5年続く年末振り返りで、過去には何を選んできたのか?
「Off Topic」の草野美木さんと宮武徹郎さんは、毎年12月に1年のテックニュースTOP10を選んでいます。2022年版を始める前に、2人はまず過去の振り返り回を思い出しました。
宮武さんによると、2021年の振り返りではWeb3 ── ブロックチェーンを基盤にした分散型インターネットの構想を指す言葉。NFTや暗号資産と結びついて2021年前後に注目を集めました、NFT、メタバース、新世代VC、独占禁止法、IPO、フィンテック、クリエイターエコノミーなどを扱いました。草野さんは後払いを、宮武さんはサプライチェーン問題を付け加えています。
番組の振り返りは2022年で5年目になります。最初の2018年版では、D2CやTikTok、フォートナイト、データプライバシーを取り上げていたそうです。
今では、めちゃくちゃアップルが(データプライバシーを)すごい重要視してますけど。
草野さんは2018年版のリストから、Instagram創業者ケビンさんの退任や電動スクーターの話題を見つけ、懐かしがっていました。
宮武さんは、2018年から2020年までの振り返りには毎年TikTokが入っていたと話します。2021年は入っていませんでしたが、2022年は「入るんじゃないか」と予想していました。順位はあくまで2人の独断と偏見で決めたものだと断ったうえで、第10位から発表が始まります。
第10位「D2C企業苦労の年」、iOSアップデートが変えた顧客獲得
第10位は「D2C企業苦労の年」です。2022年はD2C以外の企業も含めて株価が全体的に落ちましたが、宮武さんはD2C企業が特に厳しかったと見ています。
理由の1つはサプライチェーン問題です。ただ宮武さんは、最大の影響はAppleのiOSアップデートだったと話します。アップデート自体は前年4月に出ていましたが、対応したiPhoneを多くのユーザーが使うようになったのが2022年ごろで、影響が本格的に表れたといいます。
iOSアップデートの影響で、InstagramやFacebookの広告のコンバージョン率が見えづらくなりました。それまでのD2C企業は、InstagramとFacebookの広告に乗って顧客を獲得してきたため、その手法を変える必要に迫られています。
InstagramやFacebookの広告に乗り、成果を見ながら顧客を獲得する
広告の成果が見えづらくなり、卸の強化やコミュニティなど別の獲得手法を考える必要が出てきた
宮武さんは出張先でも、D2C企業の関係者から「今後は厳しくなる」という声を聞いています。新世代のD2C企業は卸の強化やコミュニティづくりなど、広告に頼らない獲得戦略を進化させているそうです。それでも、IPOした企業やユニコーン級の企業は苦しんでいると宮武さんは見ています。
上場したD2C企業で最も成功しているのは、ルルレモンをD2Cと呼ぶならルルレモンではないか、と宮武さんは答えました。草野さんは、番組を始めた頃にキャスパーが上場したことを思い出し、グロシエも上場するのか気になると話しています。
宮武さんがD2Cの変化として挙げたのが、OBパーカーやオールバーズの最近の数字です。売上は伸びているものの、伸びているのは店舗の売上で、店舗数と比べると成長率は落ちています。逆に、EC売上は落ちているそうです。
D2Cの強みなのに(ECが落ちている)。このD2Cだけっていうところの時代が、だいぶ変わってきたんだなっていうふうに思いますね。
これに対して草野さんは、店舗の体験をイチから作れることもD2Cの強みの1つかもしれない、と別の見方を示しました。
第9位「プラットフォーマーのTikTok化」は誰にとって得なのか?
第9位は「プラットフォーマーのTikTok化」です。宮武さんは、2021年あたりから他社プラットフォームがTikTokの影響を受け、自社の戦略を変えてきたと話します。最も分かりやすい例は、リールを強く押し出すようになったInstagramです。
YouTubeもショート動画のShortsに力を入れてきました。宮武さんによると、その結果、第3四半期のYouTubeの広告売上が落ちています。落ちた理由は、Shorts化が進んだことだと宮武さんは見ています。
宮武さんが今後の課題として挙げたのは、ショート動画を推し進めすぎると、クリエイターが強いコミュニティを作れなくなるのではないかという点です。ショート動画はマネタイズの面でもまだ弱く、TikTokの収益は基本的にブランド案件に頼っています。
今後その経済不況みたいなことが起きた場合に、そこ(ブランド案件)の予算が減るので。
宮武さんは、TikTok化が進むとクリエイターのリテンション率が下がると指摘します。TikTokでは視聴者がすぐ次の動画へ移ってしまうためです。
なんかTikTokフォロワー多いけど、フォローしてたんだみたいな。
草野さんは、TikTokはフォローしやすいUIになっている一方で、その人のことを本当に知るまでの時間が短すぎると話します。そのため、YouTubeやInstagramと比べて濃いつながりが生まれにくいのではないか、という見方です。
宮武さんもこれに同意し、本当のファンダムはTikTokやShorts、リールではまだ作りにくいと続けます。プラットフォーム側はエンゲージメントが高まるかもしれませんが、長期的にはクリエイター側に課題が残る、というのが宮武さんの整理です。
草野さんは、Shortsでも収益化が進むことに期待を寄せます。再生回数の多いクリエイターがその資金を使って面白い企画に挑戦できれば良さそうだ、という考えです。宮武さんは、それには一定以上の再生回数のボリュームが必要だと応じました。
数千万フォロワーでも会場が埋まらない、VidConで見えたフォローの軽さ
宮武さんは、TikTokのフォローの軽さが2022年のVidCon ── アメリカで毎年開かれる、オンライン動画クリエイターとファン、業界関係者が集まる大型イベントではっきり表れたと話します。
何人かやっぱりTikTokerで数千万人クラスのフォロワーがいるのに、部屋が半分も埋まらなかったっていう現象がやっぱ起きてて。
宮武さんによると、その部屋は1000人ほどのファンが集まれば埋まる広さでした。それでも半分も来なかったことから、宮武さんはフォロワーの「濃さ」に違いがあると見ています。草野さんの感想は「ちょっと悲しいですね」というものでした。
宮武さんは、TikTok化はプラットフォームにとって短期的には良くても、長期的には悪いかもしれないと述べます。YouTubeの場合は、Shortsの視聴者をメインのYouTubeへどう連れていくかを、来年はより考える必要が出てくるといいます。
草野さんは、SNSやコンテンツプラットフォームによってフォローや登録ボタンの重みが違うと指摘しました。宮武さんによると、フォローの価値を計算する企業があり、TikTokとYouTubeでは倍ほどの差があるそうです。比べると、TikTokが最も低い位置にあるといいます。
フォローとスワイプする指の位置がめちゃくちゃ近くにあって。
草野さんは、気になるコンテンツの次を逃したくなくてフォローしても、結局はおすすめを見てしまい、フォロー中の投稿をあまり見なくなると話します。宮武さんは、この行動の違いがTikTokとYouTubeの大きな差だと受けました。
とりあえずフォローし、その後もおすすめのフィードに流れてくる動画を見続ける。プラットフォーム全体のエンゲージメントは保たれる
登録したあと、その人の他の動画も見ようという行動につながりやすい
草野さんは、5年前と比べてTikTokは成熟したと話します。宮武さんによると、5年前は15〜30秒の動画が普通でしたが、今は3分の動画も珍しくありません。宮武さんはこの変化を、TikTokが徐々にNetflixやYouTubeの領域に入ろうとしている動きだと見ています。
第8位「ストリーミング市場のレッドオーシャン」、数から質の勝負へ
第8位は「ストリーミング市場のレッドオーシャン」です。宮武さんによると、アメリカではストリーミングの視聴がようやくケーブルテレビを超えました。人気が高まった一方で、プレイヤーも大きく増えています。
宮武さんは、最近はコンソリデーション、つまり再編の動きも見えてきたと話します。HBO Maxはディスカバリーとの合併で、来年には統合サービスが出る見込みです。YouTubeはバンドル型のサービスを出し、ディズニーもDisney+とHuluを一緒にすることを検討しているといいます。
草野さんから複数サービスへの登録について聞かれた宮武さんは、主要なサービスを全部登録すると、結局ケーブルテレビと同じくらいの料金になると答えました。草野さんは、そもそもそんなに見られないという問題もあると付け加えています。
競合が増えたことで、ストリーミングの戦い方も変わりました。宮武さんは、昔は番組の数で勝負していたのが、今はクオリティの勝負になっていると話します。
番組の数で勝負する。たとえば10本の番組にゴーサインを出す
番組数を5本に減らし、10本分の予算をその5本に回す。視聴者は良い作品のあるサービスに登録しに行く
草野さんは、ヒット作が出たら登録し、シリーズが終わったら解約するという視聴者の行動にも触れました。宮武さんも、良い作品を作ることはコンテンツビジネスである以上めちゃくちゃ難しいと認めています。
大きな変化として2人が挙げたのが、Netflixの広告付きプランです。日本では月額780円ほどで提供されています。宮武さんは、広告は出さないと言い続けてきたNetflixが広告を入れ始めたことを、競争の激しさを示すものだと見ています。
Netflixはゲームにも力を入れています。宮武さんによると、トリプルAゲーム ── 大規模な予算と開発体制で作られる、大作クラスの家庭用・PC向けゲームを指す業界用語の開発を行うという話も出ており、ゲームスタジオだけで3社を買収しているそうです。広告プランで登録者数がどう変わるかは、翌年1月の決算で数字が出る見込みだといいます。
ディズニーのインド事業とスポーツ配信、なぜスポーツは強いのか?
宮武さんは、Disney+にとってはインドが大きな市場だと話します。インドのDisney+の配下にはDisney+とHotstar ── インドの動画配信サービス。ディズニー傘下で「Disney+ Hotstar」として展開されていますの2つのサービスがあり、Hotstarの人気はディズニーがクリケットの放映権を持っていることに支えられているといいます。
草野さんが、クリケットは日本ではあまり知られていないがインドでは国民的スポーツだと補うと、宮武さんは「インドとかですと、もう全員が見ますからね」と応じました。
(クリケットの)権利を、来年か再来年、Disneyが失うんですよ。
宮武さんによると、放映権は別の会社が取得することになります。Hotstarだけで5000万〜6000万人ほどの登録者がいるため、ユーザー数に大きな影響が出るかもしれないといいます。一方で、ディズニーのコンテンツ自体の評価は高く、直近では『スター・ウォーズ』シリーズの『アンドー』も高い評価を受けたそうです。
ストリーミングでもう1つ大きな領域が、スポーツです。Apple TV+ではMLSの配信やスーパーボウルのハーフタイムショーがあります。宮武さんは、収録日にメッシがアメリカへ行くかもしれないというニュースも出ていたと話しています。
宮武さんは、NFLのような主要スポーツを持つと非常に強いことは、過去の歴史を見ても明らかだと話します。AmazonはNFLを獲得しており、AppleがNFLの日曜の試合を取るのではないかという噂もあるそうです。
スポーツには絶対行かないと言っていたNetflixも、実は検討はしているといいます。ただし狙っているのはサーフィンのような比較的マイナーなスポーツで、サーフィンについてはオファーまで出したものの、価格が合わなかったという話を宮武さんは聞いています。
草野さんは、スポーツを強力なファンダムを持つ長寿シリーズのようなものだと表現し、同時視聴者数の多さに魅力を感じています。宮武さんは、スポーツの強みを予測しやすさに見ています。
やっぱりスポーツですと、ある一定は(視聴者が)多分来るだろうっていうのが結構分かりやすいので、それはすごいでかいですよね。
第7位「AdobeのFigma買収」など、不況の中の大型買収
第7位は「AdobeのFigma買収など大型買収」です。宮武さんは、経済的に良くなかった2022年に、AdobeのFigma買収が急に発表されたことに注目しました。話がリークされたため、翌日の朝一番にAdobeが正式発表したといいます。
買収額は200億ドルで、宮武さんは日本円で3兆円ほどと説明しています。日本からは批判の声も一部あり、宮武さんはその背景を、Figmaがとても愛されてきたプロダクトだからだと見ています。
買収はまだアメリカ政府の承認を待つ段階です。それでも宮武さんは、今のところ両社は仲良くやっていきそうな雰囲気だと話します。統合では、AdobeのCPOであるスコット・ベレスキーさんが重要な役割を果たすだろうといいます。
宮武さんは個人的な予想として、Adobeの次のCEOがスコット・ベレスキーさんとFigmaのディラン・フィールドさんによるCo-CEO ── 共同最高経営責任者。2人以上が並んでCEOを務める体制で、セールスフォースなどで採用例があります体制になるのではないかと話しました。ただし、本当にどうなるかはわからないとも述べています。
草野さんは、ディラン・フィールドさんが数年後に辞めて新たに起業している可能性も挙げ、「それも素敵ですけどね」と話しました。宮武さんは、Figmaは最初の5年間がかなり厳しかったと振り返っています。
宮武さんは、IPOがほとんどなかった年にこれだけの大型買収が起きたことを、非常に良いExitだと評価しています。他の大型買収としては、AmazonによるOne MedicalやiRobotの買収も挙がりました。
ルンバが「Alexa」の名前になるのでは、と草野さんが冗談を言うと、宮武さんは、そもそもFTCがAmazonに厳しく、まだ承認されていないと答えました。MicrosoftによるActivision Blizzardの買収も、16カ国で承認待ちの状態だといいます。
草野さんは、承認が覆ったケースとしてGiphyを挙げました。宮武さんによると、FacebookはGiphyを売却しなければならなくなったそうです。宮武さんは、Figma買収についてアメリカ政府はあまり介入しないとみる一方、規制が厳しいヨーロッパなど他の国の判断はわからないと話しました。
宮武さんは、2022年のExitはM&Aが圧倒的に強い年だったと総括します。そのなかで大型買収が見られたことは良いことだった、というのが宮武さんの見方です。
第6位「中国企業のアメリカ進出」、SHEINとTemuの勢い
第6位は「中国企業のアメリカ進出」です。宮武さんはTikTokの強さに加えて、数年前から伸びているSHEINと、新たに登場したTemuを挙げました。SHEINは日本でもポップアップや店舗を出しています。
草野さんによると、Temuは最近ずっとアプリランキングで1位にいます。Temuはピン両道系の、SHEINに近いファッションや小物のECです。宮武さんは「どれだけ広告費出してるんだ」と驚きつつ、TikTokも一時期は同じだったと振り返ります。
宮武さんによると、TikTokには1日1億〜3億円ほどの広告費を使っていた時期がありました。Temuの広告費はおそらくそれ以下だと宮武さんは見ていますが、広告で大きく伸びていることは確かで、最近はインフルエンサー施策にも動いているようだといいます。
宮武さんは、SHEINは来年にもH&Mを追い越すのではないかと見ています。草野さんも、ブラジルでポップアップを開くなど、大きな市場で次々と成功していることに驚いています。
SHEINの強みについて、宮武さんは中国でのめちゃくちゃ早い製造が世界中で通用している点を挙げます。SHEINやTemuの価格帯を見てしまうと、他では買えなくなるといいます。
SHEINはアメリカで物流拠点を開き、それまで2週間ほどかかっていた配送を1週間以内に短縮しています。宮武さんによると、それを見たTikTokもアメリカで倉庫を立ち上げようとしており、Temuもおそらく続くと見ています。宮武さんはこれを、中国企業によくある「コピーし合う」動きだと説明しています。
Temuは9月にローンチしたばかりで、宮武さんによると年内に3億〜4億ドルのGMVを目指しています。4カ月でその規模に達することを、宮武さんは「ちょっとえげつない」と表現しました。
トップファイブ中3つが中国アプリなんですよね。
11月末時点のアメリカの総合アプリランキングでは、Temu、そしてByteDanceのCapCutとTikTokの3つが上位5位に入っていたそうです。ショッピング部門でもSHEINがトップ3に入っているといいます。
宮武さんは、中国国内の激しい競争が今は全世界で行われていると見ています。アメリカ企業や日本企業がその中国企業と本当に戦えるのかが、来年、再来年に見えてくるというのが宮武さんの見立てです。
第5位「新世代ソーシャルアプリの台頭」、Gasはなぜ一気に広がったのか?
第5位は「新世代ソーシャルアプリの台頭」です。世界的に話題になったのはBeRealですが、宮武さんが個人的に「異例」だと注目したのはGasでした。
Gasは、高校ごとに使える半匿名の投票アプリです。たとえば「ハロウィンで一番イケてる仮装をしているのは誰か」といった質問をGasが出し、同じ学校の生徒がリストから選びます。選ばれた側には、選んだ人の性別と学年だけが知らされ、誰なのかを知りたければ課金が必要です。
草野さんは、若者向けのアプリで最初から課金を取り入れている点を面白いと感じています。宮武さんは、早い段階で課金しているからこそ資金調達をしなくてよい、と説明しました。草野さんによると、Gasはメタに買収されたTBHの創業メンバーなど、ソーシャル系の若手スターが集まったチームです。
宮武さんによると、Gasはアプリランキングで何カ月もトップ3に入り続けています。宮武さんが最後に調べた時点では、アメリカの10代の3分の1がGasを使っていたといいます。
宮武さんが特に面白いと話したのが、Gasがバイラルを起こした戦略です。高校ごとに専用のInstagramアカウントを使う方法でした。
(通知が来ると)見せ合って話し始めるんですよ、そのGasのアプリについて。
草野さんは、学校という狭いコミュニティで同じタイミングに仕掛けるからこそ注目を集めやすいと受け止めました。宮武さんによると、Gasの創業者は何時、何曜日にアップデートすべきかまで細かく気にしているそうです。小さなコミュニティでは、小さなアクションがネットワーク効果を大きく左右すると理解しているからだといいます。
2022年の新しいソーシャルアプリとして、ほかにFizz、写真をホーム画面のウィジェットで共有できるRocket、パーティーやイベント向けのPartifulも挙がりました。宮武さんによると、Partifulが特に人気なのはニューヨークとLAです。草野さんは、Partifulのカジュアルで楽しいUIを面白いと話しています。
ソーシャルアプリの2つのフェーズと、TikTokの「プロ化」
宮武さんは、2022年も意外と面白いソーシャルサービスが出てきたと話します。そのうえで重要なのは、その勢いを保てるかどうかだといいます。
宮武さんは、ソーシャルアプリには2つのフェーズがあると考えています。初期フェーズでは、まず楽しくなければいけません。楽しさを生む方法として、何らかの制限をかけることを挙げています。
制限の例として、宮武さんはTwitterの140文字、BeRealの投稿できる時間帯、TikTokの動画のみ、Instagramの写真のみを挙げました。草野さんはGasの「半分しか見られない」仕組みを加えています。宮武さんは、制限を設けていなかったのはFacebookくらいではないかと話しています。
2つ目のフェーズは、SNSの「プロ化」です。ステータスが成り立ち、フォロワーの概念を気にし始める段階を指します。宮武さんは、TikTokが最近この段階に変わってきたと見ています。
InstagramやTwitterでは、フォロー数をフォロワー数より少なく保ちたいという、なんとなくの意識があります。宮武さんの例では、100人をフォローしてフォロワーが1000人いれば比率は10分の1で、この比率が高いほど「すごい人」に見えるという感覚です。
初期フェーズ
制限をかけて楽しさを生む(140文字、投稿時間帯、動画のみなど)
プロ化フェーズ
ステータスが成り立ち、フォロワー数やフォロー比率を気にし始める
TikTokの現在
比率を気にする人が増え、すぐに1000万フォロワーへ届く人が減ってきた
宮武さんによると、TikTokではこれまで「とりあえずフォロー」が多く、比率を気にする人はあまりいませんでした。それが変わり始め、すぐに1000万フォロワーに届く人の数は減ったといいます。宮武さんは、これをTikTokのプロ化を示す動きだと見ています。
草野さんは、本当に好きな人だけがフォローするようになれば、クリエイターにとってもむしろ良いのではないかと話しました。宮武さんも、より濃いファンにフォローされることにつながり、会場が半分も埋まらなかったVidConのような現象を考えると、最終的には良いことだと応じています。
宮武さんが気にしているのは、BeRealのように今は楽しさで使われているアプリが、プロ化のフェーズをどう乗り越えるかという点です。
第4位「クリエイティブなAIの盛り上がり」はクリエイターの仕事を奪うのか?
第4位は「クリエイティブなAIの盛り上がり」です。宮武さんは、DALL·E 2をはじめ、MidjourneyやStable Diffusionなど、画像生成AIのサービスが人気になったと振り返ります。
草野さんは、Twitterで生成画像をよく見かけるようになり、TikTokでもAI画像を作れるようになったことに驚いています。宮武さんは、CanvaやMicrosoft、Adobeでも使えるようになり、前年とは状況が大きく変わったと話します。
草野さんは、日本語圏では文章生成の使いどころがまだ見えにくい一方で、頭の中のイメージがイラストや写真のように出てくる画像生成は、面白さのインパクトが違うと話しました。
クリエイティブな職業がなくなるという議論について、宮武さんは「違う」と見ています。絵を描けない宮武さんでもある程度の絵が作れる一方で、写真家がDALL·E 2をタッチアップにうまく使い、思い描いていた写真に近づけている例もあるからです。
草野さんは、Midjourneyなら考えてはいるけれど見たことのない絵を正確に作れるため、映画監督が説明しにくいイメージを絵コンテにする場面などで役立ちそうだと話しました。
宮武さんが画期的だと考えるのは、クリエイティブソフトのUIとUXが根本から変わった点です。
Adobeの横のツールバーやメニューが、毎年少しずつ改善されていく
テキストを入れれば何でも作ってくれる。誰でも使えるほど分かりやすい
宮武さんは、誰でも使えるようになったからこそ、新しいストーリーテラーや新しい時代のクリエイターが絶対に出てくると期待しています。
草野さんは、文章生成の例も挙げました。エッセイのタイトルや書き出しを提案するサービスに加え、AI機能付きのメモアプリMEMOでは、箇条書きの議事録をメール文に直せるといいます。草野さんは、議事録を先方向けの文章に整える作業は人間にとって面倒なので、それをすぐにできるのはありがたいと話しています。
宮武さんは、議事録をメール文にすることも、絵や音楽、動画を作ることも、これまでは「AIには絶対できない」と思われていたと話します。「AIにはできない」という概念が完全に覆った年だった、というのが宮武さんの総括です。最終的には「ロケットを作りたい」と言えば勝手に作られる時代になるだろう、とも語りました。
第3位「FTXとクリプト企業の波乱」、リーマン・ショックとの違い
第3位は「FTXなどクリプト企業の波乱」です。テラ(ルナ)やBlockFi、セルシウスの破綻も相次ぐなかで、宮武さんは320億ドルの会社が1週間以内に消えたFTXの件を、トップ3に入れるべき出来事だと話します。
草野さんから「詳しい人なら予想できたのか」と聞かれた宮武さんは、結果として誰も本当には予測していなかったと答えました。後から考えれば思い当たる節はあったものの、SBF ── FTX創業者サム・バンクマン=フリードの略称。FTXの破綻後に詐欺などの罪に問われましたさんと話した人の多くは、彼をすごく賢い人だと評していたからです。
FTXの破綻はクリプトの「リーマン的瞬間」とよく言われますが、宮武さんは違うと考えています。リーマン・ショックの後には、アメリカ政府が銀行を救うベイルアウト ── 経営危機に陥った企業や金融機関を、政府などが公的資金で救済することがありましたが、今回はそれが起きていないからです。
宮武さんは、顧客への影響やクリプト全体の評判へのダメージに加え、FTXがさまざまな領域に出資していた点を挙げました。スタートアップへの出資はすでに資金を渡し終えているため、まだ問題は小さいといいます。宮武さんが特に大変だと見ているのは、FTXが出資していたクリプトファンドです。
ファンドは投資家から一度に全額を受け取るのではなく、キャピタルコール ── ファンドが出資者に約束した額のうち、必要に応じて段階的に資金の払い込みを求める方式で必要に応じて送金を求めます。宮武さんは、出張中に聞いた話をもとに、この仕組みがどう影響したかを例で説明しました。
組成
1000万ドルのファンドに、FTXが800万ドルをコミットし、残り200万ドルを他から集める(通常のアンカー投資家は20〜30%程度)
払い込み
25%をキャピタルコール済みで、250万ドルはすでに入っている
破綻
残り750万ドルを使えると思っていたが、FTXの破綻で150万ドルしか残らない
結果
1000万ドルのつもりだったファンドが、実質400万ドルのファンドになる
宮武さんは、評判へのダメージはあっても技術的な問題ではないため、クリプト自体は続くと見ています。ただし、こうした出来事があるからこそ、今後はより厳しく見られるといいます。
アメリカでは政治との関係も問題になっています。宮武さんによると、SBFさんは4000万ドルを寄付しており、そのほとんどが民主党向けでした。民主党がSBFさんを守っているのではないか、なぜニューヨーク・タイムズがSBFさんについて好意的に書くのか、といった話も出ているそうです。宮武さんは、その真偽は置いておくとしたうえで、政治的な絡みも課題になると話しています。
第2位「金利引き上げが生む新たな市場」、ビッグテックはどれだけ失ったのか?
第2位は「金利引き上げが生む新たな市場」です。草野さんは、2022年は年明けからずっと、最近は毎日のようにビッグテックやスタートアップのレイオフのニュースが出ていると振り返ります。
宮武さんによると、アルファベット、マイクロソフト、メタ、アマゾン、テスラ、ネットフリックス、アップルの7社は、合計で3兆ドルの時価総額を失いました。エピソード説明では日本円で約406兆円とされています。アルファベットとマイクロソフトはそれぞれ6000億ドルほど減らし、最も影響が小さかったアップルでも350億ドルほどのマイナスだそうです。
宮武さんは、こうした株価下落やレイオフに大きく影響したのは金利の環境だと話します。アメリカでは10年以上ゼロ金利が続いていましたが、今は金利を引き上げています。その結果、資金調達もしにくくなっています。
ゼロ金利期
手元の資産の価値は将来下がるため、アップサイドのあるテック企業やリスク資産に投資が集まる
金利引き上げ
5.5%程度まで上がると、債券で確実に約5%のリターンが得られる
資金移動
テック企業の株が売られ、株価が下がる。未上場株にも同じ影響が出る
市場の変化
資金調達がしにくくなり、IPOやユニコーンの増加が止まり、レイオフが増える
宮武さんは、クリプト市場が2020〜2021年に盛り上がった理由もゼロ金利にあると説明します。株式よりリスクの高い資産へ資金が向かい、最もボラティリティの高い資産がクリプトだったからです。
レイオフは少しずつか一気か、相次ぐ経営者の交代
宮武さんは、2022年に増えたレイオフについて、今はまだ「可愛いもん」だと話します。メタなどが行った従業員の10〜15%という規模のことです。
宮武さんによると、10〜15%という数字がよく見られるのには理由があります。取締役会に「真剣に考えている」と示せる規模でありながら、30%を切るほどの規模になると「事業がやばいのでは」と見られ、評判のリスクになるからです。
その十パーから十五パー、その塩梅で切るよりも一気に三十パー切った方が絶対いいんですよ。
宮武さんは、セコイアが不況入りに合わせて出したプレゼン資料にも触れながら、少しずつ削っても結局もう一度削らなければならなくなると話します。草野さんは、少しずつ削るほうが報道上の評判は悪くないのでは、と問いかけました。
取締役会に本気度を示しつつ、評判のダメージを抑えられる。ただし、もう一度削る事態が起きやすい
一時的に評判は下がるが、事業として生き残ることを優先できる
宮武さんは、良い事例として2020年のAirbnbの人員削減を挙げ、草野さんもメッセージの伝え方がうまかったと振り返ります。2022年のStripeやFacebookも伝え方がうまかったそうです。宮武さんは、評判より事業の生き残りが先だとして、GAFAは来年さらに削減するのではないかと見ています。
宮武さんは、市場の変化を示すもう1つの証拠として、経営者が次々と辞めていることを挙げました。メタのシェリル・サンドバーグさん、Pinterestのベン・シルバーマンさん、ペロトンやグロシエのCEOなどです。
ほかにも、ドキュサイン、キックスターター、ザ・リアルリアル、メールチンプ、FedEx、アディダス、アンダーアーマー、GAP、ベッドバス・アンド・ビヨンドなどでトップが交代し、CNNではプレジデントが辞めました。スターバックスでは、ケビン・ジョンソンさんの後にハワード・シュルツさんが戻り、さらに次のCEOも決まっています。
宮武さんは、特にリテール企業で交代が目立つとしたうえで、成長期とは違う経営者が必要になってきたことの表れだと見ています。草野さんも、今求められているものが変わってきていると受け止めました。
第1位「イーロン・マスクのTwitter買収」、二転三転の1年
第1位は「イーロン・マスクのTwitter買収」です。2人とも「何の驚きもない」と笑い、リスナーも予想していただろうと話しました。
宮武さんは、4月に買収を発表してから11月にクローズするまでの長い経緯を振り返りました。草野さんは、ニュース番組「bytes」を公開した瞬間にまた状況が変わるため、収録する側としては大変だったと話しています。
草野さんは、ポイズンピル ── 買収者以外の株主に新株を安く発行するなどして、敵対的買収を難しくする防衛策について「名前がやばい」という感想しか言っていなかったと笑います。宮武さんは、新しいTwitter Blueのロールアウトはおそらく失敗だったと見ています。そのうえで、社内のパフォーマンスの高い人を見つけるためなど、狙いはいろいろあったと考えています。
草野さんは、TechCrunchのトップ記事が連日マスク氏のTwitterの話になっていると話します。宮武さんは、毎日ヘッドラインが作れるのでメディアにとっては良い状況だと指摘し、FTXの件と重なった時期はメディアも大変だっただろうと続けました。
草野さんは、Twitterは日本で特に使われているサービスなので、日本での衝撃はアメリカと同じくらい大きかったと振り返ります。
Twitterはどう変わるのか、そして惜しくもランク外だったテーマ
宮武さんは、これからTwitterがどう変わるのかが気になると話します。マスク氏は言論の自由を優先し、サブスク売上や認証バッジの課金制を進めています。草野さんが「バッジが3色になる」と触れると、2人は「公開する頃には5色かも」「やっぱり1色」と冗談を交わしました。
草野さんは、ソーシャルメディアにはフォローやフォロワーが当たり前だと思っていたが、そうでなくてもいいのだと気づいたと話します。宮武さんは、この規模のサービスでスタートアップのような検証をしていること自体が異例だと見ています。
なんかビルドインパブリックをこの規模でできるのかっていう感じしますよね。
宮武さんは、心配な点は多いとしつつ、Twitterがこれだけ変わっていること自体は良いことだと考えています。一方でメディアの多くは批判的です。その理由について宮武さんは、Twitterがメディアにとって良い場所だったことや、マスク氏と記者の関係があまり良くないことを挙げています。
マストドンなどの代替サービスについて、宮武さんは「正直多分変わらない」と見ています。草野さんも代替サービスのHiveを試したものの、1人で「こんにちは」と投稿しても誰からも反応がなく、寂しい気持ちになったと話しました。
宮武さんは、かつてエラー画面のクジラが頻繁に出ていた頃でさえ、みんながTwitterを使い続けていたことを根拠に挙げます。資金面が持つのかという課題はあるものの、類似サービスにユーザーを丸ごと奪われることはないだろうという見方です。
宮武さんによると、ユーザー数は増えており、mDAUは2.5億人ほどです。今後の注目点として、宮武さんはマスク氏が掲げる「x.com」のビジョンがどこまで反映されるかを挙げました。決済に取り組む話があることから、宮武さんは番組で以前話したSquareとの合併を「やってほしい」と話します。ただし、宮武さん自身も「多分やらない」と付け加えています。
Twitterの次のCEOはまだ決まっていません。宮武さんは、今の周囲のアドバイザーから選ばれる可能性は低いと見ています。TwitterのDMの暗号化にSignalのプロトコルが使われ、マスク氏がSignalの創業者に話を聞いているらしいことから、ソーシャルアプリの経験者が選ばれるのではないかと予想しました。
最後に2人は、惜しくもランク外になったテーマにも触れました。草野さんが挙げたのは、宇宙で工場を作るような宇宙系スタートアップや、Factory as a Serviceの盛り上がりです。宮武さんは、即時配達系サービスが苦しんだことを挙げ、草野さんも年初にレイオフが相次いでいたと振り返りました。
ウクライナとロシアの件はテック系ではないため入れなかったと宮武さんは説明し、2人は自分たちが見落としたテーマがあればリスナーから聞きたいと呼びかけて、2022年の振り返りを締めくくりました。
まとめ
2022年のテック業界では、ゼロ金利の終わりとTikTok化という2つの大きな変化が、多くのニュースの背景にありました。草野さんと宮武さんのTOP10からは、成長前提の時代の終わりと、その中でも生まれる新しいサービスや技術の両方が見えてきます。
- D2Cは、iOSアップデートで広告による顧客獲得が難しくなり、卸やコミュニティなど別の獲得手法への転換を迫られた
- 各プラットフォームのTikTok化はエンゲージメントを高める一方で、フォローの軽さがクリエイターの濃いファンづくりを難しくしている
- ストリーミングは数から質への勝負に移り、SHEIN・Temuなど中国企業やGasのような新興アプリも急成長した
- 画像生成AIはクリエイティブソフトのUI・UXを変え、宮武さんは「プロがよりすごいプロになれる」と見ている
- 金利上昇はテック株の下落やレイオフ、経営者交代を招き、FTX破綻とマスク氏のTwitter買収が年後半の話題を占めた


