Pixel 10のAI機能は何がすごかったのか
2025年8月、Googleは「Made by Google」というイベントを開催し、主にPixel 10を発表しました。宮武さんによると、ハードウェア面では100倍ズーム、自社のTensor G5 ── GoogleがPixelシリーズ向けに自社設計しているスマートフォン用チップ。AI処理を端末上で効率よく動かすことを重視していますチップ、折り畳みスマホなどが紹介されています。
宮武さんが特に充実していたと評価するのは、Pixel 10のAI機能です。たとえば「Conversational Editing」は、撮った写真の背景を変える、写り込んだゴミを消すといった編集を、言葉で頼むとGeminiがやってくれる機能です。
ほかにも、撮影の画角に合わせて撮り方を助言し、お手本のサンプル画像まで生成する「カメラコーチ」や、英語・スペイン語・日本語・ヒンディー語などを通話中にリアルタイム翻訳する機能も含まれていました。
(カメラコーチは)僕とか多分結構必要になってくるんですけど、やっぱり映すのが下手な人って、どうしてもいるじゃないですか。
宮武さんが最も気になったのは「Magic Cue」というAIアシスタント機能です。SMSのやりとりで写真を頼まれると該当の写真が候補に出てワンタップで共有できたり、Gmailの予約確認メールから航空会社を探して電話番号と予約情報まで表示してくれたりします。
さらに宮武さんが驚いたのは、こうした処理がPixel端末内で完結し、クラウドを使わなくてもある程度AIアシスタントが機能する点でした。
依頼を受ける
SMSで「フライトを変えてほしい」と頼まれる
メールを探す
Gmailの予約確認メールから航空会社を特定する
電話につなぐ
航空会社の電話番号を表示する
情報を出す
通話画面に予約情報まで表示する
草野さんに「iPhoneから乗り換えますか」と聞かれた宮武さんは、自分はまだだとしつつ、Appleは悔しがっているのではないかと話します。Googleは多くの自社サービスを持つからこそ、こうした連携ができるという見方です。
セレブ総出演のレイトナイトショー型発表会、その評価は
宮武さんがMade by Googleで一番気になったのは、機能よりも発表会のフォーマットでした。司会にジミー・ファロンさんを迎え、ステフ・カリーさん、アレックス・クーパーさん、F1ドライバーのランド・ノリスさん、ゴルフのブライソン・デシャンボーさんやジョーダン・スピースさんらが出演しています。
草野さんは、これまでの製品発表はApple風のキーノートが主流だったと振り返ります。Appleは代表だけでなく製品担当者自身が説明することで、プロダクトを作る会社としてのクラフト感を打ち出していたといいます。
今回本当に全部のセクションで、セレブというか有名な人が出てて、なんか新しいなって思いました。
宮武さんは、Googleが明らかにレイトナイトショー ── アメリカの深夜帯のトーク番組。コメディアンの司会者がライブの観客の前でジョークを披露し、ゲストへのインタビューや企画コーナーを進めるバラエティ形式ですのフォーマットを採用したのは、かなりリスクを取った判断だと見ています。実際、The VergeやTechCrunchなど多くのメディアは批判的な論調だったといいます。
製品を作った担当者が自ら説明し、クラフト感を伝える
コメディアンが司会し、セレブとライブ観客を交えて進める
批判の中心は、Googleの社員が機能を説明する場面でのジミー・ファロンさんの反応でした。ズーム機能やチップの意味を知らないまま毎回リアクションしているように見え、「クリンジ(見ていて恥ずかしい)」だと指摘されたそうです。
草野さんは、面白くないことでも大笑いするジミー・ファロンさんの姿はもともとミームになっていると触れ、優しい人でもこの場は難しかったのだろうと話します。さらに、観客の笑いもカンペで指示される台本仕立てだったことが、不自然に映ったともいわれています。
トークショーのホストじゃなくて、企業のMCやってるみたいな感じでもありますもんね。
発表会の台本と自由のバランスはどう取るべきか
草野さんは、テック系のイベントでも拍手のタイミングを指示することはあると問いかけます。宮武さんは、冒頭だけならまだしも、Googleの発表会は全編がスクリプト化されていた点で受け止め方が分かれたと答えます。
それでも宮武さんは、決して成功とは言えないとしながら、従来と同じフォーマットをやらなかったこと自体は面白いと評価します。次回のヒントにすればよいという立場です。
今までと同じようなフォーマットをやらなかったっていうのは、なんかすごい面白いなとは思いますし、これをうまくヒントとして使って、次回はもっと違う形にやるとかっていうのはありかなと。
草野さんは、アメリカ版と日本版のように地域ごとの有名人やユースケースに合わせて発表する案を挙げます。宮武さんは、結局はユーザーにどんな感情を持たせたいかの問題だとし、真面目路線ならApple風、ふざける路線なら各セグメントの間にコントを挟むCanvaのような例もあると話します。
テクノロジーを面白く伝えることの難しさについて、宮武さんは「テクニカルな言葉が出てきた瞬間に、面白さが失われてしまう」と指摘します。草野さんは、ライアン・レイノルズさんのような人なら面白くしてくれそうだが、企業としてのリスクは高そうだと述べます。
そういう意味では司会役は一番難しいですよね。30分とか1時間にわたって話さないといけないので、一瞬出るぐらいだと、逆にライアン・レイノルズとかめちゃくちゃ良かったりするかもしれないですし。
宮武さんは、コメディ路線を貫けばSNL ── アメリカNBCの長寿コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」の略称。毎週ゲスト司会者を迎え、生放送でコントを披露しますのような雰囲気にはなるものの、製品の魅力が伝わらなくなる可能性もあると話します。
GPT-5はなぜ期待を下回ったと受け止められたのか
8月のもう一つの大きなニュースは、OpenAIによるGPT-5のリリースです。宮武さんによると、サム・アルトマンさんはGPT-3を高校生、GPT-4を大学生、GPT-5を博士号レベルの専門家との会話にたとえています。
GPT-5の大きな変化は「ルーター」の導入です。以前はユーザーがどのGPTモデルを使うか選ぶ必要がありましたが、GPT-5はシンプルな質問には速く答え、考えるべき質問にはそれ用のモデルを自動で割り当てます。
一方で、この自動切り替えには批判もありました。昔のモデルを使い続けたい人たちの声が一時ムーブメントになったほか、発表スライドの一部に、AIのハルシネーション ── AIが事実と異なる内容を、もっともらしく生成してしまう現象。数字や出典の誤りとして現れることが多く、生成AIの代表的な課題とされていますによるとみられる誤ったグラフが載り、後に修正されています。
宮武さんは、プレゼンやPRの問題よりも、パフォーマンスの方が重要な論点だと見ています。OpenAIはこれまで他社を圧倒する差をつけるのが当たり前でしたが、GPT-5は初めてそこまで上回らず、ベンチマークによっては同等か低いとの声もあったといいます。
サム・アルトマンさんのメディアディナーと、OpenAIの組織の変化
GPT-5のローンチ後、サム・アルトマンさんは珍しくメディア向けディナーを開きました。宮武さんはダメージコントロールだったとみています。その場でアルトマンさんは、ローンチのPRは少しミスがあったと認めたそうです。
ただし好材料も示されました。APIのトラフィックはローンチから48時間で倍増し、ChatGPTの週間アクティブユーザーは10億人に達し、Webサイトのトラフィックは世界5位に入ったといいます。次のGPT-6では、ユーザーをより覚えてくれる記憶機能を強化したいと話していたそうです。
アメリカでメディアディナーはよくあるのかという草野さんの質問に、宮武さんは「そこまで多くない」と答えます。有名な例は過去のUberで、ドラマにも描かれたように問題が起きたこともあり、積極的には行われないそうです。
宮武さんによると、現在のOpenAIはChatGPTなどの消費者向けチーム、インフラ、ロボットやデバイス、研究の各チームを抱え、アルトマンさん自身も「もう全部は見られない」と話しています。そこで元InstacartのCEOであるフィジー・シモさんが入社し、消費者向け部門のCEOを務めるといいます。
なんとなく4つの会社をサム・アルトマンは会長として見てるみたいな、そういう感じになるのかなっていうふうには思いますね。
GPT-6の年内リリースについて、宮武さんは「多分出ない」との見方です。圧倒的な性能と早いリリースの両方を求めるのは、無茶な期待値だと話しています。
また、MITが約350社を調査したレポートで、生成AIサービスを導入したパイロット検証の95%が失敗したとされ、業界でAIブームの落ち着きが話題になりました。それでも宮武さんは、AIへの投資額は絶対止まらないと断言します。
ラブブや抹茶はリアル版「ブレインロット」なのか
次の話題は、カルチャー解説で知られるカイル・チャイカさんの記事「IRL Brain Rot」です。ラブブ、抹茶、ドバイチョコレート、Erewhonのスムージー、Davidプロテインなど、Z世代やα世代の流行は、現実世界版の「ブレインロット」という美学を示しているという仮説です。
宮武さんによると、ブレインロット ── 直訳は「脳腐れ」。SNSで延々と流れる中身の薄いコンテンツや、それを見続けて頭がぼんやりする状態を指すネットスラングですには、脳を腐らせるようなコンテンツを指す意味合いがあります。チャイカさんは、TikTok以降のアルゴリズムがあふれる世界に対し、Z世代がそれを拒むかたちで別のものを求めていると見ています。
アルゴリズムは完璧なものをさらに前に出す仕組みでもあるため、Z世代はその逆の、少し不細工なもの、変わったもの、汚れたものを欲しがるのではないか。だからラブブやスライム、ドバイチョコレートが人気なのだ、というのがチャイカさんの仮説です。
宮武さんは、Off Topicが約5年前に書いたミレニアル世代とZ世代の違いの記事とも重なると話します。完璧主義のミレニアル世代に対し、Z世代はぬくもりのあるもの、オーセンティックなものに向かうという整理で、今回はそれがさらにブレインロット側に寄った形だという見方です。
アルゴリズムへの防御か、アルゴリズムそのものか
草野さんは、ラブブや抹茶のトレンドもそもそもアルゴリズムに乗った現象ではないかと疑問を投げます。宮武さんも同意し、乗っている人の方が断然多いと答えます。
結果として、それに対する防御と見えるかもしれないんですけど、結果同じアルゴリズムに乗ってるっていうところですね。
草野さんは、最初に発信した人は本当に防御だったかもしれないが、それがかっこいいとされた瞬間に反転してマスになると話します。宮武さんは、過去との違いはそれが現実の商品に落とし込まれている点で、アルゴリズムがリアルの中に出始めたという意味合いもあると見ています。
草野さんは、ドバイチョコレートは希少で買えないことでバイラルしたと指摘します。宮武さんは見た目にも注目し、緑色はアメリカでは必ずしもきれいと受け取られず、抹茶やスライム、ドバイチョコレートが共通して緑色である点、ラブブが不細工と言われながら好まれる点を挙げます。
宮武さんは、TikTok登場時のノーメイクの流行や、Vlogであえて涙を見せる「リアルな自分」の時代と同じ流れが、今は商品で表現されているのではないかとまとめています。
歌詞からラグジュアリーブランドの名前が減っている理由
宮武さんが紹介したのは、BloombergがBillboard Hot 100やヒップホップ、R&Bのチャートを分析した記事です。曲の中でラグジュアリーブランドがどれだけ言及されたかを調べたものです。
宮武さんによると、言及数は2016年ごろから急増し、2020年から2023年がピークで、直近は落ちています。宮武さんは、この上がり下がりがラグジュアリーブランドの売上の動きと連動しているのではないかと見ています。
記事では、グッチ、ルイ・ヴィトン、ロレックス、シャネル、エルメス、オーデマ・ピゲ、パテック・フィリップの7ブランドが、1995年から2025年のラグジュアリーブランド言及数の約半分を占めていたとされます。草野さんは、近年はUberやCash Appなどソフトウェアの名前も増えたと付け加えます。
宮武さんは、曲で触れられるから売上が上がるとは限らず、どちらがどちらに影響しているかはわからないとしています。それでも相関があるなら、歌詞を見ればブランドの調子がわかるかもしれず、モニタリングし続けたいと話します。
草野さんは、Googleの発表会のようにコンテンツと広告が混ざり、アーティストが企業と組む例が増えたことで、オーセンティックさが失われている面もあると感じています。
ブランド名の代わりに増えた有名人の名前
草野さんの仮説は、歌詞の中でブランドの代わりに人物名が増えたというものです。ラッパーが「ビリー・アイリッシュ」や「デュア・リパ」という曲名の曲を出すなど、現役アーティストの名前が使われるケースが目立つといいます。
宮武さんは、そうした曲が5年後や100年後にも聴かれるかと問いかけます。草野さんは「ならないかもしれない」と答え、宮武さんは今この瞬間の短期的な人気は取れる曲だろうと見ています。
でもラップは面白いですね、確かに。いろいろトレンドがわかるから。
KATSEYEのGap広告とシドニー・スウィーニーのAmerican Eagle広告、明暗の理由
草野さんが取り上げたのは、HYBEのグローバルアイドルグループKATSEYE ── HYBEと米ゲフィン・レコードが共同で手がけたオーディション番組から誕生した多国籍ガールズグループ。メンバーの出身や背景が多様なことでも知られますが出演したGapのデニム広告です。ダンス動画が大きくバズり、好意的に受け入れられています。
Gapはここ数年、タイラさんらダンスが得意なクリエイターとデニムのキャンペーンを続けており、今回もその一環とみられます。同じころ、シドニー・スウィーニーさんを起用したAmerican Eagleの広告もあり、同じ価格帯のジーンズブランドとして比べられました。
American Eagleの広告は「Sydney Sweeney Has Great Jeans」というコピーで、ジーンズと遺伝子(genes)を掛けていると受け取られました。白人で青い目という遺伝的特徴の称賛は優生学的ではないかと批判され、Gapの成功でAmerican Eagleが困っているというミームも出回ったそうです。
宮武さんは「ちょっとの批判ではない」と補足します。この広告は政治化し、昔のアメリカらしいと好意的に見る人から、ナチスのプロパガンダのようだと言う人まで、両極端の過激なコメントが飛び交ったといいます。それでもAmerican Eagleは彼女を起用した追加の広告を出し、この方向性で行く姿勢を示しています。
多様なメンバーのダンス動画がバズり、好意的に受け入れられた
遺伝子を掛けたコピーが優生学的と批判され、政治化して賛否が両極端に
草野さんは、多様な人種やLGBTQのメンバーがいるKATSEYEと、保守的な雰囲気のシドニー・スウィーニーさんの広告とでキャラクターが対照的だったと話します。American Eagle以外にもダンキンドーナツなど、同様のメッセージングをする企業を最近見かけるといいます。
シドニー・スウィーニーさんはなぜ意見の分かれる立ち位置を選ぶのか
草野さんは、シドニー・スウィーニーさんが男性向けの石鹸を販売するなど、あえて炎上を狙っているようにも見えると話します。自分のキャラクターを面白がって商品にしているのではないかという見方です。
宮武さんは、シドニー・スウィーニーさんは自分の見られ方をよく理解している女優で、SNLでの振る舞いもそうだったと話します。また、トランプ政権の発足後、昔のアメリカを懐かしむ人が増え、金髪の白人女性が前に出ることが共和党支持層の中で再び良しとされている面もあるのではないかと述べます。
彼女としてもいろいろ自分のポジショニングを作ろうとしている中で、なかなか意見が分かれるポジショニングを取ったなっていうふうに思いますね。
下着ブランドの立ち上げ、石鹸のコラボ、今回のデニム広告は、いずれも同じ路線でつながっていると宮武さんは見ています。草野さんは、その立ち位置を誰も取っていないからこそやれていると話し、映画やドラマに出続けながらビジネスも手がける点を称えます。
宮武さんは、複数のブランドや肩書きを持つ人が増えるなかで、シドニー・スウィーニーさんも女優から幅を広げようとしていると見ています。草野さんは、広告や商品を通してどんなオーディエンスを作るかが鍵になりそうだと締めくくりました。
まとめ
8月のニュースからは、テクノロジーの見せ方と、カルチャーや広告の受け止められ方が大きく揺れている様子が見えてきます。Googleの新フォーマットも、GPT-5も、デニム広告も、期待や見られ方とのずれが評価を左右していました。
- Pixel 10は端末内で完結するAI機能が充実した一方、レイトナイトショー型の発表会は不自然さを批判された
- GPT-5は自動でモデルを切り替えるルーターを導入したが、圧倒的な性能差がなく期待を下回ったと受け止められた
- リアル版ブレインロットはアルゴリズムへの防御に見えて、結局は同じアルゴリズムに乗っているという見方が示された
- 歌詞でのラグジュアリーブランド言及は2020〜2023年がピークで、ブランドの売上の動きと連動している可能性がある
- KATSEYEのGap広告とシドニー・スウィーニーさんのAmerican Eagle広告は、対照的なキャラクターで明暗が分かれた



