ソーシャルメディアは終わったのか?
この回のテーマは「ソーシャルメディアの時代は終わったのか」です。草野さんの問いに、宮武さんは「結論から言いますと、終わりました」と答えます。
結論から言いますと、終わりましたと。
ただし宮武さんは、ソーシャルメディアとSNSは若干違うとしたうえで、メディアとしてのソーシャルなものが終わりつつある、という意味だと補足しています。
話のきっかけは、InstagramがReelsにより力を入れていることです。宮武さんは、TikTokに影響されているSNSは多いと見ています。
宮武さんによると、この回は2部構成の前編です。前編ではInstagramの話とフィードの変化、TikTokに代表されるレコメンデーションメディア ── フォロー関係ではなく、アルゴリズムが選んだおすすめ投稿を中心に見せるメディアのこと。TikTokの「おすすめ」フィードが代表例ですの良し悪しを扱います。後編では、レコメンデーションメディアが文化に与える影響と、その次に来るソーシャルメディアを考えるとしています。
競合を真似てきたInstagram、その成績は?
宮武さんはまず、Instagramが新しいプレイヤーが出るたびに対抗機能を出してきたことを振り返ります。YouTubeに対してIGTV、Snapchatに対してストーリーズ、AppleのiMessageに対してDM機能、Amazonに対してInstagramショップという具合です。
| 対抗相手 | Instagramの機能 | 二人の評価 |
|---|---|---|
| YouTube | IGTV | Reelsに代替された |
| Snapchat | ストーリーズ | すごくうまくいった |
| Apple(iMessage) | DM機能 | 結構使われている |
| Amazon | Instagramショップ | 言及のみ |
| TikTok | Reels | 批判が多い |
草野さんは、Reelsには批判が多かったものの、過去の事例を見ると割とうまくいっているのかもしれない、と振り返ります。DM機能もストーリーズも結局よく使われているからです。
宮武さんも同意し、アメリカではSnapchatがZ世代などに使われている一方で、Instagramのストーリーズもいまだにすごく人気だと話します。
ごちゃごちゃしてるように見えるかもしれないんですけど、実は結構うまくいってる機能が多いっていうか。
「Make Instagram Instagram again」は何を求めたのか?
今回のReels批判のきっかけは、アメリカ時間の7月23日ごろ、Instagramのインフルエンサーのタティアナ・ブルエニングタティアナ・ブルエニングさんが投稿した白黒のグラフィックでした。そこには「Make Instagram Instagram again」と書かれていました。
この投稿をカイリー・ジェンナーさんとキム・カーダシアンさんがシェアしたことで、数千万人のフォロワーに一気に広がりました。宮武さんによると、カイリー・ジェンナーさんは以前もSnapchatを批判するツイートをしており、そのときはSnapchatの株価が1ツイートで7%下がったといいます。
翌日には、Instagramトップのアダム・モセリアダム・モセリさんが動画で反応しました。草野さんは話を少しそらし、モセリさんが毎週ユーザーの質問に答える動画を上げていることに感心します。
ユーザーと向き合うの、(インスタの)一番トップでそんなことやってるの大変だなって。
宮武さんは、モセリさんにもMeta内に上司がいると指摘します。Metaの意思とInstagramとしての考え、ユーザーの意見をすべて踏まえる必要があり、超難しい仕事だと話しています。
モセリさんの動画は、フル画面表示などのTikTok化はまだ検証段階だと説明する内容だったといいます。一方でブルエニングさんはchange.org ── オンラインで署名を集められる請願サイト。誰でもキャンペーンを立ち上げ、賛同者の署名を募ることができますで署名活動を始めました。時系列順のタイムラインの復活、写真投稿の優先、Reelsの動画ツールの撤去などを求め、約30万人が署名したと宮武さんは紹介しています。
草野さんは、インフルエンサーの主張に共感すると話します。動画が流れてきてスワイプする体験は面白いものの、Instagramで見たいものが見づらくなる感覚はあるといいます。
それでもInstagramがTikTok化を進める理由は?
宮武さんは、Instagramは今はTikTok化のペースを遅めているものの、明らかにこの方向へ進むと見ています。根拠として挙げるのは、TikTokが2020年と2021年に世界で最もダウンロードされたアプリだったことです。
宮武さんはさらに、パイパーサンドラー ── アメリカの投資銀行。アメリカの10代を対象にした定期調査で、好きなSNSやブランドの動向を発表していることで知られますの調査を引き、アメリカの10代が一番好きなSNSでTikTokがSnapchatを抜いて1位になり、Instagramは3位だと紹介します。
草野さんは、自分の世代が一番使ってきたSNSがInstagramだから、今のままがいいと感じているのかもしれない、と振り返ります。mixiからFacebookへ移ったように、SNSには移り変わりがあるからです。
草野さんはまた、Instagramが収益化を進めることで新しいサービスが出てくる可能性もある、と前向きにも捉えています。
一方で宮武さんは、InstagramはFacebookをある程度置き換えられたのに、TikTokはまだInstagramが担ってきた役割を完全には置き換えられていない点が面白いと指摘します。
(TikTokは)レコメンデーションメディアですもんね。ソーシャルメディアじゃないですもんね。
批判の割にReelsは見られている?
宮武さんは、Reelsが批判の割にしっかり見られていることを数字で示します。Metaの決算では、InstagramでReelsに使われる時間がさらに30%増え、Instagramの利用時間の約4分の1がReelsになっているといいます。
Facebookアプリでも、AIがレコメンドしたコンテンツの機能を追加してからReelsの視聴時間が15%上がりました。現在Facebookアプリ上のコンテンツの15%がAIのおすすめで、Metaはこれを来年末までに30%へ倍増させたいとしています。
宮武さんによると、Instagramはフル画面化などのUI変更ではエンゲージメントが逆に下がる数字も出ているため、そこはまだ決まっていなさそうです。ただし、AIがレコメンドするコンテンツを増やす全体の方向性は変わりません。
ある調査会社のデータでは、Reels導入前の2019年に平均5.1%ほどだったInstagramの通常フィード投稿のエンゲージメント率が、2022年には2.88%ほどまで落ちています。
2019年(Reels導入前): 平均約5.1%
2022年: 約2.88%
草野さんは、押しているから見られているのでは、と問いかけます。宮武さんはその可能性も認めつつ、どこまで押しているかはMeta内部の話なのでわからない、と答えています。
リールズで広告売上は伸びるのか?
Reelsを押しているにもかかわらず、Metaの広告売上は最近下がりました。対照的に、TikTokのグローバル広告売上はTwitterとSnapchatの合計を超え、今のペースだと2年以内にYouTubeの広告売上を超えると予測されている、と宮武さんは紹介します。
宮武さんは、Metaの売上が伸びない理由の1つをタイムラグだと見ています。ストーリーズを出したときも、まずユーザーが使い始め、広告主は後からついてきたからです。
機能リリース
ストーリーズやReelsを出す
ユーザーが先に使う
利用時間が先に伸びる
広告主が後から来る
売上への反映には遅れがある
ただし、ストーリーズと違ってReelsは動画です。宮武さんは、中小企業やスタートアップにとって動画を作るのは写真より大変だと指摘します。草野さんも、ユーザーが投稿したような広告のほうがエンゲージメントは高いが、そのクリエイティブを作るのは大変だと応じます。
全ブランドがTikTok動画を作り始めるんじゃないかなっていうのを同時に思うんですよね。
草野さんは、TikTok向けの動画ならReelsにもYouTubeショートにも使えると話し、宮武さんも効率はすごく上がると同意します。一方でInstagramでコミュニティや集客チャネルを築いてきたブランドは、コンテンツのやり方を大きく変える必要があり、そのぶんReelsが売上に乗るまでには遅れが出るかもしれない、と宮武さんは見ています。
ユーザーはInstagramに何を期待しているのか?
草野さんは、Instagramユーザーの期待値がReelsに変わる日は来るのか、と尋ねます。宮武さんは、そもそもInstagramを開く目的が違うのが難しいところだと答えます。
Instagramを開く時って、他人の動画を見たいから開いている人って割と少ないと思ってるんですよね。
やっぱり友達とか、その自分がフォローしてる人の写真とか動画を見たいから開くっていう。
宮武さんは、友達の投稿が出ると期待して開いたInstagramで、全然知らない他人の結婚式の動画が流れると「この人知ってたんだっけ?」という違和感が出るのではないか、と話します。
草野さんも、Instagramは暇つぶしやクリエイティビティのためというより、友達の近況を見る場所だと応じます。ストーリーズの導入時は「パクった」とは言われたものの、ユーザーからそこまで批判はなかったと二人は振り返ります。宮武さんは、フィードを変えると毎回批判が出るので、今回も同じ繰り返しかもしれないとも話しています。
時系列順とアルゴリズム、どちらが良いフィードか?
昔のSNSのフィードは時系列順でしたが、Instagram、Facebook、Twitterはいずれもアルゴリズム型に変わりました。宮武さんは、時系列順を望む声は今も多いものの、エンゲージメントはアルゴリズム型のほうが圧倒的に高いと話します。
Instagramは2016年にアルゴリズム型へ切り替えました。そのとき創業者のケビン・シストロムさんは、時系列型のフィードでは投稿の7割をユーザーが見ていない、と説明したといいます。
なんで7割見てなくて、3割見てますと。なんでアルゴリズム化する理由としては、その3割ができるだけいい3割にしたいっていうのが、まあ彼の当時の理由だった。
草野さんは理屈はわかるとしつつ、いい3割が上に来ても残りに広告が多く挟まるなら、体験として良いのか悪いのかわからない、と疑問を投げかけます。
最新の投稿を順に見る。投稿の7割は見られないが、思いがけない良い投稿に出会うセレンディピティもある
見られる3割をできるだけ良い投稿にする。エンゲージメントは高いが、何を見るかがアルゴリズム任せになる
Facebookが最後にフィードを大きく変えたのは2018年です。ブランドがアルゴリズムを理解して多くの人のフィードに出る投稿をしていたため、家族や友達とのやりとりを優先する方針に変えた、と宮武さんは説明します。宮武さんは、こうした流れからフィードの意味合い自体がどんどん変わってきていると感じています。
フィードはなぜ「パブリックな場」になったのか?
宮武さんによると、モセリさんはインタビューで「友達や家族とつながるためのInstagramが、Reelsで変わってしまうのでは」と問われ、2つの答えを返しています。
1つ目は、ホーム画面以外に、フォローしている人の投稿だけを見られるレコメンドなしのフィードを選べるようにすることです。草野さんは最近できた「お気に入り」機能を挙げますが、1ステップ挟む必要があって面倒だと感じています。
2つ目は、フィードとReelsの位置づけの話です。立ち上げ当初のInstagramにはストーリーズもDMもなく、Instagramは友達同士のコンテンツをフィードに出してほしかったものの、実際にはそれがストーリーズとDMに流れてしまいました。
インスタ側からしたら投稿しねえじゃねえかっていう。
そうなんすよ。結果ストーリーズとDMでしか使ってないじゃんみたいな。
宮武さんは、フィードに出る投稿もよりパブリックなものになっていると指摘します。だからフィードとReelsの役割は、友達と話すネタを見つける「ディスカバリーエンジン」になり、共有は家族や友達の間でDMやストーリーズを使うのが自然な流れだ、というのがモセリさんの考え方だと紹介しています。
パブリックなコンテンツを見つけるディスカバリーエンジン
家族や友達の間で共有し、話す場
ソーシャルメディアの「食物連鎖」とは?
宮武さんは、ソーシャルメディアはアテンションの奪い合いであり、そこには「食物連鎖」が起きていると話します。インターネット以前の雑誌やテレビから数えて、今は4世代目にあたるという見立てです。
雑誌やテレビはマス向けなので、全員にアピールしようとして、結果として誰にとっても本当には面白くならないという課題がありました。それを倒したのが、友達のコンテンツを届ける第1世代のソーシャルメディアです。あまり知らないセレブの話より、自分の友達の話のほうが面白いからです。
ただ、友達の毎日にいつも面白いことが起きるわけではありません。そこで台頭したのが、毎日エンタメ性のあるコンテンツを出し続ける「プロの友達」、つまりインフルエンサーです。宮武さんはこれを、キム・カーダシアンの時代、Instagramの時代と表現しています。
さらにプロの友達より面白いのが、世界中の一般の人の投稿から、アルゴリズムが自分の好みに合わせて選んだコンテンツです。これがTikTokに代表されるレコメンデーションメディアだと宮武さんは整理します。
宮武さんは、カイリー・ジェンナーさんやキム・カーダシアンさんがこれほど批判する背景には、これまでのビジネスのやり方が危うくなっていることがある、という見方もできると話します。ただし実際そうかはわからない、と断ったうえでの見方です。
フォロワーが多い人が勝つ世界は終わるのか?
宮武さんは、従来のソーシャルメディアの弱点を、フォロワー0の人と100万人の人では同じツイートでも価値が変わることだと説明します。勝ち組がどんどん勝つ仕組みのため、誰でも投稿はできても、新しい考え方や発想が拡散されにくいというのです。
従来のSNSはソーシャルグラフ ── 誰が誰をフォローし、つながっているかという人間関係の網の目。従来のSNSはこれを使って投稿の届く範囲を決めてきましたを使い、フォロワーが多いほど広く届く仕組みでした。宮武さんは、レコメンデーションメディアはソーシャルグラフがなくてもバズれるコンテンツを生んだと話します。本当に解決しているかは微妙だとしつつも、理論上は新しいアイデアが人気になる可能性があるといいます。
フォロワー数で拡散が決まり、勝ち組が勝ち続ける。新しい発想が広がりにくい
ソーシャルグラフがなくてもバズれる。理論上は新しいアイデアが人気になりやすい
草野さんが「キム・カーダシアンからしたらちょっと危ういですね」と言うと、宮武さんは、彼女のフォロワーの価値が相対的に下がるからめちゃくちゃ危ういと応じます。TikTokのフォロワーよりYouTubeのフォロワーのほうが重要と言われるのと同じで、フォロワーを持つことの意味が以前ほど大きくなくなるといいます。
既にフォロワーを抱えるクリエイターは戦い方が大きく変わります。草野さんに「どう戦えばいいんですか」と聞かれた宮武さんが「わかんないですね」と即答し、草野さんが「急に突き放されたような気がしました」と返す場面もありました。
宮武さんは、TikTokに出した動画をInstagramにも出すクリエイターが多いことを挙げます。Instagramでは既存フォロワーに届き、TikTokでは新規ユーザーを捕まえられるからです。ただしプラットフォーム側から見ると、TikTokの動画がInstagramに流れていく構図は、TikTokにとってありがたい成長戦略にもなると指摘しています。
TikTokは逆に「ソーシャル化」している?
宮武さんは、プラットフォームにとってはソーシャルグラフの機能とレコメンデーションの機能をどう組み合わせるかが重要になると話します。実際TikTokは、ここ1〜2年でソーシャルな機能を明らかに追加しようとしています。
具体的には、デュエット機能に加えて、フォローしている友達が投稿したり好きだったりするコンテンツを見られる友達専用タブの検証や、メッセージ機能の強化です。草野さんは、コメントに名前を入れると検索リンクになる機能も新しいディスカバリーだと話します。
今まで以上にTikTokのコメント欄を見るみたいなのが、前より増えたなって気がします。
TikTokがただのメディアだっていろんな方も言うんですけど、コメント欄見ると全然違うので。
草野さんは、TikTokのコメント欄では投稿していない人同士で盛り上がり、面白いコメントにいいねが大量につくと話します。宮武さんは、それでコメントした人のステータスが上がると応じ、TikTokなりのソーシャルネットワークが作られ始めているのではないかと見ています。
Metaの社内メモから見える戦略は?
TikTokがソーシャル化する一方で、ソーシャルネットワークであるMetaは、レコメンデーションメディアを取り込みながらもソーシャルの部分を残したい考えです。宮武さんは、MetaのCPO ── 最高製品責任者。プロダクト全体の方向性を統括する役職で、Metaではクリス・コックスさんが務めていますのクリス・コックスさんが出し、リークされた社内メモを紹介します。
草野さんは「社員に送ったメール、リークされがち」とツッコミ、宮武さんも「アメリカはリークされる国なんで」と応じます。
このメモで示されたMetaの優先事項は6つです。
宮武さんによると、メモには「ディスカバリーエンジン」という言葉が何度も出てきます。MetaはReelsをディスカバリーエンジンにすると同時に、MessengerをFacebookアプリに再び組み込むことを強く考えているといいます。
FacebookとMessengerの再統合はうまくいくのか?
草野さんは、日本のFacebookはテクノロジー系の人を中心にビジネスSNSの面が強く、アプリが分かれている良さを感じていると話します。宮武さんは、アメリカではビジネス用途中心ではなく、若者層より年代が上の層がフィードをよく見ていると説明します。
宮武さんによると、想定されている新しいFacebookアプリは、上部にストーリーズとReels、その下にディスカバリーエンジンがおすすめした動画中心の投稿が並びます。そこから友達へ簡単に送れるようにし、Messengerの受信箱はアプリ右上に置かれるはずだといいます。
草野さんは、アメリカや英語圏には面白い写真や動画を友達にシェアする文化があるように感じていて、その意味では合いそうだと話します。「私にだけ送られてこないだけかもしれない」と付け加え、宮武さんが「それはちょっと悲しいですね」と返す一幕もありました。
草野さんはLINEのタイムラインとトークにも似た面があると触れつつ、LINEはタイムラインで見たものをシェアするより、WhatsAppのような日常のメッセンジャーとして使われている印象だと話しています。
ストーリーズの成功とReelsは何が違う?
宮武さんは、InstagramがSnapchatのストーリーズを真似て成功したことと、今回TikTokを真似ることは勝負どころが違うと話します。
同じソーシャルグラフのまま、新しいコンテンツフォーマットを加えるだけで導入しやすかった
Instagramが自社のネットワークのあり方そのものを変えなければならない
今回は完全にInstagramがそのネットワーク、その自社のネットワークを変えないといけないので。
宮武さんは、FacebookアプリはDAUこそ上がっているものの伸びは小さく、利用時間はおそらく減っていると話します。それでもMetaは侮れず、すごい調査をいろいろやっているといいます。
Metaの社内調査はソーシャルアプリの共存をどう見たか?
宮武さんが紹介するのは、2018年にMetaが作成した「Possible End States for the Family of Apps」という社内レポートです。WhatsApp、Facebook、InstagramなどMeta傘下のアプリの最終形態を探る内容で、一部が数年前にリークされていました。
このレポートは17ページほどで、宮武さんはSNSに関わる人にはぜひ読んでほしいと話しています。複数のソーシャルアプリが共存できる条件とできない条件を調べたものです。
結論は、ユーザー層、機能、ソーシャルグラフのどこかに大きな違いがあれば共存でき、すべて同じなら基本的に共存できない、というものです。
| 組み合わせ | 共存 | 理由 |
|---|---|---|
| FacebookとMessenger | できる | グラフは同じだが、フィードとメッセージで機能が違う |
| FacebookとInstagram | できる | 機能が違う |
| MessengerとWhatsApp | できない | メッセンジャー同士は基本的に共存できない |
ただし共存できても、利用時間の奪い合いにはなります。2018年時点で、イランではInstagramの利用時間が強くFacebookとWhatsAppは低く、Facebookが強いミャンマーやタイではInstagramとWhatsAppの利用時間がそこまで大きくなかったといいます。
宮武さんはこれをTikTokに当てはめます。グラフやユースケースが違うからTikTokはInstagramやFacebookと共存できたものの、利用時間の競争ではTikTokが勝っている、という見立てです。
宮武さんは、Metaは「フル戦争モード」に入り、InstagramのTikTok化は各市場でどちらかが勝ち取る戦いに踏み込む意味がある、と話します。草野さんは「しないでほしい」とユーザーとしての本音を漏らしています。
SNSが「一気に使われなくなる瞬間」とは?
レポートによると、SNSにはティッピングポイント ── ある数値を超えた途端に状況が一気に変わる転換点のこと。SNSでは、一般に普及するか廃れるかの分かれ目を指しますがあります。宮武さんは、SNSには「全員が使っているか、全員が使っていないか」の2つの状態しかないと説明します。
分かりやすいのがメッセンジャーアプリです。LINE、WhatsApp、Kakao、Facebook Messengerは、各国で9割に使われているか1割以下かのどちらかだといいます。草野さんは「メッセージする相手が必要ですもんね」と応じます。
どの単位で分かれるかも重要です。高校ではSnapchat、Instagram、Facebook Messenger、Facebookが競い、町単位ではNextdoor ── アメリカで普及している、近所の住民同士をつなぐ地域密着型のSNSやFacebook Marketplaceが入ってくるなど、コミュニティによってライバルが違います。
Metaのアプリでは、WhatsAppは人口の9割が毎日使い、1日60分以上使っているかがティッピングポイントです。Facebookは月間利用率10〜50%と幅が広く、日本や韓国は2018年当時、年配層がほとんど使っていなかったため低い側にありました。Instagramのティッピングポイントは当時まだわからないという結論だったそうです。
Metaは、人気が下がるアプリがどれだけ早く下がるかも調べています。アプリBが1万人増えたらアプリAが1万人減るわけではなく、Aは最初ゆっくり下がり、ある時点で一気に下がるといいます。
ゆるやかな減少
最初は少しずつしか下がらない
ティッピングポイント
ある時点を越える
急落
一気にユーザーが離れる
宮武さんは、Facebookは今少し下がっている状態だからこそ、Metaは急にガクッと下がる瞬間が来るかもしれないと危機感を抱き、ここで勝負をかけているのだと見ています。草野さんの反応は「こわ」の一言でした。
InstagramとFacebookは「死ぬ」のか?
草野さんは、写真中心のInstagramを現状維持しても、ユーザーが投稿しない状況が続くのは良くない、と考え直します。宮武さんも、特定のユースケースに残っても、TikTokが同じ機能を出せばそちらへ移る可能性があると話します。
宮武さんは、Metaは売上だけでなく存続そのものを懸念し、真っ向勝負を仕掛けざるを得なくなっていると見ています。Metaの強みはアメリカ企業であることで、マーク・ザッカーバーグさんはByteDanceに対してロビー活動も積極的にしているだろう、とも話しています。いずれも、宮武さん自身が「もちろん想定」と断ったうえでの見方です。
宮武さんはもう1つ、アルゴリズム化されたフィードの懸念を挙げます。見れないものもアルゴリズムが決めているという点です。アルゴリズムが仮に「日本人が嫌いになった」とすれば、日本人関連のコンテンツをすべて消すこともできてしまいます。
なんでその新しい考え方をより人気にさせているかもしれないですし、逆に新しいアイデアを完全になくしてるかもしれないんですよね。
広告ではなかった投稿が広告になるとき
宮武さんは、ブランドにTikTokでの拡散を助言する際、ユーザーがブランドについて話すUGC ── User Generated Contentの略。企業ではなく一般ユーザーが作って投稿したコンテンツのことキャンペーンを勧めることが多いといいます。TikTokには、ユーザーの許可を得てUGC動画を広告としてブーストできる「スパーク広告」があります。
例として挙げたのがGlossierGlossierです。ある女性が街を歩いていると、すれ違った男性がわざわざ戻ってきて「何の香水つけてるの?」と聞いた、という内容の動画を、Glossierがブーストしました。投稿者の名前はそのまま表示され、下に「スポンサード」と付き、ブランドは自社のLPのURLを入れられます。この動画はブースト後に1000万回以上再生されたといいます。
なんかこれってすごい難しいなって思っている部分が、もともと広告として出してないものが広告になる。
宮武さんは、見る側は「お金儲けのためでは」と思うかもしれず、投稿者側も「そんな意図で投稿していない」と感じうると指摘します。草野さんは逆に、スパーク広告に選ばれるのを狙って投稿する人も出てくると話し、宮武さんも「絶対ありますよね」と同意します。
宮武さんは、レビューがブランドの仕込みではと疑われる話や、分かりづらいネイティブ広告の話と同じかもしれないとも述べます。草野さんは、純粋な気持ちで投稿した人まで疑われるのはもったいないと話しています。
次回予告:アルゴリズムは文化をどう変えるのか?
宮武さんは、レコメンデーションメディアによって、ブランドや文化への人々の感じ方がこれから変わるのではないかと話し、そのテーマを次回に持ち越します。
次回扱う予定の問いは、アルゴリズム化されたフィードでカルチャーが似通い均一化したのか、サブカルチャーが生まれにくくなったのか、逆に生まれやすくなったのか、TikTokのようなパッシブなメディアは文化をどう変えるのか、といったものです。
さらに宮武さんは、食物連鎖の考え方に沿って、レコメンデーションメディアを倒す次のソーシャルメディアは何かも話したいとしています。草野さんに答えを求められても「答えは今出したくないですね」と次回に引っ張りました。
まとめ
InstagramのReels推しは、批判を受けつつも数字の上では見られており、Metaにとっては単なる機能追加ではありません。宮武さんの見立てでは、ソーシャルグラフ中心のソーシャルメディアから、アルゴリズムが世界中のコンテンツを選ぶレコメンデーションメディアへの移行の中で、TikTokと共存できない真っ向勝負に踏み込む一手です。
- Instagramの利用時間の約4分の1がReelsになり、批判の割にReelsは見られている
- ソーシャルメディアは雑誌、友達、インフルエンサー、アルゴリズムと「食物連鎖」的に移り変わってきた
- レコメンデーションメディアはフォロワー数ではなくコンテンツの面白さで拡散が決まり、既存インフルエンサーの立場を揺るがす
- Metaの社内調査では、ユーザー層・機能・グラフが同じアプリは共存できず、SNSは最初ゆっくり、やがて一気に廃れる
- アルゴリズムは見られるものだけでなく見られないものも決め、UGCの広告化は投稿の信頼性という新たな難しさを生む




