ニューヨーク出張で宮武さんは何を見てきた?
宮武さんは収録の2日ほど前に、ニューヨーク出張から戻ってきたばかりでした。京都で開かれたIBSに参加し、そのままニューヨークへ向かったため、猛暑の京都と比べればニューヨークの暑さは大したことがなかったと話します。
京都のIBSについて宮武さんは、とにかく人が多く、イベントとして非常に人を集めていたと振り返ります。
ニューヨークでは2つのリテール系イベントに参加し、起業家や投資家とも会っていたといいます。宮武さんは、今のリテール環境の状況やVCの考え方を直接聞けたことが良かったと話し、合間に店舗の視察もしていました。
滞在先はソーホーなどニューヨークの南側が中心で、ブルックリンには1回だけ足を運んだそうです。
買い物(は)、基本的にお土産を買いに行くことしかしないので。
今回のお土産は、ミスタービースト ── 世界最大級の登録者数を持つアメリカのYouTuber。チョコレートブランド「Feastables」など自身の商品ブランドも展開していますのブランドであるフィースタブルズなど、お菓子系が多かったといいます。前の週に行っていればロードのポップアップにも行けたものの、行列を考えると難しかっただろうとも話していました。
ジェイク・ポールのブランド「W」から届いた、ロッカー型のギフト
出張から帰った宮武さんの家には、2つの荷物が届いていました。そのうち宮武さんが予想していなかったのが、人気YouTuberでボクサーでもあるジェイク・ポール ── アメリカの人気YouTuber。プロボクサーとしても活動し、自身のブランド事業も手がけていますさんが立ち上げたメンズケアブランド「W」からのギフトです。
「W」はデオドラントやボディウォッシュなどを展開し、現在はウォルマートで販売されています。宮武さんは知り合いの投資家経由でギフトを受け取ったとみられ、まさか日本まで送ってくれるとは想像していなかったと話します。
ちょっとまず重いんですよ。
届いた箱には宮武さんの名前が入っており、外見はロッカーのようなデザインでした。開けると、ロッカーに写真が貼ってあるような見た目の中に商品が並び、ウォルマートの名前も入っていました。宮武さんによると、ウォルマートが最初のエクスクルーシブパートナーだからだそうです。
中身はデオドラントやボディウォッシュのほか、靴下やTシャツ、ジェイク・ポールさんのパンフレットのようなものまで入っていました。香りはすべて「ディープウッズ」で、草野さんは、いかにもメンズという感じではなく自然系の香りだと受け止めています。
ちゃんと、(ギフトを)ちゃんと使ってください。
Runwayのギフトは、なぜタイマーロック付きのカバンだったのか
もう1つの荷物は、事前に届くと知らされていたものでした。送り主は、VR体験を提供するスタートアップSANDBOX VRの元CEOで、宮武さんがTwitterで知り合った起業家のシキ・チェンシキ・チェンさんです。直接会ったことはないものの、日本語も話せるため、Clubhouseで少し話したこともあるといいます。
シキ・チェンさんは数年前から新しいスタートアップの立ち上げを試み、AIブームの中で方向性を模索した末に、ようやくサービス「Runway」をローンチしました。宮武さんが注目したのは、そのローンチ戦略のうまさです。
やっぱりなんかあれですよね、前話したラグジュアリーソフトウェアの流れに沿ってるなって感じはしました。
草野さんは、Runwayのローンチ動画やローンチページを見て、サービスの思想を感じるプロダクトだと話します。宮武さんも、起業家がローンチ動画などのプロモーションをどんどん上手に作るようになっている流れの中で、今回は動画を含めた戦略が際立っていたと応じます。
Runwayは、事業計画を1人のCFOが作るのではなく、コラボレーション型で簡単に作成・操作できるサービスです。主なターゲットはテック企業などのBtoB領域で、Runwayはそうした人たちに向けてギフティングを行いました。
ソフトウェアのギフティングは、草野さんの言葉を借りれば「招待コードを出すくらいしかない」難しい領域です。Runwayの場合は、ローンチの3〜4週間ほど前に宮武さんへDMが届き、ローンチに合わせて送りたいので住所を教えてほしいと頼まれたといいます。
届いた箱の中にはカバンが入っており、そのカバンにはタイマーロックが付いていました。99日先まで設定でき、ローンチのタイミングで自動的にアンロックされる仕組みです。
なんかそこをなんか多分全員同じタイミングでアンロックして、みんなその中を見れるみたいな。
Twitter上では、受け取った人たちが「17時間前」などと残り時間の表示された写真を投稿していました。さらにカバンには飛行機の荷物タグのようなプラスチック製のタグが付き、QRコードを読み取るとカウントダウン式のサイトにつながります。サービス名の「Runway」に合わせた演出です。
事前のDM
ローンチの3〜4週間前に住所を尋ねる連絡が届く
カバンの到着
タイマーロック付きのカバンと荷物タグ風のタグが届く
カウントダウン
タグのQRコードからカウントダウン式のサイトへつながる
一斉アンロック
ローンチの瞬間に全員が同時に中身を見られる
中身はTシャツではなく、番号入りのフライトジャケット
宮武さんは、受け取った全員が同じタイミングで開けて同じ体験をすること自体が、非常に良い戦略だと評価します。そのうえで驚いたのが、カバンの中身でした。
基本的にそのスタートアップのグッズって、なんかTシャツとか、なんかパーカーとか、なんか靴下とかそういう系のものが多いと思うんですけど、ここに関してはフライトジャケット。
ジャケットはきちんとしたブランドのものと見られ、右肩あたりにRunwayのマークが入っていました。200人ほどにしか配っていないとみられ、そのうち何番目かという番号も書かれていたため、宮武さんはパーソナライズされているように見える仕組みだと感心しています。
Tシャツ、パーカー、靴下など
番号入りでリバーシブルの黒とオレンジのフライトジャケット
草野さんは、ジャケット代に加えて海外への発送まで考えると、かなりの労力とお金がかかった施策だと指摘します。
ところが、宮武さんがこのギフトを受け取ったのは出張から戻ったあとでした。ローンチは前の週で、箱を開けたときにはカバンのロックがすでに外れていたのです。
マジでごめんなさいっていう。
映像でジャケットを見せた宮武さんに、草野さんは「全然ソフトウェアとは思えない」と反応し、着てほしいと何度も促します。宮武さんは暑さを理由に、秋ごろまで持ち越しとしました。
Runwayのローンチに約3年かかった理由
草野さんは、RunwayがLPを出して「こういうサービスを作ります」と発表してから、ローンチまでかなりの時間がかかったと振り返ります。宮武さんの見立てでは、3年ほどかかっています。
草野さんによると、Runwayは有力な投資家から資金調達をしていて、硬めのソフトウェアでありながらサイトにミームのGIF動画を載せるなど、ブランドのトーンがはっきりしたサービスです。
宮武さんは、シキ・チェンさんがストーリーテリングに長けた人物で、ピッチ資料での伝え方などをツイートスレッドで発信したこともあると紹介します。
やっぱりAIが、AI生成技術が出てきてからめちゃくちゃ迷ったっていう話はしてて。
宮武さんの推測では、RunwayはChatGPT ── OpenAIが2022年11月に公開した対話型AI。生成AIブームのきっかけとなりましたが登場する前後にローンチを考えていたとみられます。その後、自分たちのサービスがすぐ置き換えられるのではないか、AIネイティブとしてゼロから作り直すべきではないか、と悩んだのではないかといいます。
ただし宮武さんは、この点を本人と直接話したわけではなく、これまでの発信内容から推測したものだと断っています。
機能の充実が必要なサービスは時間をかけても成功する?
草野さんは、Notionのように「特化型だけれど多くの機能が最初から必要なサービス」は、時間をかけても成功しそうなイメージがあると話します。Notionもローンチまでに時間がかかったサービスです。
宮武さんも、FigmaやRipplingも同じように時間がかかったと挙げて同意します。
一方で、投資家の目線では長い開発期間は簡単に許されるものではない、という点でも2人の意見は一致します。草野さんが連続起業家であることやデザインのセンスが必要なのかと問うと、宮武さんは、普通なら投資家が「ピボットしたら」と言いそうだと応じました。
うーん、(時間をかけて作るのは)誰でもできる話じゃないかもしれない。
ギフトが届いた理由について宮武さんは、日本でアメリカの情報を発信する人が少ないからだろうと話します。一方で「W」のギフトは、単に株主と仲が良いからにすぎないといいます。日本では買えない商品なので、宮武さんが日本語で発信してもブランドにメリットはないと考えているためです。
なぜデオドラントからブランドを始めるのが面白いのか
話は「W」の商品そのものに戻ります。宮武さんは、日本ではアメリカのような形のスティック型デオドラントはあまり見かけない印象だと話し、草野さんは日本のものはもっと丸い形かもしれないと応じます。
香りを聞かれた宮武さんは、アックスやオールドスパイスと比べて大きな違いはないと率直に答えます。草野さんは、もらっておいてその反応はよくないのではとツッコミを入れました。
草野さんは、クリエイターブランドはこれまで飲料、フード、アパレルが多かったなか、スキンケアやウェルネスに向かうのは面白いと話します。宮武さんは「W」について半年ほど前に聞いたとき、ボクサーのジェイク・ポールさんなら確実に使う商品なので相性が良いと感じたそうです。
やっぱり新しい新興系のブランドがあんまり入ってないレガシーがめちゃくちゃ強い領域に入り込むのって結構いい、なんかポジショニングかなと思っているんですけど。
宮武さんの見立てでは、男性向けで価格帯の高くないデオドラント市場は、アックスやオールドスパイスが強く、新興ブランドがほとんど出てきていません。D2C系のネイティブ ── アメリカのD2Cデオドラントブランド。ナチュラルな成分を打ち出し、オンライン販売から成長しましたはより高価格帯に位置しています。
| ブランド | 位置づけ | 価格帯 |
|---|---|---|
| アックス、オールドスパイス | マス向けのレガシーブランド | 「W」より1ドルほど安い |
| W | 男性向けの新興クリエイターブランド | 5〜6ドル以内 |
| ネイティブ | ナチュラル系のD2C | 少なくとも40%高く、場合によっては倍 |
草野さんは、ネイティブは男女どちらも使い、むしろ女性の利用が多い印象だと補足します。そのうえで、「W」はアックスのようにメンズらしいデザインで、複数の商品を一度に出しているのが面白いと指摘しました。
宮武さんは、ネイティブは1つのSKUから始めたはずだと話します。クリエイターブランドは最初から販売のチャネル(ディストリビューション)を確保できるため、複数SKUで試すことも許され、資金も集めやすいという見方です。
宮武さんがブランドを作るなら何を選ぶ?
草野さんから「物を売るブランドを作るなら何を作りたいか」と聞かれ、宮武さんは食べ物系になるかもしれないと答えます。自分にどこまでできるかを考えると、憧れはあっても別の分野より食べ物系が現実的だといいます。
理由は好きだからというだけでなく、ビジネスチャンスがあるからです。例として宮武さんは、シリアルトークで沼田さんが話していた、焼き肉のタレを売るブランド「ばあちゃんズばあちゃんズ」を挙げます。
年間70ミリオンぐらいの売り上げを出しているので、それはそれでやっぱすごいなっていうのは思いますよね。
Happier Groceryはどうラグジュアリーになったのか
食べ物の話から、宮武さんはニューヨーク出張中に立ち寄ったHappier Groceryの話を始めます。「ニューヨーク版エレウォン ── ロサンゼルス発の高級オーガニックスーパー。高価格のスムージーやグッズで知られ、ライフスタイルブランドとして人気です」と呼ばれるスーパーで、1年ほど前に訪れたときから大きく変わっていたといいます。
1年ほど前に訪れたときの店舗
ラグジュアリー感が増し、グッズがカラフルに。雑誌コーナーやカフェスペースが設けられていた
変化のひとつはグッズで、ロゴだけではなく色づかいにもこだわったカラフルなものになっていました。デニム、ジョガーパンツ、ジャケット、タオルなど品ぞろえも幅広くなっていたそうです。
店内は、入口にカフェスペース、中央にグロサリーエリアがあり、階段を下りるとさらにグロサリーの売り場が広がります。階段を下りずに奥へ進むと、ピザなどを売るホットフードエリアがあります。
なんか明らかにカフェスペースでもう人が仕事してるんですよね。
仕事をしているのはテック系の人というより、エレウォンにいそうな人たちで、草野さんの言葉では「時間に余裕がありそうな人」だといいます。ジムの帰りに立ち寄って買い物をする人もいて、宮武さんはエレウォンをかなり意識しているのではないかと感じたそうです。
店舗はエレウォンよりはるかに小さいものの客入りは非常によく、ピザを頼む人も多かったといいます。宮武さんは、ホールフーズにもホットフードがあるように、単にスーパーとしてではなく食事を買いに来る人も多いのではないかと見ています。
スターバックスができると起業家は増えるのか?
話題を変えて宮武さんが紹介したのは、全米経済研究所によるサードプレイスに関する調査です。サードプレイスがネットワークづくりを促すという仮説は以前からあり、ネットワーキングで生き残り、スケールしていく起業家にとって良い影響があるのではないか、という問題意識に基づいた研究です。
調査テーマは「カフェはスタートアップを増やすのか」です。あるエリアにスターバックスができた場合、その後数年間でスタートアップの数がどれだけ増えるかを調べました。
ただし宮武さんは、どこまで厳密な調査なのかはわからず、たまたまかもしれないと慎重です。相関があると言い切れるものではなく、結果論にすぎないと何度も念を押していました。
なぜスターバックスなのかという疑問に対して、宮武さんは、全米展開しているチェーンだから選ばれたのだろうと推測します。ダンキンも調べたものの、スターバックスのほうが結果が良かったという話もあったそうです。
草野さんは、むしろサンフランシスコのサードウェーブ系コーヒー店の増え方を見るほうが関係があるかもしれないと応じました。
ストライプがカフェを開いたら?ボバ屋とアジア系起業家の相関まで
草野さんは、CAMPFIREの家入さん家入のように起業家がカフェやバーを運営する例を挙げ、起業家が集まる場所をつくることは重要だと話します。
なんでなんかストライプがどっかのタイミングで(カフェを)やらないのかなっていう思いました。
草野さんは、Notionもカフェを開いていたと指摘し、宮武さんはロンドンとベルリンだったはずだと応じます。宮武さんは、ストライプのミッションが「インターネットのGDPを伸ばすこと」なのだから、ストライプのカフェを出すのも筋が通ると話し、草野さんも決済も使えると乗ります。
草野さんは本屋もおもしろそうだと提案し、宮武さんは現代風のバーンズ・アンド・ノーブル ── アメリカ最大手の書店チェーン。全米に大型店舗を展開していますのようなものを挙げました。
さらに宮武さんは、スターバックス以外ならどのカフェで調べるべきかと問いかけます。草野さんはブルーボトルを挙げ、宮武さんはピーツはサンフランシスコでは見かけるもののそれ以外ではあまりないと話します。
ボバティー屋さんが増えるとアジアン起業家増える問題みたいな。問題じゃなくて相関性みたいなないですかね。
宮武さんはこの「ボバエフェクト」をぜひ見てみたいと乗り気で、文化ごとにそうした相関があるかもしれないと話して、雑談回は締めくくられました。
まとめ
今回の雑談回では、宮武さんに届いた2つのギフトをきっかけに、クリエイターブランドの戦略、ソフトウェアのローンチ施策、リテールの変化、カフェと起業の関係まで話が広がりました。どの話題にも、体験や場をどう設計して人を巻き込むかという共通点が見えます。
- Runwayは、タイマーロック付きのカバンと番号入りのフライトジャケットで、ソフトウェアでは難しいギフティングを体験として成立させた
- ジェイク・ポールさんの「W」は、レガシーブランドが強く新興勢の少ない男性向けデオドラント市場に、クリエイターの集客力で切り込んでいる
- Happier Groceryは、カラフルなグッズやカフェスペースを通じて、エレウォンのようなラグジュアリー路線を強めていた
- スターバックスの出店とスタートアップ数の関係を示す調査も紹介されたが、相関は言い切れず結果論にすぎないと宮武さんは慎重だった


