なぜテック番組が大統領選を語るのか
この回のテーマは、新世代の共和党と独占禁止法の考え方です。宮武さんによると、本来は数週間前に話す予定でしたが、民主党の全国大会が開かれているタイミングに合わせて収録したといいます。
宮武さんは、Off Topicは政治を語る番組ではないとしつつ、アメリカではテックと政治の関係が近年さらに深まっていると話します。草野さんも、前回の放送に続いて「テックと政治はアメリカでは特に近い」と応じています。
M&Aとか独占禁止法周りで、意外とこの考え方とか方向性が、政権が変わることによってだいぶ変化したりとかするので、結構テック業界もそこにすごい注目してる人たちが多いんですよね。
ただしトランプ本人については「わからない部分が多すぎる」として扱わず、副大統領候補のJ.D.ヴァンスと、民主党の大統領候補となったカマラ・ハリス副大統領の考え方に焦点を当てる方針が示されます。
本題の前には、宮武さんが引っ越して部屋のレイアウトが変わり、保管していたコレクションを背景に並べたという話もありました。草野さんはビデオポッドキャスト版での確認をすすめています。
あわせて宮武さんは注意事項として、番組内で紹介する意見は基本的にハリスやヴァンスの意見であり、二人が個人的に言わない限り、出演者が賛同しているという意味ではないと断っています。中絶や銃規制のように、政治は感情的になりやすい話題だからです。
ハリス登場で何が動いたのか
まず話題になったのは、選挙戦でいまどちらが優勢かという点です。草野さんは、SNS上では意外にもカマラ・ハリスが人気だという印象を持っていました。
宮武さんも同じ見方を示しつつ、勝敗予想は外れることも多いと前置きします。そのうえで唯一見ているというネイト・シルバー ── アメリカの統計分析家。選挙予測で知られ、世論調査を統計モデルで集計して各候補の勝率を算出・公開していますさんの予測を紹介しました。
アメリカ大統領選では、人気投票で勝っても選挙に勝つとは限りません。宮武さんは、州ごとの選挙人団 ── 各州に人口に応じて割り当てられた選挙人の集まり。多くの州で、その州の勝者が選挙人を総取りする方式が取られていますの仕組みがあるため、カリフォルニア州のように民主党が強い州での一票は意味が薄いと言われることを説明します。
ネイト・シルバーさんの予測では、ハリスの勝率は56.7%、トランプは42.7%です。第三の候補ケネディがいるため、合計は100%になりません。
宮武さんが重視するのは数字の細かな差ではなく、バイデンからハリスへの交代で勝率が大きくシフトしたことです。激戦区であるスイングステート ── 選挙のたびに民主・共和のどちらが勝つか揺れ動く州。選挙人の獲得を左右するため、両陣営が重点的に選挙運動を行いますでは、すべて民主党側の支持率が上がっているといいます。
宮武さんはこの変化を、有権者を「アンチバイデン」「アンチトランプ」「バイデン派」「トランプ派」「その他」の5つに分けて説明します。年齢や健康面からバイデンを選べず、仕方なくトランプに投票していたアンチバイデン層の一部が、ハリスの登場で民主党側に移ったという見立てです。
草野さんが「ハリスは嫌でバイデンが良かった人はいないのか」と尋ねると、宮武さんはバイデン自身がハリスを支持しているため、バイデン派は基本的にハリス側へ動くはずだと答えています。
「カマラ・イズ・ブラット」はなぜ効いたのか
ハリスがここまで人気を集めるとは、ほとんどの人が予想していなかったと宮武さんは言います。その追い風になったのがミームでした。
草野さんによると、「ブラット」は生意気な悪ガキのような意味で、チャーリーXCX ── イギリス出身のシンガーソングライター。2024年のアルバム『BRAT』は蛍光グリーンのジャケットとともにSNSで大きな話題になりましたのアルバム名に由来します。蛍光グリーンのジャケットにかすれた文字で「brat」と書かれたデザインは、アルバム自体がもともとミーム化していたといいます。
宮武さんの説明では、チャーリーXCXがXで「カマラ・イズ・ブラット」と投稿してバズり、TikTokでミームが広がりました。翌週の月曜日には、ハリスのXのカバー写真が緑色になっていたそうです。
完全相乗りしてうまく人気を、支持率を得られたなっていう。これはでもすごいうまいので、しっかり乗ったっていうところはすごいですし。
寄付金の勢いも目立ちます。宮武さんによると、ハリス陣営は過去1か月間で500ミリオンドルの寄付金を集めているといいます。
SNSは政治広告をどう民主化したのか
宮武さんは、ハリスが勢いを持続するには、残り約70日の選挙戦で自分のポリシーや何をやりたいのかを示す必要があると指摘します。そのうえで、2016年以降の選挙でSNSの使われ方が大きく変わったと話題を広げました。
2016年は画像ベースのミームが多かったのに対し、いまは動画が中心になっています。宮武さんはその理由をいくつか挙げています。
TikTokの登場
短尺動画が主流のプラットフォームが広がる
画面録画機能
2017年にAppleが、画面と自分を同時に録画できる機能を出し、スクショを使った解説動画が作りやすくなる
他人の動画のダウンロード
TikTokが他ユーザーの動画を保存・リミックスできるようにし、動画ミームが加速する
政治広告の民主化
集権化されていた政治広告を、個人が作って広められるようになる
草野さんも、TikTokに続いてXやリールでも動画をダウンロードできるようになったと振り返ります。宮武さんは、これは「絶対にTikTokの影響」だと応じました。
草野さんは、ハリス陣営のTikTokのリアルタイム感も評価しています。オバマ夫妻からの支持の電話を受ける動画のように、あえて普通のカメラで撮った見せ方が、オーセンティックな印象を与えているといいます。
ちゃんとリアルタイムで伝えてますっていう見せ方はオーセンティックな感じがして、いいPRの仕方だなっていうのはちょっと思いますよね。
ヴァンスはなぜビッグテックを敵視するのか
ここから話題はポリシーに移ります。宮武さんが最初に取り上げたのは、トランプが選んだ副大統領候補J.D.ヴァンスの独占禁止法に対する考え方です。
共和党はこれまで、税制やM&Aの面でビジネスフレンドリーだとされてきました。トランプが勝てば買収や売却が簡単になると言われてきましたが、宮武さんはヴァンスが加わることでそれが変わる可能性があると見ています。
彼は元々VCっていうところもあって、結構そのMetaとかGoogleを敵対視してるんですよ。
宮武さんによると、ヴァンスはスタートアップを支援していたからこそ、大手が競争環境をいかに難しくし、イノベーションを生みにくくしているかを理解していると本人が語っているそうです。
アメリカの独占禁止法は、歴史的に「独占企業が消費者向けの価格を上げられるか」を基準にしてきました。ヴァンスは、それだけでなく競争環境の公正さを見るべきだという立場です。
独占企業が消費者向けの価格を上げ、消費者に害を与えるかを見る
価格だけでなく、競争環境がフェアかどうかを見る
この考え方は、FTC ── 連邦取引委員会。アメリカで独占禁止法の執行や消費者保護を担う独立行政機関ですの委員長リナ・カーンさんの主張と重なります。カーンさんはAmazonなど大手テック企業に厳しい姿勢を取ってきた人物で、ヴァンスはそのカーンさんを高く評価しているといいます。
宮武さんは、テック業界の人の多くはカーンさんを嫌っていると話します。そのため、ヴァンスが加わる政権では、共和党でもM&Aに今までと同じくらい厳しい可能性があると見ています。
これに対して草野さんは、M&Aはスタートアップにとって重要なEXITでもあると指摘します。宮武さんが「テック業界のトップの人たちのポジション」だと返すと、草野さんは良い面も悪い面もある紙一重の問題だと応じました。
(ビッグテックの)買収全部一年かけて、ああもうなくなったみたいな。二年かけてもうなくなった、結局やめたみたいなのを聞くと、ちょっとやってる側からしたら多分大変ですよね。
宮武さんも、大手だから悪いとは限らないと補足します。InstagramやYouTubeも、MetaやGoogleの傘下に入っていなければ今のサービスになっていなかった可能性があるからです。国が手を出しすぎればイノベーションが止まる恐れもあり、難しいバランスだと話しています。
リバタリアンからポピュリズムへ、ヴァンスの転向
宮武さんは、ヴァンスを共和党の新しい時代を作ろうとしている人物の一人と見ています。新世代と呼ばれる共和党の人たちは、従来の共和党と考え方が明らかに違うといいます。
ヴァンスはピーター・ティール ── PayPal共同創業者で投資家。リバタリアン的な思想で知られ、共和党系の政治家を支援してきましたさんのもとで育ち、後継者と呼ばれることもありました。当初はティールさんと同じリバタリアンな考えでしたが、現在はポピュリズムに近い立場に移っていると宮武さんは説明します。
宮武さんは、ヴァンスがリナ・カーンさんに近い考えを持つ背景に、育った時代と年齢が関係しているかもしれないと推測します。2000年代から2010年代に大人になった世代にとって、GoogleやAmazonは最初から大企業でした。
そこの育ったタイミングを見てないからこそ、なんか最初から大きい、なんか、まあ場合によってはちょっと悪の組織みたいな感じで見られてた可能性は全然ありますと。
ヴァンスとリバタリアンの違いとして、宮武さんは2点を挙げます。1つは労働組合を支持していること、もう1つは「民間企業と自由市場がすべての答えではない」と主張していることです。
政府が絡むことを嫌い、民間企業と自由市場に任せればすべて解決すると考える
民間企業も政治化し、悪いこともするため、自由市場だけでは解決しないと考える
ヴァンスのこの考えには、VC時代の経験が強く影響しているようです。宮武さんによると、2014年から2015年ごろ、ヴァンスは売上60ミリオンドル規模まで成長したアドテック企業への投資を検討しましたが、どこにも投資できませんでした。
(アドテック企業は)もう最初から勝てない領域にいたと。結局いいプロダクトがあっても、市場自体が競争環境がもう存在しない状況になってたっていうのは彼の主張ですと。
ヴァンスがリナ・カーンさんを褒めたのは、Googleが独占禁止法違反とされた場合に、YouTubeのスピンアウトなどを含めてどう分割するかを議論するイベントでした。ヴァンスは「分割すべき」という立場で話していたそうです。
トランプが政権を取った場合、カーンさんは委員長に残らない可能性が高いと宮武さんは見ています。それでもヴァンスは、今のFTCには良い人材がいるので一部は残したいと話しているといいます。
こうした姿勢のため、ヴァンスは民主党からは保守的すぎると見られ、共和党からは一部の考えが左寄りすぎると見られています。宮武さんによると、民主党左派のエリザベス・ウォーレンやバーニー・サンダースを褒めることもあるそうです。
一方で、副大統領は「何もできないポジション」とよく言われます。トランプ自身も数週間前に「副大統領は意味がない」と話していたため、ヴァンスが自分の考えをどこまで貫けるかはわからないと宮武さんは述べています。
レーガン流の「三脚椅子」はなぜ揺らいだのか
宮武さんが興味深いと話すのは、ヴァンス個人よりも共和党全体が変わり始めていることです。人気が出始めている若手の多くが、ヴァンスと似た考えを持っているといいます。
従来の共和党は、レーガン ── 第40代アメリカ大統領ロナルド・レーガン。1981〜1989年に在任し、減税や規制緩和、強硬な対ソ外交で知られます大統領を神様のように慕う人が多かったと宮武さんは説明します。政府の権力は増えすぎると危険なので、民間企業に力を与えるべきだという考え方です。
| 柱 | 中身 | 新世代が抱いた疑問 |
|---|---|---|
| 自由市場のエコノミクス | 民間企業に力を与える | 権力を集めた民間企業が良い会社とは限らない |
| 社会保守主義 | 保守的な社会観を重視する | 番組では詳しく語られず |
| グローバルな介入主義 | 当時は共産主義国との戦いが背景 | グローバリゼーションを引き戻す方向へ |
宮武さんによると、トランプの大統領就任後、ヴァンスを含む若手は、民間企業も政治的な動きをすると考えるようになりました。特にリベラルな従業員が多いテック企業を見て、悪いのは政府だけではないと感じたのではないかといいます。
それでも、イーロン・マスクやアンドリーセン・ホロウィッツ ── シリコンバレーの大手ベンチャーキャピタル。創業者のマーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツは、スタートアップ側に立つ「リトルテック」を掲げていますの創業者たちはヴァンスを支持しています。宮武さんは、ヴァンスが「ビッグテック対リトルテック」の構図でリトルテック寄りだと見られているからだと説明します。
アンドリーセン・ホロウィッツは、次世代のヘンリー・フォードを生む環境が必要だと考えています。クリプトに否定的な証券取引委員会のゲーリー・ゲンスラー委員長をヴァンスが嫌っていることも、支持の理由になっているそうです。
宮武さんは、約1か月半前の共和党全国大会でのヴァンスの演説にも違いが表れていたと話します。減税、政府の権限縮小、雇用創出という共和党の定番の話を一切せず、「ウォール街の言いなりにはならない」と語ったといいます。
草野さんが「トランプと同じエリート批判を、テックのエリート対スタートアップという形で語っているのでは」と尋ねると、宮武さんは多分そうだと応じます。2016年の時点では共和党がトランプを受け入れていなかったものの、その影響を受けた人が増え、党自体が変わり始めたと見ています。
保守派法律家の会議で見えたCitizens Unitedへの異論
共和党の変化を示す例として、宮武さんは保守派の法律家団体フェデラリスト協会 ── アメリカの保守派・リバタリアン系の法律家団体。会員から多くの連邦判事が出ており、共和党の司法人事に大きな影響力を持つとされますが開いた「Freedom of Thought Conference」を紹介しました。
この団体は、憲法を書かれた文言どおりに読むべきだとする条文主義や原意主義の立場を取ります。会議では5つのパネルすべてで、最高裁の1つ下にあたる連邦巡回控訴裁判所の判事がモデレーターを務めたといいます。
宮武さんは、テック業界ではほとんど知られていない会議ですが、共和党側の独占禁止法やM&Aの考え方を知るうえで重要だと話します。独占禁止法関連の記事を読んでいると、ときどき出てくるそうです。
会議で議論されたのが、Citizens United対FEC裁判の判決でした。共和党は基本的にこの判決を支持してきましたが、今回の会議では批判する声が上がったといいます。
企業は人である
人には言論の自由があるので、企業にも言論の自由がある
判決
企業が政治的な広告を出すことが認められる
スーパーPAC
特定の政治家を応援する団体が生まれやすくなり、寄付金を集めて広告を出す
批判した一人として名前が挙がったのが、30代半ばで共和党内の注目を集めているFTC委員のアンドリュー・ファーガソンさんです。もともとは大企業側の独占禁止法関連の弁護士でしたが、リバタリアンではなく、ヴァンスに近い考えになっていると宮武さんは説明します。
草野さんが「企業を人として見るべきではないという話なのか」と尋ねると、宮武さんはそこは変わらないと答えます。問題視されているのは、企業が自由に政治広告を出せることで、民間企業に自由を与えすぎているのではないかという点です。
宮武さんは、こうした変化によって独占禁止法やM&Aへの姿勢が厳しくなり、特に大手に対して批判的な動きが増えると見ています。
ハリスの政策はなぜまだ見えないのか
この回はもともとカマラ・ハリスの考え方も扱う予定でしたが、共和党の話だけで1時間近くかかったため、次回に持ち越しとなりました。宮武さんは、ハリスの独占禁止法やテック業界に対する考え方を次回取り上げると話しています。
宮武さんによると、ハリスの政策がまだあまり見えないのは、もともとバイデンが出馬する選挙だったものが急遽変わったためです。バイデン政権と違う方向性を打ち出せば「なぜその時に言わなかったのか」と問われ、同じでは「今のままでいいのか」と問われるという難しさがあります。
宮武さんは、ハリスが語る内容が投票にどこまで影響するかはわからないとしつつ、選ばれた時に備えて知っておくべきだという考えから、次回も話していきたいと締めくくりました。
まとめ
今回のOff Topicでは、ハリスの台頭とSNS戦略を押さえたうえで、J.D.ヴァンスを軸に共和党の独占禁止法観が変わりつつあることが語られました。ビジネスフレンドリーで自由市場を信じてきた共和党の中に、ビッグテックの力そのものを問題視する新世代が現れているというのが、宮武さんの見立てです。
- ネイト・シルバーさんの予測では、バイデンからハリスへの交代で民主党の勝率が27%弱から56.7%に上がった
- 「カマラ・イズ・ブラット」のミームと、TikTok発の動画リミックス文化が政治広告を民主化しつつある
- VC出身のヴァンスは、Googleなど大手が競争環境を壊していると考え、リナ・カーンさんを評価している
- 新世代の共和党はレーガン流のリバタリアン路線から距離を置き、ポピュリズムに近づいている
- 保守派法律家の会議でもCitizens United判決への異論が出ており、共和党政権でもM&Aが厳しくなる可能性がある


