Netflixはなぜ米国で会員数を減らしたのか
今回のOff Topicのテーマは、動画ストリーミングサービスの代表格であるNetflixです。草野さんはまず、Netflixがどんな会社なのかを振り返ります。
Netflixは1997年にアメリカで創業し、宅配DVDのレンタルサービスから始まりました。2007年にストリーミング事業を始め、現在は190カ国で展開しています。
宮武さんは、ストリーミング開始当初はコストが高く、動画の読み込みも遅かったはずだと補足しています。
アメリカでは、Netflixの視聴時間がテレビ視聴時間の約10%に当たるといいます。宮武さんは、Netflixがケーブルテレビをかなり置き換えていると受け止めています。
ただし直近の動きには陰りも見えます。7月に発表された第2四半期決算では、グローバルの有料会員数は238万人増えた一方、アメリカの有料会員数は初めて減少しました。
この発表を受けて株価は11%下落し、草野さんは「最近調子がやや悪そう」という印象を語っています。
宮武さんは、Netflixの第2四半期は過去を見ても例年パフォーマンスが悪い時期で、投資家も一時的なものと認識しているだろうと見ています。
一応大きな問題というか、競合とかが現れているので、そこ(競合)に対してはどうするのかっていう部分は一番あるかなと思います。
草野さんは、アメリカ、メキシコ、ブラジルなどで料金が2ドルほど値上がりする話にも触れています。日本でも値上げが近いという認識ですが、消費税の影響なのかははっきりしないとしています。
ディズニープラスの価格はなぜNetflixの脅威になるのか
宮武さんは、Netflixの値上げの理由を、黒字化がうまくいっていないビジネスであることと、コンテンツ制作に多額のコストがかかっていることに求めています。
そこに加わるのが、ディズニーの参入です。ディズニーは自社の動画配信サービスディズニープラス ── ディズニーが提供する定額制動画配信サービス。ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズなどの作品をまとめて配信しますを11月にリリースする予定です。
12.99ドル(約1400円)
6.99ドル(約780円)。HuluとESPNを合わせると、ほぼNetflixと同じ値段
ディズニープラスはNetflixよりだいぶ安く、さらにHuluとESPN ── アメリカのスポーツ専門ケーブルテレビ局。ディズニー傘下にありますを組み合わせても、Netflixとほぼ同じ価格になります。
しかも、Netflix上のディズニー作品は今やゼロになっています。宮武さんによれば、ディズニーは2017年の記者会見で、自社コンテンツをすべてNetflixから引き上げ、独自のストリーミングサービスを始めると発表しました。
たまに(Netflixで)検索して、マーベル系の作品が出るんですけど、押しても見れなくて。移行中なのかなっていう、そんなことがちょっと悲しい気もします。
Netflixを救ったのはディズニーだった?
宮武さんは、NetflixとディズニーのDVD時代からの関係を振り返ります。2008年頃、Netflixがストリーミングを始めた当初は配信できるコンテンツがほとんどありませんでした。
そのなかで唯一手に入ったのが、ディズニーの直近公開映画でした。Netflixはディズニーと直接交渉したのではなく、ディズニー作品をオンライン配信していたテレビサービスのSTARSと契約していたといいます。
その後、2013年頃にNetflixとディズニーは直接交渉し、Netflixは毎年300億のライセンスフィーを払う代わりに、ディズニーのコンテンツをすべて受け取る契約を結びました。ディズニーはNetflix専用のオリジナル作品も作るようになります。
そういうのもあって、結構ディズニーがNetflixの成長を結構手伝ったっていうのはあるんですよね。
一方のディズニーは、当時ストリーミングにあまり関心がなく、ノウハウもありませんでした。ディズニーチャンネルやESPNといったケーブル番組と競合するビジネスになるため、踏み込みにくかったようです。
宮武さんによれば、ライセンスフィーで毎年300億が入る状況を捨てて、何千億もかけて自社サービスを作る価値があるのかは、社長を含めて社内で揉めていたといいます。
ディズニーが自社配信へ踏み切るまで
ディズニーは独自配信を一度試みています。宮武さんは、2015年頃にイギリスか何かで始めてすぐ失敗したと話しています。
ディズニーは2015年に本格的に取り組む方針を固め、ストリーミング技術を持つスタートアップを1000億で買収しました。その技術をもとに自社サービスを立ち上げ、2017年にNetflixとの決別を発表しています。
ただし、ディズニーにとって代償は大きいと宮武さんは見ています。専門家の計算では、ディズニーのライセンスフィーによる売上は、Netflix以外も含めて約4000億あり、その大きな部分がNetflixだったといいます。
ディズニー自身も、ストリーミング事業は2024年まで黒字化しないとしています。目標は2024年までにアメリカで3000万ユーザーを獲得することで、宮武さんはそのほとんどがNetflixのユーザーを奪いに行く話だと読んでいます。
Netflixとディズニーは共存できるのか?
草野さんは、両社は共存できるのではないかと考えます。Netflixの尖ったニッチな作品は、ディズニーには作れないのではないかという見立てです。
草野さんが挙げたのは、ドキュメンタリー、ホラー、ポリティカルなものなど、ディズニーらしくないジャンルです。宮武さんは「実際作りに行くんじゃないですか」と返し、IPが分かれていても、ユーザーが両方に払うかが問題だと指摘します。
ニッチなコンテンツを作り続けた場合に、いわゆるヒット作品を作らないとユーザー数ってそんな伸びないじゃないですか。
宮武さんは、ディズニーが6.99ドルという低価格にできる理由を、ストリーミングが本業ではないことに見ています。
ディズニーは、グッズ、映画館、ディズニーランドのチケットなど、さまざまな場所でIPを稼がせています。ストリーミングはIPを知ってもらうための一手法にすぎず、どれだけ多くの人にIPを愛してもらえるかが戦略の中心だといいます。
ストリーミングが本業。料金収入で事業を成り立たせる必要がある
ストリーミングはIP展開の一手法。グッズ、映画館、ディズニーランドで回収できるため安くできる
ただし宮武さんは、ディズニーも値下げしすぎると両方契約されてしまうため、Netflixを倒すための「ちょうどいい値段」が6.99ドルなのかもしれないと推測しています。
草野さんは、ディズニーは家族層やスポーツ好きなど、アメリカのマス層に刺さりやすいと見ます。対してNetflixの視聴者は、若くてアンテナを張ったITリテラシーの高い層だという印象です。
一方、宮武さんはスポーツ分野ではYouTubeが強いと指摘します。ディズニーはESPNという自社ブランドの枠に縛られますが、プラットフォームであるYouTubeは多くの相手と提携するだけでよいため、ディズニーが苦しむ点になるかもしれないとしています。
ストレンジャー・シングスはなぜIP化できたのか
話題はNetflix自身のIP戦略に移ります。草野さんは、オリジナル作品をどうIP化していくかがNetflixにとって重要だと考えています。
その代表例が、シーズン3が公開されたストレンジャー・シングス ── 1980年代のアメリカの田舎町を舞台にしたNetflixオリジナルのSFホラードラマ。超能力を持つ少女イレブンと少年たちの冒険を描きますです。草野さんは大ファンだと話し、宮武さんもNetflixでは圧倒的な人気だと認めています。
ストレンジャー・シングスは、コカ・コーラ、NIKE、バーガーキング、H&M、リーバイス、フォートナイトなどとブランドコラボを展開しています。コカ・コーラは過去に失敗した商品を作中に登場させ、限定販売するという話も出ました。
リーバイスが出してる服を(ストレンジャー・シングスの)主要メンバーのイレブンっていう女の子が着てるんですよ。それはファンからしたらたまらないなっていう。
宮武さんは、作中の当時のリーバイスをリメイクして再販し、売上の一部がNetflixに入る仕組みだと整理しています。
ただし、こうした展開はヒット作でしかできません。宮武さんは、Netflixのオリジナルのヒット作はストレンジャー・シングスやオレンジ・イズ・ニュー・ブラック以外にそれほど多くないと指摘します。
草野さんも、人気ドラマであれば何でも商品化できるわけではないと考えています。ストレンジャー・シングスはSF要素とノスタルジーを感じさせるポップカルチャー性があるため、IP化と相性がよかったという見方です。
人気作でも2シーズンで打ち切るのはなぜ?
宮武さんは、IP化にはシリーズが長く続き、ファンが徐々につくことも必要だと付け加えます。ところがNetflixは、大ヒット作を除き、人気があってもだいたい2シーズンで打ち切っています。
それ(打ち切り)って3シーズン目が結構プロデューサーとは交渉して値段上げてくるんですよ。なんでNetflixとしてもお金払わないためで。
宮武さんは、この判断がストリーミングの売上には合理的でも、今後伸ばしたいグッズ化などのマーチャンダイズ売上には大きく響くため、考え方を変えてもよいのではないかと話しています。
草野さんも、好きだったNetflixのアニメ作品がシーズン1で打ち切られ、ニュースになったと振り返ります。ドキュメンタリーやドラマの打ち切りにTwitterなどで抗議が起きるのを見て、もったいないと感じていたといいます。
Netflixが番組の価値を測る2つのKPI
宮武さんによれば、Netflixの打ち切りにはちゃんとした理由があります。Netflixは数値自体を公開していないものの、重視している2つのKPIの考え方は知られているといいます。
1つ目は、番組ごとの「バリュー」です。その番組がどれだけ新しいユーザーを連れてきて、どれだけ既存ユーザーの解約を防げるかを1つの数字にしたものです。
新規のユーザーの方が価値が高く設定されてあるんですよ。なので、新規のユーザーをより持ってこれるようであれば、その番組の価値が高くなるんですよ。
シーズン3になると新規ユーザーはあまり入ってこないため、番組のバリューが下がります。宮武さんは、Netflixが去年だけで700ほどの新番組を作った背景にも、この仕組みがあると見ています。
2つ目は「ビューワーシェア」です。単純な視聴者数ではなく、登録から24時間以内に見た人や、一度離脱して戻ってきた人の視聴に重みをつけて合算し、番組ごとのレーティングにしています。
| 指標 | 見ていること | 重みが高いもの |
|---|---|---|
| バリュー | 新規ユーザーの獲得と既存ユーザーの維持 | 新規ユーザーの獲得 |
| ビューワーシェア | 誰がいつ番組を見たか | 登録から24時間以内の視聴 |
草野さんは、この話に納得感があると話します。草野さん自身も見たいものがなくなると一度解約し、新シーズンが始まると再登録したことがあるからです。
宮武さんの説明からは、続編よりも新規を呼び込む新作を高く評価する仕組みが、打ち切りの多さにつながっていることがわかります。
オリジナル作品の獲得はなぜここまで高騰するのか
宮武さんは、オリジナルコンテンツ制作のコストの高さにも触れます。30分の低予算番組でも、1話あたり約1億かかるといいます。
Netflixには、他社の有名IPをライセンスで配信する戦略と、オリジナルIPを作る戦略があります。宮武さんは、どちらもとても高額だと指摘します。
例として挙がったのが、コメディ番組のザ・オフィス ── アメリカの職場を舞台にしたモキュメンタリー形式のシットコム。2005年から2013年にNBCで放送されましたです。Netflixから離れるといわれていましたが、Netflixが親会社に100億払ったことで、去年は配信が続いたといいます。
さらに、AmazonやNetflix、今後はディズニーも、有名な制作者の企画をめぐってオークション形式で競り合っています。パイロット版すらない段階で、Netflixが権利取得だけに100億を払うこともあるそうです。
草野さんは、Netflixがゲーム・オブ・スローンズを手がけた人物と契約し、契約金が2億ドル程度だったという話も紹介しています。
なぜアメリカでは今もザ・オフィスが見られるのか
草野さんは余談として、Netflixで一番見られているのが昔のシリーズのザ・オフィスであることに驚いたと話します。日本ではこうしたことは起きにくい気がするといいます。
草野さんはその理由として、日本のストリーミング市場が成熟していないことや、日本のドラマはHuluで見られることが多いことを挙げています。
宮武さんは、アメリカではシットコムが大好きで、ザ・オフィスも流行したと説明します。宮武さん自身も数カ月前に普通に見ていたそうです。
フレンズはでももうクラシックなんで見ますよ。ちょこちょこ。
宮武さんは、ビッグバン・セオリーのような作品も、何度も見続ける「クラシック」の枠に入っていくだろうと見ています。
話は英国ドラマのドクター・フーにも広がります。宮武さんによれば、主人公ドクター・フーを演じる役者が交代するたびに話題になり、過去のドクター・フーと現在のドクター・フーが出会う展開もあるといいます。
草野さんは、役者は同じでストーリーが毎回変わるアメリカン・ホラー・ストーリーと対比し、見れば見るほど好きになる作品だと感想を述べています。
VSCOは写真加工アプリ以上の存在なのか?
後半の「気になるサービス」コーナーでは、草野さんがアメリカの写真編集アプリVSCO ── アメリカ発の写真・動画編集アプリ。フィルムカメラ風の質感を出せるフィルターで人気を集めていますを紹介します。
草野さんによれば、VSCOの最大の魅力は、クオリティが高くセンスのよいフィルターです。裏ではAIで被写体や風景を理解し、よいフィルターを作っているという話もあるといいます。
VSCOの有料版は年間2000円ほどです。草野さんは、25歳未満の若い層がお金を払って使っている点を、他のサービスにはあまりない強さだと評価しています。
宮武さんは、写真加工アプリは複数を使い分けるイメージがあると疑問を投げかけます。草野さんによれば、VSCOは文字入れができず、できるのは動画へのフィルターやGIF化くらいだといいます。
VSCOのアプリはインスタグラムに似たソーシャル機能を持ちながら、「いいね」がありません。草野さんは、その世界観もユーザーに刺さっていると話し、宮武さんはプラットフォームというより1つのツールとして使われていると受け止めています。
VSCOガールズというミームはなぜ生まれたのか
草野さんが特に面白いと感じたのは、VSCOの世界観に影響を受けた女の子たちが「VSCOガールズ」と呼ばれ、TikTokやYouTube、インスタグラムでミームになっていることです。
VSCOガールズは、のんびりしていてビーチや自然が好きな女の子のイメージです。草野さんは、VANSのスニーカー、貝殻のネックレス、水筒、金属のストローといった特徴を挙げています。
VSCOガールズが、VSCOに影響を受けて、そういう属性の女の子たちを生んでるっていうのがすごいなと。
草野さんは、ティーンが意識的にそのステレオタイプに寄せていくことがブームになっている点を、サービスの影響力を示すカルチャーとして面白いと話します。
宮武さんもYouTubeで「1日VSCOガールになりきったら」という動画を見つけ、アメリカで人気なのを確かめています。草野さんによれば、VSCOは2015年以降資金調達をしていないものの、売上を伸ばしているといいます。
まとめ
今回のOff Topicでは、Netflixの米国会員数減少をきっかけに、ディズニープラスの参入、オリジナルIPの難しさ、番組評価の仕組みが語られました。後半では、若者文化にまで影響を与える写真編集アプリVSCOが紹介されています。
- Netflixは第2四半期にアメリカの有料会員数を初めて減らし、ディズニープラスという強力な競合を迎えている
- ディズニーはかつてNetflixの成長を支えたが、2017年に作品を引き上げ、自社配信へ移った
- ディズニーはIPでグッズやテーマパークでも稼げるため、ストリーミングを安く提供できる
- Netflixは新規ユーザー獲得を重視するKPIで番組を評価しており、人気作でも打ち切ることがある
- VSCOは若い有料ユーザーを伸ばし、「VSCOガールズ」というミームが生まれるほどの影響力を持っている




