籍サイトが150ぐらいあり、LINEマンガやピッコマ、めちゃコミ、少年ジャンプ+などが伸びているとけんすうさんは説明します。その結果、日本の出版社はAmazonの顔色を見てコンテンツを変える必要がありません。
けんすうさんによると、出版社やゲーム業界には、コンテンツを出す基準を国外に握られたくないという意識が強くあります。その基準を守れていることが、日本のコンテンツが今も強い理由ではないかと考えています。
漫画業界はアメリカのスタートアップに一番近い?
宮武さんは、日本の業界でアメリカのスタートアップ環境に一番近いのは漫画業界ではないかと考えています。
常に戦い合いをしないといけないですし、人気投票が低ければすぐ切られてしまいますし、毎週のように改善しないといけないっていうのは、もうアメリカのスタートアップ環境とすごい似てるなと思いました。
けんすうさんも、ジャンプでは掲載されてもどんどん打ち切られていく凄まじい環境だと同意します。二人は、ジャンプで10年以上続いている連載は今ではワンピースくらいしかないと確認しあいました。けんすうさんは、『NARUTO』を描いていた先生でも人気がなければすぐ打ち切られる「デジタルな状態」だと表現しています。
なぜ漫画業界だけこれほど競争が激しいのか。けんすうさんが集英社の人から聞いた話では、まずジャンプのアンケートシステムが、人気漫画をきちんと拾える仕組みとしてとてもよくできていたといいます。
加えて、ジャンプには「ワンピースが流行ったからライツで儲けよう」という発想があまりないそうです。とにかく面白い漫画を立ち上げた人が評価されるため、ワンピースの担当編集になることも特に名誉とはされず、自分の作品の立ち上げに時間を使いたいと考える編集者が多いといいます。
けんすうさんによると、新人作家からの持ち込みの電話は新人編集者が取る権利を持っています。そのため、新人編集者のほうが新人作家に出会える確率が高くなります。
アンケートシステム
人気のある漫画をきちんと拾い上げ、人気がなければ打ち切る
立ち上げが偉い文化
既存ヒットの担当より、新作を立ち上げた編集者が評価される
新人が持ち込みを受ける
新人編集者が新人作家と出会う確率が高くなる
新作を生む空気
ヒット作で安泰と考えず、次の作品を立ち上げようとする
けんすうさんは、これらの仕組みが掛け合わさることで、ドラゴンボールが当たったから10年安泰だとは考えず、グッズよりも新しい作品を立ち上げようというムードが生まれていると話しました。
宮武さんは、VCも漫画編集者に近い役割を持つものの、新人をどんどん前に押すのは難しいと感じています。VC業界には50歳ぐらいが寿命だという見方があり、若い世代の文化への感覚が薄れていくためだといいます。宮武さんは、漫画でも同じことが起きるのかを尋ねました。
けんすうさんは、漫画でも起きると考えています。一定の年齢になると編集長としてマネジメント側に移るので、大手出版社で40歳を超えて現場の編集を続ける人は少数で、20代・30代が中心だろうといいます。
さらにけんすうさんは、集英社と講談社がインディーゲームに力を入れている点に注目しています。業界の外から見ると出版社はWebtoon ── スマートフォンで読みやすい縦スクロール形式のフルカラー漫画。韓国発で、分業による制作が一般的ですに行きそうに思えますが、Webtoonは作り方がまったく違うそうです。
けんすうさんによると、インディーゲームは編集者にあたるプロデューサー1人と個人の作家1人のセットで作る形で、出版社の得意な作り方に合っています。どちらの出版社も大ヒットを出しており、漫画の次の柱になりかねない勢いだといいます。
日本のクリエイティブは「個人の狂気」で勝つ
宮武さんが気になっているのは、日米のコンテンツ制作プロセスの違いです。日本の音楽や漫画は基本的に1人、あるいは編集者が1人加わる程度で作るのに対し、アメリカの音楽業界は共同制作が当たり前だといいます。
グループで集まって、しかもグループも毎回曲ごとに変わるみたいな、それで一緒に制作するみたいな。その共同制作文化がすごいあるんですけど、そこの違いって何があるんだろうっていうのは気になりますね。
けんすうさんは、ある経営学の本に「アメリカは部品を組み立てるモジュール型が得意で、日本はトヨタのようなすり合わせ型が強い」とあったことを紹介します。ただしクリエイティブでは、すり合わせると面白くならないのではないかと考えています。
けんすうさんによると、日本人はお互いに遠慮してすり合わせようとしてしまうので、チームプレイではないほうが個人の狂気が出やすいのかもしれません。VTuberや漫画家、インディーゲーム、イラストレーターなど、日本が強いクリエイティブは個人技的なものが多いといいます。
宮武さんは、協調や気遣いを重んじる文化の国で、クリエイティブでは徹底的に個人の世界観を出す人たちがいることを面白いと話します。けんすうさんは、面白さには正解がなく論理的に説明できないので、空気ですり合わせると面白くなくなるのだろうと答えました。
宮武さんは、アメリカではドラマも複数のライターで脚本を作るのが当たり前だと指摘します。日本のドラマは脚本家が1人で決まることが多く、クレジットにも大体1人の名前が出てくる、という点で二人の見方は一致しました。
曲ごとにメンバーを変えて共同制作し、ドラマも複数のライターで脚本を作る
作家が1人か、編集者と2人で作る。脚本家も1人の名前が出ることが多い
けんすうさんは、お笑いもピンかコンビが中心で、漫才は強い一方で大人数のコメディはあまり強くないと話します。日本勢は個人の狂気を引き上げることに取り組むとよさそうだとしつつ、アニメは強いので違っている可能性もある、と留保を付けていました。
グローバルを意識しないほうが世界に届く?
宮武さんは、AI機能を使えば日本のコンテンツのグローバル展開がもっと進むのか、それとも日本独自でやるのがよいのかを尋ねます。
けんすうさんによると、出版社はグローバルを意識していても、コンテンツ制作の段階で意識している人はほとんどいません。宮崎駿さんをはじめ、海外の人に見てもらおうとは少しも思わず、日本人に向けて作っていると話す作り手もいるといいます。
けんすうさんは、その態度のほうが正しいのかもしれないと考えています。モノカルチャー化しやすい世界では独自性が強みになり、グローバルで勝とうとすればずっとディズニーと戦うことになるからです。
けんすうさんは、アメリカ人のK-POPファンでも韓国語で歌ってほしいと思うそうだと例を挙げます。変にグローバルに合わせようとすると、アメリカっぽい、少し質の落ちるものになってしまうのかもしれないといいます。
けんすうさんは、自身も投資するコテンラジオ ── 株式会社COTENが配信する歴史系ポッドキャスト。COTENは世界史のデータベースづくりにも取り組んでいますの世界史データベースの取り組みにも触れました。AIのプラットフォームをアメリカか中国のどちらかから選ぶのは極端なので、日本やイギリスのほうが選びやすいという状況が今後起きるのではないかと見ています。
宮武さんは、アメリカは政権によって方針がどんどん変わると指摘します。けんすうさんも、トランプ氏がリベラルな思想ばかり入ったAIはダメだという趣旨の発言をしていたと話し、特定の思想が入ったAIしか使えなくなる可能性もゼロではないといいます。
宮武さんは、画像生成モデルが登場した頃に、ジョージ・ワシントンを描かせると黒人の姿で出てしまう問題が話題になったことを挙げました。リベラルさを取り入れすぎた面もあるとしつつ、今はMAGA ── 「Make America Great Again」の略。トランプ氏の支持層やその運動を指す言葉として使われます派がそこを強く気にしていると見ています。
知り合いが言っていたのが、あのダイバーシティっていう言葉を全部その論文から外してくださいみたいな。
バイオダイバーシティみたいなところもなぜか引っかかったりとか。なんでそういう、ちょっとやっぱり何かしらの検閲みたいなものはアメリカでもやっぱり起きてるんだなっていうふうに思いますね。
けんすうさんは、共産主義の脅威があった時代の厳しい監視が、今は「ウォーク」な人たちへの攻撃のような形で表れていると話します。アメリカはこうした動きが極端に出る国なので、日本のメディアやプラットフォームだから安心、と選ばれる場面はあり得るといいます。
日本は「90%プロダクト」のままでいいのか
日米を行き来してきた宮武さんが長く気にしてきたのは、日本はアメリカほどマーケティングや営業が強くないという点です。日本はスケールよりも、プロダクトを極める職人性の文化だと見ています。
宮武さんのたとえでは、アメリカは90%がマーケティングで10%がプロダクト、日本はその逆で90%がプロダクトです。以前は日本も70%プロダクト、30%マーケティング・営業くらいにずらすべきだと考えていたものの、ここ3〜4年でほとんどずらさないほうがいいと思うようになったといいます。
結局その90%を1%でも欠けた時に、プロダクトの質がそれが1%落ちるわけではないと思っているので、それが10%、50%落ちる可能性があると思っていて。
宮武さんは、マーケティングは自分のような人が間に入って手伝う程度でよく、日本は今まで通りでいいのかもしれないと話します。
マーケティング90%、プロダクト10%。コマーシャライズとスケールを重視する
プロダクト90%、マーケティング・営業10%。いいものを作る職人性を重視する
けんすうさんは、アメリカではお金を稼ぐことがどこか神聖なことのようにポジティブに捉えられていると話します。日本では剣道や茶道のように「道」、つまりプロセスが大事にされるので、プロダクトを極めることのほうがポジティブに受け取られるといいます。
宮武さんは、YouTuberの影響で、お金儲けを意識してさらけ出す文化が日本にも入ってきているのではないかと尋ねます。けんすうさんは、一時期はそれがポジティブに受け止められたものの、最近は逆の空気もあると答えました。
けんすうさんによると、配信者が襲われたり監禁されたりしたという話が広まり、「やめておこう」という空気が戻りつつあります。アメリカ人は自衛している一方で、日本人は無防備でリスクが高いと見られているそうです。
宮武さんは、アメリカにはセキュリティチームを付けるなど、お金で解決する手段が多いと指摘します。セキュリティが付いていると、かえって有名人らしく見える効果もあるといいます。
けんすうさんの友人も、格闘家をボディーガードとして付けるセキュリティサービスを立ち上げたいと話していたそうです。「ただ者じゃない感」を出すアクセサリーとして流行るという見立てです。宮武さんは、アメリカではUberのようにオンデマンドでセキュリティを呼べるスタートアップが昨年立ち上がったと紹介しました。
ハック文化とオタク文化、日本のプロンプト職人
けんすうさんは、シリコンバレーと東京の違いを、目的と手段の関係で整理しています。
けんすうさんによると、シリコンバレーは目的のためなら手段を問わないハッカー文化で、日本は手段のためなら目的を問わないオタク文化です。Facebookのようなサービスはアメリカが強い一方で、初音ミク ── クリプトン・フューチャー・メディアが発売した歌声合成ソフトとそのキャラクター。多くの人が楽曲を作って投稿し、一大文化になりましたは、使うこと自体を目的にみんなが曲を作ったからこそ文化が生まれたといいます。
目的のためなら手段を問わない。Facebookのようなサービスが生まれる
手段のためなら目的を問わない。初音ミクのように手段そのものから文化が生まれる
けんすうさんは、ウォークマンも目的から出発したのではなく、小さくするという手段を突き詰めた面が大きいと聞いたことがあるそうです。第三のビールや軽自動車も、突き詰めた結果として変わったものが生まれた例かもしれないといいます。
宮武さんは、AIの文脈では日本のプロンプト改善の精度が圧倒的に高いと見ています。
(プロンプトの)本とかをめちゃくちゃ出しているっていうのは、多分アメリカでそこまで本って出てないので、多分日本ほど。
けんすうさんも、自分がプロンプト共有サービスを作ったとき、アメリカには当然あるだろうと調べたらあまりなく、驚いたそうです。Xでも、プロンプトを工夫してこういう結果が出た、という職人技の投稿が多いといいます。けんすうさんは、いい結果を出したいというより、いいプロンプトを書きたいという人が多いのだろうと話しました。
けんすうさんは、この違いをお金との関係でも説明します。アメリカではお金を稼ぐことが目的になりやすい一方、日本ではそうならないため、成功しやすいのはお金稼ぎをゲームのスコアとして楽しめる人だといいます。そうでない人は、作家性を高める方向へ進みやすいそうです。
けんすうさんによると、アメリカでは作家がたくさん稼いで寄付する姿がいいイメージを持たれます。日本では、お金はあまりもらっていないのに少しでも画力を上げようと頑張る姿のほうが、ポジティブに受け止められがちです。けんすうさんは、中国と比べても日本の感覚は異なり、この経済規模の国では珍しいと見ています。
宮武さんは、スケールしたい会社はもっとゲーム性を取り入れるべきなのかと尋ねます。けんすうさんは、スコアが上がる喜びにするか、世の中にとっていいという社会善を掲げるほうが、日本勢はアメリカや中国と比べて力を発揮しやすいかもしれないと答えました。
影響力・リーチ・お金儲けは一緒に伸びない
宮武さんは、影響力とリーチとお金儲けが必ずしも一緒に上がるわけではない点が面白いと話します。
ゲーム・オブ・スローンズとかもそうだと思うんですけど、視聴者数で見ると多分そこまでなんですよ。ただ、多分影響力でいうと、アメリカで結構影響がありますし、全員知ってはいるっていうレベル感になってるんですけど。
宮武さんによると、何を重視するかでリーチ、影響力、お金儲けのどれを極めるかが変わり、3つが揃う会社やIPは少ないといいます。視聴者数やお金儲けが小さくても、影響力がないとは限らないというのが宮武さんの見方です。
けんすうさんは、初音ミクの例で補足します。初音ミクはソフトの売上で2008年頃に10億円を超えたと発表されたものの、その後は影響力の割にクリプトンが大きく儲かったわけではないといいます。
一方で、リズムゲームのプロセカ ── 「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」の略称。初音ミクらバーチャル・シンガーが登場するスマートフォン向けリズムゲームですは、一昨年頃に累計収益が1200億円を超えたと発表しているそうです。けんすうさんは、後からこうしたゲームが出て突然大きく売り上げることがあり、ポケモンも同じかもしれないと話しました。
宮武さんは、冒頭で話したブランド力が後になってお金につながった例だと受け止めます。
けんすうさんは、IPが来ると言う起業家はここ10年ほど多いものの、最近は絵本がすごいと話します。KADOKAWAが出した絵本『パンどろぼう』は500万部ほど出ているとみられ、グッズの売上はKADOKAWAの新規IPで一番よかったといいます。
宮武さんが「誰が映像を作るんだ」と思わずつぶやくと、けんすうさんは『パンどろぼう』はまだ映像化されていないのに人気だと答えました。『おしりたんてい』も映像化され、映像化される前からロシアなどで人気だったようだといいます。けんすうさんによると、「漫画の次は絵本だ」と注目が集まっています。
宮武さんは、アメリカの映画業界は続編やユニバース化が進みすぎていて、興行収入の上位は続編が多いと指摘します。一方で、子ども向けではブルーイやパウ・パトロールのような新しいIPが出てきて、大人気になっています。
子供向けはやっぱり世代交代をどんどんしていくので、そういう意味だと(新しいIPを)作りやすいのかなと思いますね。
IPは「世界観」と「関係性」でできている
けんすうさんは、テレビプロデューサーの鈴木おさむさんが語っていたIPの作り方を紹介します。鈴木さんによると、IPは世界観と関係性でできているといいます。
けんすうさんの説明では、世界観は狙って作りにくく、誰かの熱狂から生まれたものでないと難しいそうです。「なぜここにそんなに力を入れているのか」と説明できない無駄や偏愛があるほど世界観になりやすく、個人の作ったものがIPになりやすい理由もそこにあります。
もう一つの関係性は、「これは自分たちのものだ」と感じられるかどうかです。けんすうさんは、この感覚があるとIPは伸びやすいと話します。
けんすうさんによると、縦読み漫画は世界観を出すより、中毒性で効率よく消費させる工業製品に近いモデルなので、IP化しづらいといいます。絵本や漫画は、作家の強烈な個性や偏りから生まれるのでIPになりやすいという整理です。
けんすうさんは、YouTuberがブランド化するという冒頭の話にも、この整理でしっくりきたと話します。YouTuberには個人の強烈な世界観があり、視聴者との関係性もあるので、IPを作りやすそうだといいます。
コンテンツの寿命は80年なのか
宮武さんが最後に取り上げたのは、ニュースレターの書き手として知られるテッド・ジョイア ── アメリカの音楽評論家・作家。音楽や文化についてのニュースレターを配信していますさんの説です。音楽アーティストの人気は80年ほどで寿命を迎え、たとえばビートルズもデビューから80年後にはほとんど人気がなくなる、という内容です。
その世代を超えるIPってそもそも存在するのか、存在しないのか。で、80年っていう、これは結局その初代ファンがどんどん育っていくので、それで次の世代は次のIPを好きになっていくので。
けんすうさんは、直感的には100年後にビートルズの熱狂的なファンはいないだろうと答えます。一方で、絵本は30年後に自分が読んだ本を子どもに買い与える流れがあるといいます。アンパンマンは作者が亡くなった後もグッズの売上が伸び続けているので、子ども向けがヒントになるのではないかと考えています。
宮武さんによると、アニメのアンパンマンの放送開始は1988年で、40年弱が経っています。けんすうさんは、それでもまだトップランナーだと驚いていました。宮武さんは、スター・ウォーズが50周年を迎えるものの、30年後もあの人気を保てるかは怪しいと話します。
けんすうさんが持ち出したのは、日本で最近使われる「ゾルトラーク」という概念です。
ゾルトラークは『葬送のフリーレン ── 山田鐘人さん原作、アベツカサさん作画の漫画。魔王を倒した後の勇者一行の魔法使いフリーレンの旅を描きます』に登場する魔法です。けんすうさんの説明では、何十年も前に発明された強力な魔法が、強すぎたために一般化し、今では一番普通の魔法だと思われてしまう、という現象を指しています。
けんすうさんによると、スター・ウォーズの宇宙戦争もマーベルの特殊能力のバトルも、今見れば当たり前に感じられてしまいます。ドラゴンボールも80年ほどで「普通の戦い」になり、驚きがなくなるだろうといいます。ビートルズも今聴いて違和感はないものの、当たり前になりすぎて斬新とは思えないそうです。
けんすうさんの見立てでは、アンパンマンにはそうした劣化がありません。お腹がすいたらパンをあげるという普遍的な話だからです。
宮武さんは、キャラクターが衰えないアニメや、ドラえもんやサザエさん、ちびまる子ちゃんのようなシットコム系、さらに子ども向けのコンテンツに可能性があると見ています。
けんすうさんは、1940年に始まってちょうど80年が経ったトムとジェリーを例に挙げます。知り合いの保育園ではバスでトムとジェリーを流しているそうで、今っぽい作品より子どもが確実に見てくれるといいます。一昨日セブン-イレブンに行ったら、トムとジェリーの一番くじが売られていたとも話していました。
宮武さんは、草野さんが以前の議論で、クリスマスソングのような季節性の曲は80年を超えるかもしれないと話していたことを紹介します。宮武さんは宗教や教会で歌う曲も挙げ、けんすうさんも普遍性で残るものはありそうだと応じました。
けんすうさんが、ディズニー映画は80年を超えるのかと問いかけると、宮武さんは場所の力を挙げます。オリジナルの『白雪姫』を今見ている人がどれだけいるかはわからないが、ディズニーランドという場所があることが普遍性になっているのではないか、という見方です。
けんすうさんは金閣寺を例に「場所」に納得し、宮武さんも東京タワーやエッフェル塔を挙げました。場所は劣化に時間がかかり、文化遺産になればずっと残るという話から、けんすうさんは「ミスタービーストランドを作るのが一番長持ちするかもしれない」と冗談交じりに話しています。
| タイプ | 例 | 残る理由 |
|---|---|---|
| 子ども向け・普遍的な話 | アンパンマン、トムとジェリー | 親が子どもに与え、驚きに頼らない |
| 季節・宗教の曲 | クリスマスソング、教会で歌う曲 | 毎年や儀式の中で繰り返される |
| 場所 | ディズニーランド、金閣寺、エッフェル塔 | 劣化に時間がかかり、文化遺産になる |
人に頼るIPをどう長持ちさせるか
宮武さんは、MrBeastのように個人に強く紐付いたIPには課題があると指摘します。本人が年を取ったり亡くなったりするので、どこかで事業を本人から切り離す必要が出てくるからです。お菓子ブランドのFeastablesなら本人がいなくても買う人はいるものの、人に紐付けすぎると難しいといいます。
けんすうさんは、日本ではコムドットが自分たちの見た目を模したキャラクターを作って売り、うまくいっていると紹介します。キャラ化や抽象化で乗り越えるパターンと、MrBeastのようにブランドのメーカーになるパターンがありそうだといいます。
宮武さんは、MrBeastも次の5年ほどは大丈夫だとしつつ、そこから先の移行プランが必要だと見ています。MrBeastはおもちゃブランドに合わせてアニメも作っているそうです。けんすうさんは、スポーツドリンクのPrimeの大きな売上にも触れつつ、作品を作らないと80年は無理だろうと話しました。
けんすうさんは、『パンどろぼう』には80年持つ可能性を感じる一方で、MrBeastにはそれを感じにくいといいます。トムとジェリーを誰が作ったのかと聞かれても、答えられる人はほとんどいないという点も、作り手の個人から離れたIPの強さを示しています。
人が演じるIPを長持ちさせる方法として、宮武さんはフォーマットを決めて主役を入れ替える作り方を挙げます。イギリスの『ドクター・フー ── イギリスBBCの長寿SFドラマ。主人公のドクターが姿を変えて再生するという設定で、演じる俳優が交代します』は主人公を演じる俳優が交代し、次は誰になるのかが楽しみの一つになっているといいます。
二人は、主役が入れ替わるフォーマットの例として仮面ライダーや007、天才てれびくんを挙げました。けんすうさんは、ウルトラマンも50年経って今も人気で、中国で特に強く、円谷フィールズホールディングスの決算にもその強さが表れていると話します。
宮武さんは、YouTuberグループもメンバーを少しずつ入れ替えれば生き残れる可能性があると話します。けんすうさんは、モーニング娘。は最初から入れ替えを前提にしていたと紹介しました。
けんすうさんによると、それまでのアイドルはメンバーが辞めたら終わりでしたが、モーニング娘。は入れ替えを続けて25周年を迎えたといいます。歴史があるので新しいファンは文脈を読み解く楽しさがあり、今いるメンバーの歴史は短いので入りやすい、という2つの利点を兼ね備えているそうです。
けんすうさんが聞いた話では、モーニング娘。の根っこには「世界平和」というビジョンがあります。メンバーも本気でそれを信じる、ある意味での狂気が世界観を支えているといいます。
けんすうさんは、AKB48はフォーマットの発明で、モーニング娘。はフォーマットの発明に見えて実はビジョンが強かったのかもしれないと話しました。ただし、この点は「今適当言ってますけど」と断ったうえでの見立てです。
収録は1時間を超えたところで締めくくられ、この話の続きは別の機会にしようという形で終わりました。最後にけんすうさんは、自身が開発中のPodyについて、聞きっぱなしで終わらせず何度も復習できるサービスを目指していると紹介しています。
まとめ
MrBeastの事業展開から始まった後編は、KPIの設計、日本の職人性とオタク文化を経て、世代を超えて残るIPの条件へと話が広がりました。個人の熱狂が強いIPを生む一方で、長く残すには個人から切り離す工夫が必要だという点が、二人の議論を通して見えてきます。
- KPIをPVや再生数からずらすと、モノカルチャー化を避け、他にないコンテンツが生まれるとけんすうさんは見ている
- 日本勢は、エンジニアや資金の量で勝負しない領域なら、ローカルな信頼とコンテンツ調達力で海外勢と戦えるという見立てが語られた
- けんすうさんは、日本は手段を突き詰めるオタク文化で、個人の狂気を生かしたクリエイティブが強いと整理した
- 鈴木おさむさんの整理として、IPは世界観と関係性でできているという考え方が紹介された
- 80年を超えるIPには、子ども向けの普遍性、場所、主役を入れ替えるフォーマットといった共通点が挙がった





