ファストフードはなぜサードプレイスでなくなったのか?
この回は、ファストフードカルチャーを扱った過去2回に続く、フードシリーズの3回目です。宮武さんはまず、1980〜90年代のマクドナルドが持っていた役割を振り返ります。
当時のマクドナルドはテレビ番組やキャラクターのIP化を進め、子どもが誕生日パーティーを開きたい場所であり、サブカルチャーの集まる場所でもあったといいます。
宮武さんによると、ファストフードのサードプレイス性は徐々に薄まっていきました。健康面の理由や印象の悪化に加え、モノカルチャー化したことも背景にあると話しています。
今のファストフードは多分サードプレイス化は、アメリカの場合ですとあまりできてない。ただ、フード自体がサードプレイス化、実はしやすいものだと思っていて。
そこで今回、宮武さんが主に取り上げるのはグロサリー、つまり食料品店です。グロサリーがプチラグジュアリー化し、そこからサードプレイス化しているという見立てを深掘りすれば、良いサードプレイスの作り方が見えると考えています。
話の入り口で、草野さんは宮武さんに自分のサードプレイスを尋ねます。宮武さんは「Twitterとかになっちゃうんですかね」と答え、草野さんに「めっちゃオンライン」と突っ込まれていました。
お金がなくても欲しいものは何か
宮武さんは前回の話を受けて、アメリカ人の経済状況から整理します。貯金額が下がり負債額が上がる中でも、ラグジュアリーアイテムやステータスアイテムへの需要自体は消えていないといいます。
変わったのは買い方です。宮武さんは、iPhoneを1〜2世代スキップする人がかなり増えているという調査に触れ、価格の上昇と、変化が小さいなら今のままでいいという感覚を理由に挙げます。
同じ傾向は家具やホームウェアにも見られ、古くなったテーブルをもう少し使い続ける人が増えています。その一方で、アパレル、スポーツ、ビューティー・コスメ、フードは買い続けられている、あるいはより多く買われているそうです。
iPhoneや家具など、高価なものを定期的に買い替える
高価なものは世代をスキップし、アパレル・スポーツ・コスメ・フードなど低価格で外に見せやすいものを買う
草野さんが「トレンドに乗らなきゃ」という心理かと尋ねると、宮武さんはそれに加えて、4つのカテゴリーがどれも外に見せやすいものだと指摘します。ステータスを見せやすく、それほど高くないという組み合わせが鍵だという見立てです。
アバクロはなぜ復活し、アメリカンイーグルは日本を去ったのか
消費トレンドの例として、宮武さんはアバクロの株価の伸びを挙げます。今年だけで2倍、過去12か月では5倍で、NVIDIAの伸び率を超えたことがミームになっていると話します。
ただし宮武さんは、額で見れば圧倒的にNVIDIAが強く、比べているのはあくまで株価の成長率だと念を押しています。アバクロの施策が良くなっていることも背景にありそうで、詳しくは別の機会に深掘りしたいとしていました。
草野さんは脱線として、アメリカンイーグルの日本撤退に触れます。去年再上陸したものの1年もたたずに撤退し、渋谷の店舗もなくなっていたそうです。
一方で、アメリカでは炎上しているブランディ・メルヴィル ── LA発のカジュアルファッションブランド。基本的にワンサイズ展開で、細身の体型を前提にした打ち出し方が批判の対象にもなっていますが日本では好調に見える、と草野さんは比較します。
ダイバーシティ気にしすぎて、同じようなブランドに見えてしまうみたいなことがあるなと思って。オールドネイビーもアメリカンイーグルも日本に来た時、雰囲気がめちゃくちゃ似てて。
草野さんは、アメリカンイーグルは特色が分かりにくかったのかもしれない、と難しい問題であることを前置きしつつ話しています。
やっぱりどうしても尖った方が、そのコアの層に刺さりやすいっていう部分は絶対あるので。
宮武さんも、前回までのマクドナルドの話と同じく、マスに寄りすぎるとターゲットが分からなくなり、ブランド同士が同じに見えやすくなると応じています。
リップスティック効果はグロサリーにも及ぶ?
高価なものの代わりに低価格のアイテムを買う動きを、宮武さんは「リップスティック効果 ── 景気が悪い時期に、高級品の代わりに口紅のような手頃な贅沢品が売れる現象を指す言葉です」と呼びます。草野さんも、リップグロスが今めちゃくちゃ売れていると実感していました。
草野さんが最近気になったのは、ヘイリー・ビーバーのブランドRHODE ── ヘイリー・ビーバーが手がけるビューティーブランド。リップ製品やリップを収納できるスマホケースで知られていますの新色です。ただ、リップを入れるiPhoneケースは暑いと中身が溶けて出てくるらしく、買うなら冬がいいと話していました。
ニューヨークではRHODEのポップアップも開かれ、すごい待ち時間だったそうです。草野さんは、もともとリップがメインではなかったD2Cブランドまでリップグロスを売り始めていると指摘します。
宮武さんは、同じことがグロサリー店舗でも起きていると話を戻します。iPhoneほど高いものは置いていなくても、スナックや飲み物などのプチラグジュアリーは置かれていて、今の経済環境ではステータスアイテムになりやすいといいます。
トレンディーなグロサリーとは何かと聞かれた宮武さんは、オリポップやリクイッドデスを例に挙げます。普通の水ではなく、「これが今イケてるアイテム」と見せられるものが流行っているという説明です。
グロサリーはなぜ「行き先」になったのか
宮武さんによると、若い世代はオンラインで買うだけでなく、グロサリー店舗に実際に行きたがります。1人で行けば自撮りを撮り、友達と行けばその瞬間を楽しむといいます。
その理由の一部として、宮武さんは現実逃避を挙げます。草野さんが「逆に現実的な場所では」と返すと、宮武さんは店内の雰囲気を説明しました。
(ErewhonやWhole Foodsは)いろんな農産物が周りにあって、ちょっと綺麗な感じで、自然体で、その世界に入りたいのかなっていう。
そこでちょっとプチラグジュアリー的なものを買える自分がいいって思いたい。
草野さんは、洋服の買い物はお金がかかるけれど、日々必要なものを少し良いものにするのは楽しい、と共感します。宮武さんも、必要なものだからこそ手を出しやすい点が大きいと応じました。
宮武さんは、Z世代とアルファ世代を「グロサリーで自撮りを撮る世代」と表現します。ステータス商品がグロサリーにあるので、そこへ行って自撮りを撮るのは分かりやすい行動であり、グロサリー店舗自体が1つの行き先になっていることが新しい行動シフトだと話しています。
ErewhonのスムージーはなぜLAの象徴になったのか
草野さんは、Erewhon ── LAを中心に展開する高級スーパーのチェーン。オーガニック食品やサプリ、高価なスムージーで知られていますにはイートインスペースがあり、カフェのように使う人もいると振り返ります。宮武さんは、座って人と話し、食べる体験ができることが大きいと話します。
2人が以前訪れたときは、ルルレモンを着たスポーティーな人たちがスムージーを片手に並んでいたそうです。2人は店内でお寿司を食べ、「まあまあ高かった」けれど美味しかったと振り返っています。
宮武さんの説明では、ErewhonはLAにしかない健康食品やナチュラルフード、スムージー、サプリを扱うスーパーチェーンです。スムージーは安いもので12ドル、みんなが並ぶものは20〜25ドルほどで、日本円では3000円を超えます。
草野さんは、スムージーや寿司、アボカドトーストといったLAらしい空気の延長なのかと尋ねます。宮武さんはベースは変わらないとしつつ、他のホットなグロサリーにも必ずスムージーが置かれるようになったのはErewhonの影響だと見ています。
Erewhonが人気になったきっかけとして、宮武さんは2つを挙げます。2018年にカニエ・ウェストが「Erewhonドリップ」とツイートしたこと、そしてコロナ禍で唯一行ける場所がスーパーになり、非公式の集まる場所になったことです。
高級スーパーは本当に儲かっているのか?
宮武さんは、Erewhonは高いものを置いているだけでなく、実際に売上も出していると数字を示します。一般的なグロサリー店舗の週次売上は60万ドルほどで、1平方フィートあたりでは週19ドルほどだといいます。
これに対してErewhonは週次で約100万ドル、1平方フィートあたりでは一般店舗の約100倍です。理由は、より小さい店舗で効率的に売上を出しているからだと説明しています。
宮武さんの換算では、Erewhonの売上は月におよそ5億円です。人気のWhole Foods店舗と同程度の週次売上ですが、Whole Foodsの店舗はずっと大きいとも付け加えています。
草野さんが「お金を持っている人がいる安心感」かと尋ねると、宮武さんは同意しつつ、今ではセレブ目当てを超えて「Erewhonだから」行く段階になったと話します。店内にはErewhonブランドの商品が非常に多いそうです。
1つのスムージーで年間1000万ドル?
Erewhonのスムージーコラボの始まりは、コロナ期間中にErewhonへよく通っていたTikTokerのティンクスさんだったといいます。ティンクスさんは、他の人とつながれる唯一の場所としてErewhonを気に入り、動画を投稿していました。
その動画を見て人が集まり始めたことで、Erewhonのオーナーの兄がお返しを申し出て、コラボ商品としてスムージーが作られました。宮武さんによると2020年ごろのことです。
最も大きくなったのは、ヘイリー・ビーバー本人が問い合わせて実現したコラボです。去年末時点では、ヘイリー・ビーバーのスムージーが毎週1万2000個売れていたといいます。
ざっくり計算すると1ヶ月で800系ですね、1商品で。年間で10ミリオンなんですよ。
宮武さんは、全てが同じ値段で売られているとは限らないと断ったうえで、1つのスムージーで年間約1000万ドルという概算を示しています。
コラボ相手は1杯売れるごとに1ドルのロイヤリティを受け取ります。Erewhonは寄付を勧めていて、相手が寄付を選べばErewhonが2ドルを上乗せし、合計3ドルが寄付される仕組みだそうです。
スムージーは一度に6杯分作れる約2000ドルのブレンダーで作られています。ただ味については、宮武さんは「人それぞれ」と言い、道端に飲みかけのスムージーが捨てられていた光景も振り返っていました。
ライフスタイルブランドになったErewhonのコラボとは
宮武さんは、Erewhonはもうライフスタイルブランドだと話します。キャクタスプラントフリーマーケット ── ストリートファッションのブランド。ファレル・ウィリアムスとのつながりでも知られ、多くのコラボを手がけていますとのコラボではコレクションとレインボーカラーのスムージーを出し、サイトがクラッシュし、店舗では1週間で2万杯ほど売れたそうです。
バレンシアガとのコラボでは、Tシャツが725ドルという価格にもかかわらず即完売しました。草野さんは、歌手キッド・ラロイの新アルバムにあわせたスムージーや、アリゾナティーとのコラボにも触れています。
スタートアップ、インターネット企業からブランドになったっていうとこでいうと、え、そんなとこまでできるんだっていうのをちょっと思いました。
ファッションとフードが接近する「グロサリーコア」
宮武さんは、ファッションとグロサリーが掛け合わさる流れを「グロサリーコア」と呼ばれる現象として紹介します。2014年にシャネルがスーパーのセットでファッションショーを開いたこともあり、新しいことではないといいます。
最近では、エマ・チェンバレンさんがチェンバレンコーヒーの新商品をファッション誌風の写真でプロモーションするなど、両者の連動が強まっていると宮武さんは見ています。
草野さんは、日本ではファミリーマートの靴下などが「コンビニコア」と呼ばれていると紹介します。ただ、そのハイプを作り続け、ブランドを維持するのは難しいとも話していました。
宮武さんによると、フードブランドがファッションアイテムを出すトレンドも数年前から出ています。特にバッグが人気だといいます。
- バリラがパスタボックス風のバッグを出し、約5分で完売
- スイートグリーンがスーザン・アレクサンドラとコラボ
- パスタブランドのラオがレザーバッグを製作
- ウォッカブランドのアブソルートもバッグを発売
トレーダージョーズの2.99ドルのミニトートが、eBayで500ドルで転売された例もあったそうです。ただ、その理由は宮武さんにも分からないと話しています。
ほかにもオレオのパッファージャケットや、クロックスとプリングルズの提携などが挙げられました。草野さんは、オレオ自身のコラボはブラックピンクとのものくらいで、オレオはそれ自体がIPのような存在だと話しています。
仕事を3つ掛け持ちしてもErewhonへ通うのはなぜ?
宮武さんは、Erewhonはカルトブランド化していると話し、仕事を3つ掛け持ちしても毎日Erewhonに通う人がいるという記事を紹介します。
日本でいうと、めっちゃバイトしてスタバでフラペチーノ飲みたいみたいなことと一緒ですよね。
宮武さんは「全く一緒ですね」と答え、そこに行っていること自体が価値になっているから、スムージーを一口飲んで捨てる現象も起きると話します。草野さんは環境問題の声も出てきそうだと反応していました。
ニューヨークにも「ニューヨーク版Erewhon」を名乗る店がありますが、宮武さんが一番近いと感じるのはHappier Grocery ── ニューヨークの高級グロサリーストア。Erewhonに近い雰囲気で、高価なオリジナルグッズも販売していますです。シャツが500ドル、ジョガーパンツが400ドルと、グッズが「えげつなく高い」そうです。
若者の関心の高まりを受け、ウォルマートもプライベートブランド「Bettergoods」をローンチしました。宮武さんは、見た目が明らかにトレーダージョーズを意識していると指摘します。
地域に根付くスーパーはコミュニティになれるのか
草野さんは、以前紹介した話として、映画『ホーンテッドマンション』に出演した女優が、地域に根付いたコミュニティの場としてスーパーを作るために資金調達していた例を挙げます。女優の名前は思い出せないとしていました。
宮武さんは、スーパーは他のリテールよりローカルに根付きやすいと応じます。アメリカではオンラインで食料品を頼む文化の普及率がまだ10%ほどで、近所のスーパーに行くのが当たり前だからです。
ErewhonやHappier Groceryでは、「自分がそこに行く人だ」と示し合えることもコミュニティの要素になると宮武さんは話します。マス化したWhole Foodsにも、所得が高めでオーガニック志向の「Whole Foodsに行く人」というイメージがあるといいます。
現実逃避
自然で綺麗な世界に入り、良いものを買える自分を感じる
ステータス
流行りの商品を買い、自撮りで見せる
ローカル性
近所で日常的に通うので地域に根付きやすい
コミュニティ
同じ店に通う人同士で「自分もそう」と示し合える
スーパーは昼はコワーキング、夜はバーになる?
宮武さんによると、Whole Foodsや最近閉店したDom's Kitchenなどを含め、スーパーは人が集まれる場所になり始めています。イートインスペースや椅子を置き、サラダやスープ、パンが並ぶホットフードコーナーを広げているそうです。
ErewhonではSushiコーナーも拡大し、Wi-Fiを出す店も増えています。その結果、スーパーは平日の日中はコワーキングスペース、夜はバーのように使われているといいます。
普通のバーとかに行くと、そのスーパーよりもうるさいと。
草野さんは「逆に?」と驚きます。宮武さんは、バーは人が多く、レストランには子どもがいることもあるので、スーパーのほうが落ち着いて、しかも低価格で飲めると説明しました。主にミレニアル世代やZ世代がそうした使い方をしているそうです。
| 時間帯 | 使われ方 | 理由 |
|---|---|---|
| 平日の日中 | コワーキングスペース | イートインスペースやWi-Fiがある |
| 夜 | バーのような場所 | バーより静かで、子どもがおらず低価格 |
| ランチや週末など | デートスポット | 食事も店内を回ることもできる |
マッチングアプリと提携するスーパーとは
スーパーはデートスポットにもなっています。宮武さんによると、Erewhonで知り合うパターンも、Erewhonをデート先に選ぶパターンもあるそうです。
Erewhonはマッチングアプリブラッシュと提携しています。このアプリは、好きなスーパーやカフェ、ジュースバー、レストラン、ジムをプロフィールに書き、よく行く場所によって人をマッチングさせる仕組みです。
このアプリは申請制で、Erewhonの有料メンバーはアーリーアクセスで申請できます。さらに、アプリを使うメンバーがErewhonをデートに使うと、「シークレットサンデー」という特別なアイスクリームが無料でもらえるといいます。
高級ではない一般的なグロサリーチェーンのHEBは、スピードデーティングイベントを開いているそうです。Erewhonでは、店とは関係なく客が勝手にデーティングイベントを開くこともあるといいます。
宮武さんは、Dom's KitchenやWhole Foodsも正式ではないもののコワーキング向けの設備を用意していると話し、スーパーが集まる場所へとシフトしていると見ています。
今の社会に足りない「ブランドの教会」とは
宮武さんは、前回のマクドナルドのプレイプレイスの話とつなげて、今必要なのは「教会」だと話します。宗教の教会ではなく、ブランドの教会という意味です。
オンラインコミュニティが強くても、どこかに行きたい欲求ってあったり、どっかに行くってことはハードルがあったりするので。
わざわざ足を運ぶことがコミットメントを示すので、オフラインのサードプレイスには大きな需要がある、というのが宮武さんの考えです。
一方、今よく出てきているのは、宗教でいう「塑像」にあたるものだといいます。例として、ラスベガスの巨大球体スフィア ── ラスベガスにある球体型の巨大エンターテインメント施設。外壁全体がLEDスクリーンになっていて、映像を映し出せますのようなスペクタクルマーケティングを挙げています。
草野さんは、大きなものには倒れたら自分は死ぬと感じるような圧倒的なパワーがあると話します。宮武さんは、巨大なものを見に行く行為は昔の「拝みに行く」ことと変わらず、アニメの「聖地巡礼」にも宗教的な意味合いがあると続けました。
塑像はなぜ毎日通う場所になれないのか
宮武さんは、塑像にはスケールの限界があると指摘します。巨大なものは横に並べられず、スペースも足りません。スフィアは映像を変えられるので、ある意味ではスケールした形だといいます。
Netflixハウスの出店、スフィアの韓国進出、YouTuberグループDude Perfectのテーマパーク、ディズニーランドなども同じ系譜です。しかし、こうした場所には毎日も毎週も行けず、年1回、場合によっては一生に1回の場所になります。
スフィアやテーマパークなど。憧れの存在だが、行けるのは年1回や一生に1回
毎週や毎日通える場所。本来その役割を果たすはずが、今は足りていない
だからこそブランドは、そうした集まる場所を作らなければいけない、と宮武さんは話しています。
良いプロダクトは「前提」をどう作るのか?
集まる場所を作るうえで重要な要素の1つとして、宮武さんは「前提」を挙げます。英語でいえばpremiseで、ユーザーの行動を変える基盤となる考えであり、今までやりにくかったことをやりやすくするコンテキストだといいます。
宮武さんは、前提を「人に許可を与えるもの」と言い換えます。分かりやすい例はAirbnbとUberで、Airbnbには他人の家に泊まっていいという前提、Uberには他人の車に乗って移動していいという前提があります。
革命的なサービスの前提は、もともとおかしいと思われていたものが多く、それが一般に普及することで新しい行動と市場が生まれる、と宮武さんは話します。
| サービス | 前提 | 変わった行動 |
|---|---|---|
| Airbnb | 他人の家に泊まっていい | 個人宅を宿泊先として使う |
| Uber | 他人の車に乗っていい | 個人の車で移動する |
| Bumble | 女性から最初に連絡していい | マッチングアプリで女性から声をかける |
| Substack | 書き物を有料にしていい | 文章を有料で届ける |
宮武さんは、場所にも同じことが言えると続けます。「これが教会です」と言っても誰も集まらないので、何の場所なのかを示す前提が必要だという考えです。
人はどんな「きっかけ」があれば集まるのか
宮武さんは、良いソーシャルイベントにはだいたい前提が付いていると話します。ハッカソンは一緒に開発する、ハッピーアワーは飲みに行く、引っ越し祝いは引っ越しを祝う、という具合です。
なぜ集まるのかっていうきっかけが必要なんですよ。そのきっかけがないと集まりづらいんですよ。
いつ、どういう形で、誰が来るのか分からないままでは人は集まりにくいので、きっかけの作り方が重要になります。宮武さんは、Revolve、Aviator Nation、Lululemonが店舗でエクササイズやヨガを行う例を、集まるための前提として挙げました。
宮武さんは以前、「ランニングクラブは新しいマッチングアプリだ」とツイートしたこともあるそうです。ランニングという共通の軸があるから人が集まり、新しい出会いが生まれるという見方です。
草野さんは、ピックルボールが出会いの場になっているという記事や、ニューヨークのランニングクラブが1つのスプレッドシートに収まらないほどあることに触れます。
音楽も前提になります。宮武さんは、ニューヨークで他人も参加できるグループ合唱を行うGAIA MUSIC COLLECTIVEが200人を集めてハーモニーを歌い、そこから1組が結婚した例を紹介しました。
フードはなぜ最強の「前提」になるのか?
宮武さんは、過去2回を含めてフードの話をこれほどしてきた理由を、フードが前提としてとても適しているからだと明かします。
1つ目の理由は時間帯です。人は朝・昼・夜に食べるので、集まるタイミングを合わせやすくなります。2つ目は、誕生日パーティーでケーキが入る瞬間のように、集まりの中に盛り上がりの山場を作れることです。宮武さんは、フードを強いストーリーテリングの装置だと表現しています。
3つ目は、フードに「言語」があることです。宮武さんは、スターバックスの独特なサイズの呼び方やカスタマイズを、自分だけの言語を作る行為だと説明します。
これが自分のオーダーだっていうのを作ると、他社のコーヒー屋さんに行くと、自分のオーダーを置いてないっていうか、それが頼めない。
草野さんも、他のコーヒー屋に行ったらラテとアイスコーヒーしかないのは無理、と笑って応じます。宮武さんは、細かいカスタマイズがないことがカルト作りの重要なポイントだと話しています。
数字の面でも、スターバックスのカスタマイズによる売上は年間10億ドルで、2019年から倍増しているそうです。直近の数字では、売れるドリンクの6割が何らかの形でカスタマイズされているといいます。
カスタマイズ以外の言語として、宮武さんは裏メニューも挙げます。In-N-Outのアニマルスタイルのように、あまり秘密ではない秘密メニューでも、知っている人と知らない人がいるので、注文することがステータスになるといいます。
ディナーパーティークラブはなぜ増えているのか
宮武さんによると、アメリカではディナーパーティークラブが流行り始めています。ニューヨークのTHE GIRLS NYC、サンフランシスコのSkipped Small Talk、LAのBestie Brunch、ボストンのAppetitivo Societyなどが、人気のレストランを予約して友達作りや出会いの場にしています。
若者だけでなく、ニューヨークには65歳以上向けのレストランクラブもあるそうです。誰もが食べるので、フードは幅広い人の前提になり得る、と宮武さんは話します。
増えている理由の1つとして、宮武さんは、ソーシャルな食事体験を家の中でしなくなったことを挙げます。最近のアメリカの一戸建てでは、独立したダイニングルームを作る文化がなくなりつつあるといいます。
2015年のフードマーケティングインスティテュートの調査では、食事時間の半分が1人で食べている時間だったそうです。家の中でダイニングテーブルや椅子のスペースが削られ、人を呼べる環境ではなくなっていると宮武さんは話しています。
草野さんが「親がいないから家でパーティー」という典型的なアメリカのイメージについて尋ねると、宮武さんは高校も大学も寮生活だったので、あまり経験はなかったと答えています。
宮武さんは、外食文化の広がりに加え、誘える友達が減った「親友いない問題」が大きいと見ています。
誘える友達が減る
「親友いない問題」が起きている
家から食卓が消える
間取りを変え、ダイニングスペースを小さくする
孤独が増す
親友がいても家に呼べない環境になる
外に場所を求める
教会のような集まる場所の需要が高まる
フードは究極のマーケティング要因?
宮武さんは、この3回分で話したかったのはフードそのものではないと振り返ります。フードはきっかけであり、最初のディスカバリーポイントであり、共通のコンテクストとなってそこからさらに深く行けるものだという整理です。
宮武さんは続けて、過去のDAILY MEMOで書いた「事業を仮想するビジネス」が今後増えていくと話します。本業とは別の事業で儲ける構造を、別の業態が「仮想」している、という意味合いです。
| 企業 | 表向きの姿 | 実際の事業 |
|---|---|---|
| スターバックス | コーヒーショップ | ネオバンク |
| アンドリーセン・ホロウィッツ | メディア企業 | VCファンド |
| ハーバード大学 | 学校 | ヘッジファンド |
| ニューヨーク・タイムズ | ゲーム会社 | ニュース会社 |
| コストコ | リテール会社 | メンバーシップ |
マクドナルドはなぜ不動産屋なのか
宮武さんは、仮想ビジネスの一番の例として、シリーズ1回目のテーマだったマクドナルドを挙げます。映画『ファウンダー』に描かれたレイ・クロックの場面です。
フランチャイズ拡大を任されていたレイ・クロックは、受け取るレベニューシェアが少なく、投資もコントロールもできずに困っていました。そこで財務コンサルタントのハリー・J・ソネボーンが、彼はマクドナルドの事業を理解していないと指摘します。
(ソネボーンが)「マクドナルドはハンバーガー屋さんではないです」と。「不動産屋さんです」と。
フランチャイズオーナーに店舗の下の土地を買わせ、そこでしか営業できないように設計すれば、安定したキャッシュが先に入り、拡大もできます。宮武さんは、マクドナルドはハンバーガーではなく不動産で儲かっていると話します。
宮武さんは、仮想する軸としてフードはとても使いやすく、ファストフードが伸びた理由もそこにあると見ています。
誰もカルトブランドに入りたいって思わなかったり、宗教に入りたいって思わないんですけど、最初のきっかけとしてフードを使ってもいいんじゃないかっていうところですね。
草野さんは「そういう目線で見たことはなかった」と受け止めます。大手食品メーカーがヴィーガン版や冷凍版など多様なバージョンやコラボを増やしている点にも触れ、宮武さんは今後さらに増えると答えています。
『ファイトクラブ』も「前提」の物語だった?
草野さんは前提の話から、映画『ファイトクラブ』を思い出したと話します。宮武さんは作品を見たことがないため、草野さんが内容を説明しました。
草野さんの説明では、作品は消費社会へのアンチテーゼで、ストレスを抱えた男性たちが「誰にも言ってはいけない」喧嘩クラブに集まります。誰でも殴っていいという前提で人が集まりますが、ブラッド・ピットの演じる人物には、集めた人たちで反乱を起こす裏の計画があるといいます。
それでカルト化するっていうか、本当の事業をそこで回すっていう。
草野さんは、作品はカルト化して良くない方向に進むパターンだと補足します。そのうえで、殴りたい気持ちは誰にでもあるものとして、食べることに近いのかもしれないと話しました。
宮武さんは、ストレスを発散したい気持ちは誰にでもあると応じます。フードだけが良い前提ではなく、エクササイズやランニングも同じように人を集める前提になり得ると話を締めくくりました。
最後に草野さんは、アメリカに行く人はErewhonに行ってみると面白いかもしれない、と勧めています。
まとめ
この回では、プチラグジュアリー化したグロサリーが人の集まる場所になっている事例から、サードプレイスを作るには人を集める「前提」が必要で、誰もが食べるフードはその前提に最も適している、という見立てが語られました。
- 消費者は高価なものの買い替えを控え、外に見せやすく手頃なフードやコスメにお金を使うようになっている
- ErewhonはスムージーやコラボでLAの象徴となり、小さな店舗で一般的なスーパーの約100倍の面積効率を出している
- スーパーはコワーキング、バー、デートスポットへと用途を広げ、マッチングアプリとの提携も生まれている
- 毎日通える「教会」のような場所が不足していて、場所には集まる理由となる前提が欠かせない
- フードは時間帯、盛り上がり、言語を備えた前提であり、マクドナルドのように別の事業を仮想する軸にもなる


