無料ビールはどの国でも出る?WeWorkの基本像
この回のテーマは、コワーキングスペースを世界展開するWeWorkです。運営会社のWe Companyは8月にIPO申請が報じられ、9月ごろの上場が見込まれていました。
宮武さんは、サンフランシスコやテキサス州のWeWorkを訪れたことがあるといいます。投資先のスタートアップが、たまたまWeWorkにオフィスを構えていたためです。
宮武さんによると、USと日本のWeWorkは雰囲気がそれほど変わりません。場所ごとに多少の違いはあっても、レイアウトはよく似ていて、象徴的な「無料のビール」もどこにでも置かれています。
(無料のビールは)WeWorkの人に聞いたことあるんですけど、もう必ずどの国でもやるっていう判断らしいので。
日本だとそこまで消費されないんじゃないかなと思いますけどね。みんな申し訳なくて、多分あんま飲まないみたいな。
一方で、上場をめぐっては逆風も話題になっていました。草野さんは、創業者アダム・ニューマンさんによる上場前の株式売却や、Uberをはじめとする赤字上場への厳しい市場の目を挙げます。
宮武さんは、直近のVCラウンドでの時価総額が470億ドル、約5兆円に達していたことを指摘します。Airbnbを除けば屈指の大型スタートアップであり、注目が集まるのは自然だという見立てです。
海軍出身の創業者は、なぜ膝パッド付きベビー服を作ったのか
WeWorkの創業者アダム・ニューマンさんはイスラエル出身です。幼少期にアメリカへ渡ったあとイスラエルに戻り、海軍に入った経歴を持つことから、草野さんは「武闘派CEO」と表現しています。
宮武さんによると、ニューマンさんの家族はさまざまな土地を転々とし、14か所ほどに住んだという話もあるそうです。草野さんは、この経験がWeWorkの構想につながっているのかもしれないと話します。
その後ニューマンさんはニューヨークのバルーク・カレッジ ── ニューヨーク市立大学を構成するカレッジの一つ。ビジネス教育で知られ、マンハッタンにキャンパスがありますで、ビジネスと仏教を学びます。WeWork傘下のWeGrowのCEOを務める妻とは、この大学時代に出会ったといいます。
ニューマンさんはWeWork以前に、2つの事業に取り組んでいました。1つ目は折りたたみ式のヒールシューズで、こちらはうまくいかなかったそうです。
2つ目の事業は、膝パッドの付いたベビー服でした。こちらは軌道に乗り、ニューマンさんは大学を中退して会社化します。その会社は現在も有名デザイナーが率いて存続しているといいます。
なんでそのアイデアになったのかはちょっとわからないんですけど。でもそれは結構うまくいってたらしく。
グリーンデスクからWeWorkへ、名前を捨てた理由
その後ニューマンさんは、WeWorkの共同創業者となるミゲル・マッケルビーさんと出会います。2人はニューヨークのコワーキングオフィスを間借りし、その一部をさらに貸し出す事業を始めました。
宮武さんは、この事業を「コワーキングの中にコワーキングを立ち上げたようなもの」と表現します。名前はグリーンデスクで、サステナビリティとコミュニティを重視していたそうです。
(グリーンデスクの)当時の写真とか見ると、本当に緑をテーマカラーにしてて。地球に優しいっていうコンセプトにあったんだろうなっていう。
グリーンデスクは、ビルの所有者に株を渡す形で立ち上げられました。そのため売上は所有者と折半です。草野さんは、うまくいくなら自分たちでやったほうがよいと考え、グリーンデスクを売却してWeWorkを作ったのだろうと説明します。
宮武さんは、グリーンデスクの名前のまま別の拠点を増やす案はなかったのかと疑問を投げかけます。そのうえで、元のビルにコミュニティ感が乏しく、よりコミュニティに軸足を移したかったため、社名ごと変えたのかもしれないと推測しています。
時代背景もありました。草野さんは、立ち上げ時期がリーマンショックの直後で、一緒に働くコミュニティが重視されたタイミングだったと指摘します。宮武さんも、2009年ごろはAirbnbやUberが伸びたシェアリングエコノミー ── モノや場所、スキルなどを個人や企業の間で共有・貸し借りする経済の形。2000年代後半から配車や民泊のサービスで広がりましたの盛り上がり期だったと応じます。
WeWorkはグリーンデスクの設立から2年ほどで誕生し、そこから株式による資金調達を進めて現在の姿になりました。
ラウンジを広くしたら人が話さなくなった?
宮武さんは、WeWorkの理念が創業時からはっきりしていたと話します。共同創業者のミゲルさんがホワイトボードに描いた図では、人を中心に、トラベル、ヘルス、ソーシャルライフなどが取り囲み、WeWorkが成り立つ構図になっていたそうです。
ミゲルさんは現在、チーフカルチャーオフィサーを務めています。建築やデザインに精通していたといい、草野さんはWeWorkのスタイリッシュなオフィスにその影響があるのではないかと見ています。
宮武さんによると、WeWorkは初期にさまざまなABテストを行い、知らない入居者同士がどうすれば話すのかを探っていました。見た目より、レイアウトの工夫が中心だったといいます。
最初期のWeWorkはオープンスペースを大きく取り、ラウンジなどを多く設けていました。ところが、広い共用スペースには人が集まらず、行っても話さないことが多かったそうです。
逆にもう食べ物を取りに行くところだけに集まるようにするとか、そこで自然に話が流れるようにするとか、そこら辺の試行錯誤っていうのは結構初期の時やってたらしいですね。
共用スペースを広く取り、ラウンジを多く設けたが、人が集まらず会話も生まれにくかった
各社の個室スペースが中心になり、食べ物を取りに行く場所などに人が自然と集まるよう設計
草野さんも、広場がガランとしていたら近寄りづらいと共感しています。
「スペース・アズ・ア・サービス」はなぜ業界を変えたのか
WeWorkの強みについて、宮武さんは他社との差別化のポイントを挙げます。ある程度の価格で、ある程度よい商品を、速いスピードと柔軟性、そして標準化された形で提供できたことです。
WeWork自身はこれを「スペース・アズ・ア・サービス」と呼んでいるといいます。オフィスをSaaS ── ソフトウェアをインターネット経由で月額などで提供する形態。必要な分だけ契約し、解約もしやすいのが特徴ですのように提供し、翌月の解約やすぐの入居、チーム規模に応じた対応ができる仕組みです。
それ自体って、なんかめちゃくちゃすごいことっていうわけではないんですけど、彼らが結構初めてそれをやって、猛スピードで調達もできたので、猛スピードでいろんな箇所でそれをやったので。
宮武さんは、成功とはまだ言い切れないとしながらも、WeWorkが成長してきた理由をそこに見ています。
いまは女性限定のThe Wing ── 女性向けに会員制のコワーキングスペースを展開するアメリカの企業や、業種特化型など、バーティカルなコワーキングが数多くあります。草野さんは、WeWorkが2010年ごろからこの形を始めていた点に注目し、宮武さんも当時としては業界を変える存在だったと話しています。
稼ぎ頭は会員費、では大企業向けの新ビジネスとは?
WeWorkの収益源について、宮武さんは大きく2つあると説明します。1つ目で売上のほとんどを占めるのが、デスクやオフィスを使うための月額のメンバーシップフィーです。
メンバーシップフィーは人数や席数で決まり、場所によって多少異なります。宮武さんは「めちゃくちゃ安くはないが、めちゃくちゃ高くもない」と表現しています。
草野さんが「スタートアップには高く、大企業には手頃」とまとめると、宮武さんは大企業にとっての価値は柔軟性にあると答えます。規模に合わせた区画や翌月からの入居が可能なら、多少のコストは許容されるという見方です。
WeWorkはSlackなどのテックサービスを割引価格でメンバーに提供していました。オフィス代が多少高くても、ほかのサービスが安くなるという打ち出し方です。
入居企業について草野さんが尋ねると、宮武さんはUSのWeWorkは幅広いと答えます。スタートアップだけでなく、学生のリクルーティング拠点として使うアメリカの大学や、大企業も入居していて、大企業の割合は増えているそうです。
もう1つの収益源が、他社のオフィスのデザインや運営を裏側から担う事業です。宮武さんによると、Pinterestのオフィスは実はWeWorkが仕切っているといいます。
自分たちでビル持ってないので、そこのリスクを抱えなくていいので、より利益率も高いっていう話で。
この事業は「Powered by We」と呼ばれ、昨年7月時点で約30社に提供されていました。宮武さんによると、昨年の売上は13〜14億円ほどで、全体から見るとまだ小さい規模です。
創業者の800億円売却と、10ページのリスク開示
IPOについて宮武さんは、9月の上場が有力で、10月にずれ込む可能性もあると見ています。草野さんは、創業者が上場前に株を売るのは異例だとする報道を取り上げます。
宮武さんの答えは、売却そのものは異例ではないというものです。SlackのスチュワートさんやSnapスナッチャーのエバンさんも上場前に株を売っています。
ただ、額が違うんですよ。アダムさんは800億なんですよ。
宮武さんによると、ほかの創業者の売却額は1000万〜2000万ドル規模でした。ニューマンさんの約800億円とは桁が違うため、ニュースになったと考えられます。なお宮武さん自身、金額は「確か800億だった気がする」と留保をつけています。
さらに宮武さんが注目するのが、上場申請書のS-1 ── アメリカで新規上場する企業が証券取引委員会に提出する登録届出書。事業内容や財務、リスク要因などを開示しますにあるリスク項目です。ニューマンさん個人に関する開示が10ページ分もあるといいます。
開示の中身は、株式売却や、ニューマンさん自身が不動産投資した物件をWeWorkがお金を払って使っていることなどです。宮武さんは、会社がこれだけ創業者の行動をさらけ出さなければならない状況は、なかなかレアだと話します。
ガバナンス面の懸念もあります。ニューマンさんは議決権を多く持ち、会社を支配する立場です。宮武さんによると、万が一ニューマンさんが亡くなった場合、次の社長を選ぶ力が妻に移る仕組みになっています。
万が一離婚したらどうするの?みたいなところは加味してなかったりするんで。
「We」の商標に6億円、テックという語は113回
草野さんが次に取り上げたのは、社名に使う「We」の商標です。宮武さんによると、WeWorkはニューマンさんの関連会社であるWe Holdings LLCに590万ドル、約6億円を支払っています。
宮武さんは、ニューマンさんが押し切ったのか、ほかの株主も納得したのかはわからないとしつつ、相当な金額だと話します。
ブランディングへのこだわりは、上場申請資料全体から読み取れるといいます。冒頭からWe Companyの哲学や壮大なビジョンが語られ、「テック」という言葉は113回ほど登場するそうです。
不動産屋さんではなくて、コワーキングスペース事業ではなくて、テックカンパニーですっていうのを言わないと、彼らのバリエーションって多分。
宮武さんによると、ほかの大手コワーキング企業は200億ドル、約2兆円ほどの評価です。WeWorkの前回ラウンドの評価はその倍以上で、テック企業として見られるかどうかが売上マルチプルを大きく左右すると考えられます。
売上と同じだけの赤字、リース支払いは誰が払う?
WeWorkの財務について、宮武さんはまず売上の伸びを挙げます。2018年の売上は18億ドル、約1800億円で、2019年は最初の6か月で15億ドルに達しています。通年では約2倍の伸びが見込まれます。
問題は、売上とほぼ同じ規模の赤字が出ていることです。昨年は売上1ドルに対して1.22ドルのマイナスで、年間のバーンレート ── 企業が事業運営で手元資金を消費していくペース。赤字のスタートアップでは資金が何か月もつかを測る目安になりますは10億ドルを超えます。
手元のキャッシュ25億ドルのうち11億ドルは、リースしているビルの支払いに結びついていて動かせないといいます。
宮武さんは、拠点ごとの黒字化状況がS-1でほとんど示されていない点も気にしています。海外では市場に合わせて価格を下げる一方、設備の仕組みは似ているため、コストが見合うのかという疑問があります。
その330億(ドル)のうちに70パーセントぐらいが2024年以降払わないとダメで。なので、そこの莫大な金額をどう払うのかなんですよね。
リース契約は10年や15年の長期です。宮武さんは、その分しっかり稼ぐか借り入れをしないと厳しいと見ています。
景気後退への備えも課題です。不況でスタートアップが倒れれば売上が減るため、WeWorkはAmazonなどの大企業を狙っていて、すでに売上の3〜4割が大手から来ています。それでも宮武さんは「本当に大丈夫だっけ?」という懸念を示しています。
時価総額470億ドルの理由はソフトバンク?
不動産銘柄と比べて評価が高すぎるのでは、という草野さんの問いに、宮武さんは理由は1つで明確だと答えます。S-1に50回以上登場するソフトバンクです。
ソフトバンクとソフトバンク・ビジョン・ファンドは、WeWorkに約1兆円を投資しているといいます。それでも宮武さんは、上場時に直近の470億ドルの評価はつかず、かなり下回るだろうと予想します。
その根拠がセカンダリーマーケット ── 未上場企業の株式を、初期の従業員やVCなどの間で売買する市場。アメリカでは比較的盛んですでの評価です。宮武さんは、最近はセカンダリーでの評価がIPO時の評価に近い傾向があると話します。
470億ドル(約5兆円)
約2兆〜2.5兆円で、直近ラウンドのほぼ半額
宮武さんは、この見立てが正しければソフトバンクはかなり苦労するのではないかと話します。
今年のIPOでは、大きな赤字を抱えたUberとLyftが苦しみ、黒字化していたZoomは評価されました。Pinterestは赤字でも黒字化への道筋が見えていたといいます。宮武さんは、WeWorkの課題はこれだけの赤字から本当に盛り返せるのかにあると見ています。
なぜ今上場するのか、主幹事はなぜJPモルガンか
このタイミングで上場する理由について草野さんは、不況が来る前に上場を急ぐほかのテック企業と同じ文脈なのかと尋ねます。宮武さんはそれもあるとしたうえで、ニューマンさんへのインセンティブを挙げます。
VC側から、上場して一定の成果を出せば株やボーナスを上乗せする仕組みがあり、S-1にも載っているそうです。宮武さんは、こうした制度は珍しくないものの、上場の動機の一つになっていると見ています。
WeWorkのIPOの主幹事はJPモルガンです。理由の1つは、JPモルガンのファンドがWeWorkに投資していたことでした。ただし、ゴールドマン・サックスもWeWorkに投資しています。
特にレイトステージは、いわゆるテック銘柄の取り合いなんですよ。そこのフィーを取りたいんで。
宮武さんによると、テックIPOは評価が高くつくため、上場規模が大きいほど投資銀行が得る手数料も大きくなります。モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスが強い分野で、JPモルガンが入り込んだのは珍しいといいます。
決め手の一つは、JPモルガンの社長がニューマンさん個人のフィナンシャルアドバイザーだったことです。JPモルガンはニューマンさん個人の約40億円の借り入れにも関わったと報じられています。
ファンドで出資
JPモルガンのファンドがWeWorkに投資
創業者個人を支援
社長がニューマンさんのアドバイザーとなり、個人の借り入れも手伝う
借り入れを主導
WeWorkの約6000億円のデットファイナンスを取りまとめ
主幹事に
上場自体でも約800億円を投資する予定で、IPOを担当
宮武さんは、個人のアドバイザーという点はレアかもしれないが、調達や借り入れの支援自体は珍しくないと話します。出資だけではゴールドマンなどとの差がつかないため、JPモルガンは前々からほかの手も打っていたのだろうという見方です。
まあゴールドマンも多分そこで多分担当したかったと思いますね。
大企業の利益率は低い?WeWorkが次に狙う事業
WeWorkの今後について宮武さんは、Powered by Weへのコミットが強まると予想します。大企業の入居は売上には大きく貢献するものの、マージンが低いためです。
宮武さんによると、大企業は1〜2席ではなく10席ほどをまとめて広いスペースで効率よく使います。そのため、スタートアップと比べて利益率が圧倒的に低くなるといいます。
1〜2席の小さな契約で、利益率は相対的に高い
10席ほどを広く効率よく使うため売上は大きいが、利益率は低い
そのため、メンバーシップ以外で粗利を稼ぐ手段として、Powered by Weのような事業が重要になると宮武さんは見ています。
草野さんは、WeWorkが飲食店の空きスペースをコワーキングに活用するSpacious ── 日中に営業していない飲食店などのスペースを、コワーキングとして会員に提供していたニューヨーク発のスタートアップを買収した点にも触れます。不動産を所有せずにWeWorkを導入するモデルが増えるのではないかという印象です。
番組の最後、宮武さんは「どれくらいつくんですかね、バリュエーション」とつぶやき、草野さんも上場を楽しみにしていると締めくくりました。
まとめ
WeWorkは、グリーンデスクでの試みから生まれ、オフィスをサービスとして速く柔軟に届けることで業界を変えてきました。一方で上場申請資料からは、創業者に関わる多くの開示、売上並みの赤字、巨額の長期リースという課題が見えてきます。
- ニューマンさんは2度の起業とグリーンデスクを経て、コミュニティ重視のWeWorkを立ち上げた
- 強みはオフィスをSaaSのように提供する「スペース・アズ・ア・サービス」と、それを猛スピードで広げた点
- S-1には創業者関連の開示が10ページあり、約800億円の株式売却や6億円の商標料も話題になった
- 売上は急伸する一方で赤字も同規模で、330億ドルのリース支払いの約7割は2024年以降に控える
- 宮武さんは、上場時の評価は直近の470億ドルを大きく下回り、セカンダリーの約半額水準に近づくと見ている




