VidConはファンの祭典からどう変わった?
2019年7月10日から13日まで、カリフォルニアでVidCon ── オンライン動画クリエイターとファン、企業が集まる米国の大型イベント。2010年に始まり、毎年開催されていますが開かれました。オンラインクリエイター向けのカンファレンスで、ファンも多く訪れ、YouTuberによるセッションや企業向けのノウハウ共有も行われるイベントです。
宮武さんによると、VidConではもともとYouTuberのサイン会や握手会も開かれてきました。ただ最近はトップYouTuberが警備を連れて来るようになり、気軽には会いにくくなっているといいます。
最近だと結構YouTuberってセキュリティが一緒に、ガードが一緒に来てたりして、結構会いづらいみたいな話は聞いてます。本当にセレブになっちゃったみたいな感じは。
2019年のVidConにはプロバスケットボールの有名選手やブランドも参加し、来場者の幅は広がっていたそうです。二人とも現地には行けず、宮武さんの会社からはベンチャーパートナーのティムさんが参加していました。
TikTokはなぜZ世代の心をつかんだのか
VidConで特に注目を集めたのがTikTokでした。宮武さんは、TikTokがZ世代 ── おおむね1990年代後半から2010年代前半に生まれた世代。幼い頃からスマホやSNSに触れて育っていますに大ヒットしていて、TikTok関連のパネルはすべて立ち見になるほど満員だったと話します。
草野さんは、TikTokはアジアで流行っているイメージがあったため、米国での人気は意外だったといいます。宮武さんによれば、TikTokが買収したMusical.lyは米国で100万ユーザーほどまで伸びた後に伸び悩み、TikTokになってから大きく成長したそうです。
宮武さんが挙げるTikTokの特徴は、Instagramと比べたときの「リアル感」です。作り込まれた完璧な写真ではなく、Snapchatに近い気軽さがあり、動画の中でミスをしても許される空気があるといいます。
(TikTokは)英語だとオーセンティックって言うんですけど、本当に何かリアル感があるみたいな。ミスしても許される、動画の中でっていう環境になってるらしくて。
作り込まれた完璧な写真が中心
面白系やチャレンジが中心で、ミスも許されるリアル感がある
TikTokで人気のチャレンジ系の投稿は、ブランドにも使われています。宮武さんは、メキシコ料理チェーンのChipotleがTikTokを上手に活用してフォロワー数を大きく伸ばした例を紹介しました。
宮武さんは、TikTokのクリエイターは人種も考え方も幅広く、YouTuberなど他のプラットフォームの人たちとは少し違うと見ています。VidConのTikTokパネルに登壇した6人のスターのうち、1人以外は全員が青かピンクの髪だったそうで、LGBTQのクリエイターも多いといいます。
制作の手間も違います。YouTubeやInstagramでは何時間もかけて撮影・編集するのに対し、TikTokは瞬間的に撮ってしまえる点が良いのではないか、という話も出ていたそうです。
ChipotleとLil Nas Xに見るTikTokの使われ方
草野さんは日本の例として、ファミリーマートが「Lチキ」のオリジナルソングを作り、TikTokのクリエイターに踊ってもらった広告を挙げます。宮武さんによると、米国でも同じような施策はありますが、Chipotleがやっているのはチャレンジ系だといいます。
(Chipotleは)テイクアウトのパッケージがあるんですけど、そこの蓋をフリップするチャレンジとか、結構くだらねえことやってるんですけど。
草野さんが注目したのは、TikTokで流れる音楽です。ラッパーのLil Nas X ── 米国のラッパー。2019年にTikTok発で大ヒットした楽曲で一躍有名になりましたの曲はTikTokで流行り始めたことで知られ、サビに入る瞬間にカウボーイの格好へ変身する動画が広まったそうです。
宮武さんは、若い世代が新しいコンテンツを見つける場所が変わり始めていると指摘します。以前はYouTubeが発見の場でしたが、音楽についてはTikTokの15秒で気に入った曲をYouTubeで調べて全体を聴く、という流れが多いといいます。
TikTok
15秒の動画で気になる曲に出会う
YouTube
曲を調べて全部見る
宮武さんは、TikTokが若い世代に合う背景として、集中力の持続時間の短さを挙げます。スマホの影響もあり、若い世代が1つのことに集中できる時間は平均で7秒だそうです。
今の若い世代の子たちって、アテンションスパンって、どれくらい集中力があるかっていうと、めちゃくちゃ低くなってて、特にスマホの影響とかもあるんですけど、平均で7秒なんですよ。
草野さんの「まさにTikTok」という反応に宮武さんも同意し、今ならVineが復活すれば成功するかもしれない、と冗談交じりに話しました。
インフルエンサーはなぜ心をすり減らすのか
VidConでTikTokと並んで話題になったのが、インフルエンサーのメンタルヘルスです。宮武さんによると、以前からYouTubeで少しずつ語るインフルエンサーはいましたが、直近では多くのインフルエンサーが自分の状態を公開し始めているといいます。
収録の合間に号泣している、何をすればいいかわからない、という声も出ているそうです。11歳からYouTuberを続けてきた人が21歳になり、10年経ってアイデアが尽きたのに、毎週出さなければならないプレッシャーに追われている、という話もあったといいます。
一瞬で動画って終わりますけど、もうあれ作るのにほんと十何時間とかかけてるので、めちゃくちゃ大変なので。
宮武さんは、こうした声が表に出ること自体を前向きに捉えています。もっと公開して、サービスや手当で支えるべきだと考えているそうです。
草野さんは、YouTubeへの投稿だけを収益の軸にすると、離れられなくなり、作りたいものより再生回数を稼げる動画を作る考え方になってしまうと共感します。宮武さんは、1つのプラットフォームに依存すると、アルゴリズムが変わるたびに対応が大変になる点も指摘しました。
収益をYouTubeに依存
投稿をやめられなくなる
再生回数を優先
作りたいものが作れなくなる
毎週・毎日の投稿圧力
アイデアが尽きても出し続ける
負担を減らす工夫として、草野さんは編集メンバーなどをチームに加えるYouTuberを挙げます。日本でも「編集メンバーを入れました」「ご飯を作ってくれるメンバーを採用しました」と紹介する動画を見かけるといい、二人はそれだけ大変な仕事だと話しました。
スポンサー契約で問われる「本当に使っているか」
収益に関わる話として、VidConではインフルエンサーとスポンサーブランドの関わり方も議論されたそうです。宮武さんによると、最近は大手スポンサーと契約するとファンから批判を浴びるケースが多いといいます。
本当に何か金目当てでやってるじゃんみたいな、結局っていうのを言われたりするので。
そのため、自分が本当にその商品を使っている場合や、本当にファンである場合だけスポンサーを受ける、という流れが増えているそうです。
草野さんは、宮武さんが以前話していた「世界で一番稼いだYouTuberの子ども」もWalmartなどと提携しており、批判があったのではないかと振り返ります。宮武さんによると、2018年にYouTubeで最も稼いだのは7歳の子どもで、おもちゃで遊ぶだけの動画を見た子どもが、親にそのおもちゃを買ってほしいとねだる習慣が生まれたそうです。
セレブがインフルエンサーになりたがる時代
宮武さんは、インフルエンサーという概念そのものが変わってきていると話します。スマホなどのテクノロジーで誰でもインフルエンサーになれるようになり、かつての「セレブになりたいからインフルエンサーを目指す」という構図が逆転したといいます。
セレブになりたくてインフルエンサーを目指す
ハリウッドのセレブがYouTubeスターやデジタルインフルエンサーになりたがる
ハリウッドのセレブたちは、Instagramへの投稿を始めたり、ミーム系や面白系の投稿で以前よりはじけた姿を見せたりしているそうです。二人は具体例として、ウィル・スミスや、元プロレスラーのドウェイン・ジョンソン ── 「ザ・ロック」のリングネームで知られる元プロレスラーの俳優。SNSやYouTubeでの発信でも人気です(ザ・ロック)がYouTubeで頑張っていることを挙げました。
VidConの来場者も変わりつつあります。以前は好きなインフルエンサーに会いたいファンが中心でしたが、今は自分もインフルエンサーになりたい子たちが学びに来ている感じがする、と宮武さんは話します。
宮武さんはその背景として、イギリスで行われた子どもの将来の夢の調査を紹介します。1位が医者、2位がインフルエンサー、3位がYouTuberで、3割ほどの子どもが何らかのインフルエンサーになりたいと答えたそうです。
インフルエンサーマーケティングは効かなくなる?
草野さんは、ロサンゼルスでインフルエンサーを名乗る人が増えすぎ、インフルエンサーには逆に料金を高くする店が出てきたという記事を思い出します。インフルエンサーになりたい人が急増し、本物を見分けるのが難しくなっているという指摘です。
宮武さんは、インフルエンサーマーケティングは今も増えていて効果的だと言われる一方で、効果は徐々に落ちていると話します。スポンサードポストが増え、それが広告だと多くの人が理解し始めたためです。
それでどんどんみんなインフルエンサーを信じなくなったりとか、今後そういう問題が起きるのかなというふうに思いますね。
草野さんは、インフルエンサーマーケティングにはやり方を変える瞬間が必要なのかもしれない、と受け止めました。
株券のデジタル化から始まるCartaの野望とは
最後は「気になるサービスのコーナー」です。Twitterで寄せられたリクエストに応え、宮武さんが米国の企業向けサービスCarta ── 米国の企業向けサービス。株式の保有状況や株券の管理をデジタル化するサービスを提供していますを紹介しました。
Cartaがもともと手がけているのは、株を持っていることを示す紙の証明書、つまり株券のデジタル化です。宮武さんの会社も投資先の管理に使っているそうで、草野さんも米国の会社ではよく使われていると話します。
宮武さんによると、Cartaは最近アンドリーセン・ホロウィッツのリードで約300億円を調達し、評価額は約1700億円になりました。売上は現在50億円ほどあるだろうとしています。
宮武さんは、株券のデジタル化だけなら今すごく面白いわけではないと率直に話します。財務諸表や契約書をCarta経由で受け取れる機能など、機能は増えていくと見ています。
宮武さんが期待しているのは、Cartaの最終的なビジョンです。未上場企業の株式を売買できる、ちゃんとしたプライベートマーケットを作ることだといいます。
(未上場株の)セカンダリーマーケットですね。アメリカではちょこちょこサービス出てきてますけど、あんまりうまくいってる感じはしてないので。
宮武さんは、Cartaは企業のきちんとした情報を持っているため実現できるかもしれないと考えています。今のサービスより、これからどういう会社になるかに期待して紹介した、と投資家らしい視点で締めくくりました。
まとめ
2019年のVidConを入り口に、TikTokの台頭、クリエイターのメンタルヘルス、セレブとインフルエンサーの関係、広告効果の低下まで、米国のインフルエンサーを取り巻く変化が語られました。最後には、未上場株市場を見据えるCartaが紹介されました。
- TikTokはリアル感と手軽さでZ世代をつかみ、音楽を見つける入り口にもなっている
- 投稿を続けるプレッシャーやプラットフォーム依存がインフルエンサーの心を追い込んでいる
- スポンサー契約では「本当に使っているか」がファンから問われている
- セレブがインフルエンサーを目指すほど立場が逆転し、なりたい子どもも増えている
- インフルエンサーマーケティングは増える一方で、広告と見抜かれ効果が落ちつつある


